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6-6

「しかし、聖騎士・アレンの意見に私も賛成です。先代の聖女さまの覚醒は三百年も昔のことです。三百年前にはそうしていたというのが、現在においても最善である保証はありません。なによりもまず、聖女さまの心身がお健やかであることに心を砕くべきと私は考えます。そして、精霊たちの聖女さまへの想いも汲んで差し上げるべきかと」


「へぇ、なかなか話がわかるじゃん」


 シルフィードのものすごい上から目線の物言いに、思わず笑ってしまう。もう、可愛いなぁ。


「嬉しいです。ありがとうございます」


「ただ神殿の権威やらはともかく、私も聖女さまの御身の安全は確保しなくてはならないと思っておりますので、警備の面は相談いたしましょう」


「……う……」


 警備かぁ……。家やら店やらに貼りつかれたら……うわぁ……それ、絶対に鬱陶しいなぁ……。プライバシーも心配だし……。でもきっと、これを拒否するのはあまりにも我儘が過ぎるよね? すでに神殿側は最大限譲歩してくれてるもんね?


 私はそっとため息をついた。きっとここが落としどころだよね。


「そうですね、わかりました」


「ご理解いただき、ありがとうございます」


 ヴェルディンさまがにっこりと笑った――そのときだった。


「ティア! アヴァリティア!」


 聞き覚えがあり過ぎる声が響く。私は思わず目を見開いた。えっ? この声って……。 

 しかし、その声の主を確認する前に、ヴェルディンさまとアレンさんとお兄さまが同時に素早く私を背に庇う。


「これは……王太子殿下。なぜこちらに?」


 先ほどまでの穏やかで柔らかなそれとは打って変わった、ヴェルディンさまのゾクッとするほど冷たく厳しい声に思わず身を震わせる。


「アヴァリティアに話があるんだ」


「聞こえませんでしたか? 王太子殿下。どうしてこちらに? ここは、王族であってもみだりに立ち入ってはならぬ場所。誰の許可を得てお入りに?」


「っ……それは……」


 目の前のお兄さまの袖をつかみ、隙間からそっと覗いた。

 悔しげに唇を噛んでいるのは、たしかに王太子殿下だった。

 王族の証である陽光のごとき金色の髪に瞳。さすが『エリュシオン・アリス』のメイン攻略対象、相変わらずのキラキラ美男子っぷり。ただ二年経ったからか、記憶の中の彼より少し大人びている。


「聖女さまのお迎えをすることに気をとられ、ほかが疎かになっていたようですね」


 ヴェルディンさまがため息をつく。


「お引き取りを、王太子殿下。謁見を望まれるのであれば、きちんとお手続きを。最低限の礼儀をお守りください」


「っ……私は……!」


「いえ、そもそもこちらにはなにも話すことはありません。なにを今さら」


 お兄さまが無慈悲にとりつくしまもなくぴしゃりと言う。


「待て! そう言わず……」


「――聖騎士・アレン」


 これ以上の発言は許さないとばかりに、ヴェルディンさまが王太子殿下の言を遮る。


「お帰りいただいてください」


「承知いたしました」


 アレンさんがヴェルディンさまの前に出る。


「お前……アレン……っ……」


 アレンさんが移動したことで、少し開けた視界。私の視線の先で、王太子殿下が憎々しげに顔を歪める。私はふと眉をひそめた。


 あれ? なんだろう? 違和感……。はじめて会った人間に対する反応じゃないような……?

 なんか……もしかして、王太子殿下はアレンさんを知っている……?


「ご退出ください、王太子殿下」


 アレンさんが手を高く掲げると、そこに銀色に光り輝く美しい剣が現れた。


「っ……彼女に話があると言っている!」


「こちらも繰り返しますが、それならきちんと謁見申請をしてください」


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