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ゾディアック・サイン 6章・後『家族ジェミニ』

どもぉー


随分書かなくてすいません^^;

読んでくれている方々(いるかな?)に申し訳ないw

ってなわけで、前後編なのに後編書かなかったので投稿です^^



「さあ!あたしのライブの始まりだ!!」

ギターから弦が飛び出してくる。

それはまるで蛇のごとくジェミニを狙う。

「「そんな攻撃あったんないよぉー」」

それをいとも簡単に避けるジェミニ。

「甘いね!『ロック』!!!!」

そう叫んだ直後、バルちゃんは小刻みにギターを鳴らした。

その刹那―――避けたはずのジェミニの皮膚から裂かれたような傷が浮かび、血を噴出す。

「「―っ!?」」

思いにもよらなかった痛みに二人はその場で倒れる。

占い師である李里香さんも痛そうに耳を塞いでいた。

「す、すごい…これがバルちゃんの力なんだ……」

あたし、神崎由香は思わず絶句してその状況を見守る。

あのすごいジェミニを圧倒している。初めてみる…バルちゃんの本当の力。



「由香ちゃん。みんな。先に逃げてて」

そんなとき、あたしたちに近づいてきた美優ちゃんがそう言った。

「あたしがかけた『サイレント』もバルちゃんの気合と音量で砕かれるかも知れないし

 何よりこの状況でジェミニに逆転されたら大変だから、みんなだけでも先に逃げといて」

『サイレント』と言うのはバルちゃんのこの音色が放つ「能力」を無効化する術らしい。

乙女座の占い師には常にこれが付属されており、さらにこれを「譲渡」できるというものだ。

それのおかげであたしたちはバルちゃんの能力もただのギター音にしか聞こえないわけだけれども……。

「おい、美優がそういってんだ。ここは大人しく移動したほうがよさそうだぜ?」

「うん…。私もそう思う……」

あたしの後ろで、綾ちゃんと雪音ちゃんがそう言った。

確かにこのままあたし達がいても足手まといになるだけだしね……。

「わかった。美優ちゃん!絶対負けちゃダメだよ!!!」

「うん!わかってるって!!」

美優ちゃんは可愛らしく手でブイッ!とやってあたし達に見せる。

それを見てあたし達は安堵し、そのまま逃げるように廊下を走り去った。

「ま、待ちなさい!!神崎由香!!!」

向こうから微かに、李里香さんの声が聞こえて振り返る。

その表情は初めてみたあのときの優しそうな表情ではなく、険しく、恐ろしい形相だった。





--------------------------------------------------------------------------------




「くっそぉ…」

「『千鳥』を放っても倒れない…ですか。さすがレオンさんです。感心します」

俺、獅子座のレオンは血まみれの身体で膝を付き、目の前で立っている少年を睨む。

肩で息をし、咳を漏らす。体内から盛り上がってくる血が、口から放たれる。

「……60%」

俺がそう呟くと同時に傷が少しだけ癒える。

その代わり脳内ではまた一つ『理性』が消えた。

くっそぉ…あの糞野郎に星力を共有してるせいでここまでが限界だ。

これ以上『天使喰い』を発動するのは難しい……。

俺は傷が癒えたのを理解し、立ち上がる。

少年。毒島裕太もあの『千鳥』で相当の星力を費やしたのか、強がっていても、息が上がっていた。

そして毒島は手を合掌する。その後ゆっくり手を離していくと、中から透明な刀が現れる。

「…『星剣』。剣の知識はほとんどないけど、星力の節約にはそれが一番いい」

そういって、毒島は剣を右手で持つ。

透明ではあるが、なぜか紫色のオーラが放たれていた…。なんだあれは??

「行きます!!」

そういって毒島はこちらに向かって地面を蹴る。

早いッ!なんつースピードだ!人間の出せるスピードじゃねぇぞ!?

「『白式』これもリブラさんに教えてもらった星術です!!」

そう言った後、奴はこちらに切りかかろうとする。

俺はそれをバックステップで避ける。

今ギリギリだったぞ!?

「流石に早いですね!単独の速さだったら星霊一番でしたっけ!?」

毒島はそういいながら何度も俺に切りかかろうとする。

こっちはバックステップで避け続けることしか出来ない。さっきから防戦一方じゃねぇか!!

それに毒島の足を見てみると、地面に足を付けていない。付ける直前で透明な光が現れ、それを踏んでる。

なるほど、あれが「白式」って星術なのか!!なんて厄介なこった!



「どうしたんですか?攻撃の隙はあるはずですよ」

毒島が冷たい目でそう問いかけてくる。

確かにそうだ。いくら早いとは言え、攻撃にムラがありすぎる。

攻撃の隙がある。けれど………。

(なんだぁ?てめぇのダチには攻撃できないってか?あぁ??)

心の中でそんな声が響く。『本能』の方が出てきやがった。

自問自答だ。本当に「もう一人の俺」がいるわけではない。

けれど『本能』はまるで一固体として存在するように俺に語りかけてくる。

(やっちまわないと意味ねぇぜ??ジェミニを止めなきゃてめぇのマスターも死ぬかもしんねぇんだから)

「―ッ!?」

そうだ。由香。あいつが今どうなってるか心配だ。

けれど目の前には毒島。あいつを倒さなくちゃ、先には行きづれぇ…。

「わかってんよ!!」

俺は毒島の剣撃をかわし、奴に拳を与える。けれど、寸前でそれは止まってしまう。

「『白零』。さっきも使いましたね…」

「くそっ!!」

俺は大きく跳び、毒島と距離を取る。

攻撃に隙があっても、防御に隙がない。

「……手加減してませんか?」

「―ッ!?」

「…その様子だと無意識ですか。なら今のうちにやらせてもらう!!」

そういい捨てて毒島は「白式」を使って距離を詰めてくる。

再びバックステップをして距離を測る俺。くそっ!本当にキリがねぇ!!

それに手加減だと?してしまうに決まってるだろ!相手は毒島だぞ!?人間だぞ!?

「……その「覚悟」を持てってことかよ…ッ!リブラァ!!!」

俺は今はいない女の名を叫ぶ。

あいつは知ってるはずだ。俺が過去に人間を殺したことを!!

だからこそのこの作戦なのか……まんまとハメやがって!!!

「リブラさんに会う前にあなたはここで死ぬんですよ!」

俺のことを本気で狙うかのごとく毒島が剣を繰り出す。

それをスレスレでなんとかかわす。服が少し切れた。

「まだまだ!!」

突如持ち方を変え、変則的な攻撃を見せる毒島。

その攻撃に俺は避けることもできず、胸を裂かれる。

胸から噴き出す血と、その痛みに俺は足がぐらつくが、耐えて大きくジャンプし、再び毒島と距離を取る。



「はぁ…はぁ…」

「やっぱり手加減してますね。60%も能力を使ってるレオンさんなら今のも避けれたはずです」

「いや……今のは流石に危なかったぞ…」

俺は息を荒くして毒島を睨む。

(手加減を捨てろ!!覚悟を決めろぉ!!てめぇを殺そうとしてる奴だぞぉ!?)

心の中で『本能』が囁く。

もういっそのことこいつに任せたくなった。

けれどダメだ…。毒島を殺したらいけない。絶対に…。

「―ッ!?」

そのときだった。

俺の身体中に爆発するように痛みが走る。

それは身体中を這いまわり、俺を内側から蝕んでいく。

つい最近にこの感覚に襲われた記憶がある。

「てんめぇ…どうやって……」

俺は目を見開き、身体中から冷や汗を出して、喉から掠れた声を出して毒島を睨んだ。

「塗装式毒。剣に塗っていたんですよ。『ポイズンメイカー』で作った毒をね」

冷たい表情で淡々と語る毒島。

『ポイズンメイカー』。蠍座の星霊「スコーピオン」のものだ。

なんで…毒島がこれを使ってんだよ……。

やばい…このままじゃあ身体に侵食して、DEADENDだ。

(使えよ。70%ぐらいならまだ出せるぜ?)

『本能』がしつこく囁く。

「…毒島……」

「ん?どうしたんですか??」

「……いいか。しっかり耐えろよ!…70%!!!」

俺はそういって、『天使喰い』を発動する。

傷が癒えていく。そして再び俺の中で精神は凶暴なものへと変貌していく。

そして俺は突然―――――姿を消す。

「―ッ!?」

毒島は慌てて目の前に『白零』を展開させるも、それはすぐさま打ち砕かれる。



ほんの一瞬。

その刹那、毒島の背後に俺、「獅子座のレオン」の姿。

そして数秒後……毒島の体内から赤い液体が噴き出し、体育館のゴム床に倒れていってしまった。

「本当にすまねぇ…死んでねぇことを祈る」

俺に医療技術はない。

そして今の精神で毒島を見れば必ず俺の『本能』は奴を殺しにかかるだろう。

俺は倒れた毒島の姿を見ず、体育館を出て行った。




--------------------------------------------------------------------------------



「あららぁ~毒島くん負けてしまいましたかぁー♪」

「り、リブラ…さん…」

「安心してくださいませ♪応急処置ぐらいならわたくしできますわ♪」

そういいながら、目の前の女性「天秤座のリブラ」は僕の身体に包帯を巻いてくれる。

この人は僕の「先生」と呼べる存在だ。短い期間だけれども、さまざまな術を教えてもらって

俺の夢を「発展」させてくれた人だった。

「負けたけれども♪今のでおわかりしました?あなたは今『レオン』にも匹敵すると♪」

「……はい」

「これであなたの夢は叶いましたわね♪もう後はご自由になさいまし♪♪」

僕に包帯を巻いてくれたリブラさんはそのまま、体育館を去ろうとする。

「待ってください!!」

「ん?どうしたのですか??」

「きょ、今日だけでも『貴方』の役に立ちたい!!」

「…それは口説いておりますの?」

「ち、違うます!!」

突然言われた言葉に僕は慌てて返すと、リブラさんはクスっと小さく微笑む。

「ありがとうございますわ♪それでも傷は深いです。少し安静にしてから来てくださいまし♪♪」

そういうと、僕の頭に手を置くリブラさん。頭から何かが流れ込んでくる気がした。

「…私の星力をほとんど供給しましたわ♪共有ではなく『供給』ですわ♪♪」

そう最後に微笑んだリブラさんはそのまま去っていった。





                       ☆




「さあさあ♪面白くなってきましたわ♪♪」

わたくし、天秤座のリブラは廊下でステップをしながらそんな言葉を漏らした。

毒島くんがレオンくんに負けた。まあ当然ではあるけれど、

レオンくんが毒島くんに攻撃するのは根性がいるはずでしょう。

さてはて、現在李里香ちゃんはどうなっているでしょうね♪♪楽しみですわ♪



わたくし、リブラは今もこの戦乱の渦を『観測者』として見渡すのだった―――――――。





                      ☆



「おらおらぁ!!ビートを刻むぜぇ!!!」

私の目の前で、私の星霊『乙女座のバル』がギターを奏でている。

とても単調で、激しいリズムの音調。ジェミニも皮膚と言う皮膚から傷を出している。

「ジェ、ジェミ!!『―――』」

「え?ミニ??なんて!?」

双子座の二人が何かを言っていたが、お互い聞こえてなくて通じていないみたいだ。

「ジェミニ!あんたとあたしは『ジャンケン理論』で勝負がついているんだよ!!」

そういいながら、さらにバルちゃんは小刻みに弦を奏でる。

長年上手く上位に食い込んでいたバルちゃんは、みんなの能力はある程度熟知しているらしい。

ジェミニの能力は『ワードキャッチ』。簡単に言うと「しりとり」らしい。

お互いが言った言葉を『星術』で具現化する能力らしいんだよね。

さっきの爆発も、海も、この追跡カメラも全てその『能力』で出しているらしい。

じゃあそのお互いの『声』が聞こえなかったらどうなる?

騒音の中で「しりとり」をやっても果たして成立するのだろうか?

否。まったく成立しないのだ。言葉の聞こえないしりとりなんて、まったく持って成立しないのである。

だから!バルちゃんがジェミニに負けるはずがない!!



そんなときだった。

一瞬だった、私の後ろに誰かがいる。その直後、私の首に腕が回る。

「やめなさいッ!!乙女座のバル!!!」

その声を聞いてバルちゃんは思わず声の方を向き、ギターを奏でる音も止まる。

そして私の目の前には、鋭利なナイフが突きつけられていた。

「…ミュー!!」

慌てた様子でバルちゃんが叫んだ。

そう。私は今『松原李里香』に掴まってしまい、人質にされてしまったのだ。

首元にかすかに触れるナイフが恐怖心を与える。怖い………

「足引様のためにも、あなたにはここで自害してもらうわ。」

李里香さんの卑劣な言葉が私の耳元で響き渡る。

バルちゃんは悩んだ様子で顔を歪ませる。

「『追跡カメラ』→『ランチャー』!!!」

その直後、そんな言葉が響き渡り、バルちゃんの横腹に大きな弾丸がぶつかり

バルちゃんの身体が『くの字』に曲がり、そのまま吹き飛ばされる。

「バルちゃん!!!」

私は思わず叫ぶ。その直後、私の首元に衝撃が走る。目が朦朧としてしちゃう……。

「ごめんね。乙女座の占い師さん。少し眠っておいてね」

朦朧とする意識の中、私の耳に響いた李里香さんの声。

まるで人々を包み込む聖女のような、心地よく…優しい声だった……。




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「……くそっ!!」

身体中に痛みが走る。

今の完全に肋骨逝ったぞ…。

「……『バラード』」

私はギターを演奏し、大人しい音調のメロディを奏でる。

肋骨の痛みも、癒えていく。ふぅー……痛みが消えた。

「「本当、便利だよねぇー♪その能力♪♪」」

痛みがなくなった私に、近づき、そういってくるジェミニ。

あんたらの能力の方がよっぽど便利だと思うんだけど……。

そんなときに、ある一点が目に見える。

「ミュー!?」

人質にされていたミューが李里香に首を攻撃されて気を失う。

その身体を受け止め、そっと地面に置いた李里香は私のほうに近づいてきた。

「乙女座のバル。あたしの目的は『獅子座のレオン』だけなの。今ここで邪魔をしないといえば見逃すわ」

李里香は卑劣な表情をして、私を睨みつける。

その手にはまだナイフを持っている。二個目を取り出し、それを一つ私に向けて投げつけてくる。

それを私は軽く避ける。避けた先の壁にグサッ!!とナイフが突き刺さった。

(…ちっ、抵抗すればこの距離からでもミューを殺れるって言うのを言いたいのか……)

「さあ?どうするの??あたし達を倒すか、レオンたちを見捨てるか……」

卑劣とまでいえる彼女の言葉にあたしは悩み苦しむ。

どちらにしても私はジェミニを倒せない。

攻撃した直後にミューは刺され、死んだ場合は私も消滅する。

ジェミニを倒せるほど時間はない。

かと言ってここでレオンたちを見捨てても、後に知ったミューに怒られるだろう。

そんなとき、私の中で一つの思いが脳内を走った。

「……そうだよな。これでいいじゃんか」

私はピックを持ち、手を大きく挙げた。

李里香はそれに警戒して、ミューにナイフを投げれる体制を取る。

「……『音楽交響大聖堂』!!!」

そう私が叫んだ直後、ギターを大きく一度奏でる。

その言葉の直後に、李里香はナイフをミューの方に投げつける。

そして、世界は一変してしまった―――――。




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「「な、何これ??」」

「……なんだって言うの?」

李里香もジェミニも困惑してしまっている。

校舎だったところは、一変してしまい、大きな聖堂になってしまっている。

そこの舞台には、かなり大人数の人々が、それぞれの楽器を持って立っていた。

そしてその中央に立つ。指揮棒を持った………バルの姿。

「Let’s……オーケストラ」

そのままバルは大きく腕を挙げ、それを振り下ろす。

その直後、沈黙だった空間に突然壮大なメロディが響き渡る。

空間の四方八方から奏でられる大演奏が響き渡る。

「す、すごい……」

「「ほぇー…」」

李里香もジェミニもその音色に圧巻としてしまい、止まる。

ものすごい大演奏。

全ての楽器が、絶妙なくらいに音を奏でていて、誰も「何もできず聞き入ってしまう」ほどだ。

「……一気にビートを上げる!!」

そういうと、バルちゃんは突然指揮棒の勢いを変える。

その直後、オーケストラの雰囲気も一変し、派手な音調へと変わる。

「うっ!!」

「「ひゃ!?」」

李里香とジェミニはその場で膝をつく。

突然走った痛みに耐えれなかったのだ。

まるで大きな重力に押さえつけられているかのように跪く李里香とジェミニ。



苦しむ三人を他所に、オーケストラの演奏は終盤に入る。

最後に、バルがゆっくりと手を挙げ、オーケストラも終盤の演奏を行う。

そして、左手をクルクルっと廻し、それを合図にオーケストラは演奏をぴたりと止めた。

「…みんな。いつもありがとうね」

バルは静かな声で、演奏しているみんなに呟いた。

そして、世界は元の校舎へと戻ってしまう。



「……やっぱりね。」

元の校舎に戻り、バルは安堵の息を漏らしながら、倒れるミューの方に向かう。

彼女の身体にはナイフは刺さっておらず、ミューのすぐ近くの床に突き刺さっていた。

「…あんたなら、元々殺すつもりはないって踏んでたよ。

 何、私も人様の復讐の邪魔するほど、お節介な人間でも高尚な人間でもないさ。

 だけど……うちのミューに傷を付けさせようとした罪だけは重い!だからその辺で許してやる」


バルはそういうと、倒れているミューを抱えて、どこかへ去っていった。





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「……乙女座のバル。あそこまでするとは思わなかったわ…」

「そうでしょうね♪彼女は「実力があるのに隠れる」タイプの一番賢い星霊ですので♪」

「―っ!?」

「酷くやられたようですわね♪確かに「ジャンケン理論」で彼女にだけは絶対に勝てないですわ」

「り、リブラさん…」

「大丈夫ですわ♪彼女のあの音譜は「痛み」を与えるいわば幻術のようなものです♪

 気を確かに持って、冷静になればそんな痛みはすぐさまなくなりますわよ♪♪」

やってきたリブラさんにそういわれ、気持ちを転換してみる。落ち着いていこう……。

「……あれ?」

「でしょう♪あの子のあれは幻術の類。最初に音楽を聴いて聞き入ってしまった人に幻術を与えるんですわ♪」

「そ、そうだったんだぁ…」

「さらに子どものジェミニはそういうところ純粋ですからね♪さらに掛かりやすいんですの♪♪」

「そ、そうだったんですか…」

思わず納得してしまう。そういう意味でもあたしとジェミニは「彼女」に勝てないのか。

あの音色に絶賛してしまったあたしはあの時点で敗北していたのか……。

「とりあえず、バルちゃんは今回の件には介入しないと言ってましたし♪堂々とレオンと戦えますわね」

「……はい」

あたしは少しある悔しさを抱き、しょぼくれた表情をして、俯いた。

「そうへこまないでくださいまし♪

 例えばわたくしもカプリコには絶対に勝てないですし♪誰だって勝てない人はいるものですわ♪♪」

リブラさんはあたしを励ますようにそう言ってくれる。

彼女はまるで先生のようにいつもあたしをこうして唆してくれる。

心意はわからない。けれど、あの毒島くんといるときもそうだった。

彼女はあたしたちを見守って、手助けしてくれている。それが少し嬉しかった。

「さあさあ♪まだレオンは倒れてませんわ♪♪毒島くんが一度負けてしまいまして」

「―っ!?毒島くんがっ!?」

あたしは思わず驚く。

彼あんなに強かったじゃない!?

リブラさんとの特訓を見ていたあたしだからこそわかる。あの強さを……。

「まあ、ちょっとの油断ですし♪

 彼はさらに強くなりましたので……レオンを倒したいなら早くしたほうがよろしいかと♪」

リブラさんはそういって微笑む。

さらに強く…?彼女は毒島くんに何をしたのかわからないが、彼も頑張ってるみたいだ。

「わかりました!毒島くんには負けてられません!!」

あたしはその言葉を聞いて立ち上がって、両頬をパチンッ!と叩いた。

「ジェミニ!行くよッ!!」

「「う、うん…」」

「ほら、しゃきっとするの!!」

「「イエッサー☆」」

まだ幻術に掛かったままだったジェミニに喝を入れて正気に戻す。


そしてそのままあたし達はレオンや神崎由香を探すために廊下を歩き続けた。




「さあ♪李里香ちゃんも随分肩の力が抜けたでしょうし、レオン君も罪な男ですわ♪♪」

リブラは微笑みながらそう言い、李里香が行った方向とは逆方向に向かったのだった。





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「はぁ…はぁ……」

流石に、毒島との戦闘はすごいダメージになった。

今も廊下の壁にもたれかかりながら歩みを進めている状態だ。


「レオンっ!?」

そんなとき、声がする。神崎だ。隣には神倉の奴もいる。

「えーっと…これが由香ちゃんの星霊?」

「う、うん。まあね…それより大丈夫!?」

何があったかは……教えないほうがいいな。

「ま、まあ大丈夫だ…安心してくれ」

「ほ、保健室に行ったら色々あるよ?私一応応急処置ぐらいならできるし…」

神倉がそう提案してきた。

確かに今は少し休みたい。

「そ、そうだね!綾ちゃんとはぐれちゃったけど、今はそっちが優先だ!!」

そういって由香は俺の肩を抱えて、歩くのを手伝ってくれた。





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「てめぇ…どうしたんだよ……その傷」

「…お、鬼塚か……」

ある廊下。

あたしはある人影を見つけて神崎たちに一言行ってその人影を追ってきた。

するとそこには包帯を巻いている見知った男がいたんだ。

本当に傷だらけ、一体何があったのかわからないが、物凄いことに巻き込まれていたのだけはわかる。

「てめぇ…今までどこで何してたんだよ!毒島ぁ!!!」

あたしは思わずその男に叫んでしまった。

「…何って、僕はレオンさんを倒そうとしてたんだよ。返り討ちにあったけどね」

「お、おい…レオンってあれだろ?由香の星霊だろ??なんでお前がそいつを倒そうとすんだよ!答えろよ!!」

あたしはもう何が何かわからず叫んでしまう。

毒島が傷だからなのはレオンのせい?

今までこいつはどこにいた??

そしてなんで毒島がレオンを狙う???

あの李里香って女が関係してんのか????



全てがわからない。

そう困惑しているあたしに目掛けて、毒島は口を開く。

「これは……僕の意志と、意地だ」

その表情は、いつもの……あの河川敷で特訓していた毒島と同じ眼だった。






学校内での李里香の復讐劇は、様々なものが交錯していき、中盤へと差し掛かるのだった―――――――。





                     ☆





「これは……僕の意志と、意地だ」




三日前。

「あ。あなたがわたくしに会うのは初めてでしたわね♪

 わたくしの名前天秤座のリブラ。以後、お見知りおきを♪♪」

そう一言置いて、リブラは。僕の頭目掛けて鈴をぶつけようとする。

「……あら?」

その鈴は、僕の頭上で突然止まってしまう。

僕は鈴と自分の頭の間に、半透明な刀を差し込んだからだ。

この剣で彼女の鈴を防いだのだ。

「…これはこれは、すごいですわね♪毒島裕太くん。わたくしの不意打ちを止めますか♪♪」

リブラは、僕の行動に物凄く関心を持ったのか、興味深そうに僕をまじまじと見つめる。

僕は鈴を止めた剣振り、リブラはそれを避けるように距離を取る。



「どういうつもりですか?」

僕は剣を構えながらリブラを睨んだ。

「どういうつもり?わたくしはあなたをスカウトしにきたんですわ♪」

彼女はきょとんとした表情でそう言った。

まるで今流れている緊迫した空気をぶち壊そうとしているようだ。

「…スカウト?」

「えぇ♪わたくしはあなたの強さを熟知しておりますので♪♪」

「………」

僕は彼女の言葉に思わず絶句してしまう。強い?僕が??

「それで、わたくし割りと万能ですので♪あなたの願望をかなえてあげようかと思いまして♪♪」

彼女はさらに言葉を続ける。



「さあさあ♪毒島裕太。あなたはなぜこの河川敷で特訓をしているのですか?

 本当にあのペパレンジャーと単身では闘えなかったからですか?

 それとも神崎由香、獅子座のレオンのコンビに協力したいからですか?

 もしくはそう獅子座のレオンに言われたのですか?

 「星力を共有するから協力しろ」と……。

 そんなわけはございませんわよね?

 少なくとも彼は他人を巻き込む性質ではありませんわ…。

 貴方は本来なら星力を持っていても闘わなくていい存在のはず。

 なのに…どうして戦闘星術の特訓をしているのでしょうか??

 ましてやスコーピオンの持っていた『ポイズンメーカー』まで習得して…。

 貴方が力を求めている本当の理由は……いったいなんでございますの??」

口早に問いかけ始めるリブラ。

彼女の言葉は彼女の口からではなく、僕自身の内側から聞こえてくる感じがした。

それほど彼女の言葉は正論であり、納得せざる終えなくて、的を射ていて、僕の気持ちそのものだった。



だからだろうか……僕の中で何かの鍵が開いた気がしたのは。

「……レオンさんに…勝ちたい」

僕の声に、天秤座のリブラは思いがけない答えだったのか驚いていた。

「ほぉーレオンくんに勝ちたいと…。これは意外な答えですわ♪」

「星力を共有してもらってなんだけど…僕は彼に勝ちたい!

 実は全部覚えている!スコーピオンが彼に負けたのも!スコーピオンが僕の身代わりをして死んだことも!

 それでも!僕の友人に勝ったレオンさんに……僕は勝ちたい!あの人に勝ちたい!!

 人間が星霊に勝てるわけないのはわかってる!!それでも勝ちたい!!僕はあの人に勝ってみせたいんだ」

「…それは『復讐心』ですか?それとも単なる『憧れ』から来るものでしょうか?」

僕が吐き出した言葉に、彼女は淡々と問い詰めてくる。

「……両方です」

僕はなぜか彼女には正直に打ち明けてしまっていた。

けれどそんなことはもうどうだっていい。誰かに言いたかったこの気持ち。

一度出てしまったらもう………止まるはずがない。

「…勝ちたい。とは言いますが、貴方は現在レオンくんの星力に依存しておりますし

 彼のパートナー。神崎由香と共にいることで貴方はもう既にレオンくんの『駒』ですわ♪

 その状況で勝ちたい。などとほざいていても何の意味も持たないかと……」

彼女が正論を叩きつけてくる。僕はその言葉に黙るしかなかった。

そして僕は一つの結論に至ってしまったのだった…。

「…天秤座のリブラ。あんたは今僕に何をしようとした?」

「……わたくしと貴方の『敵対意識』を平等にしようとしたのですわ♪」

「平等?」

「そう♪わたくし天秤座のリブラは他人と自分の事象や対象を『平等』に出来ますの♪」

「なら……やってくれ」

「え?」

僕の言葉に彼女はきょとんとした顔を見せた。

「…どうしたんですの?急に??」

「だから、僕にさっきやろうとしたことをやればいい。

 ただし条件がある。リブラ…僕に「星力を共有」しろ。

 それで僕は二人分の星力を手に入れることが出来る。そしてレオンさんに僕は…………勝つ!!」

僕の言葉を聞いた彼女は数秒の間唖然としていたが、その後、楽しんでいる子どものようににやけ始めた。

「貴方…面白いですわ♪李里香ちゃんの次に面白い人間を見つけました♪

 わたくし天秤座のリブラ。貴方…いえ、貴方様に前面協力しようと思いまして♪♪」

そして僕は瞳を閉じる。



その直後、天秤座のリブラの鈴が……僕の頭部に強打した。




--------------------------------------------------------------------------------




「…鬼塚。どいてくれ。僕はレオンさんと戦わなくちゃならない。

 自分のために…。そして、僕に協力してくれたリブラさんのために…!」

「ま、待てよ毒島!お前は利用されてるだけなんだぞ!?」

目の前の彼女を無視して行こうとする僕を彼女『鬼塚綾』は腕を掴んで止める。

「…利用されてるのはわかってる。でもこれはチャンスなんだ。ここまでしないと僕とレオンさんは敵対できない」

「て、敵対する必要ねぇだろ?仲間だぞ!?」

「……これは意地なんだ。僕はレオンさんを倒したい。ただ…それだけなんだよ。鬼塚」

僕は彼女を諭そうと説得する。けれど彼女は手を離してくれなかった。

「わっかんねぇよ!何が意地だ!!そんなもんのためだけに由香を裏切るのか!?てめぇは!!」

「……これは、神崎のためでもあるんだよ。」

「あぁ!?何言ってんだ?」

僕の漏らした言葉に、鬼塚は顔を歪めて疑問府を浮かべる。

「…鬼塚は見たことないだろうからわからないね。でも僕は目の前で見た。

 あの一瞬を。忘れていたけれど思い出した。レオンが……後少しで神崎を殺しかけるところを」

「え………」

その一言に、鬼塚は唖然としてしまった。

僕を止めようとしていた力も弱まった。

その隙に僕は彼女の手を振りほどく。

「あっ!てめぇ!!」

彼女がそう叫び、再び僕の腕を掴もうとする。

けれど彼女の手は途中で止まってしまった。

「な、なんだよこれ…」

「…『白零』…『白塔』」

僕はそう呟いた直後、鬼塚の周りを四角形の白い壁が現れる。

鬼塚はその四角形から出れないのか「出せッ!!」と咆えている。

「その『白塔』はどんな衝撃からもバリアしてくれるものだ。学校がつぶれたとしても鬼塚は無事だから…」



僕はそう呟いて、逃げるように彼女から背を向けて廊下を走りぬけたのだった。




--------------------------------------------------------------------------------




「……ついに見つけたわ。レオン…」

「…松原李里香……」

廊下の一角。

そこで話していた俺、由香、神倉の三人の目の前にいたのは

松原李里香と、双子座のジェミニだった。

「しりとり始め!『ランチャー』→『チャーシュー』→『シューター』!!」

「『シューター』→『太陽』!!!!!」

そう言ったジェミニの頭上に、真っ赤で巨大な球体が現れる。

あまりに巨大で、天井をつきぬけ、学校が崩壊していく。

「由香!神倉あぶねぇ!!」

俺は二人を庇い、その瓦礫を背中に受ける。



「「さあさあ!あっついあっつい太陽だぁー!!」」

二人が手を挙げている先にある太陽から熱気が伝わり、身体中から汗が噴き出す。

「レオン……暑いよぉ…」

隣で由香が完全にバテてる、動揺に横にいる神倉もだ。

この二人を非難させねぇと……どうする…。

「「はっはっは!お困りのようだねぇーレオン!!」」

勝ち誇った表情でいるジェミニ。ただ本人たちも汗まみれなのはスルーしていいのだろうか?

「…『ウーロン茶』」

そう思っていると、松原李里香が何か呟く。

すると二人の前には冷たそうなウーロン茶が出てくる。

「わー!」「リリ姉!!」「「ありがとぉー!!!」」

二人はそれをおいしそうに飲んでいる。くっそぉー…俺もほしい……。

「美味しいねぇー♪雪音ちゃん」

「うん。これで暑くなくなった…」

「ってあれ!?なんでお前らも飲んでるんだよ!?ないの俺だけ!?」

振り返ったらジェミニ同様上手そうにウーロン茶を飲んでる由香たちに俺は驚いてしまった。

恐らく向こうさん方の配慮だろう…。ご丁寧でいいこったぜ!!

ジェミニはおいしそうにウーロン茶を飲み干すと挙げていた手を振り下ろす。

すると、俺の方向目掛けて太陽が突っ込んでくる。おいおいマジか!?




俺は涼んでいる由香と神倉を両脇に抱え走り始める。

神倉のほうは至って大人しいが、由香のほうはなにやら騒がしい。

「女の子を脇に挟んで運ぶってどうなの!?ねぇ!?」だとか。こんな状況でそんなこと考えるのお前ぐらいだよ

太陽はどんどん重力にしたがって落ちていき学校が次々と溶けて崩れ去っていく。

「こうなったら!!」

俺は三階だったそこから大きく飛び降り、広い運動場に降り立った。


太陽はその後も鈍くもゆっくりと地面まで落ちていき、やがて消滅した。

「あぁー…暑かったぁー」

由香がそんな弱音を吐きながらへたれこんだ。

ついでにまだ抱えていたまんまだった神倉もそっと降ろしてやる。

その直後だった。神倉と神崎を突然真っ白な四角形の結界で閉じ込められたのは。

「……さすがにこれはやりすぎじゃないですか?李里香さん??」

どこからかそんな声。

どうやら上空だ。その声の方に見上げてみると、そこには『流星鳥』に乗った毒島の姿があった。

「…ジェミニがやりすぎちゃったのよ……」

少し呆れたようにはぁ…っと溜め息を吐きながら松原が言うとジェミニが笑う。

「「あははーごめんねぇー♪」」

「まあ、この空間内で何がどう壊れようが関係ないのは事実ですけど…」

毒島がさらに言葉を続けて俺のことを見下してくる。



ってかまずい状況になってしまったな。

校舎が崩れ、現在俺の前には双子座のジェミニと、なぜか敵側に回った毒島裕太。

「あらあらレオンくん♪これが本当の『四面楚歌』ですわね♪♪」

「―ッ!リブラ!?」

俺の後ろから突然耳元に声が吹きかけられる。

天秤座のリブラだ。俺が振り返ると同時に彼女はバックステップで距離を取った。


「さあさあ♪これが最終ラウンドでございますわ♪♪獅子座のレオンくん♪

 貴方が使った『天使喰い』での『悔い』が起こした産物である

 この二人をレオンくん、あなたは『喰い』散らすことは出来るでしょうかねぇー?」


リブラの話を聞き終えた後、もう一度元の目線に戻す。

『殺気』を帯びた二人…いや、四人の人の眼がそこにはあった。



「さあさあ♪バトル……START…ですわ♪」



リブラの不気味な表情と声が、俺の耳を蝕んだ瞬間だった―――――――――――。



                  

                  ☆



「さあさあ♪バトル……START…ですわ♪」



リブラのその言葉だけが響き渡る。

俺、獅子座のレオンの目の前には『流星鳥』に乗っている毒島裕太と松原李里香の姿があった。

「うーん」「どうしよぉー」

俺の前でジェミニは未だ幼さを残した声で、そんなことを話していた。

「『ウーロン茶』→『チャーシュー』!!」

そういうと、二人の前には大きなチャーシュー肉が現れた。

それを美味しそうに頬張る二人を見ていると少し腹立たしさも出てくる。

……腹減ったなぁー

「『チャーシュー』→『シュークリーム』!!」

さらに片割れがそういうと、シュークリームが現れ、二人で笑顔で食べていた。

なんだよこの状況……。

俺の前では毒島と松原が睨みを利かせてきている。

しかし、その真後ろで、ジェミニの二人がにこやかに飯を食べている。




「……くそっ!なんだこの状況!!」

俺は思わず叫んでしまう。

なんだこれ!ギャグか!?ギャグマンガ的ノリか!?

新喜劇だったら俺なら即笑ってしまってるよ!!ってか笑いてぇよ!!

「……李里香さん。ここは僕にやらせてくれませんか?」

「毒島くん?」

「貴方がレオンさんに抱く感情はリブラさんから聞きました。

 だからこそ貴方がレオンさんと戦いのはわかってますけど、僕に先やらせてください」

毒島が李里香を見つめながら、そんな言葉を言っていた。お、おう……物騒な話してんなぁ

まあそれはそれとして、一対一で来てくれるのはありがたい。

正直に言うと、今の毒島と松原を同時に相手していたら勝てないからな。




「……わかったな。ジェミニ、私達は乙女座のバルを探すわよ。

 介入しないと言っていたけれど、邪魔されたら困るし……不意打ちなら勝てるかも」

「「あいあいさー☆」」

そういって、松原は踵を返して、ジェミニを去って教室内に入っていってしまった。

これで運動場に残ったのは

俺と毒島、そして『白塔』で包まれた由香、神倉、そして鬼塚と俺の後ろでにやけているリブラ。

「……行きます!!」

そういわれた直後、毒島は指を鳴らした。

その直後だった。

「な、なんだこりゃ!?」

俺は丸い輪のような空間に閉じ込められてしまう。

くそっ!殴っても壊れねぇ!!

そのまま毒島は手を大きく横に振りかぶる。

振りかぶった後には4匹ほどの鳥の姿があった……『爆鳥』だ。

その爆鳥は動けない俺に目掛けて飛翔し、俺に突撃する、触れた直後に俺の身体に爆発した熱が走る。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

あまりの痛みに倒れこむ俺。

「……『白輪』。敵の動きを止める『白塔』のアレンジ星術です」

そう淡々と話す毒島。

こいつ……さっきよりも『爆鳥』の威力が上がってる!?

俺は思わずリブラの方を見る。

リブラはそんな俺の視線に気付いたのか、俺の方を見て……にやりと笑った。

(野郎……!何かしやがったな!?)

「さあ…レオンさん。早く『天使喰い』を発動してくださいよ。

 あれを発動した後の貴方に勝たないと意味がないんですから……」

そういうと、なぜか毒島が『流星鳥』から降りてくる。

「…てめぇ。どういうことだ?」

「同じ土俵で闘いたいってだけですよ。さあ…『天使喰い』を発動してください」

毒島は自信満々な瞳で俺を睨みつけて、そう宣言した。



「……50%!!」

「そんな程度でいいんですか?俺は貴方よりも強いですよ!!」

俺の言葉が毒島の逆鱗に触れたか

怒り狂った顔をして『星剣』を作り出し物凄いスピードでこちらに向かってくる。『白式』だ。

「くそっ!!」

俺はバックステップで切りかかる毒島の攻撃を交わす。

『白式』を使った奴のスピードは俺とほぼ同じ。確かに奴の方が強いのはわかってる。

「70パァァァセントォォォォォォォ!!!!」

俺はさらに力を上げて毒島に突撃する。

毒島は慌てて『白零』を展開し、俺の拳の威力を弱めるも、俺はそのバリアごと奴をブッ飛ばす。

ぶっ飛んだ毒島は、そのまま地面に落ちる

直前で体制を立て直して『白式』でそのままバックステップして俺との距離を作る。

そのまま毒島は『白式』を使って俺に突っ込む。

俺は彼の剣撃を避け、拳を放つ。しかしこれも『白零』で弱められた隙に避けられる。

避けた直後に、毒島はもう一本の剣を生成し、俺に向かって振ってきた。

俺も『本能』が作用してこれを避けるも、避けきることが出来ず、頬に切り傷が出来る。

そこから数十秒に及ぶ攻防戦が繰り広げられる。

お互いに身体のどこかが掠れ、かすかに血が流れていく。

けれどそんなことはお構いなしにお互い攻撃を避け、攻撃し、避けられ、攻撃される。

そんなことを延々と続けていた。

このままではいずれ押されると思った俺は毒島との距離を作るために蹴りを放つ。

毒島は『白零』を発動しても意味がないと思ったのか、『白零』を使わずに『白式』でバックステップする。



毒島……かなり強いじゃねぇか……。

あの『白式』が厄介だ。あれで得られたスピードは俺のそれと引きを取らない。

そして素人の『二刀流』ってのも案外厄介な代物だ。しかも『間合い』とかわかってる奴のは性質が悪い。

使い方は分かってるくせに放つタイミングや癖がバラバラだ。突然二刀流になるのも焦ったぜ…。

俺は頬から流れる血を服の袖で拭き取る。

向こうで毒島も息を整えていた。すると、また一本の星剣を消滅させた。

「……70%じゃあいずれ僕に負けますよ?」

突然、毒島がそんな挑発を言い出した。

「……どういうことだ?」

確かにさっき70%で毒島の奴を倒した。

70%を超えると徹底的にスピードを上げる技があるからな。

それを使っていないとは言え……確かにさっきからの毒島は違う。―――――強くなってる。

「そうだ。試しにさっき僕をやった技をやってみてくださいよ…」

「―っ!?」

俺はその一言で一気に殺ってやろうと言う気を必死に押さえ、理性を取り戻す。

だめだ。この状態になると本能を押さえるのも一苦労だぜぇ………。

しかし毒島の奴、急に何を言い出すんだ。

さっきかわすことの出来なかった技だぞ?今のあいつの身体は包帯まみれの傷だらけ

あんな状態でもう一度俺の『獅子瞬烈』を受けたら……死ぬ。あいつは確実に死ぬ。

「どうしたんですか?こないんですか??本能に任せてくださいよ。

 そしたら僕を『殺さないように』なんて感情……吹っ飛びますよ??」



その言葉の直後――――俺の『理性』が一瞬消え、身体が勝手に動いた。

『獅子瞬烈』…単純な技だ。ただ光速で動いて相手を斬るってだけの技。

しかしそれが最速の俺にとって最大の一撃必殺技なのだ。ちなみにキャンサーに使ったのもこれだ。

俺の脚が勝手に地面を蹴り光速移動を開始する。

本当に一瞬。完全に理性が切り離された俺にとって、瞬きした直後に別の所にいるような……そんな気分だった

目の前にいた毒島は、もういない。俺は奴の背後に立っていたのだ。そして手には奴の血がついている。

「…流石に完璧に避けることまでは出来なかったですが…これで上等ですよ。」

そう呟いた毒島はニタリと笑った。

その様子は、余裕そのものが窺え、痛みに堪えてる節もなかった。

「気付いてくださいよ……『斬られたのはあなた』ですよ」

その一言の直後だった。



俺の身体の至るところが裂けて、その裂け口から赤い液体が噴射して、俺は倒れてしまったのは――――。




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「本当にすごいですわ…♪毒島くん」

私は毒島くんとレオンくんの対決を見つめながら、そんな言葉を漏らした。

あのレオンくんと一進一退の攻防を繰り広げ、そして今彼の方がレオンくんを……押している。



つくづく毒島くんは『努力の人』だとわたくしはこのとき感慨深く感じた。




「本当♪精が出ますわね♪♪」

洗脳して2日目。まあ昨日ですわ。

足引さまに借りたトレーニングルームに、毒島くんは籠もり、寝る間も惜しんで星術の修行を行っていました。

「あ、リブラさん。本当いつも突然だから驚きますよぉ」

にこやかな顔をしてわたくしに笑みを浮かべる毒島くん。

その身体には爽やかとも呼ぶべき汗がびっしょりだった。

「いい機会ですわ♪貴方なら使えますでしょ♪♪このわたくしも『星術使い』なのですわ♪」

「―――っ!?本当ですか?」

「えぇ♪試しに……」

わたくしは一度軽くジャンプする。

その直後、わたくしは毒島くんの目の前から消えて、彼の背後にたった。

振り返った彼は驚いた表情した。それを見てわたくしは優越感に浸り、彼に語った。

「これは『白式』と呼ばれる星術ですわ♪まあスピードアップの術と考えてくださいまし♪

 わたくしはこれだけを徹底的に極めてよもや瞬間移動のレベルまで出来るようになりました」

「ほ、ほかにもあるんですか!?」

毒島くんはまるで手品を見せてもらった子どものような無邪気な顔でわたくしを見つめた。

「えぇ♪もちろんありますわ♪ただ……教えるのは少し躊躇しますわねぇ」

「ど、どうしてですか!?」

「貴方はわたくしの『平等』の力で今はこうしていますが、解かれたら貴方は敵だからです」

そういうと、悔しそうにわたくしを睨む毒島裕太。本当に子どもみたいだ。

好奇心旺盛で、純粋で、飲み込みの早い、ただ無邪気に目先の目的だけに突っ走る…子ども。

「はぁ……仕方ないですわね♪今日一日で叩き込んであげますわぁ」

わたくしはそんな彼の目に負けて、溜め息を吐いて彼にそういった。

彼は心底喜び、わたくしの教示を真剣に聞き入れていた。





あのときの毒島くんの成長スピードは半端なかったですわ。

元々本で星術の方法は熟知していたからか、本当にスムーズに着実に覚えて言っていた。

それを教える側であるわたくしも…それはそれは楽しいものでしたわ♪

(きょ、今日だけでも『貴方』の役に立ちたい!!)

「……か。彼の中にわたくしへの情でも出来たんでしょうかね」

わたくしは思わず脳内に浮かんだ言葉に反応して独り言を呟いてしまった。

わたくしは『敵』を一緒にしただけであって『仲間』にした覚えはない。

わたくしから星術を教わったお礼をしたいのだろうけれど……それでも、彼は不思議ですわ。

「まあ……その一言で情に流されたわたくしもわたくし……ですわね♪」



みすみすほとんどの「星力」を彼に渡してしまった。

共有ではなく「供給」…つまり、今のわたくしには自分が星術を使いまくるほどの星力は残っていない。

一度送った星力は戻ってこない。共有は解除すればいいのだけれど、供給はそうは行かないのである。

まあわたくしが情に流されたのも、彼の努力と……『あの一言』のせい…と言い訳しましょうか。




「レオンくん!!」

二人の闘いが一時的に止まったのを見て、わたくしは彼に話しかける。

彼は振り返った。毒島くんがこの隙に攻撃することはまずないだろう。わたくしは続く。

「1ついいことを教えてあげますわ!!」

「あぁ?」

『天使喰い』で理性をなくしてきているからか、少々乱暴な態度のレオンくん。けれどわたくしは言葉を続ける。



「いくら強いものも、才能があるものも!『努力し続け、信念と目的のある人間』には勝てないですわ!!

 毒島くんはまさにそれですわ!だから獅子座のレオン!!貴方は彼に負ける!絶対に」

我ながら恥ずかしいほど叫んでしまった。けれど後悔はしない。本当のことだから。



「…けっ!そうかよ!!じゃあ俺も本気出すしかねぇよなぁ!!」

わたくしの言葉がスイッチになったのか。彼はそういって両手を拳にして合わせた




「……100%」

レオンくんの周辺を風が勢いよく吹き荒れる。

あれがレオンくんの『天使喰い』の本性…ですか。わたくしも初めてみる。



「これでやっと僕も…本気を出せる」

そういうと、毒島くんも持っていた星剣を消滅させ、手を天に伸ばした。

……あれをやるつもりなのですわね。




『―――――蠍座の毒鎧。』

その言葉の直後、毒島くんを紫色のオーラが包み込んだ―――――。




                   ☆



『―――――蠍座の毒鎧。』

僕がそう呟いた直後、足元には術式が現れる。

その術式から、紫色のうごめくオーラが僕に這い上がるように纏われていく。


そうだ――――このときを待っていたんだ。

目の前には化け物と化した「獅子座のレオン」さん。

今もその力しか残っていないかのような凶暴な顔立ちで咆えている。




「どうしてそこまで強さを求めるのですの?」

一度、僕が特訓をしているときに、リブラさんに問われたことがあった。

このときには僕はもうこの術『蠍座の毒鎧』の練習に取り掛かっていた。

だからこそリブラさんは僕に問いかけたんだろう。この術は普通の人間が使うものじゃないから。

「僕は……『レオンさんたちを護れる男になりたいんです』」

僕はリブラさんに、正直に、心のそこから思っていた言葉を出してしまった。

「……それって…矛盾しておりませんか?貴方はこれからレオンくんと闘うんですわよ?」

「はい。そうかも知れません。詳しく言うならば…『レオンさんの抑制力』になりたいんです」

「ほぉほぉ…抑制力……ですか」

「はい。そのためには僕はレオンさんに勝てるようにならないといけない!

 僕はレオンさんも、神崎も、鬼塚も、神倉も…みんな護らないといけません」

「…そうですわね♪いいでしょう。僭越ながらこの天秤座のリブラ。貴方様に力を出したいと思いますわ♪」

「ありがとうございます!俺…貴方もことも護りますから!!」

「…わたくしのことも?それは嬉しいですわね♪期待していますわ♪」

そういってリブラさんは僕に『白零』『白式』『白塔』『白輪』と言った星術を教えてくれたんだ。




「……さあ、レオンさん。勝負だ」

僕はそっと拳を握る。




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相変わらず、気味の悪い視界だ。

俺は完全に本能と切り離されてこの視界を見ている。

こうして見えているのに、気を失ったら記憶にない。だから俺は何かを失う。それが怖い。

今も俺の視界はじっと毒島のことを『獲物』として睨んで威嚇している。

ん?なんだあのオーラ…。紫色の……蠍?

オーラ自体がまるで蠍を象っているような形をしてる。いや…蠍と言うよりスコーピオンだ。

あの「蠍座のスコーピオン」のシルエットを見ているようだ。なんだ?あのオーラは?



俺のそんな考えとは裏腹に、俺の本体は毒島に向かって走り去る。

毒島は前倒しになり、突然四つん這いになり始める。そして何かがこちらに飛んできた。

俺の本体は、危険を察知したのか、突然身を翻し、その液体を避ける。

その液体が地面についた直後、地面から焼けるような音がなり、そこに小さなくぼみが出来ていた。

(……まさか…毒か?)

俺は思わず驚愕してしまった。

どういうことだ?毒島が…どうして……『ポイズンメーカー』を使える!

すると、毒島は立ち上がり、自身の前に四匹の星鳥を生成する。そいつらは全員紫のオーラを纏っている。

そして星鳥は俺に目掛けて勢いよく飛んでくる。これはまずい!!!

俺の身体は勝手に避ける。こういうとき本能に任せたほうが効率がよかったりするのだ。

そのまま俺の身体は星を避け、毒島との距離を詰める。

そのまま俺の身体は拳をつくり、毒島の腹部に拳をぶつける。

『白零』で止められた感触があるがそれをぶち壊して俺は毒島を殴り飛ばした。

俺の身体は止まることなく毒島の身体を追いかける。

毒島も倒れた状態で星術式を組み立て、『流星鳥』を作り、空へ逃げる。

俺もそれを追いかけ、空高く飛び跳ねる。

上空にいる毒島に拳をぶつける。しかし、その拳をぶつけた毒島はまるでレンガのように崩れていって

崩れた後から大量の星鳥が現れて俺の身体を包み込む。

勢いと視界を無くした俺はそのまま無様に地面に落ちた。



「はぁ…はぁ……」

毒島が肩で息をするほど疲弊している。

人間がいくら俺と星力を共有し、リブラから星力を供給してもらっていても、これ以上はきついのだろう。

俺は起き上がり、毒島に向かって走ろうとする。……しかし、足が動かない。

「……ぐるらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ダメだ。起き上がれない。……盛られたか!!!!

「…大人しくなりましたね。レオンさん…」

完全に疲弊仕切っている毒島が俺を見下す。

俺の本体は毒島に噛り付こうと必死に足掻くが、足が動かない。さっきの鳥に毒を盛られたのだ。

「―――っ!?」

そんなとき、何かを察したのか毒島は突然『白式』でスピードを上げてバックステップで俺と距離をとる。

「ぐらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

その直後…俺は立ち上がり、咆哮して見せた。

毒はまだ身体にあるが、ホルモン分泌が済んだ。まだ動ける!!

「……本当…。化け物ですね」

今の自分を鏡で見てみろ。と俺は毒島に言ってやりたくなった。

もはやただの人間では片付けれないほど毒島は…強い。そして化け物じみている。

彼の身体を纏うスコーピオンのオーラが一層そう感じさせる。



「このままじゃ……ダメだ。僕は…神崎を…鬼塚を…神倉を…そしてレオンさん本人を…護るんだ!!」

歯を食いしばった毒島は上がっていた息を整え、戦闘態勢に入る。

「今の暴走してる貴方を止めることの出来る人間がいなければ、どうなると思ってるんです!!

 貴方は神崎を…その周りにいる人間も!みんな殺すんですか!?本能に任せて!!!!!」

毒島の拳が、俺の頬にぶつかる。ただの人間の拳なのになんて重たい拳だろうか。

俺の身体もそれを仕返すように毒島の頬をぶん殴る。毒島の鼻から血が出て、吹き飛ばされそうになるも

彼は必死に堪え、俺を睨む。そして俺の頬にもう一発。俺も奴に拳を一発浴びせた。

すると、突然毒島がオーラで出来た尻尾を俺の脇腹に目掛けてくる。俺は危機を感じそれを避けると

その隙を突かれ、俺の顔面に毒島の拳がぶつかる。モロに喰らった拳の威力に、俺は飛ばされてしまった。

本体の俺は飛ばされた体勢を立ちなおし、再び毒島に向かい、その腹部に拳を当てる。

一瞬気を失いかける毒島は、口内から血を噴き出した。

「今も、貴方は僕を僕だと思わずに攻撃しているでしょ!その状態で神崎たちを判別できるんですか!?」

そういって、毒島は俺の顎に膝蹴りをかます。

俺はその飛ばされた衝撃を利用し、毒島の頭を掴むと、そのまま奴の身体を地面に叩きつける。

倒れた毒島が起き上がる前に、俺は奴の腹部を思いっきり踏みつける。

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

あまりの痛みに悲鳴をあげる毒島。しかし今の俺にとってそれは攻撃をやめる理由になんてなりはしなかった。

毒島は歯を食いしばり、そのボロボロの顔で俺を睨んでくる。そして手に小さな鳥を作る。まずい!!

毒島はそのままその鳥を俺に目掛けて飛ばす。その鳥は俺の顔面に衝突するとともに爆発した。『爆鳥』だ。

それのせいで足を退けてしまい、俺から開放された毒島はそのまま俺腹部に尻尾の棘を刺した。



「……勝った…!!」

毒島は小さな声で呟いた。

棘から注入される毒。まるで小さな蠍が身体中を這い回っているような不快感と痛みが襲い掛かる。

『白式』を使って俺と距離をとる毒島。鼻や口から血と言う血が流れている。

そして、彼の纏っていた『蠍座の毒鎧』が風に流されたかのように消え、彼は一瞬ふらつく。

「はぁ…はぁ……『白槌』。攻撃力を上げる術式です。これでレオンさんにも…ダメージはあるで…しょ

そういって、とうとう体力の限界が来たのか、毒島は気を失うように、地面に倒れていった。

対する俺も、毒島の入れられた毒に苦しめられ、地面を這いまわっていた。

身体中から血管が浮き出る。汗も一気に溢れてくる。やべぇ…これはやべぇ……。



「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

俺は咆えた。この毒は一度喰らった毒だ!抗体があるはずだ!!

俺は身体を活性化させ、その抗体を成長させる。痛みが徐々に和らいでいく。

「ぐるぅぅ……」

数十秒は経っただろうか俺は立ち上がる。もうこれ以上の毒を消すのは無理だ…時間の問題……か。

俺の本体は、倒れた毒島を確認すると、次の『獲物』を探す。



そして視線が合ったのは……天秤座のリブラだった。

「…まずいですわね……」

そう冷や汗を流しながら言うリブラ。もう逃げれないと悟ったのか動こうとしなかった。

「ぐるらぁ!!!」

俺の本体はそのままリブラ目掛けて突進する。

このついでにリブラも倒しちまおう!!俺の本能がそう思ったのだろう。

リブラの身体を俺の爪が切り裂こうとしたときだった。

リブラがいた距離よりも近い場所で、俺の手は振りかぶられた。そして肉を斬った感触がある。

「……え?」

俺が斬ってしまったのは、さっき倒れたはずの……毒島だった。

「…言ったでしょ……『貴方も護らせてください』って…」

そう一言残して、毒島裕太は背中から血を流して……倒れていった。

「ごるらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

俺は思わず雄たけびをあげてしまう。



そんなときだった。

「もうやめて!!レオン!!!!」

どこからか…そんな声と、誰かに抱きしめられる感触がしたのは――――。



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毒島くんが…負けた。

あたし達を包み込んでいた『白塔』って言うのが消えた瞬間から、それは悟った。

そしてレオンも倒れている。レオンもどうやら何かをやられて倒れたみたい。苦しそうに悶えている。

「ぐるぅぅ……」

そういってレオンが起き上がるのを確認する。



そして辺りを見渡すレオン。これ……スコーピオン戦のあれだ。

そしてレオンは標的を見つけると突進を仕掛ける。相手は……リブラさんだ!!

そんなときだった。あたしの視界の端から、誰かがその二人の間に走っていた。……毒島くんだ。

も、もしかして……ダメだよ!!!

彼の目的がわかってしまったあたしも、思わず走ってしまう。

雪音ちゃんと綾ちゃんは未だ何が起こってるか理解できていないのかオロオロしている。二人を呼ぶ時間はない

あたしが走ったのも無意味に、毒島くんは予想通りリブラさんの前で盾になり、レオンの攻撃を生身で受けた。

胸から腹にかけて斬られた毒島くんが血を噴き出して倒れる。



レオンの目線は明らかに毒島くんを向いていた。止めを刺すつもりだ!!

あたしは思わず彼に抱きつき、そして叫んだ。

「もうやめて!レオン!!」

「……ゆ…か…?」

「わかってるの!?毒島くんは仲間だよ!?友達だよ!?」

あたしはさらに言葉を続ける。これ以上レオンを暴れさせてはいけない!絶対に!!

「……由香?」

目の色が元と同じになった。どうやら元に戻ったみたいだ。


「へへっ…。なんだよ…僕が頑張らなくても、レオンさんの抑制力はいるんじゃんか…」

そういうと、毒島くんはほっとした様子でそのまま倒れてしまった。

「毒島ぁ!!」

やっと状況を理解したのか、綾ちゃんが毒島くんの所まで駆けつけた。おぉおぉお暑いねぇ~♪

「鬼塚さん。とにかく毒島くんを保健室に運ぼう?あそこなら応急手当ぐらいならできるかも…」

「そ、そうだな!由香!!あたしらちょっと保健室行ってくるわ!!」

そういって綾ちゃんが毒島くんを背負って雪音ちゃんと一緒に校舎まで走っていった。



「……あれ?リブラさんは??」

あたしはふと、さっきまでいたリブラさんの存在が気になった。辺りを見ても彼女の姿はなかった――――。




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結界の外。

「…貴方も護ります。…ですか……」

私はビルからビルへ飛びながら、そんな言葉を漏らした。

毒島裕太。本当に酔狂な男ですわ。最後の最後でわたくしを護るなどと…。

「まあ、おかげで救われた命ですし、李里香ちゃんには悪いですが…撤退させていただきますわ♪」



そういってわたくし天秤座のリブラは、マスターの待つビルへと向かった――――。





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「…毒島くんが負けた。か…」

「ねぇねぇ!!」「リリ姉!」「「僕らの番?」」

「えぇ、ジェミニ。二人とも……出番よ」

「「あいあいさー☆」」

窓から、レオンと毒島くんの激闘を見ていた松原李里香はそう言った。



さっきのレオンの豹変ぶりを見て核心した。やはり姉さんを殺したのは彼なんだと。

「……いいわ。疲れきってる今に貴方を殺してあげる!!」

松原李里香は、握っていたペットボトルを握りしめ、怒鳴るようにそういった。



こうして、今日最後の闘いのゴングが……鳴ろうとしていた。



                    ☆



「…大丈夫?レオン??」

「あ、あぁ…ちょっと疲れてるけどなぁ…」

俺の元へ駆けつけてきた由香の問いに、俺は曖昧に答える。

『天使喰い』には治癒能力がある。だから傷はいえるのだけれど。体力は完治されない。

「ってか綾ちゃん…慌てて『保健室行ってくる』なんて言ったけど……学校潰れてるじゃん…」

呆れた顔で言った由香。

確かに学校は崩壊してるのに保健室行こうとしてる鬼塚と神倉って…相当慌ててたんだな。

「ま、壊れてても応急手当できるものぐらい瓦礫の中から見つかるだろう。それより……」

俺は、そういって言葉を止め、感じる視線の先に目をやる。

「…やっとね。獅子座のレオン……貴方を潰すことが出来るのは」

非情の瞳で俺のことを睨みつける松原李里香。そしてその後ろには双子座のジェミニ。



「ジェミニ。お願い」

「「あいあいさー☆」」

そういうとジェミニは突然二人でやっと持てるほどの大砲を出してきた。

「3・2・1!!どーん!!!!」

「あぶねぇ!!!」

飛び出してきた大砲弾。俺は由香を抱きかかえ、その場から大きくジャンプする。

俺のいた足場が爆発によって、大きなクレーターを生み出していた。おいおい!今の由香死んでたぞ!?

「ちょ!今の――あたし――――」

本人も完全にビビッてしまっているのか顔があたふたしている。

「ちょっと!ジェミニ!!マスターを狙ってはダメ!」

「「うぅ…ごめんなさい……」」

拗ねたように謝るジェミニ。「ごめんなさい」ってレベルのことじゃねぇけどなぁ…おい。

俺は無事地面に着地し、抱きかかえていた由香をそっと降ろす。

「今のうちに忠告しておくわ。神崎由香さん……。今すぐこいつから離れなさい。……死ぬわよ」

「……」

その忠告に少し黙ってしまう由香。



「おい!ジェミニ!!どうしたぁ!?早く掛かって来いよ!!」

俺は空気を変えるためにジェミニを挑発する。

二人は「ムッ」と不機嫌な表情を浮かべてこっちを睨む。

「「なにさなにさ!!そっちボロボロのくせに!!調子に乗るんじゃねぇよ!!」」

幼げな声でそう言ってくるジェミニ。

「『大砲』→『ウィルス』!!」

ジェミニの片割れがそういうと、

彼らの周囲に絵に描いたようにメルヘンチックなバイキンのような物体がたくさん現れる。

「「いっけぇぇぇぇー!!!!」」

そのウィルスたちは俺に向かって突撃してくる。

逃げようとするがすぐにウィルスに囲まれる。

「くっそ!!」

俺はそのウィルスたちを払いのける。

その攻撃を受けたウィルスたちは次々と消滅していく。

……あれ?身体があちぃ……視界も朦朧としてきやがった…。

「どっせい!!」

その直後、俺の腹部に強烈な痛みが走る。

見てみるとジェミニの片割れが俺にタックルを仕掛けてきていた。身体が思うように動かない。

「喰らえぇー!ライダーキーック!!!」

タックルで体勢を崩した俺にさらに追い討ちを掛けるようにもう一人が俺の胸部にとび蹴りをかました。

俺はそのダブル攻撃に耐え切れず、地面に転がり落ちる。

くっそぉー本調子が出ねぇ……頭痛い…。なんだこれ

「へっへーん!!お熱出てるレオンなんて弱い弱い!!『ウィルス』→『砂嵐』!!」

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

その言葉の直後に俺を巨大な砂嵐が包み込む。

微弱な小さな石が、竜巻の力を借りて弾丸のような痛みを俺に与えてくる。

風は次第に止み、竜巻は消滅する。俺はその場にバタリと倒れてしまう。

「……どうして?」

倒れて苦しんでいる俺に最初に声を出したのは松原李里香の疑問だった。

「どうして…『天使喰い』を使わないの??そんなのでジェミニに勝てると思ってるのかしら?」

俺を睨みつける目,いや…使ってても強いんだけどな。まあ『天使喰い』には治癒効果もある。

ウィルスに侵された身体も通常に戻せるだろう。この砂嵐で受けた傷も元通りだろう。

「…へっ!てめぇらなんかに『天使喰い』を使う必要はねぇんだよ!!それでも勝てるからな!!」

俺は痩せ我慢としか言えない言葉を、松原に吐き捨てた。

出来るだけ強がって、出来るだけ余裕な笑みで、出来るだけ戦意を見せ付けてやった。

そうしないと今にも勘付かれてしまいそうだったから。

「…そう。ジェミニも舐められたものだわ。『星術』のスキルで言えば最強のジェミニの力…見せてあげる。ジェミニ」

「「ほいほいさー☆僕、ミニの言葉の権利を一度だけ『マスター』に預けるよぉー♪」

そういったミニと名乗ったジェミニの片割れの言葉を聞いて、

松原は一度、目を閉じて、そしてゆっくりと開き言葉を紡いだ。



「………『死神』――――」




--------------------------------------------------------------------------------




その言葉が聞こえた瞬間。李里香さんの背後から黒いオーラが現れる。

それはまるで、レオンに抱いている憎悪とか、そういうのも含まれていそうなぐらい禍々しいオーラ。

そこから湧き出るように現れたのは黒いマントを羽織った……骸骨。手には大きな鎌。

「行きなさい」

その言葉とともに死神はふらついているレオンに迫る。

「レオンっ!!」

けれどレオンは一向に『天使喰い』を使おうとしない。

死神の鎌はそのままレオンの胸部を大きく切り裂いた。

胸から大量に血が流れ、レオン本人も口から大量に血を吐き出す。

「…こいよ!まだまだやれるぜ………」

強がってるレオン。

無理だ。レオンはもう傷だらけになってる。『天使喰い』使わないと死んじゃう。

「…そう。死神。お願い」

死神が再びレオンに襲いかかる。

そしてその大きな鎌を振り下ろした。先にあるのは右腕。

―――――ぼとん。っと小さな音が響き渡った。そしてレオンの右側から血が泉のように流れてくる。

あたしはその光景を見て思わず涙を流して目の前の光景を無理やりぼやかす。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

あたしはあまりに惨い光景に叫び狂ってしまう。

今まで色んなものを見てきたのだけれどもここまで鮮明に、人の腕が捥げたのは初めてみた。



「レオン……。貴方…わざと死のうとしてるわね?」

そんなとき、突然そんな言葉が、李里香さんの口から聞こえた。

「それともなに?私に対して『天使喰い』を使うことを躊躇っているの?あたしのお姉ちゃんを殺した技だから…」

「――っ!?」

その言葉を聞いてレオンは驚いたような表情をしていた。

「まあ、それならそれで好都合だわ。死になさい、レオン―――――」


そういって李里香さんは非情にも死神を使って鎌を大きく上げる。次はレオンの首を狙ってる!?



「れ、レオン!!待って――――――!!!」

あたしの叫びも虚しく、死神は鎌を振り下ろす。



「死ぬなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

あたしは叫んだ。

もう掠れるまで叫んだ。

腰が抜けてしゃがみこんで泣き叫ぶ

死んでほしくない。パートナーだからじゃない。だって―――だって――――――。

「あ、あたしは!!あんたのこと――――好きなのっ!!!!」

思わず言ってしまった言葉。隠してきていた本音。

いつだったかわからない。もしかしたら一目ぼれかも知れない。

けれどそんなことはどうでもいい。あたしは……レオンのことがすきなのだから。




「――――おいおい、人が悔いなくしようと思ったときに悔い残そうとすんじゃねぇよ…」

声が聞こえてあたしが顔を挙げると、鎌の歯を腕で受け止めたレオンの姿があった。

「悪いな松原。俺はあんたに謝罪を込めてこの命捧げるつもりだったが……優先する奴が出ちまった」

そういったレオンは残された左腕で死神の頭を掴み、そのまま地面に叩きつける。

死神の頭は潰され、死神は消滅する。

「…50%!!」

レオンはそう言った直後に瞬間移動をして、ジェミニに攻撃を仕掛ける。

ジェミニたちも咄嗟だったことから、言葉を紡ぐことが出来ず、そのままレオンの攻撃を受ける。

二人して地面に転がるジェミニ。レオンはチャンスとばかりジェミニへの攻撃をやめない。

「悪いなジェミニ!これで終わりだ!!」

レオンが一瞬にして姿を消す。

そしてジェミニの背後に瞬く間に姿を現す。

ジェミニ二人の皮膚が爆発するように裂け、そこから血は噴き出され、倒れる二人。

「ジェミ!ミニ!!」

叫んでいる李里香さん。ジェミニはこれでもうダメだろう。

「悪いな松原。反撃されねぇように、喉を潰させてやったぜ?」

レオンは少し卑劣な一言を浴びせる。確かにジェミニの二人の喉から血が出ていた。



これで終わり――とあたしは思っていた。けれど……そうじゃなかった。

「「……!!」」

やられたはずのジェミニがふらふらになりながらも立ち上がったのだ。そしてレオンを睨む。

何か言いたいのか、口をパクパクさせている。声は聞こえないけれど、言いたいことはわかった。

(リリ姉を泣かせるな)

そういうたげに口を動かしてレオンを睨むジェミニ。

『声』を失った二人は実に無力だとあたしは思った。

それでもレオンに立ち向かってる二人は、すごく強いんだと感じれる。



そしてしばらくしてだった。

ふらふらと立っているジェミニを、後ろから李里香さんが抱きとめたのは―――――――。





--------------------------------------------------------------------------------




終わった。

あたし、松原李里香は思った。

憎き獅子座のレオンをこの手で倒したかった。

彼が悪くないのはわかっているが、そうでもしないと気が収まらなかった。

ただそれだけ。気を収めたかったから彼らを襲った。



あたしは、どれだけ最底辺の人間なのだろうか。

八つ当たりもいいところだ。それであたしは彼女、神崎由香を傷つけ、今…あたしのパートナージェミニも傷ついた。

あたしの姉…「豊穣早苗」同様に彼を愛した女性の気持ちをあたしは今毟り取ろうとしていたのだ。

レオンがジェミニを倒した直後、あたしの戦意は失われていた。



なのに、二人は立ち上がった。

あたしを護るために、背中からでも伝わる。彼らが言いたい言葉が



あたしは我慢できず二人を抱きしめた。

「もういい……もういいんだよ……」

あたしは涙を流した。

品行法性な態度も取れないほど泣いた。

「ありがとね…二人とも……もう…あたし大丈夫だから…!」

あたしの両頬に、ジェミとミニの暖かい頬が触れる。



二人が、かすれきった声で何か言いたそうにしていた。

声は聞こえないが、口で何を言ってるか大体わかった。

((泣かないで、リリ姉))

それに気付いたとき、さらに涙が流れる。

「…うん。ごめんね……ごめんね」

あたしは彼らを「道具」にしてしまったんだ。八つ当たりの道具に

どれだけ謝っても謝りきれないことをした。大事にしようと思っていた二人を粗末に使ってしまった。

「二人とも……ありがと」

涙に濡れた笑顔をあたしは浮かべた。

すると二人は満足げに笑って、光に包まれる。

二人はあたしの頭を撫で撫でしてきてくれる。

《リリ姉?やっと笑ったね♪》

昔、あたしが大切だった子達の姿と、ジェミニの姿が重なる。

光がどんどん彼らを包みこみ、彼らの姿を消滅させようとしていた。


二人はあたしの顔を見て、最後にこう口を動かした。




((バイバイ))



そして―――――――双子座のジェミニは――――消滅してしまった。



                     ☆





あたしの人生は、自分から言うのもあれだが濃厚だった。





「いたーい!!痛いよぉー!」

あたしが覚えてる記憶。

あのときは走っていてこけちゃったのだろうか。

泣き叫んで、足から来る痛みに耐えられなかった。

「もぉ……あんなに走るからよ?」

そんなとき、あたしの元に女性が来るのがわかった。

あたしは痛くて歩けなかったはずの足を動かし彼女の下へ走り去った。

「おねえちゃーん!!!」

「もぉ…おてんばなんだから……」

あたしの姉,豊穣早苗は泣いてるあたしをあやすように頭を撫でてくれた。



お姉ちゃんは本当に優しかった。

いつだって微笑んでいて、あやしてくれて、遊んでくれて……。

「ほら、おうちに帰るわよ」

「うん!!」

忙しかった母と父の代わりのようにお姉ちゃんはあたしの「姉」であり「母」であり「父」だった。




お母さんたちも帰ってくるのが遅かったけれど、家にいる間は優しくて、幸せだった。

あのときまでは―――――――。


あたしが小学生の高学年ぐらいだろうか。



母さんと父さんが、夫婦喧嘩を開始してしまった。

どちらが悪いかとかは、そのときの私にはわからない。

けれど結局彼ら二人の喧嘩は、とどまるところを知らなかった。

あそこまで仲がよかった二人があそこまで争うのは、子どものあたしには到底思いつくものではなかった。




「ただいまぁー!!」

もちろん。まだ小学生のあたしは、夫婦喧嘩なんぞ知らない。

大人は純粋な子どもには「過程」を教えず「結果」だけを叩きつけてくるのだ。これほど残酷なものはない。

笑顔で帰ってきたあたしを最初に出迎えたのは、お姉ちゃんだった。

笑顔だったけれど、どこか悲愴感があり、あたしに何かを隠しているような…そんな笑顔だった。

「ねぇ…李里香。李里香…今何歳?」

「……12歳!!」

「そうよね。もう立派な女の子だもんね」

「…お姉ちゃん?」

よくわからない唐突の質問に答えると、お姉ちゃんは顔を俯かせてあたしの肩に手を置いた。

「じゃあ…お姉ちゃんがいなくても、大丈夫だよね?」

「……え?」

あたしは、このときの姉の言葉が理解できなかった。

そして姉は大きな鞄を持って、部屋を出て行った―――――――。





--------------------------------------------------------------------------------




中学生になった。

あれは父と母の離婚で、お姉ちゃんは母についていったんだとわかった。

母は鬱病になりそうなところまで追い込まれていたらしい。だからおねえちゃんは母の元へ行った。

あたしも連れていってくれればよかったのに……と思っていたが、そんな感情は吹っ切れた。

お父さんは思った以上によくしてくれる。

本当に二人は喧嘩していたのか?と言うところまで疑問に感じるほどあたしを大事に育ててくれた。

英才教育を受けさせてもくれた。厳しくなかった。本当によくしてくれた。

中学三年間。父は仕事で忙しくて、でも無理にでもあたしにはよくしてくれて……そんなお父さんのことも好きだった

お父さんに迷惑をかけないように料理も頑張った。

家事も出来るようになった。英才教育も全てこなしてきた。


後になって父と母の離婚原因を聞いてみた。

お父さんは答えづらそうにしていたが、答えてくれた。

『母さんが父さんの忙しさを理解してくれなかったんだ』だそうだ。

大人になってその言葉の意味を理解した。母さんは浮気しているんじゃないかなど疑心暗鬼になっていたんだろう。

そんな母親に意地になってしまっていた…とお父さんは後悔していた。だからあたしに優しかった。




それから三年。

あたしも立派な女性になった。父の教育も相まって成績もよかった。

名門校に入れたあたしは、そこでも優秀な成績を収めることが出来た。本当に父には感謝しかない。



そんなとき、お父さんが女性を一人連れてきた。

若い女の人だった。そしてその後ろに……子どもがいた。

「すまない李里香。私はこの貴婦人と婚約することになった」

その一言で、あたしの名前は「豊穣李里香」から「松原李里香」になった――――――。



「「お姉ちゃん。名前は?」」

初めてあった日、そう聞かれた。女性の後ろにいた二人の子どもに

「あたしは李里香って言うの♪君たちは?」

「「僕たち?」」「僕は明晴!」「俺は静夜!!」

「そう♪明晴に静夜♪よろしくね」

あたしがそういうと二人は満面の笑みを浮かべて頷いた。

「「うん!!よろしくね!リリ姉!!」」




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「ただいまぁー♪」

「「あ!リリ姉お帰りぃー!!」」

家に帰ると二人がいた。

離婚してからは、帰っても独りだったあたしにとってそれは懐かしくて、嬉しいものだった。

「ねえねえリリ姉!今日は何する!?」

「バカ!今日はリリ姉の邪魔しないって言っただろう!?」

「えーでもぉーリリ姉と遊びたいよぉー!!」

明るくて甘えん坊の明晴。真面目でしっかり者の静夜。

二人とも本当にいい子で、すぐ懐いてくれた。

義母は、悪い男に妊娠させられ、離婚されたそうだ。

そこを父が助けてあげたらしく、結婚を決めるも、義母の父親が納得行かず、納得させるために『婿入り』したのだ。

「もう、明晴?お姉ちゃんはテスト勉強があるんだから今日は二人で遊びなさい!!」

義母の美雪さんが、エプロン姿でそう言った。

彼女は専業主婦で、そこも嬉しかった。そして何より優しかった。



まるで、お姉ちゃんみたいに――――――。



お父さんは相変わらず忙しかったが、義母はそれに対して特に問い詰めなかった。

だからだろうか、本当に喧嘩もしない夫婦に二人はなり、仲睦まじい家族になった……。




あたしもやっと平和な日々を送れる。

幸せな日々を送れている。そう感じたときだったのだ。



どうやらあたしは心底『不幸の神』に好かれていたみたいだ。





「明日は何もないし♪二人と遊んでやるかぁー♪♪」

受験も終わり、卒業式を終えた日だった。

卒業式から、みんなで騒いで夜になって帰宅中。

なにやらガヤガヤと野次馬たちが集まっているのと、煙が上がってるのが見えた。

「……あれって…」

あたしは嫌な予感がして走った。



案の定。嫌な予感は的中する。



「お父さん!お母さん!!明晴!!静夜ぁ!!!!」

あたしは叫んでその場に向かおうとするも、消防士さんに止められる。

そう、あたしの家が火事になったのだ。心なき人間が捨てていった『煙草』のせいで…



あたしの卒業を祝おうと待っていた家族全員……焼け死んだ。

あたしは全てを失った。葬式ではみんなが憐れなものを見るような目であたしを見つめていた。




ただ独りを除いては。

「…まるで自分が世界で一番不幸……みたいな顔してるわね?」

泣いてるあたしにある一人の女性が声を描ける。

憐れな目で見ているのではなく「愚かな」ものを見るような目であたしを睨んでいた。

「甘いこと言わないでちょうだい。貴方なんかよりも不幸な人間はいくらでもいるわ。

 あなた……東大合格したそうね?家族全員失って悲しい?貴方の人生は勝利そのものよ?悲しむ必要はないわ。

 世の中には貴方の不幸を「それで不幸とか」と嘲笑えるような人々は数知れずいるのよ?独りが寂しいなんて

 子どもみたいなことはいわないで頂戴。吐き気がするから」

その人の言葉を聞いて、あたしは怒りがこみ上げてきた。

「な、なんですか貴方!失礼にもほどがあります!!」

あたしの怒りの叫びを聞いて、その女性はなぜか笑った。

「この状況で貴方はハッキリと自分の意思で怒ることが出来た。上出来よ。名前は……松原李里香よね?」

女性はなぜか上から目線で言って来る彼女の言葉にあたしはこくりと頷いた。

「今世界で一番不幸な貴方にプレゼント。私の秘書にならないかしら?

 もちろん大学を卒業してから。それまでの費用は全てこの「スタープロダクション」社長。足引玲子が請け負うわ」

その言葉にあたしはきょとんとしてしまった。

そのまま玲子さんは言葉を続ける。

「これからは私を姉のように慕いなさい。貴方は今日から私の『家族』よ」



これが、あたし『松原李里香』の過去と、『社長』との出会いだった―――――。






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「…へへっ、走馬灯って本当に起こるんだね…」

あたしとレオンの前で、座り込み、涙を流す李里香さんは小さな声で言った。


あたし達はただそれを見つめることしか出来なかった。

松原さんの身体も光に包まれる。

「あぁ…ジェミニのこと忘れちゃうんだね。いやだなぁーせっかく出来た『家族』なのに」

彼女は言葉を続ける。


「えーっと。由香ちゃん。お姉ちゃんの分まで……その男を愛してあげてね?」

あたしの顔を見て言った李里香さんの言葉にあたしは思わず顔を真っ赤にしてしまう。



「じゃあ……また」




そしてあたしの目の前から松原李里香と言う占い師は………消滅した。





「…行っちまったな」

「そ、そうだね…」

「そ、その…なんだ。ありがとな。あのときの言葉…響いたぜ」

「あ、改めて言わないでよ!!ちょー恥ずかしいんだから!!!!」

「わ、わりぃわりぃ……でもいいのか?」

「ん?何が??」

「俺は、星霊だ。人じゃない。それにまたお前を傷つけるかもしれない。早苗みたいに殺してしまうことだって―――」

あたしは言葉を続けるレオンの口を人差し指で押さえる。

「それ以上は言っちゃダメ。早苗さんのためにも…李里香さんのためにも……」

「…そうだな。ありがとう」

レオンは残っている片方の腕であたしを抱きしめてくれた。少し血なまぐさいけれど……心地よかった。



「おーい!由香ぁ!!大丈夫かぁー!!!」

あたしは綾ちゃんの声が聞こえて慌ててレオンを突き放した。


「だ、大丈夫だよ!ジェミニ倒しちゃったの!!」

「そ、そうか…毒島も意識は戻ってないけれど命に別状はねぇみたいだ」

綾ちゃんは本当に嬉しそうにそういっていた。あれ本人無意識なのかな?

「……二人…何かあった?」

急に聞こえる雪音ちゃんの鋭い一言、あたしはビクッ!となってしまう。

「な、何もなかったよ!ねぇ!レオン!!!」

「あ、あぁ……何もなかった。何も」

「…怪しいな……」

綾ちゃんがあたし達を睨む。これはやばい



「さ、さあ!帰るか!!そろそろ毒島の張った結界が取れそうだしな!!!」

「そ、そうだね!さあ帰ろう!!綾ちゃんはちゃんと毒島くん背負ってね!ほら、家教えるから!」

「な、なんであたしが毒島送らないといけねぇんだよ!!ってか逃げるなぁー!!!!」




こうして、レオンの因縁絡んだ闘いは―――――――幕を下ろした。



                     

結構長いですけれど、ジェミニ編を終了させていただきます^^

ちょっと急いでいたので、誤変換や誤字があったかもしれませんが

そこはデフォってことでご理解ください^^


続きはもう今からすぐ投稿するのでお楽しみください♪

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