4.謎の言葉ですね
ドゴォォォン……!!!
「あ"ぁあ"~……」
「結局、性格は死んでも治らないのか。相変わらず仲間に裏切られてばっかりだなお前ら。……ちょっと同情するぜ、ズーマン」
これにより、前衛は大ダメージを食らう……が、ゾンビもそれぞれの相手が各一体ずつ減った。
しかし……。
「あ、あれ?しまった!」
「またかい……」
「だからいつも、身の丈に合った武器にしろって言ってるのに……」
いつもの如くグラムルが失敗を犯し、武器を落とす。そこへズーマンゾンビの一撃が命中し、グラムル気絶。
後ほど、グラムルはこう思ったという……。
(血と腐肉の混じったのってどんなのだろう……?)
例によって、グラムルは深く考えないようにしたそうだ。
「やれやれ、また回復か……。すまんな戦斧よ」
「おい、シャルル。俺が援護行くからくさラバにウィスプ頼む!」
「はい!うぃすぷ!」
「な、なんだこいつは!?え~い、食らえ!」
……。
今度は無反応な魔法装置。
「なんだと!?この役立たずが!」
「行け!うぃすぷ!」
「お、おのれ覚えてろよ~……ぉ」(ドロドロドロ……)
ウィスプの働きにより、くさラバはドロドロの泥と化した。
結局それが決定的な流れとなり、残りのゾンビも程なく倒され、一行の勝利となったのだった。
だが、知り合いを二回も切り倒すというのはあまり気分のいいものではない。
「精霊の方がよく働いてるじゃねえかよ」
『――いや、普通ありゃ気が乗らないだろ』
「まあそりゃそうだけどよ。……ふぃ~、火の玉来た時はどうなるかと思ったぜ」
「ホントホント。まあ大魔術師たる俺に言わせれば、あれはまだ出来損ないだったみたいだけどな」
「ホントかよ?……まぁ、だから俺たちでも耐えれたってわけか」
「か弱い私の方に来たら、ホント危なかったわよ」
「……ちっ」
「ちょっと何よその舌打ち!」
毎回、戦闘後の会話におっさんが加わらないのは、大抵がグラムルの手当てをしているからなのだが、今回も一時は結構火傷を負ったものの、グラムル以外は大して深い怪我を負う者はいなかった。
もはやあまり見たくない肉の固まりになりつつある倒したゾンビたちを見て、思わずイセルがため息を吐く。
「あ~あ、倒しちまったか。今度こそ俺たちがやったことになっちゃうかな……」
「でももう死んでたでしょ」
「『死んでたから殺しました』って言うのか?」
「謎の言葉ですね」
「『死んだら生きて帰れない』みたいだな」
そんな風に一行が例によって軽口を叩いていると、さっきの戦闘中から一人無言だったカシューナが、パチパチと手を叩きながら一行に近づいてきた。
コツコツと足音を立てつつ、何となく上から目線の気配を感じさせている。
(こ、この拍手の仕方は……!?嫌な予感……)
既視感な一行。
既に、拍手の雰囲気でその後の展開が予想できるという、ある種の才能を手に入れつつあった。
以下、そんな一連のやり取りだ。
「……さすが、あの方が見込んだだけはあるな。ちゃんと石は手に入れたか」
『……は?』
「どうしたんです?カシューナさん」
「ダイクはその石と交換だ。無くさないように持っておくんだな」
「その石?」
「カ、カシューナさんまでっ!?……なんか俺、もう誰も信じられなくなりそうだぜ」
「私も……」
「……」
「ここで裏切るなんて、どんだけ長い前フリなんだよ」
「あんなに一緒に死線を潜り抜けてきたのに……」
「何でわざわざこんなめんどくさいことするのかしらね?」
「…………」
「あー可哀想ダイク。帰ってくる頃には屋敷には誰もいないかもね」
「実は屋敷の全員裏切ってたとか?」
「どんだけ壮大なドッキリだよ」
「実はお前も裏切りモンだろ!?」
「いやそういうお前こそ裏切ってんだろっ!?」
「……いやあのさ、そろそろ気付こうぜ?カシューナじゃないんだけど」
「こうなったら、俺たちだけダイクを裏切らないってのも、ある種裏切りだな」
「俺たちも空気読んで裏切るか」
「そうしてダイクは人間不信になっていくのね……」
「若いうちに世間の厳しさを知っておくのは大事かも知れん」
「誰も信じちゃいけねーよってな」
「いやあのさ、……聞いてる?」
「なんだよ裏切り者のカシューナさん。今ダイクの教育方針について大事な話をだな……」
「そうだそうだ」
「だあっ!もういい!ホントは分かってんだろが!『黒いリボン亭』だ!ポルトヴァのっ!明日そこで待ってるからな!ちゃんと来いよ!」
「……何いきなりキレてんだよ、カシューナさん……」
「ホント、自分で裏切っといて……」
「だからカシューナじゃないのっ!……いいか!確かに伝えたからな!」
「あれ?石って何だっけ?」
「そこのその石!装置の真ん中に浮かんでるひし形の奴!……魔法装置の起動に必要な、重要な鍵となる石のことっ!!!」
「ああ、そうか。OKOK」
展開を読んで先回りし、完全に相手を自分たちのペースに巻き込んだ一行。
どうやら騙されてたようだけど、これでちょっと清々したかもしれない。
何か納得できんな~という顔で、自称カシューナもどきはそのまま裏口から去っていった……。
「だからカシューナじゃないのっ!自称カシューナなんだって……あっ!本物のカシューナは城にいるからな!忘れるんじゃねーぞ!」
「……あ、そう……」
わざわざ親切に教えてくれる見た目はカシューナの謎の男を、ぽかんとして見送る一同。
最後にイセルが一言呟いた。
「そういうとこは律儀なんだな……」
指名手配まで、残り……五日。