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三章・上「正義の海援戦士」

キャンサーとの闘いが終わって数日後。

街には噂が飛び交っていた。

なんでも、この街に「ヒーロー」が現れたとか。

そしてそれと同時に巧妙な「スリ犯」が出没する。

彼は動く、正義のために。そして、「順位」をあげるため。



彼の名を「海援戦士・FISHBOY」と言った―――――――――――。



「…くそっ!!」

一人の男が夜の街中を逃げ回る。

ひどく整った顔をしている青年だ。

ホストなどにいそうなほどその顔は妖艶で甘いマスクをしている。

手に握っているのは女の腕、とても綺麗な女性だ。

みずいろのツインテールに

派手なモデルのような衣装。

へそが出るぐらいの長さしかない服にミニスカートとハイソックス、

それを大きなジャンバーで覆われているというコーデである。

男物のジャンバーなのか、ぶかぶかに見えてそれはひどく可愛らしく見えた。



「無駄だよ。」

その二人組みを追いかける男。

不思議なことに、ビルからビルへ、壁から壁へ起用に走り回る。

息を荒くし、冬の街を逃走する二人は寒さのせいで汗も掻かないが、追い込まれていた。

「…さ、行き止まりだ。」

逃げている二人の足が止まる。目の前には壁。行き止まりだ。

彼らは仕方なく追いかけている男のほうを振り返る。

男は大学生ぐらいの年だろうか、いたって普通の好青年に見える。

しかし、その周りが異常なのだ。

彼の周りにはまるで彼を地軸として

星が回っているかのように円を描いて魚が二匹、浮遊している。

「……水瓶座の占い師、水島海徒。と、その星霊アクエリアス…だよね?」

「…てめえ、やっぱ……占い関係者か!!!」

追い込まれた男は彼を睨みながら言った。

「あぁ、僕の名は……」

すると、そこで言葉を止める男。

突然足を広げ、手を広げ、まるでヒーローの変身ポーズを連想するような動きをする。

「海援戦士!FISHBOY!!」

決めポーズを決めながら、高らかに叫ぶ青年。

「「………は?」」

水島海徒とアクエリアスは呆然と口を開け、完全にシャットダウンしてしまった。

その光景はあまりにもシュールだからだ。

目の前の20近い青年が、

自分達をここまで追い込んだ青年が目の前で子どもからしたらかっこいいだろうが、

大人には理解しがたいヒーローポーズでどや顔をしているのだから。

またそれがヒーロー顔ならまだいい。

彼は「戦士」と言うよりは「騎士」や「賢者」と言う職業のほうが合うような爽やかな顔をしていて

クールな風貌なのだ………。

少なくとも、ヒーローのポーズをなんの恥ずかしげもやるようなバカには見えない風貌なのだ。

はっきり言って、自分達はこんなやつに今追い込まれているのか。とばかばかしくなってしまう

「お前達の悪事は既に見抜いている。

 最近多発している若い男女から金を巻き上げてるのは、お前達の仕業だろ?」

「「…………」」

不敵な笑みを浮かべながら二人に人差し指を突きつけるFISHBOY。



最近。多発していた若い男女が金を奪われると言う事件。

しかしそれは大きな事件にはならない。言うなれば上手いスリみたいな犯行。

男の方の証言はこう。

「可愛い女の子に声かけられてちょっと話して飲んで帰ったら金がなかった」

女性の証言はこう。

「イケメンに声掛けられてー二人で飲んでたら帰りに「僕が払うから」と言って店員に金渡して

 帰っちゃったんだよね。それで気分よくして帰ったら財布がなかった」

男女ともに同じ証言なのだ。

これは「スリ」と言うことで警察は調査に出てきたが、犯人はなかなか見つからない。

理由としては「酔っていて顔を覚えていない」と言うものだ。

おそらく誘って、酒を飲ませて、ほろよいの時に財布を奪い、記憶を抹消したのだろう。

また被害者はこういう「まああんな可愛い子と楽しく飲めたし、もう盗まれてもいっか」

「あんなイケメンと二人きりで飲めるなんてなかなかないわ。

それにあたしの悩みも親身に聞いてくれたし!!」 などと被害者が「被害」に大して

あまり固執していないのがこの事件の一番の難問。

警察は「とりあえず搜索」程度にしかことを運ばなく、未だに犯人の目星すら付いていない。



「…どうだい?答えて見てよ。お二人さん」

FISHBOYと名乗る男は一歩、また一歩と近づいて語りかける。

「……エリア!!」

「うんっ!!」

近づいてくるFISHBOYに慌て恐怖したのか、海徒は慌てるようにアクエリアスに命令をする。

具体的に何をしろと言われたわけではないのにアクエリアスは大量の水を生成し、

それを津波のようにして、FISHBOYに襲いかかる。

「バカだなぁ…」

FISHBOYはただただそうつぶやく。

その直後、彼の周囲を浮遊していた魚の一匹がFISHBOYの合図と共に自在に舞う。

そして、波を切り刻み、ただと水と化して、その場だけの小さな雨を降らす。

「水より柔なるものはない。と言うけれど、僕には水をも裂くことができる。こうしてね」

そういうと、水を裂いていた魚はFISHBOYの腕の周りを泳ぐようにして戻っていく。

「くそっ!くそっ!!くそっ!!!」

アクエリアスは特大の水を作りだし、まるで龍のように水がFISHBOYめがけて放たれる。



しかしそれはFISHBOYの近くで右折左折し、まるで彼を囲むように移動する。

「…クラッチ!!」

その瞬間。水の龍は一気に彼に襲い掛かり、彼は水の球体に飲み込まれる。

「…これで息はできない!!今のうちだよ海徒!!」

「おうっ!!」

そういって二人は壁をよじ登り、逃げていく。

しかし、そんな時間はなかった。切断されたあとのようなものがいくつか現れる。

そしてその水は

まるで風船が破裂するように四方へ飛び散り、あたりを水しぶきでいっぱいにした。

「ふぅー助かったよ。スィー…。ありがとう。」

二人は驚愕する。

「エリアっ!!」

慌てて海徒は落ちている鉄の棒を広い、近くの水道を強く叩く。

その水道は破裂し、大量の水を放出した。

「ありがとう海徒!!これで戦える!!!」

するとその放出された水は彼女の周辺に集まる。その真ん中で優雅に構える彼女は

まるで湖で踊る美しい女神のようだった。

手の合図とともに蛇のように水がFISHBOYに襲いかかる。

彼はそれを軽やかなステップで躱し続ける。

さながらダンスをしているようなぐらい汗一つ流さずに。

アクエリアスの顔に焦りの汗が流れ始める。

「…どうして…どうして……」

「どうしたんだエリア?」

海徒がぼやいているエリアの横に立ち、質問した。

「あいつ……星霊じゃない。」

「……はぁ?」

「あんな奴はいなかった!なのにどうしてあたしの水龍を躱せるのよっ!!」

焦りからくるいらだちでそう叫び、水龍を四体同時に放つ彼女。

FISHBOYは躱すことは不可能かと思い、上空に飛び出す。常人には不可能な高さだ。

けれど水龍はそのまま上空にいる彼を追って這い上がる。

彼はその水龍を全て、身を浮遊している二匹の魚で切断した。

彼が地面に着地したとき、当たりには雨のように水が降りはじめる。

「だから言ったでしょ?水は無駄だって」

「……エリアっ!!」

すると、海徒は慌てた様子でエリアに抱きついた。

「えっ!?…海徒!?」

「俺たちの愛がこんなところで終わってたまるかよっ!!」

そういって海徒はエリアの唇に自身の唇を合わせる。

最初は驚いた様子のエリアだが、その表情は次第に柔らかいものになっていく。

「…狂歌水月♥」

キスを終えたエリアは皮膚がみるみると溶けていき、次第に大きな水の塊と化す。

さらに、濡れていた地面が急に乾き始める。

地面の水が水と化した彼女に集まっているのだ。

「これで…終わりよっ!!」

それでもFISHBOYは悠然とした顔で襲いかかるエリアを見つめる。

「君たちは、悪事を働きすぎた―――――――」



その直後、水と化したエリアは何かをされたのを感じる。

そして水から元の姿に戻ってしまう。体中に傷口が無数にある。

「エリアっ!!!」

海徒は慌ててエリアの元へ駆け寄る。

「…悪いね。君たちには君たちの愛、正義があるように。僕の正義は君たちを倒すことなんだ」



そういってFISHBOYの周りを浮遊する魚二匹が、エリアの腹部を「X」の文字に裂いた――――。




彼の名前は太刀風修也。

魚座の占い師。星霊名は「スィー」。またの名を「海援戦士FISHBOY」





--------------------------------------------------------------------------------




「…と、言うことなの。最近騒ぎになっていた。

 「スリ事件」の犯人がなにものかにやられた。…「FISHBOY」よ。」

大きな部屋。

そこにはドラマで見たような大きな円卓があり、そこには

複数の大人たちがノートパソコンを前に座って口論をしている。

「どちらも……私の推測だけど、星霊関係よ」

その言葉とともに、彼女の部下であろう大人たちがざわ…ざわ…と騒ぎ始める。

「みんな、このことは機密情報よ。

 我が社の成功はこの「星座占い」に掛かってる。わかったわね?以上よ」

そういうと、部下たちはぞろぞろと部屋を出ていく。

そして広い部屋には社長である彼女と、もう一人の秘書しかいなかった。



「ご苦労さま、李里香。あなたは本当によく働いてくれているわ」

「光栄です。社長」

「引き続き、占い師たちの情報をお願いね」

「…わかりました。」

「…それはそうと有力な情報ですわ♪」

「――――っ!?」

社長と二人でいると、突然リブラが現れる。

彼女はいつも突然現れるので李里香は毎回驚かされる。

「それで?なんなのリブラ?」

「聞きたいですわよね?どうしましょー」

「もったいぶらずに早く話なさい」

勿体付けるリブラの言い草に少し腹を立てたのか声色を変える社長。

「もう、玲子様は相変わらず冗談が聞きませんわ。いいでしょう。お話いたしましょう。

 まだ一ヶ月も経っていないと言うのに星霊が二体ほど、消滅しました。

 一人はキャンサー。もう一人はアクエリアスですわ。アクエリアスの方は先ほど玲子様が

 話していらっしゃった「スリ犯」と同一人物ですわ。」

「ほお、それはいい情報だな。リブラ、お前どうやってその情報を?」

「適当に散歩してたら手に入りましたわ」

「そう……」

二人が会話を繰り広げている。自分はここでは邪魔だな、と判断した李里香は一言

「失礼します。」とつぶやいてその部屋を去った。

「……はぁ」

とあるビルの廊下。

一人の女性が書類をもちながらため息を吐いて歩いていた。

彼女の名前は松原李里香。リブラのマスター、足引玲子の秘書をやっている女だ。

足引玲子は自身の会社の幹部を集め、この「星座占い」について教えた。会社の機密情報として――――。

つまりこの会社の者の少数は「星座占い」のことを知っている。

そしてそれを会社の社員共に探らせているのだ。この女性、松原李里香もその一人である。

それも彼女は一番最初に足引からこのことを知り、自分でそのことについていろいろ調べていた。

そうしなければいけない。これが「会社」という組織の上下関係なのだ。



「……ごきげんいかが?李里香ちゃん?」

「――――――っ!?」

背後からそんな声が聞こえる。

急いで後ろを振り返ると、そこには和服を着込み、大きな鈴を二つ地面まで垂らしている少女、リブラだった。

「…リブラさん。驚かさないでください……」

彼女はリブラの姿を見て、ほっと息を吐く。

「いやいや、李里香ちゃんは足引様と違って反応が面白いから好きですわ♪それで……」

そういって言葉をとめるリブラ。

彼女の目はすべてを見透かしてそうで、李里香は冷や汗が額を流れる。

「わたくしが先ほど足引さまに教えた情報。

 あれは「あなたの知識」と「わたくしの知識」を平等にしたものなのですが、

 あなたはなぜ…わたくしが言ったことを足引様に報告しなかったのですか?」

「報告しようと思ったらあなたが先に言ったからです。」

「…そうですわね。それは失礼いたしましたわ♪」

そういってどこか残念そうな表情を浮かべるリブラはそのまま李里香に背を向けて去って言った。

李里香には彼女は自分のことをすべてバレているんじゃないかと恐れてしまう。

彼女はバレてはいけない秘密がある。

それを見つかると自分の立場も危うい。そのために隠していたのだが、

彼女「リブラ」は本当に気づいていないのだろうかそのことだけがひどく気になって仕方がなかった。

「ま、気にしていても仕方ない…か」

彼女はそう溜め息を吐いて会社を出る。

あの会社は隠しカメラも多くて危険だ、あの会社の中はすべて「足引玲子」の眼中であるも同然なのだから。

彼女はそのまま自分の家に向かう。

整った顔立ちに、凛と決まったスーツを身にまとっており、

そのチャームポイントとも言える泣きぼくろとメガネが彼女をより大人っぽく艶やかに見せる。

本当に仕事のできるキャリアウーマン…と言ったような風貌で、通りすがる男たちを魅了する。

これで年齢が24歳なのだから、彼女がいかに優秀で、優れた美貌の持ち主なのかは言うまでもない。

彼女はそんな人の目を気にせずに歩き続ける。

すると大きなデザイナーズマンションにたどり着く。

その一室が彼女の家である。

彼女はエレベーターに乗り、彼女の部屋のある階で降りる。

歩いて自分の部屋に近づくにつれてなにやら騒がしいのがわかった。

彼女は「まさか…」と呟いて急いで自分の部屋に駆け込む。

鍵を開けて急いで部屋に入り、リビングの扉を開ける。

「……あんたたち!!…って…はぁ……」

彼女は溜め息を吐いてリビングの状況を見やる。

この部屋自体、4LDK以上の何坪もある豪華で広い部屋だ。

そのリビングといえばなおのこと。

しかしそのリビングが今はとても狭い。

ぴちぴちと飛び跳ねるサメ。

そこらへんを走り回る猫。そしてもう何がなんだかわからないほど物で溢れていた



「…あ!」「リリ姉だ!!」「「おかえりー」」

その真ん中で楽しそうにお互い見合っていた同じ顔立ちの子ども二人が彼女を見て

満面の笑みを浮かべながらこちらに走って寄ってくる。

「…はぁ、まったくあなたたちは…今何?」

「んー『スルメ』!!」

そう子供が言うと彼の前にスルメが突然現れる。

それを彼はうれしそうにほおばった。

「…スルメね。じゃあ〔メロン〕。」

状況を理解した李里香は溜め息を吐きながら言葉を紡いだ。

彼女がメロンと言った直後、部屋に散乱していた物体や生き物はすべて一瞬にして消えてしまった。

「あー!!攻めてスルメ食べ終わってからにしてよリリ姉!!」

さっきまでスルメを食べていた少年がしかめっ面で李里香をにらみつける。

本人は本気で起こっているのだろうが、相手が子供だからか、そのしかめっ面は怖くもなくむしろかわいらしい。

李里香はそのまま二人の少年を抱き寄せた。

「ん?」「「リリ姉?」」

二人は不思議そうに彼女に問いかける。

すると彼女はまた強く二人を抱きしめた。

「…こんな無駄なときに能力を使って社長に嗅ぎ付けられたらどうするの!

 静かにしてなさいって言ったでしょ」

「でも~」「リリ姉ー」

「でもも何もないの。あなたたちがリブラに勝てるかどうかよりも、私はリブラのマスター、社長には逆らえないの

 お願いだから…大人しくしてて……。私はあなたたちを失いたくない……」

彼女の目には少しだけ涙が流れていた。

これを街中で彼女を見かけた男たちは想像できるだろうか。いや、できるはずもない。

それほど彼女はいつも顔色ひとつ変えずにいるのだから。

「リリ姉…」「本当に…」「「ごめんなさい」」

「…わかってくれたらいいの。二人とも」

二人の言葉を聞いて、安心したのか、

先ほどまで強く抱きしめていた彼女の腕の力は弱まり、二人を優しく抱き寄せた。




--------------------------------------------------------------------------------




「…スィー、どうだった?僕の初星霊戦」

「……」

「よかった?ありがとう。君のおかげだよスィー」

「………」

「うん、これからも僕は君を上位に行かせるよ。

 僕はもしかしたらこの人生で君を待っていたかも知れないんだから」



夜の街を一望できる煙突の上。

今日初の黒星を獲得した男。太刀風修也は相棒である「スィー」と対談する。

彼はここ最近悪事を働く「犯罪者」を取り締まっているヒーロー「FISHBOY」として活躍している。

ニュースには名だけが知れ渡っており、主婦や子どもと言った一般人の人気者となっているが

誰も彼の正体を知らない。

幼いころからヒーローにあこがれていた太刀風にとってこれは優越感に浸れるかなりうれしい出来事だった。



「………」

「っ!?本当かいスィー。僕らよりも先に黒星をとったやつがいるの??誰?」

「………」

「ふーん。獅子座のレオン…か。悪いやつなの?」

「……」

「違う。か…。まあ、会ったら戦うしかないよね。僕らの敵なんだから―――――」



そう呟き、太刀風は夜の風を身に纏わす。

「やっぱりまだ…寒いな。」




「星座占い」が始まって二週間。

既にいくつもの戦いが起こり、既に二名の脱落者が出た。

これは実は過去にはない例なのだ。

今回の「星座占い」は例年より荒れている。

万年最下位の「魚座」が「水瓶座」を倒した。

常に上位の「蟹座」が無謀にも戦い、最下位になった。

そして・・・普段は奇行で自殺するリブラが自身から「一位」を目指すことにした。



このような出来事が今までの星座占いからは想像できない展開を引き起こす。





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「はぁ…明日から…か。久々のお外」

「あぁ?なんで明日は外に出るんだよ」

「だってあたし…明日から学校だもん!!」




そして、ついに学生は「冬休み」を終える。

この事実が、また新たな戦いの火種になることを私はまだ……知らない。



                   ☆




「あやちゃーっん!!!」

あたし、神埼由香は久々のお外にテンションが上がっていたこともあってか

通学路で偶然見つけたあたしの大親友の綾ちゃんに飛びついた。

「ちょっと…由香。あんたずっと引きこもってたけど大丈夫なの?」

「え、あ…うん。寒いからお外出たくなかっただけだし…」

「…本当に?」

「ほ、本当だよぉ…」

綾ちゃんに「レオン」のことは隠している。

あ、でも隠しててバレたときに「彼氏」と勘違いされちゃったらどうしよう…。

ってか完全に勘違いしちゃうよね……同棲しちゃってるわけだし…。

ま、きっとバレないだろう。あたしはそう無駄な自信を持ちながら、綾ちゃんとのトークを楽しんだ。




--------------------------------------------------------------------------------




「久々の教室ぅ~♪」

あたしはテンションを上げながら教室に入る。

もう既に懐かしいクラスメイトたちの顔がある。

「はぁ・・・一々元気だな由香」

少し呆れてあたしについていくように綾ちゃんも教室に入ってくる。

「あ、由香久しぶり~♪年末星座占い見たよー」

「あたし五位だったんだぁー」

「由香って確か獅子座だよね?八位だっけ??」

クラスの女の子たちが集まってくる。

こう見えてもあたし…人気者なのです!!

「…どいつもこいつも占いって…」

「ね!?言ったでしょ綾ちゃん。女の子は占いが大好き!!」

あたしがそういうと意見を同意してくれたようでほかの女の子たちもうんうんと頷く。

「…ちっ、すいませんね、女の子じゃなくて」

綾ちゃんは少しふてくされながら言い、自分の席に座る。

あたしも鞄を置かないと、と思い席に向かい、座る。

あたしの席は一番後ろ。だから全体がよく見える。

……と、そんなとき、何か違和感があった。

「この違和感……どっかで…」

「ん?どうしたの由香??」

「え、いや…なんでもないよぉー♪」

隣にいた綾ちゃんが不思議そうにあたしを見るのであたしはごまかした。

でもこの感覚……どこかで…。

(…ま、いっか♪)

あたしはそう思いながら、鳴り響くチャイムを心地よく聞き、

先生の冬休みはどうだったかーとか適当な話を聞いて

最初は顔合わせのようなもので、授業もほとんどないまま、学校は終わった。

「いやぁー綾ちゃん♪久々の外だし、どこか遊びに行こうよ♪」

「どこかって…カラオケとか??」

「いいねー綾ちゃんナイスアイデア!」

「……由香本当にテンション高いね…」

「うん!久々の外だもん!!」

そういって教室を出る。

すると、また…何かの感覚を感じる。

これは…一度感じたことのある感覚だ。

「おいっ、聞いたか?3組と5組に来た転校生が超可愛いらしいぞ!!!」

「あー俺3組だから見たぜ、超が五個ついても惜しくないぐらい可愛かった」

「五組のほうはなんか気強そうだけど、ああいうのってツンデレだよな、絶対!」

「お、俺…踏まれてみたいかも……」

「うっわ、お前ドMかよ、ちょっと引いたぞ」

「いやいや、お前もあの子見たら絶対そう思っちまうって!!」

廊下でなにやら下品な会話が聞こえてくる。

ほんっと男子って……。

でも、その転校生ってのには気になる…。

「あっ!由香ちゃんだぁ!!」

「――――――っ!?」

あたしは人ごみの中から聞こえる声に驚いた。

確実にあたしを呼んでいる。そして、明らかにこっちに近づいてきている。

周りの男子たちが見とれてしまっているその少女は明らかにあたしの名前を呼び、駆け寄る。

「……美優ちゃん!?」

目の前にいたのは、

ふりふりのスカートを靡かせて可愛らしい走り方でこちらに向かってくる加賀美優ちゃんだった。

ってことは五組の気の強そうな女の子って……。

「久しぶりだね。神崎」

急に後ろから殺意を感じる。

この怖さ…一度経験したことがある。

あたしは恐る恐る振り返る。

そこには、絶句してしまうほど綺麗な長い髪に、長くて細い健康的な四肢の少女がいた…。

「ば、バル…ちゃん」

あたしは少し冷や汗を掻いてしまった。

「もう!バルちゃん?由香ちゃんを脅さないの!!」

「わ、悪かったわよミュー。ちょっとしたジョークじゃない」

相変わらず美優ちゃんにはあたまが上がらないバルちゃんは少し拗ねたように言った。

「お、おいっ、転校生同士でなにやら仲良くしゃべってんぞ」

「ってかあの話かけられた子も可愛くね?」

「あーあいつは四組の神崎だよ。俺クラスメイト」

「マジかよ、あんなレベル高い子いたんだぁ…」

あれ?今さりげなくあたしの株もあがってる??

ただそういってる男子を綾ちゃんは鋭い目つきで睨んでいたせいで黙ってしまう。

どうやら…あたしの株が上がることは一生ないっぽいな……。

「んで?由香。こいつらと知り合いなの??」

綾ちゃんが気だるそうに聞いてくる。しかし顔では明らかに仲間はずれみたいで寂しいと描かれている。可愛いなぁ

「あぁーこの子たちは正月のとき、綾ちゃんが帰省してる間に知り合ったんだ♪転校生とは知らなかったけど」

「加賀美優っていいます。こちらの子は上原優香ちゃん。私と由香ちゃんはバルちゃんって呼んでるの♪」

「そ、そうか…あたしは鬼塚綾って言うんだ。よろしくな」

「うん♪こっちこそよろしくねー」

美優ちゃんは相変わらずおっとりとした調子で少し見た目が怖い(ちゃんとしたら可愛い)綾ちゃんにも動じずに接した

対する隣のバルちゃんはあたしが「獅子座」の占い師ということもあるからか、少しあたふたしてた。

なんか……普段しっかりしてそうな子がこうしてると可愛い…。

「あ!そうだ!!今から四人でカラオケ行かない!?親睦会も兼ねて!!!!」

あたしは提案する。

正直バルちゃんは怖いけど、美優ちゃんに敵意がない限りあたしに襲い掛かることはないだろう。

それに、バルちゃんも去年は三位の強者。

ここでちょっとでも近づいとけば少しはレオンの役に立つだろう…。

何より、このメンバーでカラオケ…超行きたい!!

「…いいよね?綾ちゃん?」

「私は別にいいよ。」

「私いきたーい。」

「で、でもミュー……」

やはりまだ警戒があるのか、少し悩んでる様子のバルちゃん。

「文句あるならバルちゃんは来なかったらいいんじゃない?」

プイっとバルちゃんから顔を逸らして機嫌悪そうに言う美優ちゃん。

「…わ、わかったよ!行けばいいんでしょ!行けば!!」

「じゃー決定ー!!」

あたしは高らかに宣言し、四人でカラオケ場所に向かった。



あのとき感じた違和感はきっとバルちゃんたちのものだな。とあたしは少しほっとしながら

楽しいひと時を過ごした。



けれど、その違和感の正体がバルちゃんたちじゃないことは、本当に近い日に気付くことになる。




--------------------------------------------------------------------------------





「……見つけた。」

メガネをかけた少女は一言そう呟く。

すると、学校の教室だというのに鞄からノートパソコンを取り出す。

みんなが出て行った教室で一人パソコンに目をやってる彼女はどこか現実離れしてる雰囲気があった。

彼女はキーボードを叩く。

そこにあるのは今流行の無料でチャットや会話ができるツールを開いている。

そしてそこにある「八木」と描かれたところをクリックし、一言。こう書き記した。

〔獅子座の占い師、あたしのクラスメイトだったよ。あと、たぶんだけど、乙女座もこの学校。〕

〔それは有力な情報だ。しかし、迂闊に動くな、こちらから動くことはない。〕

〔うん…わかってる。〕

〔では、今日はもう学校も終わりなのだな?早く戻ってこい。〕

〔何か急用??〕

〔いや、最近巷で噂になっているFISHBOYなるものの情報がほしくてな〕

〔わかった。帰りの電車で情報集めて帰ったころには見せれるようにしておく。〕

〔そうしていただくと心強い。〕

〔これは私のためでもあるんだもん。情報収集ぐらい朝飯前よ〕

〔そうか、ではわたしは料理でも用意して待っておくとしよう〕

そういって、「八木」と描かれたネームはログアウトした。

彼女もそれに続いてパソコンをシャットダウンし、閉じた。

少女はただ一人の教室で、パソコンを鞄にしまい、教室を後にした。




--------------------------------------------------------------------------------




「あいつだ…間違いないっ!!」

少年は一人、大きな本を片手に声を出していた。

その本を彼はいつも大事そうに持っている。

学校で使う辞書というわけではない。開いても恐らく彼以外の人間には読めないだろう。

少年は一人のクラスメイトを思い出す。

やけにテンションの高い、とても可愛らしい少女。

自分は机に顔を伏せながらその少女の顔をじっと見ていた。

間違いない。あのときにいた少女だ。

彼は確認している。レオンとバル…そしてリブラが闘ったあの場にいたのだから。

いや、正式には彼はいなかった。だが、確認はできている。

さらに、キャンサーを倒したあのときも実はちゃんと確認している。

間違いない。絶対にあの子は……「獅子座の占い師」だ。

そう思うと少年は思わず顔がにやけてしまう。

「占い師」なんといい響きなのだろう。

この言葉が通じる人間は必ず僕を認めるからだ!

彼はにはその自信があった。

(とりあえず……あいつに報告だな)

電車の中で、音楽を聴きながら彼はふと思い出したかのように言う。





そして彼は家にたどり着く。

小さなアパートで一人暮らしだ。いや…今は二人なのだが。

このアパートは元々叔父のもので、家賃を払わずに、ただで使わせてもらっている。

「……今帰ったぞ!!」

少年は力強いが、そのまだ未成年のような高い声のせいで威圧を感じない。

「あぁ?…裕太。てめぇ学校じゃなかったのか??」

すると、今度はその少年とは間逆のドスの聞いた低音ボイスが響き渡る。

そのしゃべり方も相まって恐怖を感じてしまう。

目の前にいるのは紫の髪を坊主刈りしかような頭に、見るものが怯えそうな怖い不良のような目つき

そしてそのファンキーな衣装も相まって本当にただの不良のように見える。

しかし、明らかに違う点がひとつあった。それは不気味な形をした尻尾があるのである。

「今日は顔合わせみたいなもんで午前中しかなかったんだ。スコーピオン」

「あっそ。んじゃゲームすんぞー今日はストファイで勝負だ!昨日は俺が負け越しちまったからな!!」

「はぁ…はいはい。ただその前に聞いてくれ。獅子座の占い師が見つかった」

少年の言葉にさっきまでファミコンのコントローラーを握り締め、

画面から目を離さなかったスコーピオンの耳がピクリと動いたような気がした。

「ほぉ…そりゃ、面白くなってきやがったな。どいつだ??」

「僕のクラスの可愛らしい女の子だった。間違いない」

「……レオンか。初戦の相手にゃ悪くねぇな…」

スコーピオンはいまだテレビの画面から目を離さずにそう呟く。

彼のその長くて太い尻尾からは、紫のしずくが、ぽつん…と落ちた。

その落ちた滴のついた床はしゅ~とまるで何かが焼けるかのような音を立てて溶け出す。

「あ、いっけね…わくわくしすぎて毒だしちまった」

「よだれ感覚で出すなよっ!!僕の家が溶けるじゃんか!!」

「あぁ、わりぃわりぃ…。ついな、でもあれだろ?この家なら、お前は治せるんだろ?」

「治せるからって溶かしていいってもんじゃないだろ!!ったく……」


少年は呆れたように溜め息を吐きつつも、スコーピオンの隣においてあるコントローラーを取って

テレビ画面を見つめる。お互いに好きなキャラを選んで戦いを始める。




少年は望んでいた。自分が認められるときを。

そして、神はそのチャンスを与えてくれた。

彼は恐らくもっともこの「星座占い」の「占い師」として有能だろう。




彼の名を――――――――――――――――毒島裕太と言った。



三章は「FISHBOY」の登場と、最後に出てきた「スコーピオン」の闘いで

長くなるので上下編にしました^^


もしよろしければ下もお読みください^^

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