ゾディアック・サイン 最終章『天使のオフィウクス』
天秤座のリブラ、射手座のサジタリウスが同時にリタイアし
リブラたちの闘いに巻き込まれた人達も、様々な者を抱えて終わりを噛み締める。
そして残ったのは魚座・太刀風修也と獅子座のレオン
正義のヒーローがレオンに襲いかかる!!
そして、占いが終結するとき、神崎由香が取った行動とは!?
人々の友情と愛情が巡りに巡る最終章!ついに開幕!!!!
「…はぁーあ。最後まで見てたかったのにゲームオーバーか……」
自分の身体が消滅するのを視認しながら
俺、手塚隆吾は静かに呟いた。
なんて楽しいゲームだったか…まるで走馬灯のように思い出される。
これがセーブもなしに終わっちまうなんて最悪だ。そうとも感じる。
なんだかんだでサジとの日々が楽しかったんだろう。あぁ、それだけは正直に言える。
残ったのはレオンとFISHBOY。多分俺がこっちに戻ってくる前にこの年間星座占いは終わってしまうだろう。
戻ってきてなんとか記憶を戻して最後の戦いを見守りたかったんだけど…どうやらそれも無理っぽい。
「あぁー!最高に楽しかった!!ありがとうサジタリウス!!俺はお前に感謝しかないよ!!!!」
俺は既に消えたサジに対して高らかに叫び、そのまま姿を消した……。
--------------------------------------------------------------------------------
「社長もいなくなった…。ここからがあたしの仕事だね……由香ちゃん」
結界が消えて動けるようになったあたしは、小さな声で呟いた。
「な、なぁ姉ちゃん。もしかして…手塚さんは……」
「えぇ、手塚隆吾と私の社長は相打ちになったのよ」
「そ、そんな…手塚さんがやられるわけがない!何かの間違いだ!!」
「…信頼してる人が失って悲しい?」
あたしは動けずもがいている竹丸を見下しながらそう問いかける。
彼は黙って俯くだけだった。彼には彼なりの手塚隆吾に対する尊敬の念があったのだろう。
「今感じてる感情を…貴方が殺した先生の家族や生徒も思ってたのよ」
「…………」
「大人しく逮捕されて、反省しなさい。釈放されたら…私が手料理でも振舞ってあげるわ」
そういってあたしは目の前の少年に一瞥し、その場を去った。
--------------------------------------------------------------------------------
「おい!大丈夫か毒島!!!」
「お…鬼塚……」
あたしが結界が消えたのを確認すると慌てて毒島のいる部屋に行った。
結界が消えたってことは、毒島がやられているという可能性もあったからだ。けれどいらない心配だったみたい。
けれど、彼はなぜか目に涙を溜めていた。
「り、リブラさんが……」
泣きそうな顔でそういう毒島。
見てみるとそこには毒島と一緒にサジタリウスとの戦いに臨んだリブラの姿がなかった。
「……そうか。あの女も一緒に…」
あたしが小さく言うと、とうとう押さえられなくなったのか、毒島は涙を流してその場で俯く。
相当辛いのだろう。
あたしは近くで見ていたからわかる。あの女は毒島にとっては師匠のように慕っていた人物だったのだろう。
だからかな……ちょっと嫉妬しちゃうな…。
「って嫉妬ってなんだあたし!?」
突然顔が真っ赤になる。なんで今あたし…あんなこと……!!!
あたしがそんな自問自答をしている間にも毒島はまだ泣いていた。
嗚咽を吐きながら、呼吸も困難なんじゃないかってほど涙を流している。
「…毒島。これ」
あたしは彼の肩に手を置いてそっとタオルを渡した。
「あ、あぁ…ありがとう」
あたしの顔を見て、少し恥ずかしくなったのか涙を止めた毒島はあたしからタオルを受け取って顔を拭いた。
こんなとき…由香なら明るく振舞って、こいつの悲しみとかも消せるんだろうけどな。
今ほどあいつの存在を必要としてるときはないかも知れない。本当にどこに行ったのだろうか
「…お、おい!男が女の前でそんなにわんわん泣くんじゃねぇよ!!」
何を言っていいか分からず、思わず悪態をついてしまう。
毒島はそんなあたしを見つめながら、タオルで顔を拭く。あ…いつもの顔に戻った。
「そうだよな。悪い、ちょっと気が動転してた。本当にありがとう」
「れ、礼なんか言ってんじゃねぇよ……////」
「はぁ…俺はお前にも支えられてばっかだな」
毒島が突然言った言葉にあたしは顔を高潮させる。
「は、はぁ…な、何言ってんだよ……/////」
その直後だった。毒島があたしに突然抱きついてきた。
「…っ!?」
身体が震えている。
何があったか知らないけれど、こいつはあの女を守ると断言していたんだ。
それが出来なくて、あの女を失って辛いのだろう。
あたしよりもほんの少し高い身長。毒島の頭があたしの肩に乗る。肩が微かに濡れた気がした。
「そ、その…なんだ。お疲れさま……」
あたしは毒島の頭に手を置いてそっと撫でてやる。
今にも泣き崩れてしまいそうな毒島はそれを堪えて身体を震わせている。泣いたっていいのに……。
しばしの沈黙。
毒島は何も言ってくれない。
今の自分を包み込んでくれる人が欲しかったのだろう。
もしここにいたのがあたしじゃなければ他の人にも抱きついていたかも知れない。
それでもいい。あたしは今、こいつに頼られているんだ。せめてこいつが落ち着くまでこのままで……
「……これはKYな状況に着てしまった気がするの」
「「………っ」」
どこからか声がする。
あたしは見たくないと思いつつもその声の方を見ると、スマホで写真を撮っている雪音の姿があった。
「わ、悪い…鬼塚……。ちょっと間が刺した……//////」
流石に恥ずかしくなったのか、毒島は顔を伏せたままあたしから離れる。
あたしはその直後に雪音のところへもうダッシュ。スマホを奪取する。
「やぁー。返してよ綾ちゃーん」
「黙れ糞雪音!!あんな画像所持されてたら何されるかわかったもんじゃねぇ!!!」
あたしは雪音のスマホを弄って画像を見つける。後はこれを削除すりゃ……。
「………////」
「…ダビングして綾ちゃんのパソコンに送るよ?それでも消しちゃう??」
「い、いらねぇよ!!!」
あたしは慌ててその画像を消去した。なんだろう…この勿体無い感は……。
「むぅ…由香ちゃんにも見せたかったのに…。(既にパソコンにデータ送ったけど)」
残念がる雪音にスマホを返す。
「…とにかくここを出よう?社長も消えちゃったし、ここにも警察官が押しかけてくるよ?」
雪音がそういいながら先頭きってあたしたちの前を歩く。あたしも雪音の後ろについていくことにする。
するとあたしの隣にきた毒島が雪音には聞こえないようにあたしの耳元で呟いた。
「…ありがとう。元気出たよ……」
そういってあたしを追い抜かして雪音の方にいく。
雪音が毒島に対して「さっきの私…かっこよかったの。見る?」などと会話を始めている。
とうのあたしは二人から死角なのをいいことに顔中が真っ赤になっていた。
ったく……あのやろうはずりぃんだよ…ったく……////////
--------------------------------------------------------------------------------
「おぅら!!」
俺の拳を受け止めるFISHBOY。
すぐさま奴の蹴りが繰り出される。それを俺はかわし、そのまま地面に着地する。
「不便なんだねぇ~獅子座のレオンも…空を飛べないなんて」
FISHBOYはそっと地面に降りながら俺に対して言った。
「よし、こうなったら俺も『飛行スキル』を捨てよう」
そういうと、奴のスーツの足部分についていた小さな羽のようなものが消えた。
こいつの能力は本当に不明だ。
空飛んだり、水を放ったり、スーツ姿に変身したり…。
能力に一貫性がない。あるとすれば全て『水』を使ってるってぐらいか…。
「さあ、行くよ!!」
奴の足から水が放出されて、もうスピードでこちらに接近してくる。
俺は奴から繰り出される拳をなんとか受け止めてこちらの攻撃を繰り出す。しかしそれも受け止められる。
おかしい!奴は人間なんだぞ!?どうして俺と互角に闘えている!!
毒島と戦ったときの感覚にも似ているが、似て非なる。防御のバリアを張っているわけではなさそうだ。
一進一退の攻防戦が続く。こっちは本気なのに向こうは少し笑いながらこの状況を楽しんでいるのが腹立つ。
「さあ!どうしたんだよ!!獅子座!!本気を出せよ!!」
爽やかな声で叫ぶFISHBOY
直後に奴はバックステップで距離を取った瞬間、指で『銃』の形を作る。
「やべぇ!!」
その指先から飛び出す水。
連射されるそれを避けきれず、俺の皮膚を少しずつ削っていく。
「ウォーター・バレット!!悪の権化を貫け!!」
「誰が悪の権化だボケ!!」
「言葉遣いが悪い!よって悪の権化だ!!」
わけのわからないことをたまに口走るが奴の強さは本物だ。
こんな強い星霊が本当に万年最下位だったのかと疑問でならない。
「まだ俺の強さがわからない。って言った顔だね?獅子座ぁ?」
「っ!?」
ウォーター・バレットから逃げていた俺の背後に突然FISHBOYの姿が。
俺が振り返る間もなく回し蹴りを入れられ、そのまま吹っ飛ばされる。
「くっ…くそっ……!!」
「へっへぇ~ん♪悔しそうな顔してるな獅子座。今のままじゃあ俺に勝てないんじゃねぇのか?」
FISHBOYの生意気な言葉に俺は反論出来ない。
確かにそうだ。『天使喰い』を使ってもいない状態でFISHBOYに勝つのは至難の業だ。
だからってここで使うのは癪だ…。
挑発に乗ったみたいで、使う前にあいつの能力をはっきりさせたい。
「……あ、でも獅子座の能力を使ったら俺の能力わかんなくなるのか。
理性もなく暴走するって聞いたし、それだと俺の話聞いてもわかんねぇよなぁー」
FISHBOYは突然そんな言葉を口にしだす。
「なぁ?獅子座??俺の能力について知りたいか?」
「っ!?」
突然の申し立てだった。
求めていた答えだからこそ、驚愕してしまう。俺はYESともNOとも言えぬ態度を取る。
「まあ、自分の能力を公表しないのは、悪人キャラのやることだ。
俺は正義の味方として堂々と言うべきだったんだよなぁー!反省反省!!」
ヒーロースーツのままそんなことを言うFISHBOY。
…ちょっとついていけてない自分がいる。
そのままFISHBOYは何かのポーズを決めながら、堂々と語り始めた
「俺!海援戦士FISHBOYは正義を愛する青年!!
ある日出会った星霊スィーとの出会いを経て正義の味方となる!
スィーが俺に与えてくれた能力は『イメージによる武器化』!!!!
それにより俺はあらゆる悪を倒すために様々な武器を搭載した最強のヒーロースーツ!
「アクアジャスティス・アーマー」を身に纏い!星霊との闘いを経ながらこの町の悪を倒しているのだ!!」
最後に決めポーズをして、すごい満足げなFISHBOYがドヤッと言う顔で俺を見る。
……これは、俗に言う…「子どものまま成長した大人」って奴じゃあねぇか?
思わず呆れてしまった俺は、それと同時に驚いてもいた。
それがスィーの能力。『イメージの具現化』って奴だろう。
だから毎年占い師が闘っていて、武器もランチャーからグローブだったりと多種多様だったのか。
しかもこいつは本来1つしか具現化できない武器を「1つの武器に入っている複数の付属品」としてイメージして
「ヒーロースーツ」と言う武器を作ったわけか…。確かに厄介だ。まだ1つ疑問は残るが…。
「…面白ぇ。100までは使わなくても、半分ぐらいは使ってやんよ!!」
俺はFISHBOYにそう話しかける。…そして小さな声で呟く。
「…50%」
その直後、力がみなぎってきて、身体の傷も修復されていく。
「…いいねぇ、その凶暴な顔立ち……まさに悪人だ!!!」
「へっ!悪人でもいい……てめぇを喰らいついてやんぜ魚やろう!!」
こうして、俺とFISHBOYとの激戦はさらに加速する。
--------------------------------------------------------------------------------
僕はよく人に「勿体無い」と言われた。
その理由は誰から見ても一目瞭然だった。
「おい修也!サッカーしようぜ!!」
「ごめん…今日はお母さんに止められてて…」
「えぇー!修也が入ったら絶対に勝てるのに~」
小学校の頃、友達がよくスポーツに誘ってくれたけれど、たまに断らなければいけなかった。
自分で言うのもあれだけど、僕は「スポーツの神」と言うものに愛された人間だったらしい。
大概のことはすぐに出来た。運動神経も恐らく同年代では最強だっただろう。
クラスに一人はズバ抜けて運動神経がいい奴がいるものだ。
その運動神経のいい奴を集めたクラスがあったとしても多分僕はそのクラス内で「運動神経がズバ抜けている奴」に
なってしまうほどの物を俺は神様から授かっていたのだ。
けれど運命と言うのはプラスマイナスがあるようで
俺は『スポーツの神』に愛されたと同時に『死神』にも愛されてしまったのだ。
「……心臓病?」
「えぇ、まあ…少々奇妙な種類のですけれどね…」
医者にそういわれた。
俺は心臓発作になりやすい体質…と言えば分かりやすいだろうか。そういう病気になってしまった。
あまり無理をしすぎると、一般の人以上に心臓に負担がかかる。
だから、動かせない身体と言うわけではないけれど、弱い身体だったのは事実だ。
天性の運動神経を持ち合わせていながら、それを活かせない身体になってしまったのだ。
一度その事情を考慮して誘われた部活に入ったこともあったが、大会途中でぶっ倒れて入院した。
「…はぁ……ダメだな…俺……」
入院した病室で、常々そんな言葉を吐いていた気がする。
「俺は…ヒーローにはなれないんだなぁ……」
ずっと憧れていた。
仮面ライダー、特撮戦隊、ウルトラマン、アンパンマン……etc
人々を助けて、悪を討ち滅ぼす。そんなヒーローが僕は大好きだった。
だから学校でも人を助けるために人事を尽くした。けれど、自分の身体じゃあそれは不可能だ。
それでも募金やボランティアには参加できるだろうと、やっていたものの……やはり満足が行かない。
外を歩いていても、虚しかった。「自分はヒーローじゃない」そんな至極当たり前の現状に虚無感を抱いていた。
そんなときだった。彼に会ったのは。
『…お前、力が欲しいか?』
僕にだけ聞こえる声。
耳からと言うより、脳から聞こえるような…そんな声。
その声は僕に問いかけ続ける。
『その身体…我の援助があれば、まだ使えんこともないぞ?』
老人のような声だったけれど、どこか子どものようにも聞こえる。不思議な声。
僕はまるで運命に導かれたかのように
そしてそれを行うのが至極全うな気がして…僕はその目の前の魚に手を伸ばし、力を願った。
『いいだろう。貴様に力を与えよう…「星霊」の力を』
そうして僕、太刀風修也は魚座の占い師に…そして『海援戦士FISHBOY』となったのだ。
--------------------------------------------------------------------------------
「さあ!来いよ獅子座!!」
凶暴な顔に豹変したレオンは、物凄いスピードで僕に襲い掛かってくる。
腕に装着した盾が彼の攻撃を何とかいなしてくれる。
そして僕の拳を奴の頬に放つ。
奴はそのまま喰らってくれるが、ブッ飛ばされずにそのまま俺の頬に拳をぶつけてくる。
思った以上に重い拳に、僕は遠くまで吹き飛ばされる。
……これで50%か。本当にえげつないなこの男は…。
「こっちも負けないよ!『ウォーターボ』!!」
足に付いてる噴水機が水を荒々しく放ち、物凄いスピードで低空飛行を実現させる。
そのまま宙に浮いた身体を軸に、獅子座のレオンの頭部に回し蹴りを放つ。
奴はそれを避ける。回し蹴りを外してすぐに着地し、奴の腹部に拳を放つ。今度は決まった!!
よろけた奴を俺はローキックをかましてレオンをブッ飛ばす。
お互い距離が出来て、しばしの休憩と言うようにお互い様子を見てにらみ合う。
「てめぇ…やるじゃねぇか……」
「最強の星霊にそういってもらえて、光栄だねぇ…」
レオンは凶暴な顔ではあるが、まだ理性を保っているみたいだ。
僕は100%状態の見たことがないけれど…一体どんなものなのか……。
「―っ!?」
そんなときだった。
心臓の方から衝撃が走る。…そろそろこの身体も……。
口に手を当ててみると、手には血がついていた。
やっぱりいくら病気に耐えれる身体を手に入れたと言っても、限界があるのか……。
「ごめんね、獅子座。もう時間がない…僕は本気で行く!!アーマーチェンジ!!!」
僕は高らかに叫ぶ。ヒーロースーツから機械音で『Chage The Surt!!!』と鳴り響く。
僕の足元に紋章が現れ、そこから水が噴出される。
その水は渦を形成し、僕を包み込む。
僕の身体はいつ限界が来るかわからないんだ。
どうせこれが最後の闘い。最強の敵。ヒーローの最終回って言うのは本気の力を出して、悪を倒すこと!!!
「さあ……やろうか。レオン…君は必ず…僕が倒す」
フォルムが一新されたスーツ。全体的にスーツと言うよりも鎧だ。
「あぁ…来てみやがれ!!」
「じゃあ、一発目から仕掛けさせてもらうよ!!『ウォーターハザード』!!」
そう叫んだ直後だった。
とても大きな音が響き渡る。
そして僕の後ろには……強大な『波』が迫ってきていた。
--------------------------------------------------------------------------------
おいおい…なんだよありゃ…!!
俺、獅子座のレオンは顔には出さないが、少し怯えていた。
本気を出した太刀風修也。彼は最初にしたのは巨大な津波を起こすことだった。
これは流石に俺にも対処しようがねぇぞ!!!
そんなことを言っている間に波は俺に襲い掛かってくる。水の重い攻撃が俺を襲う。
口から水が流れ込んでくる。……息が出来ない…!!!!
「どうだい?獅子座のレオン??」
水が自然消滅して、その場には倒れた俺の姿しかなかった。
「がはっ!」
口に入った水を勢いよく吐き出す。
呼吸が苦しい…。こんなことまで可能にするのか、魚座の能力っつうのは!!
「さあ…行くよ!!」
そのまま奴はこちらに向かって突進してくる。
奴の放つ拳を受け止め、こちらの拳を放つ。しかし奴は俺の拳を避けて蹴りを放ってくる。
繰り広げられる攻防戦。
50%の状態で互角、いや……奴の方が押してきている。
俺は大振りの攻撃を放ち、太刀風修也に無理やり距離を取らせる。
奴は作戦通り、バックステップでこちらと距離を取り、様子を窺う。
「はぁ…やってやんぜ……この野郎!!そっちが本気ならこっちも本気だぁ!!」
そう叫んで俺は宣言する。
「……100%!……ぐるらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
禍々しい叫び。
まだ隔離された人格が残っている。
本能に身を任せた俺は、目の前の敵である太刀風を睨みつける。
「驚いた…こんなの、もう『善』か『悪』か見定めるのもくだらない……『化け物』じゃないか…」
驚愕を浮かべる太刀風修也。
「…今にも人を食いちぎってしまいそうな『殺意』……間違いない。君は完全な『悪』だよ…獅子座ぁ!!」
お互い、合図もなしに同時に攻撃に乗り出す。
二人とも互いを倒してやるという敵意だけをむき出しにして―――――――。
--------------------------------------------------------------------------------
「………これでいいのかな」
ビルの一室。
監視カメラもあるけれど、今カメラを見ている者は誰もいないだろう。だからあたしはここを選んだ。
目の前には陣が描かれている。
あたしは一度咳をして、息を整える。
「我。双子座の占い師、ここより『代理召還』をす」
陣の前に手を翳し、その言葉を宣言する。
陣が突然光出し、そのまぶしい光にあたしは思わず目を閉じてしまう。
「…ありがとうございます。李里香さん」
真っ暗な視界で、そんな言葉だけが聞こえる。
「……由香…ちゃん?」
「はい。どこか変わりましたか?あたし??」
目を開けてみると、まったくいつもの由香ちゃんだった。
だけど…雰囲気と言うか、なんというか……何かが変わった。ような気がした。
「さあ、行くか!」
「あ、あの…由香ちゃん?みんなに会わなくていいの?多分まだこの建物内にいると思うけど…」
「…いいですよ。会わなくても……」
そういって彼女は一人部屋を出ようとしていた。
あたしは、どこか彼女が心配で、何を考えてるのかわからなくて、そのまま彼女を追いかけてしまった。
占いも終盤。
それぞれの思惑が交錯するなか、神崎由香は――――――真剣な顔立ちである場所に向かった。
自分の愛する者の元へ――――――――。
☆
「ねぇ?なんか音しない??」
「えぇー気のせいだよぉー」
「気のせいじゃないって!ほら!花火みたいな音!!」
「えぇー?聞こえないよぉー??」
街中の人々がざわつき始める。
まるで、猛獣同士の闘いを本能的に察知した小動物が、警戒心を震わせているかのように……。
そして、同時に人々は思いもよらないだろう。
ある男が言った「花火みたいな音」が…まさか男同士の殴り合いで発生しているとは。
「おぅら!!」
「ぐるらぁ!!!」
叫ぶ両者。
ぶつかる拳。
どちらも攻撃を止めることはない。否…止めることが出来ない。
--------------------------------------------------------------------------------
本当、なんて化け物だ。
まるで生きる核兵器だ。こいつ一人を街に放っただけで壊滅してしまいそうな…そんな狂気。
余計なことを考えていると、すぐにも首を撥ねられてしまいそうなほど、彼…いや、この化け物の攻撃は止まらない。
レオンの攻撃をいなしては、こっちが攻撃をする。
向こうはいなしてすらこない。こっちの攻撃をもろに受けても動じずに拳を繰り出してくる。
本当……どんな神経してんだ!!
「ぐるらぁー!!!」
怒号をあげるレオン。
俺が所有しているヒーローウェポンを使う隙も与えてくれそうにない。
どうにかして時間を作らないと……。
「おぅら!ライダーキック!!」
俺がジャンプして、奴の頭目掛けてライダーキックをかます。
レオンはこれをバックステップで避ける。よし!一瞬の隙が出来た!!
「ヒーローウェポン!!『スィーガンナー』!!!」
そう叫ぶと、アーマーは俺の言葉に反応して、右腕部分に小型の大砲のようなものを出現させる。
こいつの能力はそのまま、水を放つ。と言うものだが、遠距離攻撃にも至近距離発射にも役立つ代物だ。
俺は勢いよく水を噴射させる。レオンと距離を近づけたらダメだ。星霊で至近距離最強は間違いなくレオンだ。
レオンは俺の攻撃を間接がないのじゃないかと言うぐらいの気味悪い動きで避け、距離を詰めてくる。
ったく!見てるだけで恐怖がにじみ出てくる!
(やっべっ!距離が!!)
俺はすぐそこまで来ていたレオンに対応するため、『スィーガンナー』の形式を変える。
遠距離は弾丸のように鋭い水を放ち悪を貫き、近距離は――――――。
「悪を市民から遠ざけえることだけを考えた!噴射機!!」
レオンが僕に近づく直後、水を放つ。水の弾と言うより、消防車の噴水機のような豪快な水を放つ。
レオンはその水圧に圧し負けて、僕との距離は遠ざかる。無様に吹き飛ばされるレオン。
「ぶるらぁー!!ぐるぅー!!!」
地面に叩きつけられたと同時に立ち上がり、
再び怒号を上げながらこちらに向かってくるレオン。
「くそっ!これ以上近づかせて溜まるかよっ!!」
ガンナーを使おうとした直後だった。
「―っ!?」
心臓部から何かが登ってくる。
その直後、無意識に口を手で押さえてしまった。
口の中から血が噴出されたのだ。
「しまっ――!」
血に気をとられている瞬間に、目の前には、既に回し蹴りの体勢に入っていた。
そのまま僕は何も出来ず、レオンに蹴り飛ばされる。
自分の身体が鎧越しに地面にすりきられているのが分かる。
身体を起こしてレオンの方を見てみると既に彼はこちらに近づいてきていた。
「正義の盾よ!悪の鉄槌から人々を守れ!!」
僕はすぐさまそう叫び、『スィーガンナー』を装着している右腕とは逆…左腕に巨大な盾を出現させる。
暴走したレオンの攻撃を、その盾が防ぐ。
防がれて一瞬できた隙をついて、僕はレオンをぶん殴る。
顔が歪むがすぐさま切り替えしたレオン。それを俺は盾で守る。
一進一退の攻防戦。本当、何回攻撃を加えてもレオンの奴にダメージが渡っている気がしない!
対してこっちは常に身体が痛い!
レオンの一撃一撃が、盾を通してもこっちの身体が麻痺してしまうほど痛みを走らせてくる…。
これが本気になった星霊……。
今までアクエリアス、サジタリウス、カプリコと闘ってきたが…こいつだけは桁が違う!!
そうやってるうちにまた心臓部から血液がわきあがってくる。
俺は喉まで来ている血をぐっと堪えて、口を強く閉じる。
そしてレオンが攻撃を始めたと同時にその血を奴の顔に吐きかける。
「ぐらぁあ!!」
目に完全に血が入った!
目くらましを喰らって視界を失ったレオン目掛けてパンチを連発する。
目が見えないレオンは僕の攻撃をただ受けるしかできていなかった。
ここだ!ここで一気に畳み掛けないと!!!
まるでボクサーのような素早い拳の横行。レオンの顔を抉るように殴り続ける。
バックステップで僕の攻撃を逃げようとするレオン。
『スィーガンナー』から水を噴出する。少し粘り気のある水は、そのままレオンの身体に巻きつく。
それを引っ張ってぐらついたレオンの頭に思いっきり頭突きをかます。
間髪入れずに回し蹴りをして、レオンを地面に叩きつける。
流石にダメージを追ったのか、レオンの動きが鈍くなっている。
「はぁ…はぁ……。っ!?がはっ!!」
レオンが倒れたのを見ていた直後、僕の口からまた血が流れる。
スィーからの加護があっても、これ以上は少々無茶なのかも知れない。
「ぐるるぅー……」
獣のような呻き声を立てて、立ち上がるレオン。
少しずつ視力を取り戻したみたいだ。僕の血で真っ赤に染まった瞳は化け物の眼とした例えようがなかった。
レオンはまた俺に対して突進をしてくる。完全に視力を取り戻してる!
「くそっ!こうなったら!!」
僕は靴から水を噴出させて、上空に飛ぶ。
飛べないレオン相手に使いたくなかったけれど、そんなことを言っている場合じゃない。
上空から『スィーガンナー』を使って――――――
「っ!?」
下を見ると、そこにレオンの姿がない。
その直後、後ろに殺気。振り返るとそこには……獅子座のレオンの姿があった。
対処が間に合わずにそのまま踵落としで僕は地面に強く叩きつけられる。
おかしい…!!ジャンプで届くような高さじゃなかったぞ!?
「ぐるるるぅぅぅ…」
着地したレオンが、倒れる僕のことを恐ろしい形相で見る。
本当…悪に屈している正義の味方…だな。
そんなときだった。
どこかから声がする。
それもたくさん。大勢の人の声。
瓦礫がいっぱいある人里離れた広い空間。
僕らはそこで闘っていたはずなんだ……なのにどうして………どうして……………。
人が僕らを囲っている?
--------------------------------------------------------------------------------
「なん…だよ……あれ??」
一人の男が、とあるものを見てしまっていた。
その光景は、何度もテレビで見た。正義の味方が…凶暴な形相で暴走する男に四苦八苦している姿だった。
男は現代人だ。このようなものを見た直後、どうしたらいいかまったくわからない。
そんな人間はどうするか…とりあえず……『つぶやく』のだ。
【街の隠れスポットのような場所で、あのFISHBOYがやられている!!】
【FISHBOYが!?そこの場所教えなさいよ!!】
【この住所付近だ!きたら分かる!!】
【FISHBOYがやられるわけがない。嘘つぶやき乙】
【そういえば俺…一回FISHBOYには助けてもらったな。チンピラに絡まれたとき】
人々が男の『つぶやき』を見て、半信半疑に各々の感想を口にする。
『街のヒーローのピンチ』…この単語が、人々を心配と興味を惹かせたのだ。
信じたものはその場に足を運ぶ。そこに近づくに連れ聞こえる花火のような怒号音。
時々響き渡る猛獣の叫び声…それが彼らの目標が『現実なのでは?』と言う感情に陥れる。
そしてさらに足を進めるスピードが上がる。それは芸能人に会いに行くようなものに似ているが、少し違う。
人々はみな、無意識にこう思っていたのかも知れない。
FISHBOYを応援しないといけない……と。
--------------------------------------------------------------------------------
なんだ、どうしてこうなった。
僕とレオンが闘う周りを、物凄い遠くからだけど、大勢の人達が見ている。
「FISHBOY!!なんだかわかんねぇけど負けんじゃねぇーぞ!!!」
「そんな怪物けちょんけちょんにしてやれぇー!!!」
「そこの化け物!大人しくFISHBOYにやられろぉー!!!!」
野次馬が、僕を応援している。
僕が闘っているレオンが、悪者だという認識をしているのだろう。
「…そうか。僕は……『正義の味方』なんだ…」
気付かないうちに、涙が流れる。
僕は…こんな大勢の人たちに、愛されていたんだ。孤独じゃなかったんだ。
僕の正義は…ちゃんと人々を守ってきていたんだ。その実感だけが嬉しくてたまらなかった。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
周りの声が耳障りだったのか、化け物と化したレオンはかき消すように雄たけびを上げる。
その声に怯えた人々が口を止める。
みんな…怯えている……レオンに…。
「僕が…みんなを……守る!!!」
倒れていた俺は立ち上がる。
レオンが恐ろしい形相で僕を睨みつける。
立ち上がった瞬間にボロボロと鎧が剥がれる。
残ったのは、僕が『FSHBOY』として活動しているときに付けているヒーロースーツのみ。
僕は決心を固めるために、人々が見ている前で高らかに叫んだ。
「私の名は!海援戦士FISHBOY!!人々を助け、害となるものを排除する正義の味方だぁー!!!」
そう叫んだ瞬間。僕はレオン目掛けて走り始める。
レオンも僕に目掛けて飛んでくる。互いに拳を交えての殴り合い。
もう僕を守るものはない。けれど、レオンも弱っている。そして僕には……みんながいる!!
「FISHBOY!頑張れぇー!!」
「負けるなぁー!!!」
「そんな奴ぶっ倒せぇー!!」
殴られては殴って、蹴られては蹴って、互いに傷つけあう。
それを見て人々は僕に声援を送ってくれる。
心臓部から痛みが走る……けれどそんなこと構ってられるか!!
僕はレオンの顔面を思いっきり殴り飛ばす。
レオンが地面を転がる。僕は地面に向かって血を吐き捨てる。
ふらりふらりと立ち上がるレオン…。
「まだ立つか……くそぉ…」
レオンは僕に向かって走ってくる。
僕もそれを迎え撃つように構える。
技もない。武器もない。盾もない。ただの殴り合い。
こんなもの見てたって何も面白くないのに、人々は僕を見守ってくれる。
横行する拳と拳の乱撃。
ときどき走る心臓部の痛み。自然と口から垂れる血。
そんなときだった。
レオンの拳が僕の腹部をあてたのがわかった。その直後……意識が朦朧とした。
朦朧とした中、僕は今残ってる全力の力でレオンにアッパーをかます。空を見上げながらレオンは遠くに飛ばされる。
その直後、僕は地面に倒れる。ダメだ……立ち上がれない。それどころか消え始めてる気がする……。
レオンも動かない。それでも消える気配がない…恐らくただ疲れて動けないだけだろう。
もし……僕が消えた後、暴走したレオンが人たちを襲ったら……。
「……まだ力は少し残ってる。……『アクア・コーラル』!!!!」
倒れる僕は腕だけを空に挙げて、技を唱える。
とても綺麗な水の球体が空を登り、少しして、その場全体に清らかな雨を降らせる。
この雨は、人々に安心感を与え、冷静にさせるもの……。
これで、僕が消えても人々は何事もなかったかのように元の場所に戻るだろう。
そして……獅子座のレオンの『天使喰い』による暴走も終わるはず……最初からこうしておけばよかったかなぁ…。
「あぁー、ちきしょー…。やっぱ終わらせたくねぇよ…スィー……。僕…もうちょっと正義の味方でいたかった…」
腕で目を隠して、涙を流す。
身体が光に包まれる。これで僕の正義の味方ごっこは終わるのか……。
また…募金やボランティアしか出来ない未熟な男に戻るのか…。
雨に濡れても気にせず、倒れる僕を心配そうに見つめる人々…中には泣き出す子どもまでいた。
「あぁー。見返りなんて求めてなかったけれど、自称正義の味方をしてて……よかったなぁー」
震えた声でそういった僕は、涙を流しながら……光に身体が包まれる。
こうして、街を闊歩していた謎の正義の味方FISHBOYの物語は……終わった――――――――。
そして人々も、レオンとFISHBOYの戦いなど忘れて何もなかったかのように……
その場から去っていった。
ただ……理由もわからず涙を流して―――――――。
☆
【ほぉ…あの魚座もやはりここまでだったか……】
星空が舞う光景…。
そこで巨大な男が椅子に座りながら、独り言を呟く。
【さて…あの小娘は、ここからどう動くかのう…】
「あらあら、その小娘と言うのは……由香ちゃんのことですかな??」
【…お前かリブラ。勝手にここに入ってきよってからに……】
「まあまあ♪そう怒らないでくださいまし♪♪星霊王…『クラウディオス』様?」
少女『天秤座のリブラ』はいつものからかったような口調で自らよりも数倍も大きな男を見上げ、話す。
「それで?クラウディオス様??その小娘……由香ちゃんには一体何をしたんですの?」
【何…我は何もしてはおらんよ。ただ手段を差し伸べただけだ。全てはあの小娘が自分でしたこと……】
「そう言っていれば自分の責任にならないというのが丸見えな言い訳のようですわね♪♪」
【そう見解されたなら、誤解だ。我は奴にやり方を提示しただけ。望み、禁忌に手を出したのは小娘自身だ】
「しかし星霊王?些かやり方に性格の悪さが滲み出ているような気がするのは気のせいでございますか??」
【呼び名が変わっておるぞリブラ。まあ良い。そしてその見解も誤解だ。手段を選んだのも奴だ】
「そうなのですか??けれど彼女にあれを利用するなんぞ、思いつかないとお思いなのですが??」
【さっきも言ったであろう。我は手段を提示しただけと。】
「あれも手段として提示なさったのですか?」
【小娘の望むものを叶えるためには、提示しなければならなかった…】
「星霊王ともあろうお方が言い訳ですか♪面白いですわね♪♪」
【言い訳なんぞしておらん。むしろ我は誇ってもよいぞ??】
「あれを誇る……ですか。星霊王は中々面白いですわね♪」
【まあ、全ての結果が終われば、我は本当に誇ってもいい事象になるかもしれんぞ?】
大宇宙が映る場所。
そこで語られるのは、物語の最後の展開を知ってる者たちの感想。批評。そして推理。
彼らが語る先にあるのは……果たしてどのような物語なのか…。
--------------------------------------------------------------------------------
「はぁ…はぁ……終わったか…」
ダメだ…立てない…。
太刀風との戦闘が思った以上に苦戦した。本当に立てない。
「…大丈夫??」
真っ青な空しか見えなかった俺の視界に入ってきたのは、由香そっくりの女性。
「…李里香か。なんでここに?」
「一応あたし、あんたの『代理占い師』なんだけど?社長達の一件が済んだから見に来たのよ」
そういって俺の隣に座りこむ李里香。
「じゃあ、毒島と…それにリブラはどうなった?」
「………相打ちよ。サジタリウスと相打ち…。毒島くんも深手を負ったわ」
「そうか…。あれ?じゃあなんで占い終わりにならねぇの??」
「………」
俺の質問に対して、李里香は苦い顔をしている。
何か隠し事をしているようだ。何だというんだ……。
「もういいよ。李里香さん……」
そんなときだった。少し懐かしいような…そんな声がした。
寝転がった身体を起こしてその声の主を見る。そこには…
「…由香……」
「よっ!久しぶり!!」
何事もなかったかのような軽い挨拶に一瞬戸惑った俺だが、その気軽な感じがまた心地よかった。
「何がよっ!だよっ!!てめぇ今までどこにいた!!」
「あーえーっと…。聞いてね?レオン??」
俺は李里香に手を引かれて、何とか座ることは出来た。
座っている俺に対して、立ったままの由香は少しモジモジしながらそししてその一瞬だった……。
は………羽……?
「ど、どういうことなんだよ…由香、これ?」
目の前には、信じられない光景が広がっていた。
綺麗な…白い……翼。見ているものがその姿を見て『天使』と見間違えてしまうような…。
いつもの天真爛漫で、ハツラツとした少女の面影は…ほとんど残っていなかった。
何かを覚悟したような…真剣で、どこか冷徹な…そんな顔をした天使が俺の目の前にいた。
「私は、『獅子座のレオン』の称号を貴方から略奪するわ」
突然言われた言葉に、俺の思考が停止した。
ただただ目を見開いて、目の前の翼を生やした由香を見ることしか出来なかった。
必死に頭を巡らせて、言葉を捜す。今、彼女に聞くべき言葉を、言うべき言葉を――――。
「お、お前……その羽…」
違う。こんなことを聞きたいんじゃない。
「これ?私のような『人間』が星霊になるには……『これ』を取り込むしかなかったんだよ」
そういって彼女は自分の腕を俺に見せてくる。
そこには……黒い『蛇』の刺青が入っていた。
「今のあたしは神崎由香じゃない。『蛇遣い座のオフィウクス』よ」
そのとき一瞬。由香の眼の色が変わった気がした。
邪悪な、紫…いや、真逆だ。澄んでいて綺麗な紫色。それがより一層恐ろしく見えた。
狂気や殺意は感じる……なのに…悪意が感じられない。
「レオン……。傷…大丈夫??」
「えっ!?あ、あぁ…」
雰囲気が完全に変わった由香にいつも通りに話されたもんだから、少し戸惑った俺は曖昧な返事をする。
俺の返事を聞いた由香はその大きな翼をバサッっと広げる。翼から放たれるのは薄緑色の綺麗な光……。
「あれ…?傷が……」
「私の羽は『他者の傷を癒す』効果があるの。これでよしっ…っと」
俺の傷が全快したのを確認した由香は邪魔だったのか羽を消滅させる。
「結構重くてなれないなぁ…まだ……」と、前の由香の雰囲気丸出しの発言をしていると少しだけ安心させられる。
「さてっと、レオン……やる?」
その『やる』の一言の直後に彼女が放った殺意。本物だった。
思わず俺は怖気づく。それほど今の彼女は強大に見えたからだ。
「……レオンがその気じゃなければ、今日はあたしこれで帰るよ。正直…今すぐは闘いたくない」
「ま、待てよっ!ま、まずなんで俺とっ!お前がっ!!闘うなんて流れになってるんだよ!!!」
「…レオン。仕方ないことなんだよ。これは…あたしが望んだんだもん」
「だからっ!なんでそんなことを望んで―――――――」
そんなときだった。
俺の言葉を遮るように、由香に詰め寄る俺を制止させる人間がいた。松原李里香だ。
「それ以上は聞かないで頂戴……お願い」
「李里香…てめぇもグルか…」
「えぇ、文化祭以降いなくなってからも、あたしは由香ちゃんと連絡を取ってたよ……」
「てめぇ…なんで……!!」
俺が李里香ともめている間に、由香は俺に背中を向ける。
そしてそのまま光に包まれて消えてしまいそうになっている。
「待てよっ!由香ぁ!!!」
俺の叫びは虚しく、彼女は俺の元から消えてしまった。
「…な、なんで……なんでこんなことになってんだよ…!!!」
俺は地面を思いっきり拳を叩きつける。痛い。けれどこうでもしてないとやってられない気分だった。
俺は!あいつを守るって決めたんだぞ!?なのに!なんで守る対象と闘わなくちゃいけねぇんだよ!!!
「…気……済んだ?」
数分してからだろうか、頃合をはかった李里香が俺に小さな声で話しかける。
俺はただ静かに「あぁ…」としか答えることが出来なかった。
--------------------------------------------------------------------------------
「あらあら♪お久しぶりですわね♪♪神崎由香さ……いえ、今はオフィウクスと呼んだほうがよろしくて??」
「…なんでリブラさんがいるんですか?」
「ちょっと星霊王にお頼みしまして♪少しの雑談だけならと♪♪」
壊れた廃墟と化したビル。
廃墟ビルが立ち並ぶ場所だ。そう………あたしとレオンが『蟹座のキャンサー』と闘ったところだ。
「あたしに会うよりも、毒島くんに会いに行ったほうがよかったんじゃないですか?」
「あら、もしかして見られてましたか?お恥ずかしいですわ♪わたくしとしたことが乙女な部分を出してしまいまして」
わざとらしく頬を染めて、頬に手を当ててモジモジするリブラさん。
その姿は本当に恋する乙女って感じで少し可愛らしかった……。
「…それはいいと思うよ。女の子は『恋』をする生き物だもん……」
「わたくしには貴方の『恋』は度を過ぎて『愛』となってる気がしますけれどね」
「そんな大層なものじゃないですよ。あたしのは…。ただ欲張りなだけです」
「貴方の目的は星霊王から聞きました。わたくしも私用ですが、貴方を応援いたしますよ♪オフィウクス」
「ありがとう……」
あたしはリブラさんの言葉にどこか安心感を覚える。
あたしのやろうとしていることは、本当にやっていいことなのか、逃げ道のない今でも不安になる。
けれどこうして、あたしの願いを肯定してくれる人が一人でも多く入ると心がさらに決心で堅くなるのだ。
「それにしても……よく『オフィウクス』を制御できましたわね?」
「え??そうですか?意外に可愛いですよ?この子♪」
黒い刺青の生きた蛇の紋章は、あたしの身体を縦横無尽に這い回る。
「…貴方の神経がわからないですわ……」
「あははぁー、子どもの頃からよく言われます」
あたしはリブラさんの言葉に苦笑いをして答えた。
星霊王。クラウディオスさんの話によればこの『へびつかい座のオフィウクス』は『受け皿』なのだという。
実体がなく、ただのエネルギー体のような存在である『オフィウクス』は、年間星座占いが終わると同時に
マイナスの気をその場からかき集めるのだ。一位になったものの幸運が約束されるのは、その人の不幸をこの
オフィウクスが吸収しているからだとか。いわば「不幸の塊」のような存在なのだという。
けれど溜まりすぎると暴走する恐れがあるので、定期的に発散させているらしく、その役目を担っていたのが
あのサジタリウスだったとか……。
あたしの申し出を聞いたクラウディオスはあたしにオフィウクスとの融合の案を提示してきた。
あたしが悩む予知など微塵もなかった。確かに大変だったけれど、今こうして成功しているのはよかったと思う。
秋空の星が良く見える夜空に手を翳す。
あたしの腕を蛇の刺青が這いまわっているを見ていると、自分はもう人間じゃないんだということが実感できる。
「とにかく、オフィウクス。貴方が明日…レオン君に勝てるかどうか……わたくしにはわからないですけれど
自分がしたいように、してくださいませ♪わたくしも…最後は自分のやりたいことが出来て幸せでしたわ♪」
そういい残して、時間切れになってしまったのかそのまま消滅するリブラさん。
9月21日。
この年間星座占いが始まって約10ヶ月が経った。
色々あったけれど、明日で終わる……そして、長いあたしの夢が始まる。
あたしはもう一度手を月に向かって伸ばす。
あした…あたしは愛する男と戦う。レオンと戦う。このあたしが…。
皮肉なものだなぁ……レオンのために、レオンと戦うなんて…
あたしはそんなことを心の中で呟き、そっと瞳を閉じた。
--------------------------------------------------------------------------------
何があったかは知らない。
どうしてこうなったのかもしれない。
けれどこれだけはわかる。あいつが本気だってことだけは。
9月22日。
「来てくれたね。レオン」
「あぁ…事情は知らねぇが由香。俺はお前に勝てばいいんだろ?」
「ううん。あたしに負けてもらわないと困る。あたしが星霊になれない」
「てめぇを星霊なんかにゃさせねぇよ!!」
こうして、獅子座のレオンVS.へびつかい座のオフィウクスの闘いが……………始まった。
☆
「来てくれたのね。レオン」
何もない土地。
そこに行った俺を待っていたのは、いつもの学校の制服をきている由香の姿。
いつもと同じはずなのに、彼女の姿からはやはり人外の気配が漂っていた。
「あぁ…来てやったぜ……由香」
「さてっと…やるか?」
その直後だった。
由香の背中から真っ白で綺麗な羽が生える。
「前から思っていたんだが…なんだ?その羽??」
「話してる暇はないよ!!!」
「ッ!?」
突然こっちに飛んできた由香の拳を俺は驚きながら受け止める。
な、なんて威力だ……!!この拳の威力…FISHBOYと引けをとらねぇ!!
由香はなんの躊躇もなく俺を襲いかかる。
「どうしたの!?レオン!防御ばっかりじゃああたしに負けるよ!!!」
そう言われた直後、由香の回し蹴りが繰り出される。
避けることもできず、俺は無残に吹き飛ばされる。
「……くそッ!!」
地面に倒れる俺は思わずそんな言葉を吐く。
「どうしたの?レオン??本気を出しなよ」
「だ、出せるか!やっぱりこんなのおかしいぞ!!」
「…そう、レオンがモタモタしてると、あたしがあんたを倒しちゃうよ!!」
くそ!由香の奴はやめる気は毛頭ないようだ。
生半可に闘っていける奴じゃあない。由香が手に入れたっつう『へびつかい座のオフィウクス』。
あれと闘っているサジタリウスを見たことがある…やばかった。
隙を見て神槍一閃を放つしか倒す方法がなかったぐらいだ…。
今由香が融合しているオフィウクスは前みたときほどではないが…やはり化物じみてる。
「ねえ、レオン…お願いだから……闘って??」
少し涙ぐんだ瞳で由香は俺に言ってくる。
なんで、俺たちが闘って…しかもお前が悲しい顔してんだよ……。
一歩一歩…由香がこちらに近づいてくる。俺はなぜか知らないが一歩も動けないでいた。
「レオン…あんたが戦えないなら、あたしが闘えるようにしてあげる」
そういってしゃがみこみ、俺と同じ目の高さになった直後だった。
「ッ!?」
俺と由香の唇が重なる。
互いの粘膜が接触したのが確認できた。
由香が唇を離し、唾液が糸を引いて俺と由香をつなぐが、すぐに切れてしまう。
その瞬間だった。心臓部に衝撃が走る…。脳を何かが侵食する……。
「ゆ、由香…!てめぇ……!!何をした!!!」
「何って…あたしとレオンが闘えるようにしただけだよ?」
俺は力がみなぎってくるのがわかると同時に由香への敵意が現れてくる。
そう……俺は強制的に『天使喰い』を発動されてしまったのだ。
俺は自分の意思とは関係なく由香を襲いかかる。
「うん。その調子だよ…レオン」
そういいながら由香は俺の攻撃をなんとか受け止めようとする。
しかしスピードでは俺のほうが上なのか、何発か攻撃が当たる…。
由香の華奢な身体を己が傷つけていると思うと内心、心が痛む……。
互いに、頃合を図って、バックステップで距離を計る。
「…そうだよレオン。やっと吹っ切れてくれたね……。
でも、やっぱり手を抜いている」
由香は少し悲しそうに言った。
身体中俺がつけてしまった傷でいっぱいだ。見てて心苦しい…。
「……70%」
「ッ!?」
俺は思わず驚いてしまう。
今の言葉……馴染みのある言葉だ。けれど、発したのは俺じゃあない。目の前の少女…神崎由香だ。
「……ふぅー、回復完了♪」
「お、お前!!」
俺は思わず動揺しながら由香に問い詰めてしまう。
い、今の……!!
「あ、うん。説明がまだだったね……あたしの能力だよ♪レオン…」
羽を生やした由香はその羽を高らかに広げる。本当…天使みたいだ……。
「あたしの能力は『悪魔喰い』。
自分の『本能』を対価に力と、回復を司るんだよ?まさに真逆だね♪レオン♪♪」
そういいながら笑う彼女。
その笑顔はやっぱり可愛らしいのだが、今では恐怖心を抱いてしまうものでもあった。
「じゃあ…最初っから本気で行くよ!!100%!!!」
そう叫んだ瞬間。
彼女の羽はさらに高らかに羽ばたき、光輝いた。
直後、由香の姿は消える。速い!!
「ッ!?」
腹部に強烈な痛みが走る。
今の一瞬で俺の懐に!!
そのまま俺は何発もジャブを受けてしまう。
気のせいか・・・さっきよりも威力が数段に上がっている!!
「さあ、立ってレオン。まだ本気じゃあないでしょう??」
少し口調が変わっている…『悪魔喰い』の影響だろうか。
「あぁーもう吹っ切れた…女にこんなボコボコにされてんのも癪だわ!!」
俺はもう由香が相手だろうと関係ないと俺は奴に攻撃を仕掛ける。
けれどまったく歯が立たない!やはりパワーアップの分が足りていないのだろうか。
「くそっ!くそっ!!くそぉー!!!」
「やけくそになっても無駄だよレオン。本能には逆らえないもんね?」
たまに由香の顔を殴ることも出来るのだが、やはりこっちの方が不利…使うべきか……100%…。
そんな悩みを含めながら、俺と由香の対決は続く。
--------------------------------------------------------------------------------
本当、すごい闘いだな…と感嘆としてしまう。
あたし…松原李里香は、結局最後までこの星座占いを見てきたんだなと感慨深く感じる。
社長の下で、自分の眼で、そして…由香ちゃんの付き人として…。
そしてこれが間違いなく最終決戦。
そしてこの闘いに対する由香ちゃんの決意は重い。
だからこそ、あの『悪魔喰い』の能力を手に入れたんだと思う。
あれは…由香ちゃんを後戻りさせない能力……。
彼女の決意が揺らぐのを…阻止する能力なんだ…。
レオンと由香ちゃんが戦っているという構図は、今みても慣れるものではない。
出来たらあたしは目を閉じて、耳に栓をして、この闘いとは無関係の所にいたい。
毒島くん達に同じ思いをさせたくないから…知らせなかったんだろうなぁ…。
でも、あたしは最後まで見なければならない!そう思った。
あたしは由香ちゃんと約束をしたのだ。それを成し遂げないといけない…。
あたしがこの場に立ち会っているのは、何か…運命的なものを感じているのだ。
姉が愛した男。そしてその男が愛している女。
女は今強欲さに身を任せているのだ。自らの欲望を叶えたいと必死なのだ。
たとえそれが自分の愛する男と戦うことになったとしても……だ。
--------------------------------------------------------------------------------
「どう?私強いでしょ??」
完敗状態だ。
由香のやろう…なんでこんなに強い。
「早く本気を出してよレオン。なんだったらもう一度あの方法で無理やりしてあげようか?」
少し大人っぽくなった口調で言われて、さっきのことを思い出して思わず赤面してしまう。
「……嘘だよ。期待しちゃって、早くを本気を出さないとあたしにやられちゃうよ!っと!!」
そういってまた俺に攻撃を仕掛けてくる由香。
由香の戦闘パターンが大体分かってきた。
ほとんど……俺だ。俺が攻撃するパターンとほとんど一緒だ。
能力も正反対だが一緒。恐らく俺の闘い方を見てきてなんとなく真似て闘ってきている。
だから由香がしてくる攻撃も少しずつだが、予想は付く。
男女での殴りあい。見ていてこれほど醜いものはないだろう。
けれど俺たちは、それをやっていた。身体のどこにそんな力がと思うほど由香の拳は重い。
由香の傷だらけだが、俺はもっと重症だ。正直経っていられるのがやっと……。
これ以上50%の状態で攻防戦を続けていれば……俺は負ける。
「…由香!!俺はお前を絶対に!星霊になんかさせねぇ!!!…100%!!!」
そう叫んで俺は醜い化け物の姿になっていく。
全てを壊し続けてきた化け物。それが俺だ…。由香は壊したくないが…この方法しかない!
「ぐるらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺の本能はそのまま目の前の由香をしとめんとばかりに襲う。
けれど由香は一切怯えた様子はない。
その直後……俺は攻撃しようとしていた手が、一瞬止まった。
その隙を突かれて、逆に由香にパンチを食らわされて吹き飛ばされる。
「理性がないから聞いても意味ないと思うけどレオンに教えてあげる。
人を殺すのは本能じゃなくて……『理性』だってこと」
そのときの由香の顔は……紛れもない恐怖を俺に植え付けた。
--------------------------------------------------------------------------------
【さあ…ここからあの小娘がどう出るか…楽しみじゃわい……】
「…ところで星霊王様?これはどちらが勝ったら正解なんですの??」
「…またお前か、リブラ。貴様一人では入れなくしたつもりなのだが??」
「サジ君に手伝ってもらいましたわ♪」
「クラウディオス殿…忝いでござる」
【…ふん。まあいい、勝つのは『運』のいいほうに決まっておるだろう】
「例えるなら、『物語の主人公』…でござるかな??」
【…そう考えるも、またよしだ】
闘いは白熱する。
ただただ展開のない殴り合いを、化け物と天使の攻防戦を。
答えを知るものはただじっと見ていた。
--------------------------------------------------------------------------------
「ん…何?」
一人の少年がベッドから起き上がる。
幼い少年だ。異様なのが、まるで耳のような形をした髪。
彼はただ、何が起こるかも知らず、ただ何気なく………空を見上げた。
☆
覚悟が決まったのは、あの日の夜…あたしが初めて足引玲子さんと話した日の前日。
色んな星霊と、その占い師の絆を壊し、あたし達は幸せを掴んでた。
前から悩んでいた。
このような願い……無駄だと思っていた。
ただの欲張り。自己中心的考えを正当化したいがためのこの願い。
それを言う…試してみることが出来るチャンスが出来た。
「…『望み』あります。あたしは貴方に叶えてほしい願いがある!!」
星霊王。クラウディオスにあたしは言い始めた。
【ほぉ…面白い。どれ、他のものはないか?ないならこの娘以外を退場させる】
【では獅子座の占い師よ。話を聞こうか】
「…あたしの願いは『あたし自身を星霊』にしてほしいことです」
【その願い…代償が大きくつくぞ?獅子座の占い師】
「うん。わかってる。そのぐらいの代償……いくらでも払ってあげる」
【我は魚座の占い師が面白い。と思っておったが…一番はお主かもしれんのぉ獅子座。】
【して、その理由は答えられんのか?】
「…まだ、嫌です」
【そうか……『星霊になりたい』という願いは叶えれる。奴…オフィウクスを使えばな】
「オフィウクス??」
【あぁ…悪名高いものでな。まあ言うなれば『不幸の塊』のような奴じゃ…。
こやつを受け入れれるものは少ない。過去にお前と同じように星霊になりたいと言った奴がおったが
そやつはオフィウクスに耐え切れず……自我が崩壊した。そしてオフィウクスのエネルギーとなった…】
「………」
【それでも小娘。
貴様はオフィウクスを受け入れるか?他にも方法はないこともないが、一番手っ取り早いのはこれだ。】
「なら…やります」
あたしはそういって、星霊王に案内されて、オフィウクスの場所へ。
星もない。真っ暗な場所だった。
まどろみの中、天井も地面も壁も存在しない空間。
そこで待っていると急に何かに巻きつけられた気がした
「■■■■」
言語を喋っていない化け物はあたしの耳元で叫ぶ。
その声を聞くだけで苦痛になってしまうほどの、怒号音だ。
「…大丈夫…だから。落ち着いて…」
あたしはその声に必死に我慢しながら、話しかけてみる。
「あ、あたしは…貴方の力が必要なの…」
そう言った直後、オフィウクスはさらに絞め上げてくる。の、喉が……。
「れ、レオンの…みんなのために…!!」
そう言った直後だった。
なぜかオフィウクスの力が弱まり、代わりにあたしの体内に力がみなぎってくる。
「…貸す。力。」
「え?」
「…心。見た。女。安心。」
体内から響く声。恐らくオフィウクスの声だろう。
まだ声変わりも始まってない幼児のような声をしていた。
「…ありがとう」
あたしはオフィウクスの力を手に入れ、
クラウディオスに願いを全てを告げ、レオンを待った。
【よかったのか?この計画。レオンが最後の一人にならなかったら全て意味はないのだぞ?】
「うん。大丈夫だよ。レオンは勝つから…あたしにも」
--------------------------------------------------------------------------------
「はぁ…はぁ……」
「大丈夫?レオン??」
「う、うっせぇー」
「レオン?なんでライオンは自分の雌と子どもは食べないか知ってる?
ライオンは『理性』で食べないんじゃなくて…『本能』で食べないように出来ているんだよ?
人間もそうだよ。人が人を殺すのは『本能』じゃない!『殺意』と言うなの『理性』なんだよ……」
由香がそう言った直後に俺に攻撃を仕掛けてくる。
不思議だ。力は100%状態なのに、なぜかまだ理性がある…いや、戻ってきたか。
由香がどこに攻撃してくるか、また予想できてくるようになった。けれど未だに拳が重い。
「…へへっ、やっぱりレオンはすごいや…。どんどん強くなっていく」
俺との攻防戦の最中、由香が嬉しそうに微笑みながらそういってくる。
由香は俺の攻撃を全て受け止める。俺も由香の攻撃を出来る限り受け止める。
一進一退の攻防戦。
互いに、拳を出し、蹴りを出し、技を出し、血を流した。
延々と、終わらないのではないかと言うほどの互角の対決。
「こんのっ…!!」
俺が由香の頬をぶん殴ったと同時に、由香も俺の頬に拳をあてていた。
両方、双方に吹き飛ばされて、無残にも地面に転がり続ける。
「てめぇ!いい加減にしろよ!何が目的なこんなことしてんだ!」
「…まだ。まだ秘密だよ…あたしがあんたを倒すまでね…」
「こんのっ!糞やろう!!」
俺は隠し通すつもりでいた由香に腹を立て、そのまま襲い掛かる。
由香も俺の攻撃を転がって避けると、立ち上がり、俺の顎目掛けて蹴りをかましてくる。
俺はそれを受け止め、奴をぶん投げる。
なんでかしらねぇが…由香の奴、弱くなってる。いや、こっちが強くなってるのか?
とにかく形成は逆転していっているようだ。
投げ飛ばされていた由香はその場で羽を広げ、空中に飛ぶ。
俺は、高い場所に逃げられる前に、由香の方に飛び込む。
「っ!?」
俺がこの高さまで飛んでくるのに驚いているのか、驚愕を浮かべている由香の隙を突き、踵落としを繰り出す。
不思議だ……急に力が増した。さっきまでボコボコにさせられた相手をこうも圧倒している。
「…お前の目を覚まさせてやるよ!由香」
俺は常軌に逸した行動を取り始めた由香を止めるべく、奴を倒すことを決意する。
星霊になりたいと言い出した奴は何人もいた。そして何人も挑戦した。全員オフィウクスの餌食だったけどな。
人間が星霊になっちゃあダメなんだ。由香に俺のような辛い思いはさせたくない。
ここで『星霊』と言う幻想を打ち砕かないといけない!!
俺は由香の方に向かって走る。
もうボロボロになってフラフラの由香はそんな俺に対抗しようと立ち上がり、構える。
見ていて心苦しい部分もあるが、100%全開にしている本能が、心苦しさを消してくれた。
由香は俺の腹部に一発蹴りをかます。かなり痛い。まだ抵抗する力は残ってるみたいだ。
仕返しとばかりに俺は回し蹴りで踵を奴の横っ腹に突き刺す。
由香が負けじと殴ってくる。俺も仕返す…。
由香は最後の抵抗といわんばかりにフラフラながらも俺に攻撃してくる。
「もう…終わりだ」
俺はそんな由香を見てて同情してしまったのか。
これ以上由香に抵抗させてはいけない。そういう感情が芽生えた。
そして本気で、由香の肩を俺の腕が貫いた。…由香は倒れた。
「…へへっ、初めてやられた場所と一緒だね…」
倒れた由香は笑いながらそんなことを言った。
身体中ボロボロなのに、血まで流れているのに、彼女の笑顔はいつもと同じく、明るくて綺麗だった。
「あそこまで無茶しなくてもよかったのに…」
「っ!?り、李里香!」
闘いが終わった俺と由香の前に現れたのは、ずっと俺たちの闘いを見ていた松原李里香だった。
「てめぇ…!なんで由香とグルになってこんなことしたぁ!?」
俺は李里香の胸ぐらを掴んで、彼女に怒鳴った。
「や、やめてレオン…。李里香さんは悪くない。」
そういわれ、李里香を離す。彼女は安心した顔で胸をなでおろした。
「レオン、ちょっとこっちに顔近づけて」
俺は言われて、なんとしていいかわからず、彼女の言葉に従う。
「あ、あのね…あたし……」
そんなとき、由香が光に包まれる。
星霊の敗北は…星霊界に戻るのだ。由香も半分星霊になったのだから、例外ではないのだろう。
「本当に…大好きだよ♪」
そういわれてすぐ俺の首に彼女の腕が絡まり、引っ張られ…俺と由香の唇が触れた。
数秒の沈黙。その後、由香は俺から離れていった。光で由香が消えかかる…。
「じゃあ…後の説明お願いしますね…李里香さん」
「…わかった」
「お、おい!由香!後の説明ってなんだよ!お前は結局何がしたかったんだよ!!」
「ごめんね…レオン。ほんのちょっとだけ…我慢して、待っててね?」
「ま、待つって…何を―――」
俺の言葉の途中で、由香はそのまま消滅していってしまった。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
俺は思わず泣き叫んでしまう。
やったのは自分のくせに、被害者面して…泣き叫ぶ。
「…レオン。話、いいかしら?由香ちゃんからの伝言」
「あ、あぁ…聞かせて…くれ…」
俺は涙を流し、嗚咽を吐きながら、李里香の問いに答えた。
「まず、貴方が勝てた理由ね?彼女の能力『悪魔喰い』は、本人の本能を犠牲にする能力の他に
相手に『力と理性』を与える能力。でもあったのよ…。まさに、貴方の中の本能と言う悪魔を喰う能力だったの」
「っ!?じゃ、じゃあ…!!」
「えぇ、彼女はもとより勝つつもりなんか甚だなかった。
貴方に本気を出させて負けることが彼女の目的…
彼女が星霊になる条件は『レオンに匹敵するかどうか』だから」
李里香は悲しそうに問いかける。
彼女の目が涙で滲んでいるのがわかった。
きっと、こいつも由香から全てを聞いたとき、反対したのだろう。
「なあ、聞かせてくれよ…由香は、なんでこんなことしたんだよ」
「彼女の願いはね…」
--------------------------------------------------------------------------------
「おめぇら!!サボんなよ!!!」
「「「「ウィーッス」」」」
工場現場。
そこで作業する無精髭の似合う男。
そしてその場所に、フードを被った男が訪れる。
「…相変わらずだね。雅樹」
「っ!?おめぇ……!!!」
「いらっしゃいませー!!」
「お一人なんだけど、指名…『カイト』いる??」
「はい。いらっしゃいますよご指名入りましたぁー!!『カイト』ー!!」
「あ、うーっす」
「おめぇ…かなり可愛い子が指名してきたぞ?知り合いか??」
「え?誰っすか??………あ」
「やっほー♪久しぶりね…海徒♪♪」
「うっ、うぅ…」
「ったく!人間の癖に星霊と喧嘩なんかすっからだ!ったく!」
「お、鬼塚…もうちょっと優しくしてくれてもいいんじゃ…」
とあるアパートの部屋。
布団で横になっている少年と、乱暴な口ぶりの少女がそこにはいた。
「おい!俺様が戻ってきたぜぇゲームだゲーム!!……あぁ?」
大柄の、ぶかぶかのパーカーを来た坊主の男が入ってくる。
「…お前、何者だ!勝手に人んち入ってきやがって!!」
「……もしかしてお前…裕太の女かぁ?カァー!!裕太まさかこういうのがタイプだったのか」
「なっ!あ、あたしはこここここ、こいつの女じゃねぇよ!!」
「あぁ?そうなのか??おい、裕太?どうなんだよ???」
「……ははっ、この声、懐かしいな……お帰り…」
少年は、その男の声を聞いてふと笑みを溢し、そんな言葉を漏らす。
「おうっ!」
「夢香!!」
「……っ!?ど、どうして…!!」
「ある人のおかげでね♪」
「…よかったぁ…!ずっとね?夢で見てたんだよ?本当に…お帰り」
「うん!ただいま!!」
「はぁ…」
「溜め息か?雪音。そういうときは甘いものがいいらしいぞ??」
「うん…。…っ!?」
「ん?今気付いたのか?お前はそういうところが抜けている。一企業を背負う人間だぞ?しっかりしろ」
「…うん!お帰り!!」
「あぁ、只今帰った」
「あのぉー、ここに…『高波桜』って子…預けられてませんかね?保護者ですけど」
「……パパ!!」
一人の少女が施設所に入ってきた男に対して抱きついた。
「悪かったな桜!もうてめぇを一人にゃあしねぇぞ?」
「うん!!」
「ミュー!!!」
「…ば、バルちゃん…?」
「…みんな、お待たせ!!」
「そうよ!まったく!!ヴォーカルがいないと始まんないんだからぁー!!」
「まったくだ。誰が俺を踏むというんだ!!」
「軌条くん…それは違う」
「ただいまでござるぅ!手塚殿!!」
「……お前、何牢屋の中で出てきてんだよ」
「むむっ!まさかあの後捕まったでござるか!?」
「あぁ…竹丸も斬璃もな……」
「ここは拙者が三人を脱獄させるしかないでござるなぁ…」
「…何それ…超面白そうじゃん♪」
「本当、手塚殿と入れば退屈しないでござるな」
「…ただいま戻りましたわ♪」
「貴方、なぜ戻ってきたの?」
「貴方様の利益になるためですわよ?足引様♪」
「…こいつは驚いた。僕にまだヒーローになれるチャンスが……」
少年は、手を空に掲げた。その手の周りには魚が浮遊していた。
「「リリ姉!!」」
俺、獅子座のレオンの前に、李里香に向かって駆けてくるジェミニの姿。
俺にはもう何がなんだかわからなかった。
「由香ちゃんの願いは……『全ての星霊の人間化よ』」
そして、星座占いは……終結した。
☆
【…これで終わった…な】
「本当にすいませんでした。無理な願いを言っちゃって」
【良い。幸い…処理しなければならぬオフィウクスは貴様が飼いならしてしまって済んだし
大概の星霊の後釜は用意出来ている。問題は魚座と獅子座だ……】
「その二人が用意出来ていないってことですか?」
【左様。さきほど、問いただしていると太刀風修也はスィーとともに代行の魚座を担ってくれるらしい。
彼奴だけは他の星霊と違い、力をほんの少し残しておるからな…。この際だ。彼奴の願いも叶えてやった】
「中々寛大な人なんですね、星霊王さん…私の願いにも無償で叶えて欲しかったなぁー」
【あくまで、一時的な願いだ。小娘のは損害も大きかった…】
「まあ、それもわかってての願いでしたけどね」
あたしは少し溜め息を吐きながら、星霊王に言った。
ここからだ、ここからあたしの試練が始まる。
大丈夫かなぁーレオン…あたしがいない間に浮気とか…。
【まあよい。小娘に話があるのだ。入って来い……】
そういうと、星霊王はドアに対して話しかける。
もしかして…本題を切り込むまで待っていたのだろうか…ドアの向こうの人には悪いことをした。
「あ、あの…ほほほほ、本当に…僕……なんです…か?」
出てきたのは、まだ小学生ぐらいの小さな少年だった。
猫耳のように立った髪。おどおどとした仕草…。そして何より……レオンに似ていた。
「か、可愛いーーーー!!」
「ちょ、お、お姉ちゃん!?」
あたしは思わず彼に飛びついて思いっきり抱きしめてしまった。
とうの少年は困惑気味で焦っている。何このミニレオン!弱弱しいところが可愛いー!!
【お、おい…小娘、とにかく……落ち着け】
「あ、すいません…」
あたしは諭され、仕方なくその少年に後ろからもたれかかるだけで留まり、星霊王の話を聞くことにした。
【…小娘。お前にはこの少年『リオン』が獅子座に成りえる日まで、サポートとして星座占いに出て欲しい。
そしてこの『リオン』が一位を取れたとき、お前を開放し、お前の最後の願いを叶えてやろう】
「あたしに、この子の教育係をしろってことですよね?」
【そういうことだ。頼んだぞ】
--------------------------------------------------------------------------------
「桜。また一年…経っちまったのか…」
「ここにいたのね…レオン」
「あぁ…また来たか。なんだ、飯か?」
「えぇ、とりあえず一ヶ月分は入れといたわよ」
「ほんと…わりぃな…」
「ううん。悪いのはあたし達だよ。自分達だけ幸せになっちゃって…」
そういうと、彼女、松原李里香は俺と一緒に桜を眺める。
由香がいなくなって早五年。
俺は、ただただ落ちぶれてしまっていた。
最初の一年は、それなりに頑張ってみた。由香が星座占いに参加しているかもと言う可能性を信じ
町中を探して由香との遭遇を期待し探し続けた。けれど…まったく無駄だった。
それからと言うようなものずっと早苗と住んでいた家に住みながらこうして木を眺めるのが日常になった。
由香との約束だったのか、食料などは李里香が運んできてくれた…。
「由香…戻ってこいよ…」
--------------------------------------------------------------------------------
「キャンサーさん!この土嚢どこに運べばいいんでしたっけ??」
「そこの角だよ。六つぐらいいるから独りでやらずに!!」
「へーい」
工場現場。作業服を来ている赤髪の青年が、部下達に指示を出していた。
「おうおう、やってんな!!キャンサー!!」
「お、雅樹。うん……大分慣れてきたよ」
「お前よりも新人が増えてきたからな!しっかり面倒みろよ!!」
「うん!!あ、雅樹…今日、新人達呼んで、また鍋食べようと思わない?」
「お、いい案出すじゃねぇかキャンサー!!賛成だな!おーい!!
てめぇら!!今日はキャンサーの奢りで鍋パーティーだ!!!!!」
「「「「「「っしゃー!!!!」」」」」」
「ちょっとぉ!?僕の奢りって言ってないよ!?」
「よっしゃー!近所の『鍋庵』行くぞぉー」
「ちょっと!そこここいらで一番高いお店じゃないか!!!!」
そういいながらも彼は、雅樹の言葉を聞いて微笑んでしまう。
「ほら!僕が奢るんだから!!今日はみんな頑張ってよぉー!!!」
「「「「「へぇーい」」」」」
工場現場でみなが、返事をし、作業に戻る。
それを眺めながら…青年はフードを被る動作をする。
「あ…この服にフードなかったんだった……」
「てめぇはもう顔隠す必要ねぇだろキャンサー?」
そういって少年と、雅樹は二人して仁王立ちして、青い空を見上げた。
--------------------------------------------------------------------------------
「おぉー…」
「な、なんだよ!!じ、じろじろ見んなよ!」
「いや、そのワンピース、すげぇ似合ってるね綾」
「……/////だ、大学生になったんだから…可愛い格好しろって……雪音に……」
「あぁ、スコーピオンにも見せてやりたい」
「あ、あいつ来てないよな!?」
「来てるわけねぇだろ?ここ大学だぞ??」
「それが来ちまってんだよなぁー」
「「っ!?」」
「へっへー、堂々と入ったらバレなかったぜぇ…ほぉ、お前鬼塚か?可愛いじゃねぇか?」
「……う、うっせぇよ!!!」
「べふっ!」
スコーピオンが褒めた直後、綾ちゃんにぶん殴られて、ブッ飛ばされる。
「んで?てめぇら今からデートか??」
「「………あ、あぁ…」」
「よっしゃ!俺も一緒に行くぜぇー!空気ぶち壊し(笑)裕太ぁー!ゲーセン行くぞゲーセン!!」
「よしっ!まだ僕はお前には負けないぞ?」
「へっ!今日こそ勝つ!!」
僕とスコーピオンがそういいながら歩いている後ろをやれやれ…と言う顔をしながら歩く。
--------------------------------------------------------------------------------
「よっ!水奈ちゃん!やってる??」
「やってますよぉー珈琲でいいですか?」
「おう!ねぇ水奈ちゃん?今度映画行こうよ」
「ダメですよぉー♪私にはダーリンがいますから♪♪」
「だってよマスター!幸せもんだねぇ~」
「えぇ、うちの水奈は世界一の女ですからね。星霊でしたし♪」
「精霊?こりゃマスター上手いこと言うね!俺にも水奈ちゃんが精霊に見えるよ!」
そういって、常連らしき男が茶化すように言う。
そこのマスターとウェイトレスの女性はお互いを見て微笑む。
ここには、彼女目的に訪れる客と、マスター目当てで来る女性客で賑わう。
その喫茶店の名を『あくえりあす』と言った。
--------------------------------------------------------------------------------
「えへへぇー頑張ったね!夢香!」
「うん。なんとか車椅子に乗れるぐらいにはね♪」
車椅子に乗女性と、それを引く女性。
車椅子の女性は、とても薄幸そうで、けれど綺麗だった。
「あ、おねえちゃーん!!」
「ん?どうしたの??」
少女はかれこれ10年以上この病院にいる。
だからか、同じく入院している子どもにはお姉さんのように慕われているのだ。
「あのね、ボールが木に乗っちゃったの…」
「そう…。エリー?出来る??」
「うん!取ってみる」
そういってエリーは身軽そうに木に登り、ボールを取ってくれる。
「え、エリー?」
「お、お姉ちゃん…」
「え?どうしたの?」
「パンツ丸見え…」
「え…あっ!!」
彼女は驚いた拍子に足を踏み外して木から落っこちる。
「「「…ぷっ!あはははは」」」
その場にいた三人は、噴出すように笑い出してしまった。
「もぉーエリーといると夢のように楽しいよ!」
--------------------------------------------------------------------------------
「それで?結局どうするつもりなの?」
「私の企業は貴方の会社の従属会社になりたいと申し出ているんです。
我が社は私が未だ未熟故に、会社も不安定。いつ謀反が起きてもおかしくないの。
だから、一時的に貴方の従属に付き、私のバックアップをして欲しいのです」
「ほぉ…それに私の利益はあるのか??」
「貴方様の会社ほどではないですが、私の会社も中々の有力社であります。
もし貴方様がバックアップしてくれた場合、貴方様の会社に全面協力を惜しみません」
「ふむ…なるほどな…」
「それに、貴方は占いのときに私の情報を猫糞したんですよね?」
「…交渉が上手くなったわね。雪音」
「勿体無き言葉です」
「…貴方も菓子を作るのが上手いわね。カプリコ?」
「相手を押さえるにはまず胃袋から…と聞いたのでな」
「ふっ、正しい知識だな」
私は笑みを溢しながら、彼の入れた菓子を食べた。
--------------------------------------------------------------------------------
「李里香ちゃん!?聞いてくださいまし!!」
「はいはいどうしたんですかぁー?」
「裕太くんが綾ちゃんとデートだそうですわ!スコーピオンの邪魔があるとは言え、私すっごく不安ですわ!」
「その割には昔ほどアタックしないみたいだけど?」
「そ、それは…その……裕太くんももう大学生で…大人ですし……」
「男らしくなっちゃったから照れてるの?意外と可愛いとこあるのねリブラ」
「り、李里香ちゃん!楽しんでおりますわね!?」
「えぇ、あたしは昔リブラに遊ばれてたからぁーここいらであたしもリブラで遊ばないと♪」
「むむむ…李里香ちゃんは意地悪ですわ……そういえばジェミニはどうしたんですの?」
「あの二人は、小学校のバスケ部よ。結構すごいんだから♪」
二人は、テーブルで紅茶を飲みながら、そんなトークを楽しんでいた。
--------------------------------------------------------------------------------
「じゃあパパ!行ってくるね!!」
「おう、夕方には帰ってこいよ!」
遊びに行った桜を俺は見送った。
元気溌剌な子に育ってくれた…今日も友達と遊びに行くとか……。
「お、男じゃあ…ねぇよな?」
俺は、無駄な心配をしながら家の掃除を始める。
戦闘もない平和な日常だが、これはこれで…すげぇ幸せだと感じている。
--------------------------------------------------------------------------------
「今日こそ捕まえるぞ!手塚隆吾!!」
「俺があんたみたいなバカに捕まるわけないだろ?」
「大人しく正義の鉄槌を喰らえ!!」
町の角。
そこでFISHBOYに見つかった殺し屋にして脱獄犯手塚隆吾と相対する。
「手塚殿ォ!捕まるでござる!!」
「よしっ!また遊ぼうぜ!正義の味方さん♪」
「くっ、待て!!」
サジタリウスが乗ってきたヘリから下げられたはしごに乗って、手塚は逃げる。
それを追おうとするFISHBOYは、残念ながら逃がしてしまう。
--------------------------------------------------------------------------------
「みんな!今日はありがとう!!」
「「「いぇーい!!」」
ライブ。ファンが詰め掛けてきてくれている。
「じゃあ次で最後!この曲は、
あたしがバンドを続けられる理由にもなった一人の友達に向けての歌です!その娘は今はいません。
いつか戻ってくる日をあたしは信じてます。そんな娘に贈る歌です。聞いてください『StarAngel』!!」
そして演奏を始める。
ファンは歓声をあげてくれる。
私がこんなに楽しい思い出来てるのはあんたのおかげなんだよ?……由香??
だから早く、レオンの元に戻ってやりな――――――。
--------------------------------------------------------------------------------
「…はぁ……」
一人で桜を見ていた。
虚無感を抱き、無気力に木を眺める。
「なんて辛気臭い空気出してんのよあんた」
急に声が聞こえてきたと思ったら、座っている俺の背中に、重みがかかる。
背中の感触。身体に当たる面積が広い、背が伸びたのか?髪も長くなったみたいだ。
「…うっせぇよ」
「しかも酒臭いじゃん。ヤケ呑みしてたの?」
「…うっせぇ」
「それに、顔見てないけど、髭剃ってる?せっかくの顔が台無しだよ??」
「…うっせぇ」
俺は、唇を震わせながら、お互いの顔を見ずに会話をする。
「あれ?もしかして泣いてる?」
「…泣いてねぇよ」
「…ごめんね、五年も待たせて」
「………」
その問いに俺は無言になった。
「…怒ってるの?」
「怒ってるわけねぇだろ」
「……よかった」
そう言った直後、俺は顔を捕まれて、顔を捻られると同時に唇に柔らかい感触がした。
唇が離れて五年ぶりに見た彼女の顔
大人っぽさが出ていて綺麗になっており、髪を伸ばしたのがさらに美しさを際立たせた。
「どう?早苗さんみたいに美人になったでしょ?」
けれど口調からして、中身は変わってない。明るくて可愛い…由香のままだった。
「バーカ。早苗以上、いやどんな女よりも可愛いぜ!」
「バカはどっちよ。そんなお世辞じゃ嬉しくないよ!」
そういわれて俺はすぐに彼女を抱きしめて、こっちからキスをしてやった。
由香も俺の背中に腕を回して強く抱きしめてくれた。
「……お帰り」
キスをやめ、強く抱きしめて俺は由香の耳元で囁いた。
「うん!ただいま!!」
俺達は、桜が舞い散る野原の真ん中で、お互いを求め合うように、抱き合った――――――。
HAPPY END
ってなわけで終了しました「ゾディアック・サイン」!!
最後はみんなでハッピーエンド!><
って結果にさせていただきましたwちょっと強引な気がしますがww
こっから後日談やらも展開していくつもりですが
基本的な物語としてはこれで終了っす♪♪
今まで読んでいただいた皆さんには、本当に感謝しかありません。
誤字が多いのはすいません。まだまだ未熟で下手くそで、そのへんのチェックするような時間もなく投稿してしまっているもので……w
とにかく!今まで読んでいただいた皆さん!!
本当に!!ありがとうございました!!!!!><
どうか私の他の作品もご贔屓ください♪
ではでは(o・・o)/




