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第3話 - 【初配信】異世界出身・元Vtuber





――名付けて「あしあとリレー作戦」。


まだ“この世界には”ない作戦。




より多くの人に見てもらって楽しんで、覚えてもらうための作戦会議。

まずどうやって初配信のことを知ってもらうべきか、ノア・アイナ・ララの3人は顔を突き合わせていた。



「王都?王都はねぇ……たぶん、この街からだと”遠すぎる”と思う。」

「遠い?」


せっかく見てもらうのなら人通りの多い王都で広報したらどうか、というノアの提案に、ララは渋い顔をする。

この世界では、自分の「語り」を見にきてもらうために、わざわざこの街まで来てもらう必要があった。

そのため、王都からユーフェルまでの道のりは、思いつきで足を運ぶには少し遠かったのだ。



語り手《 リレーター 》の配信は、自身のリレイコア――現代におけるマイク・カメラ・パソコンの役割を果たす――に配信魔法の魔力を注ぎ、視聴者がその配信を受け取るための「共鳴晶」に繋げる必要性がある。


共鳴晶とはこのアーク=フィリア王国に自生する水晶のことだ。魔力を通じて音やイメージを媒介する性質を持っている。

リレイコアから配信できる距離には限りがあり、それだけでは実のところせいぜい10数m範囲程度までしか届けられないのだ。


しかし、だ。共鳴晶にできるのは決して受け取ることだけでは無い。共鳴晶越しに配信を楽しむ受信者――もとい”視聴者”が、その配信に対して魔力的共鳴を起こした時、つまりコメントを送る、投げ魔(投げ銭のようなもの。まだノア達には無縁。)、その他感情の波を起こしたときなど、「配信が盛り上がった時」、水晶はさらに遠くの水晶に情報を届けようとするのだ。

この水晶が「共鳴」と呼ばれる所以はここにある。


つまるところ、配信を盛り上げてくれる固定客もいない上に王都ほど人の賑わいもないこの土地では、簡単に視聴者を集めるのは難しいのである。



「この街だけの盛り上がりだと、届いても隣町くらいかなぁ。これが田舎者の宿命なのよっ…」

「まぁまぁ…他の語り手さん達はどんな広報をしてるの?」

「大抵はビラ配りか掲示板!ほら、そこに本日の予定、ってやつがあるでしょ?毎日張り替えてもらえる掲示板なんだけど、あそこで宣伝するの!」


ララは入口扉横に設置された大型の掲示板を指差す。

確かに配信の内容やわたしはこんな語り手です、といった宣伝目的のチラシがちらほら貼り出されている。

ノアはなんかVtuberのタグツイみたい…と現世のVtuberたちに想いを馳せた。



「いや待てよ…?」

「ノア?」

「ねえ、掲示板って、他の街でやってもよかったりする?」

「特に禁止事項として定められていたりはしませんね。」

「じゃあさ…」



「いいじゃん!!!ノア天才!?」

「いや、これも現世のVtuber…ええっと、こっちでいう語り手がやってた方法をアレンジしただけだから!」

「でも良いアイデアだと思う!早速このあと準備しようよ!!」




ノアの作戦――「あしあとリレー作戦」はこうだ。



まず、王都で掲示板での宣伝をする。


「おっ、新人さんかぁ。ええっと?1週間後に初配信、異世界出身新人語り手の異世界豆知識は明日ナリオン掲示板にて…?」

「異世界出身は最近見てないねぇ、明日ショッピングついでにナリオンにでも寄ろうかしら」



翌日は隣町・ナリオンの掲示板で。


「昨日の子か!そういえばそんなこと言ってたなぁ」

「話には自信あり?へぇ、異世界のトークってのはちょっと気になるねぇ」



そしてさらに翌日はその隣へと、1週間かけて王都からノア達の支部ギルドが位置するユーフェルまで、少しずつ情報をおひろめしながら掲示板を転々とするのだ。

これは、1日で剥がされてしまう掲示板を利用したやり方である。


まるで足跡を辿るように。リレーのように、答えまでをつなぐ。

それが、このあしあとリレー作戦の全容だ。


ノアのこの発想は、現世のVtuberを思い出して浮かんだものだった。

初配信までの間、たとえば衣装を、たとえば声を、たとえば職業を。少しずつおひろめしていくVtuberは少なくない。現世では当たり前のように使われている宣伝の手法だったが、つい最近まで語り手人口自体がそう多くなかったこの世界では、ここまで凝った広報は行われていなかったようだ。とはいえ、現世のVtuberに比べれば今でも圧倒的にその数は少ないのだが。








――当日。


配信のため、3人は支部ギルド2階の「配信ブース」に集まっていた。

このブースは、専用の環境を持っていない新人語り手や、特殊な配信をしたがる語り手向けに無償で貸し出されているものだ。

…ここがタダで使えるのも、王都から離れた、語り手人口の少ないユーフェル (田舎)だからなのだが。



「作戦はかんぺき。お昼にギルド前でビラ配りもしたし、配信内容もちゃんと考えてきた。」

「…行ける?」

「…もちろん!」


配信は20時にノアが、そのあとにララが始める予定だ。

ふたりでこの1週間きちんと準備を重ねた。何を言うか、どうしたら見てくれる人を楽しませられるか。いや、そもそも見てもらうためにどうすべきか。


…あの頃とは違う。

まだ手が震える。また、あの日見たいに、誰にも見てもらえないんじゃないか。こんな準備、無駄なんじゃないかって。


けれど、今はアイナもララもついている。きっとチラシを見てきてくれた人もいるはずだ。

水晶の向こう側を想像して、深呼吸をする。



「――よし」


ノアは息を深く吐き、自身のリレイコアに手をかざした。





「皆さんは…異世界に興味はありますか?異世界ってどんなところなんでしょうか。天高く聳える建物が立ち並んでいる?鉄の塊が道路をかっ飛ばしている?美味しい料理がた〜っくさんある?


これ…全部あたしの故郷のことなんです。


異世界出身、新人語り手《 リレーター 》、話すのは大得意!

ノア・ミリシアです。今日は名前だけでも覚えていってね!」


つとめて明るく話す。

緊張で少し内容が飛んだし、心臓はバクバク言ってるし、ああもう。


でも。

あの時よりも、胸を張って、しゃべれている。



《 3 》


(3人、見てる。もう…)


配信開始すぐなのに、すでに3人の視聴者がいた。

誰かに声が届いている。



「あたしの元居たところでもこういう配信文化があってね、あたしもやってたんだよ。」

「ここよりもっと…何万人もいてさ!もう毎日あちらで生まれこちらで生まれ、ベビーブームかって。ベビーブームも伝わらないか。うわー!ジェネギャだ!いやジェネギャも伝わらないか!」


《 異世界面白い!気になる! 》



「…!」


ノアの配信に、初めてのコメントがついた。

――かかった!



「初めまして!ノアって言います!異世界の話気になってくれた?今日はこっちと故郷のジェネギャの話たくさんしていくからね!いやジェネギャ伝わらないか!」


《 伝わってないww 》

《 ギャップトーク好き 》



現世の話、こっちに来てからの話、それから、視聴者にこの世界のことをコメントで教えてもらって。

ノアは、純粋に、配信を楽しめていた。



《6》


《10》


《23》



徐々に数字は増えていく。

作戦の効果があったのか、王都や他の街からわざわざ見に来ている人も何人もいた。




――配信開始20分。

そろそろ、締めに入る頃合いである。



「…そう、向こうにもこういう配信文化があるって言ったじゃない。あたし、本当に伸びてなかったんだ。」


「今みたいに楽しくコメントと会話したこともないし、そもそも見てくれる人だって多くて5人とか、そんなもんだったの。」



先ほどまで盛り上がって笑っていたコメント達も、今はすっかりノアの話を真剣に聞いている。



「だけどね、ここで、…変な語導師とか、同期とか。それから見てくれるみんなとか、たくさんの人に出会えて、今度こそここでバズってやる!って、思ってさ。」



「バズって…いや伝わらないか!ええっと、故郷の言葉で有名になる、とか人気者になる!みたいな言葉なんだけどね」



30人。今、ノアの配信を見守っている人数だ。

Sランク様から見たらこんなのちっぽけな数字かもしれない。現世の売れっ子Vtuberにだって笑われるだろう。


でも、これはノアの大きな一歩だった。


ノアはまっすぐ、リレイコア越しに、リスナーを見つめた。



「今日は本当に来てくれてありがとう!」


「あたし…絶対”バズって”、最強のSランク語り手《 リレーター 》になるから!!!」



「おつノア!」



《 おつかれさまー! 》

《 おつノア!でいいのかな? 》

《 楽しかった!また見にきます! 》




魔力の供給をやめ、淡い光を放っていたリレイコアが暗く元に戻るのを確認する。

深く息を吸って、吐く。


「お…おわったぁ…!!」


「ノア〜〜〜!!!お疲れ様!!!」

「うわぁ!!ララ!?」

「良い初配信でしたよ。」

「アイナ…!2人とも本当にありがとう…!!」


ブースに駆け寄ってきたララを受け止め、2人に礼を言う。


「えへへ、でもノアの功績だよ!誇れ!」

「そっかな…えへへ」


2人のやりとりを眺めていたアイナが、ふとノアのリレイコアを指差す。


「ノア様、Eランク昇格。おめでとうございます。」

「え?E?」


リレイコアには自身のランクが刻まれている。

確かにさっきまではFランクだったはずだったが――


「FからEランクに上がるには、まず視聴者数30人を突破することが条件だったのですよ。」

「あ、それでか。なるほど…」


まだ実感は湧かないが、30人もの人がノアを見てくれていたのだ。


「う、わぁ…急に変な感じになってきた!!どうしよう!!うわーー!!」

「ノア!?わたしの配信前に壊れないでよー!!」



――あの頃では決して見れなかった数字。

そして、誰かに声が届いて、声を返してもらったこと。


それはノアの小さな一歩ながら、心の奥に強く焼き付いていた。





(やっと……スタートに立てた)


あのときの、自分に見せてやりたい。

0人の初配信で独りごとのように喋っていた自分。

でもあれがなければ、今ここに立っていない。


目頭が少し熱くなるのを誤魔化すように、アイナにからかい口調で言う。


「どう、これが“バズりの第一歩”ってやつ?」

「ええ。良かったですよ」

「それ感情こもってる?」

「ノア、異世界人でいきなりこれは、まじで逸材かも……!」


ララが感嘆の声を上げる。


「……だとしたら、もっと目立つ配信を考えないといけませんね」

「任せなって!」

「次は…ふふ」

「……アイナ、今笑った?ねえ!なんか企んでるでしょ!」

「ふたりとも変なの!あはは!」


3人の笑い声が、夜の支部前に響いた。







「ねえねえ、ノアはどの話が一番ウケてた?」

「うーん、語導師サマに雷落とされてこの世界に来た時の話かも。」

「え、そうなの…?」

「黙秘いたします。」

「アイナ!?」




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