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二階堂譲治の仮面舞踏会  作者: 安藤ナツ
アップテンションプリーズ

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5/10

〇〇五

 自らの勝利を確信した譲治は、その宣言と共に再び駆けだした。愚直としか言いようのないその直進は一度目の接近よりも思い切りが良く、並の人間であればその勢いに怯み、正常な判断を一瞬失うことだろう。

「かわせると思うか!」

 だが譲治の相手は並ではなかった。意表を突くもう突進チャージを見るや、フルフェイス越しにもわかる笑みを浮かべる。慌てず騒がず、冷静に譲治の足元へ向けてと鉄球を放った。原付バイクが如く疾走する譲治がそれを回避するのは難しく、仮に逃げ切ったとしても一〇秒後にやって来る瓦礫の礫を警戒しながら防御力の高いテンション(アテンション)上がって来たぜー!(プリーズ!)と肉弾戦するのは自殺行為にも等しい。

「『かわす』? 馬鹿言うな! 恋の仮面舞踏(マスカレード・ラヴ)!」

 しかし譲治は最も愚かな選択肢を選び、嗤った。隣を走る恋の仮面舞踏(マスカレード・ラヴ)が譲治を追い越して前に躍り出ると、その右手を堅く握り締め、砲弾と化した棘付きの鉄球を殴り飛ばしたのだ。

「らぁっ!!」

 鉄球の起こす衝撃は一〇秒後に遅れやって来る。逆を言えば、鉄球は触れた瞬間であれば何の威力も持っていない。幾ら重かろうが早かろうが、たった今、恋の仮面舞踏(マスカレード・ラヴ)の白い拳に衝突した時点では、この鉄球は何の影響も与える事ができない。

 ならば、殴り飛ばすことも当然可能だ。殆ど何の抵抗もなく、巨大な鉄球は拳に弾かれるままに真横に吹き飛んでいく。ジャラジャラと鎖が音を立てて遠ざかって行くのを横目に、譲治はニヤリと笑う。

「一〇!」

 後は、衝撃が起こる十秒以内に男の意識を奪えば良い。潜在意識(ポテンシャル)はその名の通り、その者の潜在意識だ。自己の意識で振るう、自分の奥底に眠る意識であり、大原則として意識のある人間が扱う現象である。気絶させてしまえばその存在も能力も維持することはできない。

「九!」

 残り八をカウントするまでに、テンション(アテンション)上がって来たぜー!(プリーズ!)を破壊し、バイクの男の意識を奪えば、右手に起こる破壊の衝撃はなかったことにできる。

「馬鹿が! 最も愚かな選択をしたな! 恋の仮面舞踏(マスカレード・ラヴ)の男!」

 が、それは生半な事ではないだろう。テンション(アテンション)上がって来たぜー!(プリーズ!)の頑丈さは既に先程の攻防で実証済みだ。八秒後に譲治の敗北が確定している以上、バイクの男も全力でその力を防御に回し、難易度は前回以上となるだろう。

「八!」

 先程よりも早くテンション(アテンション)上がって来たぜー!(プリーズ!)を射程距離に収めた譲治は間髪言わずに恋の仮面舞踏(マスカレード・ラヴ)を直行させる。

「七ッ!」

 カウントダウンと共に恋の仮面舞踏(マスカレード・ラヴ)が地面を蹴って接近し、象の騎士の左手を右手で払い飛ばし、そのまま胴体へと左手を叩き込む。不意を打った前回と違い、覚悟を決めたテンション(アテンション)上がって来たぜー!(プリーズ!)の身体は銅鑼のようなけたたましい音を鳴らすが、少しも後退はしなかった。

 だが譲治はそんな現実など知る物かと、直進を続けながら恋の仮面舞踏(マスカレード・ラヴ)の攻撃を更に苛烈に激しく燃え上がらせる。

「六ッ! 五ッ! 四ッ!」

 一撃一撃が鉄壁を凹ませる殴打の嵐。乗用車であれば容易くスクラップに変えてしまうであろう拳撃が、潜在意識(ポテンシャル)持ちにしか聞こえぬ無数の金属音を轟かせる。

「無駄だ! 俺のテンション(アテンション)上がって来たぜー!(プリーズ!)の鎧は砕けねーよ! 俺の攻撃でもない限りな!」

 が、恋の仮面舞踏(マスカレード・ラヴ)の猛攻は、テンション(アテンション)上がって来たぜー!(プリーズ!)にダメージを与えるまでには至らない。頑強な金属鎧をまとった象の騎士にとって、貴公子然とした恋の仮面舞踏(マスカレード・ラヴ)の攻撃など、多少鬱陶しい程度のものなのだろう。既に反撃する様子もなく、ただ耐えるだけで勝利することを確信しているようだった。

「三ッ! 二ッ!」

 むしろ、ダメージを受けているのは攻め続けている筈の譲治であった。薄い手袋をしているとは言え、殆ど素手で金属の鎧を殴り続けた恋の仮面舞踏(マスカレード・ラヴ)の両手にはかなりのダメージが返って来ており、管理者(フィクサー)へのダメージは持ち主へと変えると言う法則に従い、譲治の手の指の皮が裂け、ポタポタト血がアスファルトを汚している。

 勿論、テンション(アテンション)上がって来たぜー!(プリーズ!)の能力により、鉄球を弾き飛ばした時の衝撃が恋の仮面舞踏(マスカレード・ラヴ)に遅れてやってくれば、そのダメージも譲治がその身に受けることとなる。拳は弾け、腕は捥げ、全身の骨が砕け、脳味噌をシェイクされた死体が出来上がることだろう。

「一ッ!」

 そしてその瞬間が訪れる。

「残念だったな! 決着だ! 恋の仮面舞踏(マスカレード・ラヴ)の男!」

「ああ。俺の勝ちでこの舞踏会も幕だな」

 零。

 一〇秒経過。

 テンション(アテンション)上がって来たぜー!(プリーズ!)の起した衝撃が遅れて世界にやって来る。

 刹那。おぞましい爆音が寂れた住宅街に響いた。いや、攻撃音と表現するべきかもしれない。音が空気を揺らす物理現象だと改めて実感させるように、激しい金属音は突風となって吹き荒れる。近くの民家のガラス窓が割れ、野良犬や猫が悲鳴のように鳴き声を上げ、玲音は思わずその場にしゃがみ込んで頭を庇う。

「ばっ!?」

 その震源地となったテンション(アテンション)上がって来たぜー!(プリーズ!)の立派な鎧は派手に砕け散って半分以上が消失され、がらんどうの中身を晒しながら仰向けに引っ繰り返っている。制御を失った鉄球と鎖はでたらめな方へと跳ね跳び回る。

 管理者(フィクサー)へのダメージは持ち主へと変える。その法則に則って、バイクの男へも同様のダメージがフィードバックを起こしていた。男はバイクから優に五メートルは後方に吹き飛び、フルフェイスの中で激しい嘔吐と吐血を繰り返し、痛みと窒息から死にかけの蝉の様に手足を動かしてもがいている。

「ま、バイクをスクラップにするのは止めてやるよ。入院費だけでも大した負担だろう?」

 そんな敵だった物を見つめながら、譲治は血まみれの拳でアスファルトの上に落ちている恋の仮面舞踏(マスカレード・ラヴ)のボロボロになった手袋を拾い上げる。

 種は簡単だ。

 確かに恋の仮面舞踏(マスカレード・ラヴ)は破壊の鉄球の攻撃を右手――正確には『右手の手袋』で受けた。で、あるのならば、一〇秒後に衝撃が襲うのは『右手』ではなく、『右手の手袋』となるのが当然。手袋さえしていなければ、右手に衝撃が来ることはない。

 この防御方法は能力に気が付くと同時に閃いた。だが、譲治が気付く弱点を持ち主が気付かぬわけがない。衣類を脱いで衝撃をやり過ごすのは、恐らく相手が最も警戒する防御方法だろう。

 だから、敢えて譲治はスーツのジャケットを脱ぎ棄て、ネクタイを外し、その弱点に気が付かない振りをした。相手の警戒心を緩める効果があったかは確認の方法は無いが、こう言った細かい所が案外作戦の成功率を左右する物だと譲治は経験から知っていた。

 後は鉄球を手袋をはめた右手で迎撃し、わざとらしくカウントを口にして一〇秒以内に倒すと言う作戦を相手に印象付ける。恋の仮面舞踏(マスカレード・ラヴ)の攻撃がまったく通じなかったのはプライドを若干傷つけはしたが、相手の油断を完全に誘うには効果的だった。攻撃も防御も止め、バイクの男はただ一〇秒が過ぎる事に戦いの趨勢を任せた。

 そんな男の隙を突き、譲治は一〇秒手前で手袋を外し、象の騎士へと投げつける。目にも留らぬ破壊の鉄球を正面から受け止めた手袋の持つエネルギーは、テンション(アテンション)上がって来たぜー!(プリーズ!)の鎧を破壊するのに見事に成功。相手が口にした通り、分厚い鎧を突き破るには、相手の攻撃力が必要だったと言うわけだ。

「周防さん! 今の内に距離を稼ぐぞ!」

 殺すのも不要な禍根を産むだけなので、ヘルメットを外してゲロが詰まって窒息と言う可能性だけを排除した後、譲治はママチャリの傍で困惑した表情を浮かべる玲音に近づいていく。

「え? あ、あの? 終わったんですか!」

「ああ。ちょろいもんさ」

 不安げな玲音に譲治は笑みを返す。獰猛なシェパードの顔を可愛いと言える人間ならば、譲治の笑顔もそう評するかもしれない。勿論、その両手が血塗れでなければ、だろうが。

「その手! 大丈夫なんですか?」

 自転車を引きながら小走りに歩み寄って来る玲音の視線は、その両手に釘付けのようで、まるで自分の痛みの様に顔を歪め、泣きそうな表情をしている。

「ま、動かないことはない」

 ぐーぱーと手を結んで開いて繰り返し、譲治は自分に言い聞かせるように首を縦に振る。拳として使うには問題ないが、箸を持つのは少し難しいかもしれない。潜在意識(ポテンシャル)持ちは常人よりも遥かに怪我の治りが早いので、二日も辛抱すれば治る程度ではある。

「私のせいで、ごめんなさい」

「……子供は大人に守られるもんさ。気にすんな」

「でも!」

「じゃあ、周防さんのお父さんに俺の事をいっぱいアピールしておいてくれ。実は、転職を考えていてな。良い仕事があったら、是非この二階堂譲治にってな」

 無駄に『転職』と今も働いている様な見栄を張り、譲治は脱ぎ捨てたジャケットを拾ってママチャリの前かごに突っ込む。

「さ。急ごうぜ」

「運転、大丈夫ですか? 代わりますよ?」

「平気さ。君に任せる方が不安だ」

 長い足を上げて譲治は自転車に跨り、玲音はその後ろに控えめに腰を下ろして大きな背中に抱きつく。

「って、はぁ」

 さあ、いざ行かんとペダルに足を乗せた譲治が、鼓膜を揺らす振動に呆れた様に溜息を吐いて振り返る。

「引き際を知らない連中だ」

 それに釣られて玲音も視線を後ろへと向け、「ひっ!」と悲鳴を上げる。視界に映るは、舗装が古くなって来た道路を走るブラックカラーのハイエース。譲治と玲音の出会いを生んだ、誘拐犯達が乗るハイエースであった。

 玲音の悲鳴はその車体その物に対する忌避感もあったが、それ以上にその速度だ。法定速度四〇キロの道を、どう考えても一〇〇キロを超えるであろう時速で突っ込んで来ている。そのスピードに躊躇はなく、自転車に乗る二人を跳ね飛ばす気が嫌でも感じ取ることができた。

「ジョージさん!? アレも超能力でボーン! って出来るんですよね!?」

 到底逃げ切れる速度ではないと玲音の目でも明らかで、縋る様に譲治の身体を彼女が揺する。

「いや、流石にアレは止められんな。そこまで、万能じゃあない」

「え?」

「が、大丈夫さ。安心しな。俺が許すのは一度まで。仏じゃあないからな」

 ぱちん。と、台詞の終わりに合わせてジョージが指を鳴らす。

「俺の仮面舞踏会はまだ、終わっちゃあいないってね」

 瞬間、まるで運転手が急ハンドルを切ったかのようにハイエースはその進路を変えた。車体は縁石を強引に乗り越えて歩道に乗り上げると、そのまま住宅の壁へと激突する。けたたましい破壊音が響き、鈍重そうなハイエースが玩具の様に跳ね、バランスを崩して転がる。

「事故った? ジョージさんの能力?」

「さあ? でも、女の子を誘拐する様な奴だ。不運が起きても仕方がないさ」







【RESULT】

 二階堂譲治――潜在意識(ポテンシャル):恋の仮面舞踏(マスカレード・ラヴ)

           無職。完全勝利。ただし、面接には遅刻。家庭内ヒエラルキーが更に低下。

 松田大樹 ――潜在意識(ポテンシャル)テンション(アテンション)上がって来たぜー!(プリーズ!)

           殺し屋。《破壊獣》。完全敗北。全治三週間。

 北上さやか――潜在意識(ポテンシャル)その風に乗ってファインドユアウィンド

           女私立探偵。青い蝶の監視者。二階堂譲治マスクスの噂を思い出し、撤退。

 伊集院一馬

 天ケ瀬林太郎

 御手洗秀正

 黒井健史 ――誘拐犯達。再起可能。今後も裏の人間にこき使われるだろう。


 周防玲音 ――学生。無傷で帰宅。その後、父親にボディーガードが欲しいとねだる。

           どうやら、雇いたい人物がいるようだ。




 To Be Continued?


長々とお付き合いありがとうございました。


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