ゾディアック・サイン 8章『最弱者リブラ』
残る星霊は獅子座・魚座・射手座・天秤座の四つとなった。
それぞれが最終対決に向けて準備を進める。
そんな中、牡羊座・牡牛座・乙女座を制した星霊サジタリウスが猛攻を進める!?
一方そのころ、ついに正義の味方も動き出す」・・・・・・。
行方不明になった神崎由香
猛攻を続ける射手座のサジタリウス・手塚隆吾
そのとき、天秤座のリブラの取った行動とは―――――――。
12人の星霊サバイバル合戦!ついに最終シーズン開幕!?
「えっ!?神崎の奴がいなくなった!?」
学校の昼休み。
俺は学校に侵入して、屋上にて毒島、鬼塚、神倉と話していた。
俺が寝ている間に学校に行ったのかと思ったからだ。けれど学校にも姿がない。
「おかしいな…あいつがあたしに連絡もなしにどっか行くともおもわねぇし…」
「由香ちゃんいないの……寂しい…」
鬼塚と神倉がそれぞれそういう。
どうやら彼女達も由香の所在を知らないみたいだ。
昨日。俺は由香に誘われて同じベッドで寝た。あのときの彼女は確かに様子がおかしかった。
それに気付いていれば……あるいはまだどうにかできたかも知れない。
「まあ、学校にも来ていないのなら…リブラんとこの会社に行ってみるか」
「その必要はないわよ。レオン」
レオンがそういうと、どこからか声がした。
振り返ると、屋上に入ってきたスーツ姿も松原李里香だった。
神倉は何も言わずにとてとてと彼女に近づき、ハグをした。
「あらあら、どうしたの??神倉さん???」
由香成分が足りてないんだな…あいつ。
李里香も抱きついてきた彼女の頭を優しく撫でる。根っからの「お姉さん気質」なんだなあいつ…。
「んで?てめぇが来たから会社に行く必要はないってことか??」
「まあそれもそうだけど、彼女はわが社にも来てないわ」
「…本当か?」
「えぇ、確かに着てないわよ。まあだけど、心配しなくていいんじゃないかしら?」
「な、なんでだよ…」
「もし彼女が死んだとしたら、貴方も消えるはずですよ?あなたがいるってことは彼女は無事なのよ」
「そ、それもそうか…」
「まあ、マスターがいるでしょうし、社長にも言われたから今日から私が貴方のマスターになるわレオン」
「はぁ!?どういうことだよそれ!?」
「社長の意向よ。さっきの話を聞いたなら尚更よ。由香ちゃんがいないなら貴方が裏切る可能性もあるわ。
よって私が貴方の監視兼マスターを勤めるの。別にいいでしょ??」
「まあ、それは好きにしてくれていいがぁ……」
「じゃあ決まりね。それと毒島くんと神倉さん??」
レオンとの会話を終えた松原李里香は目の前の少年と、抱きついている少女に話しかける。
二人ともなぜ自分が呼ばれたのかと疑問府を浮かべている様子だった。
「貴方達に、社長が用があるそうなのよ。放課後まで待っておくから、学校終わったら来て頂戴」
「…は、はぁ…どうせリブラさんが何か企んでるんでしょ?」
「あら、毒島くんよくわかってるわね。そうよ、今回の用件はリブラさんの案件なの」
「もう俺はリブラさんの部下同然ですからね。彼女には感謝してますし」
「……どうしてあたしもなの??」
毒島と李里香さんが話しているとき、見上げながら問いかける神倉。
神倉の頭を撫でながら、李里香はその質問に答える。
「貴方に関しては社長が用があるみたいでね。
次期社長になる貴方と今のうちに話しておきたいんじゃないかしら?」
そういうと、神倉は少し照れくさそうに李里香の胸に顔を埋める。
その状況を見て、少し気の喰わない顔の女が一人……鬼塚だ。
その様子に気がついた李里香は少しにやついた。あ、今の顔由香のときそっくりだ。
「なんだったら貴方も来る?鬼塚さん??」
「は、はぁ!?なんであたしも行かなきゃなんねぇんだよ!!」
「貴方なんでも、山羊座との戦いのときに毒島くんと戦ったようね?戦力になりそうだし、貴方も必要なの」
そういった後彼女は神倉を離し、鬼塚の方に歩み寄って耳元で小さく何かを呟く。
「今から行く場所。社長もリブラさんも女性なの。リブラさんに関しては毒島くんを気に入ってるのよ?
まあ、毒島くん真面目で一生懸命だもんね。あたしもああいう男の子…嫌いじゃないかも♪」
「っ!?」
「どう?行く気になった??」
「し、仕方ねぇな!!毒島と雪音じゃあ心もとないだろうし、あたしが付いていってやんなきゃな!!」
「……綾ちゃん素直じゃない」
「うっせぇ!!」
少年達はそのまま騒がして談笑をしていると、学校の呼び鈴がなる。昼休みがもうすぐで終わると言う合図だ。
「ほら、授業始まっちゃうよ?」
「そ、そうですね。じゃあ放課後、社長の下へ窺います」
そういって一礼した毒島は、前の鬼塚と神倉を追うように、屋上を去った。
「それで?貴方の腕は大丈夫なの??」
「あぁ、おかげさまでな。まだ再生仕切れてないけど、後三日もあれば再生するだろう」
「そう、よかったわ。貴方はどうするの?毒島君たちと一緒に会社に来る??」
「いいや、回復を優先したい。もうちょっと由香が行きそうなとこ探してから、家戻って寝るわ」
「そう。じゃああたしこの学校の校長と話があるからここで別れましょう」
そういって俺は屋上から飛び降り、李里香はそれを見送った後、屋上を去った。
--------------------------------------------------------------------------------
「…これでよかったのよね?由香ちゃん??」
『はい。ありがとうございます。李里香さん』
「気にしないで、貴女はあたしにとって妹のような者なんだから」
『レオンのこと、お願いしますね…』
「えぇ、任された。だからそっちも…頑張ってね」
『……はい』
李里香が携帯で話している相手。
それは紛れもなく現在レオンが探している相手、神崎由香だった。
彼女となにやら話している李里香。
そう会話した彼女は、電話を切って
その高価そうなハイヒールで歩き、学校の床に綺麗な音を奏でた。
--------------------------------------------------------------------------------
「てめぇ…!!!!」
「やあ、獅子座のレオン。初めまして、僕の名前は太刀風修也って言うんだ」
「誰なんだ?俺のことを知ってるってことは……まさか!?」
「ご名答。だよ多分…。君のことを知っている人間は占い師がその関係者だけのはずだ。
はっきり言って僕はその関係者ではない。じゃあ……『占い師』と言う選択肢しかないよね♪」
「……『魚座』の占い師…!!!!!」
「そう。僕は魚座のスィーの占い師。太刀風修也だ。してその実態はぁ!!
っと行きたいところだけど…。レオン、君…腕はどうしたの??」
俺の切断された腕を見て太刀風はそう問いかけてくる。
「双子座との戦いのときに切れてしまったんだよ」
「そう、その腕…何時ごろに治る??」
「わかんねぇが……三日後ぐらいには完治すると思うぜ…だからなんだってんだ??」
「そうか。三日後が…じゃあそれまで待とう!!」
「……はぁ!?」
突然言い出した太刀風の言葉に俺は思わず口に出すほど愕然とした。
「ヒーローは手負いの相手を倒すものじゃあないからね!!むしろ僕が手負いの時に闘わないと!!」
…こいつは何を言い出しているんだ??
ヒーロー?あぁ、そうか…こいつはあの『海援戦士FISHBOY』なのか…。
なんだよ今残ってる占い師はどいつもこいつも色が濃いなぁ…殺し屋。ヒーロー。社長と…。
「じゃあ、8日後。もっかい君に僕は挑戦するよ。それまでに完治しておいてよね」
そういって俺に背を向ける太刀風。突然彼の周囲に現れたスィーが大回転して彼を水が包み込む。
そして水が飛び散った瞬間。彼の姿はヒーロースーツに包まれていた。
「じゃあね。レオン」
そういって彼は水しぶきをあげて、どこか遠くへ飛び立ってしまった。
--------------------------------------------------------------------------------
「毒島くん…久しぶりね」
「…それで足引さん。俺達に用ってなんですか?」
「まあ私が用あるのは神倉雪音のほうなのだけれども…貴方を呼んだのは――――」
「毒島くぅーん♪」
社長がそう言っている途中で俺の背中に突然重みが遅いかかってきた。
ガランガランと地面に鈴が落ちる音がする。恐らく後ろにいるのは……。
「り、リブラさん…」
「ご名答ですわ♪流石わたくしの弟子ですわぁ~」
「あ、あのあんまりくっつかないでくださいよ…」
「いいではありませんか♪わたくしと貴方の関係ではないですか。ねぇ~裕太くん」
「っ!?!?!?!?!?!!?!」
「…綾ちゃん。よくわかんないけど落ち着いて…」
俺の後ろでリブラさんが身体を寄せてくる。
なんだか隣で鬼塚と神倉が騒がしいけど、何かあったんだろうか??
「…リブラ。話が進まないわ。離れなさい」
「…了解いたしましたぁー」
散々遊びまくったリブラさんはそのまま俺の元を離れて社長の机に座った。
「じゃあ、話をするわね。今、残った星霊は私のリブラも入れて四人。その一人は貴方たちも知っているレオン。
そして先日乙女座のバルを討ち取った射手座のサジタリウス。そして魚座が残っているんだよ」
「そ、それで……」
「貴方、リブラの弟子なのよね?今こそその恩を返すべきではなくて??」
「…そういうことですか」
俺は社長の言う言葉に納得がいった。
「つまり、この年間星座占い。俺は天秤座の陣営として働け。と言うことでしょう?
リブラさんの力をほとんど頂いちゃっているんですから、それは当然ですね?神倉たちはどうするんすか?」
「彼女にもやってもらうことがあるわ。あとは私と彼女で話すから。リブラ、そこの二人を連れて行きなさい」
「了解いたしましたわ♪」
そういって俺と鬼塚はリブラさんにつれられて、部屋を移動した。
--------------------------------------------------------------------------------
「手塚殿!準備できたでござるよ!!」
「OK。んじゃあまあー……どれに当たるかなっと!!」
パァン!!と響き渡る銃声。
「お!当たってでござる!流石手塚殿でござるな!!!」
「おっ、マジで!?どれどれ!?どれに当たったの??」
「……天秤座でござるよ!!」
「おぉ~俺天秤座と話したことないや」
「天秤座のリブラはまっこと酔狂な女でござる。拙者はそれなりに好みでござるがな」
「え?お前ああいうタイプがすきなの??」
「否。単純に和服を着ているのが「和」を尊重してて良いと思ってな!リブラ殿本人も大和撫子でござるし」
「俺は純粋な女の子の方がタイプだけどなぁー…。あ、タイプなら戦えないんじゃねぇの??」
「ああいう女子がタイプと言うだけで
拙者リブラ殿はなんとも思ってないでござるよ。酔狂すぎておっかないでござる」
「おっかない…か、まあ確かに最初レオンとバルを圧倒してたときはおっかなかったなぁ~」
「左様でござろう?あの女子は何を考えているかわからんでござるからな。
毎年のように自殺をしていたというのに、今年は本気で一位を目指しているようでござるし…」
「まあ、つまり不気味な相手ってことか……」
「それに今のリブラ殿の占い師は、一企業の社長でござるらしいからな。
それなりの対処をとってくるかも知れぬでござるし、セキュリティも強固でござるよ…」
「そうか、不気味な女に…。強固なセキュリティ。殺し屋としてこれほどいい勝負はないな。
だけど今、タウロス、バルとの戦いで結構な量の武器を消費したしな…。そのセキュリティのことを調べて
それを突破するための武器を仕入れるとなると………最低でも8日はいるか??」
「なら、8日後でござるかな?手塚殿」
「あぁ、とにかくサジはその会社を調べてみてくれ」
「御意!!」
そういって、サジは俺のいた場所から去る。
あいつは単独でも強いけど、あのスピードと研究し尽くした忍者テクのおかげでこういう諜報も出来て便利だ。
「さてっと、俺も武器調達と行きますかぁー」
そういって俺は知り合いに電話し始める。
それぞれ、最終決戦に向けての準備を進める。
--------------------------------------------------------------------------------
「ではでは♪鬼塚綾ちゃん。貴方に質問をいたしましょう♪♪私たちの戦力になりますか?」
「ぜってーやだ!!」
「…………ならお引取り願ってもらっても…」
「ぜってーやだ!!」
「………」
なんかわかんないけど、二人の間に妙な亀裂が走る。
なんだ。鬼塚もなぜそこまでここにいたがるのか……。
「……裕太くん。わたくし、この娘苦手かも知れませんわ…」
リブラさんが弱音を吐いていた。
まあ…理屈が通用しないタイプだし、リブラさんには苦手かも知れない。
「ま、まあ…見てるだけならいいじゃないですか。ね?」
「え、えぇ…まあいいんですけれど、わたくしとしては戦力を1つでも増やしたい所存で…」
「もし鬼塚が賛成しても俺が反対しますからね?彼女にこれ以上危険なことはさせれない」
「あら、随分と彼女にはお優しいのですね?裕太くん??」
「そんなんじゃないですよ。まったく関係のない一般人である彼女を巻き込むのはどうかと思っただけです」
「まったく関係のない一般人……ですねぇ~」
なぜかリブラさんは意味深げな笑みを浮かべて断固として動かない鬼塚を見つめていた。
その言い方だとまるで鬼塚が「一般人」じゃないような言い方ではないか?
「まあ、いいですわ。わたくしの負けです。では…修行と行きましょうか♪裕太くん」
「あの…」
「ん?なんですの??」
俺は、前々から思っていたことをリブラさんにぶつける。
「な、なんで急に俺を下の名前で?」
「ん?わたくしが裕太くんを好きですからですわよ??」
「「っ!?!?!!!?!!?」」
俺と鬼塚はその言葉を聞いて驚愕してしまった。
「ふふふっ。面白いですわ♪半分冗談ですわよ。こういうと二人共面白い反応をするものですから♪♪」
こ、この人は本当に……お遊びが大好きなんだな…。
と俺はつくづく思ったのだった。
その後、俺たちの特訓は真面目に始まった。
--------------------------------------------------------------------------------
「それで?これをどうしたらいいと思うのかしら??」
「…ここを、こう。そして…ここにこう配置して、ここをこう…」
「…すごいわね。貴女前世は諸葛孔明かなんかではないの?」
「社長にそのようなお世辞を頂き光栄です…」
俺、毒島裕太が特訓に疲れて、社長室へ向かう。
そこにいけば李里香さんが入れてくれた美味しい紅茶が飲めると思ったからだ。
けれどそこに李里香さんはいなく、なにやら地図を見てぶつぶつと言っている神倉と足引さんの姿だった。
「とにかく、これなら射手座が着ても、魚座がきてもそれなりの対応は出来ると思います。
少なくとも…毒島くんと、天秤座のリブラが敵にたどり着くまでの時間は稼いでくれるかと…」
「けれどこれほどの改造…。
短時間では不可能ね。残り四人の状況。相手も悠長に待ってくれるとも思わないわ」
「そうですね…。早くて5日。遅くても2週間後には手を出してきてもおかしくないはずです」
「…それはどうしてわかるの?」
神倉が言った憶測を不思議そうに聞く社長。
な、なんか社長よりも神倉の方がこと『戦略』に置いては上手のようだ。
あいつとゲームセンターに二人で行ったとき(ぞでぃあっく☆でいずで語るけど)のときも
格闘ゲームならまだ俺が勝ててたものの
軍事もの…戦略ゲーム。ボードゲームだったりすると勝ち目がなかった。
初めてやるっていう
アーケード型ゲームのルールを教えた日に俺を負かしたんだ。結構強い自信あったんだけど
そのゲームが通称「RFW」。チェスに近しいゲームだ。
このゲームはチェスと同じルールで動けるが、相手を殺すのは範囲にいたとき、そして自分は移動しない。
さらに本来8体いるポーンの代わりに補充兵が4体。キングと同じ動きを出来るが相手を倒せない。
そう。このゲーム…弾切れや罠まであるのだ。それを補充するための兵もある。
しかもこれは順番制ではなく、先に動かしたもの勝ち。素早い判断力と攻撃が勝負を決めるゲームだ。
ルールを教えた瞬間にゲームの必勝法にたどり着き、俺は彼女に負けてしまった。とても恥ずかしかった。
けれど彼女はそれほど、こと『戦略』に関してはものすごいものなのだ。
カプリコとの戦いでの神倉邸での配置も、思い出してみれば素晴らしいものだった。
全てを見渡せるカメラ設備。逃げればもっとも強い部隊のいる場所に誘導されていたし…。
そういえば、俺がこの会社でお世話になっていたとき足引さんの付き合いでチェスをやったことがあったな…。
もちろん足引さんにもボロ負けしてしまった。彼女も決して戦略戦に弱いわけではなさそうだが
あくまでボードゲームだけの経験で、兵力や弾数まで頭に回すのは慣れていないのだろう。
社長の問いに、神倉が呟くような声で答える。
「毒島くんにサジタリウスと闘ってるときのことを聞きました。
それとレオンさんからも手塚との戦闘のことを聞きました。
後、私は覚えてないけど、私の星霊ともサジタリウスは闘ったと聞きます。
さらにタウロスって言う星霊とも闘っているって聞きました。
だとすれば、そろそろ弾切れが来ているんじゃないかなと思うんです」
「弾切れ?そんなの簡単に補充できるでしょ??」
「はい。確かにそうですけど、この平和大国で本物の弾丸と言うのは簡単に手に入るものではないと思うのです
社長は町の中に普通に拳銃を売っているお店を知らないですよね?つまりはそういうことです」
「まあ、確かに…本来拳銃は裏からの入手しか出来ないわね」
「サジタリウスって星霊の能力から考えるに、上限はないにしろ。
今から彼らが闘うのは、
圧倒的兵力を持っている天秤座。全てが不明の魚座。そして回復能力の持った獅子座。
どれを相手にするとしても、武器調達が必要だと思うの…。そうなると少なくても三日はかかる」
ペラペラと語りだす神倉。
あいつがあんなにしゃべるのはヒーロー物の話題出したときぐらいしか見たことがねぇ…!!!!
さらに彼女は言葉を続ける。
「それで最低でも三日。私が言っていることを実現するには少ない日程です。
でも、これを工事にするんじゃなくって…リブラさんと毒島くんの星術を使えば…多少は出来るかと。
後、今は夏休みだし…社員達にはそのように申し上げて、休養を取ってもらって安全を確保しましょう」
「…そうね。あの子達も頑張って働いてくれているし…。
私が年間星座占いに集中できるのもあの子達のおかげだわ…。たまには休養をあげましょうか」
「遅くても2週間。その日程ほど彼らに夏休みを与えましょう。彼らの仕事分は私が賄います…」
「…次期神倉グループ社長の腕前…見せてもらおうじゃない」
社長は神倉の物申しに不敵な笑みを浮かべる。
そういえば神倉は有名な財閥の娘だったな…。
俺たちが知っている小動物みたいに懐いてくる可愛らしい神倉とはまた別の顔を見た気がする。
「それでね?毒島くん??」
あ、俺がいたこと気付いてたのね…。
神倉は振り返って俺を見てくる。そして手招き、こっちに来いってことか。
「何だよ?さっき言ってた奴か??」
「うん。確か毒島くんの星術は形を作るんだよね?結界も…」
「あぁ…そうだけど」
「結界を張った中の会社の形式を少し替えたりとかは出来ないの??」
「あぁ…まあどうだろ?出来るかな??」
「後で試してもらえないかな?」
首をかしげる神倉。
俺達の知っている神倉の顔だ。
「りょーかい。まあ今は疲れてるから本当に後で。あ、社長…李里香さんはどこに?」
「…彼女ならデートよ」
社長も少し残念そうに溜め息をはきながら言った。
デート……あぁ、レオンさんの監視に行かせているんだっけ?
「彼女の入れたての紅茶が飲めないのよ……!!!!」
あぁ…社長って実は李里香さんに心酔してるからなぁー。
ここだけの話、たまに二人で一緒に寝てたりするとか……。
李里香さん曰く「社長。ああ見えて甘えん坊なのよ?」だとか…。
秘書にそれを言われる社長って…俺たまにこの人がすごい人なのかどうかわからなくなってくる。
そんなとき、社長室のドアが開かれたのに気付く。
振り返るとそこには鬼塚の姿があった。
「おいっ、毒島。これ」
そういって鬼塚が渡してきたのは、市販のスポーツドリンクだった。
「李里香さんの紅茶もいいけどしっかり塩分取らないとぶっ倒れるぞ??」
「あぁ、悪いな鬼塚。わざわざ買ってきてくれたの?」
「あ、あたしだけ何もしないのもあれだしな!これぐらいは当然!!後でお前の財布から代金は取るけど」
「はぁ!?おごりじゃねぇのかよ!?」
「あったりめぇだろ!?何おごってもらえること前提で話してんだよ!ほら、あの女が探してたし、行くぞ!!」
「あっ、おい!」
俺はそのまま引っ張られて社長室を去る。
俺が去ったのを呆然と神倉と社長は見ていたけれど
しばらくしてまた地図を見ながらぶつぶつと言い合っていた。
--------------------------------------------------------------------------------
「…この辺なの?」
「あぁ、お前のうちで預かってほしい奴がいてよ」
「まぁ…あたしの部屋は無駄に広いけど…誰なの??」
「…タウロスのマスターだ」
「えっ!?牡牛座のマスターって!?」
「あぁ、タウロスと契約を結ぶ前に両親をなくして親戚もいない孤児だ。
今は施設に預けられているらしいが、タウロスのためにもそれはかわいそうでな」
そういって辿りついた児童施設場所。
中をのぞくと、子ども達が元気に遊んでいた。
俺は寮母さんらしき人を見つけると、彼女をじっと見る。
すると彼女も視線に気付きこちらを見ると俺達の方に向かって歩いてきてくれる。
「どうしたんですか?お二人とも??」
「あの…高波桜って子はいますか?」
「えぇ、いますよ。桜ちゃーん」
そういって寮母さんは桜を呼ぶ。
あの子だ。タウロスに懐いていたあの子が俺達に向かって走ってくる。
「あっ!たろうすの友達だぁー!!」
「っ!?」
俺は桜の言葉を聞いて驚愕する。
「れ、レオン…これって……」
「あぁ、ありえねぇ。この子…タウロスのことおぼえてるのか?」
俺達が驚いているのを他所に桜は「ん?」と首を捻っているだけだった。
「へぇー。あの「StarLine」の社長秘書ですか…」
「はい。桜ちゃんが言っている「たろうす」って人と友人の彼に頼まれてきたのですが
実は私も天涯孤独の身でして、親も兄弟も亡くなってしまい…」
「あらあらそれはぁ…」
「そして彼からこの子の話を聞いたときに、是非私の家で育ててあげたいと思ったのです」
「でもよろしいので?貴女見てるとまだ若いのでは??」
「社長秘書は大変で、男なんて作る暇もないですよ。
それなら、私は過去の自分と同じ境遇に立つ彼女を引き取ろうかと。
嫌味のように聞こえるかも知れませんが、社長からは給料を多く頂いてます。
けれど仕事に追われる独り身。どうもお金を使う道がありません。それなら桜の教育費に使おうかと」
「そうですかぁ…まあ、桜ちゃん。明るい性格なのでこの孤児でも随分と心を開いていますけれど
やっぱり幼稚園にいけなくなってしまったのは可哀想だと思っておりましたし…本当によろしいんですか?」
「はい!私が彼女の「お義母さん」になろうと思います!!」
「お姉ちゃんだーれ??」
「今日から桜ちゃんのお義母さんになるお姉ちゃんだよぉー」
「へぇー!たろうすには何時会えるの??」
その言葉を言われると、すごく心が傷つく。
けれど李里香はそれをぐっと答えて、桜に答えた。
「お姉ちゃんと一緒にいい子にしてたら…何時か会えるからねぇー」
「わかった!桜いい子にする!!」
そういって、俺と李里香はタウロスの占い師だった少女「高波桜」を養子として引き取った。
そして月日は流れ、八日後となる。
--------------------------------------------------------------------------------
「さてっと、攻略難易度はSSS級!!」
「武器充填は完璧でござる!!」
「んじゃまあ、ビル攻略……と行きますか♪」
「御意!!」
サジタリウスと手塚隆吾は堂々とビルの前に立ち、そう宣言した。
--------------------------------------------------------------------------------
「やあ、獅子座のレオン。腕は完治したかな??」
「……太刀風…修也!!!!!」
「ひどいなぁー。僕のことは「FISHBOY」と呼んでくれよ」
宙を浮く太刀風修也は、見下すように俺を見た。
運命の決戦が……始まる。
--------------------------------------------------------------------------------
「んじゃまあ、ビル攻略…と行きますか♪」
「御意!」
そういって男。手塚隆吾とその星霊サジタリウスは堂々とビルの中に入ろうとする。
普段ならこんなことはしない。なぜなら人がいるはずだから。けれどこのビルは違う。人がいないのだ。
そして普段なら屋根から、もしくは他のビルから伝って入るのだが、それもこのビルでは不可能。
本当にただのビルだというのにまるで「戦」をしようとしているというほどの立地点だ。
現代においては不可能に近い土地に一本しか立ってないビル。
高さも他のビルの軍を抜いている。あげくの果てに屋根からの入り口は存在しないときた。
仮に強盗がいたとしても、堂々と正面から窓割って入るしか出来ない。驚くような建築物だ。
だからこそ、手塚は燃えた。『暗殺者』で『殺し屋』の自分が自分のスタイルが通用しなくなった。
これではもうただの『テロリスト』になるしかない。自分の美学を潰された。最高だ!!
ビルの前に立つと、意外にも自動ドアが開いた。どうやら歓迎されているらしい。
「手塚殿…星術の気配が、お気をつけを」
「大丈夫だって。いざとなったらお前がいるし…俺もそこまで弱くない」
そういって二人して扉からビル内のフロントに入った瞬間だった。
奥の影から何かが光るのを見た。その瞬間。四方八方から矢が流れるように放たれてくる。
矢は間髪入れずにフロントの手塚隆吾たちに放たれる。矢は止まる気配がない。
そして数十秒して、矢は止まる。その無数の矢で手塚とサジタリウスに当たったのは……0本だ。
「『個室型核シェルター』でござる。これなら矢を通すこともできぬでござろう」
そういってシェルターから出てくる二人。
まるでこうなるのがわかっていたかのような対応。
本当に腕利きの星霊と占い師と感嘆するばかりだった。
「さてっと、矢を通してもらったら次はこれでござるかぁ」
フロントは、世間一般のフロントとは少し異なった形になっていた。
中央の場所のほかに、『五つ』扉があるのだ。どれかを選べと言わんばかりに大きな扉が。
「さて手塚殿。このような場合はどうしたらいいでござろう?」
「この扉、星術で出来てるんだろ?」
「左様。恐らくこのビルに星術を施して多少改造していると拙者は思うでござるよ…」
「なるほど、俺達を倒すべくわざわざフィールドを用意したわけか。面白い」
「して手塚殿。どれに行くでござるか?」
「どれって?そんなもん……」
彼はそういって少し息を止める。
すると、彼の後ろからいくつかの足音が響く。
「全部に決まっているだろう」
手塚がそう言ったとき、彼の背後には三人の男女がいた。全員怖い表情をして『武器』を持っている。
「…久々にお前から連絡が来たと思ったら、なんだこの不思議空間は?」
「まあまあ龍さん。ちょいとファンタジーな世界で殺しをしようぜ?考えるんじゃない!感じよう!」
「まあ、私はなんでもいいのだけれど…。対象はたくさんいるんでしょうね?」
「あぁ、安心しなよ斬璃。きっと沢山殺せるからさ♪」
「けっ、手塚さんが直々に召集かけっから大きなテロでも起こすのかと思ったのにちんけなビルかよ…」
「まあ竹ちゃんもそう拗ねないでさ♪ある意味国にテロかます以上に楽しいぜ?」
まるで踊るように、道化を気取って三人に話す手塚。
最初の男『山西院龍』根っからのヤクザだ。
次の女性『桐ヶ崎斬璃』大量殺人の容疑で指名手配されたテロリストだ。
そして最後の少年『新馬竹丸』つい先日少年院を出た「教師殺害」をした少年。
彼らは手塚が休戦の八日間に集めた彼の『駒』たち。
どいつもこいつも堅気の目をしていない。見ているだけで怯え腰を抜かしてしまいそうなそんな顔。
それはどれだけ強い星霊だろうと出せない『恐怖』と『気味悪さ』から出るオーラなのだろう。
「まあ、ってなわけで♪集まってもらってなんだけど、ここで一旦お別れだ♪」
手塚は飄々とした態度でみんなに演説する。
そして全員が個々に行こうとするルートを選ぶ。
「じゃあ諸君。健闘と祈って…殺しまくろう♪」
そういって手塚は自身のルートを歩む。
他のやつらもそこから何も言わず、ただただそのルートを歩いた
--------------------------------------------------------------------------------
「来ました。社長」
「そうね…まさか向こうも増援するとは…」
「でも…これも想定外ではあるけど、対処できないわけじゃない」
社長室。
そこにいたのは私足引玲子を加えて、神倉雪音。毒島裕太。鬼塚綾。そして李里香の五人。
李里香にはレオンの監視を頼んだはずなのだけれど、サジタリウスが攻めてくるとの情報を
神倉雪音が入手してから彼女は当日はレオンの元ではなく私の元にいると決めていたらしい。
「毒島くんの中にある獅子座の星力を使って徹底的に防御は対処している…」
「それに、私が要請した人達もいるわ。全員この事情を知っている有能な仲間よ」
そう、私には信頼できる「軍隊」がいる。
会社とは別で私が保有していた軍事力だ。決してこれを使って「圧力」をかけようとしていたわけではなく。
強盗や窃盗犯。そしてテロリストから自身の会社を護るためのものである。
「軍隊」と言うと聞こえが悪いが、言うなれば『強くて闘える警備員』と言ったところだ。
手塚隆吾を捕まえようと警察も駆けつけてくれた。もちろん私の知り合いが指揮を取っている。
この事情を話しても信じがたいので伏せたままだ。
このビルには、星術を使って強化コーティングと配置を弄った。
さあ、私の『駒』はどこまで彼ら最強の『駒』たちに通じるだろうか。
--------------------------------------------------------------------------------
「動くなっ!大量殺人を犯した『桐ヶ崎斬璃』だな!お前を逮捕する」
「あら、いい男が私のためにこんなに?嬉しいわぁー」
「ふざけるな!上からは射殺命令も出ているのだぞ!?」
「ふぅーん…そうなんだ。んじゃ」
そういった直後、叫んでいた警察の後ろの人たちが、次々と倒れていく。
盾から漏れていたその背中から、血が噴出されている。
「なっ!何が起きている!?」
「ほらほらぁ~♪早く私を逮捕しないと…死んじゃうわよ?」
そういって桐ヶ崎斬璃はまるでダンスをするかのように手を動かしている。
盾に身を隠す警察たち。桐ヶ崎はさっきから何もしていない。なのに盾からは弾丸が当たる音がする。
音もしない。何もないのに、盾から顔を出した警察官が次々と殺されていく。
「な、なんだというのだ!?お前はぁぁぁ!!」
一人の男が自棄になって突撃する。その姿は防具も完璧。ヘルメットもかぶっている。
彼の身体から弾丸が当たる音が響き渡るきっと撃たれてるそれだけは警察官にも分かっている。
なのに、彼女は何もしていない。手をこちらに向けてはいるが、何も持っていないし、何もしていないのだ!
「…自棄になった人を殺すのは、つまらないわ」
パァン!と音が響き渡り、突進した男の足が止まる。
防具を纏っていたはずの胸を弾丸が貫通しておりそのまま彼は倒れる。
床には血が流れる。それを見ていた警察仲間達は、驚いたように目を見開く。
「さあ?どうしたの?もっともっと…殺されに来なさいよ」
彼女。桐ヶ崎斬璃の言葉が、警察官たちに恐怖感を煽った。
怯えた彼らには桐ヶ崎が「死神」に見えた。
--------------------------------------------------------------------------------
「…ふぅー。どうやらここは「ハズレ」…みたいだな」
「な、何を言っている!貴様!!」
男。山西院龍の前には数人の男達。
どれも構えが正しい…。恐らく何かの格闘技の有段者だろう。
そんな男達を前に龍は静かに煙草の煙を吸っては吐く。
その煙草を壁にこすり付けて地面に落とし、それを足で踏みつける。
真っ白なスーツの下に更に赤色の服を着ている。顔には傷があり、身体もとても筋肉質だ。
「ちょうどいい。こいつを試そうと思ってたんだ。お前ら…ちょいと『命』貸せや」
そういって龍は腰に携えていた日本刀を取り出す。綺麗な朱色の刃を持った刀だった。
龍はそのまま数人の男に目掛けて走りだす。
一人の男の攻撃を交わし、そいつを躊躇なしに切り裂く。
身体から血を噴出した男は、怯えたような表情になる。しかしその直後…その男は燃えてしまう。
「熱い!熱いぃぃぃ!!」
「お、おいっ!どうした!?」
一人の男が炎に包まれて地面を転がり続ける。炎を消すための行動だろう。
「余所見してっとてめぇも焼けるぜ?」
燃えている男を心配して余所見をした男をさらに切りつける。奴も燃えて苦しんでいる。
「く、くそっ!!」
一人の男がこちらに対抗しようと殴りかかってくる。
その拳はモロに山西院の鳩尾に入る。けれど彼はひるまなかった。逆にひるんだのは殴った男だった。
「い、いてぇ…」
「腹には鉄板。ヤクザの常識だ。覚えとけ」
そういってまた目の前の男を斬った山西院。
「あっ…あぁ…」
残った男が怯えるように彼を見る。
同僚達が燃えている炎に囲まれていた山西院龍は男には…『鬼』に見えた。
--------------------------------------------------------------------------------
「君、高校生か?」
「あぁ!なんだよ悪ィかよっ!」
「こ、高校生がなんでこんなところに…」
「こいつ知ってますよ。『教師殺し』を犯した少年『新馬竹丸』ですよ」
「っ!?こ、こんな子どもが教師を!?」
「あぁーそうだぜ警備員のおっさん。最近の子どもは危ないんだぜ?
鬱陶しかったからその教師を俺が嬲り殺しにした。そしたら少年院行きだぜ?酷くね??」
軽い口調で警備員達に意を唱える新馬。
真っ黒な制服のボタンを全て開け、黄色のシャツが姿を現している。
そんな少年の拳には、少し変わった見た目のメリケンサックがはめられている。
「んで?おっさんらも俺に嬲り殺しにされるわけだ♪」
拳をあわせた少年はそのまま警備員達に突撃する。
警備員達も相手が子どもだろうが手加減せずに集団で攻める。
新馬はボクシング経験があるのか、綺麗なフットワークでこれをかわし、警備員達に拳を浴びせる。
一度捕まったりするも、裏拳や金的。卑怯な手を使ってこれから脱し、体勢を立て直す。
集団は流石にやばいと思った新馬はバックステップでその場から離れる。
「えーっと。ひーふーみーよー…俺何人殴ったけ?」
すると突然そんなことを口走る新馬。
殴られただけでダメージはさほど受けていない男達は思わずきょとんとしてしまった。
このとき、全員でもう一度新馬に突撃しなかったのは
相手が子どもだという油断と拳が強くなかったことによる彼らの奢りからだろう。
「まあ、とりあえずこれで何人かが死ぬだろうよ!」
そういってさらに新馬はその場を離れる。
何が起きるのかまったくわからない警備員達は少し慌てていた。
そんなときだった。一人の男の肌がブクブクと腫れていくのは…。
「キタァー…!」
新馬は下卑た笑みを浮かべてそれを見ている。
最初の被害者を見て警備員達は慌てふためく。
ブクブクと腫れあがった皮膚の男が苦しそうに涙を浮かべる。そして
「ドーン!」
そう叫んだ新馬とほぼ同時に、男は爆発した。
まるで水風船が割れたかのように。
それに相次ぐように彼に殴られた警備員達が爆発する。
姿は消えない。内部爆発が起きたように身体の透き間から血がふしだし、その場で気を失って倒れる。
「さあさあ!俺を倒せるもんなら倒してみやがれ!」
ドヤ顔で構える新馬の顔は無邪気で、殺意に満ちていた。
それを見た警備員は彼の姿の後ろに恐ろしい「悪魔」を見た。
--------------------------------------------------------------------------------
「ふ~ん♪ふ~ん♪誰っかこないっかなァ~♪」
楽しそうにステップを踏む手塚。
そんな歌を歌うほど彼は楽しんでいた。
そして彼が歩んだ後には…倒れる死屍累々とした光景が広がっていた。
--------------------------------------------------------------------------------
「…みんな今頃楽しんでるかなぁー」
青年。手塚隆吾は一人ごとを言って長い廊下を歩く。
彼が言うみんな……とは彼が召集した『共犯者』あるいは『共通者』である三人。
『山西院龍』『桐ヶ崎斬璃』『新馬竹丸』の三人だ。
龍さんとは昔からの仲で、斬璃とは最近に会った。
新馬くんに関しては少年院を出た瞬間に僕が攫った。
仲間にならないなら普通に返すと言って、脅しもしなかったのに彼は俺につきしたがってくれたっけ。
そんな三人には、共犯の条件としてサジタリウスから『武器』を与えてやった。
最初は不思議がっていたが、ためしにその辺の人殺してこいよ。って言ったら
龍以外の二人はすぐさま外出てかえってきたら返り血浴びてたっけ…。あの二人は本当に狂ってるなぁー。
まあ……俺も人のこと言えないか。
「き、貴様!!」
曲がり角で二人の男に遭遇。
俺はすぐさまライフルを構えて奴らよりも早く弾丸を放つ。
二人とも俺に弾丸を放つ前に足をやられて倒れる。
「ごめんねぇー。俺は仕事以外の時は人殺さないんだぁー♪」
倒れている警察官から拳銃を奪って俺の収納バッグにしまう。弾丸が使えるだろうしな。
そして俺は俺を攻撃する手段を失って地面に這いずっている警察を見ながら腰を下ろす。
「なんで殺さないと思う??」
俺はそういってライフルの先っぽを警察官の貫かれた部分に突きつける。
「ぐあっ!!」
警察官は苦痛の声を挙げる。
それを見ていたもう一人の警察官は怯えたようにその狂気じみた行動を見ていた。
「こうやって最後まで『痛み』を味あわせれるでしょ?」
俺は苦しんでいる警察官に向けて言い放つ。
あぁ…やっべ、この顔最高。写メ撮ろうかな…あ、通信機はあるけど携帯ないや。
「じゃあまあ、そのまま出血多量で倒れるまで痛みに苦しんでてよ♪」
そういって俺はその二人の男を他所に歩き始める。
本当、痛みに苦しんでいる人間と言うのはつくづくおもしろいや。
--------------------------------------------------------------------------------
「…まずいわね。まさかここまでなんて……」
「恐らく。サジタリウスから何かを与えられてるんだと思います」
「うん。俺もそう思いますよ足引さん。あの武器はどこか能力じみてる。多分『神具』の類でしょう」
モニターでエグイ光景を見ている足引さんは重苦しそうな顔をする。
その画面を見ているのは足引さんと李里香さん、そして俺だ。最初に画面を見ていた
神倉はその光景に吐き気を出したのでやめていた。鬼塚ははじめから見ていない。
「このままではジリ貧だわ。どうしようか…」
「この部屋分けの意味を使うしかないでしょうね…。全員覚悟は出来ている??」
足引さんは俺達を見回して静かにそう言った。
「さ、さっきの頑張ってみてましたけど、この能力を予想して……組み立てるなら…」
神倉雪音は画面を見て気分が悪いだろうに我慢しながら俺達に何かを説明していた。
見てろよ殺人者共……俺達の反撃を見せてやる!!!
--------------------------------------------------------------------------------
「かぁー!サジさんがくれた武器マジっすげぇ!!」
俺。新馬竹丸はとにかく発狂していた。
もちろん足元は死屍累々としている。
少年が持っていた武器は神具『黄道水炉』と呼ばれるもので、
少し改造してもらってメリケンサックっぽくしてもらった。
能力は簡単だ。殴った相手の身体内の水分を爆発させる。ただそれだけの能力。
だけど人間の体内にある水分は約70%…だったかな?
俺中学のときに少年院で高校行ってないからわかんねぇや。
ちなみにこの制服は自分で買った!かっこよかったしな!!まあいうなればコスプレと同じようなものだ。
ってその説明はどうでもいいんだよ。
つまりこれで殴られた奴は体内の水分がめちゃくちゃになって爆発する!
一撃与えたらそれでジ・エンド!!嬲り殺すのが俺の流儀ではあったがこれはこれでおもしれぇ!
そういって歩いていると、1つの扉に到着する。
どうやら色んな迷路をわたってきたが、どうやらここがゴール地点のようだな…。
俺は扉を開ける。そこは真っ白で広い場所。そしてその目の前にはブーツを履いたタイスカートの女。
「き、綺麗な人だなぁ……」
俺は思わず目の前の人を見てそんな言葉を溢してしまう。
「ありがと。でも貴方は敵なの。そのナンパにはお答えできないわ」
あっさりと振られた。なんと不幸な俺。いや……幸せと言っておくべきかな??
「お姉さん。手塚さんの敵っすね。この会社にいるってことは」
「そうよ。だから何って言うの??」
「じゃあ!あんたも殺していいってことだぁ!!!」
俺はとにかく屈託のない笑顔でそう言った。テンションが上がってくる。
俺は今からこんな美人をぶっ殺せるのかと…この人が爆発したらどんな血が出るのだろう。
血まで美しかったらどうしよう?飲んじゃう??いや…俺にそっちの趣味はないけど……綺麗なら持ち帰るかな
しかも何よりも気に入っているのは、彼女は俺に怯えていないってことだ。
単身で、しかも俺のこの返り血を見てもなお、怯えることなく俺に睨みを聞かせるこの女……惚れた。
「ねえ、お姉さん名前は?」
「どうして答えなくちゃいけないの??新馬竹丸くん」
「お、俺の名前知っててくれるの?うっれしーなぁー。
でも俺が知られててお姉さんは知られてないのは不公平なんじゃないっすか??」
「…そうね。まあ別に教えてもデミリットはないでしょう。松原李里香よ」
「李里香…いいねぇ。俺年上の女性が好みなんだよ♪」
俺は睨んだ。彼女、松原李里香を…。
けれど彼女は怯まない。それどころか戦闘体勢に入っている。おいおいマジか!?闘うつもり!?
「いいねぇ…嬲り殺しにしてやるよ!!」
--------------------------------------------------------------------------------
あたし、松原李里香の目の前の少年は狂気じみた目でこちらを見てくる。
相手が星霊なら勝ち目はゼロだ。身体能力からして違うのだから。
けれど相手は神具を持っているとは言え普通の人間。しかもまだ子どもだ。
「…年上が好みであたしを気に入ってくれてるみたいだけど…それでも嬲り殺すの??」
あたしは、話しても無駄だとは思うのだけれど、少年に話しかける。まあ簡単に言う時間稼ぎである。
「あぁ?あぁー。じゃあ綺麗なお姉さんには教えてあげるぜ」
そういって少年はまるで元カノの話を始めるかのように嬉しそうな顔で語り始める。
「俺が初めて殺した先生ってのはなぁ?女の先生だったんだ。
そぉー今のお姉さんみたいなスーツにタイスカートの美人で優しそうな先生。
俺は一目惚れした。まあ学生の淡い青春の一ページっつうところだなぁ。しかもその先生は喧嘩ばっかの俺の
相手もしてくれてよぉー。いやぁーあんなに優しくいい女っつうのは多分この世を探しても少ないぜ?」
彼の話を聞いていると、少し理解しがたい。
そこまでした先生をなんで殺したのだろうか??
「…その先生に裏切られたりとかしたの?」
「ん?あぁーちげぇちげぇ。そんなドラマにありそうな教師じゃねぇってあの女は。
すっごく優しくてすっごく美人ですっげえ人気の先生だったんだ………だから殺した」
「……え?」
あたしは彼の言葉を聞いたとき、思わず呆然としてしまった。
つまり…彼はその先生が好きだった。愛していた……だから殺したと?
「快感だったぜぇ…初めて人を嬲り殺したのは……。
銃とかナイフじゃねぇ、撲殺!この拳で!!先生を見てると殺意が湧いて……衝動に任せたんだよ!!」
あたしは怒りを抑えるために必死に手で拳を作って握りしめる。
爪が手を刺して、今にも血が出そうなほど強く握り締めている。
少年に悪意はない。本当に殺すことに意義がない。いや……殺すことが殺すことの理由なのか。
「命を……」
「ん?なんだいお姉さん?」
あたしの微かな言葉を聞き取り、聞いてくる新馬竹丸。
あたしはその軽い対応に溜まっていたものが一気に噴出された。
「命をなんだと思っているの!!!!!!」
誰でも言えるようなきれいごと。
だけど、あたしにとって、この一言ほど重い一言が思い浮かばない。
占いに巻き込まれて死んだ姉。
病気になって死んでいった母親。
心もとない人間が起こした事故で死んだお父さんにお義母さん。晴明と静夜。
みんな二度と戻ってこない命。この子に殺された先生にも、家族がいたはずだ…。
「あたしは貴方たちのような人間を許せない」
「あぁー仕方ねぇさ。俺らのような人間は理解されねーっすよ。この衝動も狂気も。
しゃーねぇのさ。好みのお姉さんに嫌われたってさ……でも、だからこそ殺す!!殺しがいも上がる!」
そういって、彼はあたしに向かって攻撃を始めた。
--------------------------------------------------------------------------------
やばい!この女ほど狂気に踊るのは久しぶりだ!!
ここまで俺の衝動、狂気を駆り立てる女はそうそういねぇよ!!
俺は彼女に殴りかかりに行きながらそんな心情を抱いていた。
初めて殺した先生もそうだった。内から湧き出る狂気に俺は逆らうことをやめて受け入れた。
殺した後に感じたあの愉悦感。何事にも代えがたい快感だった。
「おぅら!綺麗な血を見せてみろよ!!」
俺がそのままお姉さんに攻撃をしかけた。
「言っておくけれど、君が持ってる神具。とても弱いよ?」
その瞬間だった。
俺は地面に脚が付いていないのをすぐさま理解した。
そして俺の拳が彼女に当たっていないこともすぐに理解した。
そしてその後だった。本来は一瞬の出来事なのだろうけれど、俺には数秒のことに思えた。
数秒、空中を浮遊していた俺の身体は突然重力に押し付けられたかのように地面に叩きつけられる。
「いってぇ!!」
その瞬間。腕をそのヒールで強く踏みつけられているのに気付いた。
どうやら俺は、殴った拳を交わされ
腕をつかまれそのまま倒され、もう片方の腕での攻撃を防ぐために彼女のヒールで踏みつけられたっぽい。
「これで君は動けない。あたしが腕を掴んでる限り、君の右腕はあたしに当たらないし
あたしが踏んでいる限り、君の左手はあたしには当たらない」
本当に一瞬。
彼女が器用に行った行動は本当に一瞬で、俺には対処できなかった。
その後、俺が倒れる地面からうようよと透明なワイヤーがいくつか出てきて俺の身体を包み込む。
そのワイヤーが俺の身体を完全に縛ったのを確認すると、彼女はそっと俺から離れた。
「1対多ならその能力ほど強い能力はないけれど、1対1でしかも元々能力をわかられていたら
これほど対処の容易い能力はないわ。護身術の1つや2つ極めている人なら簡単に倒せる」
そうただいい放ち、彼女はその辺にあった椅子に座って俺のことをじっと見つめる。
あぁーあ。俺っちはここでゲームオーバーっすかぁ~いやぁ~やっぱ拳銃とかの方がいいのかなぁー。
でも…それだと人の温もりを感じれないし、やっぱり俺はこれでしか殺せないんだよなぁー。
なんて考えながら俺は、ただただ真っ白な天井を眺めた。
「後は頼んだよ。みんな…」
彼女、松原李里香がそう呟いたことを察するに
他のみんなが行った先にも彼女の仲間がいるのだろう。
まあ、俺は一番の下っ端だし、大人しくしておきますかぁー…。
--------------------------------------------------------------------------------
「あら、誰もいないじゃない?」
「……いるよ?」
私が部屋に入ると、誰もいないと思っていた部屋から声がする。
物陰から姿を現したのは、とても小さな体型のメガネを掛けた少女だった。
「えぇー一人?私はもっと沢山の人を殺したいのだけれど??」
「なら、望み…叶えてあげる」
そういってゾロゾロと何かが出てくる。
ロボットだ。しかも高性能に動いている。ここまでの技術日本にあったのだろうか?
「これだけいたら…文句ない?」
少女は可愛らしく首を横に傾けながら聞いてくる。……かわいくて殺したくなっちゃう
こうして、少女。神倉雪音と桐ヶ崎斬璃との戦いが始まる。
☆
「備えあれば憂いなし。昔私の好きだったような人が……言っていたような気がする」
「へぇ~そうなの♪でも残念だわ。貴方の備えは憂いしかないのだから!!」
私。桐ヶ崎斬璃の前に現れた少女。隆吾の情報では神倉雪音…だったかな?
そしてその後ろには、見た目の完成度は低いが、動きがリアルすぎて気持ちの悪いロボット達。
遠目で見ると、身体の抉れたゾンビのようにも見えてならない。
私は手を動かして彼女の周辺のロボットを潰しにかかる。
そして彼女本人に焦点を合わせて弾丸を放つ…。
「…あれ?」
「備えあれば憂い無し。自分が狙われるのは当たり前。だからその場に自分はいてはならない……」
「…立体映像って言うの?」
「うん。私は弱いから。この部屋にある星術は私のパソコン1つで扱えるようにしてもらっている。
だから安心していいよ?貴女は私を殺すことは可能だよ?私この部屋にいるもん」
そうとだけ言ってくれる。
なんて親切な子だろうか。逃げてもいいのに、私に殺してといっているようなものじゃない!!
「なんだったら、今度は幻とか無しで出てこようか?」
随分と舐めた口を聞いてくる神倉雪音。
少し腹が立つけれど、この広い部屋で…しかもコンテナなどが入り組んでいる場所で彼女を探すのは面倒だ。
お言葉に甘えるとしよう。
「そうね…悪いけど出てきてもらえるかしら?」
「うん……」
そういうとどこからともなくひょこっと彼女の姿が現れる。
きちんと歩いているし、さっきと同じような感じはしない。恐らく大丈夫だろう。
「じゅあ…死ね!!」
私はもう一度彼女の眉間目掛けて発砲する。
けれどその弾丸はロボットが間に割り込んできて防がれる。
「言ったでしょ?私はこの部屋の星術を全て遣えるようにしてもらってるって」
彼女は肩にぶら下げているパソコンを打ち込むと、部屋にあったコンテナが宙に浮き始めた。
「これは…まずそうね」
私は彼女が操って襲い掛かってくるコンテナから逃げる。
なるほど…ただの小さな女の子だと思ったけど……。
「いいわぁー。貴女。かわいいし、賢いし……コロシタクナル」
私と神倉雪音の攻防戦は続いた。
どれだけ撃っても彼女はそれを待っていたかのようにガードしてくる。
「貴女の能力はわかってるの。だから通用しないの」
神倉雪音が私を睨みながらそんな言葉を発する。
私がサジタリウスから授かった武器。神具『風霊之言霊』
この武器の「音」と「姿」を風で見えなくする。否定すると言ったものだ。
音と姿を否定する。それがまさしく私にぴったりだと思ってこれを受け取ったのだ。
手を翳すだけで放たれる武器への対処が完璧……か。それだとこちらが勝つ可能性は低くなったわね…。
どうしたものか……。
「ねぇ、1つ聞いていい?」
すると、神倉雪音が私の眼を見てそんな言葉を口にする。
彼女は私の了承を聞かずにそのまま言葉を続ける。
「貴女…桐ヶ崎斬璃はどうして人を殺すの?
私は少し興味があるの…。『殺人鬼』の気持ちって言うのを理解してみたいの」
「…へぇ、そんなこと言ってくれるんだ。私達のことを理解しようとしてくれる『普通』の人は初めてかも♪
いいわよ。答えてあげる♪私は世間一般で言うところの愉快犯ってだけなんだけどねぇー」
私は彼女の言葉に答えてあげることにした。
情に流されたわけでも、もしかしたら彼女は理解してくれるかもとかそんな感情は一切ない。
ただ……話せば『普通』の人は気がおかしくなっちゃうから♪♪♪
「私が殺すのに……『理由はない』が正解よ?
ほら、貴女は呼吸をするのは何のため?まあこれは生きるためよね。うん、たとえを間違えた。
じゃあどうしようかしら……うん。私の頭じゃあ例が出てこないわ。まあ最初に言った呼吸。と同じように
私はごく自然に殺人を起こしているのよ?竹丸は好きになった人を殺すとか言う変態だし
隆吾は自分が倒せるか倒せないかのギリギリ…言うなればゲーム感覚で人を殺してるって言うのがあるわね。
龍のことはよく知らないけど……あいつは仕事が仕事だからね。仕事のために人を殺してるってだけかも♪♪
まあそんな『理由』や『価値』があるのだけれど、私のはそんなものはないわ。ごく普通に、殺したくなったら殺す。
あ、でも1つ理由をつけるとしたら否定したくなっちゃったときかもね。人を。世間を。答えを。好意を。悪意を。
全てを否定したくなったときに私は殺意に走るのかも知れない。自分がこいつを嫌いと言う意志を否定して殺す。
私はこの人が好きだと言う意志を否定して殺す。
この人が正しいという意見を否定して殺す。間違っているという意見を否定して殺す。
まあ、結果としては殺したいときに適当な理由つけて否定して殺してるだけなんだけどね♪♪」
私は淡々と語る。
これを語ると聞いた人は発狂しちゃうのよ♪同属でもね♪♪
でもあの三人は違った。だから私はあの三人だけは『否定』せずにいようと思ったのだ。
まあ、その『否定しない』って気持ちを否定して殺しちゃう可能性もあるのだけれどね♪♪
その言葉を黙って聞いていた神倉雪音はしばしの沈黙の後に、私の自論に対する答えを呟いた。
「なんだ……つまらないの」
彼女の言葉に、私が発狂しそうになった――――――。
--------------------------------------------------------------------------------
「…あら?扉がなくなっちまってる……」
俺、手塚隆吾は入ってきた扉を見て、無くなってることに気付く。
しかも先にも扉がない……。
「私は他の子達と違って堅実に行くタイプなのよ…」
「えーっと、その声…たまにテレビで聞くよ?足引社長♪♪」
「ほぉー。殺し屋の手塚隆吾ともあろうお方に名を知られているのは光栄だわ」
「そりゃ~もう♪だって今回の俺のターゲットでもあるんだぜ?覚えるに決まってんじゃないかよ」
「そう。まあ、私は貴方に殺されることなんて微塵も考えてないのだけれど。損にしかならないし」
「…確かにそうだ。死んだら全てが損だ。
人間が死んだとき、そいつが稼いだものとかは全部「無駄」になっちまう」
「えぇ、私はその稼いだものが大きすぎるわ。
死んでも李里香や部下に任せればいいのだけれど…李里香にはまだ社長をするほどの腕はないわ」
「へぇーその年でもう後継者を育てているんだ♪さすが足引社長。本当に堅実な判断だ」
姿の見えない社長相手に話をしている俺はとにかく上を見て話すことにした。
ここにいないなら社長は確実に上にいるはずだからだ。きっと社長室とか言うので俺のことを見ているに違いない。
「んで?他のやつらと違ってっていってたけどどゆことなの?説明してくんね?」
「貴方に説明する必要はないわ」
「……そっ、じゃああってるか間違ってるかだけ教えてくれ。
恐らく俺らが分担した五つのルートにはそれぞれあんたが用意した刺客がいる。
そこで俺の同志たちが相手をしている。そして俺の相手はあんた。あんたは戦闘できるようなタイプじゃねぇから
この部屋には来ずに社長室で高みの見物ってところかい??」
「えぇ、そうよ。本来占い師は戦いに参戦せずにいてもよい役職だ。闘うだけ「損」だろう」
「……なるほどね。納得だ。じゃあ俺も闘うのはやめたほうがいいってことかな?」
「えぇ、貴方はこのまま警察に届けてもいいのだけれども、貴方なら簡単に脱獄してしまいそうだわ」
「さすがの俺もそこまですごくねぇよ~♪
脱獄できるのは精々ルパン三世ぐらいだって。でもまあ……抵抗はさせてもらうけどね!!」
そういって俺が持つライフルで壁を撃つ。
けれど弾丸は虚しい金属音を出して、壁に当たって地面に落ちる。
「あらら…こりゃやっべぇな……」
俺は思わず頭を掻く。
壁はなんかでコーティングされてんな…。
俺はあいつらみたいな神具を持ち歩いているわけじゃあねぇし、武器も移動用ぐらいしかサジから貰ってねぇ…
「こりゃ…「詰め」って奴か?」
「えぇ、そうよ。備えが悪かった貴方の負けよ」
「ありゃりゃ…そいつは残念だ。まあ、うちのサジがなんとかしてくれるさ。
なあ、社長…俺ももう何もできねぇ立場なんだ。1つ…情けと思って願いを聞いちゃあくれねぇか?」
「…何?」
「…あんたが今見てる全画面俺にも見せてくれよ」
俺の申し出にしばしの沈黙を浮かべる社長だが、決心づいたように一呼吸して話した。
「いいわよ。ここに大きな映像としてダビングしてあげる」
「さっすが♪社長はこういう場所も太っ腹だなぁー!!」
そういって俺は突然現れた画面から他の部屋の様子を眺める。
仕方ない。自身が駒のチェスは終わり……こっからは盤上を眺める人となろうじゃないか。
--------------------------------------------------------------------------------
「…つまらない?私の理由が??」
「えぇそうよ。人を殺すのにどんな悪意。どんな理由があって行ってるのかが気になってたんだ。
だけど理由がないって言うのは無意味。何の価値もない。人の死に対しても何も感じていないんだもん」
「貴女…自分が何を言っているのかわかってる?」
「うん。わかってるよ。理由もなく殺すような人は私にとってつまらないってことだよ。
貴女の殺しの中には快楽すらあるかどうか疑わしいんだもん…」
「あら、快楽はきちんとあるわよ?人を殺して絶頂を迎えそうだもの♪」
「そう。でもそこに……死者に対する「愛」がないんだもん」
「殺人鬼が殺す相手に「愛」があるとでも思ってるの??」
「うん。あるよ。悪意も1つの愛。それがあるから殺意が芽生えるんだもん。
でも貴女は違う。殺すことに理由がない。すなわち貴女は誰も愛していないんだもん」
神倉雪音はしんそこつまらなさそうに言っている。
その顔が本当に腹立たしかった。
「少なくても私は……「愛」を知らない人間に興味が出ない」
「ふっ、たかが女子高生が偉そうに愛を語ってくれるじゃないの?」
「だって……私の「愛」は本物だったもん。記憶を失ってもこの感情は忘れない」
「…何を言ってるのかわからないけど!とっとと殺させてもらうわよ!!」
私はそういって彼女に向けて発砲しようとする。
けれど自分が撃とうとする直前で、なぜか発砲音が部屋中に響きわたる。
「…ねぇ、殺人鬼の人って……自分が殺している人に殺されるって考えたことあるの?」
「……あっ」
「じゃあ、自分が拳銃持ってるのに、相手が持っていないって……どうやって確信してるの??」
私は腹部から噴出している大量の血を見ながら、意識が朦朧としている。
その朦朧とした視界の中見えたのは……小さな少女が似使わない拳銃を持って私に撃っていた光景だった。
「備えあれば憂い無し。相手がどんな手を使ってくるかまで判断して
備えておかないといけない。私みたいな子どもが拳銃を使わないと思い込んでた貴女の負け……」
悔しい。こんな女の子一人に拳銃で一発撃たれてしまうなんて。
あぁ…本当に……殺してしまいたい。
「な、何言ってるの?私はまだ、負けてないわよ……絶対に殺してやる!あんたを否定してやる!!!」
さっきまでの丁寧な口調も消えかかっているぐらいに心が揺らいでいる。
それほど目の前の少女をぶっ殺したいという症状に私は陥ってしまったのだ―――――――
--------------------------------------------------------------------------------
「よぉ、いかついおっさん!あたしが相手だぜ!!」
「あぁ?いかつい姉ちゃんが言ってんじゃねぇよ。ったくよぉ…」
真っ白で広い部屋。
そこでは日本刀を持った白いスーツの男と
制服姿で、綺麗な迷彩色で彩られた刀を持った少女が一人。
二人の名を「山西院龍」と「鬼塚綾」と言った。
☆
「何を言ってもダメだよ。この部屋にいる限り…貴女は私は倒せない。桐ヶ崎斬璃さん?」
「な、舐めてくれちゃってまぁ…!!!!」
桐ヶ崎は、拳銃を構えて彼女に発砲しようとする。
しかしその直後、足元を何かにすくわれる。急に地面が盛り上がったのだ。
倒れそうになる自身の身体を彼女は受身をとり体勢を持ち直す。
自分が放った弾丸は転んだ拍子にわけのわからないところに飛んでいったのだろう。
「まだ終わらないよ??」
そう呟く神倉雪音の背後からコンテナが浮遊しており、それが桐ヶ崎に向けて突進を始める。
やばい!と思った桐ヶ崎はその場から逃げようとする。
しかし、床から出てきているワイヤーが彼女の足を捕らえている。動けない。
コンテナが全て彼女に向けて放たれる。土ぼこりが彼女とコンテナの姿を消してしまった。
「どう?降参??」
土煙の中に話しかける神倉雪音。
もう彼女の中には「勝利」と言うものは確定的な事項であるのだろう。
「まだまだよ!!!」
土煙から飛び出してきた桐ヶ崎が手に何かを持って彼女に襲い掛かってくる。
どうやら『風霊之言霊』で透明にしたナイフでも持っているのだろう。しかしそのナイフは神倉雪音の顔寸前で止まる
「言ったでしょ?この部屋はいわば私の世界。
この部屋だけでは私は神なの。神である私に貴女ごときの「愛」も知らぬ人間には勝てない」
「…むかつく。いいわぁ…殺してやる!徹底的に!!肉も残らないぐらいぐっちゃぐちゃにしてぶっ殺してやるぅ!!」
目を見開き、神倉雪音の額に自らの額を当てて睨みつける桐ヶ崎斬璃。
距離はまったくないと言ってもいいのに、神倉雪音が纏う貫けない「膜」が二人の距離を作る。
「…よかった。やっと貴女にも「愛」が分かったんだね」
「あぁ?」
もう最初の丁寧な口調だった桐ヶ崎の姿はない。
神倉雪音が言った言葉に過敏に反応して睨みを利かせている。
そんな彼女に物動じず、神倉雪音は言葉を続ける。
「どう?初めて人を「うざい」と思ったでしょ?「むかつく」って思ったでしょ?
それが貴女にとっての「悪意」……そしてその「悪意」が…『愛』なんだよ。」
彼女。神倉雪音が桐ヶ崎斬璃に対して微笑みかけながらそんな言葉を発する。
そして彼女はついに………『発狂』する。
「だまれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
神倉を護る膜を壊してやろうというほどの力を込めた一撃は
膜を飛び越え、神倉雪音の腹部に傷を与える。桐ヶ崎はその光景を見て笑みを浮かべる。
けれど、おかしなことに彼女も笑みを浮かべているのだ。血が出てきたことにより額に汗を流しながら
「これが…貴女の「愛」の表れ方なんだね。私は…貴女の愛を理解した。殺人鬼の心を理解したよ??」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!」
桐ヶ崎は発狂してしまい、刺さったナイフをさらに抉る。
(怯えろよ!刺されてるんだぞ!?もっと恐怖に歪んだ顔しろよ!!
痛いだろ?なぁ!笑ってるのがおかしいんだって!!なぁ!!!)
彼女は心の中で何度も叫ぶ。
けれど神倉の笑みは止まない。もはや病んでるとしかいいようの無い光景。
「どうしたの?そんなに怯えて…何か怖いことがあったの?」
「五月蝿い……五月蝿い!!」
「刺さってるよ?さらに抉ったら私を殺せるよ?悪意ある…『愛』ある殺人は初めてだね♪」
「や、やめてくれ…あ、貴女は……死ぬことが怖くないの!?」
「怖くないよ?だって……『あの人』に会えるかも知れないから」
そういって雪音は桐ヶ崎の腕を手にとって、自らの身体に減り込ませる。
ぐじゅぐじゅと音がなり、そこからさらに血が流れる。
「や、やめ…やめろ!やめろぉぉ!!!」
「………『千羽鶴』。」
すると、神倉雪音は小さく呟く。
周囲から感じる気配。歪んだ顔をして涙を流す桐ヶ崎は上を見上げる。
「あっ……あっ………あっ…」
恐怖からだろうか。何もいえなくなっている桐ヶ崎。
そう、四方八方に広がる。宙に浮いた折鶴。まるで今の怯え、震えている自分を見下しているかのように見える。
折鶴はそのまま全ては桐ヶ崎に向けて突進する。
彼女は…絶叫しながらその紙たちに拘束されて、意識を失った。
「えーっと…治癒系星術は……これだ」
パソコンをカタカタと打っている神倉。
その後数秒すると、刺さった腹部の傷をふさいだ。
「相手が恐怖するほど歪んだ人間なら、「歪み」をぶつければいい。
殺人鬼や強盗って言う悪人は……「自分よりも歪んで恐ろしいもの」を見ると、途端に怯えるもの」
神倉雪音は気を失っている桐ヶ崎を見つめながら独り事を呟く。
自分よりも歪んで恐ろしいものを相手にしているとき、人は怯えるのだ。
こんなケースがある。強盗に押し入った男に
「あぁ…殺すなら殺せばいい。どうした?殺さないのか??殺してくれよ」といい詰めると、向こうは発狂してしまう。
これは本来自分達は「怯えられ、忌み嫌われる存在だ」と言う認識があるから。それとは違う予想外のことをされると
理解されようとすると……とたんに自身が怯えるのだという。
「善と悪は表裏一体。本物の悪人ほど、こういうときに人が良いんだよ?ね?桐ヶ崎さん」
倒れる彼女のみながら神倉雪音は満足げな笑みを浮かべる。
「さっきまでの私……カッコよかった。毒島くんに自慢してやろう」
そういって部屋の隅に置いてあったカメラを取り出してパソコンでの動画作成を始めた。
この動画を毒島に見せて「私の方がカッコイイ!」って言うのを自慢気に語ってやろうと彼女は思った。
--------------------------------------------------------------------------------
「よぉ、いかついおっさん!あたしが相手だぜ!!」
「あぁ?いかつい姉ちゃんが言ってんじゃねぇよ。ったくよぉ…」
四つ目の部屋。
そこでもこれから勝負が始まろうとしていた。
山西院龍と鬼塚綾の戦いだ。
「お前のその剣…ただもんじゃあねぇな?なんだそりゃ??」
「あぁ?これは毒島のやろうに作ってもらった剣だよ。おっさんのもただの日本刀じゃあねぇんだろ?」
「あぁそうだ。これは『天叢雲』は斬った相手の皮膚から炎を出して燃やし尽くすっつうもんなんだ」
「そうか。それは残念だったな!」
目の前の女子高生は自信満々にそんな言葉を発する。
「あたしは斬られないからな!!」
堂々としたその言葉に龍は思わず噴出してしまう。
「いいねぇ!その威勢!惚れた!俺の女になるか?」
「なっ…///何言ってんだおっさん!!」
「年の差婚だって最近流行ってんぜ?それとも…先約がいるか?」
「…い、いねぇけど……。その、あれだ。わ、私は別にあいつなんか…」
「あいつ?ははぁ、なるほどな。先約ではないが想い人はいると」
「はぁ!?んなこと誰も言ってねぇだろ!!」
「みなまで言うなみなまで!
まあ伴侶は無理でも…俺と誓い結ばないか?てめぇみたいな人材がうちの組には必要そうだ」
「あぁ?まさかおっさんあたしをヤクザにしようとしてねぇか??」
「あぁ。そうだぜ?てめぇみたいな女がいたほうがうちの若ぇもんもやる気出すだろ」
「…生憎だったな!あたしは「教師」になるっつう夢があんだよ!!」
「ほぉ…教師か。いいねぇ教師。俺もこんな家系じゃなけりゃあ目指してたよ教師!!」
そういって龍は突然鬼塚に目掛けて斬りかかる。
もちろん鬼塚もこれを星剣で受け止める。龍はバックステップをして距離を取る。
「驚いた。奇襲にも対応するか。女子高生にしちゃあ上出来だなお嬢ちゃん」
刀で肩をとんとんと叩きながら言う龍。
このとき、鬼塚は異様な雰囲気を感じてきていた。
「なんか…おっさん意外と普通だな。モニターで見てたほかの奴らよりもまともな気がする」
「あぁ?お嬢ちゃんにはそう映るか。まあそうだろうな。俺は「嫌いな奴しか殺さない」ってのが流儀だからな」
「……さっき警備員ぶっ殺しまくってたじゃねぇかよ」
「あぁ…だってあいつら嫌いだから」
さも当たり前のように答える龍。
「俺の嫌いなものは「敵」だ。組の奴らと近所のうめぇ商店街のおっちゃん共以外は全員敵だ。
だからお嬢ちゃんも一応俺の……敵ってわけだ」
そういって再び鬼塚との距離を詰める龍。
龍と鬼塚の剣戟が続く。ヤクザと剣道の真剣勝負。
素人とは言いがたい剣捌きをする龍の攻撃を全て受け止める鬼塚もかなりの剣術を誇っている。
ここに誰かが来たとして、援護するのがおこがましいというぐらいの激戦。
数分した後、お互いにまるで合図でもしていたかのようにバックステップをし、距離を整える。
「どうなってる?」
疑問を浮かべたのは龍の方だった。
相手の疑問を理解した鬼塚は自信ありげに答えた。
「あたしの皮膚は今毒島が強化させたバリアが張っている!
その剣は皮膚を斬ったら炎が出るんだろ?でも斬れない限りはただの日本刀だぜ!!」
「……そうか。まあ、だったら勝てないなぁー。チェックメイトって奴か。」
「…なんだ?諦めるのか??」
「あぁ、そうだよ。俺は他の奴らと違って「部下」がいる。それに言っちゃあなんだが「娘」だっている。
お前さんらよりは何歳も年下だけどな。そんな身分で、付き合いでとは言え、お嬢ちゃんを斬れない。
それに仮に俺がお嬢ちゃんに負けてしまうもんなら面目も立たないし、まず捕まるしな。その辺俺は賢いんだよ」
そういっておもむろに煙草を出して吸い始める龍。
鬼塚はそれをじっと見ているしかなかった。
「まあ…ただ。」
「ただ?」
「やっぱお嬢ちゃんとは戦いたいもんだねぇー。なんでそんな強いのか。殺したくはないが、倒したい!」
「…いいねぇ、乗ってやるよその勝負!!」
そういって再び鬼塚と龍の剣戟は始まる。
さっきよりも殺意が上がっている。
少女の方は軌道力を挙げるためにリブラからも星術で強化されている。
それほどの能力を所有している鬼塚と相対しているこの龍と言う男は、それほど強いということだ。
お互いが、狂ったような笑みを浮かべている。
闘うのが楽しいのだろうか、互いの顔を見て笑って斬りあう。
とてもじゃないが女子高生と極道ものが闘っていると言えるような光景ではなかった。
龍の攻撃を身体で受けて距離を詰める鬼塚。
避けると踏んでいた龍は対処できずにそのまま鬼塚の剣が男の肺部分を貫く。
「……なんで、避けなかった…」
「…あいつが作った防具だ。絶対に潰れねぇよ」
小さな声で答えた鬼塚。
彼女の脳内に映るのは、毒島裕太の姿だった。
「そうか。お嬢ちゃんの想い人がそのバリア作ったのか。大したアンちゃんだな」
「…そんなんじゃねぇよあいつは。へなちょこなくせにかっこつけたがってるだけの……ただのもやし野郎だ」
「まあ、人間どうなるかわかったもんじゃねぇからな。俺が惚れた女は……病院で入院生活してるような女だし。
俺は今回十分に人殺せて満足したわ。ってなわけでこれでリタイヤさせていただこう」
腹傷つけられて苦しくて倒れる龍。
龍の身体が光に包まれる。これが……記憶改竄のための消失。
それを鬼塚綾は静かに見送った…。
まあ、人間外見じゃあないな。あのおっさん……まだいい人だったわ。
いや、意外とああいうタイプが本当はエグくてあたしがまだガキだから隠してただけか??
それに絶対………勝ちを譲った…よな?どうしてだろうか…。
「あっ!」
鬼塚はとんでもないことに気付いてしまった。
これに関わったものが死ぬ場合。消滅して記憶が改竄される。
そして何事も無かったかのように元に戻る…。
「しまったぁー。あの人の肺を貫かずにやってれば逮捕出来たんじゃん…って言うかあたし致命傷にするつもりがぁ」
恐らく腹を刺そうとした鬼塚の攻撃を、身を逸らして龍が肺部分に移したのだろう。
そう、奴は今回の件で捕まるのがいやで……ある種の自殺をしたのだ。
「くっそぉー…」
鬼塚はまんまと利用されたことに気付いて、下唇を噛む。
「まあ、毒島たちの力になれただけマシ…か」
彼女は小さな声で呟き、一人部屋の中で寝転んだ。
☆
「むむっ!手塚殿から『全部のフロアに一人刺客がいる』と聞いており申したが……。
まさか二人いるとはでござるよ…」
サジタリウスの部屋。
サジタリウスが睨みつけているのは俺と…俺の後ろにいる和服の女性だった。
「貴方の相手は彼ですわよ♪サジタリウス♪」
和服の女性。リブラさんがサジタリウスに挑発するようにそういう。
相変わらず奇妙な格好をしているサジタリウス。忍者のコスプレと言うか忍者そのものだ。
一度闘ったことがあるから知っている。あんなナリであいつが恐らく星霊で一番の「最強」ってことを。
「ほぉ…主は前に一度手合わせをしたことがあるでござる。
拙者も驚くほどのまっこと強いお方でござったでござるよ。あのときの決着…つけさせていただこう!!」
そういってサジタリウスはどこからともなく銃を出現させて発砲を開始する。
俺はすかさず『白零』を発動して、その弾丸を防ぐ。
そのまま継続して『星鳥』を出現させてサジタリウスに攻撃する。けれど奴は弾丸を放ち星鳥を潰す。
潰れた星鳥はただの長いワイヤーに変わり、そのままサジタリウスの身体を包み込む。
「なんとっ!!しかし無駄でござるよ!!」
そういって出したナイフで俺の星鳥のワイヤーを切り裂こうとする。
しかしワイヤーは切れない。それに気付きサジタリウスは少し驚く。
そう、今のは『白星鳥』。リブラさんの力を借りて強化したものだ。並みの武器じゃあ切れない!
しかしそんなことを自慢げに思っていたのも束の間。空から降ってきたナイフがワイヤーを切り裂く。
ワイヤーから開放されたサジタリウスは地面に刺さった双剣を引き抜くと、こちらを向いて構える。
あの双剣の禍々しいオーラ。見たことがある……あのときのものだ。
「そう、神具『バルムンク』でござるよ。あらゆるものを斬りさき破壊する」
そうだ。あのとき俺が作った『白星監』をぶち破った剣だ。
「言っておくでござるよ。毒島殿。
拙者の神具は『神槍一閃』も入れて全てで10。うちいくつ潰されたかは教えぬでござるが
その武器を全て潰さずに拙者を倒すというのも…中々至難の業だと我ながら自負するでござるよ??」
舐めた口を聞くサジタリウス。
その目は「楽しい」と言う感情1つで埋め尽くされていた。
本当に生粋の戦闘狂。闘うことに意味を求めずに、ただ楽しんでいる。そんな男の姿だ。
「いざ!参る!!」
バルムンクを携えたサジタリウスがこちらに距離を詰めてくる。
俺は足元を『白式』で強化して機動力をあげる。バルムンクのオーラが尾を引いて光る。
本当にスレスレ。避けるのに必死だった俺は背中を仰け反らせて攻撃を避け続ける。
そのとき、顔が近づき隠れている顔から光る眼光を見る。そこからうっすらとサジタリウスの素顔が見える。
「っ!?」
俺はその素顔を見て動揺してしまう。
その直後だった。バルムンクが俺の張った「白零」ごと打ち砕き、俺の腕を切り裂く。
「くっ!!」
俺は即座に逃げるために白式で後退する。
(な、なんだよ…!!あの瞳!……『鬼』の目…いや、目で人を殺せるぞあれ!)
俺は思わずビビる。
忍者の服装で隠れた顔は、ふざけているサジタリウスからは想像できないほど恐ろしい顔をしていた。
「ん?どうしたでござるか?毒島殿??」
サジタリウスからはさっきまであった殺気が抜けて
またふざけた調子でこちらを見て話しかけてくる。こいつの真意が…見えない……。
「あらあら♪どうしたんですの?裕太くん」
そんな俺に背中から重みとほのかな柔らかさを感じる。
そして耳に感じる吐息。それを聞いて少し落ち着いてしまう。
母親や…好きな人とはまた違う…。けれどどこか落ち着くその声。
「ほら?どうしたんですの??敵はあのサジタリウス。怖くて当然ですのよ?」
そう。リブラさんだ。彼女は体重全てを僕に預けて、耳元でささやいてくれる。
「バルムンクは触れたものを破壊する双剣ですわよ?だから貴方の腕も破壊されたでしょ?それだけですわよ」
彼女が俺にそう教えてくれたのを聞いて、1ついいことを思いついた。
『白式』で腕の治療を試みる。動きは鈍いけど動きはするか。
「さあ、作戦会議は終わったでござるか?ではいくでござるよ!!!」
サジタリウスがこちらに向かってくる。
『星剣』を作ってこれに対応する。けれどバルムンクが触れた瞬間ことごとく破壊される。
触れたものを全て破壊する。確かに厄介だ。
「だったら!!」
俺は星術を発動する。
それに気付かずにサジタリウスは俺に攻撃してくる。
「…何っ!?」
サジタリウスは驚く。
貫いた俺の身体が消滅し、自分の腕が勝手に湾曲するのに気付く。
なにごとかと慌てたサジタリウスはその場から一歩後退する。
俺は横から奴を攻撃する。もちろん奴はすぐさま俺に攻撃を仕掛けて俺の腹部にバルムンクを突き刺す。
「っ?!」
サジタリウスは何かに気付いたのか驚いたようにする。
突き刺した俺の姿は消え、その消えた場所から現れたのは……バルムンクなのだから。
「…『星影』。星術使いが星霊からの攻撃から逃げるために使ったと言われる「幻術」だ。
対象を自分のように見せる能力。発動条件は……発動してすぐに攻撃されること!!」
俺が自慢気に語っていると、サジタリウスが持っていたバルムンクが両方ともボロボロと潰れる。
「なるほど…。全てを壊すバルムンク同士をぶつければ、両者が潰れる。っと…」
サジタリウスは納得言ったように、呟いた。
ボロボロと崩れたバルムンクを見てサジタリウスは仕方なく、また新しい武器を出した。
気分がよかった。あのとき、俺が最強と思っていた技をことごとく覆したあの武器を破壊できたのが。
けれど結局奴はまた新しい武器を出してきた。あれも……物凄いオーラを感じる。
「さあ、次はこれでござるよ毒島殿。神具『妖刀・椿』でござる!!!拙者のお気に入り!」
またサジタリウスは、無邪気な笑みを浮かべた。
能力もわからない刀だ。気をつけないと…。
俺は再び星剣を創り、構える。鬼塚に徹底的に修行してもらったんだ。
剣自体が潰れないなら対処は出来るはず!!
「行くでござるよ!!」
そういって攻撃を始めるサジタリウス。
彼の攻撃を刀で受け止める。
よかった!次の刀はきちんと受け止めれる!!
サジタリウスとの剣戟が続く。『白式』の機動力でカバーしているとは言え
サジタリウスと同等に闘えるのはとてもすごいと我ながら自負する。これも鬼塚の鬼トレーニングのおかげか。
「だが…この刀は………消えるでござる」
にやりと笑ったサジタリウス。剣戟の最中にいきなり刀が消える。
刀に攻撃しようとしていたのにそれが失敗し、攻撃を透かされてしまう。
そして驚いた俺に間髪入れずにサジタリウスがパンチを繰り出す。こいつ腕力もこんなにあるのか!?
遠くまで吹っ飛ばされた俺はそのまま地面に身を削られながら身体を転がす。
「がはっ!」
そして倒れる俺が驚いたのはその瞬間だった。
俺の腹部に……『妖刀・椿』が突き刺さっているのだから。
「裕太くん!!」
リブラさんが慌てて俺に刺さった刀を引き抜き、『白水』で出血を止める。
「あ、ありがとうございます…」
俺はリブラさんに礼を言う。
立ち上がってりながらサジタリウスを見つめる。
目の錯覚か、マスクの中にある真っ赤に光る瞳孔が、末恐ろしく見えた。
「…拙者のお気に入り『妖刀・椿』は
『起こる事象の延期』を行うことが出来るでござる。これが正真正銘の必殺武器でござるかもなぁ…」
なんて武器だ!!
俺は星鳥を発生させて『妖刀・椿』の破壊を目録。
しかしサジタリウスはその刀の姿を消す。自身も盾を出し星鳥から身を護る。
そして気がつくと椿が現れている。
「説明しておくでござる。『事象の延長場に出す』能力であり
消してから拙者がその「未来」を買えればどうとでもなるでござる。しかし椿の未来を変えれるのは拙者のみ」
そういいながらサジタリウスは拳銃を出現させる。
刀を持っていない方の手でその拳銃を握りしめる。
「さあ……始めるでござるよ毒島殿!!」
サジタリウスは拳銃を発砲し、俺はそれから逃げる。
あの『妖刀・椿』は確かに厄介だ。
さっきみたいに「斬りかかられるのを防ぐ」前に消滅させられたら
こっちは防ぐことが出来ず「斬られる」と言う事象が起こってしまうだけ。
絶対に攻撃の隙を与えてはいけないってことか……。
「…やるなら……先手必勝!!」
「なぬっ!?」
サジタリウスは驚く。
彼のいる空間から大きく透明な結界を張る。
「…『白星壁』。膨大な星力を使う変わりに圧倒的防御力を持つ壁を作る。
それは防ぐんじゃない。遮断するんだ。そして………!!!」
そういったすぐ。
俺の後ろに大量の「白星鳥」を出現させる。
「……彗星千鳥!!」
これで決まらなければ俺は…。
彗星千鳥が激しい音を立ててサジタリウスを狙う。
あの『白星壁』の中では星の力を完全シャットダウンする。
もしサジタリウスが強い盾系の武器を持っていても…防ぎきれない!!
「…ふぅー。まさか忍である俺が、顔を晒してしまわねばならんとはな……」
少し低い声。
耳にどっしりとくる声が響く。
土煙の中から出てくるのは、目つきの鋭い短髪の男が立っていた。クール系だ。
あれが……サジタリウスの素顔…??
「えぇ、間違いないですわ。サジ君の顔ですわね」
「えぇ!?サジ君!?」
「えぇ、わたくしとサジ君同年代なので」
「リブラ。黙っていろ。おっと…キャラが崩れたな…。
手塚殿はこの俺も知っているが、やはり今はこれよりも忍者の方がしっくり来るでござる」
まだ「拙者」の口調が「俺」に変わっているのはままだが、忍者口調に戻りつつあるサジタリウス。
あの怖い顔で忍者口調をやられるとそれはそれで怖い。
それにさっきまでのテンションの高い感じではなく冷静な口調だ
「さてっと。毒島殿…拙者の素顔を見たものは少ないでござるよ?
光栄に思うでござる。そして拙者を本気にさせたでござるな…!
そういうとサジタリウスは一度目を閉じる。
そして目を開くと、片方の眼がさっきまでとは…まったく違っていた。
「……『深美眼』。拙者の神具でござるよ!」
そういったサジタリウスはさらに布を取り出し顔に巻きつける。
「これで元に戻ったでござる!!まあ、眼をはっきり出さないといけないのでござるがな」
完全に元の忍者に戻ったサジタリウス。
けれどその眼のせいでさっきよりも恐怖心を上げさせられる。
「毒島くん…。全力でサポートするでございますわ」
後ろでは、リブラさんがそういってくれる。
本当に心強い。
そして俺とサジタリウスの戦いは………佳境に入るのだった。
☆
「拙者の『深美眼』の能力は簡単なものでござる。
動体視力が恐ろしく上がるだけ、そして……『相手の思想』も見えるでござるよ。
まあ、次はこうしよう、こうしようと言った行動の先読みまでは流石に出来ないでござるがな」
そういってサジタリウスが『妖刀・椿』を持ち俺に襲い掛かる。
俺は白星剣を創り彼に対応する。『妖刀・椿』の能力からして斬りかかられたらおしまいだ。
さらに『深美眼』の能力。恐ろしい動体視力があるから本当にやばい。
「はっ!しまっ!!」
懐に入られ、斬りかかろうとした椿はその姿を消す。
そしてサジタリウスはもう片手で持っていた拳銃を俺に向ける。
俺は『白零』を展開し、拳銃の弾丸を防ぐ。バックステップで彼とステップを取る。
「……くっ」
俺は歯軋りを立ててサジタリウスを睨む。
「おっ、毒島殿……まだ秘策があるでござるな。どうでござるか?使ってみては??」
「言われなくてもつかってやるよ!!!」
俺は激昂に身を任せ力を解放する。極めて危ない星術。
レオンさんよりも強いこいつに……これを使わずに闘おうというのが無茶だった。
「……『毒蠍の鎧』。」
俺の周りを紫色のオーラが包み込む。
そのオーラの形は、記憶に曖昧だけど、僕の親友の姿を象っている気がする。
「…やばいでござる!!」
サジタリウスは何かに気付いて慌てふためく。
その直後だった。自身の能力で現れた『妖刀・椿』が俺を斬りかかるために出現する。
その刃先が俺のオーラに触れて溶けようとしていた。
「き、消えるでござる!!」
そういうとまた『妖刀・椿』は姿を消す。その直後、サジタリウスがこちらに向けて遅いかかってくる。
「…出てきてすぐの椿も消せるのか……予想違いだったな」
俺はぼそりと呟いてサジタリウスと相対する。
『深美眼』をつけているからか、さっきよりも機動力が上がっている。
けれど俺の毒に警戒しているのか、間合いをむやみに詰めてはこない。
あの刀を消すために強い毒をあの一箇所に含めていたから早々に毒が作れない。
「毒島殿!!お主は強者と認めるでござる!!今まで闘ってきた誰よりも!!!
しかし…だからこそ拙者は負けれないでござるよ!手塚殿のためにも…!!!!」
「それは俺も同じだ!守るもんがあんだよぉ!!」
剣を持ち、白い盾を創り、紫色の鎧を見に纏う。
自分をここまでさせてくれた人たちに報いるため、そして……出来るかぎり人を守るんだ。
人を幸せにして……守るのが俺の中の………『魔法使い』なのだから。
--------------------------------------------------------------------------------
本当。すごいものですわ。
そう感嘆としながらわたくし、天秤座のリブラは目の前の光景を目にする。
最強の星霊『射手座のサジタリウス』と、人間『毒島裕太』が闘っている。
サジタリウスのことは昔から知っている。
明るい奴だと思ってた矢先、急に仏頂面でしゃべらなくなったり、今回のように忍者になったり
とにかく『サジタリウス』と言う男は『型にはまる』のが嫌いな男なんだろう……と言うのがわたくしの解釈。
だからこその彼の能力『軍事倉庫』なのだろう。と思う。
そういう意味ではわたくしの能力と同じようなもの。自身の人間性にリンクしているのかも知れない。
だからこそ彼は強い。『型にはまる』ことを知らず、武器を使いこなす。
刀から拳銃、ハンマーに爆弾と彼の使う武器は様々だ。だからこそ対処できない。
そのサジタリウスを相手に出来るのはもはや
星霊内ではタウロスとどんな相手にもテクニカルヒットをかませるスコーピオンぐらいではないでしょうか。
そんな中、目の前の少年『毒島裕太』はサジタリウスと互角ともいえる戦いをしている。
本当にすごい。自身が育てたとまでは言いませんが、鍛えた少年がここまでくると自負せざるを得ないですわ。
彼は努力の少年だった。
初めて彼に会った時も、彼は修行をしていた。
自身のため、そしてみんなのため。
まさかレオン君と戦うために自らわたくしの志願を受け入れるとは思いませんでしたが…。
今も前も、彼は「人のため」に闘っている。今は一体誰のためなのだろうか…わたくしのためだと嬉しいのですが
きっとわたくしだけではない。神倉雪音、鬼塚綾、松原李里香、そして神崎由香と獅子座のレオン。
彼はみんなのために戦っているのだろう。
もしかしたらそこには『スコーピオン』の名も入っているのかも知れない。
その証拠ともいえるのがあの『鎧』だ。あれを遣える占い師をわたくしは過去に見たことがない。
確かに腕のある占い師なら可能ではあるのだが、不可能であるのだ。空想化学のようなもの。
人間と言う生き物はマッハ2でテレビに突っ込めば二次元になれるという。しかしマッハ2で突っ込める
人間はいないし、マッハ2の人間を受け入れるテレビもないからこれは結局不可能。と同じ原理である。
なのに毒島裕太はこれを成し遂げた。
あれを初めてみたときはわたくし驚嘆したのを今でも覚えている。
「どうして、そこまで頑張るんですの?」
わたくしはこの日の前、神倉雪音と足引様が話している間に毒島くんを鍛えているときに聞いたことがある。
努力。それこそわたくしのような女には理解しがたいものでしたので…本当に興味本位で聞いたみた。
「なんでって…そりゃ、俺はリブラさんを守りたいからですよ?」
「………それはプロポーズと取ってよろしいんですか?裕太くん??」
「ち、違いますよっ!!」
物凄く照れた彼はどこか可愛かった。
「あ、貴女は俺のワガママ聞いてくれて、こうして修行までつけてもらって…だから恩返しですよ」
「…そうですか♪わたくしは別に愛の告白でもよかったんですけれどね」
「はっ…///リブラさん何言ってるんすか……」
「自覚したほうがいいかも知れませんわよ?裕太君は意外とおモテになりますから。
少なくともわたくし裕太君にならこの純潔を捧げても……」
といおうとした途中で裕太くんが物凄く真っ赤な顔になったので反省したい。
「…冗談ですわよ♪意外とウブなんですのね裕太君は」
「わ、悪いかよ……」
「いえいえ♪むしろ株が上がりましたわよ♪
それで?本当にわたくしを守りたいだけですか??」
わたくしはそう聞き返した。
それだけの理由では彼はここまで努力できないはずだ。
「…サジタリウスを倒したい」
本当に純粋な言葉だった。
彼はそのまま言葉を続ける。
「力を手に入れてからかな。『強くなりたい』って思ったんだよ。
ごく普通の少年が「力」を手に入れてから急にやる気になって頑張ってる少年マンガを読んで
『都合がいいな』とか思ってたけど、実際に自分を変えれる力を手に入れたら人間頑張るんだな…って。
ただの人間のはずなのに、『星霊』…異能な奴らに勝ちたい!って欲が出てきちまってるんですよ……」
その言葉を聴いたとき、わたくしは関心した。
自分は己の保身のために自らの命を捨てるような女だった。
力がないから。闘えないから…無難なところで自分を捨てていた。
けれどこの少年は、変わろうとしているんだ。
自分の夢、目的をかなえるものに必死にしがみついて、足掻いて、頑張っているんだ。
その頑張ってる目的のひとつに「自分を助ける」と言うのが含まれているのが
わたくしはなぜか笑みを押さえることが出来なかった。
何の躊躇もなくわたくしのことを「守る」と言ってくれた少年。
彼が今、わたくしを倒そうとする最強の男と相対している。
あぁ…わたくしはもしかしたら、本当に……「惚れた」のかも知れない。
乙女なんていう感情は捨てたつもりだったのに、全てを遊び、全てを転がし続けたわたくしが
まさかこんな無様に努力することしか知らなかった。不器用な少年に『恋』をしてしまったのかと思うと滑稽だ。
「本当……裕太くんは罪深い男ですわね」
自分で自覚していないのが余計罪深い。
「だからわたくしは……貴方に謝らないといけないかも知れないですわね」
そういってわたくしは二人が闘っている戦場に向けて走った。
--------------------------------------------------------------------------------
「…さすがは獅子座のレオンだ。強いね……」
「この状況で言うのはおかしくねぇか?太刀風修也よぉ…」
宙に浮く少年は、地面を這う男を見下すように言う。
微笑みかけて言う少年と、腕を押さえて血を流す男。
宙に浮く少年の周りには無重力のように浮いている水たちと、彼の周囲を遊泳する魚二匹。
ヒーロースーツに身を纏っている彼と
フードのついたコートをきた男との戦いは圧倒的にヒーロースーツの男が優勢だった。
「さあ、使いなよ。獅子座のレオン……。えーっと名前知らないけど強暴になるやつ」
「……まだ使わねぇよ。とっておきなんでねぇ…」
「そう。使う前に死ぬのだけは……簡便してよ!!!」
そういってヒーロースーツの男はコートの男に襲いかかった。
サジタリウスと毒島裕太の戦いが白熱する中。
同時刻で行われていた激闘がもう1つあった……。
闘う二人の名を『太刀風修也』と『獅子座のレオン』と言った。
--------------------------------------------------------------------------------
「そろそろ……か。お前の願いも叶う」
「そうですね。クラウディオス様」
「ふっ、わざわざ様付けせんでよい。お主の苦悩の始まりでもあるんじゃぞ?」
「はい。覚悟ならとうの昔に出来てますよ。……ずっと前から」
「そうか……とにかく。今日で星座占いは…終わるな」
☆
―――物事というのは、案外一瞬で終わるものだ。
完璧な才能を持ち、栄華を極めた人間でも、トラックに撥ねられた瞬間死ぬ。
伝説に残ったような英雄でも、病気一つで死んでしまう。
過去に残る名勝負。というものでも、その経過がすごいだけで、決着は案外あっけないもの。
そう……終わってしまったバトルもののゲームのクリア後になんともいえない焦燥感に駆られる…あの感じ。
--------------------------------------------------------------------------------
「どうしたでござるか毒島殿!!」
妖刀・椿の力と深美眼の効果が俺を追い詰める。
なんとか牽制し続けるも、ジリ貧だ。ところどころで『毒』を作って太刀打ちする。
「毒島殿!毒も来るとわかっていれば怖くないでござるよ!スコーピオン殿はもっと上手だったでござるよ!」
拳銃をこちらに向けるサジタリウス。
俺はすぐさま白零を展開させてそれを防ぐ。
サジタリウスはそれも読んでいたのか一瞬にして椿を持ったまま距離を詰めてくる。
俺は星剣を持って椿の攻撃を止める。そんなことをしているうちにサジタリウスの拳銃に撃たれる。腹部に入る。
「くっ…!!」
のめり込む弾丸。
かなり痛い。一瞬ふらついた俺はそのままサジタリウスの椿を振り下ろすのを止めれなかった。
なんとか白零を展開するも、椿は姿を消す『事象の延期』だ。これで椿は何時かはわからないが
僕を斬りつけてくるだろう。それを防ぐ術はほとんどないに等しい。
「…だったら!!」
俺は手を強く握る。
そして『白槌』を発動させる。
相手が拳銃を使ってくるんなら遠距離より近距離の方がマシだ!
「むむっ!?」
俺が近距離で来ると思っていなかったのか少々驚いているサジタリウスの腹部に俺の拳をぶつける。
『白槌』…攻撃力強化の術式。一発一発がそれこと槌で打ったかのような攻撃力になるはずだ。
「さ、さすが毒島殿……拙者が防御力には自信がないのを知っての攻撃で…ござるな……」
と一人で納得するサジタリウス。少し読み間違えているのが奴らしいと言える。
そしてまんまと自分の弱点を教えてくれるあたりもこいつのいい所って言うか…バカなところだよな
「裕太くん!危ない!!」
リブラさんの声。
俺は慌てて警戒心を強める。
けれどそんなことは無駄だった。
既に現れていた妖刀・椿に俺の背中が切り裂かれる。
背中から噴射のように噴出す血。俺はバックステップでサジタリウスと距離を取って『白水』で血を止める。
でもそんな隙を与えないと言うように、サジタリウスはこちらに突進してくる。その手には一本のナイフ。
「くっ!」
俺はそれを流しサジタリウスの頭に頭突きをかます。
やばい…いくらリブラさんの援助があるからってこれ以上は星力が持たない……。
「……今の…」
何かに気付いたサジタリウスは拳銃を出現させ発砲する。やっべぇ!!
俺はどこに撃たれてるかわからないので慌ててその場で前回り受身を取る。
俺がいた場所よりも少し後ろの床に弾丸が当たった音がする。避けれたようだ。
サジタリウスはそんな俺にまた発砲する。俺は白零を発動させてなんとかそれを防ぐ。
相手は俺と距離を詰められないようにバックステップをしながら発砲を繰り返す。
俺はときどき逃げては、白零でガード…まずい……ジリ貧だ。
「どうしたでござるか!?毒島殿!!」
気付いているくせに話してくるサジタリウスはあえて聞いてくる。
俺は星力を軽減するために、仕方なく『毒蠍の鎧』を消滅させる。
あれはやっぱり星力を多く消費しすぎる……。ここが俺の弱いところでもあるのか。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
俺は叫んで突進する。
俺の剣戟をサジタリウスは簡単にこれをかわし、サジタリウスは拳を俺の腹部に叩きつける。
口から湧き上がるように唾液が吐き出される。その直後にサジタリウスの回し蹴りが俺の頬を蹴る。
俺は勢いよくそこから蹴り飛ばされ地面に身体を削られながら転がる。
「ふっふっふ。お主はもう燃料切れでござるな…」
にやりと笑うサジタリウス。
確かに遣いすぎた。一度この場を離れれたら回復できるけど
星力の供給と使用が追いついていない。無限にある星霊の星力との違いか…。
「……裕太くん?」
そんなとき、リブラさんが後ろから声を掛けられる。
「貴方のその術式は本来『捕縛』を重視してるでしょ?頑張ってくださいな」
振り返るとリブラさんの姿がない。どこかに行ったのか。
あれは…何かの作戦の合図?恐らくそうだろうから…俺のやることは!!
「おっ!きたでござるな毒島殿!!」
サジタリウスは銃を出して臨戦態勢を取る。
俺は白零を展開させながらこれを防ぎ距離を詰める。
不思議とさっきよりも楽だ。あの一瞬で出来るかぎりの星力を供給してくれたのかも知れない。
俺は『白槌』で強化された拳をサジタリウスに放つも、簡単にかわされる。
そして拳を放つサジタリウスの攻撃はまるで空気を殴ったかのような虚無感を感じる。
「な、なん…だと……!?」
純粋に驚いているサジタリウスの身体をワイヤーが絡みつく。
『星影』を使って、俺の身体をワイヤーでやってただけである。
「それでよろしいのです。裕太くん♪♪」
動きが止まったサジタリウスの背後に突然現れるリブラ。
「な、何をするでござるか!?リブラ殿!?」
「ふふっ、わたくし…やっぱり空気の読めない女ですので…この空気をぶち壊したくなりましたわ♪♪」
そういうと彼女は……サジタリウスの頭部を強く叩いた。
その後彼女はバックステップでサジタリウスと距離をとると、サジタリウスもバックステップする。
「り、リブラさん……これは…」
俺が驚いて問いかけると、リブラさんは少し寂しそうな笑みを浮かべてこちらを見てきた。
「裕太くん…わたくしは貴方に謝らないといけないですわ。
サジタリウスを倒したいと言う夢を潰さないといけないから。あともう1つ……」
そういいながら彼女はおもむろに落ちていたナイフを拾い上げる。
「り、リブラさん…?」
自分でも何が起きているか理解するのに時間がかかる。
そのまま……彼女は自分の心臓部分に思いっきりナイフを突き刺した。
「り、リブラさん…何してんすか……」
「裕太くん?こうしないと倒せないですわよ?サジ君は」
流石に心臓を刺されているからか、歪んだ笑みを浮かべるリブラさん。
見てみると、サジタリウスも自分で出現させていたナイフを心臓部に刺していた。
「り、リブラ殿…何をしたでござるか……」
「…『行動の平等』ですわよ?わたくしの行動は貴方様の行動であるだけのこと♪
そして、この技で先に消えるのは……わたくしではなくて貴方ですわ」
「そ、そんな……無念でござる…」
サジタリウスも流石に今までのダメージが溜まっていたのか、その場で膝を付く。
「しかし、忍者たるもの…散るときも美しく、忍びやかに…でござるな……」
自分が消えることを悟ったサジタリウスはその場で小さく目を閉じる。
「あぁ…しかし……もう少しだけ、手塚殿と…遊びたかったでござるよぉー…」
そういいながら、サジタリウスは健やかな顔で……消滅していった。
--------------------------------------------------------------------------------
「はぁ…消えましたわね」
「り、リブラさん…」
「裕太くん、わたくしも消えます。ほら…身体が消滅しかかってる」
「だ、ダメですよ!俺…貴方を守らないといけないんですから!!」
そういって裕太くんはわたくしを治そうと『白水』を発動するも、意味がない。
「死んだ人間を治療しても治らないのと一緒で、こうなってるわたくしはもう死んでいるも同然なのです。
『白水』は意味をなしませんわよ?」
「そ、そんな!…リブラさん!!」
涙を流してわたくしを見る裕太くん。
あぁ…わたくしは……彼にも忘れられてしまうのだろうか。少し…嫌ですわね。
「はぁ…わたくしは本当に最悪な女ですわね。目の前の少年の夢をぶち壊し、契約者との誓いを破り
結局また…自害してしまった。貴方に守られるという使命もあったというのに…」
わたくしは、まるで懺悔をするかのように言った。
「けれど、裕太くん?わたくしどうも…守られるのは性に合わないようですわ。
ボロボロの貴方を見て…わたくしが貴方を守りたくなってしまった。それだけのことですわ」
そういってわたくしは自分の身体を裕太くんの胸の中に預ける。わたくしは抱かれたかのようにもなる。
「わたくし、貴方のことを好きなのですわよ?正直…忘れられるのが名残惜しいですわ……」
「リブラさん…俺も」
そう言おうとした彼の言葉を遮るように唇を慌てて押さえる。
「裕太くんは鈍感ですわ。それを言わなきゃいけないのはわたくしではないですわよ?」
「じゃ、じゃあ――――」
その直後。
わたくしは高まった感情を発散させるべく、己の唇を、彼の唇に合わせた。
「っ!?」
「…ここまでしたら、記憶になくなっても存在は残るかも知れませんわね」
わたくしはまた笑う。嘲笑うように、手玉に取っているかのように、おちょくった顔で。
裕太くんは突然の行動に呆然としているのがまた可愛かった。
(それに…どちらの初めてを彼女にやるのは癪ですし)
そんな感情を抱いていると、そろそろ消滅が近いようだ。
「裕太くん。わたくしが消えても、戦闘は出来なくても星術は遣えるように致しますわ。
貴方の『魔法使い』の夢まで潰すのは…わたくしには出来ませんもの」
そういってわたくしは彼に全ての体重を預ける。
「では…裕太くん。わたくしは消えます」
「リブラさん!リブラさんっ!!」
「…好きな男の胸の中で死ぬ。女の中では最上級の死かも知れないですわね…。では、さようなら」
そういってわたくし、天秤座のリブラは―――――――消滅した。
--------------------------------------------------------------------------------
「はぁ…リブラったら、一位ではないじゃないの」
社長室で消えかかる自分の身体を感じながら独り事を漏らす。
「まぁ…リブラも李里香同様。自分を抑えてる人だったし、最後に本性を出せたなら……三位でも許してあげる」
そう微笑みながら、社長…足引玲子も消滅した。
--------------------------------------------------------------------------------
「…レオン。射手座と天秤座が消えたそうだよ」
「あ、あの二人が!?」
「じゃあ……これがラストバトルだね」
目の前の少年。太刀風修也は俺、獅子座のレオンに対して笑いかける。
最後の星霊合戦が今、始まる。
ってなわけで引っ張りに引っ張り
《最弱者リブラ編》無事終わらせることができましたぁー♪♪
大好きなキャラリブラが消える大事な場面だったのでよかったです^^
さらにラスボスのような強さを誇ったサジタリウスも消滅し
残るは獅子座と魚座のみ!!
今回の話は、ちょっと人間の心理とかそういうのを
ちょっと書いてみたかったので書いてみました♪♪
鬼塚綾・毒島裕太・神倉雪音・松原李里香。
星霊との関わった人間代表として、彼らの心理描写を良くかけたかなぁと思います
よかったら批評意見ください♪
次回ついに最終章!!




