ゾディアック・サイン 七章・後「文化祭カーニバル」
楽しい文化祭に降りかかる災厄『手塚隆吾』
彼がジリジリと乙女座の命の砂時計を刻んでいく。
そして流れる、乙女座の演奏。
少年たちの青春は、混沌とした戦場と化す――――――――――!!!!!
「あっ!いた!!」
あたし、松原李里香は文化祭に来ている。
理由は玲子さんに言われたことと、所謂息抜きと言うものだ。
「監視」「調査」と言う仕事があるにはあるのだけど、最近星霊の件と普段の仕事のことで
ずっと働いていたからなぁー。玲子さんなりの気遣いをしてくれたのだろう。
そしてあたしは神崎由香ちゃんと出会ったんだけど、なにやら邪魔してはいけない雰囲気だったから身を引いた。
彼女は、どこかあたしの今は亡き姉「豊穣早苗」と似ている。まあそれはあたしとも似てるってことなのだけど
あたしはおねえちゃんに「お転婆」と言われた。今でも無くなっているつもりだけど、社長にも時々言われる。
彼女、神崎由香を見ているとお姉ちゃんを思い出すとともに、自分の面影を見ているようでもある。
きっと彼女にはあたしとお姉ちゃんの両方を兼ね備えているのだろう。
「あ、松原じゃねぇか…どうした?」
あたしが見つけた男に駆け寄ると、彼はフランクフルトを頬張りながらあたしに言った。
「うん。ちょっと休養貰ったからきたんだけど、知り合いに会えなくて…」
「おう、そうか。まあ…なんだ。喰うか??」
そういってレオンはあたしに数本持つフランクフルトを差し出す。
彼は腕が一本しかない。何かの事故で腕を片方切り落とされたらしい。
回復にも時間が掛かるって前のビルでの会話で言っていた。
「うん。貰うね♪♪」
あたしは一本受け取り、それを口に頬張る。うん♪美味しい♪♪
「じゃあまあ、一応一緒に回るか。由香もなんか神倉と一緒に回るとか言ってたしな」
「ほんと!?ありがとうー。一人で歩くのすごく心細くてぇ。しかもなんかチラチラ見られてるし…」
「まあそりゃお前の顔……と、その格好だな。なんでいつもスーツなんだよ」
「実はあたしスーツとワンピースしか持ってないのよ…。あんまりそういう服に興味なくてね」
「へぇ…意外だな。それに勿体無い」
「勿体無い??」
「あぁ、せっかく(早苗に似て)いい面してんだからオシャレの1つや2つすればいいのに…」
「へぇ~レオンはあたしを評価してくれるんだ♪由香とどっちが可愛い??」
「悪い。それは由香だ」
「……あらそ。やっぱりね。あんたの彼女もそういってたわよ」
「はぁ!?」
「…偉く動揺するのね。そういうのに慣れてると思ってたんだけど」
「どういう偏見だそりゃ…」
「いや、なんか女遊び激しそうだから…」
「てめぇ……」
「まあいいじゃない。とにかく回りましょ♪ねぇ?」
「はぁ…しゃあねぇな」
そういって、あたしとレオンは文化祭を歩き回ることにした。
「あ、そろそろだな」
「ん?何が??」
あたしとレオンが楽しく回っていると、突然思い出したように彼が言った。
「あぁ……由香たちの演劇のさ」
そういってあたし達は、体育館に向かった――――――。
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「今日こそ…貴様らを倒してくれる…!!!」
「出たな悪の魔術師マジョリーナ!!」
「あんたのせいで街はめちゃくちゃよ!」
「そうだぜ!てめぇの目的はなんだ!!!」
体育館に響き渡る三文芝居。
子どもの歓声が響き渡る。
えーっと、なんだっけな。あ、「折り紙戦隊ペパレンジャーVS悪の魔術師マジョリーナ」だ。
俺んとこの神崎由香は、「ペパピンク」として、舞台に立っている。
他にも鬼塚が「ペパイエロー」として活躍している。ちなみに毒島は出ていない。
「私の目的?そんなもの、世界を我が手におさめるに決まっているだろう!!」
神倉がそう叫ぶ。
観客の子どもは「わぁー怖いよぉー」と子どもらしい反応を示してくれている。
後、なぜか知らないが、高校生男子の野太い声で「ユッキー!!!」と響き渡っている。
「私の魔法を喰らえ!」
そう言った直後だった。
突然会場に小さな発光が起こる。
一度全員目を閉じてしまうぐらいの突然のフラッシュ。この感じ……星術!?
「くっ…!なんて光だ!前が見えない!!」
「今のうちだぁー!喰らえ。」
そういってマジョリーナが杖をかざす。
するとまた様々な色で施されたライトが彩り、レンジャー全員が倒れる。うん、中々上手い。
「へぇー結構クオリティ高いのね」
「…毒島が星術を、応用して使ってやがる。まあ、それ抜きでも中々面白いな」
「…くっそぉー!マジョリーナめ……」
レッドの男がそういう。
すると見ている子ども達から「負けないでぇー!!」などの喝采が聞こえる。
「こうなったら!俺達の最強必殺を見せるぞ!!」
「「「「おう!!!」」」」
「「「「「折り紙合体!!!」」」」」
そう叫んで、全員バックステップで舞台外に飛ぶ。これで全員の姿が見えなくなった。
その瞬間だった。あれは……ワイヤーだろうか。
巨大な紙飛行機が現れてその飛行機がマジョリーナに目掛けて突撃する。
「「「「「喰らえ!ペーパーズアターックゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」」」」」
巨大な紙飛行機がそのままマジョリーナにぶつかり、マジョリーナはそのまま吹き飛ばされて舞台裏に行く。
「…くっ、さすがペパレンジャー……だが、次こそは!次こそはこうはいかんぞぉー!!」
ちょっと慣れていないのか。マジョリーナこと神倉の声が、可愛らしい声で悪役とはなんともシュールなものだ。
子ども達が「ペパレンジャー!!」と歓声をあげて、劇は無事に終了したのであった。
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「うっし!そろそろ出番だな!!」
「なんだかんだ言ってバルちゃんやる気満々だよねぇ~」
「真希ちゃん。なんだかんだ言ってバルちゃんはこれが楽しいんだよ?」
「なっ、ち、ちげぇよ!せっかくのライブだから盛り上げないと!って思ったんだよ。由香たちが盛り上げたしな」
「さあ、みんな。俺達の音色を奏でようじゃあないか」
「おっ、軌条にしては珍しくカッコイイこと言うねぇ~」
「瓜生。たまには俺もギャグ担当ではなく、普通の男子でいたいって思うわけだよ」
「…ボケの自覚……あったんだ」
「まあとにかく、「Carnival」のライブ!楽しく行こう!!」
「「「「おぉー!!!」」」」
瓜生の掛け声に、みんなが腕を挙げて答える。
なんかいいな……。星霊として戦い続けてきあたしにはなかった…青春ってやつだ。
星霊は無駄な感情を抱いてはいけない。次の年に辛くなるから。けれど…美優は特別だ。
非情になれない。そしてあたしは、星霊であるよりいつの間にか「神原優香」であることを望んでいる気がする。
そしてあたし達は、まもなく舞台に立つ。
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「お前……誰だ?」
「むっ!刺客でござるか!!」
「なんで体育館に向かう…」
「そこに拙者の標的がいるからでござるよ!!!!」
少年は、目の前にいる怪しい忍者に警戒心を強める。
そして何か小さく言葉を呟く。
「…こ、これは!?結界でござる!?」
「お前は好きにさせない。この文化祭をよく終わらせるために……」
そういって少年。毒島裕太は、忍者サジタリウスとの戦闘が始まる。
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「……来たか」
「え?何が??」
「星霊が…だよ。毒島が結界を張った」
「っ!?」
「恐らく近くに占い師もいるはずだ…」
「レオンっ!!」
「由香か。お前は鬼塚たちを結界から出しとけ。遮断型だ。こうなってる間にも時間は進んでる。」
「わ、わかった。李里香さんも!」
「あ、あたしは玲子さんに与える情報のために残るわ」
「…死んでもしらねぇぞ!!」
そういってレオンは走り去っていく。
楽しい文化祭。
ついに不穏な流れが流れ、戦いの火蓋が切って落とされた。
☆
「…お前、誰だ?」
俺、毒島裕太は目の前にいる謎の忍者に向けてそう言った。
「拙者でござるか?拙者は何を隠そう忍でござる!!」
「…いや、だから。名前」
「名はないでござる!」
「…いや、お前星霊だろ?雰囲気でわかる」
「なっ!お主…気配を読めるというのか!?」
なんだこいつ、このテンションの高さは……。
「バレてしまっては仕方ないでござる!拙者の名はサジタリウスでござる!!」
「さ、サジタリウス!?」
俺はその名を聞いて驚いた。
俺の師匠に当たるリブラさんから話は聞いていた。最強の星霊の名を。それがサジタリウスだ。
「わたくしが最弱の星霊なら、彼は最強の星霊ですわね♪相性に捕らわれないですしね♪♪」
そういって自分のことを皮肉に言いながら説明していた。
とにかく、その最強の男が、目の前にいる。
「…面白い」
俺は、ここであの力を使おうと思う。
「こい!サジタリウス。標的を倒したければ俺を倒すことだな」
「むむっ!仕方ないでござるな!!」
そういうとサジタリウスは両手を翳し、そこから小さな小太刀が出現する。
あれがサジタリウスの「軍事倉庫」か。確かに厄介そうだな。
「参るでござる!」
小太刀を構えたサジタリウスがこちらに向かってくる。早い!でも!!!
「むむっ!」
「…『白式』!」
俺は一度ジャンプして術式を唱える。
足から漏れ出してくる白い光。それが地面を流れるように俺を運んでくれる。
「…『星鳥』!!」
相手は自分の攻撃を避けられたのに驚いていた。
今のうちだ!と思い俺は星鳥を召還して、サジタリウスに放つ。
「そのような鳥…効かぬでござるよ!」
サジタリウスは小太刀で星鳥を切り刻む。
なんてスピードだ。星鳥に捕獲されるのをわかってるのか、ワイヤーごと切り刻んでる!?
「ほぉ久々に出会ったでござるなぁ……『星術使い』!」
そういってサジタリウスが距離を詰める。
僕は咄嗟に『白零』を発動し、身を護る。
「…『流星鳥』!!」
僕の声に連動して、地面から這い上がるように透明なワイヤーで出来た大きな鳥が現れる。
いくら銃を使うといっても、白零で立てた盾を貫けは出来ないだろう。
俺はそのまま空に逃げる。
「ほぉ空を飛ぶ手段を持ってるでござるか…では!」
そういうと、サジタリウスの背中から何かが出現する…羽?
「ジェット・ウィング!戦闘機を軽量化した手塚殿の芸術作品でござる!」
そういうと、ロケットの要領で炎を巻き上げ、サジタリウスは俺の方に飛んでくる。
小太刀を消滅させ、次は二丁拳銃を出現させるサジタリウス。こちらに何発も発砲してくる。
「くそっ!白零!」
俺は手を横に大きく振り、半透明な壁をいくつも展開する。
その壁が俺を弾丸から助けてくれる。しかしサジタリウスは弾丸が無くなった拳銃を消して
また新たな拳銃を出しては発砲を繰り返す。奴との距離を詰めれない!
「…こうなったら!」
俺は手に神経を集中させる。手の色が紫色に変化していく。
俺は紫になった手で銃の形を作り、標準をサジタリウスにあわせる。
「…『ポイズンメーカー』!」
俺の指から紫色の弾丸が放たれる。
「っ!?」
サジタリウスもこれには慌てたのか、宙を動き、その弾丸を避ける。
「ぬ、主!?なぜその技を使うでござるか!?それはスコーピオン殿の…!?」
「あぁ…俺、もともと「蠍座の占い師」だったらしいんだ。努力したら出来たよ」
俺は動くサジタリウスに標準を合わせて紫の毒弾丸を放ち続ける。
さすがに毒は受けれないと判断しているのか、サジタリウスは宙を舞い、これを避ける。
くそっ!あんなジェット機もどき乗りこなせるとか人間じゃない!!星霊だからこそ出来る業か。
この毒、俺にとっても毒なのだ。「作れはできても抗体が出来ない」これが弱点だってのに。
俺は撃つのをやめ、手を心臓部に当てて、白い光を放つ。
「…『白水』」
リブラさんに教えてもらった新しい星術「白水」
これがあれば、毒で傷めた身体を多少癒すことが出来るらしい。
毒の使いどころは注意しないとな…。
「…主、面白いでござるなぁ。名をお聞かせいただきたい」
ジェット・ウィングに乗って俺と同じ目の高さにきた忍者は、ただ一言俺に言った。
「…毒島裕太だ」
「毒島…カッコイイ名でござる」
「…そりゃどうも」
俺は流星鳥に乗ったままサジタリウスに突進する。
サジタリウスは羽の出力を挙げてこちらに突進してくる。
俺は星術で剣を作り、その剣を振るう。その後から小さな「爆鳥」を複数体召還する。
「うぉぉぉぉぉ!!」
俺は「爆鳥」を突進させながら自分も突進する。
俺とサジタリウスがぶつかった瞬間。
爆鳥の爆発に両者共巻き込まれる。
「拙者のジェット・ウィングが壊れたでござる…」
俺も爆発に巻き込まれてボロボロの状態で地面から立ち上がる。
白零を張っていたのが功を奏したのだろう。
サジタリウスの方も、どうやったのか、服が多少汚れているだけだった。
「それでは!こっからは陸上戦でいくでござる!!」
またさっき使っていた小太刀を取り出してくるサジタリウス。
俺も星剣を構える。彼の小太刀を俺の剣で受ける。
本当に早い。レオンさん以上だ。この速さなら確かに忍者の格好が様になっている。
俺の「白式」よりも少し早いかも知れない。俺は常に脚の白式を意識しながら彼の剣を食い止める。
それぐらいしか出来ない!今まではこれをしながら他の星術を組み立てたり出来たけど。
早すぎる。対処するので限界だ!!
「どうしたでござるか!?防戦一方ではつまらないでござるよぉ!?」
俺とサジタリウスとの剣戟は続く。
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「…ありゃりゃ~結界に閉じ込められた?」
廊下を歩いていた俺、手塚隆吾はそんな一人事を漏らす。
さっきまで人ごみ溢れていた空間が一変して、誰もいない真っ青な空間に変わってる。
時計を見てみると、ときは進んでいるようだ。完全に「遮断」されたんだろう。
「まあ、人が少なくなった分移動はしやすいけど、恐らく乙女座は結界外。
どうやって、結界の外に出るか…サジタリウスが言うには、
その手の出口が絶対に用意されてるらしいんだよな~」
俺は当たりを見渡す。やっぱり何もない。
「まあ、とりあえず体育館行くかぁ~」
そういって俺は歩き続ける。
体育館に行く途中、窓を見ると、サジタリウスと誰かが闘ってるのを見えた。
パッと見サジタリウスが楽しんでそうなので、あえて援護はしないようにしよう。標的潰すのが先だし。
「…ってあり?」
俺はそうきょとんとした声を出す。
なぜかと言うと、目の前に見覚えのある男の姿があるからだ。
その男はなぜか片腕がなく、しかも後ろに女を従えていた。かなりの美人だ。
「…獅子座のレオンじゃん?なんでここにいるの??」
「てめぇこそ何もんだ。外の様子見ると…射手座の占い師か?」
「あったりー♪俺が射手座の占い師手塚隆吾だ。よろしく」
俺は軽く獅子座のレオンに挨拶する。
さてっと、いつでも戦闘開始できるようにしておこうかなっと……。
「…レオン!下!!」
「っ!?」
突然叫ぶ後ろの美人。
レオンはそれに驚き下を見る。そこにはムカデのような形をした機械があった。爆弾だ。
「んじゃま、挨拶ついでに♪」
そういって俺はスイッチを押す。
レオンの足元が大きく爆発する。
「んじゃ、俺はこれでー♪また今度遊ぼうぜぇ~獅子座」
そういって俺は退散するつもりだった。だが…
「おいおい…ヤリ逃げはダメなんじゃねぇのか?」
「ちょっとレオン…。言葉が汚いわよ。ケホッケホッ!」
爆発の煙から姿を出した獅子座のレオンを土煙に咳き込んでる美人さん。
校舎に穴が空いてある。それに最初いた場所と微妙に違う。あの一瞬で移動したのか。
「てめぇ…今俺に「また今度」って言ったな。大体読めてきたぜ、てめぇらの考えが」
「ん?俺らの考え?」
「あぁ、てめぇら「乙女座」が目当てだろ?」
「そう思うんだったらお前には関係ない。退いてくれよ」
「悪いねぇ…こちとら「同盟」組んでんだ。それに、今のあいつの邪魔は誰にだってさせねぇ…!!」
「ほぉ~同盟ねぇ~♪ならレオンも敵だ。あ、誤解するなよ??」
俺はそういいながら、後ろに携えていたライフルを取り出していった。
「俺は「人間」でも、あんた相手に瞬殺されるような男じゃねぇ…。見せてやんよ。「人間」の底力ってやつをさ♪」
俺がそう言った直後にライフルを発砲する。相手は……美人さんのほうだ。
「あぶねぇ!」
レオンはそれに気付いてすぐに彼女の方に飛びのき、彼女を身を挺して護る。
「てめぇ!もうわかっただろ!?いい加減由香たちと結界外に出ろ!!」
「う、うん…一度生で星霊の戦いみたいって思ってたんだけど…無理っぽいね」
そういって美人さんが少し怯えた様子でそのまま逃げていった。
「…今あいつを撃たないのか?」
「うん。実は俺「女」「子ども」は撃たないんだぁー」
「さっき撃ったじゃねぇか!」
「いや、だってお前が助けるって思ってたもんー」
「てめぇ…!!」
「んじゃまあ、サジの方も人間と戦ってるそうだし、こっちも「人間VS星霊」…やっとく?」
「…おもしれぇ」
その瞬間レオンが俺の方に走ってくる。
すごいスピードだ。けれど動じてはいけない。
「なッ!?」
レオンがどこかを踏んだ直後、小さな爆発が起きる。
床にぽっくりと穴が空いて、レオンはその穴から下の階に落っこちる。
「はっはっは!無様だねぇー!んじゃあ次はこっちの番だ」
俺はライフルを構えて、下の階にいるレオンに発砲する。
レオンは慌てて動いて弾丸を避ける。やっぱり片腕がないせいか、動きがやや鈍い。
「さてっと、んじゃ俺は……逃げる!!」
「はぁ!?てめぇ!人間VS星霊なんじゃねぇのかよ!!!」
「俺には乙女座を撃つっていう使命があるんでね!!!」
そういって俺は鞄から大量のボールを下のレオンの方に放りなげてその場から去る。
「なッ!?手榴弾!?」
レオンが気付いた直後、手榴弾が爆発する。
「待てぇ!てめぇ!」
俺は叫ぶレオンの言葉を無視し
その爆風に背中押されるようにその場から去っていった。
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『それでは、次の演目「バンド「Carnival」によるライブ」です。どうぞ』
アナウンスが響き渡る。
少し、緊張してきた。安心しろ自分!こんなところで緊張する人間…いや、星霊じゃないだろう!?
今までいくつもの死線、死闘を繰り広げてきたんだ。そんなあたしが…こんなたかが舞台で緊張しちゃだめだ。
緊張による身体の怯みは、戦場では命取りなんだ。静まれ、落ち着け…あたし!!
「大丈夫だよ?バルちゃん??」
その言葉の直後、なぜか緊張感がほぐれた。
ミューの言葉があたしを緊張から救ってくれた。
本当……普段ほわほわしてるくせに、こういうときはあたしよりもしっかりしてるんだから…。だから好き。
「そうよバル!あんたはこのバンドの顔!だけど…楽しくやってくれたらいいからね!!」
「そうだぜ?神原。緊張感が解けるなら、いくらでも俺をサンドバックに蹴ってくれ」
「いや、それは遠慮しとく…」
「そ、そんな……」
「軌条くん。流石にこの場面で蹴り要求するのはおかしいよ」
その場にいた奄美が軌条に突っ込む。
彼は舞台の照明をしてもらう。サビなどで派手に演出してもらうつもりだ。
「んじゃ、みんな!ここはあたし瓜生真希が仕切らしてもらう!!みんなで盛り上げるよぉー!!!」
「「「おぉー!!」」」
瓜生の言葉に呼応して腕を挙げるミューたちを見ていて、思わず笑みが浮かんだ。
(これが……学生の『青春』って言うのかな…)
あたしも人間年齢では同じくらいだけど、こんな楽しい思いはしたことが無いかもしれない。
だったらこの時間をフルに楽しもう。そう思っていると、いつの間にかさっきまであった緊張感が全て消えた。
「うっし!ありがとみんな!!あたし……歌うよ!!」
そしてあたし達が舞台に上がる。
このライブは予定では三十分もするらしい。
全て歌は覚えた。演奏も覚えた。みんなを盛り上げなきゃいけない。
あたし達は、舞台に足を踏み入れる。
ここにいる観客全員を楽しませよう。祭りのように。
マイクをセットしてあたしは口を開く。
「こんにちは!あたし達は「Carnival」です!!それでは早速一曲目「LOVESURVIVE」聞いてください!」
そしてあたし達の演奏が、始まる。
☆
なんだろうこの気持ち。
「HurryHurry~♪」
歌が始まる。
さっきまでの緊張が嘘のようだ。
感情が踊る。みんなが楽器を演奏してくれる。
それに合わせてあたしが歌う。ただそれだけなのに……胸が躍る。
熱い。身体が熱い。心の中から燃え盛っているようだ。
観客が歓声をくれる。ものすごく嬉しい。なんでだろう。こんな嬉しいと思ったのは初めてかも知れない。
「サビ行くよぉー!!!」
あたしがそう叫ぶ。
観客は大きな声でそれに答えてくれる。
やばい!気持ちいい!!こんな気持ちいいのは初めてだ!!!
あたしは無我夢中にギターを掻き鳴らす。
こんな楽しいのは―――――――初めてかも知れない。
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「くっそぉ!!待てこらぁ!!!」
「待てって言われて逃げない奴はいないよ!って常套文句言えばいいの?それ??」
結界内廊下。
俺、獅子座のレオンは逃げる手塚隆吾を追いかけていた。
くそっ!片手だと走るのに支障をきたすぜ!
「ほいよっと!!」
「ちっ、またかよ!!」
俺は手塚が何かを投げてきたのを勘付き、バックステップする。
俺のいた場所で手榴弾が爆発する。くそっ!また距離を離された!!
「怪我してんだからさぁー!無理すんなよなっと!!」
手塚はこちらに振り返り、持っていたライフルをこちらに向けて発砲する。
俺は瞬間的に身体を動かしそれをかわす。上手い銃使いなら確実に俺の急所を狙ってきているはず。
もしくは四肢を破壊する場所を狙ってくるはずだ。逃げるのが目的の手塚は必ず俺の脚を狙ってくる。
だったら撃つと思った直後に足を動かせば掠らないまでも直接当たることは避けられる。
「へぇ~さすがだねぇ~こう見えても早撃ちの才能はあると思うんだけど……」
「そんな奢り俺がてめぇ捕まえて打ち砕いてやんよ!!」
「それは……無理だね!!」
手塚は鞄から新たな球を取り出す。あれも手榴弾か!?
「ほらよっ!!」
それを床に落とす。
落としてすぐにその爆弾から煙が立ち込める。
「サジもお気に入りの武器!煙玉だ!!サジ風に言うなら……ドロンでござる!なんちゃってな…」
「待てこらっ!!」
煙の中で鼻を頼りに奴を追う。
けれど奴の匂いよりもこの煙の方がきつい。完全に奴の匂いを消された。
煙は広範囲に広がっていた。そこから出てやつを追おうとしたとき、奴の姿は既になかった。
「くそっ!匂いも煙に消されたし……どこ行った!」
俺と手塚の追走劇は続く。
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「むむっ、お主やるでござるなぁ…」
「てめぇに言われても嬉しくもなんともねぇよ……」
数分の攻防の末、冷戦状態にもつれ込んだ。俺とサジタリウスはにらみ合う。
「拙者、本来は主と闘わずに逃げて、標的を撃たんとせねばならぬでござるが…血が疼くでござるよ。毒島殿」
そういったサジのマスクから微かに映る瞳の光が、獣のようだった。恐ろしく怖い。
どうする。こいつとこれ以上戦っても消耗戦だ。いずれ俺が負ける。
俺よりもスピードが上。俺よりパワーが上。俺よりも技のバリエーションが上。
何を取っても俺は勝てている気がしない。今は勝負出来ているけど時間の問題だ。
「さあ毒島殿!次はどういった星術を見せてくれるでござるか!?」
…まあ舐めたこと言ってくれちゃって、それを全て封じてやろうとでも言いたいのか。
でもこういうのいい………マンガの主人公みたいじゃんか!!
「次は…これだよ!!!」
俺がそう叫んだ直後。俺の後ろが眩く光る。
「な、なんと………」
俺の後ろには千羽を超える星術でできた「鳥」が飛んでいた。
「……『千鳥』。」
俺がそう呟いた直後、後ろの鳥達は一斉にサジタリウスに向かって突撃する。
「これはまずいでござるな!!」
サジタリウスは運動場を走り回りこの鳥を逃げていく。
さすが忍者って言うところか。千羽も襲ってきているのに逃げ切っている。なんて柔軟性とスピードだ。だけど!
「なっ!!」
奴に避けられ地面に叩きつけられた鳥達はワイヤーとなって奴の足に絡みつく。
飛んでいた残りの鳥達がサジタリウスに向けて突撃する。
中には爆鳥もいる。奴に致命傷を与えることができたはずだ!!
「………本当にやるでござるなぁ…毒島殿」
土煙から姿を出すサジタリウスは流石に身体中ボロボロだった。
けれど立っている。あれだけ攻撃したのに……立っている。
「人間相手に貴重な「神具」を使い果たしてしまったでござるよぉ…」
サジタリウスがそういって手を少し上に上げる。
手に装着されていたのは金ぴかに輝く小さな盾があった。
「…これは聖なる盾「イージス」でござる!全てのダメージを磁石のようにかき集め、
拙者を護るものでござる。今までのダメージも全てこやつに受け止めてもらってござるがぁ………」
そう言ったサジタリウスの腕から、「イージス」がボロボロと崩れるように消滅する。ダメージを蓄積しすぎたか。
「やはり強いものから闘うのはあまりいいことではないでござるな。『神槍』も使ってしまい、
グングニルも使ってしまい、イージスまで失ってしまうとは…」
なにやら一人でぼそぼそと話している。
あいつの武器の中には、イージスのような化け物級のものもいくつかあるってことだろうか…。末恐ろしいな。
「さてっと、息が上がってるようでござるが、いかがでござるか?毒島殿??」
暢気な態度で俺に話しかけてくる。
俺は肩で息をしながら、奴を睨みつける。
確かに無理だ。これ以上は、身体中から汗が噴出す。体力の限界って奴だ。
俺は本当に………化け物を相手にしているらしい。
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「雪音ちゃん!!綾ちゃん!!!」
「どうしたんだよ由香?ほら、神原たちが演奏してるぜ?」
綾ちゃんが体育館の壁に持たれながら言っていた。
すごい歓声だった。本当…文化祭でこんな歓声が流れるものなのかと驚いた。
プロのライブ映像を見ているようだった。本当にすごい……そして何より、バルちゃんが生き生きした顔してる。
一曲目が終わる。みんな一曲目で息が上がってるし、汗もだらだら流れている。
バルちゃんがマイクを手に取り話し始める。
「えーっと!一曲目!聞いていただきありがとうございました!!」
バルちゃんがそう言った直後、会場から「おぉー!!」と言う叫び声が響く。
「じゃあメンバー紹介します!!あたし達のマスコット!ギター!加賀美優!!!」
「いぇ~い♪♪」
ギターをぶら下げながら可愛らしく手を振る。
「美優ちゃーん!!」
「俺だぁー!!結婚してくれぇー!!!!」
観客の男子からそんな言葉が響き渡る。
「誰だぁ!あたしのミューに告白した輩はぁー!?」
「俺だぁー!!」
「俺だぁー!!!!」
「「「「俺だぁー!!!」」」」
「俺は神原さんが好きだぁー!!!」
「多すぎだろっ!?ってか誰だ今さりげなくあたしに告白した奴!?いっとくけどお断りだからな!?」
その言葉でさらに笑いが起こる。
バルちゃんたちもすごいけど観客のノリの良さが凄まじいな。
「…コホン。じゃあ気を取り直して!このバンドのリーダーにしてムードメーカー!ドラム!瓜生真希!!」
「ビートを刻むぜぇ~!!!」
そう言った直後、瓜生さんはドラムを叩く。
彼女は本当にクラス中のムードメーカーなのだろう。
「いいぞぉー!!瓜生!!!」
「真希ちゃんカッコイイー!!!!」
男女共に彼女に向けてのエールが響き渡る。
「いぇいいぇーい!!」
「じゃあ次、唯一の男子メンバー!ベース!!軌条飛鳥!!!!」
そういうと、軌条くんはそのカッコイイ外見に似合うようベースギターで音を刻む。
「キャー!飛鳥くーん!!!」
「カッコイイー!!!」
「軌条!羨ましいぞぉー!!!!!」
女子からは喝采が、男子からは嫉妬の暴言を吐かれている。
あんなこと(踏んでもらおうとしたり)してても女子に人気なんだ…すごいなイケメンって…。
「最後は~!私達のバンドの華!ヴォーカルの神原優香!バルちゃんでーっす!!!」
バルちゃんの代わりに美優ちゃんがバルちゃんの紹介をする。
「バルちゃーん!」
「神原さーん!結婚してくれぇー!!!」
声からしてさっき振られた人だ。しつこいなぁー。
「じゃあ二曲目!これはあたし達が自分で作った歌です。聞いてください「CarnivalDays」…」
そういって数秒の沈黙。
その直後からの瓜生さんのドラムの激しいビートを刻み駆ける。
三人も、まるでエレキギターを奏でてるみたいなぐらい激しい。
まるで………祭りみたいだ。
文化祭のバルちゃん達の演奏は続く。
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「……あのやろう!!」
レオンは一人校舎を走り回っていたとき、目を見開いて驚いていた。
「………『外』に出やがった!!」
レオンはそういって、校舎を走る。自分も結界外に出るために―――――――。
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「おうおう~♪盛り上がってるねぇ~」
結界を出て、歩いている俺。
今考えてみれば、結界外の方が危険だな。
こんな拳銃持ってる男、誰かに通報されたら終わりだわ…。
「おっと、噂をすれば…」
俺が歩いていると、数メートル先にさっきの美人さんがキョロキョロしてるのを見つける。
恐らく俺を探しているのだろう。バレたら騒がれて、通報されて、おじゃん…。
「遠回りすっかぁー」
そういって俺は踵を返し、Uターンした。
バルのライブが終わるまで……後20分
☆
「はぁ!?敵が来たぁ!?」
「うん。……敵は誰かまでわかってないけど…」
「おいおいこっちは文化祭中だってんだぞ!?もしかして毒島がいねぇのは!?」
「うん。多分相手と闘ってるんだろうと思う」
ライブで盛り上がっている中、
あたし、神崎由香は鬼塚綾ちゃん、神倉雪音ちゃんに今起きていることを知らせる。
「あっ!三人ともいた!!」
そんなとき、どこからか声がした。
急いでこちらに走って向かってくるのは、李里香さんだった。
「お、おい由香…この人……」
「うん。綾ちゃん、この前山であった人だよ。松原李里香さん、あたし達の味方」
「自己紹介は後でするから、大変なのよ由香ちゃん」
「た、大変って?」
「とにかく現状報告するわね。
結界内のグラウンドで毒島くんとサジタリウスが交戦中。
レオンも校舎内で見つけた手塚隆吾と対峙中よ。前にも話した……『射手座』よ」
あたしは李里香さんの言葉に驚愕した。
あの…射手座が、何のために!?
「それも狙いは……多分だけど、『乙女座』よ」
「「「っ!?」」」
李里香さんの言葉にあたし達三人は唖然としてしまった。
射手座の狙いはあたし達「獅子座」ではなく、今そこで気持ちよく歌っている「乙女座」であるということ。
それは、この舞台に足を踏みいれ、彼女たちの目的を破壊する目的だった。
「……させない」
あたしは小さな声で呟いてしまった。
この間までの彼女達、そして今舞台で歌っている彼女達。
あんなに楽しそうな顔をしていたんだ。それをミスミス潰させてたまるか!!
「……ねぇ、手塚って…」
そんなとき、雪音ちゃんがぼそっと何かを呟く。
見てみるとノートPCを開いていた。画面を指差してあたし達に見せる。
「……これ?」
「…えぇ、でもおかしいわ。ここに映っているってことは…結界から出たってこと?」
「レオンが闘ってるんじゃないんですか!?」
「多分…逃げられたんでしょうね。ここの場所わかる?雪音ちゃん」
「うん。それくらいは簡単。…ここ」
雪音ちゃんが地図を表示して説明してくれる。
「よし、あたしは社長に電話して援護を要請するわ。貴方達はどうする?相手は殺し屋よ??」
李里香さんがあたし達を脅すように言う。できることなら安全圏にいて欲しいのだろう。
確かに、あたし達が言っても何もすることはない。ただの女子高生なのだから。
けれど、だからと言ってこの状況で頑張ってくれている毒島くんやレオンを他所に楽しめない。
「あたし達は、あたし達でできることをします!!」
「……そう、お願いね」
そういって李里香さんは大してあたし達を止めることなく、去っていった。
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「さぁ…どうするでござるか?毒島殿??」
「……くっ」
結界内グラウンド。
銃を持って立ち塞がるサジタリウスと、その男に見下されている一人の少年。
文化祭。
その華やかな舞台で一人戦う少年。毒島裕太。
そしてそれを圧倒的な力で打ち負かす射手座の星霊「サジタリウス」
言わば「青春」の裏。灰色の人生と言うような状況だ。
それを暗示させるかのごとく、結界内の空は澱んだ灰色で彩られている。
「いかぬでござるならそろそろ終わりにするでござるよ」
サジタリウスに拳銃を向けられる。
発砲の直後、いた場所に毒島はいない。
「…誰がてめぇにやられるかよ!!糞忍者!!!」
毒島はここぞとばかりにサジタリウスに悪態をつく。
身体中ボロボロだ。何よりも星術の使いすぎで体力が持っていない。
「むむっ!忍者を侮辱するでござるかぁ!許せんでござるよ!!毒島殿ぉ!!!!」
サジタリウスはどこからか出したクナイを何本か俺に投げつける。
『白式』も使えず、俺は全てのクナイを身体で受ける。驚くほど痛い。刺さった後から血が流れ出る。
あまりの痛さに吐血する。やばい……マジで痛い…。
「毒島殿。拙者は別に鬼畜ではござらぬ。
できることなら主のような将来有望なものを殺すのは忍びないでござるよ。
かといって拙者は主の根性に感化させずにただ逃げるような男でもないでござる。
故に、主にはもう立ち上がって欲しくないでござる。これ以上拙者は主を傷つけたくない」
こんだけ痛めつけといていまさら同情するのかこいつは…ある意味鬼畜だぞ。
「生憎だな。俺性格悪いんだ。てめぇが嫌がることは……したくなっちまうんだよぉ…!!」
俺は刺さったクナイを抜き始める。抜いた後からは血が噴出す。星術を使って傷口をふさぐ。
最後の大仕事だ!俺はこいつには勝てない!!なら、勝たなくていい!!
「……星術!!『白星檻』!!!!」
俺がそう叫ぶ。
するとサジタリウスの足元に紋章が浮かぶ。
その直後、檻のような透明な物体がサジタリウスを包み込む。
「な、なんでござるかこれはぁ!?」
「…『白星檻』。
物体創造の俺の「星術」と、ステータス向上のリブラさんの「星術」を合わせて作った完全オリジナル。
その檻からは、たとえあんたでも用意には出れない!!外からの攻撃も、内部からも攻撃の活断する!」
俺がそういっている間にサジタリウスは拳銃を向けて檻に向けて放つ。
しかし檻に当たった直後に弾丸は消滅。その程度の武器では意味がないのだ。
「星」とつけた星術と、「白」とついた星術には根本的に使う星力が違う。
それを同時に使うという方法は、思った以上に身体に負担が掛かる。今も眩暈が起こって仕方がない。
「た、たしかに出れぬでござるな……。」
「はは、どうだぁ…これ、中で爆弾とか放ってみろ。内部で爆発しててめぇが消える。
だからてめぇが使う「神具」ってのを使えたとしても、内部爆発。てめぇはただじゃあ済まない」
「…そうでござるか。なら、拙者はここで大人しく待つといたそう。どうせ手塚殿が標的を討ってくれるでござる」
「…や、やけに開き直るんだなぁ……」
「忍者たるもの!開き直るのも必要でござる!!」
「……それは忍者関係ないんじゃないか??」
俺は疲労感に襲われながら、サジタリウスと会話を交えていた。
こいつは悪者のはずなのに、敵のはずなのに、相手にそんな殺意が窺えない。本当に戦意喪失したのか。
「…そうでござるなぁ、今回はこのまま捕まろう。
今ごろ、手塚殿がいいポイントを探してる頃でござろう。
そういってサジタリウスは地面に座って空を見上げる。灰色の空だ。
俺もつられて地面に座り、サジタリウスをじっと監視していた。
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「ここ……かな」
誰もいない校舎。
そこに、鞄からライフルを取り出す青年。
窓からライフルをのぞかせ、スコープから体育館内を見る。
ギリギリ見える。ギリギリ狙える。ギリギリ「確実に」殺せる場所だ。
「あぁ!見つけた!!!」
「っ!?」
そのとき、青年は驚いた。
振り返ると、さっき見かけた不良少女だ。
木刀を持っている。随分古臭い不良だ。
「…まっずいなぁー、俺目標以外は討たないってポリシーなんだよねぇー、しかも女」
「うるせぇ!てめぇがライフル持ってようがこちとら怖くねぇんだぞ!!」
嘘だ。
青年にはそれがすぐにわかった。彼女の木刀を持っている手が微かに震えている。
本当に微妙。力んでいるから震えてるのかも知れないが、青年にはもう1つの確信があった。
目だ。
彼女の目が、完全に怯えた目をしている。自覚のない恐怖。
自分では果敢に立ち向かっているように感じているんだろうが、違う。怯えて動けなくなっているだけだ。
やばい。ここで騒がれたら俺は学校と言う組織に捕まる。青年はあくまで「殺し屋」。
テロリストではない。一人で大勢の人間を相手取ることはできないし、太刀打ちできない。
「……逃げるか。」
「てめぇ!逃がさないぞ!!」
青年はそういって追いかけてくる少女から逃げるために、窓から身を乗り出す。
ここは結界内じゃない。あまり大騒ぎするとバレるが、仕方ないだろう。
「…スイッチオン!っと」
青年は地面に着地するとき、そう叫ぶ。
すると履いていた靴からプシューと空気が放射され、落下の衝撃を和らげる。
「んじゃあね、デートしてたお嬢さん!!」
青年はそういって逃げる。
「なっ!?で、デートなんかしてねぇぞぉ!!おいっ!!」
窓からのぞいてきた彼女がなにやら叫んでいたが、まあ逃げた。
(こうなったら直接体育館だな。
撃って騒ぎにして、そこに乗じて逃げるか、それとも……)
そんなことを考えながら青年。手塚隆吾は逃げ続けた。
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「……貴方ですか」
【そうだ。神崎由香、お前の願望の件で話がある】
「…どうぞ、言ってください」
【そうか、では…】
脳内に響き渡る声。
クラウディオスさんだ。
そして話の内容は、この前のあたしが言った「願い」
その内容と、それについての言葉が綴られる。
「……そうですか。わかりました」
【随分とものわかりがいいのだな】
「そこだけが取り得なんですよ。なんちゃって…」
【そうか、我はお前を気に入っておる。射手座にやられたりなんぞ仕様もないことはするな】
そういって、脳内からクラウディオスの声が消滅した。
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「…ふぅー!!みんなー盛り上がってるかぁー!!!」
「「「「「おぉー!!!」」」」
「…次で最後になっちゃうけど!!」
「「「「「えぇー!!!!」」」」
「ほ、本当にみんな嬉しいよ。だけど、文化祭は個人ライブじゃないからね。次が控えてるんだ。
だから次で最後!!最後もオリジナル曲で行こうと思います!!」
そういうと、観客席から歓声が響き渡る。本当に心地いい。
「これは、今日と言うこの日まで、あたしが心に思っていたことを描きました。
あたしは最近この学校に転校してきて、みんな優しくて、すぐに打ち解けて…。
きっと、今あたしの友達もあたしの演奏を聞いてくれていると思います。いや、聞いてなくてもいい。
ただ、届いてほしい。あたしは今……みんなのおかげでとても楽しい!!こんな舞台に立たせてもらって
最初は恥ずかしくていやだったけど、今は人生で一番ってぐらい楽しい!!
きっとこれから色んなことがあってもあたしにとっての一番の思い出はこのライブになるんでしょう。
そんな思い出を作ってくれた後ろの仲間達。そしてあたし達を応援してくれた友達。
最後に、この体育館に来て、一緒に盛り上がってくれるみんな!!あたしは大好きです。
じゃあ最後です。「Recollections」聞いてください」
そういうと、あたしは小さくギターを奏でる。
最後はバラード。最初からそう決めていた。
そして、あたしはここで全てを言葉に、歌にするんだ。
楽しいこの思い出を、永遠のものにするために。
あたしはただ……最後の歌を奏でる。
☆
「んー、なんか俺らの邪魔しようとしてる連中がいるみたいだなぁ…あれか?レオンの仲間か??」
青年。手塚隆吾はぼそりと呟きながら通路を歩く。
オーラのある人間。
人々がよく口にする言葉だが、実際はどうなのだろうか?
手塚隆吾は「殺し」に関しては有名所すぎるプロ。すなわちオーラのある人間なのだ。
しかし人々は彼とすれ違っても怯えた様子もなければ、ちら見すらもされないのだ。
オーラのある奴と言うのは、態度がでかいか。挙動不審なのだ。
芸能人が堂々と街中を歩いていても案外バレないものだ。
バレるかもと挙動不審にしている芸能人ほど分かるものはない。
すなわちオーラなんてもんはその程度なのだ。だから俺はこの世界をのし上がれた。
どいつもこいつもバカみたいな「殺し屋」ばかりだった。
俺は「殺し屋」を殺すことが本業だったりする。そういう奴らは愚かにも『オーラ』を出す。
「自分は人を殺した。だけどバレてないんだぜ??すごくねぇ??」みたいな愚かすぎるオーラが全開なんだ。
俺にはそいつが「殺し屋」だってことは一目瞭然。じゃあ俺は?ここでの行動を見てわかるだろ?
ライフルの入った大きな鞄を所持していても、俺は誰にも気付かれていない。そもそも疑惑にも思われてない。
どこぞの「忍者」を名乗るくせに『オーラ』全開の大馬鹿野郎は少しは俺を見習ってほしい。
「さてっと、どうしたもんか。どう殺してやるべきか…」
そんな言葉を発しても、誰も俺を警戒しない。
恐らく俺が言っても、「ゲーム」の話か何かと思って通り過ぎるしかないだろう。
そんなことはどうでもいい。
本当にどうやってやってやろうか…。
俺は体育館に到着し、その扉を開く。
さっきまで歓声が上がっていたはずだけど…なぜか静かになっている。
前を見てみると、その理由も頷けた。俺の標的。乙女座のバルが、ライトに照らされ歌っている。
とても静かな曲調。演奏もギターのバルただ独り。他のバンドメンバーも、大人しく彼女の曲を聞いていた。
うん。俺も聞き入っちまった。いつの間にか。
これは彼女の幻術能力を使っていないはずなのに、人の心に訴えかけている。
俺はこういうのが大好きだ。アイドルとか、テレビに出て歌以外のトークでウケている歌手よりも
誰も聞いてくれていないけれど、路上で歌い叫んでいるような、そんな歌手。
彼女からはそんな雰囲気が流れているのだ。俺はこいつを殺すのか……。
「…少しだけ待っておいてやるか」
俺はそう一言置いて、体育館を出た。
体育館を出た後も聞こえる彼女の歌声は、この俺さえも感動させてしまいそうなほどだった。
「あいつが星霊なんて………もったいねぇなぁー」
俺はそう呟き、煙草を取り出して吸い始める。
こうやって意識を向けないと、戦意が失ってしまいそうだから。
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「くそっ!」
俺、獅子座のレオンは失っている片手を押さえる。
そこから血が滲み出ているのだ。まだ完璧に治せていないのに
手塚との戦闘で傷口が広がってしまったのだろう。
結界外に出ようと向かうも、まだまだ距離がありそうだ。
廊下には血がぽたぽたと落ちている。
「今回俺…何も出来てねぇな……」
俺は思わず小さな声で呟く。
今回俺が頑張ろうと思っていたのは、何も乙女座と同盟を組んだからではない。
あいつが……「乙女座のバル」が、今と言う日常をすっごく楽しんでいるんだ。
俺はあいつよりも年上で、あいつが星霊として選ばれた日から知っている。
あいつは生真面目な奴だ。星霊は星霊。
としか考えない。自分は闘う戦士なのだ。と言う事実だけを背負っていた。
みんな…いや、カプリコは違うけど、それなりに折り合いをつけて闘ってきていたんだ。
でもあいつは……生真面目すぎた。だからあいつは俺達星霊を「嫌い」と言って罵倒し、敵対関係を築く。
本当は、星霊たちの中で一番優しくて、一番みんなのことを考える人間だというのに。
敵は敵。折り合いを付けれないのだ。そういう意味ではタウロスと同じぐらい融通が利かない。
そんなあいつが、今……すげぇ楽しそうな顔してライブをしている。
俺は由香と一緒にいたときに、練習をしているバルを見たとき、感慨深くなった。
あの「本当の笑み」を浮かべなかったあいつが、とても楽しそうに笑っていたからだ。
きっとそれは彼女の占い師「加賀美優」との出会い。そしてこのバンドと言うものの出会いのおかげだろう。
そんな彼女が今恐らく、生きてきて一番楽しい瞬間を味わっているのだろう。
それを潰そうとしているのが、「射手座」のコンビだ。決して彼らが「悪」といいたいわけではない。
これは「年間星座占い」の中で仕方のないこと。だからこそ俺は彼女の楽しみを奪わせたくなかった。
なのに……俺は何もできそうにない。
とても歯がゆい。
「…こんな血ごとき!なんとかやってやらなきゃダメだろぉぉ!!」
俺は「天使喰い」を発動させ、身体を活性化させる。
腕の再生までは流石にできないが、傷口はふさがった。
俺は走りにくいながら走る。
間に合え!間に合え!!俺はその言葉を心の中で叫び、結界を出た。
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「……退屈でござる」
「捕まってる奴の言う台詞かよ」
「何かないでござるか?毒島殿??」
「ほんっと自由人だなお前…」
「何か聞きたいことがあれば答えるでござるよ!!」
「……じゃあ、なんで乙女座を狙う?」
「射的で決めたでござる!!!」
その言葉の直後俺は愕然としてしまう。
こいつら…そんな適当な方法で倒す相手考えてたのか…。
「拙者は、ただただ手塚殿に従うだけでござる。
手塚殿は本当に趣のある人間でござるよ……。とても人間にするには勿体ないでござる」
「じゃあ何にするのがいいんだよ?」
「…『星霊』でござるかな。彼の者には拙者の次の「サジタリウス」になってもらいたいとも思われるでござる」
「あ、そうか。星霊って本来は「襲名制度」なんだっけな?人間もなれるのか??」
「否。不可能とまでは言わぬでござるが、ほとんど不可能も同然でござる」
「じゃあなんで手塚をサジにしたいなんて言ったんだ??」
「…ただの妄想でござる」
「なんだよそりゃ」
俺はサジタリウスと差しさわりの無い会話をする。
こいつ…本当に「無邪気」な奴なんだな。と思う。言葉のまんまの意味だ。
「邪気」がない。悪意がない。特別な殺意もなければ、特定の悪意もない。
案外出会い方によってはいい仲になれたかも知れない。俺も忍者とか大好きだし
その後も、本当に差し障りの無い会話を行う。
「…そろそろでござるな」
「ん?」
「済まぬでござる毒島殿。手塚殿は感情に流される男でござるが、仕事はきちっとする男でござる」
なぜか突然そんなことを言い出すサジタリウス。
その直後だった。
俺が作った『白星檻』がことごとく破壊されていた。
そこで彼が持っていたのは、小さい。けれど光が包み込まれた二本の小太刀。
「…これも「神具」の1つ。『バルムンク』でござる。あらゆるものを破壊する小太刀でござるよぉ…
毒島殿との問答。なかなか面白きものでござった」
そういってサジタリウスはそのまま去っていってしまった。
俺は『白星檻』に使った星力のせいで体力尽き、その場で倒れてしまった。
結界も消えてしまう。
「………大丈夫?」
「あぁ…神倉か。助かった、保健室かどっかつれて行って…くんね?」
「うん。わかった。綾ちゃん呼んでくるね」
「え、ちょ…話聞いてた?」
俺の言葉は虚しく、届かない。
神倉は倒れる俺をほったらかして、そのままどこかに走り去って行った。
その姿を見つめていると眩暈が起きて、いつの間にか俺は瞳を閉じた。
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「……みんな。ありがとう」
「「「「「いぇーい!!!!!」」」」」」
歌を終えたあたしが小さく礼を言うと
観客は拍手と共に歓声を送ってくれた。
汗もかなりかいたけど、とてつもなく気持ちいい。
もう、何も悔いはない。今まで戦いばかりだったけど、こんなに達成感を味わったことはない。
そんな瞬間だった。
大きな発砲音と共に、突然時が止まる。結界だ。
「やぁ、ライブは満足に楽しめたかな?乙女座さん♪」
あたしは声の方を見る。
体育館の一番後ろ。そこで拍手をしている一人の青年。
「バルちゃん!!」
ミューがなぜか怯えたように叫ぶ。
さっきから身体に走る痛みが原因だろうか?
あたしは自分の身体を見ると………赤い液体が流れていた。
「……あばよ。乙女座。てめぇのライブ…最高だったぜ」
そしてもう一度、発砲音が鳴り響く――――――。
☆
先代の「乙女座のバル」は、それはそれはとても麗しくてあたしの憧れだった。
っと言うか、全ての女性の憧れだったんだ。風貌もそうだけど
彼女は誰よりも「強く」「優しく」「凛々しい」そんな女性だった。仲間にも厳しくて
だけど困っているときは助けてあげて……そんな先代「乙女座のバル」の元に入れたあたしは幸福だと思った。
「貴方が次の「乙女座」を担うのよ」
「え……」
初めて言われたときは驚愕したものだった。
あの憧れの人が「乙女座」をやめる。そしてその後釜には自分が……付く。
こんな嬉しいことはないと思ったのと同時に、物凄いプレッシャーに襲われた。
だからだろうか。
あたしは決意を新たに、年間星座占いに挑んだのは。
「はっ!あんた達があたしの敵ぃ?
どいつもこいつもしょぼそうねぇー。こんなんの相手を先代がしていたなんて嘆かわしいわ!!」
絶対に先代に答えなければ、そしてこの年間星座占いと言う場についた以上
自分はもうただ憧れていただけの「幼い少女」じゃあダメなんだ。ここにいるのは全て敵。
だから誰とも馴れ合わない。ここにいるのは全員敵だ。全員を倒さないとあたしは力を証明できない。
「うぃーっす。遅れたぁー……。ってあり?お前か??新しい乙女座って…」
あたしよりも遅れてきた星霊が一人いた。
逆立った金髪の髪に、コートを着たカッコイイ青年。そう、獅子座のレオンだ。
彼はじっとあたしの顔を見てきた。っていうか睨んできた。
「……なんだ。ただのガキじゃねぇか、あぁ~あぁ~先代はマジで美人でタイプだったのになぁ~」
「な、なんですってぇ!!」
「ははっ!レオンの言う通りだな!!そこの譲さん。来てそうそう俺達に発破掛けてきやがった。
大分じゃじゃ馬やろうだぜレオン!先代の乙女座とは大違いだな!!」
「うむ…。先代と比べるのはよくないが、確かにクールではないな」
レオンの言った言葉に爆笑したのはタウロスだった。
そしてその言葉に続いたのは、当時はちゃんとガンマンの姿をして物静かだったサジタリウスだった。
(あれが……『三強』なのか…)
あたしは少々緊張しながら彼ら三人を見つめた。
獅子座のレオン、牡牛座のタウロス、射手座のサジタリウス。
常に上位をキープして、常に力を誇示し続けた三人だそうだ。
あたしはこいつらを目標に、それでも…一位を獲ることだけを目指して、毎年頑張った。
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くる年もくる年も、戦闘の日々だった。
戦略、逃走、戦闘……全てを最大限に生かし、何とか半数よりは上の順位にいけるようになれた。
「今回は六位。惜しかったなぁーバル」
「うっさいわね!レオンは黙っててよ!!今来年の対策練ってるんだから!!」
「……お前真面目だな。めんどくさくなんねぇ?そういうの??」
「あんた達は素で強いからいいでしょうねぇ!見てなさいよ!絶対に追い抜いてやるんだから!!」
「…ま、頑張りな」
そういってレオンは去っていく。
正直悔しかった。先代すらも同等に戦って負けるほどの腕の持ち主達。
当時の順位は一位がタウロス、二位がサジタリウス。そして三位はレオン。と言うものだった。
(絶対!あいつだけはぶっ潰してやる……ガキ扱いしたこと後悔させてやるんだからぁ……!!!!)
あたしはそこから五位。四位。とどんどんと順位を挙げていった。
あたしと同じスタイルで戦う「蟹座のキャンサー」もさりげなくあたしのライバルとなった。
上位三位を『三強』が取り合い、四位~六位をあたしやキャンサー後はカプリコやらスコーピオンやらが入った。
どれだけ頑張ってもこの三枚の壁は突破出来なかったんだ。
たまに突破できる年もあった。けれどそれはほとんどマグレで、自分の腕じゃなかった。
けれど、その大きな三枚の壁は……案外簡単に突破出来るようになってしまった。
ある年……そう、レオンのマスター「豊穣早苗」が死んでしまった年から。
あたしはその年から三位の座を得れるようにはなった。けれどそれは決して嬉しいことではなかった…。
むしろ悔しさがさらに上がっただけだった。あたしが超える前に…なんでレオンの奴が落ちるのよ…と。
「ちょっとあんた!!」
「…なんだ。バルか、また悪態付きにきたのか??」
「えぇそうよ!!あんたの事情は見てたから知ってる!でもそんなウジウジしてていいの!?」
「……五月蝿ぇよ」
レオンは気だるい様子であたしから逃げていった。
あたしをあんなに小ばかにしていた男が、あんなに仕様も無い男だったのは思わなかった。
あたしはレオンのことを………嫌いになった。
それからは堅実に上位を取れる戦い方に徹した。
とにかく上位を獲ることだけ。マスターにも危険を冒させはしない。
とにかく、上位へ、上位へ……レオンが落ち込んでいるなら。あたしが新しい『三強』になってやる…と
それのことしか考えていなかった。
そんなときだったんだ。あたしがミューと出会ったのは。
あたしは一目見たときに、運命を感じてしまった。
ミューを見てあたしは、一目惚れをしてしまったんだろう……。
あたしって…百合趣味だったのかぁ……っと一時期落ち込んだこともあったけれど
それは杞憂だった。あたしがミューに惚れたのはその「人柄」なのだ。とすぐに理解した。
こんなあたしも、思わず殻を破ってしまいたくなるような…そんな雰囲気を醸し出している彼女。
彼女の前ではあたしはもう一人の戦士ではなく、一人の『幼い少女』に戻ってしまっていたのだ。
あたしはすぐにこれを受け入れた。そうだ…あたしはこの娘と共にいよう。そしてこの子を上位にして
幸せな一年を過ごしてもらおう。ただそう思った。彼女を救おう、彼女を護ろうとただ思った。
レオンも「豊穣早苗」にこんな感情……いや、それ以上の感情を抱いていたんだろうな。
そう考えるとあのときあたしの言った一言は、想像していた以上にレオンを傷つけたのかも知れない。
あたしはミューを護る。ただそれだけを心情にこの一年をやることに決めた。
しかし、どうやらミューは「護る物」のほかにも、あたしにとても価値のあるものを与えてくれたみたいだ。
「人としての楽しみ」
ミューが与えてくれた。最高の宝物。
学校に入ろうと言ってくれたミューに誘われて通った学校。
最初はミューの警護と言う名目だったけれど……毎日とても楽しかった。勉強はだるかったけど。
真希、軌条、奄美…それに敵だけど由香に、由香の友達の毒島、鬼塚、神倉…その他のクラスメイト達。
みんな、本当にいい人ばかりで…楽しくて……そしてこのバンドを始めるということになったんだ。
練習も楽しかった。歌詞を書くのも初めてだったけどとても楽しかった。
みんなでカラオケ行ったり、プールに行ったりもして、楽しいことだらけだった。
そしてライブをやって、みんなが盛り上がってくれて、気分がよくなって…最高だった。
もう、星霊であることをやめたくなるぐらい。今まで戦いのことしか考えてこなかった自分に後悔するぐらい。
だからこそ、ここであたしが撃たれたのは、仕方ないと開き直ってしまうほど……至極当然の結果だった。
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「悪いな。お前の星霊…俺が殺させてもらう」
2発の弾丸を撃った手塚は、泣いてあたしに詰め寄るミューにそう言った。
「どうして!?どうしてバルちゃんを!?」
「…わかってるんだろ?占い師。これは戦争。サバイバルゲームなんだ
だからこそそこの星霊は、何も悲しんではいないはずだよ?」
まったく持ってその通りだ。
毎年のあたしだったら、こんな的になるようなことはしなかったはずだ。
今年のあたしは…どうかしていた。でも…どうかしていてよかったと思ってる。
「この弾丸はサジに頼んで貸してもらった対星霊用の弾丸だ。痛いだろ?」
「えぇ…すっごく痛いわよ……」
痛い。痛すぎて立ち上がれない…。
今からギターを弾いてこいつに幻術を掛けるか?
「…お前が楽器を出した瞬間。俺はこの弾丸を後三発はお前にぶち込む」
手塚はライフルをあたしに向けたまま歩いて近づいてくる。
これは…チェックメイトって奴なのか……。
「ねぇ、ミュー?」
「何??バルちゃん…」
「あたしね…確かにこんな状況になったことを、悔いてはないよ?当然だもん。
あたしは闘う戦士で、こんな堂々としていたら的にされる存在なんだもん。手塚の言う通り。
だけどね……嫌だよぉ…ミューと別れるの……みんなと別れるの…みんながあたしのこと忘れるのぉ…」
思わず涙が流れてしまった。
あぁ…女々しいな……女だから仕方ないか。
あたしは今から死ぬ。どう足掻いたって死ぬ。ここにレオンたちが着ても死ぬ。
この射手座の占い師。手塚隆吾がそんなやわな失敗するような男には見えない。
この男は、もしも情に流されても確実にあたしを殺す。
「バルちゃん…」
「でもミュー…聞いて」
あたしがミューに言葉を残そうとする。
どうせ彼女は忘れる。なぜか手塚もあたしが話し終えるのをじっと待ってくれている。
「何?」
「ミューのおかげで、楽しかった。楽しみを忘れてたあたしが……とっても楽しかった。
本当は別れたくないけど、仕方がないことなのよ。あたしは星霊…所詮は人じゃなくて、消える存在…」
「やだよぉ~!バルちゃんがいなくなったら!あたし悲しいよぉ~!!」
ミューが涙を流す。
やめて…あたしがせっかく決心つけたのに、また女々しくなっちゃうじゃないか…。
「ミュー、嫌でも…こうなっちゃうんだよ。いつかはこうなったんだ。
もしかしたらミューと由香が喧嘩してまでこうなる可能性があったんだよ?
正直本気のレオンにあたしは勝てる気がしないし…。だったらちょうどよかったじゃない。
あたしはもう……満足しちゃったのよ………だからもうこの世界に悔いがないから、消えるの」
「…………」
ミューが涙を堪えている。
「もぉ…泣かないでよ」
「だ、だってぇー」
あたしは、傷ついた身体を起こしてミューを抱きしめる。
ミューもそれを抱きしめ返してくれる。
「…なあ」
そんなとき、突然手塚があたし達に話しかけてきた。
「悪いな。空気壊して、今あんたらが消滅したらいくら記憶が改竄されるとしても、
このライブが騒ぎになる…。撃った俺が言うのもなんだが…猶予を与えようか?」
突然そんなことを言い出す手塚。何?猶予??
「だから、お前達が逃げなければ、ライブを完全に終わらせてから。俺に殺されろって言ってるんだ」
手塚のとんでもない提案にあたしは飲んだ。
「「「「「「いぇーい」」」」」」
結界を解いた瞬間。
まるで止まった時が進み始めたように観客達の歓声が響く。
「みんなありがとぉー!!あたし!!!神原優香は今!とってもぉー!!幸せだぁー!!!!」
あたしがそう叫んだ。
その隣でミューはしゃっくりが止まらないくらい号泣していた。
あたしも、隠そうとしても隠し切れなかった涙が、流れていた。
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「……終わったのか?」
「うん。無事にね…」
「そうか。じゃあ遠慮なくやらせてもらう」
手塚はあたしに向けてライフルを向けた。
みんなとも最後に話をした。明日にはみんなの記憶からあたしは消える。
「…じゃあな。俺はお前が星霊じゃなかったらよかったのに…っと、今常々感じるよ」
「……そう」
その直後、銃声が響き渡った。
今度は確実に心臓。
「バルちゃん……」
「ミュー……バイバイ。またね」
そういってあたしは光に包まれて、そのまま消滅する。
その後、占い師であるミューも光に包まれて、その姿を消した。
「サジタリウス。標的の始末に成功した。今から学校を抜けるぞ」
『御意!』
その日。もうサジタリウスと手塚の姿を見たものはいなかった。
こうして文化祭は終わり、乙女座のバルは――――――――消滅した。
文化祭にいた人々は、口々に鼻歌を歌って文化祭の片付けをする。
その鼻歌はなんなんだ?と問い詰めると
みんなが「えーっと「Carnival」ってバンドが歌ってたんだよ。ヴォーカルは…えーっと誰だっけ?」と
疑問を浮かべる。誰が歌ったかわからない歌の鼻歌が、学校中に響き渡った。
人々は、誰が歌ったかはわからないが、心を動かされたその名曲を、忘れることはなかった。
☆
「…申し訳ありません。間に合いませんでした」
「いいえ、別にいいわ。貴方が生きていれば…敵が一人減っただけのことよ」
社長室。
そこでは立って社長。足引玲子と話す松原李里香と、社長の机に座っている少女…「天秤座のリブラ」
松原李里香は同盟を組んでいる獅子座の護衛と、情報収集のために文化祭に借り出されていた。
そこで起こった惨事。それはサジタリウスの陣営が文化祭に殴りこみ、乙女座を抹殺したという事実だった。
ここでサジタリウスを排除しようと模索した李里香だったが、その前に射手座陣営に逃げられてしまったのだ
「これで残ったのはわたくし、サジタリウス、スィー、レオン…でございますわね♪」
「そうね…FISHBOYの能力はわかったの??」
「あまり確信できませんの。能力における共通点も、過去のデータを入れても共通点は1つだけ…」
「1つ??」
「えぇ、スィーがまるで…『武器』になっている。と言うことだけですわ。前にも言った覚えがありますが」
「でも今回のFISHBOYはまるでスーツじゃないの?あれはどう説明するの??」
「あれが1つの『武器』なんだとしか考えれませんわ」
「……本当に謎ね」
「社長。それで…もう1つの用件と言うのは……」
李里香がそういって社長に最速する。
彼女が呼ばれた用件は、今回の件の報告と…もう1つ。社長から話があったかららしいのだ。
「ええ。まあ私と言うより……リブラが貴方に用があるみたいだけど…」
「リブラさんが??」
「えぇ、もうそろそろわたくしも観戦ばかりじゃあ行かなくなりそうですし♪
そろそろここにお呼びして欲しい人物がいるのですわ」
「だ、誰ですか…?それは……??」
「元占い師…『毒島裕太』と『神倉雪音』ですわ」
「っ!?」
その言葉を聞いて李里香は驚愕する。
『毒島裕太』はまだわかる。彼は今も星術を使いこなし、いまや一人の星霊のそれ同等の力を得ている。
リブラの星力を起源に彼の力は得られているのだから、呼ばれて当然なのは当然なのだが…。
『神倉雪音』を呼ぶ意味がよくわからなかった。彼女はあの『神倉グループ』の次期当主なのは知っているし
占い師時代。全ての占い師の位置情報を掴んでいたほどの腕前を持つ情報屋だ。でも、今はただの女子高生
この前李里香は彼女にあったが、とっても可愛らしいただの女の子だった。
「彼女には彼女でしてもらうことがありますわ♪そしてそれに関して社長も承諾していただきました」
「えぇ、多少会社の損が出たとしても、この占いに勝てれさえすれば、全て戻ってきますしね」
李里香がいない間に二人でそんな会議をしていたのだろう。
そうなると、彼女には1つの答えしか脳内に出なかった。
「…わかりました。至急その二人をここまでお連れ致します」
「頼んだわね。李里香」
社長にそういわれ、李里香は部屋を去った。
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「…手塚殿?」
「なんだ。サジタリウス??」
「どうして…猶予を与えたでござるか?」
「…バレてたか」
「左様。拙者常に手塚殿の視界を共有している故、隠し事は不要でござる」
「まあ、気まぐれだよ。気まぐれ」
「拙者てっきり手塚殿は何事にもクールで情には流されぬ男だと思ったでござるがぁ…」
「たまにはいいだろう?あいつ…乙女座のバルの音楽は俺の心に響いただけのこった」
「…そうでござるか」
手塚は、小さなお猪口に入れてあった日本酒をそっと口に含む。
場所はいつもの射的場のある地下室だ。
「…拙者にも、いただけぬでござるか?」
「あぁ、いいぜ」
サジタリウスにお猪口を渡し、酒を注ぐ。
サジタリウスは口にしてあった布を取り去って、それを口に含む。
「…まっこと身に染みるものでござるな。手塚殿」
「だろ?俺はこの酒が大好きでな。お前も気に入ってくれたなら嬉しいよ」
そういって二人で腕を絡ませ、酒を口に含む。
「こういうの極道で「契りの儀」って言うらしいぜ?」
「そうなんでござるか…拙者。生涯手塚殿のお傍に仕えるでござる」
「おいおい、本当にそういう契り結ばなくていいんだよ」
「して手塚殿。次のターゲットはどの星霊にするでござるか??」
「そうだなぁーまた射的で決めるのもいいけどなぁー」
「それなら的を用意するでござるよ??」
「いや…今は酒も回ってるし、また今度にしよう。とにかく、乙女座討伐記念だ。今日は楽しもうぜ」
「……そうでござるな」
そういって二人は日本酒の入ったお猪口を互いに当てて、乾杯して酒を飲んだ。
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「スィー?どうしたの??」
「………」
「へぇー乙女座がねぇーじゃあ僕も入れて後四人なんだ」
いつもの煙突の上。
自分の身体の回りを浮いている魚相手に会話をしている青年。
しかし、その姿ははたからみたら玩具に話しかけている少年少女のように、独り事に聞こえる。
「そろそろ、レオンに挑戦しよっかなぁー最近テレビとか色々来てめんどくさかったし…」
「え?それは僕が無駄に目立とうとするからだって??スィーそれは酷いなぁ~
僕は正義のヒーロー「海援戦士FISHBOY」だよ?市民の希望には答えてあげないとね」
青年はそういって、煙突の上を流れる涼しい風を見に受ける。
とっても気持ちいい。彼にはその言葉しかなかった。自分も色んな戦いに身を投じてきたけれど
やっぱり彼はすごいと思った。獅子座のレオン、彼とはぜひとも一度戦ってみたいものだ。
「さてっと。今日も夜のパトロールに出かけるよ。スィー」
そう呟いた青年は立ち上がる。その直後、身体の回りを浮いていたスィーが全速回転して
そこから放出される水に青年の姿が隠れる。まるで爆発するように吹き飛んでいった水。
水のなくなったそこには、さっきの青年はいなかった。代わりに戦闘スーツに身を包んだヒーローの姿があった。
そうして彼は空を飛び、再び街の中へ飛び立つ。
彼をこの星見町の人物は尊敬の念を込めてこういった「正義の味方。海援戦士FISHBOY」と――――――。
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「…バルの奴、消えちまったな」
「そ、そうだね」
あたし、神崎由香とレオンは少し落ち込んでいた。
自分達の仲間、「乙女座のバル」が消滅した。そしてその事において、自分達は何も出来ていないのだから。
あたし達は、彼らの邪魔をすることも出来ず、射手座の手の上で踊って……乙女座を殺されたのだ。
「ま、まあ!仕方ないよ!レオン!!」
あたしは、この空気に耐え切れず、大きな声でそういった。
テレビをつける。録画してたお笑い番組を再生する。お気に入りの芸人のネタを見る。
最初は悲しがっていたあたし達だけど、しだいに笑みがこぼれてきて
最終的には大爆笑していた。まるでバルちゃんとの別れと言う悲しさを拭い去ろうとするように。
「…ねぇ、レオン…」
「ん?なんだよ…」
「…こっちくる?」
「ぶっ!?」
就寝時間。
電気を消したあたし達はいつも通り、ベッドで寝るあたしと壁に持たれて座っている寝るレオンの姿だった。
「きゅ、急にどうしたんだよ由香!?」
「…………」
そう聞かれてあたしは黙り込む。
理由はいろいろあるのだ。だからどれを言うべきか悩んでしまう。
「…本当にいいんだな?」
距離を詰めてきたレオンはベッドにもたれかかり、そういった。
「…うん。あ、だけどエッチいのはダメだよ」
「わかってるっつうの。ったく」
そういってレオンはあたしのベッドに入ってくる。
だけどあたしの顔を見ようとはしない。あたしに背を向けてくる。
今のあたしには……そっちの方が嬉しかった。あたしはレオンの背中に抱きついた。
「…本当、急にどうしたんだよ」
「別に、こうしたかっただけ」
「…そうか」
そっから、レオンは何も言わなくなった。
あたしも何も言わずに彼を抱きしめ続けた。
「ねぇ…レオン」
「な、なんだよ…」
あたしは突然口を開く。
レオンもまだおきていてくれたみたいだ
「やっぱり美優ちゃん。バルちゃんのこと忘れてるのかなぁ?」
「…だろうな」
「毒島くんも雪音ちゃんも忘れてるんだもんね…」
「あぁ。明確には覚えてないな」
「今日ね、みんなバルちゃんの歌口ずさんでいたんだ」
「…そうだったな…」
「やっぱり、記憶ってのは完璧には消えないのかも」
「…もしかしたらそうかもしれねぇな」
「もしレオンが負けたら、あたしはレオンのこと忘れちゃうんだよね?」
「俺は負けねぇよ。安心しな」
「うん。そうだね…レオンは絶対に負けないもんね」
「あぁ、絶対だ」
「………」
「……寝ちまったか」
あたしはレオンの暖かい背中を抱きしめてそのまま眠りに落ちる。
レオンもあたしが寝たのを確認したのか、そのまま眠りについた。
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「………由香??」
その日の朝。
目を覚ましたレオンの下には……『神崎由香』の姿はなかった―――――――。
どうも、紘っちです
ここから物語はクライマックスへ向かっていきます!!
残った星座も、「獅子座」「射手座」「魚座」「天秤座」だけとなった。
そして姿を消してしまった……神崎由香。
今回では、乙女座のバルの過去を書かせてもいただきましたが
こうして、長年出てきたキャラクターで愛着もあって結構好きなキャラでした。
残り少しですが!どうか応援ください^^
毎回こんな長い小説読んでる皆さん本当にありがとうございます!!><




