ゾディアック・サイン 5章・上「メモリーズ・レオン」
エリーとの闘いから数日。季節は春。
レオンは「けじめ」のために単独、星見町の沿岸部「星見山」に向かう。
そこには二体の星霊が住処としていた!?
レオンの過去、謎の女性「早苗」の正体が明らかになる第5章開幕!!
広い田舎町。
星見町からは駅が5つほど。実はそんな遠くない。
都市部となってる星見町の周りは、ドーナツのように田舎町が広がっているのだ。
そんな田舎町に、大きな一軒屋がひとつ。
一階建ての豪勢とはお世辞でも言えないが、整った広い家。
田舎の地域にならどこにでもありそうな、ありきたりな建物。
そこで2mを超えるおとこが………洗濯をしていた。
「パパッ!!!!!」
すると、家の中からとてとてと子どもの足音が響き渡り、それがぴたりと止まったかと思うと
おとこの足になにやら重みを感じる。下を見ると、小さな子どもが、足にしがみついていた。
「…はぁ、パパじゃねえって言ってんだろ。俺の名前はタウロスだ。」
「た、たろうす??」
「たろうすじゃねえって!!何回言ったらわかんだよッ!…はぁ……」
男は何度言ってもわかってもらえない少女に呆れ、溜め息を吐く。
足元にしがみつく彼女をほったらかし、男は洗濯物を取り込む。
「………」
突然、男が手を止める。何かの気配・・・・違う。嫌な予感がしたからだ。
彼は一度俯き、足にしがみついている無垢な笑みを浮かべる少女を見つめる。
「…ん?たろうす??」
男はそのまま、手を伸ばし、その少女の頭を撫でる。
彼は決意したのだ。このときが来てしまったのか、と。
彼女は、疑問を浮かべるように顔を歪める。
「さ!今日の飯は何がいい?桜??」
「桜ねッ!今日はオムライス食べたい!!!」
「おっしゃ、頑張って作ってやるよ」
「わーい!!」
彼女は無邪気に万歳しながら飛び跳ねた。
男はそれを見ながら、台所に向かう。
男はかつて「最強の星霊」と呼ばれた。
猪突猛進。彼を止めるものは誰もいない。とまで言われた男。
リブラの野望、上位君臨者キャンサーの最下位、万年最下位のスィーの猛攻。
今年の「星座占い」はそういう意味では異例な出来事が相次いでいる。
そして、彼もその一人―――――――――。
彼はここまで姿を出さずに潜伏しているのも、特異で異例な出来事なのだ。
男は、この田舎町で少女と一緒に暮らしていた。かつての「最強」の男。
彼は星霊。名を―――――――――牡牛座の「タウロス」と言った。
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「お、あったあった♪」
俺、獅子座のレオンはある野原の土を掘っていた。
中には土塗れになった箱があり、中には何枚かの一万円札が入っていた。
「こういうときのために隠しておいてよかったぜ~」
そういいながら俺はその万札をポケットにしまう。
星霊は死ねば来年まで出番はなくなる。毎回パートナーも変われば住む場所も変わってくる。
そういったときに、星霊は「お金」を所持するのが難しいのだ。まず貯金が出来ない。
しかし俺は超賢いからな。とある歳にパートナーからもらった駄賃をこうして隠しておいたわけだ。
「さ、これで…今日は旅館でも探すか。」
俺はそういいながら歩いていく。
野原を去って、町を出る。
町と言っても自然に囲まれたところに道路と家が並んでいるだけの物だが
歩いていると、なんとも懐かしい気分になる。
見知った駄菓子屋、見知った家、見知ったおばちゃん。
今でも忘れることが出来ない。大切な思い出がある場所。
だからこそ俺はここにきたのだ。
「待ってろよ………早苗――――――」
俺がそう呟いたとき、目の前にはなんともいえない光景が広がっていた。
「たろうす!!肩車!!!!」
「おう、しゃーねぇな。おらッ!!」
「わーい!」
なんなんだ。この光景は…。
2mを超える巨漢が、本当に小さな女の子をものすごい自愛に満ちた表情で肩車している。
しかもそれが俺の知っている「身内」ともなれば、驚きの度合いは半端ないものとなる。
「た、タウロス??」
俺の声に男は嫌な予感が的中したと
いわんばかりに冷や汗を掻きながらぎこちない動きで俺を見てきた。
「…れ、レオンか」
俺は本当に呆然としてしまった。
俺の知っている男。
牡牛座のタウロスは融通が聞かなくて、
硬派で、少なくてもこんな少女にデレデレになるような男ではないのだ。
「たろうす、このおにいちゃんだーれ??」
タウロスの上に乗っている少女は俺を見て、彼に話しかけていた。
「…桜。ちょっと、怖いかもしれないけど…我慢しろよ。前言った奴らだ」
「え?わかった。桜しっかり掴まってるッ!」
「おっしゃ…やるぜ!」
「え、ちょ、おい…タウロス?お前…急にどうしたよ……」
「おうらぁぁぁぁぁぁ!!!」
そう叫びながら、タウロスは俺に突進してくる。
その身体には電気を帯びていた。……って解説してる場合じゃねえ!!!
俺は慌てて受身を取るように、地面を転がり、その突進から逃げる。
「…ち、相変わらずすばしっこいな。レオン」
「ちょ、待てタウロス!!俺は別にお前を狙いにきたわけじゃ――――――」
「問答無用だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
さらにタウロスは俺に向かって突進してくる。
俺が避けると、タウロスはそのまま壁にぶつかる。
その壁は粉々に崩れ去っていってしまったのである。
「……おいおい。だから人の話聞けって…」
「誰も俺に手出しはさせねぇ!!」
タウロスの拳が俺に向かって飛んでくる。
「…だから……人の話聞けっつってんだろうがぁ!!!!!」
俺はそうキレながら、右手でタウロスの腕を受け止める。
腕にはいきなり電流が生まれかなりの苦痛が生じてしまった。
「……はぁ…はぁ……だから、俺はお前には用ないって…」
「たろうす!このおにいちゃん。悪者なの??」
ひょこっと、顔を出した少女は俺の顔を見てタウロスに問いかけていた。
「い、いや・・・悪者じゃねえよ」
「じゃあたろうすの友達だぁ!!」
「…はぁ?」
「違うの??」
少し泣きそうな顔で、タウロスの顔を見る少女。
「…そ、そう!こいつと俺はお友達なんだ!久々だったからちょっと戦いごっこしたんだよッ!」
「そうなんだ!!たろうすの友達なんだ!!」
「そ、そうそう…」
ダメだ。何回見ても違和感がありすぎて呆然としちまう。
あのタウロスが、この子ども相手にたじたじ状態だ。
やっべ。笑ってしまいそう……。
「おい、レオン。お前今笑っただろ?」
「いや…だってさ……」
「はぁ…ったくよぉ」
「そ、それでタウロス。その子……なんなんだよ」
「あぁ?あー桜は……俺の占い師だ」
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「…さて、旅館もチェックインしたし、今日はゆっくりすっか」
俺は一日中ここで過ごすつもりだった。俺の向かう場所は、この町よりもさらに遠い。
朝早く起きて、電車乗って、散々歩いてここにきて、さらに長い距離歩くとなると…めんどくさい。
「あーいいねぇー旅館。
このだらだら出来る感じがいいぜぇ~。由香んちじゃあ狭くてこうはいかねえよなぁ」
俺はごろごろと畳の床を転げ回る。
「それにしても、あの堅物のタウロスのパートナーが子どもとはなぁ~」
高波桜。それがあのレオンに肩車されていた子どもの名前だ。
タウロス曰く、彼女は両親もなくして、親戚もいなかったんだとか。
そんなときに近所のおばちゃんに連れられて行った年間星座占いの発表のときに選ばれたとか。
それで、タウロスは、彼女を一人にしてはいけないと思い、むやみに戦いに出なくなったらしい。
襲われた俺は、タウロスに話せるだけの事情を説明して、所謂ひとつの「協定」を結んだ。
まあひとつの「不可侵条約」だ。
俺もタウロスが脱落して、一人になる桜ちゃんは想像したくなかった。
今の桜ちゃんは時折タウロスのことを「パパ」といい間違えるほど、タウロスを信頼しているのだ。
記憶がなくなるとはいえ、信頼してる人がこれ以上減るのは子どもとして辛いだろう。
俺も正直一対一の万全の体制でタウロスと闘ったら勝てるという確証がない。
というわけでの「不可侵条約」である。
まあこんなもの、お互いの利害が一致しないと成り立たないんだけどな。
「さて、由香には出ると言ってるし、テレビでも見るか」
そういって俺は、旅館のテレビをつけて、
一人と言う極楽を噛み締めるかのごとく、だらだらとしていた。
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「……今日も、大丈夫よね」
マンションの前。
松原李里香は、辺りをきょろきょろと見渡しながら中に入る。
彼女には秘密があるからだ。大きな秘密が。
彼女はエレベーターで移動して、自分の部屋に向かう。
「帰ったわよぉー」
彼女は自分の扉を開け、中にいる者達に自分の帰宅を知らせる。
「……お帰りなさいませ♪李里香さん♪♪」
「―――――ッ!?」
彼女がリビングについたとき、驚愕としてしまった。
どうして、どうしてと、同じ言葉が脳内を廻り巡る。
目の前には、いつものように遊んでいるジェミニと・・・そこに一緒にいる……リブラだった。
「ど、どうして…」
「言いませんでしたか?私とあなたの記憶を平等にしたと。そのときにわかったのですわ♪」
彼女は絶句してしまう。
「さあ……このこと、足引様になんとご報告いたしましょうか?」
にやりと笑うリブラの顔が、李里香には恐怖そのものでしかなかった。
☆
「さあ……このこと、足引様になんとご報告いたしましょうか?」
松原の部屋。
そこではしゃいで遊んでいるジェミニと共に、最悪の客人の姿が見えた。
『天秤座のリブラ』。自身の勤める会社の社長「足引玲子」の「星霊」
松原は社長とリブラに自身が「ふたご座の占い師」であることを隠していた。
闇討ちをしようとしていたわけではない。ただ…ジェミニたちを失うのが嫌だったのだ。
自分は社長の秘書。
社長の命令は絶対なのだ。バレたら嫌でもジェミニたちと共に闘わなければならなくなる。
彼らの強さは一応わかっているつもりだ。
それでも松原は、二人を失う恐怖を想像するだけで、萎縮してしまうのだ
「り、リブラさん…」
「ん~そうですわねぇ~♪確かにこれは社長への報告ミス。しかもそれが自身の護身。
その隠し情報が「自分が占い師であること」なのだから、
足引様は「裏切り者」扱いされるでしょうね♪
いつ李里香ちゃんが足引様を襲うかわからない…。そんなお人を近くにおけるでしょうか?」
「あ、あたしはそんなつもりはッ!」
「李里香ちゃんになくても、慎重な足引様にはあるように考えられますわ♪♪」
「そ、そんな……」
あたし、松原李里香は、落ち込み、肩を窄める。
このままではあたしはリブラに始末されるか、社長の奴隷とされるか…。
「わたくしと組む気はないでしょうか?」
「――――――ッ!?」
あたしは驚いて、目を見開いてしまう。今…なんと言った?
「あらあら本当に李里香ちゃんは面白いわ♪
大人びた美貌を持ってるのに中身はお子様のようなんですもの♪
なんなんですの?その鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔は♪♪」
悪戯に成功させた子どものような不敵な笑みを浮かべるリブラ。
「まあまあ、そんな口をぽかーんとしなくてもよろしいですわ♪
私とあなた…手を組まないかって話ですの♪♪わたくしと李里香ちゃんでね♪」
「だ、だから…それは、どういうこと……なんですか?」
「もう♪敬語はいいですわ♪♪李里香ちゃんとわたくしは同盟を組むのですから」
「いや、だからそれの意味がよくわかって―――――」
「わたくしは貴方に付くと言ってるんですわ♪足引様とは違う……貴方に」
「え?えぇ??」
「まあ、というわけでわたくしは帰りますわ♪安心くださいまし、足引様には内緒ですわ♪♪」
そういってリブラは軽快なステップを踏みながら、あたしの部屋から出て行っていく。
「ねえねえ!」「リリ姉!!」「「闘うの!?」」
「え、だ…ダメよッ!」
「えー」「でもー」「「僕達強いよ??」」
「ダメったらダメッ!わかった?」
「はーい…」
少しがっかりしたような表情で唇を尖らせたジェミニは、そのまま手に持っていた玩具で遊び始めた。
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「手塚殿!手塚殿ォォォォォォ!!!!」
「…サジ、てめぇ次は何に感化されたんだよ……」
「このDVDでござるぅ!この火の出る双槍!男でござる!かっこいいでござる!!」
「あーそう。そいつはよかった。かっこいいもんな。あれ」
「左様でござる!あの師への忠義心!!拙者も見習わなければ」
「そうかよ。ってかお前色々感化されちまうけど…「銃」だけは手放さないよな」
「左様!銃だけは拙者の魂でござる。
ガンマンであろうと侍であろうと忍者であろうと手放すことはしないのでござるよ!」
「あぁ・・わかるぜそれ。俺もこいつだけは絶対に離せねぇからなぁ……」
そういって手塚は拳銃をガチャと動かし、壁についている的に目掛けて引き金を引く。
的で当たったのは見事に真ん中。
「おォ!さすがでござるな手塚殿!!」
「お前には負けるけどな」
手塚はそう微笑みながら、拳銃をしまう。
「さて、サジ。ちょっとまじめな話すっぞ」
「お、如何な内容でござるか?」
「奇襲の話だ」
「…確かに深刻でござるな」
二人は頭を悩ませて首を捻る。
彼らは今悩んでいることがある。
それは、自らの基地に襲撃が起こっていることだ。
手塚の家は、普通の家のようなものなのだが、地下に広大な射的場を所有している。
しかし、ここに最近何かが攻撃を仕掛けてきているようなのだ。
牽制のつもりなのか、こちらを潰しにはこない。
こちらとしてはいつ攻められるかが恐ろしくて難しい。
いくらサジが強くても、正体がわかんなかったら意味がないのだ。
「けれど…大体検討がついた」
「なんとォ!?」
「ほんとお前はオーバーリアクションだな。
あのちっせえ虫みたいなのに小型の追跡カメラを仕掛けたんだよ。
まあ、途中で急にその虫みたいなのが燃えて、
追跡できなかったが、いくつか候補があがった。これを見ろ」
「ふむ…。」
手塚はパソコンを取り出し、地図を映し出す。
そこには赤い印がいくつかついている。
「だから今日からお前にはこのポイントを転々と調べて欲しいんだ」
「わかりもうした!では早速今日はここを調査しに行くでござる!!」
「おう、頼んだぞ」
そういって、サジタリウスは小走りで部屋を飛び出す。
彼はもう一度憂さ晴らしに拳銃を取り出し、引き金を引く。
この音がたまらない。と手塚は思っている。
そしてその快感を理解してくれたサジタリウスと彼は、コンビネーションで言えばかなり高いものだろう。
ミリタリーオタクで、アニメなども好きな彼は大学の3年生。
名を―――――「手塚隆吾」と言った。
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「どうしたのだ?神倉」
「……。来る」
「誰が来るのだ??」
「サジタリウス」
「…バレたのか?」
「うん。牽制し続けた甲斐がある」
「しかし大丈夫だろうか…」
「カプリコは慎重すぎ…大丈夫。私とカプリコがいれば誰にも負けない」
パソコンのキーボードを叩きながらカプリコの顔を見て、彼女は言った。
「そうか。神倉がそれほど自身を持っていてくれたらこちらとしては助かるな」
そういいながらカプリコは彼女の座るテーブルに豪華そうなケーキを置く。
「…これもカプリコが作ったの?」
「あぁ、頭を使うのには糖分が必要というからな。ケーキは専門外だが、作ってみれば容易いものだ」
カプリコがそういうのを耳で聞きながらケーキをフォークで刺して口に運ぶ。
「…おいしい」
口の中で生クリームが一気に広がる。
その中に入っていたのはイチゴのゼリーだろうか。ほのかに甘酸っぱい味が刺激を与える。
スポンジもしっとりとしていて、
口の中がとてもふんわりとしていく。とても初めて作ったとは思えない。
「ね、ねえ…カプリコ」
「なんだ?神倉??」
「……私のこと、名前で呼んで?」
彼女がインターキーを押したあと、カプリコの顔を見ずに言う。
その顔は、茹で上がっているのかと聞いてしまいたくなるほど真っ赤になっていた。
「…………雪音。」
怪訝深く彼女を見ていたカプリコは頭に疑問府を浮かべながらも、彼女の名を呼ぶ。
「……うん」
彼女は微笑みながら、またキーボードを叩き始める。
カプリコはそれをただ突っ立って見つめていた。
こんな平穏なディナーが続くのは……ほんの少しとも知らずに――――。
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「やっと…ついたぁ………」
レオンは額の汗を拭いながら、目的地を見つめる。
本当に大きな大木が立っている丘の上。そこが彼の目的地だった。
「はぁ・・・・約束どおり着てやったぞ・・・・・早苗。」
レオンは大木にもたれ掛かり、一言呟くと、夜の風に当たって心地よかったのか瞳を閉じる。
この木で目を閉じると、あの日のことを思い出す。
十年前の年間星座占いを―――――――。
☆
十年前。星見町。沿岸部
「・・・・・おめぇが俺のパートナーか?」
「うん。えーっと・・・レオンでいいのかな?」
「あぁ、合ってるけど…なんで知ってんだよ」
「ん?そんな気がしただけ…」
そう言い、くすりと微笑む彼女。
俺と彼女…。豊穣早苗が出会ったのはちょうど十年前だった。
当時の俺は尖っていた。常に上位に君臨し、正直言うと粋がっていた。
「さて、てめえは俺が絶対に一位にしたやっからな!!」
「うん。頑張ってよねッ!」
彼女はとても清楚で、けれど元気のある陽気な女性だった。
いつもの白いワンピースに、長くて艶やかなロングヘアー。
それが今でも忘れられないぐらい印象強かった。
そこから俺達は、年間星座占いの闘いに乗り出した。
始めに魚座のスィーと闘い、倒した。
その後もバルやタウロスと死闘を繰り広げ、ジェミニとも闘い勝利した。
このときの俺と早苗は絶好調だった。
誰でもかかってこい!!と言わんばかりの自身に満ち溢れていた。
その死闘は1ヶ月経ち、
状況はスィー、ジェミニ、スコーピオン、
そしてスコーピオンと闘ったタウロスが脱落と言う
異例の事態が起こったことも、この歳の特徴だった。
その後俺達は、むやみに闘うことを避け、小さな小屋で二人だけの時間を過ごしたんだ…。
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そこから二ヶ月。
リブラの自害を境に
俺、バル、サジ、エリー、カプリコ、キャンサー、アクエリアスの7人の対決となった。
「ねえ、レオン?」
俺の背中に、背中を当ててきて、
こちらの顔を見ずに小さな声で呟く。
「ん…なんだよ」
背中合わせの状態。暗い部屋で、俺たちは会話を紡ぐ。
「勝てるの?」
「あぁ、安心しろ。おめぇは俺が絶対に幸せにしてやる」
俺は彼女の言葉を、天井を見ながら答える
すると後ろからもたれ掛かっている
彼女の髪の匂いがした。自然に落ち着くような…そんな不思議な香りがした。
いつからだろうか、きっと俺達は愛し合っていたのだ。
俺は早苗が大好きだった。人として、女として――――――。
彼女と一生を終えたかった。
そこで俺は思い出したんだ、星霊にはひとつのボーナスが出ることを。
『一位になった星霊は、望めば「人」としての一生を選ぶことが出来る』と言うものだ。
俺はこれしかない!と思っていた。
俺が一位になって、人として早苗と共に一生を過ごす。
これが俺の野望だったのだ。
「なぁ早苗」
「ん?どうしたの??」
「俺さ…絶対に一位になる。そして、お前を一人にさせない」
「・・・・そっ、嬉しい」
彼女は微笑みながら、こちらに体重を掛けてくる。
その重みは、とても心地よかった。
そしてこの時間が本当に―――――――心地よかった。
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「死ねぇ!レオン!!!」
「てめぇごときにやられっかよ!!」
大きな町。
バルのギターの音が響き渡る。
とても激しいロックのような音色だ。
その音が波動のようにこちらに飛んでき、次々と建物を破壊していく。
俺はそれを上手いことかわしながら、隙を窺うが、
楽器を奏でているバルは正直攻める隙など与えてはくれない
「私の音は!!無機質をも振るわせる!!!!」
彼女はギターを高くあげ、とち狂ったようにギターの弦を弾く。
すると崩れていった瓦礫や、電柱がぶるぶると揺れだし、俺に襲い掛かってくる。
「しまっ――――」
俺はその状況にとんでもないことに気付く。
近くに早苗がいるのだ。この数でここに一斉に飛んでこられたら早苗にも被害が出る。
「早苗っ!!!」
「レオンっ!」
俺は彼女のほうに飛び込み、彼女を抱きかかえたまま転げ落ちるように、その場から移動する。
早苗と俺のいた場所には、瓦礫の山が広がっていた。
「まだまだこっからよっ!レオン!!あんたにその可愛い占い師さんを護れるかしら!?」
そう叫んで、もう一度ギターの弦を弾こうとしたときだった。
彼女は突然バックステップで移動する。
「・・・・なんっで邪魔すんのよっ!!サジタリウス!!!!」
バルが怒りに満ち溢れた表情で、攻撃が来た方向を睨みつける。
そこには、西洋のガンマンのような風貌に大きなハットを被った男が、拳銃を向けていた。サジタリウスである。
「…悪いな。バル。闘いにおいて漁夫の利は王道の攻め方だ。俺を責めることはできないぞ」
「…ちっ」
二人がにらみ合っている。
これは闘いが始まる。この二人の激闘が…。
「レオン…。今のうちに退散しよ?」
「え?あ、あぁ……」
俺は早苗に先導され、バレないようにその場を走りさる。
「させないわよっ!!!」
「……エリア」
逃げようとしていた俺たちの目の前に、水瓶座のアクエリアスが現れる。
「…くっそ!!早苗!その辺に隠れてろっ!!!」
俺は早苗にそういい捨てて、アクエリアスと対峙する。
どうやら、ここが正念場なのだろう。
乙女座のバル。射手座のサジタリウス。水瓶座のアクエリアス。と俺も含めて四人もいる。
これだけ騒ぎが大きくなれば、残りの三人もこっちにきちまうだろう。
俺はアクエリアスとの対決に集中する。
俺VSアクエリアス。バルVSサジタリウスの対決カードが出来、戦場は混沌とした。
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「はぁ…はぁ…」
「お疲れ、レオン」
「お、おう…」
俺は無事、アクエリアスを倒すことに成功する。
しかし、遠くにはまだバルたちの闘いなどの音が響き渡る。戦場には変わりないようだ。
「行くぞ、早苗。ここは逃げるぞ」
「うん…そうだね」
そのまま俺たちは道を歩いていく。
星霊たちの争いの舞台となっているのに、一歩外へ出てみれば、なんの変哲もない街だ。
少し近くで死闘を繰り広げられているとは到底思えない。
「これで…一安心だね♪」
「あぁ、あいつらの音も消えたしな。どっちかがやられたか…逃げたか」
俺たちは道路を歩きながらそんな談笑をしていると、目の前に小さな少女がいるのを、早苗は気付く。
「―――――――っ!?」
「お、おいっ!!早苗!!!」
彼女は突然その小さな少女に向かって走ってくる。
いつものワンピースだからか、とても走りずらそうだ。
「あのやろうっ!!」
俺はあることに気付く。その女の子がサッカーボールを拾った直後、横にはトラックが来ていることに――――。
俺もダッシュをしようとするが、間に合わないってのを悟ってしまう。
早苗を救ってからじゃあ目の前の少女が救えない。
目の前の子どもを優先すると、きっと早苗が轢かれてしまう。
………くそっ!どっちかとか選べねぇ!!!
俺の足が竦んだとき、早苗は子どもに向かって飛び込んだ。
その瞬間。俺の視界はトラックで埋め尽くされ、少女の姿も、早苗の姿も見えなくなった。
「早苗っ!!!」
俺は思わず叫び、トラックが通り過ぎるのを待つ。
トラックが視界から消えたとき、目の前には倒れている早苗と、彼女に抱きかかえられてる少女の姿が見えた
「……大丈夫?」
彼女の下へ向かうと、彼女はすごい汗を出しているが。慈愛めいた瞳で少女を見つめていた。
「う、うん…ありがとう、お姉ちゃん」
「もう!道でボール遊びは危ないから今度からしちゃダメよっ!怖かったでしょ?」
「うん。うっ、ごめんなさい。あっ、あたし、すっごくこわかった…」
少女は泣きそうになりながらそれを必死にこらえ、早苗の言葉に返事していた。
そんなとき、どこからか「ゆかぁー!」と大きな声で呼んでいる人の声が響く。多分この子の母親だろう。
「おかぁーさーん!!」
少女は自分の母親を見つけると泣きながら、母親の下へ駆け込んでいった。
母親は必死に何度も頭を下げてから、少女とともに去っていった。
「お前、そんな格好で走っていくなよな」
「ごめん…」
彼女は「えへへ…」と笑みを浮かべながら、俺の顔を見ていた。
一歩間違えたら自分も死ぬところだったのに、何の躊躇もなく行動に出る彼女は本当にすごいと思った。
「さあ、逃げよう。ここはまだ危険だ」
「うん、そうだね」
俺が差し出した手を、早苗は手に取ろうとする。
二人の手がつながった、そのときだった―――――後ろの殺意に気付いたのは。
「――――っ!?」
それに気付いた直後、右肩、左腹部、左膝と突然物凄い痛みに襲われる。
「レオンっ!!」
「よかった。ご婦人には当たっていないか。安心した」
俺はそのまま一気に意識が引っ張られ、気を失うかのごとく、地面に倒れてしまう。
早苗の俺の身体で遮られていた視界が、俺が倒れるとともに広がっていく。
自分たちよりも少し遠い場所で、自分たちを睨みつける。サジタリウスの姿が見えた。
「ち、ちきしょー…」
俺はどうやら上手いこと身体が動かなくなる部位を打ち抜かれたらしい。まったく身体が動く気がしない。
「さて、不意打ちで本当に済まないけど、これはサバイバルだ。恨みっこなしだ」
サジタリウスはこちらに歩いてきて銃口を向ける。
やばい…殺される…。俺も夢が…費えるのか…。
「…『天使喰い』強制発動」
「―――――っ!?」
そんな言葉が聞こえたかと思うと、俺の唇に柔らかいものが触れる。早苗の唇だ。
その直後、不整脈のように、ドクンと心臓が大きく動く、能力の発動合図だ。
身体の傷がまるで焼かれているかのような音を出し、修復されていく。細胞が活性化してるのだ。
口の歯も、自然と鋭利なものに変わっていく。
「ぐるらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
これが、最悪の悲劇の始まるを告げる。雄たけびとはこのとき誰も、知る由もなかった。
☆
「ぐるらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
獣のような咆哮が、町中に響き渡る。
『天使喰い』。
理性を喰うことで、身体を活性化させ、力を得ると言うもの。
俺がこれを知ったとき、使う割合が決まってることもわかっていた。
10%…20%…40%…そして50%これが自身で発動できる限界値らしかった。
今でこそ自分で100%を出せるが、それは一度「他人」に発動されたからだ。
『天使喰い』は、パートナーが本来能力を管理できる。
水準があり、その水準を超えたい場合は、パートナーの了承がなければならないというものだ。
俺は今まで50%以上理性を喰ったことがなかったからそこが水準だった。
けれどこのとき、発動されてしまったんだ。早苗によって――――。
「ど、どうしたと言うのだっ!レオン!!」
サジは銃を構えながら、俺の豹変振りに身を震わせる。
「ぐらぁ!!」
そして俺は、そのままサジタリウスへ、本能おもむくまま…襲い掛かったんだ。
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「くっ!!」
なんて強さだ。そしてなんて豹変ぶりだろうか。
あのクールなレオンが…まるで、いや……まさに獣そのものだった。
俺はいくつか弾丸を放つ。
しかし、レオンは俊敏な動きでこれを全て交わす。
「ぐるらぁ!!」
「――――っ!?」
一瞬で目の前に現れるレオンは拳を振り上げている。
これは逃げれないっ!!
俺は顔の前で腕をクロスにし、レオンの拳を受け止める。なんて重さだ。耐え切れない!!
そのまま、建物の壁まで勢いよく俺の身体は飛ばされる。
なんて威力だ。凄まじい。本当に化け物だ。
「だがっ!!俺も伊達に上位に君臨しているわけではないぞ!!」
俺はすぐに身を起き上がらせ、彼の攻撃から逃れる。
力もスピードも桁違いだが、化け物同様。作戦がない。
知能がなくただただ襲い掛かってくるだけ。そんなものに俺が負けるものか!!
逃げながら、距離を取り、何度か銃を放つが、ことごとく避けられ、距離を詰められる。
当たったとしても掠るだけ。どうやら音で感知されてるみたいだ。
(これでは…無理か。なら!!)
装備をボーガンに切り替え矢を放つ。
銃のように音がならない分、こちらのほうが悟られにくい。
視界の届かないところからの攻撃なら当たるはず!!
放った矢がレオンの肺を狙い向かう。
「――――っ!?」
俺は驚愕し、目を見開いてしまう。
なぜだ?完全に視界には入っていなかったはず!殺意も消した!!
なのになぜやつは俺の矢を今…掴んでいるんだ!?
「ぎゃるうぁ!!」
「―――っ!!」
一瞬。レオンの姿が消えた。
そう思った直後俺の腹部に強烈な痛みが走っているのがわかった。
下を見ると、レオンのその鋭利に伸びた爪が、俺の腹部を抉り出していたのだ。
「…くはっ!」
口から逆流するように血液が流れ出てしまう。
レオンはそのまま刺している手をぐるりと捻る。ぐちゅり…と身が抉られる音がする。
「がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺はみっともなくも、その苦痛に耐え切れず悲鳴をあげる。
「くそがぁ!!」
俺は苦痛を忘れるために歯に食いしばり、銃を取り出す。
奴の額に目掛けて引き金を引く。
「パァン!!」と激しい音を立てて、レオンのやつは数メートル先に飛ばされる。
そのとき離れた傷口から大量の赤い液体が噴水のように流れてくる。
「はぁ・・・はぁ・・・・・・」
そして意識が曖昧になる。
視界も朦朧としてきた。
手が震えて持ってた銃が落ちた。
あぁ……終わったんだ。俺は…あの化け物に負けたのか。何も出来ず…おめおめと、くっそ。
そして――――――――射手座のサジタリウスは消滅した――――――。
--------------------------------------------------------------
あれ?俺…どうしたんだ??
なんで…俺がサジタリウスを圧倒してるんだ。
なんで…サジタリウス怯えたような表情を浮かべてるんだ?
どうして俺は…勝手に身体が動いているんだ??
あれ…なんか刺さったぞ?手が真っ赤になってる。
血だ。真っ赤な血。
あれ?サジタリウスが遠のいていく。あ、違う…俺が飛ばされたんだ。
あ…サジタリウスが消える。俺は…勝ったのか??
よかった。これで俺達は逃げれ……………
あれ?どうしたんだよ?止まれよ。俺の身体。止まれよぉ!!!
どうしてそのらへんの建物ぶっ壊してんだよ。もう敵はいなくなったんだぞ?
なんで動いてるんだよ!なぁ!!なぁ!!!!
次々と建物が壊されていく。
止めたくても止まらない。まるで自分の身体じゃないようだ。
壊れる電柱、壊れる車、壊れる地面、壊れる建物。
ダメだ。だめだ。駄目だ。
なんで無駄なもんまで壊してんだよ…。なんで止まらないんだよっ!!
そしてぐるんぐるんと縦横無尽に動く視界がある一点に止まる。
おいっ、待てよ。それはおかしいだろっ!!おいっ!!!!
けれどそんな俺の思いとは裏腹に、獣と化した身体は勝手に動く。
愛すべき―――――――早苗の方向に―――――――。
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「え?ちょっとレオン??」
あたしは思わず動揺してしまった。
理性を失う。
それが彼の能力だとわかっていたけれど、
ここまでの化け物になるかと思ってしまった。
思わず足が竦んで動けなくなってしまう。
それに、さっき足を擦ったせいで、膝から血から少し出ていて痛い。
縦横無尽に暴れまわるレオン。
なんの目的もなく、ただものを壊してるだけの存在。
あたしは持ってはいけない感情を持ってしまう。『恐怖』だ。
でも…ここでレオンを止めれるのは多分あたしだけだ…
「レオンっ!!!」
あたしは大きな声で叫ぶ。
レオンの姿をした化け物は、その声に反応したのか、あたしの方を向いた。
「―――っ!?」
瞬く間に、レオンの姿をした化け物はあたしに襲い掛かってくる。
ものすごいスピード。足に力が抜けて動けない!!!!
腕の方から「ぐじゅり」と生々しい音が響く。そこから痛みが広がり、赤い液体が流れ出す。
「レッ…レオン…」
「ぐるぅぅぅぅぅ……」
あたしはあたしの肩に減り込むレオンの左腕を掴み、彼の目を見つめる。
全身から汗が噴出してくる。呼吸も荒くなってくる。どうしよう…………頭もふらふらしてきちゃった…
「レッ、レオン…。大丈夫……だから…」
彼の腕を掴んでいた手を、彼の頬に移動させ、撫でる。
「ぐるぅぁ!!」
レオンの叫びと共に、腹部に衝撃が走る。彼の右腕が、あたしのお腹を刺してるのだ。
「レ、レオンッ!!」
「ヴァゥァ!!」
右腕がさらにのめり込む。痛さで意識がぶっ飛びそうだ。
どうやら怒鳴るあたしに、怯えているうようだ。
「レオン…あん、たは…あたしを……護るんでしょ!?」
あたしはカラカラの声でそう叫び、前のめりに彼に近づく。
刺さった腕がさらにのめり込む。
「ぐじゅぐじゅ」と音を立ててあたしに痛みを感じさせ、全身から汗が噴出す。
「ね?起きて…レオン」
あたしは彼のデコにコツンと、頭突きをする。
「………さ、早苗…」
「よかった…戻っ……った」
私はそのまま意識が飛んでしまった。
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「お、おいっ!!早苗!!!!おいっ!」
途中から、客観的にすら自分を見ることが出来なかった。
真っ暗になった視界で、意識を失った。
そして気がつけば、早苗が血だらけになっていた。
「もう…大袈裟だなぁ…大丈夫だよ…」
「だ、だって!お前ッ!!」
「そうだなぁ…。うん、あたし死ぬね」
「お前ッ!何簡単に言ってんだよっ!!」
「だからね、お墓作って欲しいな。あたしの家の近くの大きな木に」
「わ、わかったっ!!つ、作ってやる!!」
「ほんと?なら嬉しい…」
彼女はそう微笑み、静かに目を閉じた。
「さ、早苗・・・!?お、おい!早苗っ!?」
揺すっても、彼女は起きてくれなかった。
そして俺の身体が消滅に進んでいるのを感じた。
「・・・くっそ!」
俺はもう目を覚まさない早苗を抱きかかえ、走り去った。
街の中を走り去る。
時間が経つに連れて、早苗の体温は低くなっていく。
(待ってろっ!早苗!!絶対!!絶対にあの木に埋めてやるからな!!!!
そして俺は走り去る。
徐々に早苗の家の近くの大きな木に近づく。
しかし、木が見えてきた時点で、俺達はもうほとんど透明になってしまっていた。
「はぁ…はぁ……」
俺は約束の木に辿りついた。
「さあ、もうすぐだからな!」
俺は肌の冷たい早苗を木にもたれかからせ、手で地面を掘り始める。
「…あっ……」
そのとき俺は絶望してしまった。
手が………ないのだ。
「お、おいっ…冗談だろ?どういうことだよ……」
土が彫れない。物に触れられない。
慌てて早苗の方を見ると、もう彼女の姿は消えていた。
「……へへっ、結局…間に合わずかよ…」
俺は地面に俯く。いつの間にか瞳から涙がこぼれた。
そして俺も、彼女同様に……消滅した。
---------------------------------------------------------------
「早苗……」
木にもたれかかって何時間経っただろう。
どうやら寝てしまっているようだ。寝ている瞳から、無意識に涙がこぼれた―――――――。
---------------------------------------------------------------
「そういえば、あれから十年なんだ。行かないとなぁ…」
「ん?どうかしたんですか??李里香ちゃん♪♪」
「あー、リブラさん。ジェミニの面倒見てもらってもいいですか?」
「リリ姉!」「別に僕達」「「リブラなんかがいなくても大丈夫だよぉー!!」」
「そう?でもあたしも、
別に星霊を従えないと危ないようなところに行くんじゃないからついてこなくていいの」
「「えー」」「「そんなぁー」」
「まあまあ、ジェミニ?李里香ちゃんがこういってるんだし、
貴方達は隠れてる身なんですからわたくしと遊びましょう?」
「うぅー」「もぉー」「「仕方ないなぁー」」
「じゃ、行ってきまーっす」
そういって彼女、松原李里香は扉を出た。
☆
「・・・・・帰ってこない!」
あたし、神崎由香はテーブルに顎を引っ付けて、たった一人の部屋で呟いた。
「もうっ!!なんっであいつ帰って来ないのよっ!!もぉー!!!!!」
イライラして、両手をグーにしてテーブルをドンドンと叩く。
あの腹の立つ置き手紙からもう一週間経つ。もうすぐ春休みも終わる。
終わったら二年生になっちゃう。それなのに・・・・・・。
「レオンのやつ、どこに行ったのよぉー!!!!!!!」
もう!なんでイライラすんのよっ!もぉー!!!
そう、無償な苛立ちに苦しんでいるとき、「ぴーんぽーん」とインターホンの音が聞こえた。
「ん?誰だろ??」
あたしは心意を一変させ、玄関に向かい、扉を開ける。
そこには毒島裕太くんがいた。
「な、なんか随分思いつめてるみたい・・・・だね?」
彼は苦笑いであたしを見ながら言った。
「え?もしかして・・・・・・・」
「うん、外からもまる聞こえだったよ」
「―――っ////」
そういわれるとすっごく恥ずかしくなってしまった。
なんであたし、あいつがいないだけであんなにイライラしていたんだっけ??
「あ、それで…毒島くん。どうしたの?急にきて」
「うん…流石に戻ってくるのが遅すぎるから、僕も心配で…神崎にも教えとこうって」
「ん?なんのこと??」
「レオンさんの…行ったところのことだよ」
毒島くんの言葉に、あたしはしばらく硬直した――――――。
---------------------------------------------------------------
「…雪音?」
「………////」
「雪音!」
「――っ!?あ、うん。ごめん…」
「どうしたというのだ?最近のお前はどこかぼーっとしている」
「うっ、な…なんでもないよ?」
「そうか?まあいい。ほら、紅茶でも飲んで落ち着け」
我はなぜか顔が高揚している雪音に、アールグレイを煎れ、差し出す。
「ん。ありがとう…」
彼女は一口それを飲み、落ち着いた様子でまたキーボードを叩く。
「……」
「どうした?」
「カプリコの『兵』を隠していた空き家が、潰されていってる」
「……なんだと?」
「多分、射手座だと思う…」
「ふむ。バレたのはわかっていたが、ここまで大胆に繰るとはな」
「……どうしよっか?」
「ここがサジタリウスにバレる前に、攻めるか」
「いいの?」
「あぁ、しかし攻めるのはやつがこの土地に入ってきたときだ」
「うん。じゃあそれまで、私たちは準備…だね」
「そうだな。早速取り掛かろう」
そういって彼女は席を立ち、別の部屋に向かう。
我も三歩後ろから、彼女についていった。
---------------------------------------------------------------
「リブラ?いる??」
「はいはいどうかなさいました?足引様??」
「ハッカーの場所を突き止めたわ。そこに向かって頂戴」
「えー、わたくしがですか??」
「あなたは私の星霊でしょう??」
「あ♪そうでしたわ♪♪」
リブラは何かを隠しているのをわざとバラそうとしているとしか思えない笑みを浮かべる。
いや、彼女は元々そういう笑い方だったかしら。
まあ、少し探りを入れてみようかしら……。
「リブラ?何か隠し事をしてないかしら?」
「あら?なぜそれを??」
簡単に認めてしまった…。
「何を隠してるか…話なさい」
「まあ、話してもよろしいのですが…わたくしはあんまり乗り気じゃありませんわぁ」
「とにかく、話なさい」
「あらあら足引様ともあろうお方が少々イラついているご様子で♪
器量の大きな人間ではないとTOPにはたてませんわよ?」
簡単に認めたくせに、話すのは渋るリブラ。本当に、人をイラつかせるのはプロかもしれない。
「とにかく…話なさい」
「おー怖いですわ♪くわばらくわばら…。じゃあ条件を出させていただきましょう♪♪」
「条件?」
「ええ、そうですわ♪わたくしが話したことを聞いたとて、あなたは何もしてはいけませんわ♪
それでよろしいのでしたら、話してもよろしいでしょう」
「・・・な、何よ。早く話なさいよ」
「条件は護ると?」
「ええ、当然よ」
「ならお話しましょう♪」
そういって彼女は歩き始め、社長室にある大きなソファーにごろんと寝転がる。
「あなたの秘書。松原李里香ちゃんについてですわ♪♪」
「彼女が……どうしたの?」
「まあ、彼女について調べてみるのも面白いかもしれませんわよ?そしてその隠してることはですわね……」
「もったいぶらずに早くいいなさい」
私は思わず眉を歪ませて彼女を睨む。
「あらあら♪まあ急かさずに聞いてくださいまし、松原李里香は……「占い師」ですわ♪双子座の♪♪」
「―――――っ!?」
私は思わず顔に出てしまうほど驚いてしまっていた。
そんな………あの子が…
「何か事情があって、ジェミニには闘わせたくないようですの♪
足引様にバレたら、きっと任務としてジェミニが闘いに出なければならなくなる。それを恐れていたんでしょう♪」
リブラが軽快なステップを踏み、部屋で舞い踊りながら話をする。
「なのでどうか、彼女を責めないでくださいまし♪♪足引様♪」
「……わかったわ。李里香には何もさせない。好きにさせるわ」
「よくぞ言ってくださいました!で?随分前に戻りますが、
ハッカーの居場所を突き止めたんでしたわね?どこなんですの?」
「えぇ、これを見て。ここの巨大な土地を持つご令嬢がいるの。
まあ田舎の安い土地を一気に買い占めたってのが正解なのだけど、私なんて足元にも及ばない資産家だわ。
まあ『神倉グループ』って言えば会社の偉い人物なら誰でも知ってる名前よ。そこの屋敷に、ハッカーがいる。
そしてあの家にはたった一人しか人はいないはずなのよ………」
「と、いいますと??」
「そこの…神倉雄三の娘『神倉雪音』彼女がハッカーの正体と踏んでいるわ。
彼女が誰かを雇った…という線もあるけれど、とにかく彼女が黒幕。そして………」
「その神倉雪音さんが、『占い師』である」
「そうよ。私達の情報に手を出すところを見て、彼女が持つ情報の所有量はとてつもないものだと思うわ。
だから、彼女を襲撃して、その情報量を根こそぎ奪うの」
「なるほど…了解いたしましたわ♪♪」
「あなたは自分が弱いといいましたわよね?
ならせめて神倉雪音の情報量とあなたの情報量を『平等』にしてきなさい。それが最低条件よ」
「了解いたしましたわ♪♪では支度し次第、神倉雪音宅に向かいますわ♪」
「ええ、よろしく…」
そういってリブラは上機嫌な足取りで、部屋を出た。
私は、いまだ李里香の隠していたことに、動揺が隠せない。
「まあ、落ち着きましょう」
そういって私は、暖かいコーヒーを煎れて、口にした。
いつもなら………李里香が入れてくれるのだけれど…
「彼女も、独立する時期なのかもしれないわね…」
私は振り返り、ガラスから見えるこのビルの並ぶコンクリートジャングルを見つめていた。
---------------------------------------------------------------
「ふぅ…久しぶりだな。ここに来たのも♪」
あたし、松原李里香はスーツ姿ではなく
お気に入りの白いワンピースをして大きなスーツケースを持ってある場所に到着する。
ここに前来たのは……去年の同じ時期だっただろうか。
「さあ!!行こっと♪」
あたしは力を踏ん張って、荷物で重たくなったケースを抱えて、大きな坂道を登った――――――。
---------------------------------------------------------------
「「えぇー!リブラ今から闘いに行くのぉー!!」」
「闘いじゃあありませんわ♪お仕事に行くんですのよ♪♪」
「違う!」「絶対に」「「戦いに行くんだぁー!」」
「はぁ・・・もう聞き分けないですわね~。よし、これをあげますわ♪♪」
「えー!」「何々!!」「「なんかくれるのぉー!?」
「まあまあ♪はい、目をつぶってくださいな♪♪」
わたくしがそういうと、二人は無邪気に目を閉じて、わくわくとした顔をしている。
「……これでよしっと」
「あー!」「「何すんだよぉー!!!」」
わたくしは、少々五月蝿いジェミニをとてつもなくきつい縄で縛ってみる。
これで大丈夫でしょう♪
「じゃあわたくしは行きますので、
李里香ちゃんに迷惑かけないように、そこでじっとしててくださいまし♪」
「「うぅー!」」
二人は不機嫌そうに頬を膨らましているが、わたくしは気にせずに扉を閉める。
「さてさて、久々のお仕事、胸が躍りますわね♪♪」
そういってわたくしは『神倉邸』へ向かった――――――――。
---------------------------------------------------------------
「……山に向かった?」
「うん、まあ事情は僕にも説明してくれなかったんだけど。
ちょっとの間そこ行くから神崎のこと頼むって言われて…」
「あ、なるほど。だから毒島くんちょこちょこあたしの家に遊びにきてたんだ」
「うっ、ま、まあ……」
「ん??」
なぜか顔を逸らす毒島くん。どうしたんだろ??
「それで、ちょっとの間って行ってたけど一週間以上帰ってこないのは異変かなって思って…」
「それであたしに教えにきてくれたんだ」
「うん。何かに巻き込まれたかも知れないし」
毒島くんは真剣な表情であたしに言ってくれた。
「よっし!!毒島くん!その山に行こっか!!!!」
「……えっ!?」
「よし!善は急げってね!ちょっと外で待ってて、着替えたりするから!!!」
「え、あ……うん」
あたしが言ってすぐタンスから服を漁りながら
毒島に外に出るように指示する。毒島くんはそのまま出て行く。
「はぁ…ほんっと、突発的だなぁ」
俺、毒島裕太は扉にもたれかかりながら少し呟いた。
女子の着替えを待つ……か。こんな経験ないな。そういえば…。
……なんでこんな緊張してんだろ。
「…あ!おめえ!!」
そんなとき、突然大きな声が聞こえる。
声の方に視線を送ると、見知った女子の姿があった。
「……お、鬼塚…」
「てめえ毒島!なんで由香の家の前にいるんだよっ!」
「え、えーっとこれにはそれなりの事情がぁ……」
「あぁ?てめえそういえば最近由香の周りをうろついてるな、どういう関係だぁ?あぁ!?」
やばい!すっげえ怖い!!だから鬼塚には会いたくねえんだよっ!!
ってか、完全に誤解されてるぞ。敵意の籠もった目で睨まれてんもん!
「ごめんねー毒島くん。待ったぁー?さあさあ山まで二人でキャンプだぁ!なんちゃって…」
扉を開けながらその明るい声で冗談を言う神崎。って!この状況はまずい!!
「デ、デートだぁ?」
「ん?あー!綾ちゃん!どうしたのぉ??」
鬼塚の完全に怒りに満ちている表情なんてまったく気にせず彼女に話しかける神崎
「……あたしも………く」
「ん?どしたの??」
「あたしも行くって行ってんだよぉ!!」
「えー!?綾ちゃん。あたし達が何しに行くかわかってるの?」
「五月蝿い!あたしは由香と毒島が二人で山になんかぜってぇいかせねぇ!!!
山に二人で行って…あんなことや……こんなことを………」
顔を真っ赤にしながら怒鳴る鬼塚。
こっちが恥ずかしくなるような妄想しちゃってんだろうな……鬼塚。
「ばっ!ちげえよ!!」
「聞いてるこっちが恥ずかしくなっちゃったよ!!」
俺と神崎が彼女のことに思わず赤面し怒鳴り返す。
「へっ!そいつはどうかなぁ!!由香がそう思ってなくても毒島が思ってるかもしんねぇぞ!!」
「もー綾ちゃん。そんなことないよぉーねえ??」
さっきの服を着替えるのを待ってるときに、そういった妄想をしてしまったから、否定も出来ない…。
「ほら!図星なんじゃねえか!男ってのはそういう生き物なんだよっ!!」
「あー!もう!!じゃあお前も来いよ鬼塚!!!」
「えー!?いいの毒島くん!?」
「こうでも言わねぇと鬼塚は納得しねぇって」
「うっし!決まりだ!!この三人で山までキャンプだぁー!!
鬼塚は俺の肩と神崎の肩に手を回して、大仰に笑った―――――――。
☆
「………来た。」
「うむ。サジタリウスか」
「うん。ここ……」
そういって彼女は我に見えるようにノートパソコンのディスプレイを見せてくれる。
そこには街の全体像が移っており、いくつかの赤い「点」がある。
ここには我が能力で作った『兵』を収納しており
全員の居場所がわかりしだい開放するつもりだった。
そして、サジタリウスの基地を発見し、調査をしていたのだがそれで感づかれてしまったらしい。
先日からその収納庫が破壊され続けているのだ。
ならこちらはそれを利用しようと、我々は考えた。
今ディスプレイには、一箇所だけ点滅している場所がある。
これは星力を感じたら点滅するようにしているものなのだ。
つまりこの点滅があるということは……サジタリウスが今日壊すのは…ここということだ。
「では、行ってくる…」
我は雪音に一言告げて去ろうとすると、服の袖を掴まれ進めなくなってしまった。
振り返ってみると、雪音が我の袖を掴んで俯いていた。
「どうした?」
「……っ///」
気のせいか、顔が真っ赤な気がする。
彼女はいったいどうしたというのだろうか?
「…サジタリウス、強いんだよね?」
「ん?あぁ、そうだ。しかし…あの収納庫に収めてあるものを使えば勝てないこともない」
「……本当?」
「あぁ、勝算は一応ある。それに不可能だと判断すれば逃げる」
「じゃあ…死なない?」
「あぁ、死なない。
だから、そのような目をするでない。雪音は一企業を担う者なのだろう?」
我は少し泣きそうになっている雪音の言葉に丁寧に答える。
最近の彼女は本当にどこか変だ。少し冷静さを欠けている節もある。
「では、行ってくる」
「うん……いってらっしゃい」
雪音は微笑み、次はきちんと我を見送ってくれた。
準備は整った。
相手は罠に掛かった。
あの最強のサジタリウスと言えど、一矢報いることくらいは出来るだろう。
奴に重症を与えれば、他のやつがサジタリウスを始末してくれるだろう。
帰ったら、雪音にディナーを作ってやろう。
最近顔が赤くなりがちだ。きっと熱でもあるのだろう。
そうだな…解熱作用のある梅に、寒気や熱に良いシソも使おうか。
消化にいい卵も使えばよく効くだろうか。
普段はフレンチを作っているが、デセールにはあえて和食で……。
そうだな………今さっきの材料なら茶碗蒸しなるものでも作ろうか。
やはり雪音も日本人。和食を食べたいと思うときもあるだろう……………
「…っと、なぜ我が雪音の食事についてここまで考えてるのやら…」
そう思わず呟き、我は屋敷を出た――――――――――。
---------------------------------------------------------------
「んぅ~!やっぱりここは空気が美味しいわね」
あたしは道路の途中で鞄を置き、空気を大きく吸い込み、背筋をぐぅーっと伸ばす。
「さてっと……まだまだ遠いなぁ~」
大きな坂道を置いていた大きな鞄を持ち直し、歩き始める。
目線の先には大きな木が見える。今日のあたしの目的地だ。
「今頃ジェミ、ミニ…どうしてるかなぁー」
あたしは思わず思い出してしまう。
あの子たちには、絶対に闘ってほしくない。出来ることならずっと隠れて一年をやり過ごしたい。
(リリ姉ぇ!!一緒に遊ぼう!!!)
(李里香……二人をよろしくね?)
本当……この世に神様がいるとしたら、きっとあたしのこと嫌いなんだろうな。
思い出されるのはあたしの足にしがみついていた二人の子どもと、綺麗な長い髪の女性。
思い出した瞬間胸がきゅーっと苦しくなって顔をゆがめてしまい、思わずへたりこんでしまう。
「だ、大丈夫ですか!?」
そんなときだった―――――初めて聞く……けれどどこか懐かしさを感じさせる声がしたのは―――――。
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「おっしゃー!!由香ちゃん探検隊in星見山!!!」
駅について早々元気いっぱいの声で叫ぶ神崎。
「はぁ……十駅以上乗るのも久々かなぁー」
「近所の学校しか行ったことないしねぇー」
そんなはしゃぐ神崎とは対照的に、俺と鬼塚はげんなりしていた。
なんでって……このきた時間が最悪だった。
駅の途中までほぼ満員状態。
乗客にもみくちゃにされてげんなり、やっと空いたと思って座ったのはいいものの
それはもう精神的体力を奪うには持って来いの状態だった。
しかもこの山、見てみたら目の前にすっげえ長い坂があるんだけど……想像しただけでげんなりだ。
「さ!二人とも!!お疲れタイムはおしまいだよ!!登るぞぉー!山登るぞぉー!!」
なぜ彼女がここまでテンションが高いのか、どうか俺に教えてください神様。
「わかったか毒島。こいつはこういうやつだ…諦めるなら今のうちだぜ?」
鬼塚が俺のげんなりした顔を見て、自身も疲れてるのを隠し、嘲笑うように俺に言った。
「諦めるも何も…俺と神崎はそういった関係じゃねぇよ」
「あたしはその言葉を信じねえからな!!」
「あぁはいはい。じゃあ行くぞ。うちの元気姫がもう登り始めてる…」
俺はほぼ無意識に鬼塚の鞄を奪い取り、既に子どものように走って坂を登る神崎に続く。
「お、おいっ!あたしの鞄返せよっ!!」
するとなぜか彼女は走って俺の元に来て、奪い返された。
「……ったく可愛くないなぁ!持ってやるって言ってんだろ!」
「おめぇみたいなむっつりに持たれたらむっつりが移る!」
「誰がむっつりだ!誰がっ!!」
俺が彼女の言葉に思わずムッときて、もう一度鞄を奪う。こうなったら意地でも持ってやる!
なんて、思いながら鬼塚のやろうと口喧嘩をしていると、前で神崎が止まってるのが見えた。
「だ、大丈夫ですか!?」
神崎の声。
その先には、白いワンピースに麦わら帽子を被ったとても美人のお姉さんがぐったりしていた。
「ぶ、毒島くん!何か冷やすものとかないっ!?」
「え、あ……ほら。水」
俺は慌てて自分の鞄から水を出して神崎に渡す。
彼女はそれをすぐさまキャップをあけて、ぐったりしている女性に渡す。
「………そっくりだ。」
そんなときだった。俺の後ろで鬼塚が小さな声で呟いたのは…。そっくり?
目の前のワンピースの女性は麦わら帽子のせいでいや、俺からは死角で顔がはっきり見えない。
彼女は「あ、ありがとう…でも違うの。ちょっと嫌な思い出思い出しちゃって…」といいながら、神崎に水を返した。
そのとき、俺も麦わら帽子の隙間から彼女の顔が見えた。
「………そっくりだ」
「だろ?」
俺が呟いた言葉に鬼塚が返事をした。
その帽子から見えた人の顔は――――――――。
「……え?」
俺たちと同じように、彼女の顔を見た神崎はきょとんとしてしまった。
「……え?」
ワンピースの女性も神崎の顔を見て、一瞬硬直する。
「……あ!ご、ごめんね。人の顔見て驚くなんて……」
「こ、こちらこそ……」
神崎も少し申し訳なさそう頭を下げる。
なんだか見てるこっちとしてはなんともいえないシュールな光景が広がっている。
「じゃ、じゃああたしは行く場所あるから。本当にありがとうね」
そういってワンピースの女性はあたふたしながら、立ち去ろうとする。
「あ、あたしたちも、向かう場所があるんですよ!さ、さ、二人とも!行こう!!」
なぜかこちらもあたふたしている神崎。ほんと………そっくりだ。
そのままワンピースの女性は去っていってしまった。
「な、なあ神崎。あれって……」
「あたしもさすがに驚いたぜぇ。あれか?タイムマシーンで
過去の自分見にきましたぁーってあのお姉さんに言われても何も言い返せねぇわ」
「あぁ、ほんと…なんか…『未来の神崎』を見てるみたいだった」
俺の言葉は嘘ではない。
確かに顔がそっくりというわけではない。いや、普通に似てるんだけれども
オーラがそっくりだ。今のショートの神崎の髪を長くしたらあんな感じになるだろうか?
「ま、そんなことはどうでもいいじゃん!世の中そっくりな人は3人いるって言うし!!」
彼女はさっきまでの動揺から一変しており、最初のときのような元気な神崎になっていた。
「…はぁ、そうだな。深く考える必要はねぇだろ」
俺がそういうと、鬼塚もどうやら切り替えたようだ。
そのまま俺達は歩いていく。
それなりにトークを嗜みながら、歩いていく。
「……あれ?どうしよう……」
「「ん?どうした神崎(由香?)」」
「ってハモんなむっつり!!」
「だ、誰がむっつりだ誰がっ!」
「って二人とも喧嘩してる場合じゃない…」
なぜか深刻そうな顔をしている神崎。
まるで錆びかけの人形のようにぎこちない動きでこちらに振り返ってくる。
アニメとか以外で本当にやるやつ初めてみたかも……。
「道……迷った。ってか多分どっかの敷地に入っちゃったかも…」
「「え??」」
確かに辺りを見渡すとなぜか森のようなところだった。
山なんだから当たり前かと思ったけれど、そのわりにはきちんと手入れされているような山だった。
そう――――――――俺たちは、高校生にして「迷子」になったのだ―――――――――。
---------------------------------------------------------------
「し、侵入者…?」
彼女はキーボードから流れる音に少し驚き、今はカプリコがいないと言う不安で胸が騒ぐ。
「わ、私一人でもどうにかする。『兵』はカプリコが置いていったのがある……」
彼女は決意を新たに、キーボードを叩き、ディスプレイを展開させる。
そこには、敷地内の監視カメラの映像が映っていた。
「――――っ!?こ、これは………」
彼女が見たのは、三人の人間の姿だった。
三人とも知っている。クラスメイトの子達だ。神崎由香、鬼塚綾、毒島裕太。
……敵だ。神崎由香がいるのに、レオンがいないのはおかしい。もしかしたら別の場所にいるのかな?
毒島裕太。過去にスコーピオンのマスターだったはず…そのとき確か星術を使えるんだっけ……
でも、もう星座占いとか関係ないはず………。
「……常に準備万端であれ。油断は禁物。だよね……カプリコ」
私は彼の言っていた言葉を思い出して、くすりと微笑む。
「……『紙兵』。起動……」
私はキーボードを叩いて、起動の合図となるインターキーを思いっきり叩いた。
---------------------------------------------------------------
「……あれ?なんで??」
ワンピースを着た女性は、目的地で眠っている先客を見て、思わず疑問を浮かべてしまった。
「ん、んん……」
目の前で眠っている男は、どうやら目を覚ましそうなようだ。
男が目を開く。その寝ぼけ眼で彼女の姿を、視界に入れる
彼の目の前には白いワンピースに麦わら帽子、夢で見ていた彼女そっくりな人物だったのだ。
「……さ、早苗?」
「――――っ!?」
彼女はその男の呟いた言葉に驚いた。
その男は、自身の『敵』である獅子座のレオンだからというのもあるが、彼が発した言葉に驚いた。
「ど、どうして……おねえちゃんのことを知ってるの?
彼女は、寝ぼけ眼なレオンに、ただ一言…問いただした。
彼女は、今日特別な日に、この大きな木にきた。
人生とは皮肉なものである。
彼女が向かっているその先にいる人は自身と同じ境遇に巻き込まれ、亡くなった不幸な女性であった。
そしてその妹である彼女もまた、星座占いに巻き込まれているのだから。
彼女は今、秘書をやってる。
ただしこの大事な日のために休暇をとってやってきたのだ。
自身の姉の葬式をするために。その姉を殺したのが、目の前の現在の『敵』だとは知らずに―――――――。
彼女の名を―――――――――松原李里香と言った―――――。
☆
「はぁ…完全に迷っちまったな…」
「そうだな…森しか見えねえ…」
「もう!二人とも!!弱音を吐かずにまっすぐ進もう!!」
なぜ前を歩く神崎はここまで元気なのか…理解しがたい。
今僕たちは、神崎のせいで迷った森をまっすぐまっすぐ歩いていた。
その理由というのも神崎が「迷ったときはまっすぐ行ったらなんとかなる!!」などと言い出して
それ以外に方法はないと僕と鬼塚も渋々了承して、現在の形となった。
「あ!綾ちゃん!毒島くん!あれ!」
すると突然目の前の神崎が止まり、大きな声で僕達を呼ぶ。
「ん?」
「どうしたんだ??神崎?」
「屋敷!見つけちゃいました!!」
彼女がそういって遠くの方を指指す。
どうやら森から抜け出せたみたいだ。
抜け出した先は小さな山のようになっていて、その下に大きな屋敷が見えた。
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「ってかさ…やっぱここ人の領地だろ?勝手に入ってよかったのかよ…」
屋敷の扉前。
インターホンも見当たらなかった。恐らく領地の入り口にあるのだろう。
ってか庭広すぎるだろ。いや、僕の本家もこんなものだっただろうか?
「インターホンないなら、この通路っぽいのを通って戻るしかないな…」
俺は二人に聞こえるように独り言を呟く。
扉の前には整えられた土道がある。ここを通っていけば出て行けるはずだ。
「ってあれ?由香のやつどこ行ったんだ??」
「ん?本当だ……どこ言ったんだろ?」
俺と鬼塚は、いつの間にか姿を消した神崎をきょろきょろと見渡す。
「すいませーん!誰かいますかぁー!!」
「「ッ!?」」
あいつ何やってんだぁぁぁぁぁ!!
インタホーン無いなら直接入るってどうなんだよっ!
しかも声がしないのを確認したら入っちゃったよ!
神崎ってもしかして天然か!?怖いもん知らずか!?
「お、おいっ!由香何勝手に入ってんだよ!!」
「綾ちゃんだって入ってるじゃーん♪」
「お前が入ってったからだろっ!」
僕達も追うように中に入ってしまい、先に入った神崎に鬼塚が一言物申していた。
この二人って仲良いみたいだけど、絶対性格あってないよな…
「と・に・か・く!勝手に人んちに堂々と入るなって言ってんだよ!」
「キャハハ。ヤンキーが常識語ってるー(笑)」
「ヤンキーじゃねえよッ!!」
なるほど、ああ見えて実は神崎の方が上位なのか。
ってかなんか…二人を見てたら面白いな。
「……ぷっ」
「あぁ!毒島てめぇ!!今笑っただろ!?」
「い、いや…だってさ」
なんというか、鬼塚って周りにつんけんしてる割には神崎とはこんな感じなんだなって思った。
「ほぇ~やっぱ広いねぇ~屋敷。メイドさんとかいないのかなぁ?」
「なあ、なんでこいつこんな堂々としてんの?」
「さあ、あたしに聞くな…」
僕達二人は少し呆れながら、バカみたいに辺りをきょろきょろしながら歩いている神崎を後ろから見守る。
こっちとしてはいつここの使用人が僕達を捕らえに来るかとハラハラドキドキで心臓が止まらないんだけど…
「それで?ずっと聞きたかったんだ毒島…」
「ん?何?急に?」
歩いていると、突然。鬼塚が僕の方を睨み、質問を投げかけてきた。
「元々ここにきた理由はなんだ?」
んー難しい質問だ。
レオンさんを探しにきた。というのが本音だけれど、鬼塚は彼のことを知らない。
そこから説明すると色々めんどくさい。まあ彼女の僕に対する疑惑が晴れるから言ってもいい気がするけど
「ふ、普通にキャンプだよ?」
「なら普通にあたしも呼べただろ?」
これは失敗。やばいな、一回失敗したらもう何言っても嘘にしか聞こえないか……。
「うーん」
僕がどうにか良い言い訳はないかと模索していると、突然肩を強く叩かれる。鬼塚だ。
見てみると、彼女には似合わない顔面蒼白な表情をしている。何があったんだ?
「あ、あれ…」
僕にそう投げかける彼女。僕は彼女が指指す場所を見る。
どうやら曲がり角に僕達はいたようだ。その曲がった道の先になんかいる。
立ってるのがおかしいぐらいの…平面のヒラヒラした……紙が動いてる!?
本当、なんていうか…あれだ。陰陽師とかが使う式神札みたいなのが動いてる!?
しかもなんか三つ四つあるんだけど!?何あれ!?
「や、やべぇんじゃねえか…この屋敷」
確かにやばい。このままじゃあ本当に何か危ない気がする。
「おい、神崎。ここは引こう。なんかここあぶな―――」
僕が神崎に言葉を投げかけながら彼女の方を見ると…彼女はいなかった。
おいおいおいっ!?あの元気姫本当にどこいった!?
「ぶ、毒島!!なんかあれあたし達に気付いたんだけど!!」
「マジか!?」
僕達二人はもう焦りに焦ってしまっていると
見ていた紙人形が目(?)らしき何かが僕達を捕らえる。
その紙人形たちは、うねうねと動いた直後……物凄い勢いでこちらに飛んできた。
「おいっ!?なんかこっちに襲ってきたぞぉぉぉぉ!!」
(鬼塚がいるけど……仕方ねぇ!!)
「鬼塚!急で悪い!!」
僕は彼女にそういって、足に手をやって抱きかかえる。あれ、意外に軽いな。
「ちょ、おいっ!!急に何すんだ!むっつり野郎!!」
急すぎて戸惑っているのか、僕の顔面をビンタしまくる鬼塚。
僕は我慢して地に足をしっかり付けて脳内で術式を構築する。
「召喚星術!『流星鳥』!!!」
僕が叫ぶと、地面には大きな星術式が浮かび上がる。
そこから半透明な糸でできた巨大な鳥が現れる。
僕は鬼塚を抱えたまま、その巨大な鳥の上に乗る。
僕の足に、半透明の糸がきつく絡み付いてくる。
「な、なんだこれっ!?」
「細かい話は後っ!飛べ!」
僕たちを乗せた流星鳥はそのまま勢いよく真っ直ぐ低空飛行をした。
これが、僕の新しい星術のひとつ。『流星鳥』だ。
記憶を失う前に僕が使っていたという『星鳥』は捕縛用星術だ。
それに大してこの『流星鳥』は移動用星術である。
肉体面で星霊たちにまったく歯が立たない僕が最初に覚えなければいけなかった星術なのだ。
僕はレオンさんに協力してもらって「星力共有」をしてくれた。今こそこの力を使うときっ!
(すっげえ…何度か練習で出したけど、実践で出せるとなんかテンションあがるっ!!)
僕はものすごいスピードで飛んでいく「流星鳥」に気分を高揚とさせた。
それでも集中しないと、壁にぶつかりそうだ。きちんと操縦しないと…
「お、おいっ!!」
「ん?」
そんなとき、声がする。鬼塚だ。そうだった。僕こいつをずっとお姫様だっこしてたんだった。
思った以上に軽いから忘れてた。
「な、なんかわかんねぇけど早く降ろせ!!変態!」
「変態!?僕がっ!?」
「そうだろがぁ!今もあたしの太ももの感触を噛み締めてるくせに!!」
そういわれてみれば確かに手には太ももの柔らかい感触が……じゃないじゃない!
「…そ、そんなわけねぇだろ!?」
「今の間はなんだ今の間はっ!!」
「わかったっ!降ろすから動くなよ、落ちたら怖いし」
僕はがやがやと文句を垂らす鬼塚をそっと降ろす。
降ろされた鬼塚の足に、流星鳥の糸が絡まり、縛り付ける。
「痛っ!なんか締め付けられてんだけどっ!!」
「それはシートベルトみたいなもんだ!我慢してくれっ!!」
僕は前方を確認しながら、彼女に言った。
これ余所見をしていたらいつぶつかるかわかったもんじゃないからな。
「ってか!この変なのお前が出したのか!?なんだよこれっ!」
「あーえーっと…」
こんな状況に巻き込まれたんだもんな。全部は無理でも少しは教えないと…
「僕…魔法使いなんだ」
「…は?」
うっわーすっげえ痛い目で見られてるよ!?
そりゃあそうだよね!この手のタイプにこういうの言ったら痛いやつに思われるよね!
「そ、そうか。なんかわっかんねぇけど……信じる」
あれ?なんか予想外な反応が返ってきた。
鬼塚は恥ずかしそうに俯きながらこらえてくれた。
「ありがとう。話が早くて助かる!!」
僕はそのまま流星鳥を操縦して、屋敷内を移動し続ける。
ときたま紙人形が現れるがそれも轢き逃げていっている。
このまま神崎を探して合流しないとあいつがこの紙人形に教われてたらレオンさんに怒られる。
(…ってか)
僕は道がまっすぐなのを確認して、視線を自分の下に移す。
足に……しがみ付かれてるんだけど。
なんか予想外すぎてちょっと戸惑ってるんだけどさ…
「ちょ、こここれっ!?落ちないよな!?大丈夫だよなぁ!?」
そんなぎゅって強く足にしがみ付かれると…なんというか……。
「……鬼塚、僕の足から離れても大丈夫だよ。
さっき足に絡まったのがあるから。なんだったら寝転んでても落ちたりはしない。」
「ほ、本当か?」
「本当だって、現に僕が平然と立ってるだろ?」
「そ、そっか……それもそうだな」
少し涙目になってる鬼塚は何かを納得したように、僕の足から離れる。
なんか、こんなしおらしい鬼塚初めて見た気がする。ちょっと可愛い。
「な、なんだよ。じっと見やがって」
本当に落ちないと安心したのか、いつもの調子に戻る鬼塚。
「だってさ。鬼塚も普通の可愛い女子なんだなぁーって思ったら笑いがこみ上げてさ」
「だっ、誰が可愛いだ!誰がっ!この変態!!」
「褒めてやったのに変態扱いはねぇだろ!?」
「うっせー!この変態むっつりやろう!!」
あぁ、ダメだ。やっぱり僕と鬼塚じゃあ……馬が合いそうにない。
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「…どういうこと?」
モニターを見つめながら、一人の少女が呟いた。
映っているのは、先の星座占いで敗北した占い師、毒島裕太。
星座占いに関する記憶が一切ないのに、なぜ彼は星術を使っているのだろうか?
「…カプリコのためにも、ここは追い出さないと」
彼女はキーボードを叩き続ける。
モニターの一角に映る屋敷の地図にある小さな赤い点が急に移動を始める。
「このまま誘導して、行き止まりのところに追い詰める」
そう呟いて、彼女はインターキーを叩いた。
「それと…」
手を一度止め、彼女はまたモニターの一角を見る。今度は別の映像だ。
そこには「綾ちゃーん。毒島くーん?」といない二人を探す神崎由香の姿が映っていた。
(彼女を捕まえてレオンを脅せば、カプリコは喜んでくれる)
そして少女。『神倉雪音』再び手を動かし、キーボードを奏でるように叩いた。
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「はぁ…遠いですわねぇ~♪」
屋根から屋根へ、飛んで移動している天秤座のリブラ。
彼女は自分のマスターの命令により、現在神倉邸に向かっているところだった。
「なんだかわかりませんが、面白そうな匂いがしますわ♪♪急ぎませんと♪」
彼女は少し速度を上げて、波乱の渦へと向かっていっていた。
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「待ちわびたぞ。サジタリウス」
「むむ、お主は…カプリコ。やはりあの爆弾はお主の仕業でござったか!」
「左様。貴様を倒せるとしたらこの機しかないと思ってな。ここで我と戦ってもらう」
「……よかろう!この忍者サジタリウス!主の挑戦受けて立つ所存なり!!!」
「……毎年のことながら本当にキャラが変わるな…」
「いざ尋常に勝負でござるぅぅぅ!!!」
そう叫び、サジタリウスは地面を蹴る。
ものすごいスピードだ。あっと言う間にカプリコの前に現れる。
カプリコに銃口を向けた瞬間だった。サジタリウスの横合いから何かが飛んでくる。
「なんでござるか!?」
サジタリウスは危険を察知し、身を翻し、かわした。
「だから言ったであろう。この機しかないと…」
見てみると、
カプリコの周りには全てで15個の様々な紙で出来た立体の人形があった。
その姿はまるで「チェス」を連想させるような形式だった。
「では、始めようか。サジタリウスよ…」
「一対多も、悪くはないでござるな!」
滾るような表情を浮かべるサジタリウス。
どうやらこの闘いが楽しくてしょうがないようだ。
「我には理解できんな。その勝負に燃えるという感情は」
そういい、二人は睨み合う。
今、山羊座と射手座の闘いが――――――――――始まる。
今回、最初の方に出てきていた神崎由香の親友。鬼塚綾ちゃんがメインに昇格!
そして毒島くんが星術を使えるように!!
そして新たな敵カプリコ。新たな星霊タウロス!
過去のレオンのパートナー。早苗。そしてそれと姉妹の松原李里香!!
すっげえ相関図が広がった話になってます^^
「下」ではカプリコの闘いを中心に書くと思いますのでお楽しみください^^