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4月1日(月) 出会いは拉致から始まった

 楽は困惑していた。 自分が部室の中央に置かれた椅子に座らされた上に縛り付けられ、目隠しをされていることに。

「あ、あの……」

「なんだ?」

 楽の言葉に真彩が反応する。 可愛らしい声だけに感じる恐怖は相当なものだ。

「ぼ、僕はどうしてこうなったんでしょうか……」

 入学式後の見学会で旧校舎に立ち入ってしまった自分を恨む楽。 その行動はあまりにも迂闊だった。

 目の前に現れた身長一四二センチメートルの悪魔が飛び掛ってきたかと思うと黒いゴミ袋を被せられ、売り出される牛のように部室へと誘導されたのだ。

「君が…… 君がボク達の住処に足を踏み入れたからだよ」

 そんな落ち込む楽の背後に回り込み、耳元で詩子が呟く。 耳にかかる吐息がやけにくすぐったい。

「だ、だからって拉致なんてしなくても!」

「仕方無いだろぉ? こんな正体不明の部活動なんて説明したところで誰がやってくるのか」

「でも、真彩ちゃんのやり方は強引だと思うなぁ」

 唇に人差し指を当てて円が言う。 その視線は目を合わせようとしない真彩に注がれる。

「わ、悪かった! 私が悪かった!」

 やけくそになった真彩が楽の目隠しを取り払う。

「目隠しは取っても、縛っている縄は解いてくれないんですね……」

「まだ入部するかどうかも聞いてないし、下手に外して逃げられちゃたまったもんじゃない」

「真彩ちゃん……」

 真彩の断言に円は苦笑いをした。

「それじゃあ、『娯楽部』の説明をして下さいよ。 入るかどうかはそれで決めますから」

 当然のように楽は説明を求める。 やはり、意味不明のままでは何となく気分が悪い。

「よぉし、きた! それじゃあ、早速説明してやるぜ!」

 ガキ大将のように跳ね上がった真彩。 やけにノリノリの様子だ。

「『自分がやりたいことをやる』! 以上!」

「い、以上って…… それだけ?」

「おう、それだけだぜ。 厳しい縛りもシゴきもなぁんもない自由な部活動! それが『娯楽部』だ!」

 えっへん! と胸を張る真彩。 詩子と円が彼女の後ろで拍手をする。

「それのどこが部活動なんですか……」

 呆れる楽に対し、真彩は自分が馬鹿にされてると思い、激怒する。

「あぁん!? 立派な部活動じゃねぇか! 部室を与えられるってことはなぁ、とっても名誉なことなんだよ!」

「……」

 気圧されたのか呆れたのか、あるいは相手にする気を無くしたのか…… 楽は黙り込んでしまった。

「じゃあ……」

 顔を伏せた楽がぼそりと呟く。

「ん?」

「じゃあ、これも活動の一環なんですか!」

 楽椅子をガタガタと揺らして抗議をした。 上手く円を描いている辺り、なかなかバランスが良い。

「普段だったらもっとスマートにやる予定だったんだけどなぁ。 入部希望者がこの時間になっても来ないもんだから焦っちまってよ」

 と、楽にポケットからベルトが壊れたデジタル時計を取り出して見せる。 画面には十一時三十二分の文字が表示されている。

「十二時までに入部届け出さなきゃいけないもんだからさぁ」

「それならスマートにやる方を見せて下さいよ」

「す、スマートな方か……」

 いきなり話題を振られて真彩は戸惑った。 何も考えてないのは明白である。

「シーコ、見せてやれ」

「ボクが?」

「いいからいいから」

 部長権限で任務を押し付けられた詩子は瞼を閉じて、首を捻って数十秒沈黙する。

「素敵なあの子や可愛いあの子と楽しい放課後が過ごせるのは娯楽部だけ! そんな娯楽部に君も入ろう!」

 舞台女優の如く叫び出したと思ったら、その場でクルクルと周り、楽に手を差し出す。

「……」

「ど、どう?」

 円が楽の反応を伺う。 その体勢が何だか胸を強調しているようでドキドキする。

「ら、拉致よりかはマシ、です」

「マシとか言うな!」

 更に憤慨する真彩。 一方の詩子はふふん、と踏ん反り返った勝利者のポーズである。

 こうして、済し崩し的に娯楽部に入部した楽なのであった…… それが良いか悪いかは誰も解らずに……

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