101:少女漫画開始、運命の春がやってきた
春になり、少女漫画でブリトニーが登場する年齢を迎えた私は、アンジェラの取り計らいで王都へ向かう。
同様に誘いを受けたノーラも、王女の話し相手として王宮に滞在するらしい。
漫画の通り、今ここに悪役トリオが誕生した。
(まずは、今の状況を整理しよう)
私とノーラは、城のすぐ近くに用意された屋敷に住み、そこから城へ出仕することが決まった。
諸々の前に、社交デビューという一大行事が控えているのだが。
(それに、私は王都と領地の両方で、ハークス伯爵家のために働かなければならない……)
これからは、行ったり来たりの生活になるだろう。
(領地のために何かできることは、嬉しいから良いんだけど)
今は、領地の名産品であるワインや、その辺に生えているハトムギを使った化粧品などを考案している。
また、ノーラの領地から新たに採掘された宝石で、アクセサリーを作って売る商売も始めた。
最低限の復興が済んだので、マーロウ王太子には、お礼を言って小隊を返している。
援軍のこともあるし、彼はハークス伯爵領の恩人だ。
領地内の水路建設は順調で、この春から工事が開始される。
まずは、メインとなる場所に造り、そこから少しずつ広げていく予定だ。もちろん、上水と下水は分けて。
他に、元アスタール伯爵が温泉文化を広めたいと言ってくれている。領内では資金的に難しいので、アスタール伯爵領で試掘することになった。
例の戦いで疲弊していたアスタール伯爵領だが、元々の蓄えが違う。温泉を作る予算はあるそうだ。
元アスタール伯爵は、リリーの両親と協力しながら仕事を続けていた。
元伯爵とリリーの父が兄弟なのだが、息子たちと違って兄弟仲は良い。
ちなみに、美少女リリーも社交デビューを控えており、私たちと一緒で王都に向かうだろう。
(あれだけ可愛ければ、結婚相手に苦労しなさそうだけれど……アスタール伯爵領関係者だから、今は難しいかもしれないな)
リカルドは、すでに王都に戻り学園を卒業したのだが、周囲の風当たりは厳しい。
物分かりの良い貴族はいいのだが、アスタール伯爵領の人間を無差別に侮辱する輩もいる。
彼は兄の暴挙を止めた側だというのに、辛い立場に立たされ気の毒だ。
そんなリカルドと文通している私は、彼のいる王都の現状をいち早く知ることができた。
リカルドとルーカスは、相変わらず仲が良いらしい。
だが、「やっぱり、北の国とアスタール伯爵領は通じている」などという心ない憶測を避けるため、以前ほど表立って会ってはいないらしい。
(王都へ行ったら、少しでもリカルドの力になりたいな)
リカルドは、ルーカスを通じて北の国の現状も教えてくれた。
人質となった第五王子曰く、「あの姉一人に、こんな大それた真似ができるはずがない。おそらく、裏で糸を引いている兄弟がいるだろう」とのこと。なんとも不穏な言葉だ。
ちなみに、彼の両親はすでに主犯の王女を切り捨てている。前に語った通り、王女は行方不明……ということで、片がついていた。
アンジェラとの婚約については、現状保留。次のパーティーに妹姫が参加するので、様子を見ているようだ。
それから、新しいニュースもあった。この国に、南の国の王子もやってくるらしい。
北の国と、この国の結びつきを見た南の国の王が、「自分の息子にもどちらかの王女を……」と、考えているようだ。
一応、遊学ということで、王子は王家の客人扱いである。南の国は、男兄弟ばかりで王女がいなかった。
(とはいえ、人質のルーカスも表向きは「遊学」扱いだからなぁ。彼と似たようなものかも?)
近くの国と婚約するのは、いざというときのために血を繋ぎ、縁戚関係を結ぶことでお互いに協力するためだ。
北の国の侵攻もあり、危機感を募らせた国王は南の国の提案を受け入れた。
(南の国の王子も、漫画の登場人物だ……)
北の王子ルーカスと、主人公メリルを奪い合う、イケメンヒーローポジション。
端的に言えば、そんな人物。
ちなみに、彼の性格はやや軽薄だが、それは表向きのこと。中身はルーカスやリュゼと張り合える腹芸名人でもある。まあ、王子なんてそんなものだよね。
清く正しいマーロウ王太子が眩しい。もちろん、彼もそれだけの人間じゃないけれど。
南の王子は、ブリトニーの処刑に直接関わっていない。
だが、漫画では、意地悪なアンジェラ軍団の嫌がらせの証拠集めに積極的に関与していた。
(警戒しておいたほうがよさそうだけれど、状況は変わっているし、いきなり処刑はされないはず)
そんな今の私は、もう白豚ではない。
仕事に精を出しているうちに私の体重は減り続け、ブートキャンプで痩せた時期と同じ状態になっていた。
元の姿に戻らないよう、注意が必要だ。