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ゾディアック・サイン四章「夢の中のエリー」

天秤座の占い師、足引玲子は必死に「FISHBOY」の所在を探す。

そんなとき、自身のデータバンクにハッキングしたものが現れる。

一方カプリコは、FISHBOYを見つけ、死闘を繰り広げる。


一方スコーピオンとの闘いで病院に入院することになった神崎由香。

平穏かと思われた病院で、レオンはエリーと遭遇してしまう。

奇妙な戦闘スタイルを持つエリーにレオンは勝利することが出来るのか!?



夢と幻想の詰まった第4章!!

「・・・・・・どうしてもつかめないの??」

「ええ、FISHBOYさん。

 占い師なのは間違いないのですが、どの星霊と所有し、どういう人なのかが未だ不明なのですわ。」

「李里香?あなたは??」

「申し訳ありません。わたしも掴めず・・・。しかし・・・・・・・」

「しかし??」

「ある一人の人に興味を持ちまして・・・・・・」

大きな社長室。

大きな机に腰を落ち着かせる一人の女性と、その机に直接座る和服姿に大きな鈴を転がした女性。

最後に少数の書類を胸に抱く長くて綺麗な髪の女性が一人。

足引玲子。この会社の女性社長でもあり、こんかいの「星座占い」の参加者である。

その隣で無礼に机の上に座る女性。てんびん座のリブラが彼女のパートナーとなる「星霊」である。

そこに話しかけている女性は社長秘書をやっている松原李里香はそのまま言葉を続ける。

「・・・何者かが我々のセキュリティにアクセスしているのです。明らかに・・・・・部外者の反抗です」

「私のプログラムをハッキングしたとでも言うの?」

一大事だというのに冷静に答える足引。

李里香は少し苦い顔をしたあと、静かに頷いた。

「しかも気になるのが・・・・・・ハッキングしたのは「Starline」なんですよ」

「なんですって??」

足引は思わず顔を歪める。

「Starline」彼女が作り上げたデータのフォルダのひとつである。

意味は星の線。まさに「星座」。そう、このフォルダには「星座占い」に関するデータを纏めて会社で管理していたのだ

確かに、一般のビジネスに使っているデータよりもセキュリティは薄かった。

しかし、それでもプロのハッカーでもハッキング不可能なほどのものを使ったはずだ。

何より足引のUSBに入っているこのデータを奪い取るには

彼女が深夜にデータ整理のためにUSBを差し込むほんの一時間のみ。

他人のUSBからデータを取り込むには、そのUSBを直接自分のデータにコピーしたりしなければ不可能なはず。

それも経った一時間で出来るほどの情報じゃあない。いったい誰が・・・・・・・。

「まあ、

 わかってることはそんな面倒なことまでしてわたくしたちのデータが欲しがるのはそうはいないということですわ♪」

にっこりと笑い、まるで苛立って困惑している足引を少々バカにしているような屈託のない笑顔でリブラは言う。

「・・・・・占い師」

「ご名答ですわ♪」

「先ほどまでこのハッキング源を調べていたのですが・・・・どうも難しく」

李里香は少々申し訳なさげに言う。

「・・・そう、わかったわ。リブラは再びFISHBOYの行方を追跡して。李里香はそのハッキング源を突き止めるのよ」

「了解いたしました。社長」

「わかりましたわー♪」

そういって二人は足引の命令を実行するべく、部屋を出る。


「・・・・・・本当に、誰なの?ハッキング犯は・・・」

足引はただ一人呟き、自身の目の前にあるキーボードを叩く。

彼女もまた、ほかの参加者について調べるのだった。




--------------------------------------------------------------------------------




「ふぅー気持ちいいー♪」

とある銭湯の煙突。

ここはもう使われていなく、形だけがあるだけの建物となっている。

彼はここが気に入っており、いつもここの煙突で風に当たるのが彼の趣味だ。

「はぁー。ここらの犯罪者も随分減ったよねぇー」

まるで他人ごとのように言う少年。

しかし、ここ最近この「星見町」で犯罪が減ってきているのは確実に彼のおかげである。

今、巷ではこんな噂が流れている。

「悪いことをすると、変態が殺しにやってくる。・・・・・・名をFISHBOY。と」

変態といわれるのは少し侵害だったが、まあそれは色んなものを批判したい若者が言ってるだけなんだから。

今日はカツアゲをしていた不良共五人を叩きのめしたばかりで気分がいい彼はこの煙突に来ていたのだった。

その一人に「変態」を言われ、

少しイラっとした挙句、半殺しにしちゃって警察に捕まりそうになって逃げてきたのでは決してない。

「さてっと。今日はどうしよっか。スィー?」

彼は突然そんなことを言い出す。

すると、肩に小さな宙に浮いた魚が出てくる。

「お客さんも来てるし、一緒に遊ぼうか??」

彼は爽やかな声でそういった。

その直後、彼目掛けてするどくナイフが飛んでくるのだった。

彼はそれを指で刃先を挟んでそれを防ぐ。

「それで?君は誰なんだい?悪の手先かな??」

そういって彼は煙突より少し下にあるビルの屋上を見下すようにしながら言う。

すると、そこから一人の男が姿を現した。執事服のような綺麗な黒いスーツに身を包み

髪は白。肌も白い方だからか、掻けている真っ黒のサングラスが強調されて見える。

「名乗るわけには行かない。我は情報の恐ろしさを知っている。名乗って素性を晒すわけにはいかんのだ」

そういって男は突然手から数本のナイフが現れ、それを彼、FISHBOYに向かって放つ。

「ふーん。じゃあ・・・・・・・名乗らなくてもいいさ♪」

そういってFISHBOYはかわすように上空に飛ぶ。

靴からは流れるように水が出てきて、それがまるでジェット機のようにFISHBOYを宙に舞わせる。

「だけど僕は名乗らせてもらうよ!!スィー!!」

FISHBOYは叫びだす。

すると肩にいた魚がFISHBOYを軸にするように高速で回り始めたのだ。

次々とFISHBOYの身体に、さまざまな装飾品が現れる。

両腕には魚の背びれを連想させるような形の刃物が装着されており

足は魚の金魚を連想させるような長いブーツに変形する。靴には魚の尾のようなひらひらしたものがついた。

そして最後におしゃれな青色の帽子が彼の頭を包むように現れる。

そしてエックス線上に先ほどまでいた魚が彼の周りを公転し続けていた。

「この姿・・・・・やはり魚座か。」

執事服の男はボソッと呟く。

「俺の名は!!正義のヒーロー!!海援戦士!FISHBOY!!!」

まるで特撮ヒーローのように決めポーズをするFISHBOY。

その彼の顔は、なんともいえないほど愉悦を感じているのは、顔を見るだけでわかった。

「そうか。情報は揃った。私もそのポーズかっこいいと思うが、もう用はなくなった」

「えっ!?ちょ、せっかく変身したのにっ!?」

さきほどまでのクールそうな青年からとは思えないような慌てっぷりで男を止めるFISHBOY。

「済まぬな。今回は正体を突き止めればそれで良いのだ。つまり用済み」

そういって去ろうとする男の目の前の地面を、何かに撃ちぬいた。

「まあ、そういわず。闘おうじゃないか。秘密結社のスパイ!!」

「・・・・・秘密結社のスパイではないのだが・・・いいだろう。貴様の戦力も情報として収集しよう」

そういって男はその執事服のネクタイを動きやすいように少々緩める。


まだ冬の寒い空気が肌を刺さる中。

二人の男が拳を交えようとしている。


独りは、巷で今噂となっているHERO。FISHBOY

そしてもう独りは、そんな彼を調査していた。謎の執事。



その執事の名を――――――――――――――山羊座の「カプリコ」と言った。





--------------------------------------------------------------------------------



「・・・・・あれ?」

目がさめると、そこは見知らぬ天井があった。

・・・・・・ってネタが何かのアニメであったような気がする・・・。

「って冗談言ってる場合じゃないや、本当にどこだろう?」

あたしはきょろきょろとあたりを見渡す。

どうやら病室?のようだ。

なんでこんなとこいるんだろ・・・・・・夜になってるし。

「あ、そうだ・・・・あたし・・・・・・・」

そこで思い出す。

あたしはレオンに肩を・・・・・裂けられたんだった。

あたしはゾクリとした悪寒とともに反射的に肩に触れる。しかしどうやらほとんど傷は癒えているようだ。

「あ、もう起きたんだ♪」

すると、扉から一人の女の子が入ってくる。

ミニスカートに大きなブーツ

長い縞模様のニーソックスに大きな帽子、年的には12歳程度だろうか?な容姿をしている。

彼女はあたしに近づいてあたしの顔色を窺う。

「君は?」

「え?あたし??あたしは・・・・・病院のお手伝いさんなんだ♪絵里っていいます」

「そう、なんだ。ありがとうね」

「いえいえ、これも当然のことなんだからさ!」

元気な声でそういう絵里ちゃんの微笑みは無邪気さを感じさせた。

「あ・・・・」

あたしは思い出すように小さな声を出す。

その声に反応した絵里ちゃんは可愛らしく首をかしげる。

「どうしたの?」

「あ、うん・・・。ここに、こーんな髪の、やる気なさそうな男来ませんでした?」

「んー。あたしお手伝いさんだからわかんないなぁー。もしかして彼氏??」

「か、彼氏じゃないよ!?」

「動揺する辺りあやしー♪」

彼女は悪戯をした子どものように「いっしっし」と口の前に手を置いて笑う。

そのまま笑顔で半分怒っているあたしから逃げるように病室を出て行った―――――。




「あーあ、しとめ損なっちゃった。一日丸々は寝ていると思ったんだけどなぁー」

病室を出た絵里は廊下で独り言を言っていた。

その笑みは、どこか不穏な出来事の前兆のような気がして・・・・・ならなかった。





--------------------------------------------------------------------------------



「・・・・・くそっ、どうなってんだよ・・・・こりゃ・・・・・・」

病院の廊下。

そこには血を流した男がもたれ掛かっていた。

何者かに襲われたのか、酷い傷を負っているようだった。


その男は、少女神崎由香の星霊。獅子座の「レオン」だった―――――――――。



                       ☆



「・・・・・・どうしたの?」

「ふむ・・・・・少々手こずってな・・・・・・・」

大きなテーブルに座る少女のティーカップに、男は香りを引き立てるように煎れる男は

少女の問いに苦虫を噛むように答える男。

少女がなぜ男にそう説いたのか。

理由は明らかである。今目の前にいる男。山羊座の「カプリコ」は今まで綺麗すぎるほどの格好をしていたのに

今日の彼は顔のいたるところに、傷が浮かび上がっているのだ。おかしいと思わないほうがおかしい。

「何があったの?」

「魚座の占い師の所在と顔の認識に成功した。」

「・・・・・ほんと?」

「あぁ、しかし感づかれてしまってな・・・。一戦交えてみたが、これがなかなかどうして強敵だった。

 思わず逃げてきてしまった。あれは想像以上の強さだ。万年最下位の魚座とはとても思えない・・・・・」

「・・・確かに、何か裏がありそうだね」

少女は出されたブレイクファーストを口にしながら呟く。

「魚座はいつも最初にやられていてな。弱いということと同時に「謎」であるのだ。

 その能力などもな・・・・・・・。昨晩一戦交えて一応仮定が立つのだが・・・・・・・・・。」

「仮定?」

「あぁ、不思議なことだ。我が闘ったのは星霊ではない。「人」なのだからな

 もし我の仮定が事実だったのなら、やつの占い師・・・・・・・・只者ではない。

 しばらくは手を出さないのが吉だろう。見苦しいが、我はやつに勝てるとは思えない」

その言葉に、少女は思わずナイフを止める。

食欲が失せてしまったわけではない。ただ、少し危機感を感じてしまっただけだ。

そしてもうひとつ。自分もこれから伝えないといけないことがあるからだ。

「ねえ、カプリコ。私も手に入れたんだけどね・・・・・」

そういって彼女はノートパソコンを持ってきて、一つの画面を表示する。

「こ、これは・・・・・」

「この会社の社長。足引玲子は天秤座の占い師です。 

 その会社員にも探らせてるみたい・・・・・・・おかげでたくさんの情報が手に入った」

少し嬉しそうに微笑む彼女。無表情な彼女からは連想できないほど柔らかな微笑み。

「ふっ・・・・嬉しそうだな」

「うん・・・。これでカプリコのサポートが出来るから・・・」

「本当に助かる。神倉」

そういう会話の中、山羊座の二人は朝食を嗜んだ――――――――。




--------------------------------------------------------------------------------




「・・・・・はぁ・・・」

「んで?あんたがあたしを呼び出したりしたんだから、溜め息なんか吐かないでよねっ!」

俺、獅子座のレオンは病院の椅子に座りながら溜め息を吐いてしまっていた。

その隣には乙女座のバルがいる。

先日のスコーピオン戦以降、加賀美優が思いついたのは「協定」という手段だった。

自分は友達である由香と闘いたくない。だったら「不可侵条約」を作ってやろうという算段だったらしい。

もちろん由香はこの意見に賛成。俺も、敵が減るなら困ったことはない。バルも美優の言うことは聞かざるを得ない。

ということを経て、現在加賀美優は俺のパートナー神崎由香のお見舞い中である。

「・・・・んで?本当に何があったのよ。その傷も・・・・由香ちゃんにバレないようにあたしが治してやったけどさ」

バルは深刻そうな顔を顔をしている俺を見てさすがに心配したのか声色を変えて言うバル。

「あぁ、昨日の夜・・・・・・か。俺は・・・・襲われた。」

「はぁ!?またなのっ!?ほんともはやギャグよねあんた!!」

「・・・・・・・・わりと本気で傷ついてるからやめてくれ・・・・」

「ご、ごめん・・・・・。んで?相手は誰なのよ?」

「今まで闘ったことがなかったから知らないが、恐らく・・・・・牡羊座だ」

「あー・・・・エリーね」

「エリー?」

「そう、あいつの名前。牡羊座のエリー、まあ正直言うとあたしも闘ったことないんだけど・・・。

 確か去年あいつをやったのはタウロスだったかな?」

そういってバルは自分の覚えている情報を教えてくれる。

そうして二人で話していると、病室から加賀美優が出てくる。

「じゃ、あたしはこれで帰るね。ちゃっちゃと負けちゃえ!」

「負けるかよ。・・・・・・おめぇにもな」

「・・・へっ、ほざいてな」

そういってバルは病室から出てきた加賀美優の手を取って病院を去っていった――――――。

俺は少々気まずい雰囲気に押し負けそうになるが、そのまま由香の病室に入る。

「あ、レオン。もー、別に美優ちゃんと話してるからって外で待たなくていいのにー」

なぜか少しむくれている由香は俺を睨んで言った。

「いや、女性同士の会話ってんのもあるだろ?こっちもバルと話したいことあったし」

「もしかして・・・・・でぇきぃてるぅぅ??」

「すっげえうぜぇぞその言い方・・・。それに俺とバルの仲の悪さはお前も知ってるだろ」

「いやいやわかんないよぉー。女の子ってのねー」

なぜかにやにやと笑っている由香。

「一応言っておくが、あいつが俺のこと好きな可能性は0%だぞ?」

「え?どうしてなの??」

いつまでも自分の思い込みでにやけている由香に嫌気が差したのか、俺は止むを得なく事実を教えた。

「あいつは・・・・・・・百合だ」

「えっ・・・・・・・・」

俺の言葉に神崎由香はまるで石化したかのように・・・・・硬直した。




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「えっほえっほ!!あ!夢香起きたんだ♪」

「もぉーエリーはいつも忙しそうだねぇ」

シーツを束にして運んでいる少女は、私の存在に気付くと、病室をのぞきこむようにして私を見つめる。

「ちょっと待っててね!これをナース長のところに渡してくるっ!!」

エリーはなぜか日が出てるうちは暇だ。といい、病院のお手伝いをしてくれている。

いつもベッドで寝ている私は、そんな元気に活発に動く彼女に少し憧れを抱いてしまう。

そんな感情で待っていると、とことことブーツの音が響き渡り、病室にエリーが入ってくる。

「ごめんねエリー。どう?いい夢見た??」

「うん♪エリーのおかげだよ。毎日退屈しないし♪」

「おうっ!あたしは夢香のためならなんでってすっからなっ!!」

あたしは可愛らしい無邪気な笑顔でそういってくれるエリーを思わず抱きしめる。

「ゆ、夢香?」

「本当に・・・・ありがとね。エリー」

「へへへ・・・。」

あたしが頭を撫でたのがうれしかったのかにやけたような笑みを浮かべるエリー

「・・・・そういえば、昨日夜夢で顔を出さなかったけど、どうしたの?」

「えっ?えーっと・・・・・・」

「エーリーィー?」

明後日の方向を見てとぼけようとしているエリーを

私はじとーっと彼女を睨むように見た。

「ほ、本当に何もないんだって!!じゃ、じゃああたしまたお手伝い言ってくるね!!」

そのままエリーは逃げるように病室を去っていってしまった。

彼女が私に隠し事・・・・・大体予想はついていた。

恐らく・・・「星座占い」のことであろう。きっとこの病院に「敵」が来てしまったのだろう。

エリーは私に心配させないように、一人で追い出そうとしてくれているんだ。

「・・・・・そうやって秘密にされるほうが心配になるんだけどなぁー」

私は窓から見える快晴の青空を見て、小さな声で呟いた。

まるで初めてのおつかいに妹を行かせる姉の気分だ。(友人から聞いただけだけど)

けれどいくら私が心配したところで、エリーに何もしてあげられないんだもんね。

私は・・・・・・・信じることしか出来ない。あと・・・・・・・場所を提供することしか出来ない。



ベッドから動けない彼女は生まれたときから酷い病気だ。

叔父がやっている病院で預かって貰っている身で、年齢は16。

この病院で闘病生活を続けており一度も外という空間、それどころかこの「病室」からも出たことのない少女。

彼女はその状態で窓の外から賑わっている「年間星座占い」を見ていた。



そこで彼女は選ばれる。

「牡羊座の占い師」に。パートナー「牡羊座のエリー」とともにこの戦いに身を投じた。




名を――――――――――――――「葵夢香」と言った――――――――――――――。



                     ☆


「はぁ・・・どうすっかなぁ・・・・・」

俺、レオンは独り言を呟きながら病院の廊下を歩く。その脇にはあるものを挟んでいる。

そのまま俺は目的地である病室にたどり着き、その扉を開ける。

そこにはベッドで何かを待ちわびているかのように窓を見ている少女がいた。

少女、神崎由香は俺の到着に気付くと、まるで飼い主が帰ってきた飼い犬のような満面の笑みを浮かべる。

もちろん俺にではなく・・・・・・雑誌にである。

「はい!早くそれ渡して!!」

「はぁ・・・へいへい」

俺は少々溜め息を吐きながら脇に挟んであった雑誌を彼女に差し出す。

彼女はまるで奪うかのごとく颯爽と俺の手から雑誌をとり、読み始める。

買いに行ってやったのに礼もなしか・・・このやろう。

しかももう俺のことは眼中になさそうだ。

俺も仕方なく、ベッドの隣にある椅子に腰掛け、ただ雑誌を見ている由香をじっと見守った。

そんなときだった。突然病室の扉が開かれたのは。

「はーい。誰です・・・・・・か?」

由香はこの病室には自分しかいないのでナースさん、もしくは自分の客だろうと思い雑誌から目を離し言うと

そこには予想外の人物がいて、彼女は目を疑った。もちろん俺も驚いてしまっていた。



そこにいたのは―――――――――――「毒島裕太」なのだから――――。




--------------------------------------------------------------------------------



「な、なんだかごめんね。いきなりきちゃって・・・」

「あ、いいよいいよ!!お見舞いにきてくれたんだし・・・・・・」

「この後、鬼塚とかも来るよ。俺は一足早く着ちゃったんだ・・・・・とある理由があるし」

「とある理由?」

突然来た来訪者、毒島裕太くんは少しおどおどしい感じで私に話していた。

そりゃそうか。「年間星座占い」の「占い師」はパートナーである「星霊」を失うとその件に関する記憶が消えちゃう。

そういう意味では彼からしてみたらあたしと話すのは初めてなのだから。

彼は自分の鞄をがさごそと何かを取り出そうとしている。本だ。あのいつも持っていた分厚い本。

「これに、こんなのが挟まってて・・・。」

そういうと彼は本から一枚の紙を取り出し、私に渡してくる。

レオンも覗き込むようにあたしの後ろから紙に書かれた字を読んだ。

【これを見つけたら神崎由香って女に会いな。

 もしかしたらてめぇの夢を叶えるかもしんねぇぜ。

                       イカしたスコーピオン様より】

という手紙だった。

スコーピオン・・・。恐らくレオンと戦って負けることを予感していたんだな。

その後の毒島くんのことを考えて・・・・・・。ものすごく怖かったけど本当はいい人だったんだな。

「それで、なんだかわかんないけどこのスコーピオンってやつを僕は知っている気がするんだ。

 でも何も思い出せない。君に会えば何かわかるかもって。それに、僕の夢が叶うって聞いて・・・・」

彼は少しおどおどしていたが、その目は明らかに「わくわく」していた。

好奇心に満ち溢れた子どものように、自分の夢のチャンスを掴み取ろうとしている目だ。

「あー・・・。一から説明すると長いし、信じてもらえないかもだけど・・・・ってかレオン。実際出来るの?」

「さあ?ただ、スコーピオンのやろうが出来るんなら俺にも出来るのかもな。」

「え、えっと・・・・・二人は何話してるの?っていうかこの人だれ??神崎の彼氏?」

少し戸惑ったように声を震わせながらあたしたちに問いかける。

「か、彼氏じゃないよ!さっきも言ったように、説明すると長くなるんだけど―――――――――」

そこからあたしは彼に自分の知っていることを取捨しながら説明した。

「年間星座占い」のこと。レオンのこと。過去に彼も参加者であったこと。

そしてそのパートナー「スコーピオン」のこと。彼が「星術」と言うものを使いこなせたことなどを。

「な、なんか・・・すごいことに僕は参加してたみたいだね」

「あれ?疑わないんだね??」

あたしが言った言葉を素直に受け入れる毒島くん。ちょっと意外だ。

こんなことを綾ちゃんとかに言ったら恐らく頭がおかしくなったとか言われて精神科に連れて行かれるだろうに。

「いや、僕自身その星術の本を読んで「星霊」って存在とそれの「戦」のことはあらかじめ知っていたんだ。

 でもこの本に書かれてることは全部デマだと思ってたのに・・・・本当なんだ・・・・・・・・」

毒島くんは泣きまではしなくても、涙ぐんだ表情でその分厚い本を見つめる。

「それに・・・スコーピオンの話を聞いているとどうしてか友人の話をしているかのように気持ちが晴れる。

 きっと僕とそいつは親友だったんだろうな。一緒にゲームをするような・・・・・・・」

彼の嬉しそうな顔を見ていると、こっちまで笑みを浮かべてしまう。

彼の顔を見ていると、過去に闘ったもう一人の男「本庄さんとキャンサー」を思い出す。

本庄さんもきっと心の中でキャンサーのことを思い続けているんだろうなぁ・・・。

「もうこんな時間か。ありがとうな神崎。これでなんかすっきりした気がするよ。んじゃ」

そういって毒島くんは病室の扉を開けて、出て行った。

その後レオンには病室を出てもらって綾ちゃんたちがお見舞いにきてくれて


そんな時間を過ごし、空は「夜」になる。




--------------------------------------------------------------------------------




「ん・・・・・ここは?」

「やあやあ♪昨日ぶりだなっ!レオン!!」

目が覚めるとそこはとても不思議なところだった。

床はホットケーキ、壁はショートケーキ、辺りもお菓子がタワーのように積み重なっている。不思議な場所。

そこのドーナツの塔から俺を見下すように見てきている少女・・・・。どこかで・・・・・・・。

「あっ!てめえ!!」

「そう♪昨日あんたをボコボコにしてあげた牡羊座のエリーよ」

不敵な笑みで俺を見下すエリー。なんだかとても腹が立つ。

「てめえまた俺に喧嘩挑もうってのか。昨日は不意打ちだったからなぁ・・・・今度はそうはいかねぇぜ」

俺は威嚇を含んだ瞳でエリーを見つめる。

「ふーん♪じゃあ・・・・真剣勝負だ・・・・ねっ!!!!」

彼女は笑いながらドーナツの塔を飛び降りる。

落下しながら言葉を発するエリーは最後の言葉を言うと同時に、地面を蹴る。

「――――――っ!?」

その直後、俺の腹部に凄まじい威力を感じる。

その正体を確かめるために俺は下を見る。小柄なエリーが俺の懐に入り、その拳を俺の腹部に減り込む。

その衝撃に俺は逆らえず、勢いに身を任せ遠くまでブッ飛ばされる。

ドブッと言う音とともに、ケーキの壁に俺の身体はのめり込む。

「くっそ・・・・」

俺は身を起こし、ケーキの壁から出てくる。身体中に生クリームがついていて気持ち悪い。

俺はその気持ち悪さを払拭する勢いで地面を蹴る。

「なっ!?」とエリーは驚いて背後を振り返る。しかしそれはもう遅い。

俺は彼女を後ろから回し蹴りを喰らわす。彼女は俺動揺に、勢いに逆らえず壁までぶっ飛ぶ。

「スピードならサジタリウスぐらいにしか負けねぇよ!!」

俺は拳を手の平にぶつけ、ぶっ飛ぶエリーに向かって言葉を吐き捨てる。

「へぇ・・・さすが過去の王者だね。強いや♪」

ケーキの中で、にやりと笑うエリー。

「だけど・・・ここでならあたしはそのサジタリウスにも負けない!!」

彼女は一瞬にして殺気溢れる憤った表情に豹変し、俺に襲い掛かる。

早い。小柄な身体が功を奏したか、簡単に懐に入られそうになる。彼女の攻撃を受けるのが必死だ。

時々こっちも攻撃を入れるが、簡単に避けられる。この攻防戦は明らかにエリーのほうが有利だ。

すると、彼女が奇妙な行動をとってきた。確かに俺は見た。彼女が意味もなく人差し指をクイっと曲げる。

まるで何かをこっちに呼んできているようだ。

「――――っ!?」

その瞬間俺は驚き、バックステップで思わず後退してしまう。

長いスティック菓子が俺とエリーの攻防戦を裂くように飛んできたのだ。

「これで終わりだっ!」

「――しまっ―――」

それに驚いている間にエリーは俺の懐に完全に入り込んでいた。

避けることもできず、受けることも出来ずに無防備な状態でエリーのつま先が俺の脇腹に吸い込まれる。

凄まじい苦痛。思わず気絶してしまいそうになるほどの、苦痛。こんな小柄な身体のどこにこんな力が。

「ヒントを教えてあげる!あのサジタリウスでもここでは勝てない!!

 なぜならあんたが闘ってるのはあたしじゃないっ!!あたしとこの世界なんだからっ!!」

エリーがそう叫ぶと痛みで膝をついていた俺の頭上に、なぜか大量のケーキが浮いていた。

それがエリーの合図とともに勢いよく落下してくる。俺はケーキの山に飲み込まれてしまう。

・・・やばい。息が出来ない。ケーキのせいで甘すぎる。胸焼けしそうだ・・・・・。

身体を動かしても攻撃してる感触がない。沼を殴ってる気分だ。感触が気分悪くなってくる。

「・・・・よし、これで勝て・・・・・・・・え?もう「ノンレムタイム」なのっ!?あとちょっとなのに!!」

エリーの独り言が聞こえる。

ノンレムタイム?なんなんだ・・・・それ・・・。

彼女は少し悔しそうにしながら、手を上に掲げ、大きく指を鳴らす。



その直後、俺の上に乗っかっていたケーキが突然姿を消す。

戸惑って辺りを見渡すと、さっきのケーキのような空間とは正反対の殺伐とした光景。

荒廃した大地に、無数の刀が刺さっている場所だった。

「映った場所がよかった♪これならあんたを潰せる!!」

エリーはこの光景を見て、なぜか自信に満ち溢れた表情を見せる。

そして彼女は足を思い切り上げて、相撲の四股を踏むかのごとく思いっきり地面を蹴りつける。

ドンっ!!と言う大きな音が響くと同時、刺さっていた無数の刀が地面から離れていってしまう。

「さっきも言ったけど、あんたの相手はあたしと・・・・世界なんだっ!!」

そう叫び、勝ち誇った顔で顔の前で腕をクロスし、勢いよくそれを左右に払う。

その動作を合図に、地面から離れ浮いていた刀の剣先が、全て俺のほうを向く。

このとき、俺はこれから起こる出来事を想像してしまい、冷や汗を流す。

そのまま全ての刀が俺の心臓を狙い、飛んでくる。



そして俺の姿は――――――突然消失した。





--------------------------------------------------------------------------------




「レオンっ!!レオンっ!!!」

そんな声と、頬にちょっとした痛みが走る。

そっと眼を開く。そこには心配そうな表情でこちらを見ている神崎由香の姿があった。

「・・・・はっ!?」

ここで俺はようやく目が覚める。

ってか両頬がいてぇ!!このやろう往復ビンタしてやがったなっ!って痛っ!!

「大丈夫!?レオン!!起きて!!!!」

「お、起きて――起きてるっつの!!!」

俺はまだビンタを続ける由香を払いのける。

そんな俺の顔を見て、彼女は安堵したように大きく息を吐く。

「よかったぁ・・・なんかすっごく魘されてよ?汗もすごいし・・・・・・」

「あ、あぁ・・・あれ?」

俺は由香に曖昧な返事をする。

どうやら俺は夜、由香のベッドの隣の椅子に座ったまま寝ちまったらしい。

おかしい・・・・・・さっきまで俺は確実に牡羊座のエリーと戦っていたはずだ。

(夢・・・・・なわけねぇよなぁ・・・)

俺はそう思いながら脇腹を押さえる。確実にエリーにやられた痛みが残ってる。




あの野郎・・・・・一体どうなってんだ・・・・・・・・・。




窓から覗く満月の月が、妖艶で怪しげな光を放っていた――――――――。


                      ☆




「あー!もう!!どうして消えちゃうのっ!!!!」

お菓子でいっぱいの空間。そこで駄々を捏ねる子どものように地団駄踏んでいるエリーの姿があった。

彼女はレオンに止めを刺すために移動した「夢」で千本の刀を飛ばしてこれで勝利が確実なはずだった。

あいつが・・・・・・消えるまでは。

「・・・あ、そろそろ時間か♪」

あたし、牡羊座のエリーはさっきまでの憤慨した気持ちを一変させ、腕を上げて指を鳴らす。

その直後、お菓子でいっぱいの空間は一変され、大きな花畑の光景に急変する。

「あ・・・来たね、エリー」

その花畑の中で、花を眺める少女。夢香はあたしを見つけてほっこりと笑顔を浮かべる。

「うん♪夢香はあたしの全て!当然だろっ!!」

あたしが笑顔でそういうと、彼女は嬉しそうに微笑んでくれた。

「ねえ、エリー。最近・・・・・・何かあった?」

「―――っ!?な、何もないよぉー」

「嘘。エリーは嘘付くの下手だから、すぐ顔に出る。」

「じゃ、じゃあ・・・バレてたの?」

「・・・・やっぱり嘘なんだ。」

「あー!夢香あたしに鎌かけたな!?」

「それで?やっぱり・・・・・・敵さんが来たの?」

夢香の言葉に、あたしは言葉を失う。やっぱり・・・・・この子には敵わないな。

「うん。ここにきたのは獅子座の「レオン」。今日は倒せそうだったんだけど・・・・逃げられちゃった・・・・・」

あたしは「えへへ・・・」と頬を指で掻きながら笑ってみせた。

「もう・・・。ちゃんと教えてよね。余計心配になっちゃうでしょ」

「ご、ごめん・・・」

夢香はしゃがみながら拗ねたように俯いてあたしに言う。

その言葉にあたしは罪悪感を感じた。

ちょっと見栄を張りたかった。彼女に心配させたくなかった。

でも結果的に、彼女に心配をかけさせてしまったのだから・・・。

「ね、ねえ!エリー?あたしはこうしてエリーのおかげで

 この夢の中で歩いたり、走ったり出来るけどいまいちエリーの能力がわからないんだけど・・・・教えてくれる?」

落ち込んでいるあたしに気を遣ったのか、夢香はそんなことを聞いてきた。

本当は覚えているんだろうけど・・・・・・話そう。

「うん。あたしの能力「ミッドナイト・ドリーム」は簡単に言えば人の夢に入り込む

 もしくは閉じ込める、そしてその夢の世界を自在に操ることが出来る能力なんだ。

 人って言うのはね。夢を見る「レム睡眠」と夢すら見ない「ノンレム睡眠」とあって、あたしが入り込めるのは

 「レム睡眠」・・・つまり夢を見ている間だけなんだ。人によって夢を見る時間はそれぞれ違うから闘ってるときに

 突然「ノンレム睡眠」に入られるときが来るから、夢から夢への移動も必要。

 あと、相手も寝ていることが条件なんだ。多分今日レオンを倒せなかったのはレオンを誰かが起こしたから。

 だからなかなか難しいけど、あの世界ではあたしは負けないってわけ♪♪」

「ふぅ~ん♪そうなんだ♪♪」

あたしが自慢気に話していると、夢香は微笑みながら相槌を打ってくれる。

本当に夢香といると居心地がいい・・・。

「じゃ、もうちょっとお話続けよっか♪」

夢香は微笑んでそういった。あたしは「うん♪」と笑顔で微笑み、二人でトークを楽しんだ。

こんな時間が・・・ずっと続けばいいのに・・・・・・。





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「くっそぉ・・・あれは本当に死ぬかと思ったぜ」

俺、獅子座のレオンは溜め息を吐きながら呟く。

牡羊座のエリー。あいつの能力は大体察した。

夢の中にこちらを引きずりこみ、その夢の世界を自由に操ることが出来る。

これでさっきのお菓子のスティックにケーキ、殺伐とした空間でのナイフが飛び込んできたのも納得がいく。

それに俺が由香に起こされたとき、エリーの世界から出たのもこれなら納得がいく。

「さあ・・・どうするか・・・・・・」

と、考えても仕方がなかった。

眠らない。という手段はほぼ不可能だ。

それに今は俺を標的にしているが、寝ている間なら由香だって危険になっちまう。

「・・・・・・ん。」

俺が悩んで病院廊下を歩いていると、向こう側から一人の男が歩いてきて、すれ違う。

「・・・あれ?あれって・・・・・・・・」

どこかで見た覚えがあるかもしれない。

なんというか、外見が大きく変わったから気付けないけど・・・・・知ってるやつだ。

「・・・・ま、いっか」

わりと昔からこの町にはちょこちょこ年間星座占いで着てるからそのときの知り合いだろう。多分。



そのまま俺は、何の対策も練られぬまま、夜になり、眠気が襲ってきてしまったのだった。




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「ふん♪三回目は簡単には行かないんだからなっ!!」

今度は・・・・どうやらデパートのようだ。それも大型デパート。エントランスは上を見上げれば上階も見えると言った

壮大な景色になっている。エリーは見下すのが好きなのか、二階の手すりに座ってこちらを見下している。

「・・・・・パンツ見えてるぞ」

「えっ!?」

俺がぼそっと言うと、エリーは慌てふためき、座っていた手すりから転げ落ちてくる。なんか可愛い。

「くっそぉー!舐めやがって!!」

顔を打ったのか、涙目で痛みを我慢した表情で、鼻に手を当てていた。

しかし、その直後、背後に何かが襲ってくるのがわかった。

俺はそれに気付き、その場から転がって受身を取るように移動する。

俺のいた場所は、一階に置いてあった車の残骸でいっぱいだった。

「・・・・おいおい・・・・・・・・」

「物の数ならこの夢は最強よ!!さあ!あたしに勝てるっ!?」

その言葉と直後に彼女の後ろには、自転車、車、玩具、雑貨家具などが浮いている。

「やっべ・・・・・」

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ☆!!」

ミサイルのように俺に向かって飛んでくる。

俺は闘うことを放棄して彼女に背を向けて逃げる。さすがにやばい。

ところどころで、方向を転換させる。飛んでくる物体の何個かが、壁に衝突して止まる。

(よし・・・これで飛んでくるもん全部動かなくしちまえば・・・!!!)

そう思っていると、壁にのめり込んだ家具がむくむく動いたかと思ったらまたこっちに飛んできた。

「マジかよっ!!!」

俺は逃げ続ける。目の前には階段。二階に上がろう。

「そうはさせないよっ!!」

「・・・・くそっ!!」

階段を上がっていると、二階には既にエリーが待ち構えていた。

俺は地面を強く蹴る。一気にエリーを飛び越え、二階の床に足をつける。

「嘘・・・!?」

エリーは「げげっ」と苦い表情をした直後、自分が使っていた家具たちが彼女目掛けて衝突した。

よし、今のうちに逃げよう!!俺はそのまま二階を走り続けるが、依然物質は追いかけてくる。

「こうなったら・・・・」

俺はジャンプして、宙に浮いている状態で振り返る。目の前には自分に襲い掛かる物がたくさんある。

それをひとつひとつ丁寧に俺は蹴り壊していくことにした。

飛んできたタンスと自転車をぶち壊す。

しかし後ろにはまだいろいろ飛んでくる。

まどろっこしくなった俺は逆立ちして、手を回転させて回転蹴りを行う。

ミサイルのように俺に飛んできた物体は全て俺の蹴りで砕け散る。

俺はある程度回転蹴りを終え、飛んで地に足をつける。

「・・・・おいおいマジかよ・・・」

俺は諦めてまた背を向けて走りさる。

まだまだ家具やら商品が飛んできやがる。もうだめだ・・・・。

走っていると、とうとう行き止まりに行ってしまう。

家具や商品たちは行き止まりになっている俺を逃がさんといわんばかりに、目の前で止まってしまった。

「ふっふーん♪最初からこうやってれば早期決着だったんだよねぇー♪♪」

するとエリーがにやけた顔で俺の目の前に現れる。

「まだこの夢の人は「ノンレムタイム」に入る時間じゃない。これで止めをさせる!」

すると彼女は指揮をするためか、指を二本立てて腕を上げる。

俺はこうなったら全てを打ち砕いてやろうと決心して臨戦態勢に入る。

使いたくねぇが「エンジェル・イーター」も使おう。負けてしまっては意味がないからな。

「これで終わ――――――――」

彼女が腕を振り下ろそうとしたとき・・・・だった。

彼女の腹部が突然何かに貫通されたように穴が空き、そこから血が流れる。

これにはエリーも驚いたのか、「え・・・?」と動揺して自分の腹部を見つめる。

そして瞬く間に他の部位も突然破裂し、血を流す。

そして―――――牡羊座のエリーは消滅してしまった―――――。




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「・・・い、いつの間に・・・・」

「エリー。主には大きな弱点があるでござる。

 それは、闘っている間は外部に対して酷く無防備であるということでござるよ。」

忍者口調の男は持っていたピストルを

片手でクルクルとまわしたあと、腰にある銃を収める場所にかっこよく入れる。

「カァー!決まったでござる!」

傷だらけのエリーを無視して、一人でテンションがあがっている男。

「あ、あんた・・・そんなキャラじゃなかったじゃん・・・・・・・。どうしたの?その忍者みたいなしゃべり方」

「うむ。拙者、酷く「忍者」というものに憧れてしまい、ハードボイルドなガンマンもよいものでござるが

 やはり日本の「慎ましさ」「忍ぶ心」の象徴「忍」こそ、最高にかっこいいものでござろう!!」

そういうと、男は再び拳銃を取り出し、エリーの顔に銃口を向ける。

「・・・・ほんっと、影響されやすいわよね。・・・・・・・『サジタリウス』!!!」

「闇に隠れ、敵を討つ。それもまた・・・忍でござる」

そして、病院内で再び、拳銃の音が響く。





エリーのすぐそばで寝ていた彼女「葵夢香」は、いまだ眠っているはずなのに、小さな涙を流した。





「さて、いまだ寝ているであろうレオン殿も討つか。ん?マスターからでござるな。深追いするな・・・とな」

メールを見た男は、「仕方あるまい」と呟き、病室の窓から飛び降りる。



翌日。病院内で何発かの銃声が聞こえたが、撃たれた被害者の姿もなく、結局この事件は有耶無耶にされた。






そして、「牡羊座のエリー」は四人目の脱落者となってしまった――――――――――。



                    ☆



いつも良く見る夢。

広いお花畑で、歩くことの出来ないはずのあたしが、駆け回っていた。

いつか着てみたいと思っていた真っ白なワンピース姿で。

そして隣には「知らない女の子」の姿があった―――――――。




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幼い頃、三歳児ぐらいの頃だろうか。

はしゃいでいたあたしはお母さんと一緒にお買い物に行っていた。

現実というものはマンガのように「フラグ」や「伏線」があるわけではない。

決して死亡フラグになるような言葉を発していたわけでもない。

けれど現実は、そんな予兆もなしに、『突然』起きてしまうのだ。

「――――夢香っ!!!」

突然響くお母さんの声。

幼いあたしは何が起こってるのかわからずお母さんのほうを振り返った。

自分の背後にトラックが向かってきているなんて知らずに――――――――――――。






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気が付いたら病室で寝ていた。というのだけは今でも覚えている。

まだ三歳のときなのに、鮮明に・・・。

それほどその日の出来事はあたしにとって大きかった。

「足が動かないよぉー・・・。お母さんは??」

あたしの問いに、お父さんは悲しい顔をしていた。

思ったように足が動かせない。

子どもの頃はよくわからなかったけど、どうやらトラックに撥ねられたあたしはお母さんに助けられ、一命を取り留めたらしい。けれど、その時に足の神経を全て持って行かれ、動かせない状況になったのである。

そしてお母さんは――――――――死んでしまっていた。

お父さんは医者に頼んであたしの面倒を見てもらっている間にお父さんは必死に働いているようだ。

たまにしか帰って来ないけど、帰ってきたときはちゃんと話を聞いてくれるし、お土産話も聞いてくれた。

けれど―――――――どこかあたしは『孤独』だった。

お医者さんたちも「同情」の目であたしを見てくる。

そりゃそうだよね、もう十年以上この病院のこのベッドにいるんだもんね・・・・。

お父さんは「罪滅ぼし」をしているみたいで「あたし」じゃなくて「天国のお母さん」のことを考えている。

たまにお母さんの話をしているお父さんは本当に嬉しそうに話ながら涙を流していた。

そんなあたしが楽しみだったのは「夢」だった。

自分の理想を具現化した世界を闊歩するのはとても楽しかった

けれどそれでもあたしは『孤独』だった。彼女に会うまで。

「あんた、牡羊座の―――よね?あたしの名前は――――って言うの。あんたの願いはなんだ??」

顔もはっきりしない。名前も忘れてきた・・・。

なんでだろう。絶対に忘れてはいけない名前のような気がする。

「そんな夢が・・・・。うっし!あたしが夢香の願いを叶えてやるよっ!!!」

――――――――ねえ?誰なの??

夢の中の空間で、一人のはずのあたしはその少女と話していた。顔も名前も消えかかっている少女と。

その子の姿が、じりじりと、蝕むように消えていってしまう。

――――――やめて!!消えないで!!!

絶対に忘れてはいけない気がするのに、その子との思い出が脳内で崩れ去っていく。

それはお母さんが亡くなったと気付いた日の悲しみが込み上げてくるときの感覚に似ていた。

消えかかっている少女は、踵を返してあたしに背を向ける。

――――ねえ!お願い!!こっちを見てよっ!!ねえ!!!!

「・・・・・・・エリー・・・」

あたしは寝ているはずなのに、寝言でそんな言葉を呟いた。

そして閉じた瞼から『涙』が零れた。

「・・・呼んだ?」

その直後だった。

彼女が消えると思われたビジョンが一瞬にして変わり、いつものお花畑に変わる。

「・・・・・・ごめん、夢香・・・しくじっちゃった・・・・・」

あたしは目の前で「えへへ・・・」と失敗しちゃった子どものような笑みを浮かべる少女の顔を見て涙が溢れ出た。

そうだ――――エリーだ。あたしの隣にいつもいてくれた。あたしの唯一の『友達』―――――。

「聞いて夢香。あたしは負けちゃったんだ。今サジタリウスにやられる寸前にどうにかこっちに飛んできた。

 それでも時期あたしの身体が消滅する。そしたら本当のお別れ、夢香もあたしのこと忘れると思う」

「やだよっ!忘れたくないよぉ・・・」

「わがまま言うなっ!・・・あたしだって夢香ともっといたかった。ごめんね、こんなあっさりやられちゃって」

「謝らないでよぉっ!謝るんなら一緒にいてよっ!エリーっ!!」

わかってる。どれだけあたしがわがままを言おうが、エリーは消えちゃう。

さっきの悪夢のように、エリーがじわじわと消えていってのがわかるからだ。

それでも、口から出てしまう。自分の「欲」が。みっともないくらい出ちゃう。まるで子どものように。

「ねえ、夢香。大丈夫だからなっ。あたしがまた・・・・・・「夢」で夢香とお話してあげるから」

そういってエリーはあたしよりも一回りも二回りも小さい身体で泣きじゃくるあたしを抱きしめた。

暖かい。夢なのに、エリーの暖かさも、強く抱きしめてくる心地のいい痛みも全て伝わってくる。

あたしがそれに浸っていると、ふぅーっとエリーの感触が消えていく。

「じゃあね・・・。夢香、バイバイ」

エリーはそう呟いて、あたしの前から姿を消した―――――――――――。





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「・・・・・・もう、この時期か。」

「・・・ん?なんの??」

時が少し経った。

エリーの脱落から残る星霊は「8体」となった。

オレ、獅子座のレオン、乙女座のバル、天秤座のリブラ、魚座のスィー、

牡牛座のタウロス、双子座のジェミニ、山羊座のカプリコ、そして・・・・射手座のサジタリウス。

あの後オレは知った。俺と闘っていたエリーを漁夫の利のごとく倒したのはサジタリウスなのだという。

そのときオレがやられなかったのは

幸運と言うものだ。騒ぎが大きくなる前に撤退させた射手座の占い師に感謝。

あの後、バルから加賀へ、加賀から由香と通して俺がエリーとひそかに闘っていたのがバレて

「またレオンは一人で闘って!!あたしに何か教えるぐらい出来たでしょっ!?」

と、こっぴどく怒られたが、その一日だけで機嫌を直してもらえて本当によかった。

あれから由香は無事退院。学校もなんだかんだ言って

由香はテストを乗り越え(こっそり毒島に教えてもらっていたが)なんなく『春休み』というものを満喫していたのだ。

今回は「冷戦」が割と早くにきてしまった。

この年間星座占いは、一年が「制限時間」となるわけだが、たった十二人の星霊がやりあうのに

一年も不要なのだ、ずっと戦い続けていれば―――――――――――。

そうなることはまずない。ある程度になると、全員様子見状態に入りだす。

いや、裏でいろいろやってるやつもいるが、大舞台には出てこない。

まあ、簡単に言えば「星霊たちの春休み」といったところか。

「ねえっ!!変な回想に入らないで何の時期なのか教えてよっ!!!」

「あ、あぁ・・・・・・内緒だ!」

「えーなにそれー」

由香はそういいながらぶつぶつと何か言っていたが、特にオレに激怒することなく、再びテレビに目を向ける。

オレもテレビを見ると、どうやら番組と番組の間のニュースに入ったようだ。

「・・・・あ、この人最近よく見るよねぇー『海援戦士FISHBOY』!」

由香は少し頬が緩み、笑顔になってテレビに映っている奇怪な格好をした男を見ていた。

「あぁ、そうだな。強いって噂だしな」

「うん。あー後、素顔がすっごいイケメンって噂も聞いたよ」

「そういう噂って耐えねえよな。本当に・・・・・」

オレはやや呆れた様子を含んだ溜め息を吐きながらテレビで決めポーズを決める男を見る。

「海援戦士FISHBOY」。最近巷を騒がしてるHEROだ。

もはや星見町の「ご当地HERO」にしようなんて流れがあるほどなのだ。

オレも不良などを退治して、お年寄りを助けるFISHBOYの行動には感心するところがあるが

何か違和感がある。どうしてだろうか・・・・・・??

「ん?インターホン??綾ちゃんは今日バイトだし、美優ちゃんたちは帰省したって言うから・・・誰?」

「あー、多分オレに用のあるやつだわ、ちょっと出る」

「え?春の漫才特番始まるよぉー??」

「大丈夫だって、ほんの十分ぐらいだからよ!」

そういってオレは扉を開け、部屋を出る。

「・・・・・・それで?僕を呼んだのはどうしてなんですか??」

「しっ!由香にバレんだろ?ちょっとこいや」

扉を開けた前にいたのは、由香のバカな頭での追試地獄から救いの手を差し伸べた「毒島裕太」の姿があった。

オレと毒島は、そのまま男二人で、由香にバレないところへ移動した。





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翌日。

「・・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

アパートから響く超が5個付くほどの美少女の叫び声。

あたしは寝ぼけ眼で目を覚ますと、違和感に気付いた。

何かが――――――いない!!

こう・・・・普段はきちっと存在感があるぐらいどっしりとこの家でくつろいでいるバカ猫がいない。

そう思ってきょろきょろと辺りを見ると、机の上に一枚の紙を見つけたのだ。

『しばらく帰省する。まあ、この時期は他の星霊どもも

 春の温さにたるんでるから、オレがいなくても大丈夫だろと、言うわけで・・・・よろしく!!

 

 P・S春のお笑い特番があったらとりあえず全部録画しててください。これマジで頼む!!><』



一丁前に、お願いまでしてんじゃねえかあのバカ猫・・・・。

またあたしに何も言わず・・・いや、紙は置いていってくれたか。おっし、ちょっとは成長したな!・・・・じゃないっ!

なによ帰省って!!あんたたち星霊はこの世界に帰省する故郷ないでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!

そしてあたしはイライラが爆発して部屋で暴れまわってしまった。





・・・・・・・・・暴れても仕方ない。とりあえず・・・ご飯食べながら漫才みよう。





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「うっし!ついたぁぁ!!」

俺、獅子座のレオンは電車から降りて、身体を伸ばす。

いかにも田舎と言ったような場所。空気がおいしい。

「これもひとつのケジメ。・・・・・・行くか」



そして俺は、駅のホームから茶色のスーツケースを持って、目的地に歩いていく―――――。

ついに姿を現した「サジタリウス」!

まあ残念な話エリーはサジタリウスにやられるためだけのかませ犬でした^^;


でもシナリオだけならものすごく出てきたんですよね。

ただあんまりたらたらやっちゃあダメかなぁ~って思ったんでw


もしよろしければ感想ください^^

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