5章
将来政治家になる、と100パーセント信じ切れていたかと言えば実はそうではない。
なんとなくではあるが、将来自分の未来を決めかねて路頭に迷うというイメージが自分の中にあった。理想的な大きな目標を得たあとでも、自分が実際に働くと言う鮮明なイメージは浮かんでこなかった。日々努力はしていても目標があまりに大きく、まさしく「理想像」でパラレルワールドの将来に近い感覚だった。
皆さんは『マーフィーの法則』をご存知だろうか?
一種の思い込み、暗示の力の類のものだと思うが、簡単に説明しよう。
自分が達成したいことが成就したことを出来るだけリアルに思い描くようにする。毎日毎日、強く思い描いていくと自然とそれが達成されるような状況になり、夢が叶う、と言うものである。
つまり、深層心理に働きかけるだけで自然と目的が達成されると言うことなのだが、これは出来るだけリアルに、100パーセント心から叶うと信じてイメージすることが大切であるらしい。僕はこのことを信じているわけではない。
大学受験のときに担任の先生から教えてもらったマーフィーの法則であるが、確かに受験生には魅力的であるが体験談がどうも胡散臭かったので僕は信じていなかった。
しかし、ぼんやりとではあるが自分の将来が暗いというイメージが拭えないというのは不安なことであった。実体験的にはそういったことが100パーセントないとは言い切れないとも分かっていた。
いつかこの車に乗りたい、とぼんやり思っていると大学生時代には僕はその憧れの車に乗っていた。小さい頃に読んだ小説で残酷な殺人のシーンでも、いつか自分の身にも同じことが起きるような気がした。なんとなく既視感のような、納得できるような感覚もあった。
そして、死刑囚の本を読んだ時もそう―――いつか自分が死刑になる気がうっすらしたのだ。
そして今まさに僕の首には白いロープがかかっている。
実現してしまったらしい。