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トラブル・トラベラーズ!  作者: 安楽樹
2章 なりゆきの護衛者
7/202

2.あの~、お仕事をお願いしたいんですけど……

さて、さっきまでの出来事もすっかり忘れた二時間後。

いつもの酒場にいつもの仲間。……それだけでもう何も説明は要らなかった。

最近多くなったイセルの愚痴と、ダラダラしたみんなの雰囲気。

彼らには最近、冒険者のボの字も見当たらなく、日雇いの雑用まがいの事をして、日々の食いぶちを稼いでいるのが常だという寂しい日常だった。


「あーあ、おいしい仕事無いかな~」


ベルはいつもそればっかりだ。


「あの~……」

「そうだよねー。なんかこう、ちょっと誰かを送ってっただけでお礼が貰えるとかさー」


グラムルも、騎士の割には何故か金にはこだわる。

……まあ、さっきの今だから無理もないといえば無理もない。切実な問題だ。


「じゃあそろそろ、俺の師匠でも探しに行くか」


スプは相変わらず唐突だ。

もちろん大して興味のない他のメンバーは、その言葉をあっさりと聞き流す。

エール酒の最後の一滴を飲み尽くすと、イセルはしみじみと呟くのだった。


「スプの師匠か……その罪は重いな。お姉さんおかわりー!」

「……全く、やーね人間って」


何故か近くの男性店員を無視して、奥にいるウエイトレスに声をかけるイセル。

そんな彼に、ベルはじとーっと音がしそうな視線を送るのだった。


「あ、あの~……」

「……なぁに?僕」


さっきからすぐ側で声をかけてきている子供に気づいて、シャルルが返事をする。

……ちなみに、イセルとスプはさっきからその存在に気づいていたのだが、面白そうなので無視していたのだ。

すかさずイセルが茶々を入れる。


「ぷぷっ!子供が子供を子供扱いしてるよ」

「む~……、子供じゃないもん!」


いちいちシャルルもほっぺを膨らました。

そういうシャルルは一人だけ、特別注文のお子様セットなんですが。


「全くホント子供なんだから……」

『って子供っ!?』


みんな一斉にそちらを向いて叫ぶ。

さすが、見事なまでのチームワークとオーバーリアクションだった。


「あの~、お仕事をお願いしたいんですけど……」


彼らのあまりの勢いに気後れしながらも、その男の子は確かにそう言った。

その声は周囲の喧騒に紛れて掻き消されそうだったが、たとえこの場に突然魔神が召喚されようとも、みんなその一言だけは聞き逃さなかっただろう。


『仕事っ!?』


またも息ぴったりにそう叫ぶと、全員が一気に身を乗り出してくるのだった。


「引き受けよう」

『早っ!』


そう言ったのはおっさんだ。

……さすがリーダー。即断即決。

あまりの即決に、若干不安になったグラムルがたしなめた。


「せめて内容だけでも聞きましょうよ……」

「あ、ありがとうございます。実は、仕事と言うのは護衛をお願いしたいんです。……僕を隣のポルトヴァの町まで連れて行って欲しいんです」

「……ポルトヴァ?」

「はい、ここから徒歩だと大体二日ぐらいの所にある小さな町です」


彼らは(冒険者のくせに)あまりこの辺りの地理には詳しくないが、その名前くらいは小耳に挟んだ事があった。

……確か、優秀な領主がいるとかいないとか……。


「怪しいな」

「何でですか!」


イセルが唐突に言う。

思わず少年も突っ込んだ。


「他にも冒険者はたくさんいるというのに、よりによって俺たちに声を掛けてくるというのが怪しい」

「確かに」


……スプよ、自分で頷くな。


「自分たちで言わないで下さいよ。……あなたたちに声をかけたのは、とても賑やかそうだったから……あ、じゃなくて、すごく頼りになりそうだったからですよ!」


妙に『頼りになりそう』という部分を強調する少年であった。


「怪しい。断る」


イセルは即答した。


「だから何でですか!……あ、報酬ならそこそこは払えると思いますよ」

「引き受けます」


グラムルは即答した。


『早っ!』


……ナイスタイミングでみんなから突っ込みが入る。

そのまま、仲間内でワイワイガヤガヤと騒ぎ始める一同。


「あの~、詳しく説明をしたいんですが……」


なんとなく居場所が無いような気がしながらも、控えめにそう言うしか出来ない少年だった……。



「……というわけで父が亡くなって、僕が父の仕事を引き継ぐことになったんです」


ソーンダイク・ラカーサと名乗ったその少年は、なんだかんだの末の交渉成立後、出来るだけ早く出発したいとの事で、次の日の朝には全員支度を済ませることになった。

もちろん、こういう所は冒険者だ。手早く準備をするのには慣れている。

……手荷物が何にも無いからではないはずだ。多分。


「なんか父親が亡くなった割にはあっさりしてるな」


まだ微妙に疑っているのか、イセルは昨日からしつこく突っかかるのだった。

……非常に大人気ない。


「いえ、そんなことないですよ。実は内心はとても……」


ダイク(そう呼んでくれとの事だった)は、それにいちいち弁解する律儀な少年だった。

これだけ聡明で利発な割に、彼はまだ十二歳だと言う。……一種の天童と言っても良さそうだ。

多少汚れてはいるが、よく見れば上等な衣服を身に付けており、ちょうど良い長さで切り揃えられた髪も、よくよく見ればいいとこのお坊ちゃんのようにも見える。

深い事情は聞いていないが、勉強のためにこの町に来ていたという話からしても、どこかの貴族のドラ息子かも知れない。

一行はそんな風に思っていたのだった。


一瞬、沈んだ顔を見せたダイクだが、それは本当にほんの一瞬だけの出来事だった。

部屋の中からスプの声が聞こえてきた時には、彼からそんな表情は全くどこかへと吹き飛んでいた。


「よっし、準備できたぞー」

「こっちもいいよー」


女性部屋の方からも声がして、グラムルとベルとシャルルが出てくる。

……が、シャルルはまだ眠そうだった。


「んじゃ、出発するか!」


そうイセルが言って、階段を降りて行こうとする。


「んん、オホン!」


……どうした?おっさん。


「……してもいいですか、リーダー?」


イセルがおっさんの顔を覗き込む。

彼の半分ほどしかないおっさんの顔を見るためには、彼はかなり腰を屈めなければならなかった。


「うむ、出発じゃ」


そう聞かれ、おっさんは満足気に頷いた。

……なるほどね。


「お、おぉ~!」


なんだか気合が入りきらないながらも、ようやく彼らは長い道のりの第一歩を踏み出したのであった。


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