その7
吹っ飛んだ。
何がって吹っ飛んだ。
横から来た何かに顔面を歪ませられ、スティールの足の拘束が外れて男が吹っ飛んだ。
何が起きたのか分からずにスティールはぽかんと横を見る。
そして、固まる。
「え…」
目を見開いた。
「え…?」
震える手でスティールは『その人』を指差す。
「ええ…!?」
どうして、なんで、いかにして。
そこにいるはずのない人にスティールは渾身の力で叫んだ。
「レーシェ!!?」
大声で呼ばれた当の人物は、男の顔面を蹴飛ばしたまま浮かせていた足を下ろし、うっとうしそうに応えた。
「五月蝿い、馬鹿女」
「…へ?」
約小1時間後―――――――――
「…えーと、レーシェさん…ですよねー…?」
「見れば分かるだろう、目が悪いのか」
「いいええ、まさか。なんかその、別人みたいだなーと」
『彼』は外見はレーシェだった。そう、外見は。
口を開けば聞いた通りの辛辣な毒舌。これはレーシェでいいのかとスティールは頭が痛い思いだ。
「…同じだ」
「え?」
「俺はレーシェ。お前がさっき話をしていたのもレーシェだ」
「…なんのことだかさっぱりです」
「理解力のない頭だな、やはり馬鹿か」
「だから馬鹿言うなー!」
とりあえずこの『レーシェ』は嫌な奴だ。そう心に刻んでスティールはぷんとむくれた。
「お前の脳みそでも分かるように説明はしてやる。分からなくても俺は知らん」
「はいはい分かりましたよーだ」
ちんぷんかんぷんな現状を打破すべくスティールは不本意ながら折れた。馬鹿ですからと迫ればレーシェは意外に簡単に教えてくれた。
「…俺たちは『レーシェ』だ」
「俺たち…?」
「俺と、さっきの奴と、他に100はいるか」
「100!?いるって何…」
「人格だ」
「人格?多重人格ってこと?」
「…いや、俺としたことが言葉を間違えたな、馬鹿に影響された…」
「いいから説明!」
「『人格』は不適切だったな、おそらくは『魂』と言うべきもの…」
「何が違うの?」
「魂は本来一人の人間に一つ。人格はある意味魂の個性だな」
「こせ、え…?」
「ああ、すまない。馬鹿には難しくなってしまった」
「だーかーらーっ!」
「魂があれば人の身体は動く。つまり魂が無くなれば人は死ぬ。さっきの『レーシェ』のようにな」
「!」
「さっきのレーシェは死んだ。お前も確認したな?」
「うん…」
「あの『レーシェ』の魂は無くなった。だから『レーシェの身体』は一度死んだ」
「あ…!」
「先程も言ったが『レーシェ』の身体は複数の魂を持つ。だから次の『レーシェ』の魂でこの身体は復活した」
そう言ってレーシェは自身の腹を指してみせる。
「そうだよ、怪我…!」
スティールははっとしてレーシェの傷を探す。しかし、あれだけの出血を引き起こした剣創はどこにも見当たらず、ただ衣服にこびりついた地が残るだけだった。
「『俺』の番が来たことで全てリセットされた」
「じゃあ、もう大丈夫なんだね」
レーシェが生きている。その事実にスティールは安堵した。だが、ふと大事なことに思い至る。
「…それなら、さっきの『レーシェ』は?」
「…あのレーシェの魂は壊れた」
「それってやっぱり死んだってこと?」
「・・・あのレーシェに会うことはおそらく無いだろうな。なんだ、死んだのは自分せいだと思っているのか」
「だって…!私が抵抗せずに素直に従ってたらこんなことにならなかったよ…?私がもっと周りに注意してたら気付けたはずだもん!」
「まあ、あれは特に戦闘に疎いタイプだったようだな」
「私が死なせちゃった、私が…!」
「死んだが、二度と会えないとは断言できない」
「え…?」
またしてもレーシェの言うことがよく分からない。スティールは呆然とその冷たい表情を見つめた。
「通常の人の魂は、肉体の損傷を支えきれなくなった時点で消滅する。それが『死』だ」
レーシェの怜悧な目がスティールを捉える。
「だが俺たちの魂は、肉体がひどく損傷すると壊れる。砕けると言うべきか。しかし決して消えるわけではなく、俺たちの中で修復されるんだ」
「修復…」
「長い時間をかけて修復される。さっきのレーシェの魂が修復を終え、俺たちの魂が一巡したとき、また会えるかもしれない」
「また…会えるの…?」
「可能性の話だ。なにせ100はある魂が一巡するほど殺されるとかぞっとしてかなわん。そんな長い時間お前も俺に付き合えるわけがないだろう。行き先が違うんだ」
「え、ロレンスに行くんだから一緒でしょ?」
「方角はロレンスだ。俺たちはその先を目指している」
「どこまで行くの?」
「東だ」
「東のどこ?」
「いや、ただの東だ」
「いや、だって目的地…」
「知らん」
「え…?」
「ただ東へ行けと、それだけだ」
「そんな不確定な行き先目指して進んでたの?」
「仕方が無い。神の思し召しだ」
「…!」
レーシェの言葉にスティールはびくりと反応する。
「お前の盗みもそんなものだろう?」
「……」
ある意味、それよりタチが悪い。とは口には出さなかった。
「複数の魂が同居する奇妙な身体を東へ運べだとさ。癪だがまあ、この身体を作った神様のご命令なら従おう。色々と問いただしたいこともあることだし」
そう言ってレーシェは空を見据える。無限に広がる空のどこを狙っているのか分からないが、スティールは彼の目が確かに『神』を捉えているような気がしてならない。
「とりあえず、だ」
突如レーシェがスティールに目を向ける。
「ひゃ、ひゃい…?」
「ロレンスまでは同行してもらおうか、馬鹿女。少しは役に立ってもらうぞ」
「えーー!?」
「文句があるのか?人の魂1つ破損させておいて」
「ぐっ…」
「済まない思ってるんだろう?だったら労働で返せ。お前の盗みは使えそうだしな」
なんだこの傲慢男。ちょっとまともな奴かと思ったら違ったし。
悔しいけど正論だ。
この身の罪悪感はいかんともしがたく、正直向こうから言い出してくれたことにほっとしている。
「わっかりましたよ!ちゃんとお返しします!」
「…それでいい」
「え…」
不意打ちの優しい声にスティールは思わずレーシェを見る。が、すぐにその顔は逸らされ窺い知ることはできない。
「レーシェ…?」
どうしても見たくてスティールは横から回り込んだ。そして下から覗きこんで―――――
「むがっ…!」
頭をがっしと鷲掴みにされた。
「いーたーい、放せーーーっ!」
「うるさい」
ずいっと眼前にレーシェの顔が迫ってスティールはげっとのけぞった。そんなスティールの反応にレーシェはにやりと笑う。
スティールの頭を掴みながらレーシェは歩き出した。
「え、ちょっ、このまま?」
「行くぞ馬鹿女。せいぜい働け」
その瞬間スティールは自分の選択を後悔した。このレーシェはドSか。タダ働きと長時間勤務の予感しかしない。
「いーやーだーーーーーっ!!」
辺り一帯にスティールの声が響き渡る。残念ながら人気の絶えた街道はまもなく夜を迎え、ますます彼女を孤立無援の状態にしていく。
かくして複数の魂を運ぶ少年と、盗む少女の旅が始まった。
二人の異能を生み出した神の真意はいずこにあるのだろうか。
今はただ、少年に少女が引きずられていくのみ。
「…え、これで終わり?いや、ちょっと、誰か助けてーーーーーーーーーーーっ!!」
おしまい。
二人の勇気が世界を救(ry
いやあ、ようやく終わった。半日かかるとかどんだけよ。もう眠いよ。こんなに長くなるつもりは欠片もなかったんだ。
とりあえず勢いで書いてしまいました。
文体とか、気になる点はこれから修正していきます。
後付け申し訳ありません・・・
ここまで読んでくださってありがとうございました。
それでは。




