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創造主な僕たちは華麗な日々しか創れない  作者: 黄昏月ナツメ
一学期:僕たちはまだ夢の中で。
9/36

Truth is stranger than fiction.③

「――以上、二百七十二名」


 卒業式はどこか遠くで行われているような、実感を持てないようなものだった。

 級友たちが今生の別れになるかもしれない友を想って涙する中であたしはひたすらに、今後の生活への不安と戦っていた。

 祝電が読み上げられる。聞き覚えのある名前もあれば、全く心当たりのない名前まであって、でも内容はどれも似たり寄ったりだった。あたしたちの卒業を祝ってから今までの思い出を語り、最後にこれからいかに生きて行けばよいのかと諭すものばかりだ。それも終われば、大人の話が始まって、義務的に立礼を返したり、恐らく一週間程度で忘れてしまうであろうありがたい教訓を聞き流しているときもそれは同じで、膝の上にある卒業証書はそんなあたしの不安を煽るのには十分だった。

 あたしは、今日、何から卒業するのだろうか。

 勿論、形式的には中学校から卒業するのであろう。九年間の義務教育からようやく解放されて、あたしは、来月から女子高生として生きていく。これから何十年と生きていく上でのただのイベントだ。

 でもそれだけではないのだろう。ちらと横の方を伺うと退屈なのか、それとも泣いているのか。頭を抱えている東雲結城が映った。

 ある意味では、あたしはあの相方から卒業なのかもしれない。

 彼とは今生の別れ、とは決してならないだろう。憶測でしかないが、これから先も、あたしの中に呪祖の力がある限りは、このパートナー関係は解消されない。だからまた、こまめに連絡を取り合いながら一緒に呪祖退治をするに決まっているんだ。

 でも、もう同じ学校には通わない。自分の受験した高校名を一向に言おうとしない相方にあたしは密かにそんなことを考えていた。だからもう、あのエール霧雨学園で魔女としてあたしがもっとも頼るべき人はもういないのだ。

 彼が居なくても生きて行けるのだろうか。そんなことはそれこそやってみなければ分からない。

 思えば、中学三年間、なんだかんだで常に彼は隣にいた。入学したばかりのあの日、無理にあたしの視界へ踏み込んできたあいつはそのままあたしを踏み倒す勢いでずっと隣にいた。

 めちゃくちゃだった。そもそも基本的理念が彼とあたしでは違い過ぎたのだ。人を助けることを願う彼と自分のために戦っているあたしとでは。

 利他と利己。本来ならばぶつかり合わなければいけなかったのに利己にすら働いてしまう結城の持つ無条件の利他のおかげでそんなことも滅多に起こらなかった。勿論あたしが魔女になった事件は除いてだ。

 呪祖を倒し、共に歩み。楽しくなかったと言えば嘘になる。

 三年間、実に非凡で、うんざりするほど愛おしい。退屈で、平凡で、色のないような枯淡な毎日をただ怠惰的に過ごすよりそれはずっとよかったことであろう。

「ありがとう」

 そんな言葉が口から出ないわけはない。

 あたしは彼に改めて感謝しなければならないだろう。怒鳴りつけて、言ってやりたい文句も山ほどあるものの、それでも彼が与えてくれたものは大きい。

 そしてそれに甘えていられないことも分かっている。

 今生の別れ。ああ、いっそそうなってしまえばいいのにと思ってしまうのが悲しいものだ。違う道を歩む彼を果たしてあたしは純粋に応援できるのであろうか?




 後輩たちがアーチを作って見送ってくれる。そこまでしなくても、とは思うものの祝われて嫌な気分はしない。

 校門へと続く道へと並ぶ後輩たちを見ながらいよいよここには自分の居場所はなくなるのだとやっと少しばかりの実感が湧いた。

「クソガキ」

 最後の花道へ足を踏み込もうとしたあたしを引き留めたのは学年主任の声だった。

 袴姿の朝霧はそれこそ神様の使いと言われて理由もなく納得してしまいそうなほどに様になっていた。どうせこの人の真の職場である神社はこの周辺にあるんだから嫌でも会うだろうが頻度は減るだろう。こんな教師でも少しだけ寂しさを覚えつつ首を傾げる。

「なんですか?」

「ご苦労だった」

 彼女にしては気味が悪いほど素直な言葉を放ってからその手がぽん、と頭の上に乗せられた。

 実に当たり前のように行われたその動作に動揺してつい動きが止まる。

「朝霧先生……?」

「……お前は、実によくできた腐った蜜柑だったよ」

「それは褒められてますか貶されてますか」

 最後まで失礼なことを言う人だ。

 内心むっとしていると彼女はあたしの上に置いたままの手でわしゃわしゃ撫でつけつつ「私は、蜜柑は腐ってるくらいの方がうまいと思ってる」

「はぁ」

「少しくらいは綺麗な蜜柑を毒してやるといい」

 言葉の意味は嫌でも分かる。

 さあ、とあたしは彼女に笑いかける。

「それは難しいですよ」

「今すぐにやれとは言ってないさ。ゆっくりゆっくり、二人で朽ち果ててしまえ。そうしたらあとは私がたらふく食ってやろう」

「おおこわ」

 けらけら笑いながら「教師がそんなこと言っていいんですか?」わずかに潤んだ目をこちらに向けながら彼女は最後の最後で、またくくくと噛み殺した、あの特徴的な笑い声をあげてみせた。

「最後だからな。狛犬朝霧としての言葉をくれてやったまでだ」

「餞別にしちゃ高い贈り物ですわよ朝霧先生」

「なに、可愛い生徒に対してなら安いものだ」

 吹奏楽部の演奏が急かすように大きく聞こえてくる。

 やっとあたしの頭を撫でるのをやめると彼女は頭からどかした手でそっとあたしを抱き締めた。

「就職先に困ったらうちの社に来るといい。雑用くらいならさせてやる」

「まぁ、安泰ですわ」

 そんなことを言うあたしを手放した彼女はこちらの背中をぽんと押して「ほら、行け。もう二度と帰ってくるな」と言い放った。

 言われなくてもだ。「ありがとうございました」ただ純粋に、それだけの礼を述べて、あたしはやっと外へ出た。

 ボロボロと泣き崩れる副担任の姿が見える。卒業式だ、みんないなくなっちゃうんだ。そんな言葉を繰り返しながら目からこぼれ落ちる涙を一生懸命拭っていた。横でもらい泣きする生徒も数名である。大惨事だ。

 その光景を横目に、やっと歩き出したあたしの手を見知らぬ後輩の波の中から誰かが掴んだ。「せんぱい!」舌足らずな女子の声に顔をしかめた。部活の後輩だった。

「あら、どうしたの?」

「だ、第二! ブレザーの第二ボタンください!」

 まさか女子から要求が来るとも思わず、一瞬面食らってから「はいはい」とブレザーのボタンを外す。

 きらきらと輝く目であたしの手元を見つめる彼女の手に、そっとそれを握らせる。

「はい。これでいい?」

「あ、ありがとうございます……! この間クリーニング出したらブレザーのボタンなくしたから助かります……!」

「なんだそんな理由か」

 がっくり肩を落としながらその手を握って「頑張ってね」

「はい!」

 うん、なんだか凄く先輩っぽいことした気がする。

 何度も何度も頷く彼女の頭を少しだけ撫でてからその場から離れる。後ろから「せんぱぁいかぁむばぁあく!」とか聞こえるがあたしのことじゃないだろう。うん。


 そんなこんなで人の波を抜け、校門を抜け、改めて来た道を振り返った。

 さっきまでいたはずの古ぼけた校舎はすでになんだか懐かしい。もうここに戻ってくることはないのだと思うと何とも言えない気持ちになる。

 三年ほど前、この門をはじめてくぐった日が懐かしい。膨らみかけた蕾を見て、記憶に浸っているとその余韻をぶち壊すように明るい声が響いてがっと突然重量が襲ってきた。バランスを崩しながらなんとか立っていると相方がなぜかあたしを抱き締めている最中だった。

「何してんのよあんた」

「いやなんか今日で中学生活も終わりだと思うと寂しくて寂しくて……」

「大げさね、今生の別れでもあるまいに」

 ぽんぽんとその腕を叩いてやると「あ、そうだ、お嬢、第二ボタンくれよ」

「もう売り切れよ」

「なん……だと……」

「ざまぁ」

 笑いながら「あんた、学校どこ行くんだっけ」とようやく、その問いが口から出た。

 迂闊だった。ああ、迂闊だった。あたしはもっと疑っていなければならなかったのだ。

「……知りたい?」

「何よその言い方」

 顔をしかめているとぱっとあたしから離れた東雲結城はあっさりと、その学校の名を告げる。


「エール霧雨学園」


 硬直するあたしを置いて両手を広げた彼は「改めて」と前置きしてから告げるのだ。

「どうも推薦特待生の東雲結城でぇす。仲良くしようぜ、指定特待生!」

「……は?」

 口からこぼれた感想はそれだけだった。

 一秒、二秒、三秒と。寂しがる卒業生や親の声を聞きながら硬直して、やがて「はぁ!?」と声を荒げる。

「え、なん、エール、あ、特待生……!? 推薦……!?」

「落ち着けって」

「落ち着けるか馬鹿!」

 ぐいっと学ランの襟を掴み上げながら「どういうことよ!?」と詰め寄る。

「じゃあ、何、同じ日に受けてたのって」

「そりゃ同じだろ。俺、推薦入試受けてたから」

「あんた、一言も」

「だって言っといて落ちたら恥ずかしいし」

「特待生って」

「実技ぶっちぎり一位」

「こ、この腐った蜜柑め!」

「なんでだよ!?」

 あたしの穏やかな別れの独白を返せ。ただの茶番じゃないか。

 いや、それどころか、そもそも全部が茶番だった。東雲結城の力なしで生きて行こうという決意も何もかも。

 いつも通り過ぎて怒りを通しこしてもはや呆れかえってしまった。頭を抱えながらその場にしゃがみ込むと「あ、そうだ、まだ言ってなかった」と結城がいつもの笑顔を浮かべる。

「合格おめでとう、お嬢」

 ……おっせぇよ電波。




 ■□■




 わあ、と母親の声が聞こえた。

「制服めちゃくちゃ可愛い!」

「そうかな?」

 真新しい深緑のワンピースに袖を通したあたしを見てきゃっきゃっとはしゃぐ母に苦笑する。皺ひとつないワンピースの長い裾がひらひらと宙に舞う。

 話には聞いていたものの珍しいタイプの制服だった。まだ箱から出したばかりであの独特の匂いが鼻腔をくすぶる。

 まだ見ぬ高校生活への希望と不安で胸が躍る。そんなあたしを見ながら母は「そっかぁ」とどこか感慨深そうに告げた。

「にゃんちゃんもJKかぁ。マジで? とやばーいとうけるぅを多用するお年頃になっちゃうんだね……」

「それは個人差があると思うわ」

 というかJKって。

 呆れながらも髪に手を当てて「ありがとね」ん? 母が不思議そうに首を傾げた。

「今まで養って頂きありがとうございました」

「……いえいえこちらこそ」

 ぺこっと頭を下げ合っていると「あーにゃんちゃんに一つ謝らないといけないんだ」

「何?」

「えっとね」

 母はおろおろと視線を泳がせてからやがて申し訳なさそうに、「パパからね、手紙が来てて」顔が歪むのが自分でもよく分かった。

「うん」

「だけど白ヤギさんが読まずに食べちゃって」

「ママ」

「……ごめんなさい思わず破り捨てました」

「素直でよろしい」

 溜め息を吐きながら髪を振り払い「いいわ。そんなの些末よ」

 今さらどうとも思わない。というよりは、それより衝撃的なことが身に降りかかりすぎてしまった。それだけだろう。

「些末かな」

「ええ。とっても。どうでもいいわ。あんなの」

「ところで些末ってなぁに?」

 一瞬脱力しながら「あのね」と振り返ると軽やかにチャイムが鳴り響いて来客を告げた。

 はぁーい! と母がぱたぱた廊下を走って行ってしまった。落ち着かない母親を持ってしまったものだと呆れつつ時計を確認する。そろそろ時間だ。

 ソファの下で転がっていた新しいスクバを拾い上げ、担ぐと「にゃーんちゃーん! 東雲くんきたー!」慌てて玄関へ走り出した。


 母の言葉の通り、玄関には東雲結城が立っていた。そこには見慣れた学ラン姿の彼は居ない。

 真新しいベージュ色のブレザーを着るというよりブレザーに着られている感じでどこか不自然な感じはかえって新鮮味がある。エール霧雨学園の制服だ。

「おっす」

「なんで来るのよ」

 ぶーっと文句を言えば「にゃんちゃんお黙り」と母に怒られる。ぐっと言葉を詰まらせた。

「あ、東雲くん、とっても似合うね、制服」

「あざっす!」

 素直に頭を下げる結城に「なに、一緒に行こうって?」こくこくと結城が頷いた。

「分かった。んじゃ、行ってくるね」

「あれ、にゃんちゃんいってきますのちゅーは?」

「いつもしてるみたいな言い方しないでくれない?」

 母親のめちゃくちゃ具合に頭を抱える。いつものことだ。

「じゃあねーにゃんちゃーん! あとで入学式行くからねー!」

「来なくていい! 仕事行きなさい!」

 んーっと投げキッスまでしてくる母親にうすら寒さを感じながらしっかり釘を刺してやっと家を出た。

 あーと溜め息を吐くと結城がけらけら笑う。

「相変わらずおばさん愉快だなー」

「四六時中一緒だとそんなこと言えなくなるわよ」

 うんざりしながら返すものの東雲結城はあの人懐っこい笑顔を浮かべるばかりだった。

 その笑顔を見上げながら改めて、彼の姿を見つめる。

 間違いない。ブレザーにはあたしの制服と同じ、不死鳥の描かれた校章が入っている。それが意味するところはあたしと彼の通う学校は同じになってしまった、それだけだ。

「昨日、眠れた?」

「ええ。別にいつも通り」

「マジかよ」

 頭の後ろに手を回しながら結城がけらけらと笑う。

「いいなー。俺なんか全然眠れなかった」

「どこに眠れない要素があるのよ」

「だって楽しみだろ?」

「遠足前日の幼稚園児か」

 呆れながら返すとちょうど信号機が赤に切り替わった。足を止めていると結城が言う。

「もう学校内でこそこそしなくていいんだぜ? 同じような奴らがいっぱいいて、もしかしたら一生もんの友情が育める奴が見つかると思ったらわくわくするだろ! もう自分を隠さなくていい友達が増えるんだぞ!」

「はいはい、楽しみなのはよく分かったわ」

 ぎゅっとあたしの手を握りしめる結城に苦笑する。

 忘れてた。こいつはそういう奴だ。誰より、自分の仲間を求めている。生まれたときから創造主という境遇のせいで長らく孤独だったのが悪いのか、それとも元々こういう性格なのか。こればかりはあたしには到底分からない。

「友達、できっかな」

「どうかしらねぇ。あんた電波だから」

 やっと信号が切り替わった。一歩踏み出すと「なんだよそれー」と不満げな結城の声が聞こえる。

「言葉のままよ。一緒にいると疲れるタイプ」

「……人のこと言葉で攻撃するのやめろよ」

「あらごめんあそばせ」

 おほほとわざとらしく高笑いしてやると「とりあえず俺は一生懸命自己紹介を考えようと思います」ほう、と適当に返す。

「例えば?」

「インパクトが重要だと思うから、ただの人間には興味ありません。この中に、宇宙人――」

「不思議だらけの学校でそれやる?」

 尋ねればそれもそうかと結城は難しそうに唸った。

「あいうえお作文でもやるか」

「それは週末ヒロイン以外がやったらただのウザい奴よ」

「オッス、オラ結城!」

「あんたの戦闘力はもうカンストしてるわ」

「お前はもう死んでいる」

「あんた自己紹介の場をなんだと思ってるのよ」

 辺りにちらほらと同じ制服の男女が並び始めた。しかしそんなのお構いなしに困った顔をした結城は「難しい……」とぶつぶつ言っているので小さく笑う。

「心配しなくても普通に名乗るだけで教室をざわつかせるくらいのインパクトあるのよ、あんた」

 東雲結城。その名前を聞いた生徒たちの動揺は想像に難くない。

 そうかなぁ、とあくまで否定はせずに唸り続ける結城を放置していると「ぐっもーにん!」と明るい声が後ろから飛んだ。

 結城と揃って振り返るとそこにいたのは黒かった髪を茶色に染め、にこにこと笑っている神泉いずみの姿だった。

「いずみっち、ぐっもーにん!」

 へい、とハイタッチを交わす。

「髪、染めたんだ」

 結城の言葉におうよ! といずみっちが勢いよく頷いた。

「高校デビューって奴! 茶髪な死神もイケてるべ?」

 とピースしてから「ああ、それよりさ」とカバンを担ぎ直し、笑顔のまま彼が続けた。

「二人には、ちゃんと紹介しとかないとね」

 そう言って後ろに振り返った死神は「リン、おいで」と誰かに手招きした。

 人混みの中から現れたのは黒い髪を緩く縛った女の子だった。真新しい深緑色の制服の裾を押さえながら恥ずかしそうにこちらを見つめている。

 漂う雰囲気はどこか弱々しく、守ってあげたい女の子というのはこういうのを言うのだろうという典型のような人だった。

 彼女はあたしと結城の顔を見比べてからぺこりと頭を下げた。

「は、はじめまして! 舟生リンって言います! どうぞよろしく!」

 深々と頭を下げる彼女にはぁ、と生ぬるく返していると「俺の彼女」は、と結城とあたしの視線が一瞬でいずみっちに向けられる。

「彼女?」

「そう、彼女。恋人。マイワイフ予定」

「いずみ君、その言い方はさすがに恥ずかしいよ……」

 などと言いながらまんざらでもなさそうな舟生リンさんの愛くるしい顔を見ながら返答に困ってると「リン、人間なんだ」といずみっち。思わず聞き返す。

「人間?」

「うん、人間」

「え、でもその制服、お嬢と同じだよな」

 とそこまで言いかけてから「ああ、上位組特権か」

 上位五名の生徒は受験生の中から種族問わずに無条件で一名を合格者として引き抜くことができる。それを使えば、例え人間だってエール霧雨学園に通うことは可能だろう。

「そゆこと。まぁ、そんなわけでちょっと気にかけてやってよ、俺のマイハニー」

「あの、ご迷惑にならないようにするから仲良くしてくれると嬉しいな」

「全然いいって!」

 裏表のない笑顔を浮かべながら手を差し出した結城は「俺、東雲結城。そっちがお嬢、よろしくな」うん、と頷いた舟生リンがその手を握り返した。

「……どういう経緯で恋人なのよ」

「まぁ、死神にも色々事情があるのよ」

 たははと困ったように笑ういずみっちに首を傾げるばかりだった。




 四人になったので適当に他愛もない会話をしながら校門を潜り抜けた。

 エール霧雨学園、校舎は数年前、新しいものを建てられたおかげでまだ新しい。受験のときはそんな余裕がなくて見ていられなかったが綺麗な校舎だ。旧校舎は話によると部室棟として使われているらしく、その他設備も整えられた学校だ。さすがに表向き進学校を名乗るだけのことはある。

 校門の周りには薄桃色の桜が咲き乱れている。綺麗だな、とらしくもなく感動したことだけは覚えている。

 後者の方へ近づくと人混みの中に掲示板があった。クラス分けの表が貼られたそれを見て「おお」といずみっちが歓声をあげた。

「おじょっち、俺とクラス一緒」

「え、マジで?」

 自分で確認する前に言われてしまった。なんとなく脱力感。

「あー……俺ぼっちだ」

「私も……」

 しょんぼり肩を落とす結城と舟生さんにあははといずみっちが苦笑する。

「いいじゃん。二人とも遊びにおいでよ」

「うん、そうする……」

 こくこくと頷く自分の恋人によしよしと笑いかけながらいずみっちは再度ちらりとクラス表を見た。

 その顔がわずかに陰った。そんな気がした。


 そんなやり取りから数分後、目的の廊下に着いたいずみっちは自分の恋人に心配そうに告げた。


「んじゃね、リン。なんかあったらすぐに言うんだよ?」

「うん、分かった。お嬢ちゃんもまたね」

「ええ」

 手を振って別れながら目の前の教室に踏み込んだ。

「あ、おじょー今日一緒に帰ろうぜ!」

「はいはい」

 なんていう取り留めのない会話を交わしつつである。

 教室の中はまだ人が少ないようで、入学式の日からこんなんでいいのだろうかと思ってしまった。黒板には丁寧にどの出席番号の奴がどこに座るかを記してある。自分の出席番号を見つけて、腰を下ろしながら息を吐く。

「んで? なんでまた人間を彼女にしたの? このリア充、爆発しろ」

「いやー話せば長いことながら」

 などと言いつつ荷物を下ろしたいずみっちだったもののその視線が入口の方で止まってしまった。

「いずみっち?」

 首を傾げて呼びかけても返答はない。その代わりのように横に手を突き出した彼は立ち上がった。

 一瞬だけ、紫色に光った手元には血色の刃が大きく弧を描く大鎌が握られている。死神の鎌、これを見てしまった人間はただ純粋な恐怖を感じるのだろうといつも思う。人の魂を刈り取る道具。

 その刃に何かが鋭い音を立てながらぶつかり合った。細身の刀身を見て、レイピアだと理解するのには随分時間がかかったように思う。

「よう死神野郎……! 会いたかったよ……!」

「だからいずみだって。い、ず、み。りぴーとあふたみー?」

「黙れ!」

 宙に浮かびあがった青い魔法陣が教室の床にレイピアを突き刺していく。

 教室内に早くに到着していた真面目な生徒たちがざわめく中で「しつこいだからさ」といずみっちがレイピアごと持ち主を鎌で振り払った。

 後ろに跳び、後退するその人物に、心当たりがあった。

「美里さん……?」

 蒼井美里、覚えてる。受験会場であたしに話しかけてきた彼女だ。

 あのときの柔らかく、明るい雰囲気とはかけ離れ、目を血走らせた彼女は床に刺さったレイピアを引き抜くといずみっち目がけて投げつけた。そういう武器じゃねぇからそれ。

 なんていうあたしのツッコみも知らず、レイピアをまた鎌で振り払ってから床を蹴り上げ、いずみっちが大鎌を振り下ろした。転がってそれをかわした彼女を見下ろしながらいずみっちは淡々と告げた。

「ほんと、しつこい幼馴染もいたもんだよね。自分のバディまで巻き込んでこんなとこまでついてきてさぁ」

「リンはお前なんかには渡さない」

 修羅場か。修羅場なのか。

 あたしの心まで巻き込んで修羅場る二人は睨み合ってからどちらともなく距離を詰めた。

 彼女の手に握られたレイピアがいずみっちに突き出され、彼はそれをわずかに身をよじるだけでかわすと鎌で振り払って、美里さんの腹を蹴り込んだ。

 後ろへ倒れ込んだ彼女は地面に叩き付けられてから素早き起き上がり、また飛び上がった。

 天井ギリギリまで飛んだ彼女の足元にまた青い魔法陣が展開する。それを蹴りつけて、勢いをつけ一気に彼女の体とレイピアが降下する。再び大鎌でそれを受け止めてからいずみっちはまた淡々と言う。その口元はわずかに引き上がっている。

「仲良くしようよ、リンのためにも、さぁ?」

「ご冗談。リンを導く死神なんかと仲良くできるかってんだ」

「こっちだって仕事なんだよ」

「言ってろ。お前の仕事全部否定してやるよ」

 がきんと鋭い音を立て、刃がぶつかり合う。どちらも譲る気なしだ。

 周りの生徒がおろおろと視線を泳がせている。そんなこともお構いなしに宙返りしながらいずみっちと距離を置いた美里さんはまた一本、魔法陣からレイピアを抜き取るといずみっちに向かって構えた。

 すでに辺りは地面に叩き付けられ、折られたレイピアの残骸でいっぱいだ。おお、こわ。

「無駄だって分かってるくせに。人の運命に抗えるのは神様だけだよ。例え創造主という化け物ですらそれは許されていいはずはない。蒼井っちは単に運がいいだけ。そこんとこ履き違えんなよ」

「だぁまぁれぇ!」

 ……一つだけ、あたしに言えることがあるとすれば。

 パニックになる教室の中で一人、カバンの中から文庫本を取り出して目を落とす。


 あたし、進路選択を間違えたかも。




 中学三年間でスルースキルといういらないスキルが鍛えられていたことを実感しながらあたしは体育館に居た。

 入学早々にクラスメイトが実は宿命の敵同士で大喧嘩を始めるという普通の学校じゃ絶対体験しないような不思議ハプニングはあったものの式の進行には支障なしと判断されたらしく、入学式が始まっていた。

 こんな学校の入学式なのだから殺し合いでも宣言されたらどうしようかと思っていたのだがどうやらさすがにそれは杞憂だったようでなんの変哲もなく式は進行していった。

 まばらに聞こえてくるだけの斉唱やら名前も知らないような来賓の祝辞やら担任の紹介、顔も知らないPTA会長と校長の言葉。

 それら全てが終わったところで「続いて、本校理事長、焔華亜音より、ご挨拶を」という言葉によってやっと見覚えのある顔が壇上にあげられた。

 真っ赤なスーツを着込んだ理事長は形式的に礼をこなしてからポケットから恐らく退屈な挨拶の言葉が入っているのであろう白い封筒を取り出し、


 あろうことか後ろへ放り投げた。


 唖然とする生徒たちを置いて、彼女はマイク越しで話し始める。

「ご機嫌よう、皆さんとは一度お会いしましたからはじめましてではありませんね。でも改めて、五期生の皆さん、入学おめでとう。そしてようこそ、エール霧雨学園へ」

 堂々と、なんの迷いもなく理事長の言葉は続く。

「この学園は未来あるあなたたちがはじめから持っているその美麗で繊細な翼をいかにして羽ばたかせるかを見つけるための学園と私は考えています」

 背筋が寒くなるくらいにはコメントに困る。

 大体の生徒が硬直する中でも構いもせずに理事長は言葉を続けた。

「人の世で生きていく上で、あなたたちの負った苦労や悲しみは想像に難くはありません。自らを押し殺し、その翼を存分に広げることができなかったことでしょう」

 スタンドからマイクを抜き取ってくるくると回った理事長は嫌に芝居がかった口調で「でももういいんです」ぱちぱちと瞬きを繰り返した。

「これからはあなたたちの力を伸ばすことを考えればいい。他の連中がなんと言おうと構いません。あなたたちはあなたたちの空を見つけ、飛び立つことだけを考えればいい! ここはそのための滑走路に過ぎませんから」

 にこっと皆に向かって微笑むと理事長はやっぱり堂々と言い放つ。

「私にとって、あなたたちは天使です。皆が異なる翼を持ち、それぞれの飛び方を探している天使です。三年後、あなたたちの飛び立つその後ろ姿を、私が見送る。そんな日を楽しみにしています」

 何はともあれ、高校生活が前途多難であろうことだけは今日、分かった。




 ■□■




 高校に入学してから早いもので一週間が経った。

 その間にあったことといえばやっぱりいずみっちと美里さんが突然喧嘩を始めたり、授業中突然相方から念話が飛んで来たり、散々だった。

 それでもまだ穏やかな方であった、今のあたしはそう告げるであろう。


 その日の放課後、帰ってくれる友達がいないのか教室の前でリュックの肩ひもを握りしめながら性懲りもなく結城が待っていた。

「結城」

「あ、お疲れ」

 あたしを見つけるなりにこにこと子犬スマイルの結城に苦笑しつつ帰路へ着く。これがここ数日、ほとんど変化のないやり取りだった。

 廊下を歩き生徒とすれ違いながら「そういえば」と彼は首を傾げた。

「いずみは?」

「部活の見学行くって」

「部活?」

 頭の上で疑問符をいっぱい浮かべる結城にそうよ、と返す。

「軽音楽部に行くって、さっき部活棟の方に」

「へぇ」

 ちらりと渡り廊下の方を見てから階段を下りて行く結城は部活かーと呟いた。ふと気になって問いかけた。

「あんたは部活入らないの? 囲碁将棋部」

 中学の頃の所属部活の名前が出てきたことに顔をしかめながら「俺、別に囲碁も将棋も好きじゃないし」と顔を逸らした。その割によく教則読んでるけど。

 優しいあたしはそこに言及はせずに、そっかとだけ返した。

「お嬢こそ、入らないの? 文芸部」

 反撃された。眉を寄せながら「別に好きでもないし」と返す。

 結局のところ、中学の部活なんて間に合わせ的に入っていた部分が大きい。「それに」とあたし。

「部活動してるより呪祖退治の方に集中したいところはあるし」

「それはある」

 うんうんと頷いた結城は「でもなぁ」と難しそうに顔を歪めた。

「部活やってないとどっか学校に居場所がないっていうか」

「そうかしら」

 特別居場所を作る必要性も感じないが。

 なぜか下駄箱とは逆方向へ足を向ける結城に慌ててついていく。

「ぶっちゃけ青春したいっていうか」

「青春?」

「そう、青春」

 言いながら入って行ったのは購買部だった。

 雑誌やらジュースやらお菓子やらが並ぶ購買でチョコチップメロンパンとスナック菓子を手に取った結城はそのままレジへ直行。会計を済ませてからあたしと合流した。

「青春って?」

 購買から出て早々に『わさびチョコレートチップス』なるスナック菓子の袋を開ける結城に問いかけると彼はそこに手を突っ込みながら答えた。

「部活動イコール青春みたいなとこあるじゃん。部活によって新しい出会いきゃっきゃっうふふみたいな」

「……何、あんた彼女が欲しいの?」

「バーロー!」

 頭を引っ叩かれた。うーと唸りながら結城を睨み付けるとポテチを口に放り込んだ彼が言う。

「べ、別に部活なんか入んなくても東雲さんはモッテモテなんだからね!」

「あんたが彼女できないことくらいあたしが一番知ってるから無理しなくていいのよ」

「論点ズラしだぁー!」

 うわーんとわざとらしい泣き真似をする結城に溜め息一つ。こうでもしないとやってらんねー。

 なぜか目の前を歩いていた教頭が反応したような気がするが、構ってもいられないので渋々本題を戻す。

「じゃあ何? 青春したいの?」

「したい。こんな相方じゃなくて可愛い子と放課後を過ごしたい」

「ごめんねぇ、こんな相方で」

 こっちだってお前みたいなの嫌だ。

「かといって」

 結城がポテチを咀嚼するばりばりという音が嫌に聞こえてくる。

「やっぱ呪祖退治をおろそかにするわけにもいかないし。なんかいっそ呪祖退治しながらできる部活とかあればいいのになー。そしたら補助費とか色々助かるのに」

「そんな都合のいい部活、あるわけないでしょ。人助けがしたいならボランティア部とかあるからそこに行きなさい」

「いや、微妙に俺の理想とは違うんだよなぁ」

 と、そこまで言ってポテチの袋をひっくり返した結城がはっとした表情を浮かべたのをあたしは見逃さなかった。


「おもちついた」


「ぺったんぺったん」

 唐突に意味不明なことを口走る結城に思わずそんな擬音で返した。

 カバンを担ぎ直していると「あ、違った」と結城。

「思いついた」

「何を?」

 丁寧にポテチの袋を畳む結城に首を傾げてやれば「パンがないならケーキを食べればいいじゃないの法則だ、お嬢!」意味不明だ。

 下駄箱に差し掛かり、一つ分の下駄箱を挟んだ距離になったにも関わらず結城の声が響いてくる。

「部活がないなら部活を作ればいいじゃない!」

 ……また相方が妙なことを言ってる。

 靴を履き替え、彼と合流してから「なんですって?」

「だから部活を作るんだよ!」

「なんのために?」

「人助けと青春と補助費のために!」

「恐ろしいくらい自分の欲望ね」

 しかし東雲結城はそんなあたしなぞ知ったこっちゃないとばかりに「やっぱり俺天才……!」と呟いている。まぁいいか、とあたし。

「そう。頑張ってね」

「なに他人事みたいに言ってんだよお前もやるの」

 なんか薄々そんな気はしてた。

「あたし帰宅部と兼部になっちゃうから」

「辞めちまえ」

「早く帰って勉強しないと」

「どうせしないだろ」

 とあたしの手を掴んだまま「お願い! な!? お前がいるといないじゃ多分俺の負担の度合いが全然違う!」

「あたしにメリットがちっともないのだけど。なんでラノベの主人公みたいにそんなことに巻き込まれなきゃいけないのよ、しかも相手は可愛いヒロインからかけ離れてるし」

「俺がヒロインでいいから!」

「そういうことじゃない!」

 何も分かっていやしないぞ、こいつぅ。

 わしゃわしゃと頭を掻きむしながらこの分からず屋にどう伝えようか考えていると「部活ー部活やろーよー」とあたしの手から離された結城の手によってがっくんがっくん体が揺さぶられる。

「ど、同好会じゃ駄目? そしたらなんとか」

「ぶーかーつぅー!」

「分かった! 分かったから!」

 まだふらふらする頭を抱えながら「部活ね、部活、はいはい分かった分かった」

 ぱぁあと結城が顔を輝かせる。

「相方ぁー! それでこそ俺の相方だこんのぅ!」

「ええいくっつくな!」

 また結城のせいで厄介を引き受けている。




 エール霧雨学園部活同好会規約。

 顧問、生徒二名以上、部室、生徒会の承認。四点を満たした状態ではじめて同好会としての設立が認められるものとする。

 同好会からの昇格については一年以上の活動実績と生徒が五名以上であるという条件を満たした同好会のみが許される。

 なお、同好会はエール霧雨学園的部活動特別補助費制度の適用外とする。


 申請書類に細々と載っていた部活動に関する要項である。

 はじめから詰んでいた。頭を抱えながら唸る。

 しかし、かといって今さらあれが同好会でいいよなどと言うはずもない。どうしたもんかとあたしは昼休みの教室で書類を顔を突き合わせるしかなかった。

 そんなあたしに柔らかい声が飛んできた。

「何してるんですか? 難しい顔をして」

「校則の理不尽さと相方の理不尽さに挟まれて死にそうになってるのよ」

「どのあたりが理不尽なのかしら。よかったら改正しますよ」

「いやなにい」

 振り返ってからがたっと立ち上がった。

「理事長!?」

「何見てるんですかー?」

 一体いつからいたのか全く分からない不死鳥理事長はぱっとあたしの手から紙をふんだくると「あら」と口元を押さえた。

「同好会つくるんですか?」

「えっと、それが」

 仕方ないので溜め息を吐いてから「出来たら無茶苦茶なのは承知で部活をつくりたいなと」と目を伏せた。

 きょとんとしてから彼女は「でも部員さん二人しかいないですよね」と追い打ち。

「友達がいなくて……」

 あははと苦笑するとふぅむと顔をしかめて「でも二人とも特待生なのかぁ」とぶつぶつ呟いている。

「素敵な活動内容ですね、特に『魔法の力を持って生徒の生活が円滑に進むように援助する』ってとこ」

「……どもっす」

 本当は結城のわがままから生まれたなんて言えないから書いた間に合わせの内容が理事長は随分お気に召したご様子だった。

 難しそうな顔をした理事長はあたしの顔をまじまじと見つめてからあ、そうだとぽんと手を打った。

「もう一人」

「へ?」

「部員が三人になったら部活動からのスタートを私が掛け合ってみます」

 一瞬、何を言われたかが分からなかった。

 じわじわと頭がその言葉を噛み砕き、理解する。思わず立ち上がった。

「本当ですか?」

「はい。ご迷惑?」

「いえ」

 ばっと頭を下げる。

「よろしくお願いします」

 特待生でよかったと、心の底から思ってしまった。




「あと一人、か」

 昼休みにあったことを簡潔に伝えると結城は顔をしかめた。

 うん、と頷けば彼は「その一人が問題なんだよなぁ」と。全く同意である。

 何を隠そう一緒に部活やってくれそうな友達なんていないのだ! どやぁ!

「…………」

「うん、多分同じこと考えて傷ついてるな俺ら」

 ぽんぽんと肩を叩かれ、がっくり落ち込む。

 いずみっちはどうだろうかとも思ったがぶっちゃけ舟生さんの一件以来第一級関わりたくない相手認定をしてしまったし、美里さんも同様である。

 廊下に設置されたベンチに腰を下ろしつつ地味に落ち込んでいると「にゃにしてるにゃん?」と愛らしい声が鼓膜を揺らした。その喋り方には壮絶な違和感を覚えたが。

 顔を上げるとツインテールにした髪を揺らし、美里さんのバディこと白咲恭子が心配そうにこちらを覗き込んでいた。

「恭子……?」

「そうだお、キョウキョウだお!」

 ……ん?

 やっぱり妙だ。主に喋り方が。首を傾げ、恐る恐る問う。

「あんたそんな喋り方だったっけ?」

「高校でびゅーしちゃったん! 可愛いでしょ?」

 そうだろうか。

 思わぬはっちゃけを見せた彼女に顔を引きつらせていると「誰?」と結城に問いかけられた。

「ああ、受験のときにちょっとね。彼女、白咲恭子。恭子、あたしの相方、東雲結城」

「は!?」

 恭子が驚いたようにあたしを見た。なんだよ。

「あ、相方……? 東雲結城の……!?」

「あれ、言ってなかったっけ」

「聞いてないにゃ!」

「ああじゃあごめん、今言った」

「屁理屈!」

 そう言いながら恭子はちらりと結城の方を見て「白咲恭子だにゃん、キョウキョウって呼んでね! 創造主だお、よろしくぅ」と手を差し出した。

 その手を握り返して「とりあえずキョウキョウ呼びは遠慮しとくよ」と結城は苦笑するだけだった。

「ええーしのしのったらいけずぅ」

「しのしのって……」

「それより何してるにゃん?」

 ひょこっとあたしの手元を覗き込む彼女に「あ、そうだ」と尋ねてみる。

「よかったら一緒に部活やらない?」

「部活ぅ?」

 不思議そうに愛らしく首を傾げる恭子にひとまず簡潔に今までの経緯を説明する。

 それを聞いてから「でもなぁ」とあたしの隣に腰かけた恭子が言う。

「キョウキョウそれよりやらなきゃいけないことあるから、お断りするかな。ごめんちゃい」

「やらなきゃいけないことって? 呪祖退治?」

 結城の問いにううん、と恭子は首を左右に振った。それから堂々と、制服の上からでも分かるほど大きな胸を前に突き出しながらきっぱり告げた。

「愛しのマイダーリンを見つけ出さないといけないのにゃん!」

「……まだ探してたの?」

 半ば呆れつつ返せばむぅと恭子は不機嫌そうにこちらを見た。

「だって人数多すぎるんだもん。一応探してはいるんだけど。どこにいるのかな、キョウキョウの運命の王子様……」

 うるうると潤んだ目でどこか遠くを眺める彼女に深々と溜め息を吐きだした。全く、あたしの周りに居る奴はどいつもこいつも。

 とはいえ、あっさりフラれてしまった。どうしたもんかなぁと困っていると『それ』は唐突にあたしの前に現れた。

「東雲くん」

 耳慣れない男の声だった。自分の名前が呼ばれたのに気付いた結城が顔を上げて「おー」と手を挙げた。それを見てからあたしもゆっくりそちらに視線を投げる。

 目の前に立っていたのはあのベージュ色のブレザーを着られるではなく、あくまで着こなした男子生徒だった。切り揃えられた黒い髪と柔和な笑顔が似合ううすら寒いほどのイケてるメンズ略してイケメンだった。

 そう思うほど、綺麗な顔だった。ただそれ以上に、どこか、違和感を覚える。

「おーじゃないですよ。日誌、出し忘れてたでしょう、君」

「あ」

 さっと視線を逸らしてから結城は肩をすくめた。

「てへぺろ」

「可愛くないですよ」

 呆れたように笑ったイケメンはあたしを見てから一瞬、顔を強張らせた。それからやがて、独り言のように、

「半分呪祖」

 髪を振り払いながら「そういうそっちは呪祖なわけ」と睨み合う。

 やっとわかった。散々感じてきた感覚だ。具現化した呪祖が起こすわずかな空気の震え。この男からそれと全く同じものを感じるのだ。

 結城が驚いたようにこちらと男の間に視線を行き来させる。なんだ、知り合いじゃないのかお前。

「人と生きたがる呪祖ははじめて見たわ」

 誰も襲わず、こんなとこで呑気に生活してる呪祖なんてこの線の奴以外あり得ない。

 あたしの言葉にふんわり笑った彼は、

「僕もはじめてですよ、半分呪祖だなんて」

 いけ好かない。

 何を言ってやろうかと口を開きかけたまさに、そのときであった。


「見つけた……」


 隣から聞こえた掻き消えてしまいそうな声に振り返る。

 カバンを抱き締めた恭子がじっと呪祖野郎を見つめている。

「え、恭子?」

「やっと、見つけた……」

 立ち上がり、カバンを放り出してから彼女はあっという間に距離を詰め、背中に手を回し、ぎゅっと抱き着いた。

 突然のことに、あたしも相方も動揺していたのだがどうやらそれは抱き締められた呪祖野郎の方も同じようで今までいかにも余裕ぶった笑顔を浮かべていた顔を引きつらせていた。

「な……は……あの」

「見つけた。やっと会えた」

 ぎゅうっと腕の力を強めながら恭子はぐいぐいと自分の体を呪祖に押し付けて、胸に顔を埋めた。

「ずっと探してたのにどこにいたのマイダーリン」

「だー……それ、誰かと勘違いしてませんか」

「まさか! キョウキョウが愛しの王子様の顔忘れるわけないにゃん!」

 初対面の美少女に抱き着かれて何が何やらの状態のようで呪祖はひたすら顔を引きつらせるだけだった。ざまぁ。

 自分の貞操の危機でも感じたのかぐぐっと恭子の体を押し返しながら奴は続けた。

「急にそんなこと言われましても……! 人のことからかってるなら」

「からかってなんかないもん! なんだったら今すぐキスしようか!?」

「何言ってるんですか!」

 ほんとだよ。

 目の前でキスなんてされたらこっちだって堪ったもんじゃないのだがお構いなしに恭子がさらに声を張り上げる。

「ほんとに、あなたが好きなの」

「意味分かりませんって……第一なんで」

「運命のあ、か、い、い、と。キャッ、言っちゃったー」

 頬を両手で覆いながらゆらゆらと体を揺らす恭子を見て、呪祖の顔が険しくなっていく。ああ、あの顔覚えがある。なんかあたし三年前に同じような顔をした気がする。

 それでもお構いなしな自由人。胸元のボタンを外しながら彼女はどこか上ずった声をあげる。

「ね、だから、恭子のダーリンになってよぉ。夢とおっぱいは大きいのに限るでしょ?」

 瞬間、何を思ったのか呪祖の手が恭子を引き寄せる。期待に輝く恭子の顔になど一切コメントせずに、そうして彼は自分の体を滑り込ませると恭子の体をなんの慈悲も情けも容赦もなく、一気に背負い、床に叩き付けた。

 美しい、見事な背負い投げだった。

「何あれめっちゃ綺麗」

「言ってる場合かっつの!」

 結城に怒鳴り付けつつ恭子に駆け寄って「あんたね」と振り返ったときにはさすが人外。もうそこには居なかった。

 何が紳士だ。

「なんなのよあのバイオレンス呪祖野郎は!」

 なんとか起き上がった恭子の背中をさすりながら結城に問いかければ「く、クラスメイト……です」と困ったようなご返答。

 一途にあれだけを想って入学した恭子が不憫に思えて仕方なかった。このあたしが他人に同情してしまうほどには。

 ところが恭子は何を思ったのか「ぷ、あはっ」と笑い声を湧き起こした。

「え、きょ、恭子……?」

 頭でも打ったのではなかろうかと心配していると「面白いじゃん」と彼女はにんまり笑った。

「それでこそマイダーリン、簡単にモノになっちゃつまらないもんねぇ? きゃはっ、ゾクゾクしちゃう!」

「…………」

「お嬢口開いてる」

 閉口などできるもんか。

 あの美里さんのバディができるんだ。普通じゃないとは思ってた。思ってたけど。

 ゆっくり一歩ずつ距離を取りながら「あれ、マジなんなの?」

「……周防徹?」

「名前は全然聞いてないんだけどありがとう」




 そんな衝撃的事件から翌日、校庭に新入生全員が集められた。

 ジャージの着用を義務付けた上である。学年色である青のジャージを着た生徒で辺りが埋まるのを見ながら空を眺めていると「だーれだ」

 視界を奪われた。顔をしかめながら「死ね」

「ひでぇ!」

「うっさいわね、あたしくらいしかそういうことする相手がいないのは可哀想だと思うけど鬱陶しいからやめて」

「おいその言い方やめろ」

 事実だけど、と言いながらあたしの目の上から手をどかすのは当然の如く相方であった。

 すっかり意気消沈の相方を見つめながら「実習よね、これ」

「多分な」

 エール霧雨学園の生徒は国語、数学、地歴公民、科学、体育といった通常の高校でいう必修科目の他に『実習』と呼ばれる独自の科目を受けることを義務付けられる。

 与えられた課題を人外的な能力で制限時間内に終了させ、成果に応じて成績がつけられる。それこそが人外として生きていくことを選んだ奴らにとっては都合のいい授業なのだ。

 実習は基本的には一名の参加ではあるものの、学校側に申請さえしてしまえば複数人での参加も認められる。

 ちなみに、すでに結城と登録済みのあたしは実習に関しては心配無用とすら思っていたりする。

「あーまいくてす、まいくてすー」

 質の悪い音がグラウンドに響き渡る。

 少し低めの女の声だった。心地いい声は「うむ、大丈夫そうじゃのう」という声に変わり、やっとあたしは朝礼台の上に立っている声の主を見た。

 金色の美しい髪を短く切り揃えた女だった。彼女はえんじ色のジャージの下から突き上げるような胸を前に突き出しつつ辺りを見渡して、にっこり笑った。そのとき見えた八重歯が嫌に特徴的だった。

「知ってる奴もおると思うが一応挨拶させてもらうかのう。わっしは五期生の実習教科担当主任になった松七五三(まつしめ)小町(こまち)っちゅーもんじゃ。今年は日本史も教えとる。まぁ、姓は松七五三じゃがわかりにくい名前じゃからのぅ、小町で構わん」

 嫌に爺くさい喋り出しでそう言った小町先生(お言葉に甘えるのと親しみを込める二つの意味を込めてこう呼ぶことに決めた)は腰に白いテープが巻かれた手を当てながら高らかと告げる。

「っちゅーわけで、わかっとるもんもいるじゃろうがこれから実習の抜き打ちテストを行う!」

 グラウンドにざわめきが降り立つ。それを感じているのかいないのかは不明だがにかっと笑った小町先生は続けた。

「なぁに、心配いらん。わっしら実習担当者とほんの少し手合せするだけじゃ。何を使っても構わん。それで今後の主らの課題の難易度について検討する」

 そう、実に簡潔に詳細を話してから「組み合い表はこっちで決めさせて貰ったからのう。呼ばれた生徒はそれぞれ先生のところへ行っておくれ。残りは観戦するもよし、作戦を練るもよしじゃ」とだけ言って手元に持っていた名簿に目を落とし、生徒たちの名前を呼び出した。

「それからわっしのところには東雲結城と」気のせいだろうか。凄く聞き覚えのある名前が二つほど聞こえた。

「俺ら?」

「そうみたいね」

 二人揃って肩を落とす。

 呼び出されてしまったものは仕方ない。東雲結城の実力は有名だとしても、テスト免除とはいかないのだろう。

 仕方ないので小町先生の待つグラウンドの方へ向かえば周りの生徒たちがざわざわとやかましい。

「ねぇ、あれでしょ、噂の特待生二人って」

「あー! 瀬ノ宮の! じゃあ、あっちが例の東雲? えーイメージと違う」

「もう片方は半分呪祖なんでしょ?」

「半分って何それ」

「やだーよっちゃん知らないの?」

「でもどうせ噂っしょ? 大したことないって」

 ひそひそ。不愉快な小声が鼓膜を揺らし、視線がこちらに向いているのがよく分かる。

 得体のしれない力への恐怖と、焦燥、不安、期待、好奇心。そして様々な対象の嫉妬。自分に向く感情がなんなのか、なんとなく理解できるようになったのはあたしが呪祖になったからか。それとも単に成長しただけか。あたしもあちら側にいたら同じような感情を抱くのだろうか?

 結城はそれら他人の感情に構っている様子はない。相変わらずマイペースで結構なこった。

 しかしあたしはそういうわけにもいかないので戯れがてら一際大きい声の方向にぐるりと首を向けて、精一杯の『素敵な笑み』をお見舞いしておいた。

 それっきり話し声が聞こえなくなったのはとても不思議なことだが仲良くなるための第一歩が歩めたと信じて、小町先生とやっと向き合った。

 テーピングされた拳をぱきぱきと鳴らしながら小町先生は「わっしは主らに会うのを待ちわびていてのう」とにやりと笑った。頭を下げる。

「光栄ですわ」

「なぁに遠慮はいらん。相手になろう」

 来い。そう言わんばかりにばかりに小町先生の両手が広げられる。

 結城と視線を交わす。作戦会議はこれで十分だ。

 小町先生を指差す。八方から鎖が伸びて、彼女の体を拘束した。

「ほう、確か主は入試のときもこの魔法を使っておったのう」

「これくらいしか自慢できる魔法がないもんで」

「じゃが、ワンパターンでわっしに勝てるかのう?」

 ぐっと鎖が引っ張られる。ぐらりと揺らぐ鎖を見て慌てて手を引いた。彼女の体を地面に叩き付けようと鎖が下に向かって力を込めるもあろうことか、地面を蹴り上げ、飛び上がって彼女はそのままそれを引きちぎった。

 落下しながら小町先生が足を振り下ろす。それを辛うじて転がってかわすと「どうしたんじゃあ!」と彼女の声が響き渡る。

「指定特待生はそんなも」

 そこまで言いかけた彼女の首筋を、太陽の光を反射させ、妖しく笑う刀身が捉えた。

「うちの相方、弱いんであんまいじめないでやってくれますか?」

 息一つ乱さずに、結城が涼しく告げる。

「一言余計よ」

 起き上がりながら髪を振り払うと未だ、動かないもとい動けないといった様子の小町先生がまるで自嘲するかのように笑う。

「位置取りに迷いがなかったのう、わっしがここに来るのわかっとったんか?」

「ついでに相方の拘束が破られるのも」

「予想外じゃのう」

「これから先の先生の行動も一通り分かりますよ」

 まだ続けますか?

 相方の言葉に、はははと小町先生はついに笑い声をあげた。

「わっしに拳を叩き込んだ生徒は何人もおるが、首を斬られる寸前で自制されたのははじめてじゃ」

「学校の先生斬れませんって」

「……もうよそう、これ以上はわっしの負け戦じゃ。主ら、二人とも合格でよい。下がってよし」 

 すっと小町先生の首から刃が離れ、相方が鞘に刀を納めた。

 こちらを見ていた生徒がざわめく。無理もない。他の生徒たちはまだ試合の最中だ。早過ぎる。ただこれだけに尽きる。そしてそれは決して小町先生が弱かったからではないことくらいここの生徒なら分かるはずだ。


 強すぎたんだ。東雲結城が。教師すら諦めさせるほどに。


「ほい」

 拳を突き出されたので自分の拳を突き出してグータッチ。

「ちなみに聞くわ」

 生徒たちの波に戻りながらあたしは小さく相方に問いかけた。

「今の何割?」

「六割弱」

 化け物だ。本当に。

 半ば呆れながら「あたし、タオル取ってくる」と汗も掻いていないのに逃げるようにその場を離れた。




 誤魔化すようにタオルをかぶって、なるべく時間をかけようとだらだら戻ってくると「あ、おじょー」と相方がにこにここちらに手を振った。

「ただいま」

「おかえり」

 グラウンドの方を見つめながらそう返してくる相方に少しだけ安心しながら石段に腰を下ろした。

 それを確認すると結城は「惜しかったなぁ」としみじみ告げた。

「何が?」

「さっきまで一般特待生がやってたんだよ、試験。同じ創造主らしいんだけどめっちゃ強い」

「おまいう」

 呆れながらそう返せば「しかも美人だった」との謎のご返答。

「そう。よかったわね」

「……そこで『そんなに美人がいいならそいつと相方組めばいいじゃない! 結城の馬鹿!』とか言えないからお前は可愛くない」

「お黙り、気色悪い」

 頬杖をつきながらきっぱり言い放つとふと視界に入ったそれに気付いて顔をしかめた。昨日見た顔だ。

「ねぇ、今小町先生とやってるの昨日の背負い投げよね。なんだっけ、えと、山口くんだっけ?」

「分かって言ってるだろそれ」

 どうだかねぇ。

 逃れるように視線を逸らし、肩をすくめる。意思疎通はばっちりだったようで結城が苦笑した。

 覚えているとも。周防徹。あれだけ強烈なことやられたらいくらあたしでも覚えてしまう。

 無駄なことを考えていると視界に入れていた周防が小町先生に向かって踏み込んだ。その手にはサバイバルナイフのようなものが見える。武器使うんだ、あいつ。

 きらりと光を反射させ、突き出されたナイフを上半身を逸らし、ギリギリでかわすと小町先生はそのまま足を振り上げた。

 無機質な音と共にナイフが彼の手から弾き飛ばされた。それを見送りながら体勢を立て直した先生がテーピング済みの拳を思いっきり突きだした。

 周防がそれを受け止め、受け流す。少し距離を置いた奴がジャージの上着のポケットに手を突っ込んだ。

 引き抜いた手と同時に上空に飛び上がるようにくるくる回転しながら出てきたのはナイフというより短剣、とりわけダガーといった感じの鋭いものだった。

 その柄を空中で掴み、投げた。自分に向かってくる短剣をこともあろうに小町先生は素手で叩き落とす。

 しかし、投てき者の顔にわずかな笑みが浮かんでいたのをあたしは見てしまった。

 先生が短剣を落としている隙に距離を詰めた周防は自分の拳を叩き込んだ。

 顔を引きつらせた先生が慌てた様子でそれを受け止めた。ぐぐっと拳を掴みながら彼女はにやりと笑った。

「いい拳じゃのう……久々に涙が出るほどおもぉい拳じゃあ……」

「光栄です」

「ううむ……これは合格にせぬわけにはいかんのう、主とはもっとやり合いたいが」

 まるで健闘を称え合うかのように、お互いが笑い合っていた。

「大したもんねぇ、呪祖なのに。よほど親の感情が強かったのかしら」

「あ、そうだ」

 ぱちんと結城が指を鳴らした。その顔に浮かんでいた表情にはお世辞にもいい思い出はない。

「三人目! 周防誘おうぜ!」

「え、なんで?」

 ボケる間もなく、素で聞き返してしまった。

「なんでって」と結城はあたしの両手を握りしめて続けた。

「呪祖だからこっちの事情にも詳しいだろうし、きっと共存するタイプの呪祖なら悪い呪祖退治も協力してくれるだろうし、おまけに強いときた! 逆に組まない理由ないだろ!」

 さあ、それはどうだろうな。特に二つ目。

「三人になればあとは顧問と部室だけで俺たち部活作れるわけだし! な!?」

「……勝手になさい」

「勝手にします!」

 ぱたぱたと尻尾でも振ってるんじゃないかというくらいの勢いで周防の方に駆けて行く相方の後ろ姿を眺めながら、さあ、どうなることやらと心の中で眉を寄せた。

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