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トラブル・トラベラーズ!  作者: 安楽樹
1章 いきなりの冒険者
2/202

2.で?何なんだお前たちは?

「ちょっと待ったぁっ!!!」


さっきのグラムルよりも大きく響き渡ったその声に、グラムルも含めた全員が振り向く。

またしても男たちは、「だ、誰だっ!」という台詞を使う事はできなかった。

何故なら、振り向いたその先には、あからさまに妙なポーズをつけてこっちへアピールしていた男がいたからだ。

男たちの顔に、一気に呆れた表情が広がる。


「……全く、女の人を見るとすぐこれなんだから……」


その横には、腕組みをしてため息をついている女性も付き添っている。

男の方は、斜め四十五度のポーズを保ちながら、左手を真っ直ぐこっちへ突き出し、手の平を大きく待った!のポーズで開いたままだ。

右手は背中の大剣の柄へと回し、抜くのか抜かないのか分からないがそのまま静止していた。

顎を引き、目を瞑ったまましばらく溜めを作った後に再び口を開く。


「愛ある所に炎あり。炎ある所に我あり。……炎の戦士、イセルナート……参上」

「また一体どこでそんな台詞覚えてきたのよ……」


さっきから二度目のため息を吐いた女性は、どうやらエルフのようだった。

緩くウェーブがかかった長く透き通る金髪を背中へと垂らし、風に揺られるままにしている。切れ長の目や色白の肌、ほっそりとした体つきは、大抵の男が見たら魅了され、見惚れてしまうだろう。

しかし彼女はそんな魅力を知ってか知らずか、特に着飾った衣装などは身に付けていなかった。

体にフィットした動きやすく柔らかそうな若草色の服、足音を立てないように毛がついたままの皮を使った靴、そして背中には小さめの弓矢を背負っている。


イゼベル、というその女性は、人間同士の揉め事には関わるつもりはないとでも言うように傍観を決め込んでいる。

一方で、イセルナートと名乗ったやる気満々の男の方は、台詞を噛まずに言えたことと、周囲の注目が全部自分に集まった事に満足したようで、決めポーズを解除し、背中の大剣を慣れた仕草で抜き放った。


「待ってろよ、フレイムスラスト。今暴れさせてやるからな……」


剣に向かって話しかけたのか、かなり自己陶酔気味のこの男は、まるで砂漠でも渡るかのような出で立ちをしていた。

耳よりも少し長めの金髪を、日よけになりそうなフードに似た布で覆っている。かなりの長身に着ている板金鎧はガチャガチャとうるさく、それに見合ったがっしりとした体格をしていた。

男たちを見る目は悪戯好きの子供のような雰囲気をしており、得意げに眉尻も上がっている。そして口元をニイッと吊り上げると、男たちを挑発してきた。


「どうした?来いよ、悪党!」


いきなり登場した派手な男に、呆気に取られていた男たちだったが、相手が何の躊躇も無く剣を抜き放ったのを見て、懐から短剣を取り出して構える。それを見たグラムルも、慌てて腰に下げていた長剣を抜く。……ちなみに彼女がこの時のイセルの大剣を見て、真似して大剣に持ち替えるのはもうしばらく後のことだ。


何だかアリンコよりも面白そうな事が始まったと、シャルルもその場を離れてとりあえず女性騎士の後ろに隠れた。

それを見た男たちも、もはやそれどころではなくなってしまったと、シャルルはそのままにしておいた。だが、まだ男三人に対して女三人+男一人だ。十分優勢だと認識したらしい。

男たちはゆっくりと散開し、じりじりとイセルに詰め寄る。


グラムルが横まで来るのを待ち、イセルが剣を振りかぶろうとしたその時。


「吹き飛べっ!!!」

「……な、何者だっ!」


今度こそと思ったその台詞は、何故かイセルが発したものだった。

突然の後ろからの声に、無駄に驚いて振り返っている。

男たちは、もはや勝手にしてくれ……とばかりに傍観していた。

イセルたちの前に現れたのは、杖を持った男だった。


 -*?#@


それと同時に、その場にいた一同を強烈な睡魔が襲う。

――魔法だ、と思った時には既にイセルとその前にいた傷の男が抵抗できずに、その場に倒れる。

それを見て、傷の男は小男が、イセルは隣にいたグラムルが慌てて起こす。二人が頭をフラフラさせながらも身を起こした時には、魔法を放った男は短剣ダガーを抜いて、男たちに攻撃しようと身構えていた。


「こっちはシカトかよ……」


そう呟くイセルが、新たに現れた男をしげしげと見てみる。


その男は比較的若そうだったが、細くて黒い前髪で半分顔が隠れており、表情がうまく読み取れない。その持っている杖や使用した魔法を見る限り魔術師のようだったが、もうボロボロになったローブの下に着ているのは、まだ比較的新しい薄皮鎧ソフトレザーだった。

戦士……とは思えないが、魔術師……にしては似合わない。一言文句を言おうと口を開きかけた時、


「行くぞっ!」


男はわざわざ声をかけて、長い髪の男に踊りかかって行った。


「わ、わあああぁっ!」


まさか突然飛び入りの男が襲い掛かってくるとは思わず、長い髪の男は持っていた短刀を振り回して混乱する。少しでも実戦を経験した人間にはすぐ分かったが、こいつらはほとんどこうした状況に慣れてはいないようだった。つまりは、素人同然だ。

だが、そんな無軌道な刃の軌跡に無計画に突っ込んでいった魔術師風の男――スプは、見事にさっくりと左の太ももを刺され、その場に転がった。


「……む、無念……」


特に致命的ではない傷だったが、慣れていない人間には立ち上がることは難しいだろう。

スプは両手で太ももを押さえたまま、いってー……と顔をしかめてうずくまっていた。と、そこへ酒樽に似た人影がドシドシと近づいてくる。


「全く、また手間を増やしおって……」


そうぼやきながら魔術師の手当てをし、回復魔法を唱え始めたのは土妖精族ドワーフの男だった。

背中には大きい戦斧を担ぎ、シャルルと同じくらいしかない身長でありながら、どっしりとした体格に豊かな濃い茶色の髭を蓄えている。……まさに、典型的なドワーフといっていい外見だった。

首から提げている聖印には、天秤の象徴図が描かれている。それは、公正と商売の神に仕える司祭であるという証だ。

さらによく観察してみると、少しだけ顔が赤いような気がする。……まさか、昼間っから飲んでる?


近くにいたスプには明らかに酒の臭いが分かったので、どうやら飲酒魔法だったようだが、神はその辺りには寛容らしい。元々それほど深くは無かった傷は、あっという間に治った。そしてまた懲りずに立ち上がるスプ。

回復を終えた司祭――ヌニエルも立ち上がり、まるで酔拳の使い手のように戦斧を振りかぶり……損ねてふらついた。


それに「危ねっ!」とか驚きながら、近くで斧に当たりそうになったイセルも再び剣を構える。

隣には同じく剣を構えたグラムル。

……いつの間にか後ろではベルが短弓を構えており、最後にシャルルが悪戯でもするかのように、ニッコリ笑って光の精霊ウィル・オ・ウィスプを呼び出した。


「ひ、ひいいいぃぃっっ!!!」


あまり締まらなかったが、それでもズラリと揃ったこのメンバー一同を見て、恐れをなした男たち。残念ながらお決まりの捨て台詞を吐く間もなく、あっという間にその場から逃げ去っていってしまったのだった。


「……ふぅ。で?何なんだお前たちは?」

「……何が?」

「何がじゃねーよ何がじゃ。いきなり人を魔法に巻き込んどいて『何が?』はねーだろ」

「それを言うなら、アンタが勝手にノコノコ出て行ったんでしょ!もう止めてよね、一人で暴走するの」

「えぇ~っ!?あそこはさぁ、戦士として出て行かないといけない所だろ~?」

「あ、あの……確かに……た、助かりました……」

「うっ、気持ち悪……飲み過ぎた……」

「わ、わわっやめろ!……き、気を確かに持つんだっ!」


……何だか面白そうな人たちだ。

シャルルはしばらくこの人たちについていってみようかと考える。

多分大変になりそうだけど、退屈する事は無さそうだし、特にこれから行く所も無かったし。


……それなら、旅路は賑やかな方がいい。


ともかく、集まった人々によりろくでなし共は撃退された記念に、折角なのでとみんなで食事をすることになった。

そして、何だかんだと騒いでいる内に意気投合し、みんなで金でも稼ごうぜ?……ということになるのだった。

早速自己紹介をし、町の酒場へと仕事を探しに行く一行。


その店には、『明日は明日の風が吹く』という看板が軒先にぶら下がっている。

辺りには少しずつ新緑の季節が近づいている頃。

今日の陽気に当てられて、二番目の若芽も芽吹き始めていた。




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