ゾディアック・サイン 三章・下「校舎のスコーピオン」
巷は「FISHBOY」の噂で賑わってる最中。
ついにお正月休みが終わり、楽しい学校生活が始まる。
しかし彼女、神崎由香の教室には他にも「占い師」が!?
その一人「毒島裕太」が彼女とレオンに牙を向く!!
波乱と怒涛の第三章ついに完結!!
「はぁ!?あのバルたちとカラオケだぁ!?」
あたし、神崎由香は「星座占い」というサバイバルに巻き込まれている。
「バル」というのは「おとめ座のバル」という星霊で、あたしたちとは一度相対したこともある娘。
今日、そのバルちゃんと、パートナーの美優ちゃんが我が校に転校してきたのだ。
聞いたところにいると、実は彼女は元々星見町に住んでいたわけではなく、今年の元旦に引っ越してきたらしい。
つまり、引っ越したその日に「年間星座占い」を見て、この「占い」に巻き込まれてしまったらしい。
あたしは、そんな美優ちゃんをカラオケに誘い、今・・・家に帰ってきたら、レオンに軽くお説教されているのです。。。
「お前・・・。俺が今までお前を家に軟禁してた意味わかってるのか?」
「うっ・・・す、すいません・・・・・・」
あたしはなぜか正座して、仁王立ちで怒っているレオンの目を見ることできず、ただただ俯いていた。
「バルが心代わりしちゃあどうしちまうんだ!あと言っといてやる!やつは催眠系の能力を持ってるんだぞ!?」
「そ、そう・・・・・なんだ・・・」
「あぁ、ハープを出して、音色を奏でる。その音色は人々を魅了し、そして堕とす。それがバルの本気だ。
だからやろうと思えばマスターごと催眠して、お前を殺ることだって可能なんだよっ!!」
強い声色であたしに言ってくるレオン。
確かに怒られているのは怖いけど、ここまであたしを心配してくれてるのかと思うと少しうれしいところがあった。
「・・・それで?バル以外はどうなんだ??」
「ん?なんのこと??」
レオンは、話を切り替えるように一度、咳き込み、話題を変える。
その内容はあたしには理解できなかった。
「だから!ほかの星霊の気配はなかったのか?ってんだよ」
「そんなのわかんないよぉ・・・」
「・・・・・・ま、そうだよなぁ・・・」
レオンは少しがっかりした様子で、座り込んでしまう。
あたしがいつまでも正座で、足が痺れてきたのを察したのか「もういいよ」と一言言ってコタツに入った。
「言っとくぞ由香。お前は目立っているんだ。まあ乙女座のマスターもだけどな。
俺たちは特に目立ってるはずだ。まずはリブラも入ってきた最初のバルとの戦い。あれは絶対に何体かの
星霊、もしくはそのパートナーが見に来ているはずだ。ってことで、そいつらには俺たちの顔はバレちまってる。
そして極め付きがあのキャンサー戦だ。あれはビル破壊までしちまったからな。否応にも目立っちまってる。
この二つを確実に見てきている星霊がいたのならば・・・・・俺たちは完全に標的とされちまってる。」
あたしはレオンの話を聞いて思わず生唾を飲んでしまう。
そうか、だからあたしをあんなに無理やり外に出そうとはしなかったのか。
あたしが真剣に聞いているのを確認したレオンは、さらに言葉を続ける。
「しかも・・・だ。お前しかり、バルんとこの女しかり、星霊のマスターは学生でも普通なんだ。
今までにも普通にあった事例だからな。つまり、どこかでお前の顔を見たやつが、今回の件に関わっていたら・・・」
あたしもそこまで説明されてやっと気がつく。
そうか、あの学校にあたしや美優ちゃん以外にも・・・・いるかも知れないんだ。
「ま、言っても学校は休めねえからな。別に何もするなって言ってるわけじゃねぇ。
ただ、お前を守るのはめんどくさいんだ。面倒ごとを引き起こすんじゃねえぞ??」
「は、はい・・・・・・」
最後のは少しムッとしてしまったけれど、あたしはただ俯いて返事するしかなかった。
・・・・・結局バルちゃんたちの情報を聞き出さずにカラオケ楽しんじゃったしね・・・。
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「・・・・・・むにゃぁ~♪ふかふかぁ~」
柔らかい何かを包み込みながらあたしは寝ていた。
けれど、目覚ましがなるので目を覚ます。手にはまだふかふかとしか感触が未だ残っている。
「・・・・・・っ!?」
あたしは思わず顔を真っ赤にしてしまう。
あたしが抱きついているのは、レオンなのだから。
レオン本人は未だに起きていない。よしっ、ここは起こさないで何とか脱出しよう。
おかしい、普通はあたしのベッドの下の床に敷布団だけでレオンが寝てるはずなのに
どうしてあたしのベッドの中にいるのっ!?そしてなんであたしはそれを抱きしめちゃってるの!?
よしっ!ここはそーっと・・・そーっと・・・・・・。
「ん・・・どうしたんだ?由香ぁ??」
起きちゃったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
「・・お、おい・・・何口パクパクさせてんだよ。ってあれ・・・あ、そういうことか」
辺りを見たレオンは適当な様子で納得してしまい、あたしの顔をじっと見る。
「・・・・お前、言っておくぞ。被害者は俺だ!」
キリッと決まった顔で、彼はあたしに言った。
いやいやおかしい。女の子のベッドに男がもぐりこんでいる。それでなんでレオンのほうが被害者!?
「あぁ・・・信じないならいいや。教えとくわ。夜中、俺の髪をお前が引っ張って離さなくて、そのまま俺はベッドに座って 寝ようとしたらお前がさらに引っ張ってきてそのまま俺を抱きついたまま寝ちまったから
起こすのも悪ぃからそのまま俺の寝ちまったんだ。俺は被害者だ!ったく。毛根がすげぇ痛い。」
愚痴るように昨夜あった出来事を話すレオン。
けれどあたしはそんなことは耳に入らなかった。
お、男の人と・・・・一緒に・・・・・・ね、ね、ね、寝ちゃった・・・・・・。
「お、お前大丈夫か?学校行かなくちゃなんねぇだろ??」
「あ、そ、そうだったね・・・・うん・・・・・言ってくる」
あたしはそういいながら、いつものことなので自ら外に出るレオンを見届け、鍵を閉めて
身支度を済ませて学校に向かった。
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(はぁ・・・・だめだ。忘れられない。すっごく恥ずかしい・・・・)
帰りの電車の中。あやちゃんは部活だそうで、バルちゃんと美優ちゃんの姿もなかったので一人で電車を待っていた
その脳内には今日の朝のことで敷き詰められていた。
レオンの顔・・・・・・・近かったな・・・。
あたしは顔を真っ赤にさせながら、やってきた電車に乗る。
確かに、イケメンだし、心配性だけど基本優しいし、口が悪いけど話や趣味は合うし・・・・・・。
(で、でも相手は星霊!!人間じゃないのよっ!一緒に寝ただけで惚れちゃうような簡単な女じゃないよあたしは!)
いったい誰に言っているのかわからない言い訳をしながら電車の中で溜め息を吐く。
「・・・・・・ん?あれ??」
あたしはそんなとき、大きな変化、違和感、非日常な気配を感じた。
そして辺りを見渡す。おかしい、明らかにおかしい、どうしてこういう状況なんだ・・・・・・。
乗客が・・・・・・・・いない。
普段はそれなりにいるはずだ。
なのに今は、誰一人いない。どうして??
「僕がやったんだよ・・・・」
そんなとき、男の子の声が聞こえたので振り返る。
そこにいたのは見たことのある男の子。クラスメイトだ。
その手にはあたしみたいな馬鹿が読むには頭を抱えそうなほど分厚い本がある。
「ど、どういうこと??」
「君は知ってるはずだ。星霊術を・・・・・」
「――――――――っ!?」
あたしはその言葉を聞いて、そのクラスメイトの男の子。毒島裕太くんを凝視してしまう。
この子・・・・もしかして―――――――。
「君にはなんの被害も与えたくないんだ。獅子座の占い師、神崎由香さん」
「ぶ、毒島くん・・・・もしかして・・・・・・・・」
「あ、僕の名前覚えてくれているんだ。・・・そう、僕毒島裕太は、蠍座の占い師さ」
誰もいない電車内。
彼のその男らしさが足りない高い声が、電車の車両内に響き渡った。
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俺、獅子座のレオンは現在・・・・・ストーカー中である。
自分のマスター。神崎由香は出会ってまだ数日の俺が言うのもなんだが・・・・馬鹿だ。
ほら、今もあれほど警戒心を持てと昨日散々言ったのになんか顔を赤くしてぼーっとしてやがる。
さすがに学校内で見張ることは不可能だったので、学校の外をうろちょろと適当に散策して
学校の警備員のおっさんに少し怪しまれて、先生を呼び出されちまったが、女の先生なんで
適当に口説いてなんとか問題にならずにすんだ。それに反省して、
学校が終わるであろう時間までコンビ二で過ごした。
そして今、由香の下校をこっそりつけていたところだった。
駅のホームに入っても未だにぼーっとしている由香。ほんっと何考えてんだ??あいつ???
すると、由香はそんなぼーっとした態度のままやってきた電車の車両に乗った。
俺の隣の車両に乗ろう。そういって乗ると、何か・・・・感じたことのある威圧に襲われる。
「・・・・・ってあれ?」
隣の車両を見つめる。
するとそこには由香はおろか、ほかの乗客もいない。
逆の車両を見てみる。そこにも誰もいない。そしてこの車両には俺ともう一人・・・・・・・。
「よぉー!!レオン!!!キャンサーをやったのはお前らしいなぁ~次はオレッチとやろうぜ?」
丸刈りに、少し線を入れたエグ○イルのH○ROのような髪型に、目の下には紫の何かを塗っており
口や耳にピアスをしているいかにも不良といった風貌の男。まあ・・・・俺も人のこといえないが。
そいつの一番印象深いのは、後ろに大大とまるで別の生き物のように動いている異名な形をした尻尾だ。
その尻尾の先っぽには、針のような形をしたものがあり、その尻尾の姿は・・・・まさに蠍のものだった。
「・・・す、スコーピオン」
「あぁ、『順位壊し』のスコーピオン様だぁ!!お前とはやりあいたかったぜぇレオン!!」
睨みを利かせた目で俺を見るスコーピオン。
俺はその目を呆然と見つめる。
(やつに・・・・こんな能力はないはずだ・・・・・・・)
レオンはそう思い、警戒の目でスコーピオンを見つめる。
「・・・・・この仕組みはどういうことなんだ?スコーピオン」
「あぁ?あーちょーっちいいパートナーに恵まれた・・・ってことだな。そんなことより!!」
スコーピオンはそのまま前かがみにしゃがみ、その尻尾の焦点を合わせてレオンに向かって紫の液体を噴射する。
レオンはそれを慌ててかわす。
かわした先にあった壁はしゅーっとまるで何かがやけるかのような音を立てて溶けている。
そしてその後驚くべき光景を目にする。溶けた場所が元に戻っているのだ。
「・・・さっさとはじめようぜ」
そんなことお構いなしにスコーピオンはこちらに向かって走ってくる。
彼はそのままレオンに拳を放ってくる。レオンは驚いた様子でこれを受ける。
(・・・・こいつ・・・近距離戦も可能なのか)
あまりに重かったスコーピオンの拳に、そう思ってしまったレオンは、自らも拳を放つ。
スコーピオンはこれを防ぐもあまりの威力のせいか、少し後ろに減退してしまう。
「・・・・・はっ!さすが最強の名のある星霊だぁ!!面白くなってきたぜぇ!!」
スコーピオンの高笑いが、二人しかいない車両内にひどく響き渡った。
☆
「・・・えっと、毒島くんが・・・・・・・蠍座の占い師?それに、さっき「これは僕がやった」って・・・」
あたし、神崎由香は動揺を隠すことができなかった。
目の前にいるクラスメイト、毒島裕太くんはそんなに目立つ子ではなかった。
いつも分厚い本を読んでいて、運動神経もそんなよくなかったかな?成績はなかなかよかったほうだと思うけど
だけど、よく一人でいるのをよく見ていた。友達は少ないのかな?程度にしかあたしは彼を見たことはなかった。
でもそれは決して気が弱いから友達がいないわけじゃない。逆なのだ。
友達がいないんじゃなくて、作っていない感じがしたからだ。
あたしはそんな毒島くんと一緒に、誰もいない車両にいた。
「あぁ・・・それは説明したくない。百聞は一見にしかずだ。これを見てくれ」
すると、彼の背中には迷彩色をした線だけで作られたような幻想的な鳥の姿が現れる。
「こ、これって・・・・・」
あたしが驚いていると、毒島くんの肩に乗っていた鳥は突然あたしに飛び込んでくる。
それはとまっているあたしには当たらず、そのまま通りすぎて、電車に衝突して電車を破壊する。
けれど・・・・・その電車は、すぐさま修復されていってしまっている。
「こ、これって・・・どういうこと?」
「これが・・・・・・星術だ」
毒島くんはそういってあたしを睨んできている。
「この電車は、空間断切って言う星術を使っている。ここは、いうなれば切断された異空間ってことだ」
そういうと、あたしの後ろの隣の車両につながる扉が開かれる。
「じゃあ、僕は行くよ。君はいつも降りる駅になったら扉が開かれるからそこから出たら元の世界に戻れる。」
そういってあたしとすれ違う形で歩いていこうとする毒島裕太くん。
「ちょっと待ってっ!!!」
あたしはそんな彼の右腕を握ってそれを止める。
「・・・な、なに??」
「あたしも連れて行って」
少し動揺したような毒島くんが聞いてきたのでこれに答える。
わからないけどあの鳥みたいなんの通り、この子は何か特別な何かを持っているんだ。
そしてきっとこれから向かうのは、わからないけど・・・・きっとあたしに行かせたくない場所だ。
「・・・・・・僕がどこに行くかわかってるの??」
「わかんない。・・・・教えて」
あたしがそういうと毒島くんは少し悩んだ様子で上を見上げる。
「んー・・・・・・。いや、内緒にしておこう。」
そういわれると、突然何かに首を絞められたような感覚に襲われる。
「な・・・・なに・・・・・・」
「大丈夫。本当に首を絞めてるわけじゃない。そういう感覚に襲われてるだけだ」
「ど、どういう・・・・こと。」
「だから、それは内緒なんだって」
そういいながら彼は扉の中に入っていく。
彼が入ったのを感知して、扉は閉まる。閉まった直後に、あたしを締めていた何かが消えてしまう。
あたしは慌てて毒島くんの去っていった扉を必死にあけようとする。
けれどその扉に触れることはできなかった。
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「くっそ・・・・」
「おいおいどぉしたよレオン。そろそろ毒が回ってきたか??」
毒島と由香がいた場所とは違う車両。
そこでは獅子座のレオンと蠍座のスコーピオンが相対していた。
しかし数分前とは少し様子が違っていた。その車内は、紫色の霧に包まれている。
レオンは口を手で押さえながら苦しそうにしている。
これが彼、スコーピオンの能力。「ポイズンメーカー」
あらゆる毒を生成し、放出することができるという単純かつ危険な能力だ。
その毒の能力は多種多様されているため、どうやっても対処は仕切れない。
そういう面では「順位壊し」の異名も頷けるし、能力だけなら最強クラスの能力を持っているであろう。
「安心しな♪霧系の毒は密度が薄い分。どうしても殺す類の毒は生成できねぇんだ。だから・・・・・」
そういってスコーピオンは笑みを浮かべる。無邪気な子どものような笑みだ。
霧がレオンの呼吸を利用し、体内に入ってくる。
身体が全身切り裂かれるような苦痛が襲い掛かり、その直後、身体が硬直してしまう。
「・・・・痺れ毒ってな♪」
レオンはそのまま床に倒れこんでしまう。
「・・・・・・20%」
ぼそっと。レオンが呟く。
これができるってことは・・・・・・由香もまだ近くにいるんだな。
レオンは一人、そう思い安堵の笑みを浮かべる。
「・・・・おっ?なんか凶暴な顔してねぇ?レオン。ってか俺の痺れ毒は??」
スコーピオンは不思議そうな表情でレオンを見る。
レオンの目つきは少し恐ろしいものとなり、起き上がる。
痺れ薬の力はどうやら無効化されたか・・・・とスコーピオンは冷静は解釈する。
レオンは普通に呼吸している。この毒霧の中にいるっていうのに。
抗体を・・・・・・生成されたのか??
「・・・・はっ!!おもしれぇ!!!!やってやろうじゃねえか!!」
そういってスコーピオンはレオンに向かって走りさる。
そして拳を放ってくる、レオンはこれを受け止め、拳を放つ
スコーピオンはその拳をかわし、レオンに拳を放つ。
一方が拳をはなてば、向こうが受け止め、かわし、拳を放つ。
それを数秒ほど、お互いに隙を見せずに闘い続ける。
そして、レオンの拳をスコーピオンが受け止める。
その直後、レオンはスコーピオンの拳がくることを予知し、それに構える。
「―――――っ!?」
しかし、その予想は大きく外れる。自分の瞳に映ったのは、
スコーピオンのその大きな尻尾が自分の腹部を狙っている光景だった。
「・・・・・ちっ、はずしたか。」
レオンは咄嗟にスコーピオンに掴まれていた拳を払いのけ、バックステップでスコーピオンと距離をとる。
離れたところで、もう一度スコーピオンを見る。中腰で、だらんと立っているスコーピオンの姿。
その禍々しい尻尾からは紫の液体がぽたぽたと垂れている。
落ちた滴のついた床はやけた音を立てながら溶けていっている。
「・・・・・・はぁ、はぁ・・・」
酷く呼吸が乱れてしまっているレオン。
「次は効いたかぁ・・・・・・空気毒。
教えといてやるよ。この車内に今充満している空気は痛覚毒。痛みを感じさせる毒だ。
二つの毒を同時に生成できるってなるとだいぶ時間が経っちまったぜぇ・・・」
邪悪笑みを浮かべるスコーピオン。
(まだ・・・・毒は作るのかよ・・・)
レオンはそう思ってしまう。
予想以上に手強いスコーピオンの力にレオンはただただ驚く。
「―――――っ!?」
そんなレオンに突然何かの糸が絡まったようになってしまう。
何かと思えば目の前に線でできた透明な鳥が飛んできている。
その鳥はレオンに衝突する直前でまるで分解されたかのように線に戻り、レオンの身体に絡まってくる。
「おいおいっ、裕太!今回は俺一人にやらしてくれるんじゃねえのかぁ??」
スコーピオンが悪態つくように、後ろにいる少年に言った。
そのとき、動けない身体で、痛みに耐えながら目を開いてその少年を見る。
でかい本を持っている、身体付きのひょろい少年が立っている。
・・・ってか、この絡まってるのはこいつの仕業か??
そんなときだった。電車が突然止まってしまう。
「スコーピオン。どうやらタイムアップみたいだ。これ以上僕の術式は保てない」
「・・・けっ、どうせなら一般人巻き込んでやったほうがいいんじゃねえかぁ?」
「それはだめだっ!!ったく・・・。降りるぞ」
「へいへい・・・・・」
そういってスコーピオンとその少年は開かれた扉から外に出て行ってしまう。
そのとき、少年は振り返って手を前に出す。俺にかけていたその透明な線が全て解かれる。
「・・・くっそ!待ちやがれ!!!」
レオンも痛みに耐えながら駅の外に走り去る。
「・・・・・・あれ?」
電車に出ると、がやがやと人が歩き回っている。どうやら普通の駅のようだ。
「・・・あれ?レオン??」
すると、そんな声が聞こえる。
見てみると、そこには由香の姿があった。
「お、お前・・・・・」
「ってか、なんでここに??」
「あ、えーっと・・それは・・・・・だな・・・・」
「あー!!」
「な、なんだ!?」
「ストーカーしてたんでしょー!!!!」
「はぁ!?お前でけぇ声で何言ってんだ!!」
そんなとき、駅員さんがこちらに向かってきている。
「ほらっ!騒ぎがでかくなる前にこっから出るぞ!!!」
俺は由香の手を取り、走り去った。
その身体を蝕む無数の痛みとともに――――。
蠍は、獲物をしとめるために、有力な毒を与え、相手が衰弱したときを・・・・・・狙う。
彼、レオンの身体の痛みは・・・・・・・・・・・毒のように全身を蝕んでいく。
☆
「レオンっ!?レオンっ!!!!」
あたしと家に帰ってきたレオンは力尽きたように倒れてしまう。
顔も苦痛に歪んでしまっているのだ。こんなレオン・・・見たことがなかった。
「ゆ、由香・・・・・っ」
「な、何・・・?」
「す、少しだけ・・・・部屋・・・出てろ」
「・・・・え?」
「た、頼む・・・・っ!!」
レオンが懇願の目であたしを見つめてくる。
あたしはただそれに縋るしか、道はなかったのだ。
「わ、わかった・・・」
「終わったら・・・・呼ぶから」
そういってあたしはやむ終えなく部屋を出る。
「・・・・・この程度なら、20%・・・・・」
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僕はばあちゃんちの書斎である本を見つけた。
「StarMasic」と書かれていたその本はまだ4歳だった僕を魅了する何かがあった。
「裕太。そんな本読んでても無駄だ。捨てなさい」
両親は厳しかった。まあ世間一般で言う教育ママ、教育パパって所だ。
「毒島」と言えばこの辺では、由緒正しき家柄らしい。そのこともあって僕は英才教育を受けていた。
そんな家で、僕は娯楽というものをまったく受けずに勉学に勤しまれた。
そんなときでも俺の唯一の娯楽は、4歳の時にばあちゃんちで見つけた本だった。
まず文字が読めなかった。だからちょこちょこばあちゃんちの書斎に行って、その本の解読に勤しんだ。
これを5歳からはじめてしまっている。本当、なんでこんな公立校にいるのだろうか。
その理由のひとつは、教育の一環として学んだ「コミック」や「テレビ」などの娯楽文化。
これを僕は「娯楽」ではなく、父からの「教養」として学ばされた。
本を読んで楽しむのではなく、このような作品は万人受けしやすい。だから金になるだのなんだの・・・・・。
コミックスも親父たちからして見れば「ビジネス」のひとつであった。
そんな中、まだ小さな僕が酷く憧れてしまったのは「ヘイリー・ポッター」という大人気の映画だった。
この物語に出てくるのは魔法使い。空を飛んだり、ビームのようなものを発射したり、物を変身させたり
そんな魔法使いに僕はひどく憧れてしまった。
しかしそれを表に出してしまっては父親たちに矯正されてしまうのはわかっていた。
だから僕はこっそりとその憧れに火を灯した。
そして勉学に励む傍ら、ばあちゃんの本の解読をしていた。
そんなとき、僕はある事実を知ってしまったのだ。
「・・・・・すごいっ!!すごいよこれっ!!!!」
そう、その書物には・・・・・・・魔法使いになるための方法が書かれていた。
これに解読できたのが、7歳のころだった。
完全な解読ではない。ここでやっと最初のプロローグを解読できたのだ。
僕は勉学に励むことと、この本のことでいっぱいで、小学校でも友達は作らなかった。
声をかけてきたやつはどうせ名門と手を組むために
僕を出しに遣おうとする大人たちの手先。そう考えてたからだ。
僕はその本の解読に夢中になっていた。親にバレないように本を隠し、親の監視カメラに細工をして
その本の解読を行っていた。しかし、何事も夢中になりすぎるといけないものである。
僕が本の解読に夢中になるばかりに、勉学を疎かにしてしまい、
そのことにより親が疑問を浮かべてしまったのだ。
監視カメラの細工もバレた。本のこともバレた。これが12歳のときだった。
本もやっと半分以上解読できたというのに、何ひとつ実行できずに、終わるのか・・・。
父親は、僕の本を取って、燃やしてしまった。
しかし、どうやら僕は父親の教養のおかげで賢い子どもになっていたのだ。父親以上に。
僕は数多くの解読情報をUSBに映しこみ、レプリカの本をいくつも作ってきたのだ。親の監視もない場所で。
父親が燃やした多数の書物はそのレプリカだった。
そして僕は、小さいころから娯楽を持たなかったが故、親族からもらった貯めていた大金を持って
家を出て行った―――――――――――――。
その大金を僕は賢く使い、贅沢な生活はしないように、
唯一僕の味方をしていた叔父さんの持っているアパートに匿ってもらっている。
叔父さんは僕が星術を解読しようとしているのを知っていた。
そう、レプリカを作っていた父親の監視のない場所とは叔父さんの家だった。
おかげで僕は毎日のように本の解読に勤しめる。本当に充実した毎日だった。
そして14歳のとき、僕は絶望してしまう。ある一文の解読によって―――――――――。
【人間には星術を使用するに必要な力が存在しない。
人間が星術をしようするためには星霊などの星の力を持つものに力を供給してもらわなければならない。】
今までやってきた解読によって術式の組み立て方や、星術の使用方法ももう完璧だ。
なのに・・・・なのに・・・・・・・・人間のにはそんな力がない??覚えても無駄????
俺が親を捨て、娯楽を捨て、全てを投げ出してせっかく解読したのに・・・こんなのってない。
それは、今まで英才教育を受けてきても、その星の力は得られない。まるで僕の人生が全否定されたようだった。
そして僕は――――――堕落した。
今まで押さえ込まれた人間の堕落心が一気に押し出してきた。
ゲームを買い、家に籠もって毎日のようにプレイしていた。本当に面白かった。
僕はなんでこんな面白いものを今までしてこなかったのだろう。
これなら・・・・・・努力せずに魔法使いになれるじゃないか。
人間。一日勉強をサボると取り戻すまで3日かかるという。
引きこもっていた僕はせっかくの英才教育を無駄にするほど引きこもっていたせいもあってか
脳も堕落していき、叔父さんに言われて入った高校はまあ上の中ぐらいの学校だった。
クラスの一人か二人の頭がいい奴が行くような、そんな高校。
ただの中学から見れば驚くぐらい高い高校だが、世界的に見ればたいしたことはない。そんな学校。
そこでも僕は無気力に過ごしていた。ただ、まるで習慣のように、星術が記された本を読みふけていた。
本当に・・・・・・無意味とわかっていても読んでしまうほど、この本は僕を魅了して止まなかった。
そんなとき、僕は正座占いに巻き込まれ、スコーピオンと出会う。
彼は自分を星霊だといった。
僕は、魔法使いになれた―――――――――。
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「ったくよぉ、どうして邪魔したんだぁ??裕太??」
「う、五月蝿い!ゲームもいきなりクリアじゃあつまんないだろ?」
「まぁ、そうだけどよぉ」
「どうせ・・・・毒は盛ったんだろ??」
俺は少し不機嫌そうな顔をしているスコーピオンに問い詰めた。
「ああ、まあな。だけど、あいつにゃあ多分効かねぇと思う」
「・・・・どうしてだ??」
「なんか呟いたかと思えばな、急に凶暴な顔になって。俺の痺れ毒を無効化させちまったんだ」
「・・・へぇー。そんな星術式あったかな??」
「あぁ?何思い出そうとしてんだよ」
「え、あ・・・・ごめん。これ見てよ」
僕は少し悩んだ末、付箋を貼ってあるページをスコーピオンに見せる。
「ん・・・・。なんて書いてるんだ??」
「まあ簡単に言えば、お前の能力のことが書いてある。」
「はぁ?、なんでここに俺のことが書いてあるんだ??」
「あぁ。多分なんだけど、何十年も昔から星座占いはあったんだろう?
俺の先祖は昔それの参加者だったんだと思ってるんだ。それで書き記してるんだ。
自分の記憶をなくす前に、何かにこの星座占いの記憶を記したかった。多分そうなんだ・・・。
んでさ、スコーピオン。お前の力も星術式からきてるんだ。その星術式はスコーピオンにしか組めない。
結果それがスコーピオンの能力ってことなんだ。だからレオンもきっと・・・・・・」
「・・・・・・なるほどねぇ」
スコーピオンは少し納得した様子で呟いた。
「それで、なんとかこのページからが獅子座について
記されている項ってのはわかったけどどうも難しくて・・・・・」
「だから、明日。一応第2Rと行こう。そこには僕は最初からいる。
そこで見てたらやつの能力の真意がわかるかもしれないし・・・」
「なるほど、つまり・・・俺は明日も闘えばいいわけだな」
「あぁ、がんばってくれよ。スコーピオン」
「あぁ、やってやるさ・・・」
スコーピオンは少し微笑む。
その針から毒を垂らしながら・・・・。
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「・・・・もういいぞ。」
扉を開いたレオンはそのままあたしに毛布をかけてくれた。
長く外にいたせいで相当寒かった。そのことに対して気を遣ってくれたのだろう。
レオンは中で何があったのかわからないが、酷く汗を掻いて息が荒くなっている。
「・・・・な、何よこれっ!?」
「わ、悪ぃ」
本当に申し訳そうに、レオンが謝罪してくる。
部屋が酷く散らかってしまっている。と、いうまで・・・荒らされてしまっている。
「な、何をしてたの??」
「それは、内緒だ・・・」
「まさか・・・・下着探してたんじゃ・・・・・」
「ちげぇよっ!!!!」
「もう!少し信頼したら堂々と・・・・」
「いや!だから違うっつってんだろっ!!!」
「じゃあこの部屋の荒れ方何!?明らかに下着泥棒がいた後じゃん!!」
「だからちげぇって!大体おめぇの下着なんかにゃ興味ねぇわ!!!」
「じゃあ何してたって言うのさっ!!!!!」
「あぁーだからそれは言えねえんだって!!!!」
「どうしていえないの!?」
「あーもう!!回復術を使ったんだ!!」
「・・・・ひぇ?」
俺が暴露した真実は彼女、神崎由香は馬鹿みたいな顔できょとんとしている。
俺は本当の真実を隠しつつ、バレないように事実を話す。
「だけどこの回復術。ちょっと回りを巻き込むからな。お前がいたらお前を巻き込む恐れがあるんだ」
「そ、そうなん・・・・・だ・・・」
「あぁ、わかってくれたならそれで―――――」
「それで・・・その後、下着を盗んだと。どこに隠したの?」
「いやだから盗んでねぇって!!しつけぇなぁ!!!」
「ストーカーをしてたって言う前科があるしねぇ・・・あんた」
じとーっとした目で俺を睨んでくる由香。
「あれはお前が心配だったからって言ってるだろ!?」
「心配ってのはあれ?あたしに変な虫がつかないように?」
「ちっげぇよばかっ!!!」
「ていうかさっきから聞いてたけどバカバカ言い過ぎじゃないのあんた!!」
「本物のバカだから言ってるんだよバーカ!」
二人のしょうもない口げんかは、後日ご近所のにやにや話のネタになってしまうのは、この翌日のことであった。
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「・・・・・・本を持った少年?あー毒島くんか。あたしも彼にあったよ?」
「ほ、本当か??お前はどこにいたんだ??」
やっと口喧嘩も済み、お互い今日あったことについて話し始めた。
「どこって・・・ストーカーしてたんじゃないの?隣の車両にいたよ??」
「そんなわけねぇ!!俺は隣の車両に入ったが、どの車両にも誰もいなかった!」
「そ、そんなことあるわけ・・・・・・あ。」
「ど、どうした??」
「いや、レオン。ありえないことかもだけど、あたしが電車に乗ったとき、人があたしと毒島くんしかいなかったんだ」
「じゃあ確実だな・・・・」
俺は由香から聞いた話を聞いて、脳内にあった疑問は全て確立された。
「あのスコーピオンのパートナーが毒島とか言うガキ。そしてあの電車も鳥も、あのガキのせいってことか」
「・・・・・・そうなのかも」
「・・・・・・由香。悪いが、俺は今後もお前についていこうと思う」
「え?またストーカー??」
「・・・・本人に了承を得たらストーカーじゃなくなるだろ。」
「まあ、そういう理由なら・・・・仕方ない・・・か。」
「うっし。許可得たな。俺は寝る。」
そういってレオンはなぜかベッドからもっとも離れているところに言って座り込む。
「・・・・どうしたの?」
「・・・またお前にベッドに引き込まれたらいやだからな」
俺の言葉を聞いた由香は、まるで今朝の一連の流れを思い出したかのように顔を真っ赤にさせる。
「・・・・お休み」
そう呟いて、彼女。神崎由香は眠ってしまった。
スコーピオンとの戦いが始まった一日目が、終わった―――――。
☆
(・・・いいか。流石の俺も校内に侵入すれば問題になる。だから、校内では自分で警戒してくれ)
教室。あたしはそう言われ、教室にいた。
昨日のこともあってついついあたしは自分の席に座る毒島くんを見てしまう。
すると、彼もこちらを見てきている。思わず目が合うと、お互い思わず逸らしてしまう。
(・・・・な、なんか妙に意識しちゃうよ・・・。さ、流石に学校でも何かやってくることはないよね・・・・・・・」
「・・・どうした?由香??」
「えっ!?な、なんでもないよ綾ちゃんっ!!」
「・・・あやしー」
「ほ、ほんっとに何もないってば・・・」
あたしは必死に綾ちゃんに対して否定した。
この子、直感が強いからさっきからちらちらとあたしが毒島くんを見ているのを知ったら勘違いされちゃうなぁ・・・。
「・・・・・・星術式。開放・・・」
そんな言葉とともに、突然大きな風がぶつかるような感覚に襲われる。
気がつくと、あたり一面が――――――――――――止まっていた。
目の前にいる綾ちゃんも、クラスのみんなもみんな止まってしまっている。
本当に、時刻が止まってしまったかのように・・・・・。
「・・・・・・・・・昨日ぶり、だね。神崎さん」
すると、後ろからそんな声がした。
少し高めだけど、女性には出せない男の人の声。
振り返るとそこには分厚い本を持って、こちらを見て立ち上がっている毒島裕太くんの姿があった。
「これも・・・・・・君の仕業なの?」
「うん、空間遮断の星術式なんだ。安心して、そこにいるクラスメイトは言わばお人形さん。
心苦しいんだったら、消去するよ。ほら」
そういうと、あたしの周りで一寸とも動かなかったクラスメイトたちが一瞬で消えてしまった。
本当に・・・・・・魔法使いみたいだ。
「この星術式の制約は自分ともう一人の人物を置く必要がある。そして・・・・・・・・・」
そういって毒島くんはしばし黙ってしまう。
すると、あたしはひとつのことに気付いた。クラスメイトの一人が消えていないのである。
その子はぼーっと席に座っていた。こうなる前からこの子は一人でぼーっとしてたな・・・・・。
「もういいよ・・・・・。スコーピオン。」
「――――っ!?」
あたしは酷く驚いてしまった。
さっきまで同じ教室にいた少し大柄な男のクラスメイトがぬらっと立ち上がる。
すると、突然光と、術式のような文字が浮かび上がってきていた。
「・・・・おいおい、これがレオンのパートナーかぁ?超可愛いじゃねえかよぉ」
男の子が光に包まれているときに、そんな声が聞こえる。初めて聞く声だ。
けれどさっき毒島くんは言っていた。「スコーピオン」って言ってた。
包まれていた光が消えていく。だぼだぼのパーカーとジーンズパンツを身に纏い。
丸刈りにまるでEXILEのボーカルの人のように線を入れるように剃っている赤髪の男。
耳にピアスを付け、舌を出してこちらを見ているその瞳はとても怖いものだった。
けれどあたしが一番恐ろしく思ったのは、その後ろにある禍々しい形をした蠍の尻尾だ。
「んで?近くにレオンがいるはずだがなぁ~そろそろ来るんじゃねえのか??
この星術式の弱点は「星の力を持っているものには聞かない」ってやつだろ?
ならこの結界に気付いてくるんじゃねぇのか??」
毒島くんよりも10cm以上高いスコーピオンは前かがみで毒島くんを睨むようにしていっている。
「け、結界は聞かないけど。気付くのには少し時間がかかるかもな。
昨日一緒にいたのも偶然かも知れないし・・・・・・。そこのところ、神崎さんわかる?」
そういい、あたしのほうを見て説いて来る毒島くん。
これは話すべきだろうか、どうせレオンは気付いたらここに来るんだし
でも嘘をついてればレオンが不意打ちが可能になるんだし・・・・・・・。
「・・・・・裕太ぁ!!」
「―――――っ!?」
そういわれ驚いた毒島くんの目の前にあのときの鳥を形成していた糸が突然現れ、壁の形に形成され、
突如現れた弦のようなワイヤーを防いだ。スコーピオンもいち早くその場を離れていた。
「何かと思えばあんたなのっ!?スコーピオン!!」
あたしはその声のする教室の扉付近を見やる。
「大丈夫っ!?由香ちゃん!!!」
その声とともに扉からひょこっと顔を出すとても可愛らしい少女の姿と、服の袖から弦を伸ばして
殺意に満ちた表情をしている少女の姿があった。
「美優ちゃんっ!バルちゃんっ!?」
「ヒュー。おいおい、綺麗どころが三人もいるぜ裕太ぁ?お前の好みどれよ??」
「そ、そんな場合じゃないだろスコーピオンっ!!やっぱり乙女座の占い師と星霊いたんだっ!!!」
突然現れたバルちゃんたちにも怖気づくことなく、そんな問いかけを毒島くんにしてきているスコーピオン。
そんなスコーピオンに激怒するように怒鳴り散らしているが、なにぶん覇気がない毒島くん。
「あんた、その子はなんなの?」
「あぁ?なんだバル。制服偉く似合ってんじゃねえか。いいねぇ、俺が制服着ると不良ってのと間違われるから
よく大人や自分が一番だぁとか思ってるうぜぇクズ共に絡まれちまうがそっちだとナンパよくされるだろ??」
「あたしの質問に答えてっ!!」
「・・・ったく。相変わらず短気だなぁ、気が強い女はモテねぇぞ??俺は好みだけど」
もう我慢の限界が来たのか、バルちゃんはまた服袖から弦を三本ほど伸ばした。
その弦は勢いよくスコーピオンを目掛けて飛んでいく。まるでスコーピオンを喰おうとしている蛇のようだ。
「おっと、そうかっかすんなってったくよぉ」
それを軽々とよけるスコーピオン。
「・・・・・あれ?」
すると、急に視界が曖昧になってしまう。あれ・・・・おかしいなぁ、どうしたんだろ。
ふらふらとしてきた意識の中で、見ていると、バルちゃんも美優ちゃんも同様にふらふらとしてしまっている。
「・・・・・麻痺毒を酸素で生成した。弱い毒だから、人間でもそんなに強く利きはしねぇだろ。
これでおとなしくなってくれたかぁ?乙女座のバルちゃんよぉ?」
「・・・・・・・・・」
「じゃ、おふざけはやめて紹介っするわ。こいつは毒島裕太。俺の相棒にして魔法使いだぁ!!
面白いだろぉ~断言してやるっ!!こいつは・・・・最強の占い師だぁ!!!」
そう叫んだ瞬間、彼の尻尾がバルちゃんに襲い掛かってくる。
バルちゃんはこれを手を振って弦を一点に集め、その尻尾を止める。
尻尾から垂れてくる紫のどろっとした液体が弦に触れる。しゅーっと焼けたような音を立てて弦が溶けてしまってる
「裕太ぁ!!今だやっちまえっ!!!」
「乙女座のバルのほうは出来ないけどね!」
そういいながら、毒島くんは本を開く。
すると、彼の目の前に三羽の糸で出来た鳥を召還する。
それの一羽があたしのほうに飛び込んできているじゃないか。
残りのニ羽もそれぞれ美優ちゃんとバルちゃんに飛んできている。
バルちゃんはこれを弦で捌いて無効化する。
「・・・・・ミュー!!」
バルちゃんはそのまますぐ美優ちゃんのほうを見やりながら叫ぶ。
あたしももう既に、鳥が糸に分裂した直後に身体中に纏まりはじめて絡みついてきていた。
それは美優ちゃんも同じ、あたしたち二人は星術式で作られた糸に捕縛されてしまったのだ。
もがいてもまったく外れる気がしない。どうしよう・・・・・。
「流石に星霊はこれで捕縛できねぇか・・・。まあ、これで邪魔は出来ねえな。バル。大人しくレオンを待ってろ」
「・・・・くっ」
悔しそうに拳を握るバルちゃん。
「俺はぁかわい子ちゃんを殺す趣味はねぇんだ。だからお前は狙わないで置いてやるよ。
それよりも裕太よぉ~。こんなかわい子ちゃんが二人もお前の星術で動けなくなってるんだぜ??
こいつらは今お前の思い通りってわけだ・・・・・どうだぁ?欲求が出てきたんじゃねえのか??」
「で、出るわけないだろっ!?僕は束縛した女を貪るような変態じゃないっ!!」
「・・・ちっ、つまんねぇなぁ~じゃあどっちが好みかだけ教えろよ」
「はぁ!?そんなことはいいだろ!それより本当にバルをほったらかしといていいのかよ!!」
「・・・・・それはまずいな。こいつの能力的に。よっと」
そういうとスコーピオンは釘のようなものを取り出し、バルに向かって投げつけた。
その釘はバルちゃんの腹部に突き刺さる。
「―――――っ!?」
バルちゃんは驚いたような表情で膝をつく。
「少し強めの注射式毒だ。まあお前なら踏ん張ればなんとかなるかもだが・・・・そうしたら」
そういうとクイっと毒島くんに合図をするスコーピオン。
毒島くんは少し嫌そうな顔をしつつも、本を開いて、美優ちゃんに向かって手を翳す。
「い、痛いっ!!」
すると、彼女の身体を絡み付いている糸が急にきつく締め付けてきている。
「や、やめろっ!!ミューを巻き込むなっ!!」
「だったら大人しくしといてくれや。俺はレオンとやりあいてぇんだよ」
その瞬間のスコーピオンの顔を見たあたしはひどく怯えてしまった。
さっきまでは見た目が不良のような風貌だから怖かったけど、今はその雰囲気全てが怖い。
これが、本当の星座占いなんだ。
キャンサーとレオンの戦いが正々堂々としすぎた。
本当はこんなに悲惨な戦いなんだ。とあたしは思った。
(・・・・レオン、早く来てよっ!!!)
「・・・・おいおい、昨日は電車で今日は教室かよ。お望み通り来てやったぜ」
あたしはその声に思わず反応して、窓のほうを見やった。
学校の窓ガラスをあけて、そこから侵入するかのような姿勢でいる男がスコーピオンに話しかけていた。
「レオンっ!!」
「おいおい由香。あれだけ警戒しろっつったのにこのザマかよ。それに、バルもやばいみたいじゃねえか」
そういいながら、教室に入り込むレオン。スコーピオンは待っていましたと言わんばかりの顔をしていた。
「よぉ、レオン!昨日ぶりだな、毒はもう完治したのかぁ?」
「あぁ。おかげさまでな」
「ったくよぉ~このままじゃあ『順位壊し』の名が廃っちまう。そのカラクリ、解かせてもらうぜ!!」
そういい、突然その巨大な尻尾をレオンに向けて放つスコーピオン。
レオンはこれをかわし、その尻尾を掴んだ。
「引っかかったなぁ!!」
「―――――っ!?」
驚いて手を離すレオン。手を見ていると手は紫色に染まってしまっていた。
「塗装式の毒だ。効能は・・・・・・感覚遮断!!」
そういった直後、レオンの右腕がだらんと落ちてしまっていた。
「これは感染力が低いんだよな、まあ、触れた右手だけが使えなくなっただけ儲けもんか。
さあ使えよレオンっ!!!!昨日俺の毒を無効化したその能力とやらをよォォォォォォォォォォォォ!!」
レオンが悔しそうに睨みつけるのを見て、挑発するように見下した態度で言うスコーピオン。
こうして、レオンVS.スコーピオン戦が始まったのであった。
☆
「塗装式の毒だ・・・。それえ右腕はもうないに等しいな」
「・・・・・・ったく。最近よく右腕無くすな・・・・」
皮肉めいたことを吐きながらレオンはその垂れ下がった右腕を左腕で掴んでいた。
先日のキャンサー戦でも彼は右腕を切断され、使用不可能のところまで追い込まれたのだ。
「―――――っ!?」
そんなとき、突然迷彩色の線で作られた3匹の鳥がこちらに向かって飛んできているのに気付いた。
レオンは慌ててバックステップでそれをかわす。
しかし鳥はどこまでも追ってくる。
左腕で一匹を振り払うすると鳥は線に戻っていき、レオンの左腕に絡みついてきた。
「くっ・・・・・・」
苦しそうに声を出すレオン。
左腕に、残り2匹の鳥も集まり、線と化してレオンの左腕を絞め上げてくる。
レオンは苦しそうに一人の男を睨みつける。
大きくて分厚い本を抱え、同じくこちらを睨んできている少年。毒島裕太。
レオンの右腕の皮膚が絞めつけられ、激しい音を立てながら血を噴き出してきた。
「レオンっ!!」
あたしは思わず叫んでしまう。
苦痛に歪むレオンの顔、見ているだけでこっちまで苦しい。
「・・・・・くそっ!!」
そのとき、視界には伸びてきた弦が見える。
バルちゃんの能力で出てきた弦だ。
少し苦しそうに、汗が流れているが、やはり注射毒が利いているんじゃないだろうか?
「・・・・・・裕太はやらせねえぜ。バルちゃんよぉ」
弦を右腕で受け止めているスコーピオン。
「・・・・・ならあんたからやってやるわ!!」
「――――っ!?」
すると、スコーピオンに止められていた弦が急に動き出し、スコーピオンの腕を捕らえる。
弦はまるで生き物のような摩擦音を立てながら、スコーピオンの腕を絞め付ける。
「・・・皮肉なもんね、因果応報ってこのことを言うのかしら?」
余裕ぶり、勝ち誇った顔をしているバルちゃんは、さらにスコーピオンの腕を絞める。
しかし彼女の顔も余裕めいていなく、毒が苦しいのか、少し顔が歪んでしまっている。
「皮肉?おいおい、そいつはちげぇぜバル。こっちは・・・・・こうだ」
そういってにやりと笑うスコーピオン。
すると、バルの顔がおどろいたように歪む。
彼の腕を絞めつけていた弦が溶けていってしまっているのだ。
「・・・こいつを作るための時間を裕太に稼いでもらったのに無駄使いしちまったぜ・・・・・」
しゅーと、焼けるような音を立てて、バルの弦が醜く溶けていく。
「てめぇは大人しくしてな!!バル!!!!」
その直後だった。
スコーピオンのその長い尻尾が、バルの腹部を貫いたのは。
「バルちゃん!!!――――ッ!?」
涙を流しながら叫ぶ美優ちゃん。
それを見ていた毒島くんは、彼女を縛っている糸を少しきつく絞めあげた。
それで首を絞められ、苦しそうにしていたが、すぅ・・・と気を失ったかのように目を閉じた。
「美優ちゃんッ!!!!」
あたしは動けない身体を転がして、美優ちゃんのほうに近寄る。
彼女の口から寝息音が聞こえてきている。死んでいない。どうやら眠ってしまったようだ。
「―――ッ!?スコーピオンッ!!!」
悲しそうな顔をしていた毒島くんは、突然血相を変えて彼の星霊を呼んだ。
けれどそのときはもう既に遅かった。
その声に振り返ったスコーピオンの頬に硬い拳が直撃していた。
スコーピオンは顔を歪め、そのまま教室の机を巻き込み、壁までぶっ飛ばされた。
「・・・・・らぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
驚いたスコーピオンが自分が元いた場所を見つめる。
血を流してはいたが、顔が凶暴に変わっていて、こちらを殺す殺意に満ちた目をしている。
獅子座の星霊レオンが、スコーピオンを右腕でぶん殴ってきやがった――――――――。
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くっそ・・・・。こんなに強かったのかよ。スコーピオンのやろう。
確かに『順位壊し』の異名は伊達じゃねえな。こんな毒喰らっちまったらもしやつに勝てても後遺症が残っちまう。
それに・・・・・あのガキだ。あいつが思った以上に強い。
あの二人確かに名コンビだ。
スコーピオンを見ている限り、やつの毒を生成するのには時間が掛かっちまうみたいだ。
それをあの毒島ってガキがカバーしている。しかしあのガキはただの一般人。機動力にかけちまう。
だからスコーピオンがその間に壁として肉弾戦で毒島を護る。
時間が出来たらスコーピオンが前線に出てきて毒を使って攻めてくる。なんとも出来た戦略だ。
現に俺は今両手を完全に使えなくされちまった。
そんなときだった。乙女座のバルのやろうがスコーピオンに刺された。
そのショックでバルはそのまま床に倒れこむ。
待てよ・・・・・・・やつは、今毒を使った?
なら――――やるしかねえ!!!
俺は由香がいることが心配だったが、今はそれを躊躇っている余裕はない。
いきなり・・・・・・・・・50%だ!!
俺は意識する。能力を発動するために。
血液の流れが急激に速くなる。
意識も少し朦朧としてきている。さすがに50%でもやべえか・・・。
俺はほとんど無意識のまま、スコーピオンに襲い掛かる。
いち早く気付いた毒島が大声で叫ぶも、それはもう遅い。俺はスコーピオンの頬に固く握り締めた拳をぶつけた。
「・・・・・ぅぅらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
スコーピオンをブッ飛ばした俺は思わず雄たけびを上げてしまう。
「・・・くっ、毒島ぁ!!」
教室の端まで飛ばされたスコーピオンが大きく叫びをあげた。
その直後だ。自分の代わりを多くな円が取り囲んでいる。
どうやらまた毒島の星術らしい。
「捕縛性星術式!」
動こうとしても、一歩も動くことが出来ない。
これが、星術か・・・。
「今だぁぁ!!」
スコーピオンは恐ろしい形相でこちらを見ながら叫び、その禍々しい尻尾をこちらに目掛けてくる。
俺は全身の筋肉に力を集中させる。
この程度の捕縛術。力ずくで・・・・・・・・。
「う、嘘だ、ろ・・・・・・!?」
俺の行動に、スコーピオンの相方、毒島裕太が驚いたような表情でこちらを見ている。
それもそのはずだ。今俺は、力づくでやつの捕縛性星術式を打ち砕いたのだから――――――。
「でも、逃げるのは無理だったみてぇだなぁ・・・・・」
そんな驚いたような毒島とは取って代わってにやりと余裕めいた笑みを浮かべるスコーピオン。
俺の肩に、ぶすりと・・・・・・・巨大な蠍の尻尾が刺さってしまっていたのだ。
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これが・・・・・星霊なのか・・・っ!?
俺は正直驚きが隠せなかった。今の捕縛術は、俺が今まで解読した中で一番最高級の星術なのに・・・。
これはさすがの星霊にも有効なのは、スコーピオンを使って実験済み。
なのに・・・・・なのに・・・・・・・あんなに簡単に・・・・・・っ!!!!!
そう驚いていると、なぜかレオンが倒れこんでしまう。
はっ・・・・そうか、スコーピオンがついにやったんだ。
最強の毒感染。注入毒を。
これは毒を毒で生成している。つまりは純度100%のもの。
発射毒は外に出た時点で酸化が起こり、純度では100%にはならない。
ほかにもスコーピオンの毒を感染させる方法はいくつもある。
酸素と生成する空気毒。物質に塗る、または体内の毒を汗の要領で身体の一部に出しておく塗装式毒
それと、血を固めて作った針に毒を含ませておく注射式毒。
毒は強力な毒ほど保存が効かないもので、外に出した直後にダメになる。
注射式毒も、空気毒も、そうならないために結局は威力の弱い毒を生成し、使用している。
ってスコーピオンが言ってた。この能力、強力だけど生成するのに時間が掛かったり、毒にはそれぞれ相性があって
間違った使用法をすれば無駄になるし、毒をいくつも身体に置いていたら自分が毒にやられるらしい。
ああ見えて、実は結構神経の使う能力を扱うほど、マメなやつなのだ。
そんな彼の最強の毒は、その尻尾を刺して直接注入する毒。
それは、彼の尻尾の中でずっと生成してきている。彼の最強の毒を熟成させていっている。
彼は、毒のストックは最大三種類しか体内に置けないらしい。
そのストックをひとつ犠牲にしてでも置いておきたい毒。
相手が動けなくなり、体内を蠍が這うように苦しくなり、数分すればノックダウン。ってなものだ。
「よっしゃぁ!!バルにレオン。二人とも殺っちまいそうだぜぇ!!」
高笑いしているスコーピオンに、僕はそそくさと近づいていく。
(・・・・・・神崎さんもいっそのこと・・・・)
僕は心苦しく彼女を見つめる。
彼女は絶望して言葉が出ないようで、目を見開いてレオンを見ている。
その目には、涙を流してしまっていた。
この顔を見ていると、この子も乙女座の占い師同様催眠星術で気を失わせたほうがいいのだろうか・・・・・・。
「スコーピオン!本当にやったのかぁ?」
「あぁ?まあ・・・・・運だな。あの毒は最強だが、時間は多種多様。効いてくる時間がわかんねえのが損だ。
だからこそ、お前にはなんとか邪魔していってくれたら助かるってなわけだ・・・・」
「あ、あぁ・・・だけどあの術を何回も使うとなると、供給しているお前にも負担が・・・」
「あぁいい。俺はちょーっち天辺取りたい気分になっちまったぜ。ここで二人倒せたら後は身を隠せばいいだろ?」
「わ、わかった」
そういわれ、僕は本を開き、呪文を唱える。
簡単な星術はスコーピオンによって供給された力を体内でうまくコントロールすればそれだけで出来る。
僕は「星鳥」と呼んでいる線で出来た鳥はもう呪文を唱えずに放つことが出来るようになっていた。
けれど、さっきも使った「捕縛式星術」はまったく持って別だ。
使う力もかなり必要だし、精神に掛かる負担も物凄い。
僕は淡々と本に書かれている呪文を唱えていく。
僕の目の前にはもう見慣れてしまった円形の星術式が浮かび上がってきている。
これをもうひとつ・・・・・・・・。
僕は頭が痛くなってくる。身体も急激に疲れが走る。
精神的に・・・・疲れてきちゃうな・・・。
「・・・・・よしっ!出来たぁ!!!」
僕はその二つの星術式を発動する。
さっきよりも綿密に、濃厚に力を使って構築したんだ。毒で苦しんでいるレオンにもこれは解けまい。
「・・・・・はぁ、はぁ・・・・・」
「だ、大丈夫か?裕太??」
「う、うん・・・。流石に、3つの星術を発動して、しかもその二つは精神力を使う。そりゃ疲れるよ」
「だったら・・・・・・すぐに毒が回るのを祈るしかねえな」
そんなときだった。
「・・・・・・100%」
そんな小さな呟きが聞こえた。
その直後、僕はまるで近くで大嵐が起きているかのような風圧が襲い掛かってきていた。
そして、自分の身体に負担をかけていた何かが、少し・・・・・楽になった気がした。
「あ・・・・・・・」
僕は思わず絶句してしまった。
目の前には見ていて恐ろしくなるほど不気味に起き上がってくるレオン。
その笑みは無邪気な子供のようで、その笑みが逆に・・・・・・猛獣に襲われる前のような恐怖心を抱かせる。
「お、おいおい・・・・いくらいつ効くかわかんねえ毒って言っても、
注入した直後に動けなくなるほど致命傷になるのに・・・・、あのやろうっ!!!」
僕は怯えるように目を見開く。
「レ、レオン・・・・・?」
そんな声が聞こえる。神崎さんだ。
どうやらこの状況は彼女もまったくもって予想外だったのだろう。
その笑みからは涎が垂れていて、こちらをまるで喰らう獣のように、鋭く睨んでいた。
初めてあったときとはまるで別人・・・・・・いや、人でもない。あれは獣だ。
「がるらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
身体を高らかに広げ、思わずしりもちをついてしまいそうになるぐらい大声で咆えるレオン。
僕たちは、呼んではいけない猛獣の鎖を、断ち切ってしまったように感じた―――――――――。
☆
・・・・なんなんだ。この毒は。
俺は苦しくて身体が動かない状態で、禍々しさすら感じさせるほど不快な何かを感じていた。
この・・・体内を大量の小さな蠍が這っているかのような痛みと気味悪さ。これがやつの毒の正体か。
しかも気のせいか、こいつら・・・・・・・着々と心臓に近づいていってやがる。
この毒・・・・確かに強力すぎる。
この蠍のような感覚、この痛みでまず俺たちは動きにくい。
そしてじわじわと痛めつけながら、その毒は心臓に向かって生き物のように侵食していく。
くっそ・・・・・意識もだんだん朦朧としてきやがった。
脳に侵食してきやがったな・・・。
悩んでる暇なんて、これっぽっちもねぇってことかよ・・・・・・・。
(あなたは生きるの。レオン・・・。私を護るんでしょ?)
朦朧としている意識の中、走馬灯のように何かが映像のように浮かび上がる。
長い黒髪に、白いワンピース。被っている白い帽子のせいで、彼女の顔は見えない。
服も帽子も白で統一しているせいか、彼女のそのすらりと伸びている綺麗な黒髪がより一層際立った。
その映像が浮かび上がり、俺は自分がやろうとしていたことに、否定する。
けれど・・・今はそれどころじゃない。このままじゃあ俺も死ぬ。
生き物というのは全員エゴの塊だ。ほら、死にそうになった途端、自分を死なせないようにする本能が顔を出す。
(悪い・・・。俺は同じ過ちを起こしてしまう。許してくれ――――――早苗――――)
俺は最後にその言葉を心の中で呟く。
「・・・・・・100%」
この時点で、俺は意識がなかったに等しかった。
その言葉の瞬間。俺の身体の血液は急激に流れを加速させ、筋肉の膨張と収縮を繰り返す。
髪が少し逆立ってしまい、爪もやや伸びていく。そして、体内にあった蠍は・・・・・・全滅した。
俺の能力「エンジェル・イーター」がついに、発動してしまった―――――――――。
--------------------------------------------------------------------------------
恐ろしい咆哮が響き渡った教室内。
目の前にいるのは、スコーピオン以上に禍々しく恐れを纏っている獅子座のレオンの姿。
もはや・・・・・・・・ただの獣。
「ぐるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
あれじゃあまるで犬だ。
そしてその鋭くて恐怖を与える瞳は、僕を捕らえていた。
その直後だった―――――。
「――――っ!?」
僕のほうを見ていたはずだ。完全に僕を睨んでいたはずだ。
今の一瞬。僕の視界からレオンが消えてしまう。
その瞬間に何かがぶつかり合うような大きな轟音が響き渡った。
見ていると、驚いた顔でレオンの拳を両腕を立てのようにして防いでいるスコーピオンの姿。
その直後、レオンは力まかせに止められた拳を振りかぶる。力が強すぎたのか、
スコーピオンはそのまま教室の壁まで吹き飛ばされてしまう。
「・・バゥ!!!」
しかも、その壁に倒れているスコーピオン目掛けてレオンは瞬間移動のごとく、倒れている彼に突進する。
土煙が教室中に充満する。
ときどき見えるのはレオンの腕。
引いては煙に消え、引いては消えを繰り返す。どうやらたこ殴りをしているようだった。
「スコーピオンっ!!」
俺は「星鳥」を五匹生成し、レオンに突撃させ、彼の四肢を絞めあげた。
土煙が消える。そこにはまるで餌を無理にでも喰ってやろうとする
ライオンのように牙をむき出しで、スコーピオンにより詰めようとしている
レオンが僕の「星鳥」が鎖のように彼を押さえていた。
「ぐるらぁ!!!!」
「――――っ!?」
僕の「星鳥」が力を踏ん張ったレオンによって全て潰されてしまう。
僕は次の標的にさせるんじゃないかと瞼を閉じてしまう。
けれど攻撃がこない。
目を開くと、スコーピオンが隙を見て一矢報いたようだった。
それによりレオンの標的は再びスコーピオンへと映る。
「・・・ん、これは・・・」
猛獣にボコボコにされているスコーピオンの戦いを見ながら
僕はあることに気付き、思わず呟いてしまう。
おかしい、なんで・・・・なんで星の力がこんなに充満しているんだ?
普通は星霊の体内を血液のように流れているものだ。
僕はそれをスコーピオンから供給を受けているから僕もその感覚はわかる。
だからこそ、こんな外に空気みたいに流れているのは、明らかにおかしいのだ。
「ま、まさか・・・」
僕は恐る恐る、レオンのほうを見る。
僕はまた彼に驚いてしまった。
彼の体内から、星の力が垂れ流しになっているのだ。
いや、垂れ流しているんじゃない。これはこぼれてしまっているんだ。
あまりに大きすぎる星の力に、身体とが要領オーバーなんだ。
それほど彼の力が絶大なのだと僕は悟った。
「・・・ぐるぅぅぅぅ」
そう威嚇のような声を上げながらふらぁーっと立ち上がる。
彼の足元には悲惨に倒れているスコーピオンの姿だった。
彼が消滅していないということはまだ生きてはいるってことだけど・・・。
そんなとき、レオンは首をぐりぐりを回している。まるで次の標的を探しているかのように――――――。
そして首はある場所でピタっと止まる。
「―――――っ!?」
おいおいマジかよっ!!
僕は慌てて本を開く。
レオンはそんな僕を待ってくれず、見つけた標的に向かって突進する―――――――。
--------------------------------------------------------------------------------
あれが本当に・・・・レオンなの?
縛られた状態であたしは寝転びながらずっとこの戦いを見守ってきていた。
レオンが何かを呟いた瞬間。まるで理性を失ったかのように暴れだし、スコーピオンを圧倒していた。
本当に、凶暴で、残虐で、非道で、人がするような攻撃じゃなかった。
いや、攻撃でもない。あれはただの狩りだ。獲物を喰らおうとする獣の動き。
そんな彼は、失神しているスコーピオンを捨てるように地面に投げた。
すると、疲れたかのように首をぐりぐりと回し始める。どうしたのだろう?
すると突然、こちらを見てくる。いつものレオンとは似ても似つかない顔。
今のあたしは、動物園の檻の中に一人何も持たずに入って、腹の空かせているライオンと共にいるようなものだ。
今のレオンはの目はそんなライオンと・・・・・まったく同じ目をしている。
「ぐらぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「―――――――っ!?」
そのとき、レオンは物凄い勢いであたしのほうに向かって突進してきた。
嘘っ!?あたしあんたのパートナーだよっ!?どうしたのっ!!
「ねえ!レオンっ!!」
あたしは叫ぶ。けれど、レオンの耳にあたしの言葉は届いていない。猛獣のごとくあたしに向かってくる。
(だ、だめ――――)
あたしは怖くなって瞼を閉じる。
目をあけると、透明な分厚いガラスのような壁が三重ほどにあたしの目の前にあった。
「はぁ・・・はぁ・・・舌噛みそうだったよ・・・」
そんな声がしてみてみると、毒島くんが息を荒くして、本を開いていた。
どうやら彼の目の前にある大きな壁は、彼が呪文を提唱し
あたしを護るために、毒島くんが出してくれたものなのだろう。
レオンはそれを快く思わなかったのか、標的があたしから毒島くんに変わる。
「やってやるっ!!」
そういった毒島くんの言葉が合図になり、レオンが突進してくる。
その直後毒島くんは、自分の前にあたしに出したのと同じ壁をいくつも召喚する。
さらに彼の背後にはまたあの鳥が大量に召喚されていた。
「突撃っ!!」
その鳥の大群がレオンに向かって次々と放たれる。
それはまるでミサイルのようだった。
「よしっ!お前が垂れ流しにしてる力、存分に利用させてもらうっ!!!」
さらに毒島くんはそういうと、あたしには理解できない呪文を唱え始めた。
すると、レオンの足元に大きな魔方陣のようなものが出てくる。
そして鳥をさらに召喚し、次々とミサイルのように放ってきている。
「はぁ・・・はぁ・・・・」
流石に疲れたのか、息がだんだん荒くなってきている毒島くん。
彼も力尽きたのか、猛攻撃が終わりレオンの様子を窺っていた。
「そ、そんな・・・」
彼はさらに怯えてしまった。
レオンは確かに傷だらけだが、それで動けなくなっているわけではなかった。
レオンは毒島くんの作った壁をほとんど破壊しており、もう既に最後の壁も潰しに掛かっていた。
「くそっ!!どうなってるんだ!」
そのまま最後の壁が砕かれる。毒島くんの心臓に向かって手を伸ばしている。
「・・・ったく!世話かけさせてんじゃねえぞ!!」
そんな言葉が聞こえる。
見てみると、レオンの腕が腹部に貫通したスコーピオンの姿があった。
「す、スコーピ・・・オン?」
「くっそぉ・・・・こりゃもう限界だわぁ・・・・ほら、消えかかってる」
そういってスコーピオンはレオンをぶん殴って吹っ飛ばした後、自分の腕を見る。
やや光りかけてしまっていたのだ。
「くっそぉー最悪の負け方じゃねえかぁ・・・・・確かに強いぜレオンのやろう。完敗だ。」
そういってスコーピオンは見る見る光に包まれて消えていってしまう。
「あばよ・・・・裕太。」
そういって、彼はうっすらと消えかかる。
どんどん彼の存在は薄くなっていき、最後にすぅーっと消えていってしまった。
しかし、レオンはいまも肉を貪るように、再び毒島くんに襲い掛かる。
「しまっ――。スコーピオンがいないから星術が――――――」
あたしは自分を縛っていたものがなくなったのに気がつくと、すぐさま立ち上がり、走って向かった。レオンの元へ
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くそっ!!くそっ!!どうしようもねぇじゃねえか!!!
僕は絶望のまま冷や汗を垂れ流す。
僕ももう死ぬのか。この年で、くそっ!!せめて彼女でも欲しかったなぁ!!!
そんな後悔が走馬灯のように流れてくる。僕は己の死を悟った。
しかし、その悟りはすぐさま否定されてしまう。
もう僕はレオンに腕を貫通されてしまっているはずなのに・・・それがなかったからだ。
「・・・・・・・・・あ、あぁ・・・・」
僕は思わず涙を流す。
レオンの腕は僕の身体を貫かなかった。
代わりに、僕とレオンの間に入り込んだ神崎さんの肩を貫いた。
「レオンっ!!目を覚ましてっ!!!!」
神崎さんは痛みに耐えた声で未だ暴走するレオンに言った。
レオンはそのまま腕を回し、貫いた神崎さんの肩を抉る。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
神崎さんの悲鳴が教室中に響き渡る。
「レオンっ!!いい加減にしないと怒るよ!!」
顔を歪ませながら、まるでおいたをした
犬をしかるように言った神崎さんの目には涙。肩からは大量の血が流れていた。
「レオン!!!あんたはあたしを護るんでしょ!!!!!」
神崎さんは涙を流しながら、レオンに怒鳴りつけた。
その直後、レオンの目つきが、徐々に変わったような気がした。
元の、僕が初めて彼を見たときの彼の顔に代わって言った。
その直後、レオンは全てを出し切った後のように、ぐったりと倒れてしまう。
それを、優しく包みこむ神崎さんも、そのまま流れ込むように倒れる。
「・・・・・・・・あ。」
その顔を見た直後、僕は自分も消えかかっていることに気付く。
そうか・・・・・これがキャンサーのマスターのときの記憶改竄のための消去か。
「神崎さん。僕もそろそろ・・・・・ゲームオーバーみたい。」
「ぶ、毒島・・・・くん?」
「はぁ、僕の魔法使いという役職のRPGはここまでってことか。最初のボスからチートすぎるっつの・・・」
そして僕は、レオンの下敷き状態になっている神崎さんに手を翳した。
スコーピオンが供給してくれた星の力と、ここに充満している星の力が・・・・少しだけ残っている。
僕は精神を集中させて、己の身体にある力を一点に集める。
「・・・・・これで、その重症はなんとかなるよ。完治は出来なかったから病院にはいかないといけないけど」
そう、僕は最後に微かに残った星の力で「治癒性星術」を使用した。
彼女の傷口が少しずつ塞がれていく、彼女はそのまま疲れてしまったのか・・・・・気を失ってしまっていた。
これで抉られた神崎さんの腕も、少しはマシになっただろう。
「・・・・・・楽しかったなぁ・・・」
思い出すのはスコーピオンとゲームをした日々。
星術を次々と実験した日々。あぁ・・・・楽しかったぁ・・・。
「じゃあね、神崎さん・・・っつってもまたクラスメイトとして会うのか。」
そう微笑んで、僕は最後に腕がもう透明になっているのを気付く。
そのまま僕、毒島裕太とその星霊、蠍座のスコーピオンは―――――――――――消滅した。
☆
・・・・・・くっそ、ものすごくめんどくさいことになった。
あたし、バルは目の前の光景を見ながら舌打ちをした。
(見たくないもん・・・・見ちまったな・・・)
バルは思い出す。つい数年前の年間星座占いを。
そのときもバルはこのように、レオンと・・・・・あのときはサジタリウスだっただろうか?
あたしは様子を見るために陰でその戦いを見守っていた。
そういえばあのときも、レオンは可愛いパートナーを引き連れていたかな。
そうだ・・・あの年からだ。レオンが自堕落になっていってしまったのは。
サジタリウスとの戦いの中レオンは、
そのパートナーの言葉とともに今見ているような強大なエネルギーを発していた。
その後の彼は、まるで化け物のようだった。
あのサジタリウスもまったく歯が立たなかった。そのことに対してあたしは酷く驚いたのを今でも忘れない。
「やあ、こんなところで会うとは奇遇だね♪乙女座さん♪♪」
そしてそのときに私は羊座のエリーに見つかり、不意打ちの形で消滅させられたんだっけ・・・。
その後、あたしは腑抜けたレオンを見て、不快な思いをし、それ以降あいつのことはだいっきらいだ。
今再び、彼女はそんなレオンの姿を見た。
あれがレオンの能力なのだ・・・・とバルは悟っていた。
そして、あのときの光景を思い出す。・・・・・・・ここは危ない。と。
(・・・・・う、動ける。あのガキの術が弱まったんだな)
あたしは無理やり、毒島というガキの星霊術を破壊する。
(・・・とりあえず、退散っと)
そしてあたしはそのまま、気絶してしまっているミューを抱えて気付かれぬように教室を出る。
この断片空間はこの学校全土にわたっているはずだ。電車のときもそうだが、狭い地域に断片空間を作るのは
とても難しい、雑に大きく作ったほうが楽なのだ。毒島がどれほど器用だろうと、教室一個分の空間は作れないだろう
「・・・・くっそ・・・」
あたしは思わず呟いてしまう。
身体中を蝕む蠍の大群。実際にはそんなものはいないはずなのだが、それが身体の血液を流れているようで
今にも倒れてしまいそうな悪寒と苦痛に見舞われる。しかも気のせいか、この蠍・・・・・心臓部分に向かっている。
「は、早めにバレない場所に移動しないといけない・・・・わね」
そのままあたしは廊下を千鳥足で歩き続ける。
遠くでは化け物が暴れまわる音。
あたしは・・・・・逃げたのだ。あの恐怖に、だからあいつは・・・・・・・・・大嫌い。
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(なあ?気分よかっただろ??本能に身を任せるのは、これで二度目か?)
やめろ。やめてくれ。
(前のんで懲りたっぽかったのに結局使ったよなぁ?しかも・・・・またやっちまってよぉ)
やめろって言ってんだろ!!!
(やめろってなんだよ。俺はお前だぜ?お前がやめようと思えば俺は消える。)
じゃあ早く消えてくれ!!頼むから・・・・。
(・・・へいへい、まあ・・・・煙草と一緒だ。一度使ったら最後、お前は俺を求め続ける。まあ頑張るんだな。)
・・・・・・消えたか。
どこからだろうか、あまり覚えていない。
断片的な記憶。いっそのことその断片すら覚えていないほうが楽なのに。
俺は確かに使った。禁術を、自ら使うのはやめようと思っていたのに、そのために戦いを避けていたのに。
使った俺は暴れだして、スコーピオンを圧倒した。
そして次にそのマスターを狙った。そしたら―――――――――。
「・・・・はっ!!!」
俺は息を荒くしながら目が覚める。
いたのは夜の校舎だった。席は普段通りに整えられている。そして――――。
「由香ぁ!!!!」
目の前には倒れている神崎由香の姿がある。肩から血を流していた痕跡があり、目を覚まさない。
そうだ・・・・・・俺は最後に、由香を・・・・・・・攻撃したんだ。
俺は動揺を隠せずに目が泳ぐ。そのまま力が抜けるように座り込んでしまう。
「はは・・・・・これじゃあ・・・・・・・・・前と一緒じゃねえかよ・・・・・・・・・・」
俺は思わず狂気じみた笑みを浮かべながら倒れている由香をただただ見ていた。
もうどうにも出来なかった。俺は呆然とそこにいるだけだった。
全てが抜けたような気分だった。もう・・・・どうとでもなってくれたらいいのにと思った。
「・・・・はぁ、何ぼさっとしてんのよ!レオンっ!!!」
そんなとき、声がした。
振り返るとそこには不機嫌そうに頬を膨らましているバルと少し怯えた様子でバルを盾にこちらを見ている少女
たしか・・・・・・加賀美優だっただろうか?
そんなことよりなぜここにバルがいる??
「はぁ・・・・あんたのそういう顔、ほんっとだいっきらい!!」
「・・・・そうか。」
俺は今バルと口喧嘩をする元気がなく、素っ気無い答えを出す。
するとバルはさらに不機嫌そうに頬を膨らませ、こちらを睨んでいる。
そのまま不機嫌な顔のまま、バルは腕を伸びるところまで横に伸ばす。
すると突然手が光出し、そこから大きなハープが出てくる。その一瞬で、彼女の格好も、絵画に出てくる女神のような
真っ白修道服のようなものを身に纏っていた。
「はぁ・・・」
彼女はそう溜め息を吐いて、その長くて細い指で自分の髪を掻き分ける。
その流れるようにその手は、ハープの弦に向かい、美しい音色を奏でた。
ハープを演奏している彼女は、先ほどの機嫌の悪い顔とは相対的な母性すら感じる優しげな微笑みを浮かべてる。
まるで心が洗われるかのようなその音色は、俺の心の罪悪感を払いのけ、自然と身体の痛みが消えていく。
「・・・・・今回だけよ。あんたのマスターが死んだらミューが悲しむしね。
腹いせに完治にはしてない。すぐに病院にでも連絡することね。いくよミュー」
さっきまでの微笑みはどこへ消えたのか、また人をさげすむような目つきに変わるバル。
「え?う、うん・・・・。あ、あのレオン、さん。由香ちゃんのことお願いしますね」
そう別れの告げ、乙女座のバルとそのパートナー加賀美優は去っていった。
とりあえず、病院に電話しよう。
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「・・・神倉。食事が出来たぞ」
「ん・・・・ありがとう。カプリコ」
大きなテーブル。とても大きな屋敷のようだ。
そのテーブルの椅子に座り、ノートパソコンを弄っている少女と、彼女の食事を出したスーツ姿の男が一人。
「ん・・・・。カプリコ。これを見て」
「ん?どうしたのだ??」
少女はノートパソコンに映った映像を見て何かに気付き、それをカプリコに教える。
「・・・・・スコーピオンのマスターにつけておいたセンサーの反応が・・・・消えた」
「センサー?」
「うん。念のために、場所は特定できないけど、生存確認が出来るようにセンサーを仕掛けてたんだけど・・・・・・・」
「それが消えている。と」
カプリコの言葉に、少女は静かにコクリと頷く。
「蟹座のキャンサー、みずがめ座のエリア、そして蠍座のスコーピオンが脱落・・・か」
カプリコが一人で話している間に、少女は出されたフォアグラのステーキを静かに口に運んだ。
「慎重さが必要だが、少し積極的に動かなければいけないかも知れんな」
「・・・・そうだね。」
「となると当面の目標は・・・・・・」
「・・・・・・FISHBOY」
カプリコの言葉に続くように、少女は静かに呟いた。
FISHBOYとは、最近巷を騒がせている謎の正義の味方(?)である。
水瓶座のエリア。彼女がどうやらそのFISHBOYにやられたらしい。となると相手も当然「占い師と星霊」となる。
「神倉。少し時間を貰う。」
「どうするの?」
「FISHBOYとやらを直接探す。正体もわからぬ相手がこの町を蔓延っているとなれば、警戒せねばならんのでな。
今一番行動的なのは彼ともう一人・・・・・・・・」
「うん。獅子座のレオン。だよね」
「左様。だから神倉にはそちらを監視しておいてほしい。もちろん攻撃はするな。
キャンサーやスコーピオンを見て学べ。迂闊な攻撃は自らを滅ぼす。」
「言われなくても私は闘えない。」
「・・・ふっ、それもそうか」
そういって、カプリコは微笑しながら彼女に背を向け、その大きな部屋の扉を開けて、去っていった。
「・・・・・よし。」
少女はカプリコが去ったのを確認すると、再びノートパソコンのキーボードを打ち続ける。
彼女こそが、山羊座の占い師であり、この戦場下においてもっとも情報量を誇っているとされる少女。
彼女の名を――――――神倉雪音と言った。
スコーピオンと毒島くんも好きなキャラです(個人的に)
今回は「星術」やレオンの能力などなど今後につながるものを書いたつもりです
感想よろしくおねがいいたします^^