4月3日(水) 真彩ってどんな人?
新堂 真彩。 娯楽部の部長。 身長にコンプレックスがあることを除けば可愛らしい少女ではある。
「でよー、三日目だけど慣れたか?」
「まぁ、何となく、ですけど」
座椅子に座り、テーブルを挟んで真彩と楽は互いに向き合った。
「それより、部長はどうしてそういう言葉遣いなんですか?」
「あ? そんなのが気になるのか?」
「気になる、といえば気になります。 だけど、気にならない、と思えば気になりません」
「どっちなんだよ……」
どっちつかずの楽の言葉に真彩は思わず呆れる。
「小さい時からさ、近所の男連中と遊んでばっかだったんだよ。 大体はそっちの影響だな」
「大体……というと残りは?」
「残りは…… 少年漫画だな。 あれの影響はすげーわ。 当時は上品だった私も今じゃ、こんなじゃじゃ馬娘に育ってしまって……」
「上……品……?」
疑う楽の右腕に真彩がテーブルから飛び越して噛みついてきた!
「いたたたた! 痛い! 痛いです!」
「ふるへー! おばめにはにがはかるっへんだ!」
噛みつきながらも叫ぶ真彩に必死に抵抗する!
「すいません! すいません! 言い過ぎましたからぁ!」
「ぺっ……解ればいいんだ、解れば」
歯の跡が残った右腕を摩る楽。 一方の真彩は円が淹れたお茶を優雅に楽しんでいる。
「娯楽部って部長が作ったんですか?」
「んにゃ。 先代から私が引き継いだんだよ。 今年で三年だし。 本当はシーコの予定だったんだけどな」
「どうしてまた」
「シーコってよ、ああ見えて人見知りなんだよ。 同じクラスなんだけどさ、黒板の前に立っての司会進行なんて出来た試しがねぇし」
やれやれ、といった感じで両手を上げて『お手上げ』のポーズをとる。
「ま、私としてはそっちの方がシーコらしいとは思うんだけどねぇ」
真彩はテーブルに肘を突いて自分の心境を吐露した。 その表情は渋めなのだが体型と合ってないのが残念だ。
「……何か良い言葉を言おうと思ったんですけど、新参者なのでなかなか出ません」
「無理する必要はねぇよ。 これからこの部活を知っていって、自信が付いたらどんどん言ってけ。 まだ先は長いんだからよ」
「が、頑張ります……」
思わず恐縮する楽。 威厳ある部長の姿に感服すらしている。
「へ……へっくちゅん! あー、風邪引いたかなぁ…… まどかー、ティッシュー!」
……前言撤回。
「はぁ…… 腹減ったなぁ……」
「お昼食べてから結構時間経ってますもんね」
同じようにお腹を押さえる楽をよそに真彩は鞄からコンビニの袋を取り出した。
「な、なんなんですか、それ……」
「お前、コンビニ知らないのか?」
「いや、コンビニは知ってますけど」
「お菓子だよ、お菓子。 登校前にコンビニで買うんだよ。 ポテチにチョコバーにドーナツだろ……」
見れば袋の中には沢山のお菓子がこれでもかと詰め込まれている。
「毎日買ってるんですか?」
「いやいやいや、さすがに毎日は買えないよ。 精々、週に三日だな」
それでも相当なものじゃないですか、と楽は思ったが言葉にするのを止めた。
「こうなると緑茶が欲しくなるなぁ」
ふぅ、と息を吐いて、首を右に左にゆっくり回す。
「さて、と。 今朝買った漫画でも読むか」
「漫画も買ってたんですか……」
「相良も読むか?」
「いいえ、遠慮します……」
ふーん、面白いのに……と言いたげな部長の視線を回避し、鞄から教科書を取り出す新入部員。
「お? これから勉強か?」
「えぇ、まぁ。 早めに予習しておこうと思いまして」
「解らないところあったら遠慮なく聞けよ」
漫画を読みながら真彩が呟く。
「部長が教えてくれるんですか?」
「何でなんだよ」
「その口ぶりがそうとしか思えなかったので」
「……シーコに面倒見てもらえ」
「えぇぇぇぇ……」