2.あ~あ、また死ぬ気かよ
「開けちゃえ~」
ガチャ
何の躊躇もなくスプが扉を開けた。
「「「何ぃ~っ!!!」」」
「……」
「……」
どうやら特に何も起こらない。……そのままスプは中に入る。
「あー勝手に開けやがって。死んでもしらねーぞ?」
「私達も入りますか?」
「……いや待て。ちょっと様子を見てピンチの時に助けに入って恩を着せてやろう」
みんなの顔に名案だという表情と、え~めんどくさそうという表情が浮かぶ。
しかしどちらにしろ、スプの身を心配している者はいないようだ。
「そうした方が少しは懲りるだろ。それに、ここは昔魔術師の訓練場だったんだろ?魔術師のための試練とかあるかもしれないし、もしかしてそれに合格したら何か素敵なアイテムくれるかもしれないじゃん」
「なるほど」「そうか」「確かに」
その言葉には全員が頷く。
……ちなみに、イセルのいう『素敵な=高価な』という意味じゃないかと伝わってくるのだが。
多少警戒しつつも、スプは部屋の中央まで進んで行った。今の所、部屋はがらんとしていて何もない。
「別に何も無……」
特に何もないのかとスプが振り返った時、突然目の前に煙と共に幻影のじいさんが現れる。
何やら小奇麗な格好をしたじいさんは、魔術師のマニュアル通りのように白いひげを蓄え、もったいぶって説明しだした。
『――力を求めし魔術師よ、よくぞ来た。まず一つ目の試練を受けるが良い――』
「「やっぱり~っ!!」」
その言葉と同時に、幻影のじいさんは別の生物へと変化する。
……現れたのは≪石の彫像の魔法生物≫だった。
スプは一撃でやられた。
「死ぬ~……」
スプの首筋からは血がドクドクと流れ続けている。
あ、ありゃやばいな。死ぬな。
「あ~やっぱり駄目だったか。よし行くべ」
「お~ぅ」
大の字にうつ伏せになりながら地面に倒れているスプを迷惑そうに見ながら、ぞろぞろと部屋の中に入る一行。
魔法使いのじいさんが変化したガーゴイルは、次のターゲットを見つけて襲い掛かってきた。
慌てず騒がず、手にした武器を構える前衛。
いつものパターン通り、イセルを中心に両脇をグラムルとおっさんが固める方針だ。
シャルルがウィスプで後ろから牽制し、ベルは隙を見て弓矢を打つ。
スプの魔法の援護は無かったものの、特に問題は無く撃退することができた。
……やはり、専門化された職業が協力した時の力は段違いだった。
唯一、特筆すべき所があったとすれば。
今回、カシューナは自分が出るまでも無いと思ったのか、後ろで「頑張れ~」と応援していた。
それを見ながら、(働けよな……)という表情をしていたイセル。
同じ事を思ったのかどうかは知らないが、突然グラムルがいつもの大失敗をやらかす。
「あ、……しまった」
そう呟いた時には既に、彼女の手からすっぽ抜けた大剣が後ろに一直線に飛んで行き、そこにいたカシューナへと刺さった。
……あ、いや正確には刺さったわけではなく、ぶつかって傷を負っただけなのだが、刺さったようなものだった。
「おぉうっ!」
(……ざまあ見ろ)
いてて……と顔をしかめながら、剣をグラムルに届けに近付いてくるカシューナ。
それに気付いたグラムルは驚く。
「カシューナさん、持ってきてくれたんですか!?」
「そりゃそうだろ。……刺さったまま『取って取って~!』なんて来る奴なんていねーぞ」
呆れたように半眼になるイセル。……喋りながらも、ガーゴイルの鉤爪を華麗に受け流す。
それに同意するように、カシューナも苦笑いをしながら頷いた。
慌てて顔を紅くして謝るグラムル。
「違くって!こっちが取りに行かなくていいのかと思ったの!……すいません」
「いえ……気になさらずに」
そう言ってにこやかに剣を渡すカシューナだったが、その額からは血が一筋、タラ~ッと流れていたのだった。
まあそんなことがありながらも、他には特に何も無く戦闘は終了した。
スプもこの事を学習して、今後に活かしてくれればいいものを……と嘆息しながら、おっさんは彼の手当てをする。
残念ながらもスプは一命を取り留め、死にそうだったのがウソのように復活したのだった。
そしてその後、まるで何事も無かったかのようにいつも通りに戻る所が、彼らのすごい所だ。
もはやスプに注意する事すらしない。
ケロリとした全員と、唯一唖然としているカシューナ。
もはや、なんと言っていいのか分からないようだった……。
そのまま一行は探索を続け、所々こんな感じの出来事が起こりつつも遺跡の奥深くへと進んだ。
特に何も起こらずに時が過ぎる。
……何も無いし、人の気配もまだ無い。
どうやら、本当にどこもかしこも朽ちてしまっているらしい。彼らが言っていたことはそのまま的中したようだった。
後ほど、古代語で『Ⅱ』と書いてある扉の部屋に入ったが、もう壊れてしまっているらしく、何も起こることは無かった。
まさにこの遺跡はかなり老朽化して探索しつくされた後のようで、ここにあったという魔法装置以外のほとんどの仕掛けはもう機能していないらしい。
所々にある、それらしい装置や仕掛けも、もう既に風化が始まっているようだった。
そうこうしているうちに、前回ズーマンたちと戦った大きいホールへと辿り着く。
誰かが片付けたのか、そこには彼らの死体はなかった。
唯一、前回彼らが戦った時の物と思われる、黒ずんだ血痕のみが残っていた。
「……いないね」
「……」
「無いね」と言わなかったのは、わずかに残っていた彼らの良心のせいかもしれない。
一行は思う所はあったものの、それを口にする人は誰もいなかった。
前回はここでみんな裏口へと出たのだが、今回は目的が違う。
「確か……ここです」
もう一つ、奥へと続く扉があった。
カシューナがそれを指し示す。どうやら、その先に例の装置のキーがあるらしいのだ。
彼らが追っていた腐肉の跡も、最終的にその部屋へ続いていた。
扉の前に立ち、意を決した表情でみんなの方を振り返るイセル。
勝手に一人でうん、とか頷くと、また勝手に一人で壁に指を突いて、いててて!とかパフォーマンスをしている。
一行の間に白けムードが漂い始めそうな時だった。
――ガチャ
その雰囲気に耐え切れなかったスプが、またしても懲りずに扉を開ける。
「あ~あ、また死ぬ気かよ」
「全く……」
呆れたように呟く他一行だったが、誰も彼に止めさせるつもりは無いらしい。
幸いにして罠などは無かったが、扉の向こうには数人の人影があった。
……しかし、どこかおかしい。
「何だありゃ?」
「うわ、きも~い」
部屋の中にいたのは、見知った『人だったモノ』の群れだった。




