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トラブル・トラベラーズ!  作者: 安楽樹
1章 いきなりの冒険者
3/202

3.黙って食えっ!

……これは、とある剣と魔法の世界の冒険譚である。

後に、≪旅する大騒動トラブル・トラベラーズ≫と呼ばれる、ある一行のお話。



まず今日は、野営中の一コマから。


「えーっ!こんなの食べるの~?」

「うるせぇな!これぐらい食えねえとこの商売やってけねーんだよ!」


ギャーギャーとわめくエルフのベルに向かって、イセルは叫ぶ。

ここは街道から少し外れた森の中。

彼らは野営をしている所だった。

周囲はとっぷりと日が暮れており、焚き火の炎だけがユラユラとそれを囲む冒険者たちの姿を浮かび上がらせている。

その前にはこんがりと焼けつつある、狼の肉が無造作に串に刺さっていた。

つい先ほど、彼らが仕留めた獲物だった。


「だって私、森にいた時は肉なんてほとんど食べなかったんだよ!木の実とか野草だったもん!」

「ここはお前の故郷じゃないんだよ!はよ食え!」


またベルが抗議の声を上げる。

さっきから、狼の肉が食えんだなんだと文句ばっかりだ。

だがそれに付き合っているのはイセルのみで、他のメンバーは我関せずといった様子だった。

イセルはもう一度叫ぶと、自分の肉に手を伸ばす。

しかし、「……ちっ、まだ生焼けだ」という顔をして、伸ばした手を引っ込めた。


「……私もやだなぁ……」

「何だと?」


反対の隣からぼそっと聞こえた声に向かって、ドスを利かせて呟くイセル。

グラムルの声だ。

一応、焼けた肉を両手に持ってはいるが、顔の前でグルグルと串を回したまま、一向に口を開こうとはしない。

そして何やら、目の前の肉にブツブツと文句を付けているようだった。


「黙って食えっ!」

「えぇ~っ……」


イセルは彼女に向かって容赦なく突っ込むと、何だか食欲が湧いてこない……といった表情をしている女騎士を睨みつけた。

……とうとう携帯食も無くなり、町にもたどり着けなかったのだ。

メシにありつけるだけでもありがたいと思えよな……と、その表情は物語っていた。

不満気な声を挙げるグラムルは、どうやらまだ納得していないらしい。

イセルは溜め息を吐きながら、視線を反対へと向ける。


「うん、いけるね」

「もぉひっこもはっへひひ?」

「おいしぃー」

「ほらあいつらを見ろ!腹がはちきれるほど食ってんだろが!」


その視線の先では、大飯食らいのドワーフのおっさんと、同じく大飯食らいのアホ魔術師と、何も考えていないちびっこが我先にと肉を口の中に掻き込んでいる所だった。

一心不乱に肉にかじり付いている彼らを見てると、必死で二人を説得している自分が馬鹿らしくなってくる。

……彼らなら、目の前にあるのがたとえ悪魔の肉だろうと、お構い無しに違いない。

おいおっさん、それほとんど生だぞ。


「うぅ~……」

「町に着いたら、絶対ちゃんとしたもの食べるんだからねっ!」


ようやくグラムルも、この動く胃袋たちを見て少しは食べる気になったらしい。

小さく口を開けると、端っこの方を一口かじり始めた。

なんだかんだ喚いていたベルも、とうとう肉に手を伸ばす。

……この高慢エルフも、さすがに空腹には勝てないようだった。


「ふぅ……」


やっと食事にありつける。長い道のりだったぜ……。

その二人の様子を見て、さすがにそろそろ焼けたであろう肉に、イセルは再び手を伸ばした。

が。


「……無い。……なんでっ!?なんで無いの!?」


一体、いつの間に。

慌てて辺りを見回したが、先ほどまで目の前にあった彼の肉はどこにも無い。


ガサッ


……。

彼はその異変に気付いた。

その様子に、他の面々もチラリと顔を上げる。


「……おいスプ。お前は何で両手に串を持ってんだ?」

「ん?食ったよ」


ぷち。そんな音がした気がする。

全く悪びれもせずしれっと告げるスプに、イセルは握った両拳がワナワナと震え始めてくるのが分かった。


「……『食ったよ』じゃねーよ。何で俺の食ってんだって聞いてんだよ!」


額に血管を浮かべると、躊躇無く傍らに置いてあった大波剣を抜き払うイセル。

同時に、スプも傍の杖を手に取ると、素早く立ち上がって間合いを取った。

……焚き火を挟んで、炎に照らされる二人。


「はは~ん。……歯向かうつもりかぁ?」

「てめぇが食うの遅いのが悪いんだろ」

「……遺言はそれだけだな?」

「また始まったよ……」


ベルが呟く。

最初はあれだけ文句を言ってたくせに、もう既に半分は食べ終わっている。

……お前はそういう女だよな、というイセルからの視線は無視の方向らしい。

他のメンバーは、もういつもの事だとばかりに傍観を決め込んでいた。

特におっさんなんて、食後の酒がとばっちりを受けないように、ちゃっかり避難してるし。


「覚悟はいいな?」

「@#$%¥……」


スプが呪文を唱え始めると同時に、イセルは地を蹴った。先ほどまでの間合いは消え、刹那にして懐に入り込む。

波打った刀身を下から振り上げ、魔術師に向け一直線に突き出す――っ!

かと思いきやそのまま横を素通りし、彼の背後の茂みに向かって無造作に剣を突き込んだ。

と――。


『ギャグワェーッ!』


明らかに人間のものではない、断末魔の悲鳴が辺りに響く。

そして茂みから、やや小柄な人型の生き物がこちらに倒れこんできた。

炎に照らされたその姿は、ブツブツとした灰褐色の肌に尖った少し長い耳、醜く歪んだ顔から覗く、乱杭歯。

ボロボロの布を纏って、錆びて古びた斧を手に持っている亜人だった。


「≪悪小鬼ゴブリン≫か……」


彼がそう呟いた時には、食事中だった他のみんなは既に戦闘体勢に入っている。

……あ、いや、おっさんだけはコップの酒を飲み干している所だったが。

すると、周りの茂みから奇怪な声が幾つも聞こえ、今倒れたのと同じような人影が数体、焚き火の前に姿を現した。

シャルルが呼び出した光の精霊が、くるくると螺旋を描きながら宙を舞う。

夜中にもかかわらず、朝日のような幻想的な光が周囲を照らし始めた。


一、二……五匹。ほぼ囲まれている。

粗方、肉が焼けるうまそうな臭いに惹きつけられてやってきたんだろう。……とすると、奴らの巣が近いのかもしれない。

……ようやく今回の仕事も終わりそうだ。

そんな事を思いながらも、イセルが剣を構え直すのと同時にスプの呪文が完成した。


「こげろっ!」 ―― ****


バタバタ……と周囲にいたゴブリンの内、二体がその場に倒れる。

スプお得意の、眠りの呪文だ。

彼の掛け声には、いつも特に意味は無い。

これでこいつらは倒したも同然だろう。きっと残りの奴らは逃げ出すか、自暴自棄になって突っ込んでくるはずだ。

……まあそっちはグラムルとおっさんに任せるとして。


イセルには、この限界までの空腹を一体どうやって紛らわせようかと言う事が大問題だった。

ゴブリンって食えねえのかな……。

目の端に狼の肉の食い残しが映る。あれを何とか調理すれば……。


……まあ、今日はそれで我慢するか。

ああしてこうして……、まあそれでどうにか食えるだろう。

めんどくさいから出来上がりってことで。



……まあ、大体彼らの仕事はこんな感じだった。

まだまだ駆け出し。

ゴブリン退治なんてのが定石の依頼。

この時は、まだ誰もがあんな呼び名を付けられる出来事に遭遇するとは思ってもみなかった。


では、そんな彼らの冒険譚のはじまりはじまり……。




▼主人公パーティー紹介


■イセルナート/自称熱血戦士

筋力:19 耐久力:17 敏捷度:8 器用度:16 知力:8 幸運度:11 魅力度:11

技能:LV2/剣、受け LV1/格闘、読み書き、応急手当

装備:フランベルジュ、プレートメイル、クリス


 パーティーの主戦力である、少々空回り気味の熱血戦士。

 とある王国の司祭によって育てられたが、王国が侵略された時、その育ての親によって逃がされる。

 それ以来、放浪戦士をしながら親の行方を探しているはずだが、結構適当。

 かわいい妹が一人いるとか。


■イゼベル/いじけエルフ

筋力:6 耐久力:12 敏捷度:13 器用度:9 知力:15 幸運度:13 魅力度:18

技能:LV1/飛び道具、捜索、危険感知、聞き耳、狩猟、忍び歩き、潜伏

装備:ショートボウ、ソフトレザー


 エルフの森から家出してきた盗賊。原因は妹の方が出来が良かったかららしい。

 そのためか、しばしば世間ずれした行動を見せてくれる。隠し属性はツンデレ?

 時々自分の魅力度を自画自賛する辺り、なかなかのナルシストのようだ。

 一応、イセルとはいいコンビのはず。


■グラムル/落ち武者

筋力:13 耐久力:10 敏捷度:15 器用度:12 知力:16 幸運度:13 魅力度:17

技能:LV2/剣 LV1/受け、乗馬、読み書き、礼儀作法、戦闘指揮

装備:グレートソード、ハードレザー


 イセルと同じ王国出身の女騎士だったが、王国が征服されたことにより、放浪の騎士となる。

 行方不明の兄を探しているはずだが、結構適当。

 ステータスだけを見ると結構優秀なのだが、大事な所で失敗することも度々。

 かなり消極的な性格で、目立つ事を嫌う。……って、それでいいのか?


■シャルル/子供

筋力:13 耐久力:14 敏捷度:9 器用度:15 知力:10 幸運度:7 魅力度:10

技能:LV1/飛び道具、会話(精霊語)

装備:ショートボウ、ハードレザー

魔法:≪光の精霊召喚≫他?


 精霊使いの孤児。何となくパーティに拾われた。

 そこそこいい年齢のはずだが、いかんせん頭がついてきていない。

 食べる事が何よりの楽しみ。

 とにかくこの冒険を楽しんでいるようだ。


■スプ/破壊的魔術師

筋力:14 耐久力:16 敏捷度:11 器用度:13 知力:17 幸運度:17 魅力度:7

技能:LV1/竿状武器、受け、読み書き、会話(古代語)、魔物知識

装備:スタッフ、パリーイングダガー、ソフトレザー

魔法:≪眠りの雲≫≪魔力の矢≫≪魔力の盾≫他


 魔法使いのくせに肉弾戦好きな、無謀魔術師。

 場を混乱させるためだけに作られた、凶悪人型兵器とも呼ばれる。

 所構わず、敵味方問わずに魔法を唱えることも多々。

 しかし、誰も話の進行役がいないと真面目になったりすることも。


■ヌニエル・スーン/おっさん

筋力:19 耐久力:15 敏捷度:10 器用度:11 知力:9 幸運度:10 魅力度:11

技能:LV1/斧、受け、読み書き、応急手当、暗視、礼儀作法、大酒

装備:バトルアクス、スケールメイル

魔法:≪癒し≫≪神の加護≫他


 癒す事よりも倒す事が好きなドワーフの司祭。一応パーティーのリーダー。

 商売と公正の神を信仰しているが、お祈りは嫌い。

 戦闘ではいつも戦いたがるのに、仲間の回復の方が忙しくて、少々欲求不満気味。

 何故かこれでも一応貴族出身。時に面白いノリを見せることも。

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