幼~芽生え
「りゅうちゃん!一緒に帰ろっか!!」
そんな幼馴染の言葉が小さい僕の心のよりどころであり安らぎだった……。
「うん!!」
学校でおとなしかった僕は、友達を自分から作ろうとせず幼馴染の優香としかほとんど喋っていなかった。
そしてそれが僕にとっては日常であり当たり前だった……。
優香は僕の家の隣の家に住むいわゆる「隣人」で幼いころからずーっと一緒でこいつと遊ばない日なんてなかった。
それが、学校に行き出すと少し優香と距離ができ始めたが、やはり登下校は必ず一緒に生き帰りする毎日を刻んでいた。
それはもちろん思春期真っ盛りな中学生になる今になっても続いていた。
そんなある日の帰りのこと・・・・・・・
「りゅうちゃん・・・・・・・・ごめんね。」
優香がいきなり僕に謝罪した。
何か悪いことをしたわけでもないのに自分の中で優香に何かをされた覚えも何もなかったのに優香に謝られてしまった僕は急な出来事に足を止めあまり喋らない口を開いた。
「お前は悪くないよ!だって優香は何もしてないじゃないか!!」
「うん・・・・・・・・・・そうだねでも私はりゅうちゃんに謝らなくちゃいけないのだって・・・・・・・・・だって・・・・・・・・」
優香は込みあがる気持ちをどうしても伝えれずに走り去ってしまった。
その優香の走り去る横顔からは小さな涙が溢れだしていたのが少しだけ見えた。
そんな走り去る優香の事を僕は追いかけることが中学生の僕にはできなかった・・・・・・・・・。
僕は一人寂しく家に帰りふて寝をしているといつの間にか熟睡をしてしまいもう外はすっかり深夜になってしまった。
すると、自分の部屋のベランダの方から何やらコンコン窓を叩く音がしたので恐る恐る近づき窓を開けてみるとそこには優香がいた。
「優香?」
「こんばんわだねーりゅうちゃん。」
その優香は服装はいつもの制服とかではなく寝巻で僕の部屋に忍び込んできたまるで何かの漫画の夜這いを見ているようで少しドキドキした。
幼馴染だから普通ならドキドキなんてしないはずなんだがなんせ意外と寝巻なんて見たことなかったからだ。
優香の家は門限に厳しく、夜9時になると家が隣であろうと門限になると追い出され優香は寝かされるぐらいかなり厳格な親で優香の寝巻は実は小さいころからの付き合いなのハズなのに見たことなかった。
それなのに今、目の前に優香は寝巻でいる。
そして現在の時間は深夜2時過ぎ・・・・・・・・優香は怒られることを承知で自分の部屋を抜け出して僕の部屋に来た・・・・・・・。
「りゅうちゃん・・・・・・今日はごめんね先に帰っちゃってやっぱりりゅうちゃんにちゃんと伝えなきゃいけないかなと思ったんだ」
「どうしたんだよ。そんなに改まって気色悪い」
すると、優香は僕に急にギュッと抱きついて僕の耳元でささやいた。
その言葉は僕が今までの人生の中で誰からも聞いたこともない言葉でこれから先も僕には一生縁がない言葉なんだとずーっと避けてきた言葉を僕にささやき僕ファーストキスを奪い取って優香は自分の家へ帰って行った。
僕は、その後ベランダで放心状態となり1時間ぐらいその場に力が抜けたように地べたにへたり込んでいた。
そう、僕が感じていたより隣にずーっといた僕の幼馴染の夏枝優香は大人だった。
次の日、僕が目を覚ますと隣の家に優香の姿はなかった・・・・・・・。
優香の家族は離婚し優香は父親側に引き取られ昨日の夜に父親の家のある茨城に静かに引っ越していった。
そう幼馴染の僕にだけ言えずに引っ越していった。
本当は自分から言うつもりだったらしいが最後まで言えなかったと優香のは母親から後で聞いた。
そうして僕、朝城龍之介はファーストキスを奪われ最初で最後の一瞬のあの夜に一瞬だけ芽生えた初めての恋も儚く散っていった・・・・・・・・・・・・。
そして幾年の月日が流れ・・・・・・・・・
僕も今年で20歳になる………そして今日は成人式の日。
もうそろそろ一人暮らしも考えていたりもするのだが……もしかしたら優香が帰ってくるのを待ってるのかもしれないとまだ実家を離れれずにいた。
今度は幼馴染ではなく・・・・・・・・・・・大人の男と女として答えを出そうと僕は心に決めていた。
そういろんなことを考えながら鏡に向かってスーツをビシッと整えたり成人式の準備をしていると、ベランダの方からコンコンと窓を叩く音がした。
「ん?誰だ?」
そう言い少し胸に期待を膨らませながら窓を開けるとそこには見知らぬ男がいた。
「りゅうちゃんーただいま」
「は?ホントに誰だよ………お前……」
「【優香】だよ今は優介だけど・・・・・・」
「・・・・・・・は?」
僕は男の突然のカミングアウトを聞き頭が混乱し始めた。
「優香が男・・・・・で女が優香?あれ騙されてたのか?何年間も?」
「違うよー性転換したんだよ女の子から男の子に」
「えぇ!!!!!!!!!」
こんな成人式と言う20歳を祝う盛大な日に僕は盛大なカミングアウトを聞きそのまま倒れた。
「りゅうちゃん!!!しっかりー!!」
目を覚ました僕の前には優香がいた。
もう性転換して優介だが、そんな名前で呼べるはずがない・・・・・・・。
だって、つい今先ほどまで僕はもう一度会えばけじめをつけるつもりだった相手が男になり変わったんだ………ショックはデカい。
「お前が本当に優香なのかは知らないけどなんで今頃帰ってきたんだ?」
僕が優香に聞くと昔からの喋り方は相変わらず変わっておらず何かと語尾を伸ばすのんびりとした喋り方なのに容姿が男になり少しの違和感が僕を襲った。
「元々義務教育が終われば自由にしていい約束だったんだけどバイトとかいろいろしてこんなことしてたら遅くなったんだーそうだ!またお母さんの所に戻ることにしたんだーお父さん再婚するらしいし邪魔っぽいから逃げてきちゃった。」
「ということは?」
僕が聞き返すと何も考えていないようのほほんとした笑顔で僕に微笑見ながらこう言った。
「またお隣さんだねーりゅうちゃん」
「へへ・・・・・・」
こうして僕の幼馴染とのまた新しく新鮮でドキドキわくわくな毎日の繰り返しが始まろうとしていた・・・・・・・・・。