その1
短編にしたかったんですが、異様な長さとなり断念。でもすぐには終わります。
少年は荒れ果てた道を行く。旅装は軽微。足取りは普通。空の色より昏い目は真っ直ぐに前を見据え、少年は歩いて行く。
ふと、後ろからの小さな衝撃が少年の足を止める。
「あ、すみません…」
振り返るとその少女は気まずげに笑った。
「貴方もロレンスへ?」
歩を並べると、少女はおずおずと少年に問うた。
「…一応、方角はそうなる…かな…」
「『一応』、ですか…?」
「・・・・・・」
少年は俯いて黙り込んでしまった。不味いことを聞いたと気付いた少女は慌てて謝罪した。
「ご、ごめんなさい!私いけないことを…」
「え…?」
少女の言葉に少年は呆けて返す。
「どうかしました…?」
「え?いや、いえ、私が今不味いことを言ったのかと…」
「…はい?」
「…もういいです」
またしばらくして少女が少年に問う。
「あの、お名前伺ってもいいですか…?」
「あ、レーシェ、です」
「レーシェさん?私は、スティールです」
「スティー…ル?」
唐突に脳に浮かんだ既視感に少年は首を傾げた。どこかで聞いた気がする。ふと少女が強張った顔でこちらを見ているのに気付き、止めた。
「ま、いっか」
「はい…?」
レーシェが急に歩を早めてスティールが置いて行かれる。
「え、ちょっとレーシェさん!?」
「…急がないと、暮れたら危ないです」
「な、何が…」
「出ます」
「ひゃい!?」
出るって何、出るって。突っ込む前にスティールはレーシェと開いてしまった距離に気付き慌てて後を追った。
出るってこれか。
スティールがようやく気付いたのは当の『それ』が現れてからだった。
「お前ら、金目の物は置いていけぇ!」
――――――いや、予想してなかったわけじゃなかったんだけど、レーシェさんの言い方が、ね。
「レーシェさん、どうしましょう…」
街道に張り込む追いはぎに絡まれ、進むに進めない。スティールは迷わずレーシェに頼ることに決めた。
予期していたくらいだからきっと何か対策くらい用意しているんじゃないだろうか。期待をこめてスティールが振り向くと、
「……あいてっ」
普通にまっすぐ歩いて追いはぎにまっすぐぶつかっていた。
「なに普通に通り抜けようとしてやがんだてめえ!」
追いはぎがレーシェを突き飛ばす。細身の少年の身体は尻餅をついてそのまま仰向けに倒れた。
「レーシェ!」
スティールが駆け寄るとレーシェが苦しげに息を吐いた。ともかく無事な様子にほっとし、スティールはさっと周囲を見渡す。
追いはぎはどうやら4人。リーダーはレーシェを突き飛ばした一番の大男。他は普通の体格だろうか。全員抜き身の剣を持っているのが厄介だ。
どうする。頼りのレーシェは案外、いや初対面の予想通り馬鹿だった。ああ、頭イタイ―――――
「なんだ、こっちの兄ちゃんはただのアホか。姉ちゃんは、分かってるよな?」
強制を込めた要求。でもくれてやる余裕なんかこれっぽっちも無いんだ。
「…なら、答えは一つ―――――」
「ああ?何か言ったか…」
「だよね!」
言うが早いかスティールは駆け出した。狙いは正面のリーダー格ただ一人。虚を突かれた手下たちの反応が一瞬遅れるが、特攻をかけたスティールに大男は笑う。
「おい、お前馬鹿…」
「ねえ」
大男が剣を振り上げた瞬間、
「それ頂戴」
スティールの手が剣に触れた。
辺りが沈黙に包まれる。
スティールと、倒れているレーシェ以外は大男の手元を凝視していた。
「な…んで…」
大男の腕は振り上げられていたまま。しかし、その手の中に強く握られていたはずの剣がそこには無かった。
突如くすくすと笑う声が聞こえる。
彼らがはっとして笑い声のした方を見ると、いつの間に大男の横をすり抜けていたのか少女が背を向けて佇んでいた。そしてその手には――――――。
「嘘だ・・・」
誰かがぽつりと声を漏らす。少女の手には先ほどまで大男が持っていた剣が握られていた。
少女はくるりと振り返り、にっこりと笑う。
「盗んじゃった♪」
どすっと鈍い音を立てて少女は剣を地面に突き刺した。




