プロローグ - せめてバズってから
「配信見てくれてありがとう~!それじゃ、おつノア~!」
配信終了ボタンをクリックし、OBSを閉じる。
おつかれコメントは流れていない。
ブラウザにでかでかと表示された数字たちからはどうしても目を逸らしたくなって、そのままパソコンを落とした。
最大同説5人。再生数は28。
――これが、私の実績だ。
ノア・ミリシアはVtuberだ。
オレンジの髪に冒険者風の衣装。異世界系、を名乗って活動している。
昨今Vtuberといえば配信をつければスパチャが飛び、万単位の人々を熱狂させ、インターネットをエンタメの渦に巻き込んでいる中心的職業。そう思われていた。
…そんなのは「上澄み中の上澄み」だけの話である。
一般的なVtuberは日夜仕事や学業を終えてからなんとか配信をし、いつの間にか固定化したリスナーと会話し、そしていつも通りに配信を終え、また日常に戻っている。
むしろそれですらノアからしてみれば上澄みで、収益化すらされていないチャンネルを抱えながら、後からデビューした同業者に先を越されては歯を食いしばる日々を送っていた。
「急に有名人に見つかってバズったり…なんて、夢物語すぎるかぁ…」
ノアは昔から人と話すことが好きだった。いつしか、これが仕事になったらなぁ、なんて気持ちでVtuberを目指すようになった。が、晴れてVtuberとなった今も、お得意の「トーク力」を遺憾無く発揮している雑談配信でさえ、まったく知らない配信者の、しかも過疎状態な配信にはそう新規客が入ってくることもなく。配信を切ってから気分が落ち込む日々が続いているのだった。
「あーーーーー疲れた!!!ゲームしよ!!!」
沈んだ気持ちを取り返すべく、勢いで消したばかりのパソコンの電源をつけた。
あー最近あの新作が出てたな、この間のガチャで出た子育成しなきゃな、ランクサボってるんだよなー。
その時だった。
ピカッ!!!
バリバリバリバリィ!!!!
「、は、!?」
突如、視界が真っ白になる。
それとほぼ同時に轟音が響き、ノアの耳を大きく痺れさせた。
しかし、そんな音は「些細なこと」に過ぎなかった。
――ノアの体はその轟音に貫かれ、激しい一瞬の痛みと共に、意識はフェードアウトしていく。
頭の片隅で、ああ、死ぬのか。と冷静な自分が理解していいた。
(せめて、バズってから死にたかったなーーー。)