国護りの娘と英雄王
「全くそなたは育て甲斐のない娘よのう。食わせても食わせてもちいとも背が伸びん。せめてあと十も身体が育てば我が子を産ませたものを」
「婚姻を控えた殿方のお言葉ではありませんよ、陛下」
「ぬかせ。あやつも分かっておる」
「陛下」
「そのような怖い顔をするでない。分かっておる。今後はなるべく女遊びは控える」
「そうしてくださいませ。ただでさえ陛下の稚児好みの疑惑がありますのに、これ以上妃殿下にご心配をおかけすべきではありません」
「全く。お主の身体の何処に欲情しろと言うのか」
「陛下」
「……悪い」
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「お主には国防の結界を張らす。例えどれだけ辛くとも、一瞬たりとも結界を途切れさせてはならぬ」
「ええ、ええ。陛下のお望みとあれば、私は言われるがままに結界をお張りしましょう」
「従順な事よ。先は長い。望みは無いのか」
「……あります。いつか。また私をお側に置いてくださいませ。どんな戦火の中であれ、きっと陛下について行きます。きっと誰よりもお役に立てます」
「ーー本当に、幼子のままでいるのが惜しい娘よ」
「私も、出来ることであればいつまでも陛下のお側に在りとうございました」
*
「息子が出来たらお前に教育を頼む」
「宜しいのですか?五年もすれば、御子はいつまでも変わらぬ私を不思議に思うかと」
「良い。どうせ政務に追われ、構ってなどやれん。妃の一族に余計な知恵を植え込まれるぐらいなら、多少の疑問は可愛いものよ」
「かしこまりました。誠心誠意、次代様にお仕え致します」
「我が子ながら、お前をやるのは気が重い」
「ならば、政務は早めに終わらせて、ご子息のお顔を見にいらっしゃる事です」
「善処する」
*
「では、そろそろ妃の元へ行くか」
「お健やかに、あられますよう。私はここで祈っております」
「夜の娘。妃に子が出来たら、また共に戦場へ行くぞ」
「……っはい!陛下。何時迄も、お待ちしております」
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そして、英雄王は二度と戦場に出る事なく、病に倒れ、亡くなった。
おっさんと二十代な幼女の話。