第5話 - 【交流祭】初めてのコラボイベントはドキドキの連続です
「はぁ〜〜〜〜…。」
「…どうしたの?ノア。今日ため息多いね。」
現在時刻は午前9時。
ノアとララがこんな時間からギルドに集まっているのには訳があった。
「ノア様、ララ様。本日の腕章がお届きになりましたよ。」
「あ、アイナ!ありがとう!」
アイナからそれぞれ腕章を受け取り、腕に装着した。
ノアは緑色、ララは赤色のものだ。わずかながら魔力も感じる。
――今日は《 ユーフェル・エステリア地区若手語り手交流祭 》当日だ。
ノアの緑色は実況枠の、ララの赤色はプレイヤー枠の専用の腕章である。
この腕章をつけるということは、語り手としていわゆる「大型コラボ」に出向くのと同義だ。
現世でもほとんどコラボに出たことのなかったノアだったが、一度だけ、新人の枠組みでコラボに呼ばれたことがある。
ちょうど、企画用のハッシュタグに参加して、その中からたまたまフィーチャーしていただいたんだったはずだ。活動内容の紹介と、今後どんなことをしていきたいか。枠主のVtuberに一言二言聞かれ、答えただけだ。コラボとすら言えるだろうか、そんなレベルだった。
それが今、もっと大きな規模で、いきなり放り込まれることになったのだ。
もちろんノアが望んで参加したのだし、そもそも大きな規模、と言ってもせいぜいユーフェルとエステリア内程度までしか届かないらしいのだが。
初配信とはまた違った緊張がノアを襲う。
「そうだ。ララは今日の競技――《 リンクド・シンフォニア 》ってやったことあるの?」
「もっちろん!青春はこれに捧げたと言っても過言じゃないね!」
ララは自慢げに胸を張る。
リンクド・シンフォニア。今日の交流祭でプレイする”マギアレーナ”の一種だ。
ランダムに流れる音楽に合わせて浮かび上がる「魔法譜」に沿って、魔法陣のピースを回転させたり、つなげたり、弾いてくっつける。リズム良く組み合わせられれば、大きな魔法陣が完成する。この魔法陣で発動するスキルやその魔法陣の完成度、難易度、コンボに応じてスコアが決まるのだ。
…要するに、現世で言う「音ゲー」か「パズルゲー」である。少なくともノアはそう認識していた。
「そりゃ楽しみだ!へへ…やるっきゃないかぁ…!実況!!」
「わたしもノアの実況で遊べるの楽しみ!」
昂るララを前にして緊張を吹き飛ばしたノアは、来る本番に向けて大きく息を吸い込んだ。
*
時刻は15時。祭りも前半戦が終わり、ユーフェル支部ギルド前の広場に集まった人々は、1人残さず皆熱いプレイと実況に盛り上がっている。
広場の中央には大きなマギアレーナ用のセットが組まれており、前半戦を終えた語り手たちが控えブースに戻ってくるところだった。
出番が後半戦となったノアとララは、このあとの後半戦に向けて準備をしなければならない。
が、しかし、ノアはまた大きくため息をついていた。
「…どうしてあんたが一緒なわけ!」
「こっちのセリフだ異世界さんよぉ!」
「もう!本番直前に喧嘩しないでよ!」
今日の交流祭に参加している語り手は10人。
そのうちの4人が実況枠、6人がプレイヤー枠。そこで、実況枠は2人1組とし、前後半に分かれて出演するのだ。
そのペアが、ノアとシルヴィオに決まってしまったが故に、ノアは再度ため息をつくことになってしまった。
「シル…なんとかさん、邪魔するのはやめてよね!」
「シルヴィオだ!!さっき言ってただろ!!」
「あはは…」
2人が言い合っているうちに、後半戦が始まる合図、空砲が打ち上げられる。
行ってくるね、とプレイヤー席へと向かうララの背中を眺めながら、今度は深く息を吸って、吐いた。
「まぁシルヴィオと組まされたのは不服だけど…あたし絶対にこのお祭りを盛り上げまくって見せるから!見てなよね!」
「はん、言ったな?俺の実況に腰抜かすなよ。」
「そっちこそあたしの実況で感動して泣かないでよね!全米泣かすつもりなんだから!」
「ゼンベイってなんだよ!異世界語で喋んな!」
軽口を叩きつつ、実況ブースへと移る。ブースから、ちらりと今日のために広場に出されたひときわ大きな共鳴晶に目を向ける。今日はエステリアまで届けるということもあって、いつもより大型なものが使用されているのだ。
すでに前半戦の熱気によって集まった魔力で水晶がうっすら光を放っている。この光を、もっと、もっと。大きくするのだと、ノアは握り拳に力を込めた。
「はーいみなさん後半戦も元気まだまだ残ってますかー!異世界出身実況担当、ノア・ミリシアです!」
「同じく後半戦の実況担当シルヴィオ・アスラン。十分盛り上がってんだろうなぁ!!後半もバテてらんねーぞ!!」
2人の自己紹介を皮切りに、後半戦のプレイヤーが登壇する。3人の試合で、そのうちのひとりがララだ。
まだまだ盛り上がれるぞ、と、実況に負けじと観客は歓声を上げる。
「それではリンクド・シンフォニア後半戦、スタート!!」
ノアの高らかな宣言に合わせて音楽が鳴り始める。
どうやらこの世界では有名な曲なのか、流れただけで観客は盛り上がりだした。
「おおっ、なんかもう盛り上がってる!!これは有名な曲なの?」
「まあこの国に住んでたら知らない奴はいないくらいの曲だな。さあて、どんなプレイを見せてくれるのか…」
と、そこまでシルヴィオが言うが早いか、ひときわ大きな歓声が上がる。
「あれは…ララ!うわ、ピースの取りこぼしが…無い!?」
「完璧なリズム感でフルコン狙うみてえだな。相当な感覚がないと却ってミスを誘発するが…やれんのか!?」
「でもめちゃくちゃ楽しそう!!まるで踊ってるみたいな…いや躍らせてる…?まるでDJだよ!」
「DJってなんだ!!異世界語で喋んな!!」
ノアとシルヴィオの掛け合いが観客の笑いを誘う。
広場は大盛り上がりで実況とプレイを楽しんでいた。
「おおっとここでミュレナ大暴投ーー!?いや待てよ!?なんか奇跡的にいい感じの魔法陣になってる!!マギアレーナには運も大事!!コンボ決まった〜〜!!」
「フォルクは流石のリズムキープだな。あっミスった、これ俺が悪いのか!?なあ!?」
「ララは…もはや乗るとかじゃない!!!歌ってる!!!歌ってます!!!このフィールドで一番楽しそうなやつが音楽王だ〜〜〜!」
「だからそれなんだよ!!!異世界ギャグやめろ!!!」
*
「ノア〜〜!お疲れ様!!」
「ララこそ!!優勝おめでとう!!!」
無事に交流祭を終えギルドに戻ってきた2人は、互いの健闘を讃えあった。
ララは持ち前のリズム感と表現力により、見事優勝に輝いた。
ちょうど優勝商品にもらったささやかな菓子類を両手に抱えていたところだ。
「ノアにもあげる!わたし1人じゃこんなに食べきれないし。」
はい、とクッキーの小袋を手渡される。ユーフェルにある焼き菓子屋さんのお手製お菓子詰め合わせをもらったらしく、ナッツのような実が入った美味しそうなクッキーが数枚入っていた。
ありがとう…と染み入るようにして受け取る。
「シルヴィオもいる?」
「っはぁ!?」
「あ、いたんだ」
たまたま背後を通ったシルヴィオに、ララが声をかけた。
突然声をかけられたシルヴィオは動揺するが、ララは臆せず近寄る。
「今ノアにも渡したんだけど、いっぱいあるから!どれがいい?このタルトなんか美味しそうだよ!あでも甘いのだめ?じゃあこの…」
「あーもうわかったわかった!じゃあそのタルトもらうから!」
ララの押しに負け、いちごのタルトを受け取る。
押し問答をしたシルヴィオの耳は心なしか赤くなっていた。
「…あれれぇ?シルヴィオくんさあ、なんか赤くなってなあい?」
「なってねーから!!」
「シルヴィオ?やっぱこっちにする?」
「だーもうこれでいいって!!!」
「ああいた!ララ様、ノア様、シルヴィオ様。少々お時間よろしいですか?」
3人が騒いでいると、突然背後から声をかけられる。
ギルド職員だろうか、一体なんの用が。
「ど、どうしました?」
「実は急で悪いのですけど…」
「インタビュー!?!?」
――それは、新人語り手《 リレーター 》にとって、大きな躍進だった。