探し人:夢に見た校舎を探して
■ 夢から醒めた朝
少年の名前は蒼真、13歳。
毎晩のように見る夢があった。
草に覆われた校庭、月の下に建つ古い木造校舎。
そして、その中で彼を迎えるように立っていたきぐるみたち。
中でも、白いうさぎの少女と、灰色のナリの姿が、
いつも彼の目に焼き付いていた。
うさぎの少女は、何も言わずに、ただ微笑んでくれた。
でも、その笑顔は、**「また会えるよ」**と確かに語っていた。
ある朝、夢から覚めた蒼真は、
枕元に一枚の紙があることに気づいた。
それは古びた地図。
赤いペンで、ある山道の一部が丸く囲まれていた。
「行くなら、満月の夜に」
たったそれだけのメモとともに。
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■ なぜか確信があった
蒼真は迷わなかった。
あれが夢だとは思えなかったし、
あのぬくもりのある空気が“嘘”とは思えなかった。
学校では孤立気味だった彼にとって、
きぐるみたちがくれた“目を見て肯定してくれる時間”は、
初めて感じた“安心できる世界”だった。
「本当に、あの場所があるなら…
会いに行きたい。もう一度。」
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■ 一人きりの出発
満月が近づいたある午後。
蒼真は学校を早退し、
地図を頼りに、バスと徒歩で山の方へと向かった。
リュックには、水とチョコレートと、
自分で作った“猫の着ぐるみの耳”だけ。
道中、何度も不安になったけど、
空を見上げれば、夕暮れの空に浮かび始める月が、
静かに彼を励ましてくれている気がした。
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■ ついにたどり着いた校舎
山道を抜けたその先に、
蒼真は夢で見たとおりの風景を見つけた。
木々の間に、沈むように建っている廃校。
傾いた校舎、草に覆われた校庭、
錆びついた鉄棒と、止まったままの時計塔。
「本当に……あったんだ」
目の前の景色に、蒼真は声を失った。
そのときだった。
校舎の中のどこかで――ふっと灯りが揺れたように見えた。
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■ 導かれるように
校庭を踏みしめて、蒼真は校舎の玄関へと歩いていく。
扉に手をかけた瞬間、
ギィ、と静かに開いた。
中は暗く、ひんやりしていて、
けれど不思議と怖くはなかった。
廊下の奥から、灯りに照らされた小さな足跡が見えた。
それはまるで、**「こっちへおいで」**と導くようだった。
蒼真は迷わず、足を踏み出した。
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■ 再会
音楽室の扉を開けた瞬間、
柔らかな光の輪の中に、彼が知っていた姿があった。
白いうさぎの七海、そしてナリ。
そのふたりが、灯りのなかで彼を迎えていた。
七海はにこりと微笑み、ナリは静かにうなずいた。
蒼真は、喉が熱くなりながらも言った。
「……来たよ。夢だけじゃ、足りなかったから」
七海は何も言わず、
ポケットから、蒼真が夢の中で描いた猫の耳を取り出して手渡す。
それは、確かに彼の“心”そのものだった。
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■ 新しい夜の仲間
その夜、体育館では静かな集いが始まっていた。
灯りの中、踊る着ぐるみたちの輪のなかに、
猫耳のきぐるみをかぶった少年が、
初めての一歩を踏み出していた。
現実からやってきた者が、夢と同じ場所で微笑んでいる。
そしてナリと七海は、またひとつ確かめ合う。
「語ったことは、ちゃんと届いていた」
「そして、こうしてまた、新しい“語り手の種”が生まれる」