4月9日(火) これは私の仕事だ!
「んぬぅぅぅぅぅ!」
パイプ椅子の上に立った真彩が蛍光灯を振り回す。 だが、遊びで振り回しているわけではない。 彼女の『重要』な任務なのだ。
「ま、真彩さん……」
「てっ、手出しをするな! これは私の仕事っ! 仕事なんだっ!」
「蛍光灯を換えるのはボクの仕事だって先代だって言っていたじゃないか」
「先代は……私にも言ったのだ! 『真彩にもいつか出来るはずだ』って!」
「『いつか』っていつになるんでしょうね……」
そう呟いた楽の顔面を真彩が蹴り飛ばす!
「今だろうが!」
一生懸命背伸びをするがその差は全く縮まることはなく、蛍光灯を握る手が空しく空を切り続ける。
「真彩ちゃん、意地っ張りー!」
「うるせぇ! 何とでも言いっ……やがれっ!」
それでも辞退しようとしない真彩に楽が顔を抑えながら呟く。
「真彩さんはどうしても自分でやりたいんですよね?」
「ああ。 私の大事な仕事だからな!」
「……じゃあ、誰かが『肩車』をするとかどうですか?」
「かっ、肩車!?」
その言葉に真彩が動揺する。
「『高い高い』の方が良かったですか?」
「高い高いは私に対する明らかな侮蔑だっ! 却下だ! 却下っ!」
猛烈な勢いで高い高いを却下する真彩。
「じゃあ、跳び箱持って来い」
「無理ですってば。 持って来る以前にバレて怒られますよ」
「お前は蛍光灯を換えられなくてもいいって言うのか!」
「そういう問題じゃないでしょ、真彩ちゃん……」
跳び箱案も却下。
「な、なら……何がいいんだよ」
「脚立ぐらいなら借りられるんじゃないかな。 ボクが適当な理由付けて来るから。 楽君、一緒に来てくれるかな?」
「はい」
楽と詩子は揃って部室を出て行った。
「……」
「おや、納得行かない様子だね、真彩ちゃん」
「あったりめーよ! 部長の仕事を奪おうとしてるんだぞ、アイツら!」
「そりゃあ、真彩ちゃんは見ていて危なっかしいから」
円の言葉にうっ、と胸を押さえる。
「お前って、たまにナチュラルに人を傷つけるから嫌いなんだよ……」
「あ! 私、変なこと言っちゃった?」
「いや、いい……気にするな、お前は悪くないよ」
「あーもー! はっきり言ってよ真彩ちゃん!」
地団太を踏む円とパイプ椅子の上でしゃがみ込み、ぶつぶつ呟く真彩。 傍から見ると誰にも理解出来ない光景である。
「この際だから私が言うけど、真彩ちゃん!」
「なっ、なんだよ……」
突然、自分の頭に手を置かれて戸惑う真彩。
「子供みたい!」
「うるせぇぇぇぇぇぇ!」
激しく叫ぶと同時に部室の扉が開く。
「何やってるんですか、真彩さん。 外まで響いてますよ」
「……恥ずかしい」
「こっちはもっと恥ずかしいわ! ……で、脚立は持って来たんだろうな?」
「えーと、それなんですけど……現在、貸し出し中で……」
「お前、何しに職員室行ったんだよ!」
パイプ椅子から下りて蛍光灯を振り回す真彩。
「それじゃあ、最後の手段として机に乗ったボクが真彩を肩車して蛍光灯を取り換える、でいこうか」
「それだったらシーコが換えりゃいいじゃんよー」
「『重要』な仕事を放棄するのかい?」
「うぐぐ……」
他の部室から机を借り、真彩を肩車した詩子がその上に乗っかる。
「おい、楽」
「何ですか?」
「スカートの中、覗くんじゃねぇぞ!」
「覗きませんよ……」
こうして、部室の蛍光灯は見事に取り替えられた。 しかし、この日を境に真彩が率先して蛍光灯を取り替えようとすることはなくなった……




