その6
おかしいなあ、こんなに長くなるなんて(棒)
「きゃあっ!」
急速に地面が上昇する感覚にスティールは思わずレーシェにしがみついた。
「ぎゃあっ!」
「ひぃっ!」
目の端で男たちが噴き出す地面に弾き飛ばされる。
ぞっとしたスティールは必死にレーシェの身体の上に伏せて浮遊感に耐えた。
「すてぃーる」
微かに聞こえた声にスティールははっとして身を起こした。
「レーシェ?」
「大丈夫…?」
スティールは握られたままの手に強く力をこめる。
「大丈夫だよ。このなんか噴き出した地面、レーシェだよね?おかげで助かったよ」
「よかっ、た…」
血まみれの顔でレーシェは弱弱しく笑う。スティールの手も真っ赤で、もう、なんだかぼろぼろだ。
「…とう、だよ、これ…は…」
「塔…?この、地面…?」
手を握ったままスティールは狭い塔の端から下を覗き込む。
「たっ…」
ひゅうと息を飲む。レーシェの言う塔の頂上はあまりの高さに目が眩んでしまった。おそらく基本が円筒形で、頂上へ昇るほど細くなっているであろう塔の一番上は、王冠のような柵が一応囲ってはいるが、スティールの膝丈くらいしかないようでは全く頼りにならない。
「だ、大丈夫?こんな高くて降りられるの…?」
不安げにスティールが問うとレーシェは少し面白そうに笑った。
「のぼるものでは…ない、から……うぶっ…!」
レーシェが血を吐き出した。
「レーシェ!」
目に見える異変にようやくレーシェの容態を思い出す。
「レーシェ、早く降りよう。お医者さんのところへ…」
「いや…」
腹の方の傷を見ようとしたスティールをレーシェが制した。
「レーシェ?」
「もう、しぬよ」
レーシェの目がまっすぐにスティールを見る。もう分かってるとその目が言っていた。
「レーシェ!?そんな事無い…!助かるよレーシェ!」
「しぬんだ、ぼくは…。だから、そのま、えに、いわせ…て…」
「いやだよレーシェ!そんなこと言わないで…!」
「すてぃーる、ありが、と…ぅ…」
「レーシェの馬鹿…!一緒に行こうって、そっちが言った…の、に…」
「ごめ、たのしかった、よ。」
「れーしぇえ…」
「また、ね。」
握っていた手の反応が消えた。
「レーシェ…?」
頬を冷たいものがつたった。
白い顔。双眸は閉じられ、血の気の引いた顔に飛んだ血は頬よりも赤い。
「レーシェ、ごめんね…」
スティールはレーシェの口元の血をぬぐってやる。しかし、乾いてこびりついた分は僅かに残ってしまう。
ふと、地面が揺れた気がした。
異変を認識した瞬間塔が下降を始める。
レーシェが死んだからだろうか。
彼の亡骸を抱きかかえながらスティールはぼんやりと思った。
やがて塔は元の地面の高さまで沈み、地に同化して消えた。
地面に落ち着いてからもスティールはしばらく動けなかった。
それでも、人は呼んでこなければならない。
このままスティール一人でいても何をどうすることもできないのだ。
ようやくスティールは地面にレーシェをそっと横たえた。
「すぐに戻るからね、レーシェ。それでお墓、作ってあげるから」
決意を込めてスティールは立ち上がる。街のある方角を見定め、すうと息を吸って駆け出す―――――
「きゃあっ!」
走り出して少しもたたずに何かに足をとられた。よっぽど気が急いているのだろうかと身を起こそうとして―――――片足が動かなかった。
「え…?」
何かおかしい。そう思って違和感の元へ視線をやってみれば、
「くそ…くそ…っ!この女ぁ!!」
血走った目でスティールの足を生き残りが掴んでいた。
「この、しつこいっ!」
外そうともがくが、相手は執念でスティールを離さない。逆に引っ張られて体勢が崩れた。
「うっ…!」
「死ねえっ!!」
「離してっ!」
男が振り上げた手の中で銀色が光る。
無傷じゃすまない。
スティールは襲いくる痛みに覚悟した。




