第1話 - 【転生】異世界Vtuber、今度こそバズります!
――視界が、青い。
(…青い?)
たしかにあのとき、雷が直撃して――死んだ、はずだ。
なのに、目の前に広がっているのは澄み渡る青空。
硬い床に寝転んでいたノアは、ぼんやりと起き上がった。
「え、なにこれ…夢? っていうか私、生きてる…?」
「お目覚めですか?」
「うわぁぁぁああああ!?!?!?」
背後から突然かけられた声に、ノアは思わず飛び上がる。
この瞬発力があれば、配信でももう少し“リアクション芸人”、みたいな強みになったのでは……と、心の片隅でぼやく。
「申し遅れました。私はアイナ=クローディア。アイナ、とでも呼んでください。」
振り返ると、そこには長い銀髪に空色の瞳をした少女が立っていた。
あどけなさの残る美しい容姿。まるで絵画から抜け出したかのような、非現実的な存在感。
思わず見惚れていたノアを、少女はやわらかく見つめる。
「……ノア・ミリシア様、ですね?」
「えっ、な、なんで名前を……!?」
周囲を見渡すと、空は青く、壁は石造り。高い天井と崩れたステンドグラス――
どうやら、古びた教会のようだ。
「ここはアーク=フィリア王国。あなたが生前いた世界とは、異なる世界線にございます。」
「……異世界? まさか、転生……?」
「文化的な詳細は存じませんが、おおむね、それで合っているかと」
(マジで!? 本当に異世界転生――!!?)
ノアは拳を突き上げる。
「サイコーじゃん!!! もう現世のチャンネル登録者とか再生数とか気にしなくていいんだよね!?」
……ただし、それは一瞬の喜びである。
「で、あたしは、どういう役職につけばいいの? 勇者? 王女? 見た目若いけど実は400歳の賢者サマでもいいよ!」
「ノア様には“語り手”≪リレーター≫としての資質を期待しております。」
「……それ、何?」
アイナは懐から球体――透明な水晶のようなものを取り出す。中心には淡く脈動する光。
「これはリレイコア。魔力を込めることで“語り”――いわば配信ができる魔導具です。」
「ちょ、ちょっと、ちょっと待って。配信って……"配信"?」
「ええ。あなたがかつて行っていた“配信”と、ほぼ同義です。」
「なんでそれ知ってるの!?!?!?」
羞恥で顔を覆うノア。まさか前世の活動まで筒抜けとは。
「まさか……あたしの最大同接5人とか……それも?」
「はい。実績も含め、全て確認しています。ご安心を。」
「……安心できるかーーーー!!!」
「ちなみに魔力の件ですが、私が落とした雷の影響で強制的に顕現したようです。結果オーライですね」
「おい!アンタが落としたんか!おい!なあ!」
ノアが頭を抱えて座り込むと、アイナは続けた。
「我々“語導師”は、語り手の候補を探し、教育し、導く存在です。
王命を受けて、配信文化の拡大のために各地を巡っております」
「へえ…なるほど。要するに、国の命令ってこと?」
「通常は。…実は……私は個人的な興味で少々“越境”してしまいまして。ここ、人目がつかないんですよ。」
「悪びれろもうちょい!」
笑顔で語るアイナの破天荒ぶりに、ノアはやや脱力した。
だが同時に、心のどこかで期待している自分がいた。
(あたしに、もう一回チャンスくれるってことだよね……?)
「ノア様には、ぜひ“Sランク語り手”を目指していただきたい。」
「ランク?」
「語り手はFランクから始まり、共鳴晶への波及力、人気、投げ魔などに応じて昇格します。Sランクともなれば、国中に影響を及ぼす存在です。」
(人気……配信……ランキング……)
同接だって片手に収まる程度。おつかれコメントすらない。
そんなあたしが、Sランクを目指す。
…できるのか?
迷いから視線を揺らす。
でも。
やりたい。
バズりたい。
もっともっと、たくさん楽しませたい!!
「つまり、またバズれってこと?」
「はい。今世こそ、です。」
ノアは、もう一度青空を見上げた。
今度こそ、心から叫ぶように、拳を握る。
「――わかった。やるよ、あたし。
今世こそ……バズってやる!!!」
せめて、バズってから死にたかった。
だからこそ、今度は――ちゃんと、届く語りを。
ノア・ミリシアの、語り手としての物語が始まった。
「…その、語導師?ってみんなアイナみたいな…なの?」
「いえ。皆様優秀な方々ばかりですよ。多少、私が目を付けられているだけで。」
「やっぱり問題児なんかい!」