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トラブル・トラベラーズ!  作者: 安楽樹
2章 なりゆきの護衛者
13/202

8.敵襲……だ……ガクッ

「ったく、スプの野郎どこに行きやがったんだ?せっかく俺の育ちの良さを見せてやろうと思ったのに……」


宴も酣。

つつがなく継承の儀式も終わり、一応緊張して成り行きを見守っていた一同の肩の荷も下りたので、それぞれでこの宴を楽しんでいた。

といっても彼らは専ら食事に目と口を奪われていたのだが、会場では管弦楽団によるBGMに合わせて、優雅に舞踏の席も始まっていた。

カシューナはターゲットされていた女性たちからの誘いを断るのに忙しく、同様にベルとグラムルも、とにかく必死でダンスの誘いを断りながら逃げ続けていた。

……あれじゃあせっかくの料理も喉を通らないに違いない。もったいねえな……。


そんなことを思いながら、イセルはバルコニーに出て夜風に当たっていたのだった。

もちろん彼は、踊るつもりなど微塵もない。

室内の燭台から伸びる微かな明かりは、外の木々を仄かに照らして揺れている。

まだ少しだけ冷たさを残した風が、アルコールの回った彼の火照った顔を程好く冷ましてくれた。


「……あら?先客がいらっしゃいましたのね」


その声に振り返ると、一人の女性が外に出てきたところだった。

同年代?……いや、少し上だろうか。

落ち着いた雰囲気と化粧のせいで良く分からないが、二十代といっても三十代といっても通じそうな容姿だった。

真紅のドレスに身を包み、艶やかに琥珀色の髪を結い上げている。

……思わず、しばし目を奪われるイセルだった。


「あ、ええ。すみません。とても夜風が気持ち良かったもので……」

「そうですの。……あ、本当」

「良かったらご一緒にワインでもいかがですか?この風にとても良く合いますよ」


みんなの前ではとても口に出せない台詞をサラリと話すイセル。

昔は、こうしてよく女性を口説いていたものだったな……。そういえばダンスだってしてたっけ……。

少し前のことを、何だか遠い昔のことのように思い出してしまう。


「ええ、そうさせてもらおうかしら。ちょっと頂いて来ますわね」

「どうぞご婦人レディ


透き通ったガラスを思わせる声を聞き流しながら、自然に出てしまうその言葉に若干の懐かしさを覚え、自分で笑ってしまう。

まああれはあれで嫌いではないが、今となっては、やはり今の暮らしの方が性に合っていると思う。

キョロキョロと辺りを見回し、こんな姿は絶対に奴らには見せれないなと思った。

……そう、特にあの暴走魔術師には特に……!


(『キザってのは気に障るって書くんだよ!』とか言って魔法でも飛ばしてきそうな……)


まさか、下とかにいたりしないよな……?

思わず身を乗り出してバルコニーの下を探ってしまうイセルだった。その時……。


「……むっ!この邪悪な波動は……!?」


 ―#%#%


瞬間、その殺気を感じ取ったイセルだったが、気付いた時にはもう遅かった。

体制を立て直すまでも無く、強烈な睡魔に襲われる。

そしてそのまま……。


「う、……うわぁっ!」


一瞬の浮遊感の間に、何とか手に持っていたグラスだけは離れた場所に放ることに成功した。

そのグラスが、甲高い派手な音を立てて割れると同時に、イセルの体も地面に到着した。


ドサッ、ガシャーン!


「……っ!!!」

「キャーッ!」

「だ、誰か落ちたぞー!」


一階の入り口付近にいた人々の間から悲鳴が上がる。

何とか、頭から地面に直撃することは避けたが、充分な受身を取れたわけでもない。

体をしこたま強打したイセルは、余りの痛みにその場から動けなかった。

そんなイセルの元に、すかさず駆け寄ってきた影がある。


「い、イセルさん大丈夫ですか!」

「フェ、フェッケンか……?」

「一体どうしたんです!?今、誰か呼んできますから!」

(い、いや……アンタが癒してくれよ……)


司祭であるフェッケンには、癒しの魔法が使えるはずなのだが、どうやらそれほどでもないと判断されたらしい。

ヘンな角度に首が曲がっているイセルを一人残して行ってしまった。

が、それ以外にはパッと見そんなに外傷があるわけでもなく、板金鎧を着ていたならともかく、儀式用の簡素な鎧しか身に付けていなかった彼にとっては、二階から落ちたぐらいで致命傷になるような柔な鍛え方はしていなかった。

しかし……。


「イセルさん!どうしたんですか!?」


フェッケンに呼ばれてきたであろうカシューナの真剣な顔を見ながら、イセルは体の違和感に気付く。


(あ……あれ……?打ち所……悪かったかな……?)


睡魔が残っているのもあるだろうが、どうやらそれだけでは無さそうだ。

目の前のカシューナの顔がぐにゃりと歪み、辺りに星がチカチカ点滅し始める。

やばい、これはやばいな……と思いつつ、カシューナに最後の伝言を残した。


「か、カシューナさん……。てき、敵襲……だ……ガクッ」

「「敵襲っ!?」」


その言葉に、イセルの言葉を聞いた二人ともが顔色を変える。

一瞬顔を見合わせて、呆気に取られた顔をするが、次の瞬間にはすぐにカシューナの口から号令が発せられていた。


「て、敵襲だーっ!であえであえーっ!」


その声に、一気に辺りは騒然となる。


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