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12:悪臭対策を考えてみる

 私の婚約者の名前は、リカルド・アスタールというらしい。

 祖父の友人であるアスタール伯爵の次男で、将来は騎士として城勤務を希望しているとか。

 ただ、長男が病弱らしく、場合によっては領地を継ぐこともあり得るそうだ。

 今になって、婚約者の名前諸々を改めて知るなんて……ブリトニーは、よほど彼に興味がなかったのだろうな。直接会ったのは今日が初めてだったけれど。


(まあ、ブリトニーは、リュゼお兄様一筋だったしな……)


 今となっては、従兄のどこがよかったのかは迷宮入りしてしまった。

 たぶん、顔と優しさだろう。

 日常的に使用人いびりをしているブリトニーは、彼らから嫌われている。ブリトニーの狭い世界の中で、味方は祖父とリュゼだけだったのだ。


(今が頑張り時だ、私。たとえ最低スペックでも、今はまだ十二歳。このブリトニーの体でも、十分にやっていける! どうしてこうなったのかはわからないけれど、好きな少女漫画の世界で人生をやり直せるというのなら、最善を尽くさなければ)


 数日後、リカルドから温泉のための人員が寄越され、工事はつつがなく行われた。

 三日で源泉掛け流しの温泉が完成する。

 これで、ブリトニーの汗臭さが少しは解消されるはずだ。


 人工池の周りに小屋も建ててもらい、中で着替えができ、裸で温泉に入れるような設備を整える。

 私は、さっそく完成した温泉に浸かった。

 太った体の体積で大量のお湯が外に溢れていく。


「はぁ〜、極楽だわ。温泉サイコー!」


 しかし、ここで私は気がついた。タオルは持って来たが石鹸がない。

 そう、この世界には石鹸というものが存在しないのだ。

 お湯だけでブリトニーの体臭を消すには限界がある、切実に石鹸が欲しい!


 私は、前世で趣味で作っていた石鹸のことを思い出した。

 材料さえあれば、こちらでも作り出せないことはない。

 石鹸の材料は油と水と苛性ソーダこと水酸化ナトリウムだ。


(前半二つは手に入るだろうけれど、苛性ソーダって、この世界にあるの!?)


 私は、過去に調べた趣味の知識を総動員させる。

 昔々の地中海沿岸部では、海藻の灰汁とオリーブオイルで石鹸を作っていた歴史があったはずだ。


(ハークス伯爵領の海で取れるかな)


 私は、工事に来てくれた人々にお礼を言って温泉に入ってもらいつつ、海藻を手に入れる方法をそれとなく聞いてみた。

 すると、そのうちの一人の青年が、海辺から出稼ぎに来ている人物だと判明する。

 彼の実家は海藻も扱っているらしく、買い取りたいと言ったところあっさりと取引が成立した。


 作業完了後、お礼も兼ねて工事業者の皆様に温泉を使ってもらったが、割と好評だ。

 いつか、この領土の水路が整備されたら、温泉の良さを人々に広めたいと思う。


 半月後、無事に石鹸の材料が揃った。

 さっそく屋敷の厨房を借りて石鹸作りにとりかかる。

 油は厨房で使っているオリーブオイル、海藻はうちの領土のものだ。

 匂い付けに使用する香油は、記憶が戻る前のブリトニーが、使用人にマッサージさせるために大量購入していたものが残っている。

 厨房の隅のスペースで、鍋でグツグツ何かを作り始めた白豚令嬢に、料理人たちは呆れた目を向けつつも何も言わなかった。


 失敗を重ねた末、ようやく石鹸と呼べるものが完成した。

 ドロドロの液体を型に流し込んで、四週間ほど乾燥させる。


 石鹸が完成するまでの間、私は今まで以上にダイエットに励むことにした。

 ちなみに、温泉は夜の時間は使用人に開放している。

 最初は誰も使っていなかったが、最近はちらほら温泉に向かう女性の使用人を見かけるし、掃除担当の男性使用人も使っているようである。


 リカルドとの婚約破棄の件は、約束通り祖父に伝えておいた。

 もともとリカルドに悪い印象を抱いていた祖父は、あっさりと婚約破棄の話を承認してくれる。


 婚約破棄はしたものの、リカルドたちとの縁を切る気はなかった。

 財政事情もあるし、向こうの領地から取り寄せたいものがたくさんある。

 それに、最近思い出したのだが……例の少女漫画に、リカルドが脇役として出ていた気がするのだ。王子の取り巻きの一人として。

 生存率を上げるためにも、彼とは仲良くしておいたほうがよさそうだ。


(まあ、向こうは嫌がるだろうけれど)


 ブリトニーの体重は、一向に落ちない。

 努力の末、八十キロから七十五キロまで減量に成功したのだが、そこから体重が減ってくれない。

 あまり激しい運動をすると、ブリトニーはすぐに体調を崩してしまうから厄介だ。

 寝込んでいる間に、また体重が増えてしまう。


 勉強と運動と入浴を繰り返す日々を過ごし、大量の菓子類を摂取するお茶の時間や、太る元である夜食の時間はなくした。

 努力をしているが、リカルドの時以来、縁談の話は来ていない。


(リュゼお兄様との約束の期限は三年間。まだ時間はあるけれど……不安だな)


 こうして、モヤモヤした気持ちだけが積もっていくのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] そういえばキリスト教兼だと宗教的に風呂に入らないとか聞きましたね。貴族で全く入らない人がいたとか。
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