4.本当にこの人が領主なの?
お城からの使いに連れられて、隣町へとやってきた一行のうち、半分。
隣町ヘルンデルクは、思っていたより華やかな印象ではなかった。
それよりもどちらかというと『物々しい』『騒々しい』といった雰囲気で満ちていた。
辺りを見回すと、兵士や傭兵といった出で立ちの者たちが目立ち、お世辞にも上品な雰囲気はどこにも見当たらない。
中にはゴロツキのような輩もウロウロし、場所によってはスラムと化している路地裏も所々に見受けられる。
そんな中、大通りを馬車に乗って揺られて、イセルたち一行はヘルンデルク城へと連行されていた。
連行とは言っても、別に拘束されているわけではない。今の所、普通の客と同じような待遇だ。
城の前で全員降ろされると、オルドーラスに連れられて城門の前に並ばされる。
城門の前には門番が数人立っており、不審人物に目を光らせている者、入場の審査を行い、中へ通したり追い払ったりする者とで担当者が分かれているようだった。
オルドーラスは審査を行っている担当者へ二言三言何かを伝えると、すぐに中へ通されることとなった。
門番役の兵士が他の兵士から内容を聞き、通りすがりに声をかける。
「待て!……容疑者を武器も取らずに入場させようとしたのか!?」
「いや、それが容疑者というかそういうわけでは……」
反論するオルドーラスの声は何だか弱々しい。
……そういえば、一体この人物は城内でのどのような立場なのだろうか?その事をすっかり聞き忘れていた。
自分たちを連れてくるような立場かと思えば、門番にも大きく出ることはできないというよく分からない立場だ。
もちろん、本人の性格もあるのだろうとは思うが。
ともかく、門番の兵士はやたらと偉そうに一行に指示してくる。
「おとなしくしたまえ」
「してるじゃん」
「逆らわない方が身のためだぞ?」
門番風情の癖に偉そうな……と思ったのかどうか、ベルが小声で口答えをする。
幸い、当の門番には聞こえなかったようだが、隣で聞いていたイセルは、ベルを軽く嗜めていた。
が、まさかそんなイセルが後ほど、ああも変貌するとは誰も思ってはいなかった。
……ことはないかな。結構みんな(やっぱり……)という感じだったかもしれない。
とにかく、この時はまだイセルは大人しく言うことを聞いていたのだった。
*
「あー、貴様らがラバン公爵を殺害した者どもか?」
「……!?」
オルドーラスに連れられたまま、謁見の間に連れて行かれた一同。
一行の前に現れた大公は、おもむろに横柄に質問してきた。
仮にも一国の領主である人物なのだから、それなりの威厳や人格というものを期待していた彼らにとっては、目の前の玉座に座っている人間が、この地域を統治しているものだとは到底信じ難かった。
ダスター大公は、よく御伽噺に出てくる怠惰な王様の象徴として描かれるような、太目の体格に脂ぎった顔というような見た目はしておらず、むしろ逆に痩せ気味で骨ばった、疑り深そうなぎらついた目つきが印象的の男だった。
ダイクという例外はあるものの、これまでに想像していた領主とのあまりのギャップに一同は驚きを隠せない。
当然ながらそんな領主の事を知っているオルドーラスは、その横柄な態度にも動ずることなく、いつもの事だとばかりに冷静な態度で、固まっている一行の代わりに答える。
「いえ、それがどうもそういうわけでは……」
「貴様には聞いておらん。私はこの者たちに聞いておるのだ」
だが、その返事は相変わらず気弱だ。
そのせいか、彼の言葉はダスターにあっさりと切って捨てられてしまった。
「いえ、それは違います」
まだ領主のギャップから立ち直れていないベルとシャルルの代わりに、我に返ったイセルがきっぱりと答える。
「何ぃ~っ、嘘を吐け!血まみれのラバン公が倒れておる横に、貴様らがいる所をみた者がおるのだ!」
(あの時の視線はそれか……!)
ベルが当時のことを思い出す。
何者かは分からないが、どうやら今回のゴタゴタの情報源はそこらしい。
……もしや、これも教団の仕業なのだろうか?
「まあそれはいい。……それで、魔法装置とやらはどこへやったのだ?正直に答えるが良い」
「魔法装置?」
その単語を口にした途端、ダスターの目の色が変わったような気がした。
どうやら殺人容疑よりも、本命は明らかにそれが目的で呼ばれたようだ。
ラバン公爵の事など、本当は露ほども気にしていないようだった。
(こいつもそれが目当てか……)
イセルは途端に、この領主に対する不信感が増幅してくるのを感じる。
先日の兵士たちといい、行き過ぎた力を求める輩にはろくな人物がいないからだ。
「……本当にこの人が領主なの?」
「何か言ったか?そこの女」
同様の印象を持ったのか、疑わしそうにベルが他の二人に対して耳打ちをする。
どうやら、直接会話するのはイセルに任せているようだ。
それを聞いて代わりに答えるイセル。
「彼女たちは、お話で聞くのと印象が大分違ったのでショックなのでしょう」
「ふん、ようやく喋る気になったようだな」
「大変失礼いたしました、大公」
相手が口を開いたことで満足気なダスターの表情。
イセルはそれに内心不快感を示しながらも、突然、慇懃無礼な態度で話し出した。