その3
演技してましたからねーと笑いながらスティールが明かすと、レーシェは俯いてしまった。
「…どうして」
「まあ、ぶっちゃけちゃうとね、私泥棒なの」
「泥棒…?」
「そう、説明するとめんどくさいから簡単に言うけど、盗みが得意だからやってる。知らない?美少女泥棒スティールちゃんって。聞いたことあったんじゃないかな」
「…そういえば」
レーシェはようやくさっきの既視感に思い至る。以前に記憶の片隅で聞いたことがあった。窃盗で有名な少女の話。美少女とは聞いていないが。
「あるでしょ?さっきそんな顔してたもんね。でも私と結びついてないみたいだったから、レーシェに決めちゃった」
「『決める』…?」
「ちょっとね、偽装に付き合ってもらおうと思って」
「……?」
なんとういうか、レーシェは首を傾げすぎていい加減傾けなくなってきていた。
「狩場を変えようと思って、今まで居た街を出てきたばっかだったんだよね。それでロレンスの方まで行こうと思ったの。でも、まあ、一応私のことが伝わってるかもしれないから、一人で行くのは不味いかなって」
「それで、僕に…?」
「うん。男の人と一緒の旅だったら恋人同士に見えて誤魔化せるかなって。そういうこと」
「・・・・・・」
レーシェがまた黙り込む。それを見たスティールは申し訳なさそうな顔をした後、急にレーシェの顔を覗き込んだ。
「そ・れ・に・し・て・も」
「スティール…さん…?」
「さっきの行動なに!?強面男に囲まれて正面突破って馬鹿なの?もう二度とあんな切り抜け方…いや、切り抜けてないか…。あー、もう!二度とあんな無茶しないでよ!?」
「あ、はい……」
ずいっとスティールの顔が迫るのでレーシェが仰け反る。またスティールが迫ってきたので反ろうとしたらもう無理なので諦めてそこで止まった。
「…もう、私は助けてあげられないんだからね」
「え…?」
「私はやっぱり一人で行く。泥棒と一緒なんて嫌でしょ?」
「……」
突然の展開にレーシェはスティールをまじまじと見る。すると少女は気まずげに視線を逸らし、立ち上がった。
「短い間でしたがありがとうございました、レーシェさん。一人でも気をつけて」
そう言ってスティールはレーシェに背を向け歩き出す―――――
「なんでですか?」
レーシェがスティールの背に問うた。
「泥棒だとなんで一緒にいられないんですか?」
スティールの足が止まった。
「偽装に付き合って欲しいと言うなら、僕は構いませんが。助けていただいたお礼も含めて」
スティールはまだ振り返らない。お互い止まったまま、レーシェは最後に言った。
「どうやら貴方がいないと、僕はまた死んでしまいそうなので」
「…馬鹿」
スティールの呟きがレーシェの耳に届く。少女は振り返らないまま言う。
「この先何回死ぬつもりなの」
「10回…は軽く越えそうですね。100回は行くでしょうか」
「…ほんっと馬鹿。ああ、しょうがないからついててあげるわ。大泥棒スティールちゃんは優しいんだから」
「ありがとうございます」
堪え切れずスティールは吹き出した。笑いは止まらず涙まで出てくる。しょうがないなあと馬鹿の顔を見るために振り返った。
「まったくレーシェは…」
その時だった。
レーシェの背後に、影が走り寄る。それが彼の真後ろに回った瞬間、
「か、はっ…」
レーシェが血を吐いた。
「レーシェっ!!」
ゆっくりとレーシェの身体が崩折れた。その後ろから現れたのは下卑た笑いを浮かべる男。レーシェの背中から引き抜いた剣から血が滴り落ちるのも厭わず、それをスティールに向けた。
「ざまあみろ!」
けれどスティールには耳に入っていなかった。目の前で起きたことが信じられずわなわなと震えて倒れた少年を凝視する。
「っ、レーシェーーーーーーーーーっ!!!」
気がつけばスティールは無我夢中で走り出していた。




