5.そういうのは……知らないっ!
一行の前に戻ってきたカシューナは偽者でした。
遺跡で手に入れた、魔法装置のキーとなる石をダイクと交換だと言われて逃げられました。
指名手配まで、残り……五日。
*
一行は≪貝の遺跡≫を出て、野営をしながら相談していた。
心なしか炎は頼りなく、いつもよりも明るさを失ってゆらゆらと揺らめいている気がする。
なんとなく、一行も焚き火の近くに集い、少ししんみりとした時を過ごしていた。
この町に来た時から、色々と頼りになっていたカシューナがまさか敵の手に落ち、城に捕まってしまうとは……。
これまでにその実力を間近で見続けてきたため、簡単にはその事を信じられなかった。
かといって、本物のカシューナが裏切ったとも考えられない。
当の本人もそう言っていたが、見た目はまるっきり本物のカシューナと変わりがなかった。
「まあ多分、魔法だろうな……」
「……そうなの?」
みんな同じ事を考えていたのか、スプが一人呟いた。彼が知っている魔法があるようだ。
ベルがそれに答えたことにより、誰からともなく、いつものような会話が始まる。
焚き火に集まってきたのか、近くにはホーゥホーゥという鳥の鳴き声が響き始めた。
まずは本物のカシューナさんをどうするか、ということをグラムルが話し出す。
何だか気にしているらしい。
そのイケメンっぷりやダイクに対する育メンっぷりには全く反応しなかったというのに、一緒に前線で戦っている間に何か心境の変化でもあったのだろうか?
一部気になった人はいたようだが、みんなその事については胸の奥にしまっておいた。
……こういうのは熟成期間が必要だからね、うん。
「お城にいるって言ってたよね……」
「お城って、あの嫌な王様がいる所でしょ?」
「王様というか領主だけどな。……まあでも、城に行くのは捕まりに行くようなもんだな」
「……だよね」
「…………」
「カシューナさんだってダイクを助けてほしいはずだし!」
「……そ、そうだよな!よし、決まり!」
数秒ほどの沈黙の後、あっという間に全員一致でお城に捕まったカシューナは放置されることが決定した。
みんな自分の身が大事らしい。話を振ったグラムルでさえ、満足気に頷いている。
……あれ?勘違いだったか?
次の話題は、奴らがダイクと交換条件に提示してきた、魔法装置のキーとなる石の事だった。
今はとりあえず、駄々をこねて持ちたがったスプが所持している。
ちょうど話題に上がったので懐から取り出し、焚き火の灯りに照らしながら、しげしげと石を観察してみる。
「この石が、魔法装置の起動装置なの?」
「そうらしいけどな……。スプ何かわかんないか?」
「これだけじゃ何ともな……。魔力はあるみたいだけど」
「石渡す?」
「でも悪の組織に渡すのはな……」
「……だよね……」
「何か似たような石無いかな?」
「ニセモノを渡す?」
あっという間に『身代わりの石を探せ!』とばかりに、全員で似た石を探し始めた。
が、もちろんこれほど精巧な作りの八面体の石など、その辺には存在しない。……というか、自然界には存在しない。
それこそ石造りの家を作る職人でもない限り、これほどの物は作れそうに無かった。
そもそも、魔力を感知された時点で完全に分かってしまうはずだが。
「無いか……」
「まあ多分、バレると思うぞ」
「あーでも、これを渡すのはなぁ~……」
実際の所、これがどんな物でどんな魔法装置を蘇らせ、それを使った≪教団≫がどんな事を起こそうというのかすら、彼らには分かっていないのだ。……もしかしたら、奴らは世界を平和にしようとしているのかもしれない。
だが、それでもこれまでの実績を見る限り、奴らにこの石を渡すというのは気が乗らなかった。
……それがたとえ、ダイクと引き換えだとしても。
それはむしろ、彼らの性格的に『相手の言いなりになる』ということが我慢できなかったからということもあるだろう。
「だから、石も渡さずにダイクを取り戻そうよ」
そういった狭間で悩みながら打開策を考えていたのだが、ベルが突如突拍子も無い事を言い出す。
「……だからぁ、どうやってだよ。『ダイクの命が惜しければ石を渡せ!』とか言われたら?」
「そういうのは……知らないっ!」
どうやらあんまり考えてなかったらしい。
……この一言で、彼女はイセルに『理想主義者イゼベル』の烙印を押されたのだった。
呆れて溜め息を吐くイセルに、機嫌を悪くして「だってそれが一番いいじゃんか……ブツブツ」などと呟いているベル。
段々と取れる手が行き詰ってくる中、何か手掛かりを掴むためにも、明日の流れをトレースしてみることに。
「……そもそも、明日ダイクを連れてくるか?」
「ん~、……来ないだろうね」
「よし、じゃあ俺たちも石を持って行かないぜ!」
「それはいいかも。……でも、実際交換する時の事を考えると何の解決にもなってないけど」
「……」
「だぁ~っ!ダメだ!やっぱり埒が明かん!」
駄目だったらしい。
やっぱり堂々巡りになるだけだった。
結局いつもの彼ららしく、最終的にはとにかく行ってみようぜ!ということになったのでした。




