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106:悪役王女の乙女心

 無事に社交デビューを終え、王都の屋敷へ帰った翌日――

 部屋の窓辺に頬杖をついた私は、パーティーでの出来事を思い返していた。

 リカルドとの間にあったことを考えるだけで、すぐに顔が熱くなる。


「ブリトニー様、さっきからどうされたのですか? ずっと百面相をして」


 声をかけてきたのはメイドのマリアだった。

 彼女とは十二歳の頃からの付き合いで、今は王都についてきてもらっている。私の専属メイドだ。

 昔から一緒なので、マリアとは気安い間柄。周囲に誰もいないときは、軽口を言い合える仲だった。


「なんでもないよ」

「……そうですか? では、王女殿下からお手紙が届いたようなので、ここへ置いておきますね」

「ありがとう」


 いそいそとマリアから手紙を受け取り、中を確認する。

 アンジェラからの手紙は、早く城へ来るよう催促するものだった。


(これは、さっさと行かないと。あとが面倒だぞ)

 

 性格が改善されたとはいえ、根本はアンジェラだ。待たせて良いことなどない。

 私は、さっそく彼女の元を訪れようと決めた。



 翌日、私は滞在先から徒歩二十分の城を訪れた。

 王女専属の黒子メイドたちに案内され、歓迎モードでアンジェラの部屋に通される。

 アンジェラ改心後、メイドたちの衣装を自由にしたらしいのだが、何かと黒子衣装が便利なようで、結局は元の状態に戻ってしまったらしい。


(すっぴんでも大丈夫だし、冬場や春先はメイド服より暖かそうだものね)


 部屋に入ると、アンジェラとノーラがまったりくつろいでいた。

 今では、この二人も親しい仲になっているようだ。


「ブリトニー! お待ちしておりましたわよ!」


 待ちきれないといった様子のアンジェラに促されて長椅子に座ると、すかさず黒子メイドがお茶を用意し壁際へ去っていく。


(……なんだか、忍者みたい)


 王女が改心して離職率が減ったせいか、どんどん技を極め、本物の黒子と化していくメイドたちだった。


「ところで、お二人とも。私の婚約の件は既にご存知かしら?」


 彼女の言葉に、私は黙って頷いた。

 ノーラが首を傾げているところを見ると、彼女には情報が行っていないようだ。


「前回の北の国の侵攻を受け、陛下は北の王子を私か妹のどちらかと婚約させるおつもりです」

「……!」

「そして同時に、南の国からも打診があったので、北の王子と婚約しなかった方を南の王子と婚約させるとのことです」

「つまり、アンジェラ様とメリル様は、それぞれ北の国と南の国の王子と婚約するというわけですね」

「ええ、ですが、私は憂鬱ですわ……」


 アンジェラは、そっと目を伏せた。長いまつげエクステが、淡い菫色の瞳に陰を落とす。


「あなたたちは、私の妹を見ましたわよね?」


 これには、ノーラが答える。


「ええ、とても可愛らしい方でした。世の中には、あんな女性がいるのですね」


 私は、なんとなく話の流れが読めた。


「その通り。あなたと同じことを、きっと二人の王子も思うでしょう。そして、私よりもメリルを婚約者にしたがるはずです。二人とも妹を望み、きっと私は余ってしまいますわ。そう考えると、不安で惨めで……」

「アンジェラ様、いくらなんでもそれは」


 慌てて口を挟むが、彼女は考えを曲げない。


「いいえ、きっとそうなるはずです! お父様も、お兄様もそうだったのですもの!」

「えっと、陛下とマーロウ王太子殿下が?」

「ええ。男の方は、あのような女が好きなのでしょうね。あの子ばかり構って……」


 アンジェラは、完全にやさぐれている。


「北の国の王子、ルーカス様とは既にお会いになっていますよね」

「ええ。あの男は、私なんかに興味はないみたいですわね。メリルに夢中です」

「……」


 確かに、少女漫画の中でもルーカスはメリルに一途だった。実際に、彼は潔癖な面食いである。


「では、南の王子とは、お会いになったのですか?」

「いいえ、まだですわ。でも、どうせ同じでしょう? 所詮、世の中は見た目なのです、いくら美しく装って偽装したところで本物には叶わない」

「アンジェラ様……」


 思い悩む彼女を私とノーラで励ました。

 とはいえ、十分に共感できる話で、アンジェラの惨めさは理解できる。

 私やノーラも、生まれ持った外見要素に自信がないから。


「でも、条件面でなら、アンジェラ様の方が良いと思うのです。メリル様の外見は美しいですが、庶民の出ですし。選ぶならやはり、生粋の王女様の方が……」

「私が求めているのは、そういうドライな政略ではありませんの! 婚約するからには、きちんと愛されたいのですわ!」


 アンジェラは婚約において、肩書き以外の要素で選ばれたいと思っているらしい。


(王族だし、その辺りは割り切っていると思っていたけれど……)


 変なところで乙女な部分を持つ第一王女だった。

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