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107:南の王子が徘徊中

 アンジェラとの話が終わり、私は東の庭へ向かう。

 城へ行くついでに、以前マーロウ王太子が派遣してくれた、マッチョ小隊の訓練――ブートキャンプに参加する約束をしていたのだ。王都での生活は運動不足になりやすい。

 ノーラも誘ったが、予想通り断られた。


「兵士と一緒に訓練したいなんて、ブリトニーって物好きよね」

「王都に来ても運動を続けないと、私はすぐに体型が戻ってしまうから」

「いつも努力しているブリトニーはすごいと思うわ。尊敬するけど私には無理。それじゃあ、またね。リュゼ様に会いたいし、今度ブリトニーの滞在先に行ってもいい?」

「うん、もちろんだよ。じゃあね!」


 ノーラと別れ、東の庭を抜けて兵士の訓練場へ向かう。

 マッチョ小隊のメンバーたちは、一応王太子直属の配下で、いつもこの場所で訓練しているのだ。


「お久しぶりです、皆さん! ハークス伯爵領の件ではお世話になりました!」


 顔を出すと、小隊のメンバーは私を歓迎してくれた。


「ブリトニー様、お久しぶりです! お元気そうで何よりです! まあ、そう畏まらず、気軽に接していただければ幸いです」


 すでに準備は整っている。動きやすいよう、彼らは着替えまで用意してくれていた。

 兵士用の更衣室も、自由に使って良いらしい。


「この時間は誰も通らないから、一緒に運動しても問題ないですよ。我々も、美しいご令嬢と一緒なら、やる気が湧きます!」


 そう言って、キラキラした目で見てくる小隊メンバーたち。


(……一見美人風に見えるのは、化粧詐欺効果なのだけれど)


 それでも、美しいと言われて悪い気はしない。

 さくっと訓練用の服に着替えて、一緒にブートキャンプを始める。


「ハークス伯爵領式の訓練をぜひ、教えてください!」

「いいけど、ハードだよ?」

「望むところです! 我々は王太子の配下、余裕でこなしてみせましょう!」

「では、ハードモードで」


 彼らの望み通り、ハークス伯爵領の兵士が行う恐怖の体力トレーニングを彼らに伝授した。

 ちなみに、私は過去のダイエット中にこれらをマスターしている。

 祖父の部下たちは、「異例の早さで地獄の訓練をやり遂げましたな! さすがサルース様のお孫様!」と、私を褒めてくれた。ちなみに、サルースとは祖父の名前である。

 城の優秀な兵士たちは、慣れない動きに苦労しつつも完全についてきた。


 しばらく運動していると、誰かの視線を感じた。

 小隊メンバーも同じだったらしく、皆そちらの方向へ顔を向けている。


 すると、東の庭に通じる道から一人の青年が現れた。

 流れるような赤髪を後方で一つに結んだ、見慣れないオリエンタル風の衣装を来た若者である。

 しかし、私は彼に非常に見覚えがあった。


(……南の国の王子? なんで、こんな場所にいるの?)


 そう、彼は少女漫画に登場するヒーローの一人だったのだ。

 物語の中心人物とあって、外見はやはり整っている。

 細身で繊細な北の国のルーカスと違い、こちらは快活で程良く筋肉もついており、見た目そのままということはないだろうが、性格もオープンな感じだ。


(名前は、確か……エミーリャ。南の国の第三王子だったはず)


 私は、小声で小隊のメンバーに彼のことを告げた。小隊内に動揺が広がる。


「なんで南の国の王子が、一人で城内をうろついているのです……!?」

「わ、わからないよ……!」


 密かに混乱しているうちに、当の王子が近くまで来てしまった。


「やあ、面白いことをしているねえ。それは、なんの訓練だい?」

「ええと……」

「ああ、失礼。俺は南の国の第三王子、エミーリャ・ガザ・カステレス。これから王宮で過ごすことになったから。どうぞ、よろしくね」


 人懐っこいというか、馴れ馴れしい王子様だ。

 だが、纏っている明るい雰囲気のせいか、嫌な感じはしない。


 彼はブートキャンプに興味を持った様子で、飴色の瞳を輝かせている。

 小隊長が前に出て、恭しく説明した。


(正直言って目立ちたくないし、隊長さんが説明してくれると助かる)


 そんなことを考えていると、王子の視線が私に向いた。


「あれ、女の子がいる! ここの国って、女兵士を雇っているの?」


 ガタイの良い男性陣の中に場違いなのが混じっていたら、目立つに決まっている。


(できれば、スルーして欲しかったな。令嬢が兵士と一緒に訓練しているなんて、あまりお上品とは言えないからね)


 関わりたくなかったが、仕方がないので一応名乗ることにする。


「……ええと、私はブリトニー・ハークスと申しまして。今回は、こちらの小隊のご厚意により特別に訓練に参加させてもらっています」

「へえ、君がハークス伯爵家の……」

「うちの家をご存知なのですか?」

「そりゃあ、まあね。最近急速に力をつけて来ている領地だから、この国に来るにあたってきちんと勉強しているよ。君については、他にも理由があるけれど」

「……気になります」


「麝香の正しい使い方を広めた令嬢って、君のことでしょう? それ以前は、うちの国から輸入した原液をそのまま使っていたんだって?」

「ああ、それは私ですね。確かに、以前はこの国で獣臭い香水が流行っていました」

「信じられないなあ。加工せずに、麝香をそのまま香水として使うなんて!」


 彼は、この国の香水事情を面白がっている様子だ。


「そうだ、君たち、二人の王女様について何か知らない? これから会う予定なのだけれど」


 少し前に王宮に到着したばかりのエミーリャ王子は、王女に会う前に時間があったので、自由に城を散策していたらしい。建物内はともかく、庭なら問題ないだろうと考えたそうだ。

 普段は王太子としか接することがないので、マッチョ小隊は困惑している。

 仕方ない、私が言うしかなさそうだ。


「メリル殿下については、私も先日のパーティーでお見かけしただけなので、なんとも言えません。アンジェラ殿下は……ええと、友人思いの素直で面白い方ですよ」


 素直と言うか、自分の欲に正直なのだが……下手に欠点を述べてしまうことは避けたい。

 以前より遥かにマトモになったものの、相変わらずマイペースな王女様だし……

 でも、歌の発表の際には私を助けてくれたし、良い部分もある。


「そうか、それは楽しみだなあ。俺は面白いものが大好きでね、この訓練も非常に興味深いけれど……残念、もう時間だ。今度はぜひ俺も参加させてくれ!」


 ニコニコと微笑む彼は、また来ると言い残して去っていった。


(えっ……? また来るの!?) 

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