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初仕事

「木下、早速お前にチャンスをやる。 打ち切り漫画の担当を任せるから、残りの連載で評価5を取れ」


突然、車内でチーフが提案を持ち掛けてきた。

この雑誌には評価システムと言って、ネットから漫画の評価をつけることができるらしい。

この評価も打ち切るかどうかの審査基準となるらしく、仮に人気がなくても評価が高ければ日の目を見ることもあるそうだ。


「会社に戻ったら過去の連載を全部読んどけ。 住所を教えるから、明日作家のところに行って一緒に内容を考えろ。 期日は5日だ」


「ちょ、待ってください。 暗水さんは? 先輩を差し置いていてできませんよ」


暗水さんは確か連載を担当してないと言っていた。

俺がでしゃばったらイザコザにならないだろうか?

すると、チーフはふうっとため息を吐いた。


「あいつは…… 作家とコミュニケーションが取れない。 まあ、なんつーか、腹黒いんだよ」


「……要するに、どういうことですか?」


俺はさらに突っ込んで聞いてみた。

まだ暗水さんのことは分からないし、知っておきたかった。


「人間関係で行き詰って仕事ができないタイプなんだよ。 作家の漫画と向き合わないで、作家自身に目が行っちまうんだ。 あの作家があんなことを言っていただとか、こんなことを言われてムカついただとかな。 早い話が陰口ばっか叩いてるのさ。 そのせいでいつまでたっても仕事を覚えない」


「……そうなんですか」


「人気が落ちたら作家のせいにする。 分かるだろ? そんな奴には任せられんよ」


俺は少し複雑な気持ちになった。

それじゃ、もし俺が連載を担当することになったら余計陰で言われてしまいそうな気がしたからだ。





会社に帰って来たのは夕方の6時だ。

そこから俺は会社に置いてある過去の雑誌を借りて読むことにした。

俺が担当する漫画のタイトルは「カンフー中華街」だ。


この漫画は中華街で働く3人の兄弟の物語だが、すでに打ち切りが決定している。

俺は内容を読み進めた。

オーナーと3人の兄弟が四苦八苦して料理店を経営している様が書かれている。

しかし、それで人気が取れなかったのか、途中で気功を持ち出して兄弟の修行パートが描かれている。

強敵も現れていよいよバトルか?

と思われたが、中々カンフーが出てこない。

あれ? と思って読み進めると、なぜかショベルカーが出てきてそれで敵をなぎ倒していく。

気功は? カンフーは? そんな疑問が頭をよぎった。


「あの、チーフ。 この漫画、なんでカンフー出てこないんですか?」


「ああ、やつはバトルシーンが書けなかったんだよ」


「えっ」


じゃあ何でこんなタイトルにしたのか……

そして話は4つの門なるものが出てきて、その門の守護者が全員出てきたところで次週に続くとなっていた。

この回の内容の評価は1だったらしい。

そこから3週使って最高の5まで引き上げなければならないのか……


俺は帰宅中の電車の中でもこの漫画がどうすれば評価が取れるのかを考えた。

行き着いた結論はひとつ。

登場キャラにカンフーをさせること。






翌日も8時ちょい前に出社してきた。


「おはようござ……」


……あぶね、昨日みたいに幽霊に挨拶するとこだった。

誰も来てねっつの。

俺はカンフー中華街の作者、青さんのもとに電話を入れた。


「新しく担当になった木下です。 今日9時頃そちらに伺いますので、よろしくお願いしますっ」


アポは取れた。

あとは作者と対面して、いよいよ打ち合わせだ。

この後すぐ来た黒木さんに行き先を伝えて、会社を飛び出した。






「ここか」


木造のボロいアパート。

都心から離れてるし、駅からも遠いい。

多分、かなり安いんだろうと思われる。

階段を上り、202号室のベルを鳴らした。

少しして扉が開き、男が顔を出した。


「初めまして! 担当になりました木下です! 今日はよろしくお願いしますっ!」


「うお、体育会系だ…… ど、どうぞ」


中から出てきたのは俺と同い年くらい? のいかにも漫画家って感じの人だった。

部屋の中は1Kの6畳半。

漫画を描くのに使われる道具と資料で埋まっている。


「あ、あの…… リバースの新人さん?」


「はい! 実は昨日が入社日でして」


「えっ、だ、大丈夫?」


「大丈夫かと聞かれたら、自信はないですけど……」


沈黙。

こっからどーすりゃいいんだ……

そしたら、向こうが気を使って話しかけてきてくれた。


「な、内容、どうしましょう? ネーム見ます?」


「あ、そうですねっ!」


俺は初めてネームを読んだ。

そして、やはりカンフーシーンは書かれていなかった。


「カンフーシーン、ないですね」


「……か、書けないんです。 暴力とかそういうの苦手で」


「映画の格闘シーンとか見て書けないんですか?」


「……じ、実際やってみないと、書けないタイプなんです」


俺はしばらく考え、すっくと立ちあがった。

上着を脱ぐ。


「青さんも立って、俺と勝負しましょう」


「……えっ」


無理やり青さんを立たせ、俺は軽くジャブを見舞った。

だが、軽く拳が触れただけだったのに、青さんは思いっきり部屋で転倒した。


ドサアアッ……


そして思いっきりテーブルに頭を打ち付け、血が流れた。

や、やべ……










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