呼ばれし者:絵本の向こうから届いた手
■ 出会いは一冊の本
彼女の名前は、七海。
15歳。
少し人付き合いが苦手な、静かな少女。
自分を出すのが怖くて、
教室では笑っていたけど、
帰り道はいつもひとりで、
「誰も本当の私なんて知らない」と心の中でつぶやいていた。
図書館のすみっこ、人気のない棚の片隅。
その日、彼女の目に止まったのは、
くたびれた装丁の絵本――**『夜のきぐるみたち』**だった。
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■ 不思議な読後感
「この世界にはね、夜しか動けないきぐるみたちが住んでいるんだよ」
静かな語り口。
優しい色彩。
どこか懐かしい絵。
ページをめくるたびに、七海の中に
**“知っているような気がする感覚”**が溢れていく。
登場するきぐるみたちの顔ぶれ。
やさしいユウト。寂しがり屋のモモンガ。
そして――名前のない、白と灰のきぐるみ。ナリ。
ラストページに描かれた、
月明かりの中で手を差し伸べるナリの姿に、
七海の胸がふっと熱くなる。
「――わたし、知ってる…この手」
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■ 呼ばれた夜
それからというもの、七海は夢を見るようになった。
星がきらめく夜の校舎。
蝋燭に照らされた静かな体育館。
誰も話さないのに、優しさが満ちている世界。
そしてその夢の中で、
ナリが毎回、何も言わずに“待っている”。
七海は、この場所を探したいと思うようになる。
「この絵本の中は嘘じゃない。絶対、どこかに“本当の場所”がある」
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■ 案内は、そっと届く
ある朝、七海は自分の机の引き出しに、一枚の紙を見つける。
「会いに来てくれてありがとう。
よければ、今度は“きみの番”だよ」
地図のようなものとともに、そこにはこう書かれていた。
“満月の夜、あの校舎で待ってる。”
七海は、もう迷わなかった。
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■ 初めての夜
その夜、七海は“ウサギ”の着ぐるみを持って山に入った。
自分で作ったもの。
絵本を読んでから、どうしても縫いたくなって。
針を通すたびに、心の中が少しずつ軽くなっていった。
校舎の前に立ったとき、
月が雲の切れ間から差し込み、
玄関が静かに開いた。
中から、ひとりのきぐるみが歩み出てくる。
白と灰の混ざった、不思議な姿。
それは――ナリだった。
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■ 新しい仲間
七海は、着ぐるみに袖を通す。
その瞬間、心の奥から涙が溢れた。
いままで誰にも言えなかったこと。
我慢していたこと。
本当は怖かったこと。
それらが全部、着ぐるみの中であたたかく包まれて、
やさしくほどけていく。
ナリは、なにも言わず、ただ隣に立っていた。
そして、きぐるみたちが集まる体育館へ、
七海をそっと導いていく。
今夜、またひとり――
本当の姿に出会った仲間が生まれた。
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■ 慎の知らぬところで
都会の夜、慎はふと空を見上げていた。
どこかで、誰かが“届いた”気がする。
携帯に、絵本の感想がひとつ届く。
「この絵本に、出会えてよかったです。
なんだか、“わたしもきぐるみの中にいたい”って思えました。」
慎は、微笑んだ。
「ナリ、お前……伝えてるんだな」
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■ 永遠に続く静かな夜へ
こうして、“想い”は巡っていく。
絵本が残したものは、ただの物語じゃない。
新しい仲間の扉。
新しい帰る場所の地図。
そして“誰かを救うかもしれない灯り”
ナリは今も、校舎の奥で
誰かの心の声をじっと待っている。
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希望の芽は、物語を通して世界に蒔かれ、
今日もどこかで静かに咲き始めている。