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ゾディアック・サイン 7章・前『文化祭カーニバル』

由香の告白と、李里香の涙で終えた学校でのジェミニ戦


生き残った者たちの様々な思惑が動く中

物語は佳境に入っていく―――――――。


そして季節は秋。ついに行われる……学生の華。『文化祭』

しかしここに舞い降りたのは『最狂』の星霊だった――――――――!!

「……あ、あーん…」

あたし、神崎由香はあれから数週間。

時期は夏休み直前の期末テストが終わるところまできた。

もちろん今回も毒島くん。そして追加で雪音ちゃんが教えてくれた。

二人共どうしてあそこまで成績がいいのだろうか……。

教えてくれたあたしと綾ちゃん。そしてバルちゃんと美優ちゃんも一緒に勉強した。

文化祭は夏休み前日。

最後の最後に文化祭で楽しんで、休みを満喫しよう!と言うのがあたしたちの学校の法則なのだ。

だからこそこのテストは難しかった。けれど二人のおかげでいい成績は取れた!

そして今…あたしは何をしているかと言うと…。

「お、おう…」

「は、恥ずかしがらないよっ!!」

「な、なんだよ別に恥ずかしがってなんかねぇよ!!」

そういってレオンはあたしが持っていたスプーンまで顔を突き出して口に入れる。


そう、今のこれが……あたし達の状況なのだ。

「…どう?」

「う、うめぇけど……悪いな…」

レオンは申し訳なさそうに謝る。

ジェミニとの闘いで失った片腕はまだ完全に治っていないのだ。

獅子座の固有能力は『治癒能力』を持っているらしいけれど、それでも遅れてるらしい。

それで……毎日こうやっているのだけど…慣れない…////////

「ほら!あーん!!」

「あーん」

レオンも少し気恥ずかしそうにあたしの突き出すスプーンを口に入れてくれる。

本当にこれだけの作業なのに……ものすごく恥ずかしい…/////




「はぁ…やっと終わったぁ…」

「本当に悪いな…。利き腕の方が切られちまって」

「ううん。いいよ別に、あ…あたしは別にい、嫌じゃないし…////」

「お、おう…」

少し気恥ずかしげに言うレオン。こっちが恥ずかしくなってくるぅ…!!

「さてっと…風呂でも入ってくるか」

レオンがそういって服を脱ぎだす。

「キャー!!!!」

「あ、わ、悪ぃ…」

服をはだけた状態だったレオンは、あたしの反応を見て慌てて服を着直す。

そして服を着た状態で浴室の更衣室に入っていった。

「……な、なんか…恥ずかしかったよぉ…」

今までは見てても何ともなかったし、まあ気にはするけど。

前までのレオンはパンツまではこのリビングで脱いで行くのだけれど

最近はあたしが思わず見て叫んじゃうのでやめるように努力しているみたいだ。

なんだろう、やっぱり……あれか。あれのせいなのか…!!!!

《あ、あたしは!!あんたのこと――――好きなのっ!!!!》

あの言葉が、あたしが今まで募ってきていた想いを爆発させてしまい、レオンを意識してしまっているのだ。

「……シャ、シャワー浴びてる…」

静かな部屋に響くシャワーの音。

それだけでレオンのことを思ってしまう。片手で洗いにくくないかなぁー…。

い、今…あたしが手伝いに行ったら、あいつ……悪い気…し、しない……よね?

お、男なら!う、嬉しいよね!!うん!あたしみたいな美少女が「お背中流すよ?」って行ったら

きっとレオンは男の本能が目覚めて………。

「………/////////」

あたしは頭から湯気が出るぐらい恥ずかしくなった。

どうしよう…行こうかな……。絶対片手だと苦労してるだろうし、

べ、別にやらしいことしようってわけじゃないんだし……。


そう思ってあたしは立ち上がり、風呂場に行こうと思ったとき、突然電話がなる。

「っ!?」

あたしは慌てて携帯を取って出てしまう。

「は、はいっ!!」

「あらあら♪どうかなさいましたか?由香ちゃん??」

「…え?」

あたしは、携帯から聞こえた予想外な人物の声に驚きを隠せなかった。

「り、リブラ…さん?」

「ご名答ですわ♪由香ちゃん…今何をなさっておりましたか?」

「べ、別にお風呂場行って背中流そうとかそんなことは!!あっ!」

「…なにやらわかりませんが、楽しそうで何よりですわ♪」

そういわれると、余計恥ずかしくなってしまう…。

「あ、あの……リブラさん。なんであたしの携帯番号を……」

「わたくしのマスターは優秀ですのよ?貴方の電話番号情報ぐらいなら簡単に得れますわ♪」

「そ、それに……私に何の用ですか??」

「『貴方に』と言うよりは『獅子座のお二人』になのですが…。

 まあとにかく明日迎えを使わせますので話はそこから…ですわ♪」

そういっているリブラさんの話を聞いていると、扉が開かれた音がして後ろから。

「おーい由香ぁー?風呂空いたぞぉー。あぁ~洗い難いな…ったく」と言っていた。

「…なるほどそういうことでしたか♪いやはや由香ちゃんも中々大胆ですわね♪♪」

「ち、違うの!あたしはそういう気で背中を――――」

「では、ごきげんよう♪」

言い訳をしようとした途中で言葉を遮るように言葉を言い放ち、リブラさんは電話を切ってきた。

あたしは逆恨みも同然だけど、真っ赤になった顔で、レオンを睨んだ。

「な、なんだよ…。ってか誰からの電話だ?」

その言葉を言われてあたしは使命を思い出し、リブラさんとの電話のことをレオンに話した。


「なるほどな。リブラのことだ。また何かを企んでるかもしんねぇな…」

「とにかく、明日にならないとわからないよね?」

「だな。じゃあ俺は寝るわ」

そういってレオンはいつものベッドとは逆側の壁にもたれ掛かり目を閉じる。

あたしはそれを確認して、風呂に向かって入浴した。




--------------------------------------------------------------------------------




「…ねぇ?レオン??」

「…なんだよ」

暗い部屋。

ベッドに入っていたあたしは顔を覗かせ、壁にもたれ掛かってるレオンに話しかけた。

彼は寝ていなく、気だるそうに返事をした。

「…ベッドの横ぐらいなら、いいよ」

「……そうか」

レオンは最初めんどくさいからか、まったく動かない。

けれど、しばらくあたしが見つめていると、空気に圧し負けたのか、こちらに来てベッドにもたれかかりにきた。

「…んで?急にこんなこと言い出してどうしたんだよ」

「……別に」

その後、しばらく沈黙が続いた。

その沈黙を破るように、あたしは今まで思っていた想いを口にした。

「ねぇ…レオン」

「なんだよ」

「…本庄さんはね、キャンサーのことを実の弟子のように見てたんだ」

「…急にどうしたんだよ。」

「スコーピオンと毒島くんは、本当に絆で結ばれてたってぐらいお互いを思ってた。

 メリーがあたしの夢に入ってきたことがあるんだけど、そのとき彼女のマスターへの想いが伝わった。

 雪音ちゃんはね、カプリコって人のことが本当に大好きで、彼のためならなんだってしてた。」

「……だからなんだってんだ?」

「きっと、李里香さんもジェミニのことを大事にしてたと思うんだ。

 あんなにいい人だったんだもん。学校で見たときは怖かったけど、初めて会った時のあの人は優しそうだった。

 あたし達は、そんな人たちの幸せを潰して……ここにいるんだよね。そしてこれからも…」

「…なんだ。そんなことを考えてたのか」

レオンが素っ気無くそういうと、あたしは無意識に彼の服を掴んでいた。

レオンはそういうけど、あたしにとっては重大だった。

今あたしは…幸せだ。レオンと言う好きな人が出来て、こうして過ごせている。

けれどその過程には、みんなの幸せを潰しているんじゃないか。と思ってしまう。

消えるとき、あたしが見た星霊たちはみんな笑顔だった。

でも、あたしたちが闘わなければ、彼らはもう少し長くその笑顔のままで入れたんじゃないか。と時たま考える。

そんなあたしの不安を悟ったのか、レオンは左腕を伸ばして寝ているあたしの顔に触れた。

「いいか。俺たち星霊は闘うことに意味を成す。

 お前がそんなこと考えても、俺たちの運命は変わりはしない。俺が負ければ

 お前の中から俺の記憶が消えて、俺はまた来年違う奴とパートナーを組まなくちゃいけない…」

あたしは、その言葉を聞いていて、我慢できず、寝転んだ状態からレオンを抱きしめた。

流石に驚いた様子のレオンは、そのまま何も言わずにいてくれた。

「…じゃあ、レオンは私のことを忘れない?早苗さんみたいに」

「…その名前出すのはずるいだろぉ…。あぁ、覚えてるよ。十年後も二十年後も誰がパートナーだろうと

 もうお前以上のパートナーはいないってわかってるからな」

「……バカ」

あたしはその後どうなったかは知らない。眠ってしまったからだ。




ただ目を覚ましたら、あたしはレオンを抱きマクラのように抱きしめたままベッドに二人で寝ていた。

レオンが少し苦しそうな顔をしているのを見ると、どうやらあたしが引っ張って無理やりベッドに入れたっぽい。



あたしは顔を赤らめた。




--------------------------------------------------------------------------------





「…神崎由香様と、獅子座のレオン様…でございますか?」

スーツを着た女性が、大きな車を後ろに控えあたしたちに声をかける。

「り、李里香さん…?」

「はい。まあ、とりあえず…。車に乗ってください」

あたしたちは言われるがままに車に乗った。




「私は、リブラのマスター足引社長の秘書をやってるの。

 リブラから話は聞いたわ。私は元、ジェミニのマスターで、貴方たちに負けたそうね。

 記憶にないからわからないけれど、とても大事な思い出を欠けさせている気がするわ」

運転しながら、バックミラーであたし達を見ながら、淡々と語る李里香さん。

どうやら、早苗さんの件だけはリブラさんが伏せたのだろう。

「…えーっと、そのリブラと足引社長っつうのの目的はなんだ?」

「これから行うのは、私からは説明できません。社長とリブラが直々に言いたいとのことなので…」

「…けっ、そうかよ……」

レオンは少し不機嫌そうに車の椅子にもたれかかった。



「…誠にお待たせいたしました。わが社のビルです」

「うっわーデカァー!!!」

あたしは思わず窓から見た光景に声を出して驚いた。

「ふふっ、そうでしょ?あたしも初めて見たときは驚いたわ」

あたしの行動に微笑み、答えてくれた李里香さんの表情はとても優しいものだった。

あぁ…これが本当のこの人なんだ。きっとジェミニにはこの顔を見せていたのだろう。

そのまま車は、ビルの下の地下駐車場に入っていく。





--------------------------------------------------------------------------------




「……来たわね」

「そうですわね♪足引さま」

「この商談…成功させないといけないわ」

「……あのぉ…失礼かも知れませんが…」

「ん?どうしたの?リブラ?」

「…足引様って、お人好しですわよね?」

「…お人好しのような人情で行動してしまうような人間はビジネスに失敗するわ」

「そうですか、なら私の検討違いかも知れませんわね♪♪受付まで彼らを迎えに行きますわ♪」


そういって、リブラは部屋を出て行った。

本当に放浪癖があるな…あの女には…。と私は小さく溜め息を吐いた。



片手でキーボードを打ち込み、ノートパソコンにデータを表示する。

そこに書かれているのは、サジタリウスのマスター『手塚隆吾』の姿だった――――――――。



                 

                      ☆




「…来たわね」

あたし、神崎由香は豪華なビルの最上階までエレベーターで上がり

そこにある大きな部屋に到着する。

部屋にある大きな机に座っている一人の女性。鋭い目つきであたしとレオンを睨んでいた。

李里香さんは何も言わず、黙ってその人の後ろに回った。

「……わっ!!」

「っ!?」

あたしはいきなり聞こえた声に驚いた。

どうやらレオンもそうだったらしく、髪が逆立ってる。

「あっはっは♪驚きましたか?わたくしですわよ♪♪」

振り返るとそこにいたのはリブラさんだった。

李里香さんは少し呆れたように溜め息を吐く。どうやら彼女は知っていたっぽい。

「リブラ?貴方フロントまで迎えに行っていたのではなくて?」

座っていた女性が、リブラを睨みながらそう言った。ちょっと怖い…。

「あらあら、ちょっと寄り道して戻ってきたらもう李里香ちゃんと由香ちゃん達がいたので

 わたくしの悪戯心が働いて、バレないように後ろをついていったのですわ♪

 鈴の音が鳴りそうで冷や冷やしましたわ♪」

そういうと、床に転がっている鈴を軽く動かし「がらんがらん」と音を鳴らす。

「……そう、とにかく貴方も放浪せずにここにいて頂戴」

「了解ですわ♪」

そういいながらリブラさんはスキップ足で、李里香さん同様その女性の後ろに回った。

「貴方たちが獅子座の占い師と…レオンね?占い師の方、名前は??」

あたしは彼女に睨まれてややビビったけれど、一度生唾を飲んで答えた。

「か、神崎由香……16歳です。趣味は漫才番組見ることです」

「……私は趣味まで聞いていないのだけれど?」

「……////////」

そういわれて顔が真っ赤になる。うわぁー!!恥ずかしい!!!!!

「まあいいわ。私は足引玲子。この社の者を従えてる者よ。趣味は食事よ」

……合わされたっ!?あたしのミスに合わせたよこの社長!……案外いい人なのかも…?

「それにしても驚いたわ。貴方…可愛いじゃない」

「あ、はい…。ありがとうございます」

な、なんか社長さんに気に入られたかな?わ、私……。

「社長、話を本題に戻しましょう」

「あら?どうしたの李里香?嫉妬??」

「そ、そういうわけではございません。彼女達も緊張しています。からかうのはその辺で」

「…ごめんなさいね、つい李里香の昔に似てたものだから…。

 あ、李里香。今は玲子でいいわ。ビジネス中じゃないのだから」

「はい、玲子さん」

この二人…どういう関係なのだろう……嫉妬??

それに互いを名前で呼び合ってるし…ただの社長と秘書じゃあ…ないのかな??

「ごめんなさいね、では…本題に入りましょう。神崎由香さん?」

「は、はい!」

あたしは思わず声を裏返ってしまいながら返事をする。

それに少し微笑んだ社長は、次のように言葉を繋げる。

「いいのよ?そんな緊張しなくて。私は社長ではあるけれど今は「天秤座の占い師」としているのだから。

 貴方も私と同じ「占い師」。同等で平等な関係なのだから、公平な会談といたしましょう」

そういっていると、社長の椅子の前にあった小さめのテーブルとソファーの所に社長が移動して

ソファーに座る。あたしも向かいのソファーに腰を置いた。レオンもあたしの横に座る。

リブラさんと李里香さんは座らないみたいだ。李里香さんは何かを取りに行った。

「では、話を始めよう。神崎由香……私たちと『同盟』を組まないかしら?」

「…同盟??」

同盟ってあれだよね。今あたし達と美優ちゃん達がやってる「不可侵条約」みたいなものだよね?

「ええそうよ。そのための報酬も用意しているわ。私たち占い師と星霊は今残っているのは6体。

 既に半数を切ったわ。

 私たちが知る情報は、貴方たちと不可侵を契約している乙女座と魚座と射手座の三体についてよ」

あたしはその言葉を聞いて驚いた。

そういえばあたし達……魚座と射手座がどんな人たちか知らない!?

っていうか会ったこともないんだ!もしいきなり襲われたら気付かない間に負けてしまうかも……。

「じゃあ、てめぇらは肝心の最強さんの情報を得てねぇみてぇだなぁー」

あたしがその事実に怯えていると、足を組んで偉そうにしてたレオンが声を発した。

「…そうよ。獅子座のレオン。

 私たちは一番重要とも言える『牡牛座のタウロス』について1つも情報を得ていないわ…

 一番情報量を誇っていた山羊座の占い師のデータベースにもその情報はなかったわ……」

少し悔しそうにする足引社長。

そしてそのさりげなく言われた言葉にあたしは驚く。山羊座の占い師の……データベース?雪音ちゃんだ。

彼女のデータベースって……どういうこと?

「あのときわたくしがいたのは、その情報のためのパスワードを手に入れるためだったのですわよ?由香ちゃん」

疑問を浮かべていたのがバレたのか、あたしの顔を見てリブラさんがそういった。

そうか…あのときリブラさんが来たのは雪音ちゃんのデータが目的だったのか……。

確かに建物中にあんなすごい監視カメラや警備をしていた雪音ちゃんのことだ。

カプリコって人のためにたくさん情報を集めていたのだろう。

「まあ、あいつは確かに何もしてねぇからな。

 『火のないところに煙はたたない』ってことわざがあるが、あいつはその『火』を起こしてねぇ。

 だから情報なんてもんは傍からねぇんだよ。闘ってもないんだからな、あいつは」

「……貴方。タウロスの情報を知ってるのね?」

「えっ!?そうなのレオン!?」

「あぁ、一応な。それで、そっちの用件っつうのはつまりどうなんだよ」

「…私たちもそのタウロスについての情報を得たいわ。

 交換条件と行きましょう。私たちは魚座と射手座の情報を出すわ。貴方はタウロスの情報を出して頂戴…」

「言っておくが、本当に仕様もないことだぞ?それでもいいか??」

「ええ、元々なくても同盟を組むつもりだった。そのおつりと思えばどんなに小さな情報も宝よ」

「けっ、そうかよ…」

そういったレオンは、李里香さんが出した紅茶を一口啜り、その後言葉を発する。



「奴…牡牛座のタウロスは現在………『子育て』中だ」

「「「……え??」」」

場にいた李里香さん、社長、あたしはもれなく全員硬直した。

一人だけ笑いを堪えて地面を転がっていたリブラさんのジタバタ音だけが室内に響いた。





--------------------------------------------------------------------------------




「…そ、そういうことだったの……ではこちらから攻めなければ彼は襲ってこないと」

「あぁ、奴は強いからな。まともにやり合えばまず勝てねぇ…」

「そうですわ足引さま♪星霊は基本相性なども入れて平等な強さを持っていると言っても過言ではないですが

 あのタウロスだけは……例外ですわ。あれに『絶対』勝てるなんて言える者はいないですわ♪♪」

リブラさんとレオンがここまで言うタウロスさんって……一体どんなに強いというのだろうか…。

そしてそのタウロスさんが今、五歳の女の子の父親をしていると思うと……なんだか変な感じがする。

「でも…いるかも知れないわよ?『タウロス』に挑む大バカ者は……」

すると、足引社長はぼそりと言った。その言葉であたし達全員社長の方を見る。

そういって、一度言葉をとめた足引社長は、一拍置いて、再び言葉を続ける。

「彼…殺人狂の殺し屋。「ウッディーン」。「暗殺部隊」を指導してきた男の名を通称とする。

 日本では有名な殺し屋よ。本人もかなりの殺人狂者で有名よ。ビジネスをやってるそういう話をよく聞くわ。

 そんな男があの『射手座のサジタリウス』のマスターをやってるのよ。想像しただけで恐ろしいわ。

 彼ほどの実力と、狂った感覚を持っていれば、相手が誰だろうと『殺し』に掛かるでしょうね」

その言葉にあたしは生唾を飲んだ。



今まであたしは色んな占い師を見てきたけれど、そんな怖い人もいるんだ…と初めて知った。

もし、タウロスって星霊とその人たちが闘ったら……どうなるんだろう…。




--------------------------------------------------------------------------------




「おぉー!!空気が美味しいでござるよ!手塚殿ォ!!」

「…お前は本当にテンションが高いな。今から「狩り」するんだぞ?」

「おう!拙者楽しみでござる!!久々に彼と一戦交えれるのでござるからな!!!!」

「そうかそうか、まあそりゃそうだよな。No1とNo2の対決だ。俺も楽しみだよ」

そういって、サジタリウスの目立つ忍者のコスプレを気にせずに済むぐらい人気の少ない田舎町を

俺たちは闊歩し始める。





「…手塚殿!彼の匂いがするでござる!!」

「……お前は犬か。わかった。俺は移動する。その匂い追っとけ」

「御意!!」

そういってサジタリウスは物凄いスピードで去っていった……本当に忍者みてぇだな…。

俺は別の用件のためにその場から去った。







--------------------------------------------------------------------------------



「見つけたでござるよぉ……!!!!」

「……てめぇ…」

俺は、買い物の帰りに、異様な姿の男と出会う。

…忍者の格好をして本人は見えないが、この威圧…間違いない。サジタリウスだ。

「タウロス殿!なぜ似合わぬ可愛らしいお菓子を買っているのかは存じぬが、覚悟ぉ!!!」

「…くっそぉ…ついに見つかっちまったか。てめぇはレオンみてぇなタマじゃあねぇよな……しゃあねぇ…!!!!」



俺は買った買い物をその辺に置いて、拳に力を入れる。ビリビリ!と腕からは微かに電流が流れる。

「手塚殿!タウロス殿を見つけたでござる!!簡易フィールドを頼むでござるよ!!」

「りょーかい」

その一言の直後、この町一体を包み込む気圧に襲われる。

「…星術を使えない手塚殿でも作れる結界式でござる。

 拙者とタウロス殿が闘うとすれば町1つが荒れる恐れもあるでござるからなぁ…」

サジタリウスは顔が見えないけれど、明らかに笑みを浮かべたような声音で言った。



「…上等だぁ!!やってやらぁ!!!」





そうして俺、牡牛座のタウロスと、射手座のサジタリウスの対決が始まった。



                


                     ☆



「…てめぇ…なんだその格好は?」

「これでござるかっ!?よくぞ聞いてくれたタウロス殿!

 これはジャパニーズ「SINOBI」でござるよ!!いやぁ~誠にカッコイイでござろう!?」

なぜか決めポーズをするサジタリウス。

ただ…お前の武器の主体である銃をその格好で持っていると、なんとも滑稽に見えてしまう。

「…あ、あぁ……まあ、かっこいい…な?んじゃ」

俺はそのまま立ち去ろうとする。

「ちょ!待つでござるタウロス殿!!」

サジタリウスは俺に目掛けて銃を放つ。

しかしその弾丸は俺の身体を突き抜けることなく消滅する。

「……あぁ?」

「…やっと昔の顔になったでござるなぁ?」

にやりと笑ったサジタリウス。

流石に腹が立ってきた……。

結界内で動ける人間は、【『星力』を巡らす者】

もしくは最近(2年ほど)経歴のあるものだけだ。

しかもその大半は無意識に結界外に出るので、実質今年の占い師と星霊のみとなる。

だとすると………

「……桜があぶねぇ…!!!!!!」

「ほぉ~それがタウロス殿のマスターの名前でござるなぁ?手塚殿!!」

『あいよー、サジ。聞こえてるぜ?桜って奴だな。探しとく…』

通信機らしきものから男の声がする。あれがサジタリウスのマスターだろうか?

それにしてもまずい。今の声だと、マスターが桜を狙ってるってことになる。

桜は唯一動けるんだ。動いた人間ってだけですぐにバレちまう!!!


「……この外道がぁ!!!!」

「闘いに流儀はあれどルールはないでござるよ?タウロス殿」

サジタリウスはまたも純粋な笑みを浮かべる。

今自分がしていることが間違っていることだとは、微塵にも感じていない…笑みだった。


そして、俺とサジタリウスとの闘いが、始まった。



--------------------------------------------------------------------------------



「…パパ?」

「どうしたの??桜ちゃーん」

「ん~ん。なんでもない。先生お休みなさーい」

そういって、少女は眠りについた。


彼女が眠るなか、全ての人のときは止まり

そして窓からは、物騒としか言えない爆発と、光が横行していた。






--------------------------------------------------------------------------------




数十分による攻防の末

「…やはり一筋縄ではいかないでござるなぁ…タウロス殿」

「てめぇらだけは許さねぇ…!!」

塔の上。

俺は通信機から聞こえる声と、カメラで見ている戦況でこの闘いを見ていた。

もちろん合間を縫って『桜』と言う名のタウロスのマスターを探しているが、どうも姿が見えない。

相手のマスターは賢いらしい。この状況に置いて姿を現さないのは上級者だろう。

やっぱり探しても姿を見せない。仕方ないので俺はタウロスに標準を定める。

隙あればタウロスを撃ってやろうとも思っていたが………どうも俺の相手は本物の化け物らしい。

「行くでござるよ!!」

サジが銃を召還し、タウロスに向けて放つ。

しかしその弾丸は届かない。なぜかタウロスの目の前で消滅してしまうのだ。

その理由は彼の纏っている雷が理由なのだろう…。と推測している。

どれだけ放っても、全ての弾丸が彼の所に届かない。

サジの能力『軍事倉庫』があれば、武器に困ることがないが、あれでは無駄遣いも甚だしい。

「遠距離武器はやはり意味がないでござるな!!ならこれでどうでござるか!!!」

そういうとサジは日本刀を取り出す。

そして忍者さながらの走りを見せ、タウロスに向かう。物凄いスピードだ。

普通の奴なら一瞬で腕を切り落とされるだろう。

しかし、タウロスは普通ではなかった。

その日本刀もタウロスの身体には届かない。切り裂くはずの刃が綺麗に消滅している。

『サジ!なんだよタウロスのあの雷は!?』

俺は思わず通信機でサジに問いかけてしまう。おかしいだろ!チートじゃねぇか!!!

「…手塚殿!あれがタウロス殿の能力『雷神鎧』でござるよ・・・!!!

 全ての物質から自らを護り、全ての物質を破壊する。圧倒的な能力でござる!!」

『そんなんどうやって倒すっつうんだよ!!』

「簡単でござる。相手が……体力切れするまで能力を使わせるまで!!!」

そういってサジはまた銃を取り出して弾丸を放つ。次はマシンガンだった。

しかしその弾丸は全て通らない。タウロスの『雷神鎧』が全てを消滅させてしまう。

「おぅら!行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

タウロスが叫んでサジに向かってタックルしてくる。

サジはそれを慌てて避ける。自身のスピードを制御できずそのまま壁に突撃するタウロス。

もちろんその壁も粉々に消滅した。

「逃げてばっかじゃあ始まんねぇぞ!!!」

方向を変え、とにかくサジに向かって突進を繰り返すタウロス。

ま、町が壊れてる!!本当に町全体がぶっ壊れてるよ!!!!

「やっべぇ…超カッコイイじぇねぇか!!!」

俺は思わずタウロスの姿に感動してしまった。

あそこまで強いとむしろ賞賛する。だけど………。

『最強の星霊は俺の星霊。サジだ』

俺はそういってライフルを構え、タウロスに放つ。

恐らく無駄だろう。しかし気を逸らすことは出来る。

俺が放った弾丸がタウロスの頭部に向かう、しかしもちろんのことタウロスの頭部に届かずに消滅する。

しかしタウロスはこっちを見た!!

『サジ!』

「御意!!」

一瞬隙が出来た隙にサジはミサイル弾が大量に入ったボックスをいくつも召還する。

「放てぇ!!」

その言葉と同時にボックスから無数のミサイル弾がタウロス目掛けて放たれる。

町が爆発する。俺がこの距離だから巻き込まれてないけど、タウロスのマスターは大丈夫なのかぁ?

ミサイルはとどまることを知らず、弾丸がなくなるまでタウロスを襲う。

本当、タウロス以外の星霊ならこれで死んじゃってもおかしくねぇんだけどな…。

「いい度胸してんじゃねぇか…!サジタリウスゥ!!!」

土煙の中から現れるのは無傷のタウロスの姿だった。本当に化け物だな。

けれど心なしか、雷の威力が弱っているような気がする。

流石に延々と攻撃をし続けているだけはある。体力が徐々に減ってるわけだ。

「手塚殿!こっからが本番でござるよ!!」

そういうと、サジは日本刀を召還する。

その日本刀はなぜか紫色のオーラを纏っていた。

「てめぇ…なんだそりゃ…」

「これでござるか?タウロス殿ぉ??これは~妖刀ムラマサでござる!!」

そう言った直後サジはタウロスに切りかかる。タウロスは避ける素振りも見せない。

そのときだった。

「っ!?」

驚くタウロス。

彼の腹部から血が噴出されていた。

「この妖刀ムラマサは強力な刀でござる!弱った鎧では太刀打ちできまい!」

切った直後にバックステップでタウロスと距離をとる。

そしてもう一度切りかかる。

「っ!?」

しかし、今度はサジが驚いてしまう。

さっき切れたはずのムラマサが次はことごとく壊されたのだ。

「意識してりゃあまだ出力をあげれんだよ…ボケェ!」

そういいながらサジに殴りかかってくるタウロス。

サジは慌てて避けて逃げた。

「……拙者のお気に入りがぁ…。無念でござるぅ」

少し涙目になってるサジを確認する。

まあ、あれを二人で取りに行ったときはしゃいでたもんなぁーあいつ…。

「次はこれでござる!!」

そういうとサジは大きな槍を召還する。あれは俺も見たことがない。

「てめェ!それは!!」

「そうでござる!幻の槍、『グングニル』でござるよ!!!」

そう叫んだサジがグングニルをタウロスに目掛けて放り投げる。

物凄いエネルギー波を出してタウロスの方へ突っ込むグングニル。

タウロスもこれはまずいと思ったのか、横に移動してグングニルを避ける。

避けた先でグングニルが通過した地点には家屋はおろか草すら残っていなかった。



「てめェ…そんなもんどこで…!!」

「タウロス殿と戦うために数年前から採取を続けてたでござるよぉ」

にやけ笑いを浮かべるサジ。

あいつはあいつなりに努力したってことか…。それにしても忍者が聖槍ってなんかシュール…。



その後も闘いは続いた。

俺も出来る限りタウロスのマスターを探すが見つからない。

本当にこの辺にいるのかさえ怪しくなってきった。




--------------------------------------------------------------------------------



「はぁ…はぁ……」

「はぁ…はぁ……」

俺は息を荒くしてしまう。

どうやらサジタリウスも同様のようだ。

ここまで俺の体力を削るのはもはや奴だけだろうな…。

この時間なら恐らく桜は幼稚園で寝ているはず。ここにはいないはず。

だがもし桜が目を覚ましたとき、この辺り一体に起きている現象に気付きこっちにきたらまずい。

まあ……そんなことを考える余裕もねェんだけどな…。

目の前の男は、伝説上の武器まで持ち込んできやがった。

なんとか壊し続けてはいるが、いつまでの体力が続かない。

恐らく向こうも同じだろう。

「タウロス殿……言っておくでござる。これが…最後でござるよ!!!」

サジタリウスは突然ナニを言い出すかと思うと、奴は飛び上がって電柱の上に立った。

そして出てきたのは、自らの何倍もの大きさのある大きな弓矢だった。

「てめェ…!!!それは!?」

「ほぉ…知ってるでござるかタウロス殿。これは射手座に選ばれた星霊が貰う1つの固有の武器でござる。

 射手座は本来ストッパーの役割を果たしていたでござるよ。この星座占いに支障を来たすものが現れた場合

 すぐにでも対処できるための役割を射手座は背負っているでござる……。だからこそ射手座は誰よりも強く

 誰よりも忠実に……がモットーでござるよ」

弓を構えながら、淡々と語るサジタリウス。

あの弓矢は間違いねぇ『神槍』だ。神をも喰う槍って言われ、氾濫が起こったときに使うための武器。

『サジ。この通信機をやつに投げつけてやってくれ』

「むむ、了解した」

弓を構えながらも、サジは一度通信機を消滅させ、俺の足元に召還させる。

「では行くでござるよ。タウロス殿……!!!」

弓を引くサジタリウス。

俺はこれをどう避けるべきか考えていた。

『タウロスかい?聞こえてる??君のマスターを発見した。』

「っ!?」

通信機から聞こえた声に俺は驚愕してしまう。

通信機の主、射手座の占い師は言葉を繋げる。

『俺に子どもを殺す趣味はない。だから撃たないが……君が避けたら恐らくこの一体は滅ぶ。

 そうなったら……その『桜』ちゃんはどうなるだろうね?』

その声を聞いて、俺は目を見開いてしまった。



どうしようも出来ない。

俺が逃げたらこの結界内を潰しかねないほどの爆発が起こるだろう。

なら………!!!!

「――――『神槍一閃』」

サジタリウスがそう呟いて槍を放つ。

清らかで、聖なる光を発した。


「………さあ、勝負だ。バカ槍」

俺は覚悟を決め、呟く。

そして身体全体に力を込めて『雷神鎧』を展開させる。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

勝負を投げ捨て、ただ一人の少女に固執してしまった哀れな戦士の末路……か。


まあ、こんなカッコイイ敗北の仕方なら、悪くはねぇ…。

桜にも見られてないしな……。




そして槍がタウロスに当たった。









爆発は、小規模なものだった。

ほんの数十メートル小さなクレーターが出来ている。

その真ん中で、大の字になって血まみれの愚かな男の姿だった。


「はぁ……悪いな。桜…俺はぁ……最後までお前の「パパ」にはなりきれなかった…」

そういって、タウロスが光に包まれる。




牡牛座のタウロスが、消滅した―――――。





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「……たろうす?」

幼稚園の窓。

小さな少女が、窓から外を見る。

一瞬眩い光に包まれたが、彼女は何とも思わず、何気なくその言葉を呟いた。


「…んみゃ、眠たい……」

そういって彼女は再び他の園児同様寝転がり、瞳を閉じる。




そして光に包まれ、牡牛座の占い師『高波桜』は消滅していった――――。




                     ☆




「……ッ!?」

「…どうした?由香??」

「いや、なんか…今、何かあったような気がして…」

「もしかしたら、誰かが攻撃を始めたんじゃないかしら。とにかく話を続けましょう」

そういって足引社長は紅茶を飲んで整える。

あたしのこの予感が、タウロスと言う星霊の敗北が要因と言うことは、後に知ることになるのだ。

「さて、残った情報は後1つね。魚座の占い師のことを話す……わ」

「どうしたんですか?」

なぜか社長は、魚座について話そうとすると、苦しげな表情をしていた。

「玲子さん。これはあたしが代弁しましょうか?」

「え、えぇ…お願い」

そういって李里香さんも、足引さんの隣に座る。

そして咳払いをして、喉を整えて、彼女は話しはじめた。

「…魚座の星霊はあなたたちも知ってるはずの人物よ。由香さん」

「え?本当ですか??」

「えぇ、恐らくこの町で知らない人はもはやいないんじゃないかしら」

李里香さんがそういう。

そこまでの有名人ってこと?俳優とか?でもそれだったらなんで社長は口を止めたのかな?

「まあ、単刀直入に言うわね。魚座の占い師の名前は、海援戦士FISHBOYよ」

「「-ッ!?」」

あたしとレオンはその言葉を聴いて絶句した。

海援戦士FISHBOYと言えば、本当にいまやこの町で知らない人はいない人物だ。

突然現れたヒーローで、町の悪い人たちを徹底的に懲らしめて回っている正義の見方だ。

本当にヒーローのようなスーツを身に纏い、闘う彼の姿はまさしく正義の味方だった。

世間ではそんな知名度が高い彼を町ではご当地ヒーローにしようとまで企んでいるという話だ。

しかし、テレビではドキュメントまで放送するが、彼の正体を知るものは少ない。

そんな彼が……魚座の占い師……。

「あ、あの!だったら彼の星霊はどこにいるんですか!?」

あたしは気になったことを単刀直入に聞いた。

彼自身はヒーローとして活躍しているが、彼の星霊が活躍しているところを見たことはない。

「彼の星霊はね……彼自身よ」

「…?」

「いかにもきょとんとした顔をしてるわね。正式には彼のスーツが星霊なのよ」

「……え?」

「そうだ。リブラ、俺もスィーの能力に関してはあんまり詳しくねぇ…って言うか知らねぇんだけど」

突然レオンが「スィー」と言う名を言い、リブラさんに問いかける。

「えぇ、そうですわね。「スィー」は万年最下位の星霊ですから

 本来この残り五人に残ってるのすらおかしいのです」

「万年中途半端な順位で自殺するお前にだけは言われたくねぇけどな…」

「まあ…そうですわね♪そのスィーの能力なのですが、未だに謎多きものなのですわ」

「…そうなのか?」

「えぇ、例えば3年前の魚座はキャンサー同様水の放つ能力でしたわ。

 そして翌年は宙を舞う魚座の姿がありました。そして毎回闘っている人物がちがうのですわ」

「……どういうことだ?」

「つまり、毎年闘うものも違うし、能力も毎年違うらしいですわ」

「そうか……そっちでも詳しいのはわかんねぇってことか?」

「はい。ただいえることは、水瓶座のアクエリアス。山羊座のカプリコを倒したのは彼ってことです」

李里香さんが話を纏めるためにその一言で片付けた。

「では、こちらの情報は全て提示した。同盟に応じてもらえる?」

社長はそういって再び紅茶を飲む。美味しいよね…この紅茶。

「これは李里香が入れたのよ。気に入ったでしょ?」

「あ、はい…」

「それで、考えは決まったかしら?」

「は、はい!ここで協定を結べるなら喜んで!!」

「レオンくんはいいんですの?わたくしなんかと同盟で?」

「あぁ…気に喰わないが、由香の意向なら仕方ねぇよ」

「そうですわね♪」

「あ、そうそう。由香ちゃん」

リブラさんが突然私に話しかけてくる。

「もしよろしければ後日毒島くんに言っといてくださいまし♪久々に茶会でもしましょとリブラが申していたことを」

「…え、あ、はい」

「では、今日はこれまでですわね♪お疲れさまでした♪♪お送りいたしますわ」

そういって私とレオンは李里香さんの車に乗せてもらって、家に帰ることとなった。





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それから数日。

「…………」

夏休みの登校日。

あたしの目の前には、不機嫌な顔でイライラしている綾ちゃんの姿。

まあ、大体理由はわかる。うん、多分本人はわかってないけど…あたしはわかってる。

あたしは綾ちゃんの顔から、視線を端の方に移す。そこには毒島くんと雪音ちゃんがなにやら話していた。

「うん。やっぱり六人目のヒーローってのはいるわけで――――」

「…五人で立ち位置が合っているのに、六人目を増やすのは邪道。

 六人目は敵でも味方でもないポジションに置かないと……」

「いや、それが仲間になるのかいいんじゃないか!!まあ魔法使いの方がいいけどね!」

「…毒島くんすぐそっちに話を逸らそうとする。魔法使いは関係ない。文化祭は戦隊ものって決まった」

「いや、だから魔法戦隊マジレンジャーでもいいじゃんか!」

「…戦隊ものは折り紙戦隊ペパレンジャーで決まり。衣装デザインも出来てる」

「いや!折り紙よりも魔法使いだ!!」

「いや、折り紙。学園祭のだしもので魔法みたいな演出は出来ない」

「ぐっ、た、確かにそうだけど……!!!せ、星術を使えば!」

「…文化祭の舞台で星術使うの?バレたら危ないんじゃないかな?」

「………くっ、べ、別に大それた魔法をしなくていいじゃんか!!」

「…魔法と言う設定が大それたイメージがついてる。そこでしょぼいものを見せたら観客が引く」

「ま、まあそうだよな…」

「って言うか。なんで文化祭の話になってるの?」

「あぁー!そうだった!!だから、戦隊もののブラック枠の価値をだなぁ」

「確かにいるけど、あたしはそんなのがなかった五人戦隊の方が好き」

「まあ確かに、せっかくのポージングも変わってしまうしな」

「うん。後、最近仮面ライダーの方が戦隊ものよりも人気。低迷しつつある」

「まったくそうだよな!一人で闘うライダーより、五人で闘う戦隊だろ!!まあ俺はライダーも好きだけど!

 次の奴なんか「ウィザード」らしいし!?魔導師って超かっこよさそうだしー!!」

「……いかにも毒島くんの好きそうな名前だよね」

と、何やら討論を繰り返している。

っというか雪音ちゃんが圧倒している気がするけれど、とりあえず討論している。

彼ら二人は文化祭委員を引き受け、文化祭を盛り上げるために協力していた。

のと、関係なくどうやら毒島くんと雪音ちゃんは趣味が合うらしい。

この夏休みの間に何かあったらしく、二人と遊んだときなど、よく二人で話をしている。

雪音ちゃん曰く、夏休み二人で遊んだりもしていたとか………。

「…………」

「綾ちゃん」

「なんだよっ!」

うわぁー荒れてるなぁー…。

「それを人は゛嫉妬゛って言うんだよ?」

「はぁ!?なんだよ急に!?」

うん。どうやら本人は気付いていないみたいだ。やっぱり…青春だねぇー。



「じゃあみんな、今日は夏休みなのに学校着てお疲れ様!

 キャストは台本覚えとけよ。衣装係は頑張って作っておいてくれ」

毒島くんの言葉にみんな適当な返事をして、そのまま教室を去っていった。

さてっと、あたしも帰ってレオンが珍しくご飯作ってくれるらしいから帰ってチャーハンでも食べ―――。

と思って席を立ったとき、何者かに腕を掴まれて止められる。綾ちゃんだ。

「おい、何帰ろうとしてんだ」

「えーっと…チャーハン食べないと」

「レオンとか言う奴が作ったのをか?」

「………」

「図星か。」

「わかっててなんでとめるの!?」

「由香に纏わり付く蟲は許さねぇ!!」

「レオンは蟲じゃないよぉー」

「と、に、か、く!!ただじゃあ返さねぇ!!」

「綾ちゃーん!女の嫉妬は見苦しいよぉー」

「だから嫉妬なんてしてねぇっつうんだよ!!」

どうやら綾ちゃんも意固地なようだ。まったく離してくれない…。

うぅ…家でレオンが待ってるのに……

多分今日の新喜劇も録画しててみたいのにあたしが帰ってくるまで我慢してるんだろうなぁー…えへへぇー

そんなときだった。誰かに話しかけられる。

「……由香ちゃん。帰ろ??」

あたしの袖を掴んだのは雪音ちゃんだった。

「そうだぜぇー。鬼塚、お前も何あったか知らねぇけど帰るぞぉー」

「あ……あ、そうだな。とりあえず帰り道腹立つから毒島をボコボコにする。」

「え、何?俺が悪いの??だったら謝るけどボコボコにされんのイヤなんだけど」

綾ちゃんは気付いていない。今自分がものすっごいいい顔してることを。青春だなぁー

「…みんなで帰るの。楽しい」

雪音ちゃんがあたしの袖を掴みながら言う。か、可愛い……!!!!

思わずあたしは雪音ちゃんを抱きしめてしまう。

なんだよこれっ!綾ちゃんとは違う可愛さがあるよ!!!


そんな青春の一ページを描きながら

あたし達は帰路を歩く。四人で話を盛り上げながら―――――――――。

こんな楽しい学園生活も、波乱の幕開けとなってしまうのだ。





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「………サジ!的は用意したか?」

「したでござるよ!手塚殿!!」

射的場。

そこには的から見ていたサジと、なぜか目隠しをしていた手塚隆吾の姿。

的には、「獅子座のレオン」「乙女座のバル」「天秤座のリブラ」「魚座のスィー」と書かれた紙がおいてある。

「いくぜぇー!」

手塚はライフルを持って引き金を引く。

「…手塚殿!どれにも当たってないでござる」

「何ぃ!?」

「ここまでみっちりしたのにあえて外れてるのがすごいでござる!」

「くっそぉー!もう一発行くぞ!!」

そういって手塚が引き金を引く。



「おっ!当たったでござる!!」

「…どいつだ?」

「…………こいつでござる!!」




そして、数日経ち、日は文化祭となってしまった。

その文化祭が波乱の舞台になることなど、今の私たちには、知らないことだった――――――。




                     ☆



「…?」

「どうしたのミュー?」

家にある大きな部屋。

両親が音楽に携わる仕事をしている私の家には、大きなスタジオがある。

学校で練習するのも好きだが、ここでバルちゃんと練習するのも、すごく楽しい。

そんなとき、頭に突然声が直接叩き込まれたように響き渡る。

【残り五人となった。これより定例議会を行う。

 なお、これを自身の星霊に報告した場合。その占い師及び星霊を強制脱落させる】

聞き覚えのある声だった。

そう、数ヶ月前。

初めてあたしがバルと出会ったときに聞いた。あのおじさんの声……。

あたしは、おもむろにバルちゃんを見る。彼女はなんとも思っていないようだ。どうやら私だけらしい。

「う、ううん。なんでもないよ。バルちゃん…練習続けよ」

私は、そのまま彼女に隠し通し、練習を再開させた。






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「急になんだろう…」

あたし、神崎由香は夜中。

電気も消した部屋でベッドに座っていた。

床に布団を敷いて寝ているレオンがいる。

さきほどきた。謎の声。確かに聞いたことがあった。

「まあ、とにかく寝ればわかるか…」

そのままあたしは布団に入って瞼を閉じる。







懐かしい。

今思えば色んなことがあった。

あれから数ヶ月。最初はキャンサー、そこから毒島くんとスコーピオン。

病院でメリーと闘って、雪音ちゃんとも色々あったなぁー…。そして、双子座の激闘。

どれもこれも、まるで昨日のように鮮明に映像として流れる。それほど強烈な記憶なのだろう。

その記憶の最初が、この通路。

まるで宇宙の上を歩いているような、幻想的な光景。

記憶に正しければ…もうちょっと歩けば扉があるはずだ。ほら、あった。


あたしは扉を開ける。

前と一緒だ。中央にあのおじさんが座る席があり、それを囲むようにあたし達の椅子がある。

あたりは宇宙。満点の星に包まれている。あたしは一番近くにあった席に座る。

あたりを見渡すと、「乙女座」の星座のところに黒いシルエットが見える。それが手を振っている。美優ちゃんだ

もう少し見てみると「天秤座」のところにも人が座っている。足を組んでいるシルエットだ。足引社長だろう。

そしてもう一人……「魚座」の所にも座っている男がいた。あれが…FISHBOY…!!

「いやぁー寝ようと思ったら寝れなくて遅れたぁー。あぁー…もしかして俺が最後?」

そんな惚けた声をした人のシルエットが扉を開けて入ってくる。そのまま席に座る。あれが手塚隆吾…。

【諸君ら五人。揃ったな……】

「っ!?」

あたしはその瞬間。

驚愕としてしまった…。

あれ……「牡牛座」が…いない。

まさか…!!とその事実を知ったとき、あたしは予想外の事態に動揺を隠せないでいた。

【諸君らを集めたのは、他でもない。まず、我の名を名乗ろうではないか。

 我は「星」と「運」の神。クラウディオスと言う。ここにいるものは、「幸運」を約束されたものだ。

 ここから何位となろうが、主達に不幸が訪れることはないだろう。「運」の神である我が保障しよう。

 ……それでだ。主達に問いかけるのは、ここからだ。ちょっとした問答をしようではないか。

 まず、主らのこの占いに対する意向を問おうか】

クラウディオスがそう呟き、当たりを見渡す。

誰かがいうのを待っているのか、それとも誰に言わせるか探しているのか。

【では射手座。主から述べてみよ】

当てられた射手座は、ふんぞり返った座り方をして、口を動かし始める。

「なーに偉そうに言ってんの?神様??殺しちゃうぞ♪???」

【殺せるものなら殺してみよ。サジタリウスを使おうが容易ではないぞ?】

「…そうかい。ならいいや。俺の意向はただ1つ。殺したいだけ。殺しても罪にならない星霊!最高じゃないか!」

ふんぞり返った態度でいう手塚さん。

【そうか。貴様は「殺戮」に欲求を満たすのだな】

「おう、この占い。サバイバルゲームみたいで楽しいじゃん♪♪」

手塚さんはそういっている。

彼、あの「メリー」を殺した星霊の占い師なんだよね。

あたし達も今まで色んな星霊と闘い、勝利してきたけど「楽しい」なんて感情は生まれなかったな…。

【では次に。天秤座。答えてみよ】

「…私の意向はただ1つ。「会社のため」よ。既に幸運は約束されてる?

 冗談じゃないわ。だから今から負けても大丈夫だ…とでもいわせたいの?

 生憎私はそんな消極的な女ではないわ。何が起こるかわからないビジネスの世界で

 「約束された」なんてものは何ひとつ存在の。それでも確立があがるほうが助かる。

 私は「会社」のために一位を目指す。それ以外はない。この戦いに欲求も何も求めていない。

 全ては利益のためよ」

社長が淡々と語りだす。

やっぱり大人だなぁ…と思う。ここまで思ったことをズバズバ言えるのは尊敬しちゃうかもしれない。

【…中々筋の通った人間だ。今までの占い師でここまで割り切ったものはいないぞ。】

少し笑みを浮かべながら、クラウディオスは言った。

【では乙女座。主の意向を聞こうか】

「えっ!?わ、私ですか?えーっと…」

おうおう、美優ちゃん頑張って!あんな大見得切った二人の後だから緊張するのはわかるけど頑張って!

「わ、私は……戦いたくありません」

【…ほぉ】

「バルちゃんと一緒にいるのは楽しいし…。も、もちろん。何時までも一緒なんて思ってもいません。

 一年後には消えて、私の記憶からも消える。

 でも、たとえそうでも…バルちゃんとは、血生臭い別れはしたくありません。」

【そうか。それもまた1つの答えだろう…】

クラウディウスは、おどおどしながら言う美優ちゃんを諭すようにそう言った。

そしてそこから聞く気が失せたのか、視点を魚座に変える。

【では、魚座。主の意向を聞こうか】

「…僕ですか?うーん。見つけた敵は片っ端に片付ける。ですかね。

 あ、でも俺が消えるまでに。この町の「悪」は全て滅ぼしておきたいですね。あ、それともう1つ…」

【…なんだ?】

「獅子座のレオンと戦うことです」

「っ!?」

魚座のFISHBOYから発せられた言葉にあたしは驚愕してしまった。

【…なぜレオンにこだわる?】

「なんとなくです。俺よりも先に黒星取った男。そして最も星霊を倒している男。興味があります。

 これは「正義」とか「悪」だとか関係なく、闘ってみたい相手ではありますね」

FISHBOYが平然と語りながら、ちらっとこちらを見てくる。いや、微笑みかけてくる。

【では、最後…獅子座よ。主の意向を聞こうか】

ついにあたしの番だ。

あたしは、頭の中で考えていた言葉を全て忘れてしまって、咄嗟に思いつくことを言っていく。

「あ、あたしは…!今後の占いには、あたしの「敵」と闘います。

 もちろんあたしがじゃなくてレオンがだけど。誰が襲ってこようと、レオンは倒してくれます。

 そしてそのレオンを…あたしが、支えたいと思ってます」

なんでこんなことを言っているのか、自分でもよくわかってない。

でも、多分これが今のあたしの本音なのだと思う。

【あの男を随分と信頼しておるのだな…獅子座の占い師よ】

「はい」

あたしはただそうとだけ返した。


【まあ…よい。これで問答は終わった。次だ、これは希望者のみとする。

 主らの中に『望み』を持つものはおらぬか?「幸運」を約束された今でも

 満たせぬ「欲求」を満たしたいという愚かで強欲なものはおるか?それを聞きたい】

クラウディオスは意地悪な言い方をして、あたし達をたきつける。

「…あの!」

【なんだ。獅子座の占い師】

「…貴方がこの星座占いを仕切っているんですよね?」

【いかにも。我がこの制度を創りし者だ】

あたしはその言葉で確信した。

今、自分の胸の中にある思いが何なのかを。

「…『望み』あります。あたしは貴方に叶えてほしい願いがある!!」

【ほぉ…面白い。どれ、他のものはないか?ないならこの娘以外を退場させる】

そういうと、誰も返事をしない。誰も欲深き願いはないようだ。


【では獅子座の占い師よ。話を聞こうか】

「はい。私の願いは――――――――」

あたしが語った言葉を、クラウディオスは静かに聴いていた。

そしてあたしが語り終わってから数秒経って、口を開く。

【その願い…代償が大きくつくぞ?獅子座の占い師】

「うん。わかってる。そのぐらいの代償……いくらでも払ってあげる」

【我は魚座の占い師が面白い。と思っておったが…一番はお主かもしれんのぉ獅子座。】

クラウディオスはそういって姿を消した。


あたしもそのまま視界が真っ暗になり、眠りに落ちた。





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「いい?みんな。今日のために練習してきたんだから、ガンバろ??」

「「「「「おぉー!!!ユッキー!!!!」」」」」

教室で男どもの鈍い声が響く。

そう、実はわがクラスの女子「神倉雪音」ちゃんは男子に人気なのだ。

男女問わず今の雪音ちゃんは、我がクラスのマスコットとなりつつある。

文化祭のときの「ヒーロー」について語ったときの可愛さと男子との共有趣味で完全にみんなの心を掴んだな。

まあ確かに、小柄メガネで、可愛い声の大人しい系なのに、ヒーロー物が好きで、そうなると熱くなるとか

ごめんだけど、あたしが百合なら惚れてるね。うん。まるで小動物みたいなかわいさがある。

そんな彼女が頭2つ以上でかい男子達を仕切っているのだから、滑稽である。

「なあ、神崎」

「うん。この文化祭中、安心とはいえないもんね。だからやりたかったのに役者降りたんでしょ?」

「うっ…ま、まあ俺のガタイじゃあヒーロー役は難しいしな」

教室の隅であたしと毒島くんが話している。

理由はひとつしかない。占いについてだ。文化祭、学校が一般人にも入れるようになる日。

バルちゃんもあたしも美優ちゃんも顔が割れている。それに足引社長が言っていたけど「手塚」って

人の情報網もかなりあるかも知れない。とも言っていた。まあそりゃ俗に言う『裏の人間』だもんね……。

「だから、あたし達はしっかり警戒しないと…」


「おーい!!」

そんなとき、噂をすればなんとやらだ。綾ちゃんが来た。

「どうよぉー!暇だから着てみたぜっ!」

現れたのは黄色のヒーロースーツを来た綾ちゃんだった。

「おう、すっげぇ似合ってるな鬼塚。それに髪結んでるのか?」

確かに、今の綾ちゃんはゴムで長い髪を留めてポニーテールにしてる。

これは雪音ちゃん曰く「アクションのため」と「イエローの元気系女子を出すのはポニー!」らしいからだ。

「あぁ、アクションが多いからな。こうしてたほうが動きやすい」

「そうか。なんか新鮮だわ。それによく似合ってるし」

「なっ…!?」

突然言われた言葉に動揺している綾ちゃん。

「綾ちゃんこれからポニーにする?…いひゃい。いひゃいよあやひゃん」

あたしが綾ちゃんにそういうと、彼女はあたしの頬をつねってきた。恥ずかしがらないでもいいのに…。

「綾ちゃん。公演までもうちょっとあるから、一度脱いで。後、ポニー可愛い」

「お、お前まで言うか!?…ったく//」

すごく嬉しいんだろうな。かなり恥ずかしがってる。

その後ゴムを掴んでポニーを解く。

「あぁーあ。せっかく似合ってたのにぃー」

「うっせぇ!!あたしはこれがデフォなんだ!!」

ポニーを解いて髪をくしゃくしゃー!っとした綾ちゃん。

可愛いって言われ慣れてなくて、恥ずかしいんだろうなぁ…可愛い。



そんなわけで、あたし達の文化祭が、今…幕を開けた。





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「うわぁー。懐かしい。何時以来かな?学校なんって…」

「おう!手塚殿!!色んな格好してる学生がいるでござる!!!」

「お前も混ざってこい。多分溶け込めると思うぞ……」

「忍者喫茶なるものはないでござるか?」

「…多分ないよ。んじゃ、狩りでも始めるか」




そして、悪魔たちが一歩、また一歩と…学生達の園に足を踏み入れる。





                     ☆





「これより、星陵高校。文化祭を行います」

そんな放送が校内に響き渡る。

我が星陵高校(そういえば初めて名前だした)の文化祭は1日限りである。

その1日に全力を注ぐべく、クラスによっては舞台の出し物と教室でやる売店をやっているものもある。

我が校は、昔生徒が文化祭の規制に抗議した結果「自由」が重んじられる文化祭になったらしい。

その辺、過去の生徒に感謝だ。なんか噂によると、教師にエアガンとは言え拳銃向けたって話だけど…。

「私たちは、舞台しかやらないし、由香ちゃん…行こ?」

あたしの袖をぎゅっと握った雪音ちゃんが上目遣いで見てくる。

うっー!あんた可愛すぎてまぶしいよぉー!

「え、えっと……」

「行って来なよ」

躊躇っているあたしに行って来たのは、毒島くんだった。

「監視は俺がしてるよ。ほら、由香は見つけても何も出来ないだろ??」

毒島くんがそういってくれる。

確かにあたしが敵を見つけても、何も出来ないしね…。ここは毒島くんに甘えよう。

「わかった!じゃー行ってくるねぇー!!」

そういってあたしは毒島くんのいる教室から出て行った。




「…あれ?お前は行かないのか??」

「あ、あたしはあれだよ。ほら、お前みたいなモヤシ、星術も使えないときに襲われたら終わりだろ?

 だ、だから……あたしも行ってやる。って言ってんだよ…」

「……お前優しいな。俺が一人なの気ぃ使ってるの??」

「はぁ!?そんなんじゃねぇよ!!お前に協力することは由香を助けることに繋がるからだ!!」

「はいはい。そういうことにしといてやるよ」

そんな二人の些細な会話。

「まあ、監視カメラみたいなの張ってるから、別に俺はこっから動くわけじゃないんだけど…」

「はぁ!?」

毒島がぼそっと呟くと、驚いたように大声を出す鬼塚。

教室では「ヒーロー喫茶」と証したイベントの係がさっそく来た客人の相手をしている。

二人はその裏で休憩している形になる。

それにしても、ヒーロー喫茶ってなんだ…と毒島は思う。

ヒーロースーツ来たマスク来た男達(舞台に出れなかった人達)が接待をしている。

お面を販売して、それを子どもが買っているのとかを見ると、案外評判はいいのかも知れない。

「そ、そんな星術じゃあ信用ならねぇだろ!それにこの場にいたらいざってときに困るぞ!!ほら!!!!」

鬼塚はそういって毒島の腕を掴み、そのまま廊下まで走り去っていった。




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「んで?サジ??残りの奴らにはお前が忍者ってのバレてないんだろうな?」

「左様。拙者が会っているのはFISHBOYと言うもののみ。彼奴は学生ではないのはわかるでござる。

 そして、拙者たちを追ってこの文化祭に来るとは思えないでござる。

 だとすれば、この場でこの忍がサジタリウスだと知るものは、他でもなく手塚殿一人でござるよ。」

「そうか。なら安心した。お前の格好は目立つからな。

 だけど、逆に過去のお前とは正反対。だから気付くやつも少ないだろう。なあ…サジ。………あれ?」

手塚が振り返ると、そこにサジの姿がなかった。

いつの間にかどこかに行ったらしい。

「おいおい…ほんとに気が多い奴だなぁー。まあいいか、目立つ奴いないほうが仕事になる」

手塚はそういいながら、人ごみ溢れる校内廊下を歩く。

すると、向こうから走ってくる男女がいる。青春だねぇ~~♪

引っ張っている側の女子はいかにも「ギャル」みたいな感じの少女。

もう一方はクラスでも大人しめのような男子。大きな本を持っている。

すんげぇーギャップカップルだなぁー。っとか思っていると、その男と目が合う。

「………」

「………」

なぜだろう、すれ違っただけなのに、目が離せなかった。

思わず殺気を発してしまったかも……。やべぇな…。

「ま、偶然か。あんなもやしみたいな男に警戒しちまうなんて、俺も落ちぶれたかもな…」

そんなことを言いながら、彼は再び歩みを進める。

このとき、彼はまだ知らなかった。その目があった少年が過去に「占い」に参加しており

人間にして星霊と同じ戦闘力を持つ少年「毒島裕太」であることを。

「ってかあいつ?本当にどこいったんだ??まあ、乙女座のバル見つけたら連絡すりゃいいか…」





一方その頃。

「むむっ!何やつ!!!」

「貴様こそ何やつ!!我ら華斑柄忍軍の者ではないな!?」

「せ、拙者は匙と言うものでござる!!」

「ご、ござるだとぉ…!?こいつ……本物だ!!ぜひうちで!!!」

「な、何をするでござるか!?カフェ??忍者喫茶でござるか!?おう!!!同志ぃー!!!!」

「匙とやら!今日こんにちは存分に忍の慎ましさを語ろうぞぉー!!!!」

「ちょっと忍ぅー?あんたサボってないで仕事してよねぇー」

「おう!九ノ一でござるぅぅぅぅぅ!!!」

「ちょ、忍誰、この人……」

「市!よく聞け!!この匙さんが拙者ら華斑柄忍軍を手伝ってくれるでござるよ!?」

「ちょっとごめんなさい………」

そういって、市と呼ばれた女性はサジタリウスのマスクに手を伸ばし、彼の顔を見る。

「うん。合格!」

「な、何がでござるかぁ?」

「…拙者ら華斑柄忍軍への加入でござるよ!匙殿!!」

「おう!感動でござるぅー!拙者、存分に仕事を果たすでござる!!!」


サジタリウスは、どこかの教室で…本来の仕事を忘れ、ウェイターをしていたのであった。




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「……あ!李里香さん!!!」

あたし、神崎由香が雪音ちゃんと文化祭を満喫しているときに、一際目立って、周囲から注目を浴びてるも

自身はそのことにまったく気付いていないスーツの女性、松原李里香さんがいた。

誰かを探しているのか、キョロキョロとしている。

あたしは雪音ちゃんをそこに待たせて、李里香さんの所へ向かう。

「あ、由香ちゃん。よかったわぁーあたしここで一人なんだもん…」

仕事モードではなく、プライベートモードみたいだ。「あたし」ってなってるし

それに口調も少し女の子っぽい。やばい…年上だけどちょっと可愛い…。

「それで李里香さん?どうしてここに??」

「あぁーそれはしゃちょ、いや、玲子さんが文化祭行ってきなさいって。

 あたしが高校生のときは、弟達のこととか、

 玲子さんに拾われての教養だったから文化祭はあまり楽しんで無くてね。

 それと、玲子さんに「何かあるといけないから、一応行ってきなさい。同盟を組んだ相手を補助しなさい」

 って言われちゃって、もう断る理由もないから来ちゃったの…

 だけど、レオンにも貴方にも毒島くんにも会わないから、ちょっと……不安になっちゃってて………」

やばい、照れて苦笑いしてる李里香さん超可愛い!!

そんなとき、あたしの袖をぎゅっと握られているのがわかる。雪音ちゃんだ。少し顔がむくれてる。

「…誰?」

なぜか李里香さんを睨む雪音ちゃん。

「えーっと、あたしは松原李里香って言います。由香ちゃんとはちょっとした縁があってね」

「………由香ちゃんは渡さない」

なぜかあたしの背中に隠れてそういう雪音ちゃん。

もぉー可愛いなぁ~♪雪音ちゃんはあたしに懐いてる。

クラスで孤独だった彼女に話しかけたのが自分だからだろうか?とにかくやばいぐらい好かれてる。

「えーっと、由香ちゃん。この子は…?」

「神倉雪音ちゃんです」

「っ!?あ、あの神倉雪音なの…?」

あたしがそういうと、李里香さんが驚いたように雪音ちゃんを見た。

まあそりゃそうか。彼らからしたらすごい情報を持っていて、自分達が利用した少女なんだもんね…。

そのすごい彼女が、こんなちっちゃくて可愛らしかったらそりゃ驚くよねぇ~

「大丈夫よ。雪音ちゃん、玲子さんじゃないだし。あたしはそういう趣味ないから…捕らないよ?」

雪音ちゃんの目を見て、李里香さんが言った。今「玲子さんじゃないんだし」って言わなかった?え?どゆこと?

その後雪音ちゃんはじーっと李里香さんを見つめる。

その後、なぜか李里香さんをぎゅっと抱きしめた。

「……なんか懐かれたみたい…」

「ははは、李里香さんあたしと似てるからじゃないですか?」

「…言われてみればぁー、似てるね♪あたしたち」

「友達にも言われましたよ」

「あ、あのとき一緒にいた子達ね♪ふーん、あたしと由香ちゃんが似てる…ねぇ~~」

そういうと、何か考え事をしているようだったが、数秒して思いついたように、あたしに言う。

「じゃあ、あたしがレオンを誘惑したら……惚れさせれるかな?」

「なっ……////////」

突然言われた言葉にあたしは驚愕した。

り、李里香さんがレオンを寝取りにきたら!?負ける!!負ける自信しかないよぉ!!!!

「もぉ~冗談よ。そんな動揺しないでよぉ~、誰も捕らないわよ。

 あんなラブラブカップルに茶々入れるほうが難しいわ」

そういわれてあたしはさらに顔を真っ赤にさせる。ら、ラブラブ…。

そんなあたしと李里香さんの会話を雪音ちゃんは不機嫌に聞いている。

「懐かれてはいるけど、あたしと由香ちゃんが仲良くしゃべってるのは気に喰わないみたいね。

 レオンってここに来てるの??」

「ま、まさか!?」

「違うわよ。あれは冗談って言ったでしょ?雪音ちゃんのためにも、あたしは合流しちゃダメっぽいし

 だったらレオンか毒島くんと合流したほうがいいかなぁーって」

そういう李里香さん。まあ、このまま三人でもいいんだけど、雪音ちゃんが不機嫌だし

ここで毒島くんの場所を教えると、せっかく気を使って二人きりにしたのに綾ちゃんが不機嫌になる。

こんな美人と仲良く話しをする毒島くん……。想像しただけで後々イライラした綾ちゃんが机を潰しそうだ。

「レオンも着てますけど、どこにいるかわからないんですよ…。

 あのバカ猫今頃喫茶店で飯でも喰ってるんじゃないですか??」

あいつに携帯持たせていないのは致命傷だなとあたしはこのとき思った。

「バカ猫とか言って、由香ちゃんはレオンのこと大好き……」

「なっ!?何急に言い出すの雪音ちゃん!!」

「…だからレオンも敵………」

なんか、雪音ちゃんが占い師のときにあたしを睨んでたときの目に似てる…。

いやぁーカプリコさん。あんたは愛されていたんだね。うん。


「じゃあ、ごめんね雪音ちゃん。邪魔しちゃって、それじゃあレオンを探すわ」

そういって李里香さんはどこかに去っていった。歩いていると、男子がちらちらと見てる。

あふれ出る美人オーラってやつだね…なんかすごいわ……。




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「うっし!完璧だぁー!!」

「いやぁ~最終日まで間に合ってよかったよぉ~♪あたしが足引っ張ってたからさぁ~」

「そんなことないよぉ~♪真希ちゃん♪」

「ほんとぉ?」

「うん♪」

「そうそう。誰がってのはないよ。まあ、一人わざと失敗してた奴いてたけどな」

「何を言っている。俺は一度もわざと失敗なんぞしてない」

「蹴られた後すんげぇ喜んでたくせに」



学校の空き教室で、あたし達バンド組は最後にあわせていた。

完璧だ。これほど完璧なら本番に緊張してもきっと大丈夫だろう。

「うっしゃー!!じゃあこれよりあたし達のバンド!「Carnival」の初舞台だぁー!」

「いや瓜生。初も何も、これが終わったら解散だからな?」

「…!?」

「今知った事実みたいに驚くなぁ!!」

「い、いや…だって、このメンバーだったら「プロ」にもなれるってさぁー」

「とにかく!あたしは金輪際だからね!!」

「そう思うと悲しくなるなぁ……」

「……わ、わかった!これが終わってからも頼まれたら出てやるよ!!」

「本当に!?やっぱバルちゃん好きだぁー!!」

「だぁー!抱きついてくるなぁー!」

「うっし!俺も抱きつきにいくか」

「てめぇはダメだろ!普通に考えろ!!」

そういってあたしは軌条の腹目掛けて蹴りをかます。

「おう、いい蹴りだ。モロに横腹に入った………」

「大丈夫?軌条くん??」

「だ、大丈夫だ…こ、これ…ぐら……い」

「大変!軌条くんがおっちんだぁ~」

「はぁ!?ちょ、今の蹴りでか!?」

「バルちゃん軌条がMだからって手加減せずにしたな…なんまいだぁー」

「なんまいだぁー」

瓜生が目を閉じて手を合わせると、ミューもそれを真似る

「おい!二人共ふざけてないで保健室運ぶぞ!!」



学生の舞台。「文化祭」

学生達は我が世の春といわんばかりに騒ぎ、踊り、恋をする。

未だ悲劇を知らぬ少年少女は、ただこの祭りを楽しむのだった。





ってなわけですいません。

また前後編っす^^;


前半は佳境に入るというエピソードと

文化祭の楽しい部分を書かせていただきました♪


こっからバトルが徐々に始まり、最初から活躍してきた

バルちゃんがメインとして話を進めていきますので、どうかお読みください^^

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