第4話 - 【調査】街頭インタビューは出会いの合図
チュチュ、と小鳥が囀り、羽ばたいて何処かへと飛んでいく。
太陽の光が窓から差し込み、ここにはゆったりとした時間が流れている。
「ふわぁ…二度目の配信、どうしよっか…」
お昼前のユーフェル支部ギルド内ロビー。ノアはソファにぐでっと倒れ込んでいた。
初配信の興奮も冷めやらぬまま、次なる一手を考える時間である。
「テンション低っ。燃え尽きちゃってる?」
「いんやぁ…ララはさあ、こういう時どうしてるの?」
「わたしは歌って寝て起きて食べてまた歌う」
「それただの歌バカ」
軽口を叩いてノアとララが笑い合っていると、すぐ隣で国への報告書をしたためていたアイナが静かに口を出す。
こう見えて、アイナもお国の語導師だ。週に一度、ノア自身や配信の様子を提出しなければいけないのだという。
「初配信を終えたら、次は視聴者には”定着”してもらわなければいけませんよ。」
「定着ねぇ…」
倒れた体を起こし、アイナの方へ顔を向ける。
ノアにも言いたいことはわかっている。初配信でいいスタートを切った――だけに、次で失速したら、視聴者は戻ってこない。
「うーん…あ!そうだ!」
「なんか思いついた?」
「街頭インタビューに行こうよ。それで、今夜のエピソードトークにする!まだこの世界の人のことも全然知らないしね。」
せっかく出かけるのなら、隣町に行ってみてもいいんじゃないか。
ノアはつい先日「作戦」のために立ち寄った町、エステリアまでの道のりを思い浮かべる。
「行くならエステリアかなぁ…」
「ねぇねぇ、ノアがよければ、わたしもついていっていい?」
「んぇ?もちろん!!ララも用事?」
「うん、ちょっと行きたいお店があって…ついでにノアの勇姿でも拝んじゃおっかな〜って!」
「なにそれ!?」
「ノア様のトラブル防止ですね。」
「アイナまで!?」
*
エステリアはユーフェルに隣接する街で、人口・土地共にユーフェルよりも少し規模が大きい。
下町のような情緒あふれる雰囲気で、多くの職人が店を構える長い商店街が特徴的だ。
「この間も来たけどやっぱすごいね〜!」
「ね!お昼時だからか人通りも多いし…」
まだ仕事から手が離せないアイナをユーフェルに残したまま、ノアとララはエステリアの長い商店街に降り立っていた。
お店を物色しつつ、街ゆく人にインタビューをしていく。
「異世界出身新人語り手《 リレーター 》のノア・ミリシアって言います!ちょっとだけインタビューさせてもらってもいいですか?」
「このへんで一番美味しい料理って…」
「知っている異世界はありますか?」
「この世界の超有名人とか!」
持ち前の明るさで次々に住人たちと打ち解け、ノアは順調にネタを集めていた。
すると、紙袋を抱えたララが向かいから走ってくるのが見える。
ララは先ほどこの辺に気になってる服屋があるのだとかけていったばかりだ。
「ララ?どうしたの?服は買えた?」
「もうばっちりよ!そんなことより、きてきて!」
ララが案内してくれたのは、商店街の終わりにある掲示板だった。
今日もたくさんの語り手が宣伝をしているが、ララが見せたかったのはこれではないらしい。
「ほら見て。ユーフェルとエステリアの若手語り手で交流祭があるんだって!」
ララが指差したチラシには、手書きの文字とギルドの公認印が押されている。
《エステリア×ユーフェル合同・若手語り手交流祭!》
マギアレーナにて技と魅力を披露せよ!実況枠・プレイヤー枠ともに募集中!
※本イベントは両支部広場の共鳴晶にて公開配信予定!
「イベント?」
「若手限定、ユーフェルもしくはエステリア在住の語り手、性別もランクも問いません!だって。これ、わたしたちで出ようよ!」
「良いじゃん!出てみようよ!!」
マギアレーナ、とは、現世で言うゲームのことだとアイナから教わった。
元々あまりゲームが得意ではないノアだったが、「実況枠」という枠組みに目を奪われる。
「実況枠、っていうのがあるんだ。これならあたしも…!」
「…お前らも新人語り手《 リレーター 》か?」
「…そうだけど」
突然、背後から声をかけられる。
黒のローブに身を包んだ、ぱっと見同年代に見える、黒髪の男性。
瞳は紫に輝いており、どこか怪しげな雰囲気を醸し出している。
「お前出身は?ユーフェル?」
男はノアを指差して尋ねる。
人に指を差すなんて失礼な!とノアは少し身構える。
「いや、異世界から。この世界ではないんだけど、」
「――異世界?」
その瞬間、男の眉がピクリと動き、さらに嘲笑するような表情をする。
「はっ、所詮は最初だけだぜ。異世界出身なんて――物珍しがってるだけなんだよ。どいつもこいつも。」
「な、なにその言い方!!!」
思わずカッとなってずい、と男に詰め寄る。
男も負けじと睨みをきかせ、両者の間には火花が飛んでいる。
「ちょ、ちょっと!!ストーップ!!ふたりとも喧嘩は良くないよ!」
慌ててララが間に割って入ると、小さく舌打ちをして男はいつの間にか消えてしまった。
「なんかヤなやつに絡まれちゃったね…行こ?ララ。」
「うん…でもなんか、さっきの人どこかで…。」
*
夜。ユーフェル支部ギルド、配信ブースにて。
「こんばんは、異世界出身ノア・ミリシアの配信へようこそ!今日はね、異世界とこの世界のギャップを街頭インタビューしてきたよ!」
《 こんばんは〜!待ってたよ! 》
《 インタビュー!?気になる〜! 》
「お隣のエステリアに行ってきたんだけどね、いろんな人の話が聞けてすごく面白かったんだ!」
ノアは昼間聞いたエピソードを紹介しつつ、得意のトークで笑いを誘う。
異世界とのギャップネタも交え、コメント欄は順調に盛り上がっていた。
「それでさ、掲示板にね?エステリアとユーフェルの合同イベントの告知が貼られてて。マギアレーナを通じて若手語り手同士の交流イベントをするんだって!」
《 マギアレーナ大会いいよね 》
《 ノアちゃんは実況かなぁ 》
と、ここで掲示板前で出会った男のことを思い出す。
「そう!でね、そこで変な男に絡まれたんだよ!」
《 大丈夫だった!? 》
《 どんなやつだったの? 》
「黒のローブを着てて、紫色の目だったのが印象に残ってるかも。異世界出身、って話をしたら急に怒り出してさぁ…。」
《 それ最近マギアレ実況で話題になってるシルヴィオじゃないかな 》
《 確かに!それなら納得する 》
「シルヴィオ?有名なの?」
《 エステリアから期待の新人!って宣伝出てたね 》
《 ノアちゃんとほぼ同期だったはず 》
「そうなんだ…。隣町のことだし気をつけないとだ!うわ〜!交流祭でニアピンしたらやだな〜〜!」
シルヴィオ。名前覚えたからな、と脳みそに深く刻む。
「とりあえず、あたしは交流祭に出ようと思って。その時は見てくれたら嬉しいな!」
《 もちろん行きます! 》
《 応援してるよー! 》
「ゲーム…マギアレーナはあんまり得意じゃないけど、実況とか、トークで盛り上げられたら良いなあ。うわ〜!どんな人がいるんだろう!!今から超楽しみ!!」
まだ見ぬ語り手に想像を膨らませる。まだまだ目標はいっぱいだ。
「それじゃ、また次回!おつノア〜!」
「あ、アイナ!お疲れ様!お仕事は終わった?」
「はい、なんとか…って、あっ」
「はいどうぞ。もう疲れてるんじゃないの?…顛末書?」
「…ええ。ノア様に雷を落とした件で。」
「結局怒られてんのかい!!!」