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新しい職場

俺は慌ててスマホに出た。


「は、はい、木下です!」


「大地出版の森田です。 先日の面接の件なんですが、申し訳ないのですが今回は不採用ということでメールいたしました」


その報告か。

やっぱり結果は変わらないよな……


「ですが、木下さんが漫画の編集をやりたい、ということで、私の方から別な会社を紹介することはできます。 面接で木下さんが言ったことに偽りがなければ、是非やってみてはいかがでしょうか? 紹介する会社は我々の子会社なのですが、漫画の編集に特化した業務を行っています」


「……!」


あの時俺は、給料や祝日なんていらない、とにかく漫画の編集がやりたいんだ! 的なことを言った。

その気持ちに偽りはない。

しかし、まさかブラックな会社じゃないよな?


「この紹介を受けるなら、今日中に返事をください。 採用枠は一つですので」


マジかよ……

でもどんなに考えても、結局はこの考えに帰結するだろう。

編集の仕事にトライしてみたい、と。


「……その紹介、受けます」


結局、俺は即答した。






それからはトントン拍子に事が進んだ。

紹介してもらった会社の規模は小さく、オフィスビルの一室を借りて業務を行っていた。

会社名は「リバース」

社員数はほんの4人。

一人は事務員で、後はチーフと下っ端の社員2人だけ。

面接はすぐに終わり、その翌日には直接採用の連絡が入った。


今の会社に退職届を出し、それが受理された為、来月から晴れてリバースで働くことになる。

同僚が俺のために送別会を開いてくれた。

送別会では、お前は馬鹿だ、とか色々言われたが、まあ自分でも自覚していたことだし、今更外野に言われて心変わりすることはなかった。


出勤初日。

俺はスーツに身を包み、今日から通う会社の前に立っていた。


「っしゃ! 気合い入れてくぜ」


会社はオフィスビルの3階だ。

俺は期待に胸を膨らませ、前向きな気持ちでいた。


3階に到着すると、扉を開けて挨拶した。


「おはようございます! 今日からこちらで働くことになった木下要です! よろしくお願いします!」


が、俺は先走ったらしい。

まだ誰もいなかった。

時刻はちょうど8時を回ったところだ。


「……定時は8時だよな?」


すると、後ろからエレベーターの音がした。


「あ、木下さん?」


「は、はい!」


中から出てきたのは事務員の黒木さん。

年は40歳。


「みんな時間にルーズなのよね。 もう少しで来ると思うから待ってて!」


そう言われ、俺は一番端のデスクに案内され、他のみんなを待つことになった。

次に現れたのは五十嵐さん。

この人は気さくな感じで性格も合いそうだ。

年は30歳。


10分遅れて暗水さん。

ちょっと失礼だけど、根暗な感じの人だ。

伏し目がちで何を言ってるのかよく聞き取れなかった。

年は35歳。


最後に30分遅れてチーフの泉さん。

年は40歳。


「おう、なんつったっけ、木下か。 とりあえずコーヒーとパン買ってこい」


「了解っす!」


「いいのよ木下君。 チーフ、自分で買って来なさい」


黒木さんが止めてくれたが、ダイジョブです、買ってきます! と言ってコンビニに向かった。

パシリに使われるのは久々だ。

部活の時以来かも知れない。

ああいう感じの先輩は前の印刷工場にはいなかった。


「買ってきました!」


俺はサンドイッチとコーヒーをチーフに手渡した。


「おう、サンキューな。 いくらだった?」


「420円です」


「ほら」


俺は500円を手渡され、釣りはいらないと言われた。


「暗水、みたか? お前より使えるやつが入ってきちまったな」


「……」


暗水さんはチーフをシカトしてパソコンを打っている。


「あいつ、まだ一個も編集かけもってねえんだ。 あいつならすぐ追い越せるから頑張れよ」


「……頑張ります」


ちょっと気まずい感じになってしまった。

その言い方はちょっとないよな、と思いつつも、椅子に座った。


「木下、お前運転できるか?」


それからすぐにチーフに呼ばれ、連載している作家のところまで運転しろ、と言われた。


「分かりました!」


この会社が手掛けている週刊漫画雑誌「ドラゴン」は9つの連載漫画を掲載している。


その内の7つをチーフが担当している。

残り2つは五十嵐さんが担当。

暗水さんはまだひとつも担当できていない。


今から向かうのは、「泣き虫とドラゴン」を連載している作家のところらしい。

アパートの前に到着すると、ここで待ってろと言われた。


「あの、ついてったらダメですか? どんな打ち合わせするのか見てみたいんですけど」


「お前は待っとけ。 駐禁切られたら面倒だからな」


「……分かりました」


そう言われて、仕方なく車の中で待つことになってしまった。

1時間後、チーフが戻って来た。


「っし、じゃ次は別な作家んところだ」


「結構早かったですね」


「ああ、内容を伝えてきただけだからな」


内容を伝えただけ?


「打ち合わせ…… じゃないんですか?」


「わざわざそんなことしねーよ。 俺が考えた内容を伝えただけだ。 連中はそれをただ書くだけ」


予想だにしていない回答だった。

まさか、内容は全部この人が考えているのか?


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