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なんでこんなことになったんだっけ?

 宣伝用の動画を撮ろうとケレンミに誘われ、言われるがままに連れて来られたのは大樹の真下だった。


 どのくらい前から立っていたのかわからないその巨木は、グタロウが抱き着いても指の先を合わせることができないほど太い。


「それで、宣伝用って言うけど、具体的にはなにを撮るのさ」


 頭を掻きながらグタロウが問うと、後ろのほうで撮影場所を吟味しているケレンミが、通信端末を上に向けた。


「あの木の実を採ってきてくれ」


 端末が指す方を目で追っていく。山の中にあるため、上の方にしかない枝。今は新緑の季節もあって空を覆うほど緑の中に、星のよう赤い果実がなっているのが見える。


 だが。

「あれって確か、渋くて食べられないやつだよ?」


「知ってるよ。動画用のためだから食うわけじゃない」


 そんなものを採るのか、と思うが、赤の色がだいぶ濃いので時期に落ちてくるころだろう。現に、足元にはすでに落ちた果実が潰れて干からびていた。


 かなり大きい実だ。上のあれも同じくらいだとするならば、赤ん坊と同じくらいあるだろう。


 身も詰まっており、両手で抱えてやっと持てるくらいの重さがあるに違いない。


「……で、あれを採るのが宣伝用になるの?」

「ああ」


 ケレンミが頷くが、いまいち納得できない。そんなことでいいのだろうか、と思うが、動画など撮ったことがないグタロウにそういうノウハウはないのだ。提案できるものもないため、大人しく言うことに従う。


 さっそく木に登ろうと手をかけたところで。


「ちょっと待て」とケレンミがマスクを差し出してきた。目と鼻の上部を隠す、いわゆるコロンビーナと呼ばれるマスクだ。


「身バレしたくないんだろ。それ付けとけ」

「あ、そうだね。忘れてた」


 赤く、遠目でもわかるくらい派手な装飾がついたマスク。


 趣味ではないが、ケレンミ曰く「マスクに目が言って顔の印象が薄れるからこれくらいがいい」ということだ。


 試しに撮ってもらうとまさに彼の言う通りで、なにをするにもマスクに目がいってほかの印象がだいぶ薄れる。ただ「これは僕の趣味ではありません」と注記だけ入れてほしかったが、それは却下されてしまった。


 ゴム紐ではなく頭の後ろで結ぶタイプのため、一人では付け辛い。

 マスクを支えるために上を向いていると、気を利かせたアムが手伝ってくれた。マスクを押さえて貰っている間に、頭の後ろで紐で結ぶ。


 自分からは見えないが、グタロウの頭の上でアムが親指を立てているので問題ないのだろう。


「じゃ、僕は行くよ」

「あいよ。こっちはすでに準備できてるよ」


 ケレンミが通信端末を自分に向けている。撮影されているとわかると少し緊張するが、カメラを気にしてばかりもいられない。


 自己紹介は要らないということなので、カメラに背を向けて木の幹に右足をひっかける場所を探す。ごつごつした樹で助かった。手も足もひっかける場所は沢山ある。


 とりあえず右足と両手がしっかりひっかかる場所を見つける。


 そのあとは。

「お願い、アムくん」


 その呼びかけに反応してアムが――()()()()()()()()()()()()()()()がぐいと伸び、樹の上を掴む。そのままグタロウの体を引き上げると、そこでまたグタロウが足と指を引っかかる場所を探した。


 そのあとはさっきまでの繰り返しだ。尺取り虫のようアムが体――腕を伸ばして、グタロウを引き上げる。その先で体をしっかり固定すると、またアムが上を掴んでグタロウを上へと連れていく。


「おー、いいねえ」と下でケレンミが感心しているのが聞こえるが、反応しないほうがいいのだろう。


 動画は一分くらい、できれば編集無しでと言われていたので、余計なことに時間は使うわけにはいかない。 

 

 アムの疲れをグタロウは感じないため、あっという間に果実の成っている枝まで辿り着く。


 だが。

「むー、ちょっと遠いな」


 遠目ではわかりにくかったが、枝の先にある果実はグタロウの腕を伸ばしても届く距離にない。仕方ないのでここからは選手交代、グタロウが枝にぶら下がり、果実のところまで進むことにする。握力にあまり自信がないので長い時間ぶら下がることはできないが、幸いにもすぐアムが果実に触れることができた。


 アムの手のひらは成人男性の頭を軽くつかめるほどある。そのアムでさえしっかり掴めるほどの実だ。想像よりかなり大きい。


「ありがとね、アムくん」


 渡された果実を片手で受け取る。果実の重さが加わり、片手でぶら下がるのが辛くなる。だが、すぐアムが枝を掴んでくれたので助かった。

 両腕の中にあるそれは、やはりちょっとした子どもくらいありそうだ。結婚して子どもができたらこんな感じなのかなあと思いつつ。


「じゃ、戻ろうか」


 そう言ったときだった。

 ベキと小さな音を立てて、アムが掴んでいた枝が折れたのだ。


「わ!」


 支えを失った体が落ちていく。

 下からケレンミがなにか叫んでいるのが聞こえたが、なんと言っているのかわからない。体の真ん中がひんやりとした浮遊感を感じる中、グタロウが叫ぶ。


「――ア、アムくん!」


 体をねじり、背中を幹に近づける。アムが幹に腕を伸ばし、がっしりと掴んだ。

 樹の皮が削れる音。幹が割れる音。それから、下の方で枝が落ちる音がした。どうやらケレンミにも当たらなかったらしい。ホッとした。


「……ありがとね。アムくん」

 樹にぶら下がった姿勢のままお礼を言う。アムがいなければあのまま落ちていたことだろう。


「あとはこのまま下に……ってわあ! 果実が!」

 

 お腹の辺りがずっと冷たいと思っていたら、果実が割れて真っ赤な汁が体を濡らしていた。落ちるときにうっかり抱きしめてしまったらしい。


「あーあ……服、あんま余裕ないのに」

 これ、洗ったら落ちるだろうか。そう思って溜息をつく。

 

 落胆したグタロウに、樹にしがみつく力がないのがわかったのだろう。気を使ったアムが、器用にも腕一本で下りていく。


 視界が徐々に低くなっていく中。


 あれ、そもそも、なんでこんなことになったんだっけ?

 グタロウがそんなことを思う。


 三日ほど前までは、自分が動画を撮るなんてことは夢にも思っていなかった。

 それなのに。


 ……ほんと、生きてると不思議なこともあるもんだ。


 齢22の男性がそう悟りつつ。


 下で待つ相棒の元に、背中に異形を持つ青年が下りてきた。



 ―――  プレ配信 : 背中に異形を持つ青年 配信完 ―――



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