面接
アパートに帰宅後、スーツ姿のままで早速パソコンを起動した。
帰りながらスマホで求人をチェックしていたが、やっぱりパソコンで見た方が楽だ。
サイトの求人募集の項目をクリックし、クリエイティブ関連を選択。
そこから更に出版、印刷関連の項目を開く。
勤務先を都内近郊に絞って検索をかけると、64件ヒットした。
「こうやって見てるだけでも結構面白いな」
俺はそうつぶやいて画面をスクロールしていく。
広告の編集、デザイン、企画など、色々な内容の仕事が次から次へと出てくる。
中でも、ファッション関連の雑誌の編集を募集しているところが多い。
まあ、俺はあまり興味もないし、これらのほとんどが女性の職場だと思われる。
出産や結婚などといった理由で辞めていく人が多いんだろう。
俺がやってみたいのは小説とか、漫画の編集だ。
作者とあーでもない、こーでもないって話し合いながら、より面白い作品を作っていきたい。
そうなってくると、編集は編集でも、コピーライターとはまた違う。
俺にはライティングのキャリアもないし、文章を書くセンスなんてない。
「募集してるのはほとんど専門雑誌のライターだな」
中々思った求人が出てこない中で、だんだん集中力が切れ、適当にリンク先を開いていたら気になるページに飛んだ。
「ん? 出版業界専門求人サイト?」
それは、リク○ビとはまた違った求人サイトだが、こちらは出版業界に限定した所らしい。
見てみると、こちらの方が○○書房や、○○出版、と名前の付いた会社が多い。
リク○ビのに乗っているような中小企業とは違って歴史もありそうだ。
選考は厳しいかもしれないが、入ってしまったら使い捨てにされることは少ないだろう。
俺は勝手にそう思って、仕事の内容を確認した。
すると、気になる一文が目に付いた。
「自身で企画を立ち上げ、著者と連絡をとり交渉、執筆のアドバイスや取材を行う仕事……」
まさにこれだ!
俺が探している仕事とドンピシャの内容だ。
中途採用で若干名とある。
俺はその日の内にサイトからエントリーして、必要項目を埋めていった。
応募から一か月後、面接の通知があった。
サイトの専用アカウントのメールボックスにその知らせが入っていた。
「今週の土曜、か」
面接なんて6年ぶりだ。
まさか俺が転職するなんて……
しかも編集部に……
まだ受かったと決まったわけではなかったが、気持ちは完全にそっちに流れていた。
俺は編集をやるんだ!
都内近郊の本社に向かう。
俺が募集した「大地出版」は出版業界では中規模ではあるが、自社ビルも持っている。
社員数は100名程度で、創業は80年。
自社で出版している本や雑誌のジャンルは多岐にわたり、漫画の雑誌も出している。
俺は深呼吸して、本社のエントランスに入っていった。
面接会場の案内の看板を頼りに、2階に向かった。
待合室に入ると、そこにはすでに書類選考を通った数名が待機していた。
(くっそ、緊張してきやがった。 しかも、みんなすげえ優秀そうじゃねえか)
俺はカクカクした動きで後ろの席に着席した。
俺の面接は10時スタートの予定になっていた。
あと15分で始まる。
頭の中で志望動機を復唱して、万全を期す。
時刻が迫るにつれ、心臓が早鐘をうちやがる。
(この時間が一番嫌なんだよな……)
俺は昔を思い出していた。
あの時も、今と全く同じ心境だった。
しかし、逆に安心もした。
この気持ちが無くなったら、多分負ける。
こんな緊張には負けねえ、絶対に面接に勝ってやる!
そういう気持ちが沸き上がって来るからだ。
「木下要さん、どうぞ」
担当が俺の名前を呼んだ。
「は、はいっ!」
くっそ、やるしかねえ!
俺は拳を握りしめて、面接の会場に足を踏み入れた。
「失礼します!」
面接は3対1。
こっちが1で、向こうが3だ。
俺から見て、一番右のやつが質問してきた。
「あなたがうちの会社でやりたいことを聞かせてください」
質問の内容はベタだ。
落ち着いて答えればいい。
「はいっ! 私は小説、漫画の編集に携わりたいと思い、貴社の採用に応募しました」
「では、ここでその仕事をするにあたって、今後どういう風にステップアップすればいいのか、自分で分かってなければなりません。 会社に入ってからのビジョンをお聞かせください」
ビジョンか……
確かに、何となくで入って向いてないってなったら意味がない。
俺はしばらく考えた。
「少し、時間をください」
焦らなくていい。
ここは真剣に考えて答えを出す。
1分間、目をつぶって集中し考えをまとめた。
そして、口を開いた。
「……私は、6年間印刷工場で働いてきました。 正直、このまま働いてたら両親も喜んでくれてたと思います。 でも! くそつまんないんっすよ! 俺はもっと冒険したいんです! 給料も休みも、そんなにいりません。 ビジョンはまだ見えていませんが、やりたいことのためなら全力を尽くします!」
「……ぷっ」
あ、あれ?
何か苦笑されているような……
そして、予感は的中した。
「……くっそおおおおおっ」
不採用である。
俺はその通知をメールで読んで、パソコンをブン投げようとした。
「バカヤローっ」
その時、スマホの携帯が鳴った。