本当にやりたいこと
主人公、木下要 27歳。
大学を卒業後、大手印刷メーカーに就職。
現在印刷工場で働いている。
俺の仕事は主に、バイトや印刷オペレーターに指示を出すことだ。
今日中に印刷しないといけない資料が会社からデータで送られて来たら、それをオペに持って行って何部刷ってほしいとか、そういうことを頼む。
俺のもとに送られてくる資料類は、うちの会社の制作部で最終の仕上げが済んだ状態だから、文字の大きさとか、どんな文字を使うのか、写真のレイアウト、バランスが合ってるか、なんてとこには口を出せない。
とにかく、この資料を納期までに何部刷ってくれって指示だけ出しておけば終わりの楽勝な仕事だ。
印刷ミスのチェックとか、コピー機が焼き付いた時の処理みたいな面倒な仕事はバイトとオペがやってくれる。
俺はこの仕事を6年続けている。
同期もそろそろ昇進とか、そういうことを考え始めている中で、俺は違うことを考えていた。
「俺がやりたかったことはこれか?」
はっきり言って、給料や福利厚生には何の不満もない。
月々手取り25万。
週休二日の祭日休み。
電子書籍などの普及で、印刷業界そのものの業績の推移減少はあるが、うちの会社がつぶれることは絶対にないと思う。
だから、ここに残っていれば将来安泰。
でも!
何かが違う。
俺はこのままここで一生を終えるのか?
そんなうやむやな気持ちがずっと、1年以上も続いていた。
そんなある日。
俺は昼休憩に、食堂でいつものように週刊誌を読みながら飯を食っていた。
週刊誌と言っても、主に漫画関係の雑誌しか読まないが。
今日は月曜なので、少年ジャ○プの日である。
カレーを食いながら読んでいると、同僚の骨竹がやって来た。
年は俺と同じで27。
ただし、契約社員。
「よっ、かなめ。 今何読んでんの?」
「とうとうビッグマムが出てきたぜ」
骨竹がチラっと俺の読んでる漫画を覗いてきた。
「ワンピか。 ビックマムってどんなんだっけ? 俺アーロンが出てきたとこで止まってんだわ」
こいつ、全然読んでねーな。
せめて戦争編までは読んどけよ。
「でも読者が見たいのはここじゃねえんだよな。 シャンクスを出せっての。 俺が編集だったらそう作者に言うね」
「編集だったらな。 お前は一読者にすぎねーんだから、出版社様の出した本をありがたく読んでおけばいいんじゃねーの?」
「……」
そうだ、本当は出版社の編集部で働きたかったんだ。
漫画を作者と一緒に考えて、面白いものを仕上げる。
その喜びを味わいたかった。
この会社に入る前は、大手の出版社を何個か受けた。
しかし全滅。
中小の出版社を受けようとも思ったが、結局ここに内定が決まったため、編集部で働くことは諦めた。
俺は、本当は編集に行きたかったんだ。
「ここ辞めて編集部で働くわ」
「……寝言は寝て言えっての。 こんな安定した会社ねーって。 あと早くカレー食えよ」
確かに、骨竹の言う通りこんないい会社はない。
多分、辞めたら後悔するって辞める前からでも分かる。
それでもやってみたかった。
俺は、パソコンのリク○ビネクストを使ってその日から転職活動に乗り出した。
頑張りまっす!