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6-5

 私の言葉に、にゃんこたちが「おう! 任せろ!」「しょうがないわね」「だ、大丈夫だからね?安心して……」「まぁ、つきあってあげるよ。暇だしね」と実に個性に溢れた返事をくれる。

 もちろんにゃんこたちだけではなく、アレンさんとお兄さまも私を見つめて優しく頷いてくれて、ホッとする。

 私も頷き返して、世界樹さまに続いた。


「本当に喜ばしいことです。近年、魔物による被害が拡大しておりましたので……」


 ヴェルディンさまが、「これで安心です」と微笑み、胸の前で手を組む。


「聖女とは、国を守護する聖獣を顕現させられる唯一の存在にございます。そして聖獣とは、六大精霊が受肉し、成長したものを指します」


「はい」


「聖女が覚醒し、六大精霊を受肉させた時点で自然を基とする神聖力が爆発的に高まり、この国を満たします。それだけでまず魔物の出現がぐんと減ります。毎日決まった時間に聖歌と祈りを天に捧げることでそれはさらに強化され、天災が減ります。そして六大精霊を聖獣に育て上げることで天災はさらに減って、魔物は活動することができなくなって消滅してゆきます」


「あ、以前に、アレンさ……聖騎士さまから伺いました。天災も魔物の出現も、自然のバランスが崩れて神聖力が低下したことが原因の一つとされているので、聖女と聖獣によってそれが整えられ、神聖力が満ち満ちている間はどちらもなくなると……」


「はい、そのとおりです」


 ヴェルディンさまが肩越しに振り返って、にっこり笑う。


「では、実際に、聖女としてわたくしがすることは、毎日決まった時間に聖歌と祈りを天に捧げること、この子たちを健やかに育てること、この二つという認識であっていますか?」


「そして、聖女さま自身が心身ともにお健やかであられること。大切なのはこの三つにございます。そのほか、神殿の儀式や国の式典への参加は……ある程度努力義務といったところかと」


「えっ? 努力義務? それでいいんですか?」


 思わず声を弾ませてしまった私に、ヴェルディンさまがしっかり笑顔で釘を刺す。


「この二週間の、聖女さま覚醒に際しての神殿での儀式、王宮での式典、国を挙げての行事などはすべて出席していただいたうえで、ですけどね。何事も最初が肝心ですので」


 あ、そうですよね……。


 実は、念願のパン屋をオープンしたその日に聖女バレしちゃったもんだから、まずは聖女として義務を果たさなくちゃいけないってことで、オープン翌日からパン屋はお休みしている状態なの。

 儀式・式典・行事の類が努力義務でいいなら、今すぐ領地に戻ってパンを焼きたいんだけど、そんなうまい話はないですよね……。わかってた。うん、わかってたよ……。


「そういえば聖騎士・アレンより、聖女さまは神殿に入らず、市井でのお暮しを希望されていると聞いております。精霊たちもそれに賛成していると」


「はい、どうしてもやりたいことが……叶えたい夢があるんです」


「それは、民の暮らしを劇的に変えるものだと聞いております」


 ――そうですね。お兄さまもアレンさんも、そう言ってくれました。


「はい、そうであってほしいと願っています」


 そう――。それが、私の新たな目標。


 私のパンを、この国のスタンダードにする。


 そして、私のパンで食の概念を変える。人々に心を満たす食事を知ってもらうの。


「ならば、許可しないわけにはいきませんね」


 ヴェルディンさまが苦笑する。


「えっ!? ほ、本当ですか!?」


 それってつまり、私は神殿で暮らさなくていいってことよね? 


「え……? こ、こんなにあっさりと許してもらえるなんて……」


 思わずそう呟くと、ヴェルディンさまにふふっと笑われてしまう。


「あ……。す、すみません……」


 神官さまは頭が固いって言ってるわけじゃないんです。ただ、やっぱりちょっと慣例や規則には厳しいイメージがですね……。


「いえ、実際、反対は多くありました。神殿や聖女の権威の観点から慣例は守るべきだという意見、聖女さまの御身を第一に考えればこそ、市井で普通に暮らすのはあまりに無防備で危険という意見、そのほかにもいろいろと」


「で、ですよね?」


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