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104:主人公登場と悪役の鬱憤

「王太子殿下、王女殿下がご入場されます!」


 仰々しい案内が流れ、曲調が変わる。

 会場である大広間につながる大きな階段から、着飾った王太子マーロウと王女アンジェラが仲良く並んで降りてきた。

 マーロウは真っ白な王子風衣装を、アンジェラは菫色の流れるようなレースがついた上品なドレスを身にまとっている。


(メリルは……いない。あとで個別に紹介されるのかもしれないな)


 次に国王が現れ、堂々とした歩みで王太子と王女の間へ向かう。

 ちなみに、国王はマーロウ似のナイスミドルである。

 そうして、彼は「自分にもう一人娘がいること」、「彼女をこの場でお披露目すること」を集まったメンバーに告げた。

 パーティー会場の大広間に、水を打ったような静寂が訪れる。

 予め、もう一人の王女について告げられている貴族は他にもいると思うが、誰もが真剣に王の話に耳を傾けていた。

 やや間を置いて、案内役がもう一人の王女の登場を告げる。


「第二王女、メリル殿下のご入場です……!」


 再び盛大なファンファーレが鳴り響き、少女漫画の主人公の登場を告げた。


(原作は、この少し前からスタートしているはず)


 私は、少女漫画のストーリーを思い返した。

 記憶が戻って早四年……もちろん、四年も経てば話の詳細を忘れているので、私は記憶が戻った直後に少女漫画の内容を全て日記帳に記録していた。

 覚えている限り全てを書いているのだが、原作を丸写しした訳ではないので、やや不安が残る。

 それによると、もう少女漫画の第一話は始まっていた。


 メリルの母親が病に倒れ、色々あって母子家庭で育った彼女が王女として引き取られる。

 王族として最低限の教育を受けたメリルは、城で父親と兄と姉に初めて会うのだ。


(そして、優しい兄に笑顔を向けられ、意地悪な姉に激しく罵られるという……)


 原作の国王は、メリルに普通に接している。特に溺愛する訳でもなく、貶めることもない。

 そんな中で、今日のお披露目を迎えるのだ。


(……あくまで、原作通りならだけれど)


 今のアンジェラは、理不尽にメリルに当たったりしないはずなので、姉妹仲はうまくいっているかもしれない。

 名前を呼ばれたメリルが、しずしずと階段から降りてくる。

 社交デビュー用のアイテム、白い髪飾りをつけ、淡い桃色のドレスを身にまとう彼女は凛としたオーラを放っていた。

 動きがぎこちないのは、緊張しているからだろう。だが、笑顔を浮かべるその顔は……


(美、美少女ー!!)


 少女漫画以上の美貌を持った王女が、そこにいた。

 柔らかく波打つ髪は兄や姉と同じ金色で、色素の薄い肌に強い意志を宿した薔薇色の瞳を持つ少女。

 無事に階段を下り終えたメリルは、習いたての上品な笑みを浮かべ、妖精のように可憐な足取りでマーロウ王太子の隣に並んだ。

 それを見た貴族の間から、感嘆のため息が漏れる。


(美形兄妹……)


 マーロウ王太子と並ぶ姿は、まるで絵画のようだ。

 同じ社交デビューしたての令嬢も、うっとり目を細めて彼女に見とれていた。

 ここまで容姿が際立っていると、張り合う気など失せてしまうだろう。

 彼女が立っているだけで、その場の雰囲気が華やいでいく。

 努力でどうにもならない壁は実在する、そんな現実を突きつけられた気がした。


「娘のメリルだ」


 国王が紹介すると同時に、可憐な少女は周囲に向け優雅に膝を折ってみせる。

 何も話さないのは、「余計なことを言うな」と言われているからだろうか。

 挨拶が済むと、メリルは国王と共にそそくさと退場し、その場にはマーロウ王太子とアンジェラだけが残された。

 周囲の貴族への視察もそこそこに……目ざとく私を見つけたアンジェラは、まっすぐこちらに近づいてくる。


「ブリトニー、やっとお会いできましたわねぇ? 私、この日を待っておりましたのよ?」

「……アンジェラ様、ご無沙汰しております」

「お元気そうで何より。春からは、いつでも会えるから嬉しいですわ。あなたに話したいことがたくさんあったの。そう、たくさんね、ふふふふ……」


 扇を取り出して上品に笑うアンジェラだが、その瞳は光を宿していない。

 内面に闇を抱えているようだ。


(もしかしなくても、メリルのことかな?)


 マーロウもやってきて、リカルドと話をし始めた。

 私は、気になったことをアンジェラに質問する。


「アンジェラ様には、妹君がいらっしゃったのですね。どんな方なのですか?」


 一瞬迷ったそぶりを見せた後、アンジェラは声を潜めて答えた。


「そうね、なんというか変わった子ね。一緒にいると疲れますわ」

「活発な方ということですか?」

「いいえ、そうではなく……他人の神経を逆なでするタイプなのです」


 やはり、メリルはアンジェラにとって鬼門らしい。


「……ええと、妹君は意地悪ということですか?」

「会えばわかりますわ。悪意はないのだけれど、善意の刃で他人を殺傷してきます。平民とは皆、あのような性格なのかしら」


 アンジェラの情報は、なんとも微妙。メリルの内面まではよくわからない。

 しかし、彼女が妹を苦手に思っていることは伝わってきた。


(漫画のようにならなければいいけれど……)


 私は、今後の展開に一抹の不安を覚えたのだった。


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