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8.マナウス砦 1

「おおー、派手にやってきましたなあ」

「きらびやかですねぇ」

「密かに侵入したというのは、少々無理がありましょうなぁ」

「そうですねぇ、気が付かないふりをするのも、なかなか大変でしたものねえ」


ガリエル皇王にホーシュビーを攻めさせるのに16年かかった。老いた皇王が病みつき、戦の決断ができず、若い皇王が後を継ぐまでに後継者の選定に時間がかかった。七部族から妻が出るから、部族間の力関係が決着するまで毎回抗争が起こる。

王国にとって準備時間は十分だった。


ガリエル側からホーシュビーを攻めるには、皇国領の南、双子の火山の間を通るのがいい。そこは多少なりと低くなっていて、歩ける程度の道もある。多くの民がガリエルを厭いフィエール領へと逃げていった道だ。ガリエルは工兵を使って馬が2列で通れるように広げた。

山を抜けたところは、フィエール侯爵家のサウスハイランド領、馬の産地だ。

少し高いところにマナウス砦があり、マナウス街道がホッジス城とホーシュビーまで通じている。


エイプリルとウイレムはマナウス砦にいて、侵攻してくるガリエル軍を遠くから観察していた。

エイプリルは35歳、コーエンとの間に16歳と14歳の息子がいる。ウイレムの年齢は相変わらず誰も知らない。



騎馬軍は、4騎1小隊で獣道と大して変わらない道を抜けてきた。

藪を掻き分けるようにして草地に入ると、艶消しをしていない金属製の防具が光を反射する。兜の頭頂からは赤い羽根が立ち上がり、乗馬の手綱にはそれぞれの出身部族を表す色の組み合わせが採用されている。

隊列全体の3分の1ほどの位置に指揮官がいて、隊旗を掲げた騎兵が従う。指揮官はさらに華々しく、金に輝く防具、青い飾り羽。乗馬にはフェルトの裏が付いた錦の鞍下が掛けられている。

急襲には向かない華やかさではあるが、偉容と言えばその通りで、自軍の高揚と敵軍への脅しとしては有効だ。狭い山道を整然と歩く馬の従順性といい、隊列を乱さず山を下らせる騎乗技術といい、さすが騎馬民の血を引く軍だ。


「師匠、どうでしょう?」

「工兵隊の位置しだいですの。大体予定通りですな。

今日あたりは、騎兵を無事に通して、疲れて眠っておりましょう」

「ですね。わたくしも気合を入れなおします」

「そうしていただけますかの。

奴らは身を護るすべのない民を殺しに来た職業兵ですぞ、情けはしまっておかれませ。

徴募市民に影響が及ばないように、輜重隊はかなり離れて追従しているはずです。ご安心くだされ」

「はい、師匠」


騎馬3000、徒歩の従卒3000、替え馬や荷物運びのロバを引いた従卒見習い1000、合計7000が下りてくるのだから、ずいぶん時間がかかる。その間、見ているだけというのも怪しまれるから、せいぜいあわただしく狼煙をあげたり、砦の裏から連絡兵を出したり、砦旗を戦旗に替えたりして見せた。下山を妨害する態(てい)で、弓兵を出して遠矢を射掛けさせたが、騎馬兵が応戦のために馬首を向けるや否や、後退しながらバラバラに逃げるように指示してある。


必要な人員はとっくに伏せてある。全員が通過して野営の陣立てするのを待っているだけでいい。


マナウス街道まで流れるように下った騎馬隊は、その場に後衛隊として3分の1を残し、ホーシュビーに続く街道を進軍し始めた。

後衛隊は、輜重隊を無事に通過させるまでマナウス砦を押さえ、そののちは後方を護りながらホーシュビーへと進軍する。隊は街道を挟んで後衛隊指揮官を中心とした騎馬兵が山側に、従卒見習いが替え馬や荷物とともに丘を背後にして東側にと別れ、陣を固めた。幕舎がいくつか立ち、騎兵の半数が馬を降りる。


輜重隊が通過するまでのわずか1日足らずのことだと、休憩体制をとる。間道は迷いやすく、先行する工兵が道を広げていたし、前の隊の後ろをついて行っていたのに、蹄の跡を追っているといつの間にか藪に迷い込んで狐につままれたような思いをした。この後衛隊は、森人の幻惑トラップに掛かり散々な目に遭った上に、総指揮官に罵倒されて相当に疲れていた。



「師匠、どこからいきます?」

「予定通りでよいじゃろう。夕暮れを待ちまする」

「わかりました。ジュニアは問題ないでしょう。

エル?」

「はい、手配は終えております」


エイプリルとウイレムがガリエル兵を見守っているマナウス砦には、共に働いてきた者たちがいた。


アニーはガリエル軍が斜面を降りてくる場面のスケッチを続けている。

彼女は、準備期間もホーシュビーで静かに活躍を続けていた。

特殊な能力を十分に発揮して、ホーシュビーで移民の出入りを監視した。2度同じ顔を見たら、その者はガリエルからの間諜の可能性が高いと報告をあげた。ホッジスでこれを拘束する。これでガリエルの得る情報をかなり制限できただろう。


エイプリルの侍女には変わらずエルが付いている。

エルの夫ファビアン・キャメロンが警備を統括している。

エイプリルの夫エリス・コーエンは、現在息子ふたりが暴走しないように監視しながらフィエール城にいる。


ウイレムは、跡継ぎ、ウイレム・ジュニアを得ていた。

初期魔法ウォーターから発展的に分岐する氷結、そこからさらに発展する大規模魔法グレイシャは、失伝したと思われていた。移民の中から使い手の父子が見出されてラ・フィエールに引き取られ、塔のウイレムが保護した。父の方は長い辛苦で病を得ており、命を削るようにして息子に伝授を終え、亡くなった。

息子は親からもらった名を父の棺に納めて、ウイレムの子になった。

賢者とか魔導士とか呼ばれる者たちの継承はこのように行われるらしい。ウイレムも名を親に返し、師匠ウイレムが生きている間は、ウイレム・ジュニアあるいは単にジュニアと呼ばれたのだった。



「さて、日も落ちてまいりましたのぉ、いい頃合いですかな」

「そろそろでしょうか」


その瞬間、山の斜面にエクスプロージョン(爆裂)が撃ち込まれ、轟音とともに土石流が発生した。

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