103:再会のち緊張、ファンファーレ
リリーの父親に挨拶した私は、近くに佇むリカルドに視線を移す。
相変わらず凛々しい彼は、さらに成長して大人っぽさが増していた。かつての自己主張の強い子供の面影は完全に消えている。
王都で色々あったためか、純粋で真っ直ぐだった彼の雰囲気に、わずかに陰りが感じられた。
それを陰りや憂いと呼ぶか、色気や神秘性と呼ぶかは人それぞれだと思うけれど。
「リカルド、そ、その、本日はお日柄もよく……」
(……って、何をどうでも良い挨拶をしている、私!)
「ブリトニー?」
「あ、会いたかったよ。ええと、その」
前回、好きだと告白してしまったことが尾を引いているため、照れ臭くて彼の前で挙動不審になってしまう。
(ああ、頭から湯気が出そう)
そんな私を見た彼は、呆れることなく手を差し伸べてくれた。
「こんなことを言える立場じゃないが、もし良ければ、一曲踊ってくれないか?」
「わ、私も、そのつもりで来たの……前よりは、うまく踊れるようになったと思う」
相変わらずの優しさに、ホッとする。やっぱり、リカルドはリカルドだ。
目立つ中央ではなく、会場の端の方で他の貴族に混じってダンスを始める。
多くの人々の目は、目立つリュゼとリリーに注がれているため、ダンスが下手くそな私も安心して踊ることができた。
「リカルド、またダンスが上手になっているね」
「そうか? ブリトニーも、少し動きが安定してきたな」
話したいことがたくさんあるけれど、口を衝いて出るのはどうでもいいことばかり。
「私、王都で暮らすことにしたの。領地と行ったり来たりだけど、リカルドにまた会えるよ」
「ブリトニーにばかり無理をさせて、すまない……俺は不甲斐ないな」
「そんなことない。今の私がいるのは、リカルドのおかげだもの」
彼が手伝ってくれなければ、今の私はなかった。
幼かった当時は、気まぐれから手を差し伸べてくれただけかもしれない。けれど、彼がいなければ伯爵家の温泉は誕生しなかったし、石鹸も生まれなかった。
私は功績を残すことなく、その他諸々の開発に携わる機会も得られないまま。
リカルドと仲良くなることもなかっただろう。
「だから、ありがとう、リカルド」
慎重にステップを踏みながら答えると、リカルドの体がぐっと近づいた。その顔はわかりやすく赤くなっている。
「……こんな時に、そんな顔されたら照れるだろ? だいたい、俺だってブリトニーに助けられているから、おあいこだ」
彼につられて、私の顔もどんどん熱くなっていく。それに、距離が近いのもまずい。
羞恥のあまり、ふらついてリカルドの足を踏みそうになってしまった。
「大丈夫か? 休憩、するか?」
「え、ああ、うん、そ、そうだね。それがいいね」
自分で何を言っているのかわからないまま、私はおもむろに頷く。
曲が終わったタイミングで、リカルドに手を引かれた私はダンスの輪を抜けた。
「ブリトニーが疲れたみたいだから、隅で少し休む」
リリーの父親にそう言い残し、私たちは会場の端へと移動した。ちょうど、休憩用のスペースが設けられているので、そこに座って寛ぐ。
ほとんどの参加者がダンスに出ているようで、人はまばらだ。
「ありがとう、リカルド」
「いいや、俺も、ブリトニーと二人でゆっくり話をしたかったから」
「私もだよ」
「そうか。ブリトニー、俺……」
お互いの距離が近づき、良い雰囲気になった瞬間……
会場中に高らかなファンファーレが鳴り響き、リカルドの声をかき消した。